第八節  「紅平原」


決戦の平原

戦士達がぶつかり合ったこの場所で今本格的な戦闘が行われようとしている

リキニウス勢の未だ動きは見えないがシウォング側には見る者全てを驚愕させる者が君臨していた

それは巨大な飛竜、

見るからに殺気立つ巨大なる力、

そしてその背には小さな少女が腕を組み仁王立ちで遠くを見やる

 

『よいか、ナイチチ!アミル達のために協力して背に乗せてやっているんじゃ!感謝して乗るのじゃぞ!』

 

「ふん!狭い心のトカゲダ!安心シロ!こんな事など今回限りダ!

せいぜい私が迷惑しないように飛び回るんダナ!」

 

互いに喧嘩口調なルー&メルフィ、竜の背に立つ幼女の姿はかなり異様・・

しかし実力は言わずもかな、

不機嫌一触即発である分余計に怖い

『ふん、本来ならば妾一人でも十二分なんじゃがなぁ!』

「それはこちらの台詞ダ!ライが言わなければ誰がお前なんぞの乗るカ!」

戦闘を開始する前に喧嘩でも始めそうな勢い・・だが・・

 

『むっ・・ふふんっ、どうやらご登場ようじゃな』

 

「そのようダナ・・なるほど・・出来の悪そうな面構えをしておる」

 

地平線の彼方よりこちらに向かって駆けてくる軍団が見える・・

っと言っても常人ならば微かに確認できる程度なのだがこの二人にはその姿がしっかりと視えている

それは正しく鎧の人馬、

全身甲冑で兜の隙間からは赤い光が一つ、手には大型のランサーを持っている

流石は四足、移動速度はかなり速くそれが散開しながら一直線にシウォングに向けて駆けてきている

高速で迫りつつある鉄騎軍、命持たぬその力は危険極まりない物・・

『ただ突っ込むだけとは聞いていたが・・これは少々仕掛けがありそうじゃな』

「ふん、お前にはわからんカ。

自爆回路でも仕込んでいるかと思ったがもうちょい気の利いた物のヨウダナ」

『気の利いた物・・じゃと?』

「体内に小さな魔石とその周囲に粉末を詰めた袋がアル、倒すと同時に毒を振りまく仕掛けダ。

おそらくは神経系、

シウォング制圧が目的なら一般庶民を毒殺する必要はナイ

動けなくしたところを兵なら殺し民なら生け捕りにする気ダ」

冷静に解説しながらニヤリと笑うルー、もちろんその説通りにさせるつもりは毛頭無い

『いよいよ持って外道じゃなぁ。妾達が出向いて正解か』

「ふんっ、まぁ退屈しのぎにはちょうど良い!トカゲ!遠慮はせんと全力で突っ込メ!」

『わかっておるわ!』

罵声とともに飛び上がる漆黒の飛竜、

翼を大きく羽ばたかせ中空に浮かび上がるは美しき特大の虹色魔法陣

「むっ・・」

顔をしかめるルー・・次の瞬間、世界が変わった

爆発的な加速

翼を広げた竜はまるで弾丸のような速さで平原を疾駆する・

これがメルフィの飛行、誰もが遠慮しておきたい正に殺人飛翔

乗り手には耐えきれないほどの衝撃に襲われ、視界も禄に確保できないのが普通

ルーほどの小柄な少女ならば首の骨が折れても全く不思議ではないのだが・・

『ほほぉ、衝撃を受け流す小規模速効結界か・・遠慮せずによさそうじゃな!』

「侮るナ、トカゲ娘!・・っとは言え流石の加速ダ。

これならもはや真っ向から向かってくる馬鹿もいるまいナ」

強烈な風が襲いかかる中平然とメルフィに乗り続けるルー、その表情は不敵そのもの

『人形にはわかるまいて!』

「ならばその石ころに深く刻み込むマデ!」

極悪な笑みを浮かべ高速飛行を続ける竜の周辺に現れるは無数の魔法陣、

竜が駆け抜けた後にそれは確認でき、

まるでその身より剥がれ落ちた無数の光の屑のようにも見える

そしてその魔法陣より現れるは灼熱の炎に包まれた小隕石・・

地面に衝突するとともにけたたましい爆音を奏で衝撃で炎が四散する、

後はそれの繰り返し・・まるで突如平原の地が裂きマグマが吹き出したかのように炎が上がる

さらにおまけとばかりにメルフィの竜口からも豪快に炎がはき出され地を焼いていく

飛竜が駆けた瞬間、そこには爆音と豪火が支配する

 

『「あっひゃっひゃっひゃぁ!!!」』

 

その所業、正に破壊の神。

破壊活動に悦に笑い叫ぶ極悪同盟・・

炎は津波のように大地を焼き払い命令(プログラム)に忠実なリキニウスの戦馬達を飲み込んでいく

火の焼かれた戦馬は自壊するように破裂し一際大きく火が昇る

飛散用の爆破かと思われるがそれも一瞬、空を舞う前に毒粉は燃え尽きた

一方戦馬達も極悪同盟を敵と認識したのか高速で迫るメルフィに対し手持ちの槍を投げつける

投擲の命令(プログラム)もしっかりと組み込まれているらしくその動作は整っており

放たれる槍も一流の戦士が放つそれに等しく鋭い・・

しかしそんな飛び道具程度で止められるメルフィではなくさらにルーの無差別な魔法がある

絶え間なく現れる炎に槍は一瞬で溶け消滅しそれを確認するまでもなく戦馬達は炎の中に消えていった

もはや二人を止められる者はない、

超高速で飛び回り、圧倒的な力を振りかざして押し寄せる戦馬達を片っ端から消し飛ばしていった

 

 

・・・・・・

 

 

極悪な焦土攻撃により平原は紅に染まり闇夜を照らしている

それが全域に及んでいないのは二人がハイになりながらも加減をしているが故

少ない安全なルートを駆けるはリキニウス側の騎士達、争いはいよいよ本格化してきている

そしてもう一つ、極悪な同盟を除いて空にて対峙する者達がいた

 

『やはり・・来ましたか・・』

 

上に慈愛の白色天翼と 下に勇気の鋼色龍翼

それを背中に生やすのは戦乙女

白銀の羽衣と瑠璃色の鎧で包み両脇に羽飾り,

鷲の嘴を象った額当ての兜が特徴で長い金髪が風に揺れる

目元は見えないが敵意は放たれておらずその手には二つの剣が・・

 

勇風星霊セラフ

 

アレスとリオが融合して現界されし戦天使

対神魔・決戦聖霊的存在は緩やかに戦場の空に立つ

そしてその前方に現れるは・・

 

「ふっ・・これは大層なお出迎え・・っと言ったところか・・」

『あれは・・アレスさんに・・リオさん・・?』

 

漆黒の飛竜にまたがり手綱を握り締めるはロカルノ、

重装な鎧を纏い得物である槍を構え飛竜アミルを従える姿は正に竜騎士

いかなる敵を寄せ付けない決戦スタイル・・

『セラフです・・、この姿で会うのは初めてでしたか・・アミルさん・・』

戸惑いを見せるアミルに対しセラフは優しく声を掛ける、

それは至極丁寧で穏やか

刃を持っている事が不思議に思ってしまうほどだ

『・・なるほど・・。それだけの力を持っていたわけですか・・』

「滅多に使用しないのだがな・・。

さて・・リキニウスの戦馬が動き出したが予定通り上手く殲滅できている

とりあえずはシウォング側の被害は最小限に抑えられるとして・・、

私達の方はまだ『手綱』を握られたままだ」

『わかっていますよ・・。ではっ、本気で参ります』

「ふっ・・説明の手間が省けて助かる・・

・・が、ただの人間に過ぎない私に対して少しその姿はいささか豪華ではないか?」

『アミルさんは高位飛竜族、そしてロカルノさんは一騎当千の猛者・・

二人が合わされば良い勝負にはなると思いますが・・?』

「過大評価・・っと言いたいところだがそうまで言われれば期待に応えたくもなるな・・」

ニヤリと不敵に笑うロカルノ、対しセラフも静かに微笑む

その中、遠くの方では旋回して徹底的に戦馬を駆除しているメルフィ&ルーの大爆音が轟いている・・

赤い大地の上空、風が頬を撫で互いを見つめる事数秒・・

 

『では・・参ります!』

 

「いくぞ・・アミル!」

 

キッと睨みながら双方が動く!

余計な被害を与えないがために先ずはロカルノが高度を上げ距離を取る、

それはセラフも同じで急上昇・・

いっそう風が荒れる中ロカルノを追撃する

「まずは牽制だ・・最小の力で迎撃しつつ旋回」

『わかりました!』

ロカルノの命令に忠実に従うアミル、その体躯を旋回しながら空に小さな魔法陣を展開

それより炎弾が数発発射されセラフ目掛け駆ける

それに対しセラフは襲いかかる炎を避けようともせずに

優雅に自身の得物「烈風裂羽」と「聖星霊刃」を走らせ事もなく炎弾を切り裂く・・

『では、こちらも・・!』

お返しとばかり刃を振るい真空刃を放つセラフ、

二つの得物より放たれたそれはロカルノの軌道を見切りその先を狙い飛翔する

「あれは私が潰す、進路をセラフに取り突撃するぞ!」

アミルに命令しながら槍を振るい大型の真空刃を放たせ相殺させる

『了解です、速度・・加速します!』

真空刃同士がぶつかり、それが爆ぜる中アミルは加速魔法を使い一直線にセラフに向かって駆ける!

『ならば・・(ストラッ)(シュ)十字(クロ)()!!』

自身に向けて加速する飛竜に対しセラフはまるで剣舞を踊るかのように

腕を走らせ
真空刃を立て続けに放つ、

その軌道はランダム、複雑に絡み合う様に相手へと襲いかかる

直進する飛竜にとっては回避が難しいのだが・・

「防御壁形成、高速詠唱で魔弾を連射させ牽制させつつこのまま突っ込む!手綱の感覚通りに飛べ!」

『貴方を信じます!ロカルノさん!』

愛する男を信じ自身に保険の防御壁を構築させて刃の嵐へと突っ込む!

「おおおおっ!」

眼前に吹き荒れる空を断つ無数の筋、

高速で突入しているが故にこの体勢でこちらから真空刃は出せず

神経を研ぎ澄まして被害を最小限に切り抜けようと手綱に力を込める

しかしアミルの体は真空刃に対して巨大であり防御壁が頼りとなる状況

その身の回りに魔法陣が浮かび上がり魔弾にて真空刃を砕くのだが手数はセラフの方に軍配が上がる

その中、防御壁も次第に脆く崩れてきており、その身が裂かれた

『う・・っく・・!』

「大丈夫か!」

『大丈夫です・・回避しきれませんがこちらも空の壁を纏いつつありますので真空刃の威力を和らげています』

翼を操り巧みに姿勢を変えてやり過ごすもののどこかしらに被弾を受ける

対人ならばまだしもアミルにはとても回避しきれない

「・・ちっ・・やる・・。もうすぐ抜ける・・発動できるか?」

『はい、速度・・可能領域に乗りました!』

「よし!」

表情を引き締め襲い来る無数の真空刃を睨み付ける!

牽制によりそれ以上の刃は放たれておらず後数撃で切り抜けようとした瞬間・・

飛竜がもう一度加速をしその速度が音を超えた

そしてその両翼に長く長く生えていくのは風の大太刀『ソニックブレード』

それだけでも強力な接近戦の武器・・しかしそれよりアミルの体はローリングを行い螺旋の軌道を残した

竜は空を穿つ大槍となりセラフの(ストラッ)(シュ)十字(クロ)()を突き抜ける!

 

『・・切り抜けるだけでなくそれを使うとは!』

 

真空刃で迎撃していたセラフだがロカルノの特攻に顔色を変える

穿つ(スパ)真風(イラ)()大螺旋(ダイ)()!』

セラフの眼前に迫るは巨大な刃の渦、その弱点はアレスでもあるセラフにはわかるのだが

速度が予測を超えており迎撃が間に合わず上空へと飛び上がる!

猛烈や風の刃が吹きすさぶもそこは戦乙女、

身に纏う翼を巧みに使い間一髪でそれをやり過ごした

 

しかし・・

 

「かかったな・・セラフ!」

螺旋特攻を止め急ブレーキを掛けるアミルを尻目にロカルノは背後、上空に逃れるセラフを睨む

『何・・、それは・・!』

振り向き様に見えるは眼前に迫る二つの得物の柄で連結されツインランサー

真戦女、ディ・ヴァイン

その二つが繋がれディ・ヴァインより発せられた焔は紅の軌跡を描き焔輪となり空を裂いている

戦女(フロミネ)(ンス)紅舞(ワルツ)』・・ロカルノが持つ技の中でも最大級の奥義

強引に突っ込ませスパイラルダイブを放たせたのも囮、

本命はこちらにあり回避されるのを前提に急回転より瞬時に急停止・・

体にかかる負担を覚悟で姿勢を正しながら追撃に大技を放ったのだ

 

『くっ・・うおおおおおお!!』

 

気迫を込め二つの得物を交差して真っ向からそれを受け止める!

 

ギ・・・ギギギギギギ!!

 

高速で回転する焔輪、圧されるセラフ、刃と刃は交わり火花を散らす

しかし後一歩攻めきれず・・業物である二つの剣により焔輪は勢いを落とされた処でセラフによって払われた

軌道を変え闇夜を駆ける槍はそのまま弧を描きまるで意志を持つかのようにロカルノの手に納まる

「ふっ・・見事。まさか防がれるとは思わなかった・・」

『それはこちらも同じ、私でなければ直撃を受けその身を裂かれていたでしょう』

その身に三つの精神を持つセラフ、それ故に反応速度が並ではない

虚を突く戦法では太刀打ちできないと判断したロカルノは相手を褒め称えながらも次の手を考え出す

「やれやれ・・今ので決めるつもりだったが・・そうともなるといささか分が悪いか。

・・時間もまだあるようだな・・」

『ですがそれ以上にどこまでやれるか試してみたい・・違いますか?』

「・・・ふっ・・・」

セラフの言葉に静かに笑うロカルノ、仮面に隠れた瞳にはまだ闘志に燃えている

『退くことは適わず、ならば最大の力にて果てるのみ・・』

「・・すまんな、アミル・・最後まで付き合ってもらおう」

『貴方の事はわかっていますよ・・では、全てを出し尽くします』

傷を負った飛竜、しかし頭に届く女性の声は穏やかで彼を気遣う

ロカルノを背に乗せる時点で彼女の心も決まっている・・

いかなる状況でもロカルノに従い、尽くす。

その想いがあるからこそセラフを相手にしても渡り合える事ができるのだ

『では・・御覚悟を!・・解放・・!』

己の力を解き放つセラフ、その身に白い焔がまとわりつき美しき体を包み込む

「・・自身を高レベルのエネルギー体として特攻させる気か・・アレスらしい・・ならば・・!」

『了解です・・回路(サーキット)・・展開(オープン)・・!』

それとともにアミルの足下に全身を覆うほどの虹色魔法陣が構築される

今までにない規模のそれ、回路ができあがるとともに方円からは紅の炎が吹き上げロカルノ達を包み込む

『これは!!?・・ならば正面からぶつかるのみ!!』

それが何なのか理解したセラフ、

白い焔に包まれ天高く飛翔し弧を描いて進路をロカルノに取る

十二分な加速距離を得て天使は白き閃光の塊と化した

(シャ)(イン・)輝ける(ルシフェ)流星(ルノ)!』

超高速のエネルギー体、まともに受けては塵一つ残さずに消滅するのは必至・・

対しロカルノ達は炎に身を包みながらその流星をじっと見上げた

自動(オート)加速(ブースト)展開(オープン)騎乗者(マスター)保護(プロテ)結界(クション)構築(セット)

全魔力(フルバー)解放(スト)・・ロカルノ様・・ご命令を!』

「共に駆けろ・・アミル!」

『「駆け屠る(イグニッ)紅炎光(ション)!!」』

瞬時爆発的な加速とともに竜は赤き彗星となり流星を迎え撃つ!

 

その刹那、二つの光は正面よりぶつかり周囲に衝撃と轟音を轟かせ互いにその進路をずらせ交差させた

「くぅ!力場で弾いてしまうか!」

『ロカルノ様!これでは結界を張っていても人間に耐えられる衝撃ではありません!』

「無理は承知!それに奴もそこまで耐えられまい!根比べだ!」

そう言い高速のまま旋回・・

『ぬぅ・・!まさか(シャ)(イン・)輝ける(ルシフェ)流星(ルノ)に迫る技を持っていたとは・・

底が知れない人だ!・・だが・・負けない!』

対しセラフも旋回し再び正面より特攻をかける!

「おおおおおおおおおおおお!!!」

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

音速を超えた力と力のぶつかり合い、衝突の都度それは弾かれまたぶつかる・・

闇夜に白と赤の流線が交差し激しい轟音が轟く

限界を超えた戦闘はまだ終わりを迎えようとはしなかった

 

 

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