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第九節  「極星騎士団VSユトレヒト隊」


極悪同盟の極悪空爆により火の海状態となっている平原の一部にそれとは全く別世界が作られていた

炎の侵攻を防ぐように規則正しくそこに並ぶは巨大な氷塊壁、

炎に焼かれても溶ける気配を見せないそれは円を描くように配置されており

その中だけは草が生い茂る平原のままであった

そして十分な広さを確保できた中に対峙するは因縁の仲

一人は三刃剣爪「獅子爪」を装着したくましく野性味溢れる肉体を軽装のレザーアーマーを装備した猫人戦士

一人は蒼い礼服に精錬された銀色に光る板金鎧、

蒼きガントレットを付けその手には氷雪の騎士剣『氷狼刹』、守護風の騎士盾『空牙』を持つ女騎士

言うまでもなく疾黒戦姫シエルと金獅子セシルである・・

しかしいつもはシエルを目の前にして発情しているセシルが今は静かに彼女を見つめている

「・・ケダモノ、覚悟はいいか?」

元よりシエルとしては相手は怨敵、様子が違えども取る行動に変化などはない

その眼光、正に狩人・・漲る殺気は一点に集まる

「そっちこそ覚悟はいい?クラークを殺してタダで済むとは思っていないでしょうね?」

怒りを押し殺した声・・、

落ち着いているように見えるのだが殺気を抑える事ができない

それに対しシエルの眉が少し上がった

「・・・?何も知らないのか?」

「知るも知らないも、馬鹿殿がクラークを殺した事には違いはないわ。

さぁ早くやりましょう、今すぐにでも馬鹿殿を切り刻みたいの」

「気づいていないのか・・・馬鹿め。所詮ケダモノか」

「ほざけ!」

殺気をむき出しに剣を振るう、それに連動するように空より現れるは無数の氷矢

シエルに向かって一斉に飛びかかる・・

だがそれよりも早くシエルの姿は消え氷矢は空を切って地に連続して突き刺さる

瞬時にセシルの眼前に姿を見せるシエル、

敏捷性が半端ではなくすでに必殺の間合いまで迫っている

並の相手ならばその身を彼女の獅子爪にて切り裂かれているのだが

シエルが獣人戦士ならばセシルはケダモノ、

凄まじい速度で振り下ろされる爪に鏡面が如く美しき盾を押しつけそれを防ぐ

そしてそのまま豪快に騎士剣を切り上げシエルを牽制、

鋭い剣筋だが動作もなく回避され、シエルは腰を低くしながら足払いの反撃・・

切り上げの姿勢からセシルはその軌道を見切り

軽く飛び上がるとともにすかさずシエルの脳天目掛け剣を振り下ろす

だがそれよりも速くシエルは体勢を立て直し爪にて重い一撃を受け止める

両腕の爪で剣を受け止めながらそのまま刃を絡めるように捌き鋭く足が駆ける・・

首筋を狙う刃物のような蹴り・・しかしそれも咄嗟に動かされた盾にて防がれる

 

「・・シッ!」

 

しかし防がれたままで終わるシエルではなく、

防御を取ったセシルに対しそのまま強引に攻める

至近距離より軌道が見切れないほどの速度で襲いかかる三刃剣爪・・

それは正に空を断つ風の爪

それだけでも驚異なのだが疾黒戦姫の二つ名は伊達ではなくシエルはそのまま流れるように連続で斬り掛かる

無駄がなく繋がる攻撃、1撃、1撃毎に速度が上がり怒濤の乱撃(ラッシュ)と化す

こうともなると反撃は不可能に近い・・が、セシルも負けていない

『風牙』と氷の壁にてそれを防ぎながら後ずさる、

流石に反撃はできなくシエルの攻撃を受けるのに精一杯なのだがそれでも焦りの色はない

「・・ちっ!」

それにシエルは舌打ちをしながらも斬撃を繋げる、

以前は持っていなかった盾が予想以上に厄介

おそらく以前のセシル・・

騎士剣のみの装備ならばその防御は容易に崩せて勝負がついていたのだが

装飾用のような盾がまるで大きな壁のように爪を防いでいく

それが付け焼き刃の技術ではない事を理解しつつその穴を探る

まだペースは自分のモノ、放つ攻撃の全ては必殺に値する・・

その証拠にセシルの動きを完全に封じ防御のみに集中させている、

後はその防御を崩すのみなのだが・・それが中々できない

そうこうしている内にシエルはセシルを氷のリングの隅へと追い込んだ、

絶え間なく繰り出す連撃を防ぎながら後退していくが故に当然壁に追いやられる

しかしセシルは慌てた様子もなくジッとシエルを見つめている

それが癪に障ったのか・・

「はぁ!」

 

斬!

 

一呼吸置きシエルの腕よりさらに鋭き斬光が走る、連撃に組み合わせ隙なく放たれた強力な爪撃

的を絞った防御不可能な鋭さ

盾ごと切り裂いてやると言わんばかりの一撃にセシルは空に飛び上がる

そして爪は炎を防いでいた強固な氷の壁を斬り・・

 

ズズズズズ・・

 

身長を遙かに超える分厚い氷壁をまっぷたつに切り裂いた。

一騎当千と呼ばれるだけの力を秘めた猫人戦士の実力だからこそ成せる技である

それに対しセシルは崩れかかった氷壁を蹴りさらに高く跳びシエルとの距離を広げた

そして

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

左の篭手に付けられた空牙をシエル目掛け投げつける!

散々シエルの爪撃を受け止めても尚鏡面が如き輝きを見せる盾・・

その中央に魔方陣が浮かび上がり盾は凶器としてシエルに襲いかかる!

普通に盾を投げつけるにしてはあり得ない速度、

立派な投擲武器と化しているのだがそれでも抜群の敏捷性を持つシエルに対してはそれ単体で命中するには無謀、

彼女は振り向きもせずに飛び退き盾は大地に深く食い込む

「・・ふん・・!」

厄介であった盾を自ら投げ捨てたセシル、

今攻めれば確実に仕留められると滞空するセシルに対しシエルは跳躍して襲いかかる

それに対してセシルは再び氷矢で迎撃、

雨のように降り注ぎシエルの勢いを止めようとしたのだがその程度では彼女を止められない。

空中でさらに飛び上がりその軌道を変え氷矢雨をやり過ごして

そのまま俊敏な身のこなしでセシルに真上から斬り掛かる!

 

キィン!

 

体重を乗せた重い一撃・・何とかそれを防ぐもセシルの体に相当な衝撃が加わる

しかし

「・・かかったわね!」

ニヤリと笑い力を込めて鍔競り合いから力を込めて払い上げる、

異様な怪力を持つセシル故に渾身の一撃にシエルの体は空に飛ばされ

反動でセシルは地に落下する・・

「・・!?」

不敵に笑うセシルに対し不快感を露わにするシエル・・だがすぐに顔色を変えた

先ほど自分に襲いかかった氷矢がそのまま、再び自分の元へと走っている事に気付いたのだ

天より地ではなく地より天、

ここ一番の不意打ちにシエルは体を反転させながら爪を走らせ無数に襲いかかる氷矢を切り裂いた

時間にして数秒、

流石に無理な姿勢で払っただけに何発かは捌ききれずに体を掠めたが大きな傷をもらう事なく華麗に地に着地した

「・・・・、あの盾が氷の向きを変えたか・・」

ジッと睨むは地に刺さった『風牙』・・そしていつの間にかその前に立ち盾を持ち上げるセシル・・

「ご明察、風を利用して背後から襲わせたのよ・・」

自在に風を発生させる盾『風牙』

セシルはわざとシエルに避けられるのを覚悟でそれを投げつつ設置をして

誘導をかけながら氷矢による不意打ちを仕掛けたのだ

「ふん・・その割には詰めが甘いな・・」

「捌きながらも誘っていたでしょう?そういう挑発に乗る気分じゃないのよ」

ぶっきらぼうに切っ先を向ける・・、対しシエルはそんなセシルに対し鼻で笑う

「・・ほとほと単純な女だ、こんなのに不覚を取った自分に腹が立つ」

クラークの事に激情するセシルをあざ笑うシエル、

彼女らしからぬ挑発・・それはセシルに本気を出させるため・・

「・・・・何の事かはわからないけど・・、長生きしたかったら今の私の前で舐めた事言わない事ね・・」

それに周辺の温度がグッと下がった・・

魔氷技などではなく彼女の殺気が研ぎ澄まされたが故に現象


今、彼女の機嫌の悪さは最高潮を迎えた

「・・うぬぼれも甚だしい。さっさと来い・・貴様に遠慮などと高等な事などできんだろう?」

「上等!やってやるわよ!!」

ギンッと殺気を解放して第2R突入、氷に囲まれたリングの中一進一退の激戦が続けられた・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

「わう・・」

 

極悪同盟の炎も届かぬリキニウス領の入り口、位置にしてシウォングをまたぐ平原の隅

もはや相手の城までまっすぐ進めば良いほどそこに兵は配備されていなかった

後ろに広がるは正しく火の海原、戦場が市街地にならなかったのは幸いである

対し今彼女の周辺は月と火の明かりに照らされるだけの薄暗い平原

まるでここだけ別世界のような錯覚を覚える・・否、今彼女が立っている状態こそが本来の姿なのだ

「・・くぅん・・」

その中、美しき銀髪を赤リボンでポニーテールに止めた少女は周辺を不思議そうに見渡す

紅に黒飾縁取の和調の戦闘服を着込み手に持つは狂戦鬼の大太刀

そしてそれよりもやや短き禍断の逆刃刀を下げ完全武装

脳天気そうな緋眼はしきりに周りを見て靴はつけておらず裸足である

夜中の平原に迷い込んだ獣人少女

しかし彼女ルナも極星の一人、銀狼闘姫の字を持つ将・・

単独行動が余り似合わないルナなのだがそれもライに言われた任務のため

「わうぅ・・?クローディア、いない・・」

ユトレヒト隊の相手をするため・・彼女の気配を頼りに平原を抜けてめぼしい地点に来たのだが

ここに来てそれが途絶えたのだ。

自慢の鼻で探ろうにも平原で焼けた草や鉄の臭いが風に乗って流れてきて正確な判断ができない

「くぅん・・臭いの・・」

通常では少し鼻につく程度なのだが嗅覚の鋭い分気が散って仕方ない

ともあれ皆がんばっているのに自分だけうろつく訳にもいかず散策をしようとした・・

その瞬間・・

 

ヒュン

 

微かに風が鳴る、その刹那にルナの頬に赤い筋が走った

「・・クローディア?」

浅く斬られた頬を撫で不思議そうに風が起こった方を見た

そこにいるは一人の女武者、長い黒髪に白道着に黒袴

右目には眼帯を巻き手には一振りの刀・・、残る瞳には感情らしきモノは感じられない

殺気も、友人に刃を向ける躊躇いも、いつも見せていた穏やかな表情も・・

 

無表情・・しかし相手を斬るという冷たいモノがその体からにじみ出ている

 

・・まるで殺人(キラー)機械(マシン)のようなクローディア、脳天気なルナでも背中が寒いものが走った

そして彼女は無言のまま剣を構え切っ先をルナに向ける

「クローディア!」

余りの異様さに思わず叫ぶように彼女を呼ぶルナ・・

「・・・・・・・」

しかし彼女は口を開かない。

まるでルナの知っているクローディアとは別人とも思える気配

戦う事を忘れ彼女に声をかけようとするルナだったのだが、

その事を無視するかのように彼女の体が跳ねた

「っ!!」

何の躊躇いもなく踏み込み刃が走る・・、慌てて飛び退きながらルナは我が目を疑うように彼女を見つめる

居合いを学んだ時にも彼女と手合わせをしたことがあるルナ

しかし今自分の身に振り下ろされた一撃はその時に比べて遙かに鋭く、冷たい・・

大切な者を失った悲しみも果て、その剣に宿るはただ相手を斬る事のみ

まるで壊れた人形のように変わり果てた女剣士

もはや目の前にいるのは誰でもいいのか回避したルナにすかさず追撃を放つ

居合いではないがそれに匹敵する剣速・・

それは反撃などを恐れずに相手を斬る事のみを想定した渾身の剣法「心法の剣」

・・いわば一撃一撃が捨て身

我が身を捨てて鋭さを研ぎ澄まし相手を斬る事に全てをかけ振るう

その一撃は真空刃でも放たれるような風切り音を奏でられる

事実、空が切れ実際の剣身よりも長く切っておりその間合いを見切るのは困難である

猛烈な攻撃と彼女に対する戸惑いにルナは防戦一方・・

彼女を気遣うが故に反撃もせず距離を開けやりすごすしかない

 

「わう!クローディア!クローディア!!」

 

しきりに彼女の名前を呼ぶも返答はおろか眉一つ動かない

まるで何かに取り憑かれたかのような彼女に対しルナは息を呑み気迫を込め・・

「ガウ!!」

破魔の咆吼をあげる、魔法的な呪いがかかっているのならこれで解けるはず

しかし

 

キィン!

 

無情にも走る横薙ぎの一撃、

ルナは咄嗟に自分の得物でそれを受け止めたが体勢が不十分故にそのまま払い飛ばされた

そのまま何とか体勢を取り戻し彼女を見やる

「・・・・・・」

相も変わらずの無表情、だが自分を斬り殺すという事はルナも感じ取れた

それ故にルナは悲しそうな表情を浮かべるも静かに目を閉じる

 

・・そして再び開かれた瞳は緋より紫へ

 

自分の大太刀を構え直し銀狼の侍少女は彼女を静かに見やった

「・・・・クローディア、貴女がその気ならば・・このシフォルナ、貴女の気が済むまでお相手仕りましょう」

居合いを学んだ師として彼女に一礼をして剣気を放つ

「・・・・・・・・」

本気を出したルナに対しても彼女は無反応、切っ先を向けてただ構える

「・・参ります!」

大太刀を抜き獣人ならではの鋭き踏み込みは突撃するルナ、

小柄な体を利用し地を這うような低空滑走にて滑り込みそのまま太刀を切り上げる!

それに対し彼女はスッと流れるように後退、

鼻先を掠めかけるほど絶妙な間合いで切り上げをやり過ごす

大太刀故に隙が大きくなる事を知るルナは相手に反撃をさせる隙を与えないために

すかさず軌道を変えそのまま横薙ぎに払う

怪力を持つルナ、

勢いを乗せた一撃は速さもあり大木すらも切断しかねないほどの力が篭もっている

まともに当たれば致命傷は避けられない、しかし彼女は身を低くしながら自身の刃をルナの大太刀の下に潜られ

「・・うっ・・!」

そのまま絡めるように刃を合わせ軌道を上に反らす、相手の力を利用した達人芸・・

まっすぐに横に払うつもりであったルナの太刀筋はまるで風に持ち上げられるかのようにスッと空を切った

そして最小限の動作で相手の攻撃を流した彼女・・

目の前には侍少女の脇腹が無防備に晒されている

彼女に遠慮もない、ただ目の前の相手を斬る。

それ故に体が流れるルナなど全く構わず足を踏み込み脇腹目掛け銀閃が駆ける!

「・・まだっ!」

無理な姿勢のままルナは足に力を入れ刀を払った方向に向け飛び退く・・

優れた身体能力と獣としての本能だから成せる超反応、

しかしそれでも懐を襲う刃を回避しきれなく腹を微かに切られながら彼女と距離を開けた

追撃が来るかとルナは脇の傷を確認するよりも先に大太刀を構え防御の姿勢を取るが

彼女はジッとこちらを見ているだけで姿勢が整ったところで再び切っ先をルナに向けて構えた

「・・貴女は・・」

そんな状態になっても自分の剣は捨てないのか・・

ジッと彼女を見つめるルナの瞳には尊敬と哀れみが篭められる

 

「・・・・・私には・・貴女を斬り倒す事はできない・・・」

 

心を落ち着かせ剣を鞘に収める、力とスピードではルナが圧倒している

スタミナの面も圧倒的に有利・・

しかし刀の扱い、その技術では彼女の方が勝っている。

元より合気を学んでいる彼女・・

相手の力を流す、又はそれを利用する技術は達人の領域まで高められている

それ故にルナがただ速く鋭い一撃を放っただけでは流されてしまい

さっきのように手痛いカウンターを受ける事になる

最小限の動きで剣を捌く彼女が相手ではスタミナ面で勝っていてもがむしゃらに攻撃はできない

そうともなると手は一つ・・自身の最速の一撃にて見切られる前に倒す

刀術最速の戦技『居合い』

彼女に教えて貰い彼女が最も得意とする技

しかし勝負をかけるのならばそれしかない・・

もしくは力を出し切り大太刀にて切り伏せるか・・、

だがそうなっては高レベルの技術を持つ彼女に対して一切の加減はできない

叩き伏せて動きを止めるなどもってのほか、完全に殺すつもりでいかなければならない

だが、ルナにそんな事はできない・・

故に静かに狂戦鬼の大太刀を収めもう一振りの刃に手をかけた

 

禍断の逆刃刀『霊鬼・癒刃』・・戦狂鬼の大太刀の脇差として造られたルナのもう一つの刃

 

大太刀での居合いは難しく速度が鈍る、

対し逆刃刀は太刀の部類に入ると言えども居合いには適している

刃が逆なのもこの状況では都合が良い・・ルナにとって彼女はただの他人ではない

傷つけたくない、精霊憑依をしてもその想いは強くだからこそリスクの高い禍断の逆刃刀を手に取った

 

「・・だから・・せめてその悪夢が終わるように・・

このシフォルナ・・『不斬散気の太刀』にて貴女を祓います」

 

心穏やかに太刀を構え握りに手を添える、居合いの構え

精神を研ぎ澄まし最速にて相手に迫り最速にて刃閃を放つ・・

「・・・・・・・・」

それに応えるように彼女はゆっくりと得物を鞘に収めルナと同じように居合いの構えを整える

「・・っ!クローディア・・」

「・・・・・・」

彼女に表情はない・・が、それでもルナには伝わった。

心を失っても剣士の誇りは失ってはいない、相手が居合いで挑むのならそれに応えてみせる

今まで機械のようだった彼女が見せた『彼女らしさ』それにルナは自然を笑みが漏れた

そして両者は微動たりともせず、まるで石になったかのように固まった

己の精神を高めるとともに最高の一撃を放つための瞬間を見極めるために・・

激戦極まる平原にてその時より二人の中での時が止まるのであった


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