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第十節  「策謀消ゆる時」


戦というものは一騎打ちが全てではない

相当数出陣している兵卒達も皆戦いに出ているのだ。

一騎当千同士の激しい戦闘を繰り広げている間、

リキニウス勢は怒濤の勢いでシウォング領へと突入している

元々リキニウスの兵力は決して多くはない。

それ故に電撃作戦を展開し戦力の全てシウォング侵攻に注いでいた

 

極悪同盟による大規模な破壊活動、

平原のほとんどが火に包まれている中

セシルが一部氷の壁で道を造りそこを活路としてシウォングへ向けて騎馬にて突撃する・・

ただしセシルが造り出した氷壁は対シエルに造った物に比べたらかなり脆く

燃えさかる炎に対し次第に溶けだし、水蒸気が霧のようになって視界を悪化させる

加えてメルフィとルーが何気に部隊の最後尾に向けて炎弾を放ち

退路を潰していくが故に侵攻部隊としては生きた心地がしない。

だが二人としてはそこで命中させるつもりはなくあくまで戦馬駆逐の合間を見て揺さぶりをかけているのみで

焦る部隊を見てあざ笑っている・・、

見事な極悪っぷりにどちらが悪役なのかわからない程だ

 

侵攻部隊の先頭を走るはロギー、以下リキニウス騎士団が続きリキニウスの戦馬、最後尾に傭兵達となっている

それ故に極悪同盟の空爆の被害は主に傭兵達・・

彼らにはもはや平静を保てられず退くこともできない状況の中ガムシャラに騎馬を動かす

そんな彼らに対し先頭のロギー達はまっすぐ前を見ていた

彼の狙いは真龍騎公ただ一人、御大を倒せば後は被害を少なく済ませられる

自分の国の不始末で沢山の人を巻き込んでしまった自責の念に苦しむロギー

それ故に傷ついた真龍騎公を仕留めてみせると決意を胸に最前列で突っ込み続ける

手には長身の槍、自分専用に拵えた漆黒の鎧を纏い長めの赤髪を風に揺らす

ユトレヒト隊がリキニウス勢の切り札ともなっているが彼の腕も並ではない

兵力が貧相な分リキニウス騎士の実力はかなり高い。

自身が国を守る最終ラインと自覚している故に訓練を欠かさずにいる分一騎打ちには相応の自信がある

その中でもロギーの腕は突出していた

おそらくはリキニウス一の騎士、

騎馬(ライデ)能力(ィング)と槍の扱いに長け、普段は飄々としているものの

訓練を欠かしたことはなく鎧の下の肉体は見事なまでに引き締まっている

魔術等が国全体で普及していないリキニウスでは彼のような戦士こそが

力の象徴とされており術の付加がない分己を徹底的に鍛え抜く。

そして自分の得意とする得物の技を磨きに磨き慢心する事なく高みを目指すのが特徴といえ

ロギーは槍、ミランダは軽剣・・双方優れた使い手として他国に名を轟かせるほどの腕前である

 

しかし今ロギーには余裕というものはない。

それは同じ槍の使い手であるロカルノと極星騎士団の将アレスとの一騎打ちを目の当たりにした故・・

敵将であるアレスの卓越した技術、

一撃にかける気迫などもさることながら彼が驚いたのはロカルノの槍捌き、

槍にかけては自信がある彼にとってはそれが揺らぐほどの衝撃であり

この戦いが自身のレベルより上である事を思い知らされた

ましてや今その命を狙うは極星の長である真龍騎公

アレスの腕やクラークの実力、それらを見ても自分が真龍騎公には適わない事は覚悟していた

ただ相手は手負い、そして何よりも退けぬ理由もある

勝とうとは思わない・・差し違えて真龍騎公を破り

シウォングの体勢をできる限り揺るがせこの戦いを終わらす

それしか彼の頭にはなかった

 

「各騎散開!真龍騎公の相手は俺が引き受けたぁ!」

 

雄々しく叫ぶロギー、火の海を越え氷壁がなくなった遙か先・・

平原の向こうに待ちかまえるはシウォング軍

防衛陣形は整っており前衛、中衛、後衛がバランス良く整った小隊がおおよそ15

流石にオブシディアと渡り合っただけの事はあり、そのぬかりない編成にロギーは内心舌打ちを漏らす

戦力的にはこちらが不利、回復役も禄にいない特攻状態なのだ

強いて言うならば戦馬がどこまで働くか・・

敵前にしてどうするか迷いがよぎるもそれも一瞬、シウォング軍の前線に目標の男が待ちかまえていたのだ

「来るなら来い!だが容赦はしないぞ!」

警告・・、雄々しき叫びとともに相棒である『神狼牙』を振り上げるは真龍騎公ライ

クラークとの戦闘での傷が癒えないのかこれ見よがしに腹部に包帯を巻いている

しかしそれでも破壊剣を安々と振り上げており軽傷しか負っていないように感じられた

「我が名はロギー!ライ=デステェイヤー!その首貰い受ける!!」

ここまで来ればもはや退けはしない、啖呵を切ってロギーは一直線にライへと突っ込む、

シウォング兵達はその様子をまるで無視するかのように道を開け各々が敵に向けて配置を整えた

「上等だ!その勝負受けた!」

その申し出を受け得物を構える真龍騎公、その間にも周辺では激戦が開始される

リキニウス騎士団の騎士達はほとんどが前衛、魔術などを使わない戦士タイプ

対しシウォング軍の前衛も攻撃力、防御力共に優れた戦士、中衛は前後どちらとも担当可能な万能型、

そして後衛は魔法援護や回復などもこなす

前衛同士の戦いならばリキニウスの騎士に分がある、

だが後衛が回復魔法にて援護している分戦力は拮抗している

問題のリキニウスの戦馬に関しては前衛が侵攻を受け止めて後衛が魔法で殲滅する戦術を展開している

一番多種多様な装備の傭兵達はようやく出番とばかりに荒々しく戦おうとするのだが

シウォング軍の攻撃魔法担当が一斉に迎撃するために一方的な展開となっている

戦馬に対しては注意をしながら、傭兵達は徹底的に・・そのような意図が感じられた

 

対しライとロギーの戦いは一進一退

ライの得物は言わずもかな大型の破壊剣

ロギーの得物は騎槍(ランス)、刺突用に特化された物で純金属製、

握りとそれを守るバンプレートを除けば細身ながらもしっかりとした円柱型で先端が鋭い刃、

儀礼用に使われるタイプなのだが実戦用に洗練されておりかなりの業物

神狼牙の一撃をも受け止めるほどである

戦闘においては見た目ではロギーが優勢であり長身の槍を巧みに扱い怒濤の連撃を放つ

それに対しライは神狼牙にて捌きながら反撃を行う

騎馬戦ではライのスタイルはやや不利なのだがそこは技量の違い、冷静に捌き返す

それでもロギーには余裕が余りないのか手を休ませずに戦い続ける

「流石はリキニウスを代表する騎士だ、やるもんだな」

「抜かせ!お前を倒せば・・!」

「これ以上無駄な血を流さずに済む・・か?

その考えは甘いぜ、ロギーとやら。例え俺が倒れてもシウォングは倒れない

御大がなければ後は烏合の衆に成り下がるほど柔な連中じゃない」

ロギーの突きを巧みに捌きながら平気に話しかける

乗馬技術も並ではなく巧みに間合いを取りながら応戦する

「それでも動揺を誘える!あいつらにこれ以上の被害が出ないように負けられない!」

「・・ユトレヒト隊の連中か。なるほどな・・ロカルノの奴も抜かりはない・・

作戦の事については誰にも言っていないか。

こりゃクローディアやキルケ辺りが荒れていそうだぜ・・」

「何をっ!?」

「こういう事さ!」

 

キィン!

 

一瞬本気を出すライ、強烈な一撃がロギーに襲いかかり槍で受け止めるも衝撃で落馬する、

「ぐわぁ!」

受け身を取る事ができないほどの威力にまともに背中から激突しロギーの顔が歪む

「ロギー殿!」

しかし彼の劣勢をいち早く確認したリキニウスの騎士数名は

目の前の敵に背を向けて落馬したロギーとライの間に割って入った

自身を犠牲にしてでもロギーを援護するつもりだ

しかしライはそれを見つめるだけで騎士達の相手をしていたシウォングの戦士達も追撃をしようとしない

「・・自らの犠牲にしてでも俺に対抗する騎士を護るか・・」

「我らリキニウスの騎士、王の命令なれど無駄な血を流すのは本意ではない!」

「我らの血で争いが静まるのならばこの命喜んで捨てて見せる!ロギー殿!今の内に!」

ライの目の前に立ちはだかる騎士達、力量差は圧倒的・・一撃で葬られるのを覚悟でそう言ってのける

「これだけ騎士が誇り高いのに、何故お前達の国はそうなった?」

「それについては弁明もできない・・我らは王を信頼していた・・

それが原因なのかもしれぬが・・止められなかったのは我らの責任」

「・・・それだけわかれば十分だ。安心しろ・・お前達と争うつもりはない」

「何・・?」

「もっとも、人形や金に釣られた馬鹿傭兵は容赦しないがな。

それにお前らが気付かないだけですでに手は打っているんだよ・・あれを見ろ」

ライが指刺すリキニウス国方面の上空・・そこには闇夜を照らす明るい光が輝いていた

「あれは・・何かの合図か・・?」

「ああっ、その通りさ。

聞け!!リキニウスの騎士達よ!お前達が枷であったコーネリア姫は俺の腹心が無事解放した!

もはや戦う必要はない、大人しく投降しろ!!」

気迫の篭もったライの叫び、

それにリキニウスの騎士達はすくみあがり戦うことを忘れ彼を見やっていた

・・状況を見ればシウォング軍の圧勝、

突撃した戦馬は全て魔法にて破壊され、傭兵達も全滅

シウォング兵やリキニウスの騎士達も双方怪我人が多いのだが死人は出ておらず

決死の特攻はライの思惑通り最小限の被害に抑える事ができたようだった

 

・・・・・・・・・・

 

リキニウス勢がシウォング軍に衝突する1時間ほど前・・

 

静まりかえるリキニウス城内の中庭にて周辺を見やる影があった

周辺には警備の兵が巡回しており状況が状況なだけにその数は多い

しかし侵入者の存在に気付く者はおらず一通り見ては巡回を続けていた

それもそのはず、力量のある騎士はすでに結集してシウォングとの平原に向かっているのだ

 

「・・それで・・、状況はどうなのですか?」

 

「状況も何も・・トラップの『ト』の字もありませんよ」

 

物陰に潜むはレイハとディ、

珍しい組み合わせであるが潜入任務を担当するには適任

進路確保にレイハ、侵入者検知関係の魔術トラップ排除にディを予定していたのだが

この城にそのような物は全くないとの結論・・

警備のレベルも並以下であり事前に調べたアゼフの侵入経路によりすんなりと内部侵入できた

「キルケさんが捕らえられた経緯からかなりの物を予想していたのですが・・蓋を開ければ呆れたものですね・・」

「疑心暗鬼を生ず・・です。

わからない事に対応する事は即ち全てに警戒する事・・ですがそれだとやはり・・」

「もう一つの線が見えてきましたね・・。

さて、ではどうしましょうか?見張りの視覚認識を欺くぐらいのことはできますよ?」

「クノイチにはいらぬ世話です。

それに数は多いでしょうがそこまでする必要があるほどの者でもないでしょう・・」

「そうですね。後は立ち入り禁止地区ですね・・

王以外に足を踏み入れてはならないとなると警備に術が使われる可能性がある・・のが普通ですが・・」

「それもないのですか?」

意外そうにレイハ、それでは余りに無防備であり立ち入り禁止にしている意味が薄い

機密管理としては最低とも言えよう

「現状でわかるのは初歩的なのがある程度ですね。結界の類ならば感知できますがそれもありません」

「なるほど・・その程度ならば問題ありません。では私は私の任務をこなします」

「了解です。では囚われのお姫様を迎えの後に合図を・・」

「くれぐれもぬかりなく・・まがいなりにもユトレヒト隊を駒に使った相手です」

「承知の上です、では・・後ほど合流しましょう」

そう言うとディの体は夜の闇に消えていく、

それに対しレイハも城内を見渡しルートを確認したとともにその体が音もなく消え去るのであった

 

・・・・

 

戦力のほとんどをシウォング侵攻に注いだリキニウスは兵の数は多かれど城内の警備として十分とは言えなかった

ただ見回るのと注意深く警戒するのでは訳が違う。

一般兵では目で見る範囲での異常しか気付かないものであるが

力のある者・・特に精神修行を経験した者達は例えそれが完全なる闇の中でも異常者に気付くものである

戦力のほぼ全てを侵攻に捧げたリキニウスはもはや守りの意味をなさないほど手薄となっていた

その中で城内の一角に数人の兵が立ち周囲を用心深く見渡している

それはリキニウス王の寝室の隣、

城の2階にて一番奥にある部屋であり扉は頑丈な鉄製でそこだけ違和感が漂っている

最近では王は自分の寝室で休む機会がほとんどないがためにこの一角は兵以外立ち寄る事はない

──そここそがキルケ達が捕らえられている軟禁室

事前の調べで外部からの侵入ができないように窓などが一切ない事は確認できており

王族が使用する城内にはあまりに似つかわしくはない

故に入るには鉄の扉からのみ、

そしてそれを数人の兵が神経質なまでに警戒しているのだが

 

フッ・・

 

その廊下に突如静かに風が流れた、

無風の城内故にそれは不自然な物なのだがそれに気付く者はいない・・否、いなくなった

今そこで警備をしていた兵達がうめき声も上げずにゆっくりと床に倒れたのだ

そして倒れた兵達の間にいつの間にか姿を見せるは一人のクノイチ・・レイハ

戦闘ジャケットに耐刃布製巻きスカート、下はレオタードと言った軽装スタイルの彼女

潜入任務故に完全武装する必要もない、寧ろ潜入を行うには装備は最小限にする方が良い

一流のクノイチである彼女に取ってみればこの任務はうってつけ、

敵に見つからずに目的の場所にたどり着き救い出す

退路の確保がしっかりしていれば戦闘なんぞなろうものはない。

現に侵入者阻止の要であった兵士達もその姿を確認する事もなく昏倒させられた

諜報、潜入のエキスパートである忍、その行動を阻止できるのは同じ忍ぐらいのもの・・

リキニウス国にその忍が人質監視に配置されていなかったのは最大の落ち度と言ってもよかっただろう

そしてレイハは兵の体を調べすぐに鍵を取り出した・・

それは計三つ、扉にも縦に三つ鍵穴があり一つ一つ確かめながら解錠

ギギギ・・っと重たい音を響かせながらその扉はゆっくりと開くのであった

 

質素な室内にいるのは黒髪の女性とうつむき加減に座っているキルケ

「・・ご無事ですか?」

スッと音もなく室内に入り声をかけるレイハ、瞬時にして目標とその安全を確認し女性に近づいた

その女性は目の丸くして驚いているがキルケは反応がない

「・・貴女は・・?」

「極星騎士団が一、影忍戦姫レイハ=サーバインと申します。

我が主の命により貴女をお迎えに上がりました・・コーネリア姫」

女性、コーネリアに向けて丁寧に声をかけるレイハ。

流石に外交をも任されるだけあってその態度は戦時中と言えどもキリっと引き締まっている

「極星騎士団・・では、真龍騎公殿の・・?」

「はい、ここは危険です。貴女様の身の安全は御約束しますのでご同行願えますか?」

「・・はい、ですが・・父様は・・」

「すでに手は打っております、

貴女の身の安全が確認できたのならばリキニウス騎士団はシウォング侵攻を中止するでしょう」

「わかりました・・貴女の指示に従います。ですが・・キルケさんは・・」

申し訳なさそうにうつむくコーネリア、先ほどからキルケはピクリとも動かない

「・・・キルケさん、私です。お迎えにきました」

様子がおかしいキルケに近寄り声をかけるレイハ・・

すると・・

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

鬼気迫る勢いにて突然レイハに斬り掛かるキルケ、

手にはクラークの刀『紫電雪花』が握られており力任せにレイハに叩きつける

おおよそ正気とも思えぬ一撃は当然の事ながらレイハに掠りもしないものの

冷静沈着なる彼女に確かな動揺を与える

「っ!キルケ!どうしたのですか!?」

「貴女達が!!貴女達がクラークさんを!!!」

目の下には真っ黒なクマ、瞳はまるで獣の用に鋭くレイハを睨みつける

それはレイハが知る元気な少女キルケではなく・・最愛の者を失って狂気に支配された女・・

「落ち着きなさい!キルケ!」

「許せない!絶対に!殺してやる!!!」

ガムシャラに斬り掛かるキルケ、

剣術を習っていた彼女だがそんな物はすでに忘れ去ったかのように乱暴に振り回しレイハを襲う・・

まるで鬼のような彼女の表情、

レイハならば簡単にその得物を掴み締め上げる事もできるのだが

キルケの余りの豹変ぶりに回避するしかできず・・

「キルケ!私の話を聞きなさい!キルケ!」

「ああああああああ!!」

必死に声を掛けるレイハ、だがそれはキルケに届かず執拗にレイハに斬り掛かる

「キルケさん!」

その様子を見ていたコーネリアは恐怖に声を震わすのだが・・

 

『──やれやれ、そんな乱暴に振り回していたらダメだぜ?キルケ』

 

暴走するキルケの手を後ろから軽く掴み優しく声が響いた・・

「・・・え・・・」

自分の後ろにいる人物が誰なのか・・キルケは半分パニックになりその手から刀が滑り落ちた

「全く・・、状況の詳細が伝わらなかったのはこの状態ならわかるが・・

俺がそう簡単に死ぬと思っては欲しくはなかったな」

「クラーク・・さん・・?」

驚きの余りに体が硬直してしまうキルケ、

そんな彼女を後ろから優しく抱きしめてあげるは死んだと思われていたクラーク

「ああっ、俺だ。足はちゃんとついているぜ?

ほらっ、こっち見て確認しろ・・・ってなんだ?こりゃまた酷いクマだな・・」

「クラークさん、私・・私・・・!」

目の前にいるのは間違いなく最愛の男・・

まだ錯乱状態なのだがボロボロと目より涙がこぼれ落ちた

「・・ロカルノさんが事前にライと打ち合わせをしてクラークさんと一騎討ちをさせる計画を立案したのです

それでクラークさんが死亡するように芝居をして水面下で動いて頂きました。

・・よもや、貴女がここまで取り乱すとは思いもしませんでしたが・・」

情報が伝わっていない分多少泣き崩れているとは思っていたが

まさかあれほどまで荒んだ表情で斬り掛かってくるとは思ってもいなかっただけにレイハも内心かなり驚いている

だがその事については同情するレイハ、

愛する男が殺されても嘆き悲しまない女などはいいない・・

彼女が狂気に飲まれたのもレイハには何ともなしに理解できた

「まぁ・・心配させたのは悪かったよ

ほらっ、正気が戻ったならレイハに謝れ。

あんな顔で斬り掛かられたら誰だって肝が冷えただろうし・・。全く・・意外に攻撃的だったんだなぁ・・」

「・・え・・あ・・、レイハ・・さん・・ごめんなさい・・私・・」

弱々しく謝るキルケ・・その姿に思わずレイハから笑みが漏れた

「・・構いませんよ。貴女の心情は理解できます・・。ですが本当に酷いクマですね・・大丈夫ですか?」

「・・えっ!あっ、やだ!クラークさん見ないでください!」

「今更何言ってるんだよ・・?ともあれまだ安心できない。

レイハ、コーネリアとキルケを連れて安全地帯まで頼む」

「了解しました・・では、貴方は・・?」

「ロカルノはこの事を俺しか伝えていないはずだ。

キルケもこうなっていたとなると多分クローディアの方も派手に暴れているだろうからな

被害が広がる前に止めてくる・・それに・・」

 

『姫様!』

 

クラークの声を遮るように叫び声がし軟禁室に駆け込んでくるは完全武装されたミランダ

どうやら城内でも異常が感知されたららしく少々騒がしくなっている

「ミランダ!無事でしたか!」

「はい、私は城内警備を任されましたので・・それよりもクラーク様・・ご無事・・でしたか・・」

主の安全を確認した後にクラークの姿に驚くミランダ、

冷静沈着な彼女にとってもクラーク生存は驚きだった様子で目を丸くしている

「・・ああっ、まぁな」

「合流できたのはちょうどいいです、ミランダさんも一緒に・・」

キルケがミランダの元へ行こうとした瞬間、クラークの手がそれを遮る

「ちょっと待った、キルケ・・。

俺が何故死亡したフリまでして影で動いていたか・・わかるか?」

「・・クラークさん?」

「お前が捕まった件に不審な点が多い、それを調べるためとここの侵入経路等を把握するためだ・・

少々骨が折れたがルーの意見などで確信は持てたよ」

ニヤリと笑いながら愛刀を拾い上げるクラーク・・

「クラーク様、それは一体・・どういう・・」

「あの時コーネリアの私室にはミランダとキルケしかおらず二人とも何の異常もなく気を失った。

それだけだと魔術的な物や相当腕の立つ忍でもいたような考えになる。

しかし幾ら腕が立つとしてもキルケは俺やクローディアが鍛えているだけに危険察知は少なくとも常人以上の感覚をもっている

加えてロカルノが注意深く潜入している状態でその存在に全く気付かなかったのは考えにくい」

「・・クラークさん、それはどういう事なのですか?」

彼の言いたい事がわからないコーネリア、レイハの傍に寄り添いながらも注意深く耳を傾ける

「つまりは、俺達が思っているよりもこの一件は巧妙に計画されていたわけさ・・なぁ・・ミランダ?」

「な・・それは・・どういう意味ですか・・?」

突然自分に振られ何が何のか理解できない様子のミランダ、

彼女自身その時の出来事は不思議と思っているだけにその反応も当然である

「あんた・・最近突然記憶が飛んでいる事ってあるだろう?」

「え・・・あ・・それは・・」

「全く・・リキニウス王もやってくれるぜ。被害者の皮を被らせて加害者にするなんてな・・」

「クラークさん、ミランダさんが私を・・」

クラークの言葉にキルケも警戒してミランダを見つめる・・しかし本人は困惑しきっているようだ

「その通りだ、キルケ。だが・・お前を襲ったのはミランダであってミランダではない。

精神(マインド)制御(コントロール))にて操られたもう一人のミランダなのさ。

・・手の込んだ事だ、

王はコーネリアが反乱を企てているのを承知でミランダに精神(マインド)制御(コントロール)をかけた

そして自分の計画を阻止する人材を選ばせたと同時にその人材を利用して自分の駒として使う事を思いついたんだ。

精神制御状態でもミランダの記憶は呼び出せる。

つまりは俺達は最初からミランダという『王の目』に監視されていたんだよ

・・そうだろう?」

 

「・・・、ふ・・ふふふ・・流石はユトレヒト隊と言ったところか・・」

 

クラークの言葉にミランダ愉快そうに笑う、だがその表情はまるで別人のように変わっていた

目つきが鋭く先ほどまでとは違い口調も冷たさを感じさせる・・

さっきまでいつもの彼女であったはず、その変化はコーネリアを驚かせた・・

「元の人格と情報を共有する事でミランダのままで泳がしておいても情報は入る。

だからこそライと俺が戦う事になった時にロギーではなくてミランダを監視役に選ん・・

自分で異常がないかを確認するためにな。

全くに・・俺達からはミランダは一緒に捕まえられて

利用されているだけにしか見えないし本人もそう思っている。

見極めるのには骨が折れたぜ・・」

「・・ミラ・・ンダ・・?」

「見事・・しかし間違いは一つある。

精神制御ではなく私はこの女に埋め込まれたもう一つの人格だ。

精神制御などでは単純作業しかできないんでな・・」

見下した笑みを浮かべるミランダ・・その姿は気品溢れる女騎士ではなく

冷徹な暗殺者にも似ており殺気が滲み出ている

「そんな、ではミランダは王に・・」

「心配すんな。王にとっては表のミランダがいなくなっては困る、

精神制御だろうが別人格だろうが付属品には変わりないんだからな」

そう言うと愛刀の切っ先のミランダに向ける・・

それに対しミランダはニヤリと笑いながらレイピアを抜き構えた・・

「確かにお前の言う通りだ。

・・だが、それも今の時点での話・・いずれは私がミランダになる。

そしてそのためにお前達にはここで死んで貰おう」

「ふざけないで!ミランダを返しなさい!」

「ふ・・ふふふ・・何をおっしゃるのですか?

姫様・・・私はミランダですよ・・・いつも一緒にいるじゃないですか・・?

貴方は気付いていませんが・・」

「貴女は!」

もはやかつてのミランダではなく、薄汚い笑いを浮かべて見せる

それに対しコーネリアは顔を真っ赤にして怒り出した。

だがそんな彼女をレイハが静かに制止させジッとミランダを見つめる

「落ち着いてください、記憶や情報を共有しているだけに今の目の前にいる女性もミランダには違いはないのです

・・もっとも、影に隠れた企みもクラークさんが突き止めた時点で全て終わりなのですが・・」

「そういう事だ、お前を倒してルーにその人格を破壊させる。俺達を陥れた罰って奴だな」

「ふんっ、そううまく行くか?

手負いのお前を倒しそしてそのクノイチも一緒に仕留めてくれる!」

「・・やれやれ、随分と勝算の見積もりが甘い人格を埋め込んだものですね」

珍しく小馬鹿に笑うレイハ、それもそのはず・・

幾らミランダ本体の力が優秀と言えども一騎当千二人が相手では勝敗など目に見えている

「だな・・。相手は俺がする、手出しは無用だ」

「御意に」

「・・おいおい、俺はライじゃないぜ?畏まられても困るんだけど・・」

「──あっ、すみません・・」

自分にこうまで気軽に命令をする人間はライぐらいしかいない、

それ故にレイハは思わず丁寧に応えてしまい敵前と言えども少し顔を赤らめてしまう

「まっ、いいや。そんな訳だ・・眠って貰うぜ」

「抜かせ!」

 

キッと睨みながら踏み込みレイピアを突き出す、それは正に怒濤の連撃

無駄な動作一つなく無呼吸にて放たれる刺突は達人クラス・・

隙のない綺麗な型、正しく騎士の剣術なのだが必殺の位まで高められている

人格は違えども他国に名を轟かせる女騎士であるミランダ

その腕前は一流、軽剣と言えどもその技の威力は極めて高く回避も困難である

 

しかしそれでも相手が悪い・・

 

「へっ、甘いんだよ!」

一歩も退かずに迎撃するクラーク、

抜群の身のこなしと刀での防御、篭手での捌きにてミランダの攻撃を物ともせずに捌く

軽剣術は重さがないのが致命的な欠点、それを補うのが剣速と手数の多さ

クラークはその二つを完全に無効化させている

「──くっ・・そんな・・」

自慢の剣技が通用しない事に焦りの色を隠せないミランダ

それでも手を止めずに何とか一撃を与えようと突きを繰り返す・・

その剣速はさらに上がるのだが相手の顔は涼しいまま

それもそのはず、ミランダが扱うのは騎士剣術・・それも教義に忠実でそれを高められたモノ

言うなれば『綺麗過ぎる』

いかに速く鋭くともそのパターンがわかりやすければ回避は容易、

しかも相手は百戦錬磨の傭兵出身クラーク、

今まで変則的な相手を数多く倒してきた猛者であり実戦経験の差もミランダは遠く及ばない

おまけに今剣を振るうは王によって造られた人格

技能はあれども経験は乏しい、

体が覚えている剣術にて相手を叩き伏せれるとばかり思っていたようなのだが

実戦というものはそれほどまでは甘くはない。

これが本当のミランダであったのならば経験を元に戦い方を変えクラークと渡り合えただろうが・・

「ほらほら、どうした?俺達を追い込めるのはその三文芝居でしかできないのか?」

「うるさい!」

怒濤の剣撃、刺突では命中できないと感じたのか今度はしなる斬撃を放つ

刺突に比べて斬撃は威力は低いものの命中しやすい、

軽剣で行うとその剣速は正に最速、しかし刃が貧相な分威力はかなり低くなる

当てなければ話にならないと戦術を変えたのだが・・

それでもクラークに命中させるのは難しい

「斬撃で俺に適うと思っているのか・・ほらよ!」

高速の軌道を見切り的確に距離を開け回避するクラークだが、その手が鋭く伸びる!

「・・なっ・・」

格闘用の篭手を装備したクラークの拳は振り払われるミランダの刃を見事に掴み取る

「ふぅん・・前々から思っていたが・・レイピアの刃の薄さってのは絶望的だな・・

これのみで戦おうってのは逆に度胸がいるか・・」

「貴様・・」

(フラ)(ーズ)会話(ダルム)のスタイルを取らずにレイピア一本で戦おうとするとこうなるもんだぜ!」

そう言いクラークは紫電雪花にてレイピアの刃を斬る・・

不安定な状態と言えども鋭い一閃は薄いレイピアの刃を切断させた

「ば・・馬鹿な・・」

「刀使い舐めんなよ?そのレイピアも上等な物のようだが剣ってのは持ち手の気迫が篭もって初めて威力を現す

てめぇには剣を振るう資格すらないんだよ」

平然と言ってのけ折れたレイピアの切っ先を軽く投げ捨てる

普段と変わらない様子のクラークだが内心結構怒っていたりする

それはキルケが豹変するほど悲しんでいたから・・

芝居を打ったのは自分ながらその原因が目の前の女にある以上手加減はしない

「・・おのれ、こうなれば!!」

舌打ちをするミランダ、だがそのままで終わるつもりはなく

懐より小さな玉を取りクラーク目掛け投げつける

 

それは宙で小爆発、激しい閃光が部屋を包み視覚を一時的に奪った

そしてそれが収まった時にはミランダの姿はそこにはなく・・

「ミランダ・・!」

部屋の隅にてコーネリアを掴み折れたレイピアの刃を喉元に押しつけていた

「コーネリアさん!」

「動くな・・、動けばこの女を殺す」

自身が忠誠を尽くしていたはずの女性に刃を突きつけるミランダ・・その表情に躊躇いは全くない

「逃げると思ったが・・主を人質にするか」

「ふんっ、こんな女私に取っては利用する駒に過ぎない・・

しかし・・マヌケなクノイチだ。閃光で怯んだか?」

レイハが守っていたコーネリアだが容易に奪取できた事にニヤリと笑うミランダ

だが・・

「間抜け?・・それは貴方の事を言うのですよ。袋小路に自ら入ったのですから」

「レイハの言う通り。あの程度の閃光で惑わされるかよ・・こちとら目だけで相手を捉えている訳じゃないんだ」

「なんだと・・!?」

「人質を取るならキルケの方がまだ適任だったな、お前にコーネリアは殺せない」

「はっ、ふざけた事を抜かすな!」

「ふざけているかよ・・お前はミランダだ。

そこの姫君に命を捧げた女騎士・・そんな愚行など出来るわけがないだろう?」

「ふん・・!私が本気だと言う事をわかっていないようだな・・っ!?・・なっ・・体が・・」

「何も理解していらっしゃらないご様子ですね。

命を賭けて守る主の危機、彼女はそのような時に眠っているような二流ではないという事です」

静かに笑うレイハ・・するとミランダの表情が苦痛に満ちていく

「・・姫・・様・・」

「ミランダ・・」

「申し訳・・ありません・・私は・・」

苦しげに謝るは本当のミランダ、その体は震えもう一つの人格を渾身の力を込めて否定している

「ミランダ!」

「クラーク様・・今の内に・・私を殺して・・ください・・」

「──いやっ、それはできない。お前はお前に戻る必要があるだけだ、殺す必要なんて無い」

「しかし、主に手を上げる・・など・・死んで詫びるしか・・ぐっ・・あ・・」

「手を上げたのは貴女ではありませんよ、ミランダさん」

「ですが・・ぐあぁ・・落ちろ!ミランダ!」

しゃべりながらもその表情は変わり大粒を汗を流すミランダ・・・

やがて先ほどの鋭い目つきに戻ってしまった

「ミランダの制御もできないようだな・・うし、これなら元に戻せるか」

「はぁ・・はぁ・・き・・・さま!まさか・・!?」

「今頃お気づきですか?コーネリア姫を人質に取らせたのは此方が誘導させた事・・

貴女がどの程度ミランダを支配しているか見極めるための罠だったのですよ

貴女程度、仕留めようと思えばいつでもできますからね」

「その通り、完全に支配していないようだがその割合が深かったら元の人格に障害が残るらしいからな。

まぁ・・主の危機で自我を取り戻すのなら心配はいらないって事だ」

「ふざけるな!ならばその要因であるこの女を殺す!!」

狂気に満ちた咆吼、そして折れたレイピアをコーネリアに突き刺そうと腕を上げる!

だがその瞬間、鋭く駆ける刃がミランダの首筋に衝突した

「これが・・本当の斬撃だ・・。まっ、峰打ちだけどな」

僅か一瞬で距離を殺しミランダを仕留めてみせるクラーク、

狭い室内と言えども踏み込みは実に見事であり目の前でそれを見たコーネリアは呆然としている

「ぐ・・が・・・」

そして峰打ちの衝撃でミランダはうめき声を上げて力なく倒れた

斬れはしないもののその一撃はかなり重い、

後少し力を強めていたのならば首の骨が折れてもおかしくないぐらいである

「2,3日は目を醒まさないだろう。お前に足りないのは経験による応用、そして誇りだ・・

本当のミランダなら俺ももっと苦戦していただろうさ」

倒れる彼女に声をかけるクラーク、

それは彼女の人格に対する最後の言葉であった

「クラークさん、ミランダは・・」

「大丈夫、シウォングの魔導レベルはこことは比較にならない。次に目を醒ました時はお前が良く知っているミランダさ」

「・・ありがとう・・ございます」

深く一礼をするコーネリア、

「気にすんな、まぁわざと人質になってもらった分俺も偉そうな事は言えないんだけどな」

そんな健気な彼女の頭を軽く撫でながらクラークは剣を収めた

「い、いえ・・そのような考えがあっての行動ならば気にいたしません」

「ははは・・ありがとよ、そんじゃミランダは俺が預かるから〜。

キルケとコーネリアはレイハの指示に従ってシウォングまで避難してくれ。

ミランダが倒れた事は王は知っているかもしれない・・

ディが向かっているが追っ手には気をつけてな」

「わかりました!レイハさん、足手まといになるかと思いますがよろしくお願いします」

「期待してますよ・・、では私達は合図を出しますので貴方もお気を付けて」

「おうよ、じゃあな・・」

再会を約束してクラークは気絶したミランダを背負いながら軟禁室を後にする

「やはり・・」

「・・?どうしました?レイハさん?」

「貴女はその笑顔の方が似合ってますよ」

「・・えっ!」

「さぁ、行きますよ。道中の安全は確保しますが戦闘となった時のコーネリア姫の護衛はお願いします」

多少予想外の展開に巻き込まれたレイハであるが彼女が元に戻った事に安堵の息を漏らし

二人を先導し出す・・

 

それより数分後、城の中庭より反撃の狼煙である閃光が闇夜を照らすのであった

 

 

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