第六節  「真龍騎公VS剣聖帝」


翌日、シウォング郊外にある真龍騎公の屋敷では朝より作戦会議が開かれていた

 

・・っとは言えども本格的な侵攻がない分全員ラフな普段着姿、

それも居間でお茶を飲みながら・・

事態は余り思わしくはないのだが表立っての戦闘はおろか宣戦布告もされていない分

今完全武装する必要がないのだ

それは都市の住民もそうであり、いざ戦闘になれば武器を手に戦うのだが

王の気質の影響なのが地の気質なのか、国境沿いの様子を警戒する者達を除いては

その日のシウォングはいつもとさほど変わってはいない

 

「で・・ダ、昨日渡されたあの紙・・軽く見ておいたゾ?」

 

ソファに座る猫娘シエルの膝に陣取るは幼女にして元魔女、

極星騎士団の核搭載(メ タ)幼女型()破壊()兵器()ことルー

昨晩ライから渡されたあの図面に目を通し大して面白みがなさそうにポイっと投げ捨てる

突然の頼みという事で調べたようなのだがそれは彼女にとってはどうでも良い代物であったらしい

「──僕も強制的に拝見させられました。内容詳しく聞いていないんですが・・何ですか?これ?」

その隣で呆れ顔なのはディ、彼も優秀な魔導師、

見た目の幼さとは裏腹にその知識と技能は並の術師など歯牙にもかけない実力者であり

魔導機兵については相当な知識を持っている

「ああ、リキニウスの連中が企んでいる物・・だと思う」

お茶をすすりながら軽く言うライ、

それに居間に集まった住人達は何のことかよくわからないご様子

「・・どういう事なのぉ?」

優雅にお茶を飲みながらアルシア、妖艶な女性なれどその姿は実に美しく

なにげない動作にも気品と色気が感じられる。

しかしそんな彼女も今回の事態には余り関心がないご様子である

「ああっ、リキニウスの連中がこっちにちょっかい出したのは皆知っているだろう?

アレス達にその警告に向かっていったら向こうにロカルノ達がいて戦闘になったんだよ・・

でっ、そこで戦闘をしながら渡されたのがその紙切れ」

何でもないように説明するライなのだがそれによりその場にいた面々の顔つきが変わった

「ん・・つまりはクラーク達が向こうについたわけか・・」

冷静ながらも軽く鼻息を付くシエル・・

そうともなるとあの女を始末できる・・っと思っているのかもしれない

「あの・・そんな事聞いていませんけど・・」

「ルナも!」

ディとルナはその事を知らなかった様子で不満そう、

まぁ昨日知るか今日知るかで違いはさほどなかったりするのだが・・

「まっ、昨日わかった事だし無理に言いふらしてもしょうがないだろう?

これから本格的な事になりそうなんだしさ

・・でっ、ルーにディ・・その図面は何だったんだ?」

「簡単に言うと出来損ないの人形ダナ、大がかりな割にはツマラン」

ばっさりと切り捨てる魔女っ子、彼女のレベルからしてみれば相当下らない物らしい

それはディも同じ様子でこれみよがしに呆れ顔を浮かべている・・

「確かに、良く言えば贅沢な仕様と言ったところですがコスト面では最低ランクではないですか?」

「いあ、それ以前に何なのかを具体的に教えてくれよ」

コストなんかはライ達には何の関係もない

必要な情報はそれが何のために描かれているのか、

そしてロカルノが何故それを渡したのか・・である

「そうですねぇ・・、劣化()導機兵(ギオン)と言ったところですか。

魔石を利用した戦闘人形ですね」

「ふぅん、じゃディが持っているのと基本的には同じか」

「ご冗談を。僕が携帯しているのと比べたら技術に雲泥の差がありますよ。

さしずめこの設計図面に描かれたのは三流もいいところの駄作ですね」

「うむ、技術としては未熟もいいところダ。鎧に制御魔石を組み込んだようなものダナ

そこらのダンジョントラップにありそうな程度の物ダ」

「──そんじゃ、こいつの相手はディに任せたらいいか?人形VS人形って感じで」

「まぁそれでもいいのですが・・配置するだけ時間の無駄ですよ。

第一この図面の魔導機兵がどのくらいの数を用意しているのかわからないですし。

まぁ、純粋な攻撃力のみを上げるならそこそこ優秀と言ったところですか」

「・・じゃあ、攻撃力ではディ製と並んだか♪」

「違います!僕のは携帯性と安定性を重視しているだけです、

豪華一点主義みたいな駄作とは次元が違うのですよ

まぁ・・それは置いておくとしてもこの図面のはそれに対し魔石を多量に使っています、

活動時間等はこっちに軍配が上がりますね

それに僕のは汎用性に優れていますがこの図面のは完全戦闘用、

組み込まれた命令(プログラム)をただ実行するだけの駄作です。

戦況による作戦の機転が利かない分最初から最後まで突っ込んでくるでしょう」

「──なるほど、ではそれが相当数編成されればそれなりの驚異になる・・と?」

キラリと眼鏡を光らせるレイハさん、

ライのサポート役として敵の情報は極力詳しく頭に入れておく必要がある

「そうダナ、強襲用に設計されているようダ。

それ故に人馬のような設計をされて機動性を高めてイル・・

鉄の鎧塊が集団で駆けてくるようなものダナ。勢いに乗られるとそれなりには厄介カ」

軽く言うルーながらも一般レベルならばそれは十二分の驚異となる

命持たない集団というものは危険極まりない物なのだ

「・・俺達ならばまだ止められますが・・兵には少し厄介かもしれませんね」

「アレスの言うのも一理あるな・・。

人でない分止めるのも大変だ、一撃でなぎ払うにも鉄の塊じゃかなり力がいるか」

「何なら前線に僕のレギオンを配置しますよ。

特攻で自爆装置を組み込まれていたとしても耐久度から考えて耐えられるでしょうし」

「ふん、以前にどれだけ数がいようが魔法で焼き尽くせば問題あるまい!それよりも問題はクラーク達ダ!」

「そうですね・・、昨日みたいに手を抜くのも限界があります。

それについては覚悟を決めておかないと・・」

そう言うリオだが本気でセシルと戦おうとは思わない・・。

彼女の奇抜な攻撃は生真面目なリオとは相性が悪いのだ

・・逆を言えば黒化したら良い勝負になるかもしれないがそうともなれば

かなり苛烈な勝負になる事は違いない

「でも考え方を変えると合法的にセシルを始末できるチャンスか・・、

シエル!ディ!ルナ!今こそ積年の恨みを晴らす時だ!

俺が認める!奴のみは何があっても仕留めろ!!」

「・・ん、任せろ。セシルが出てきたら私が切り刻む・・負けはしない・・」

珍しく感情を露わにするシエルさん、

寡黙な爆乳娘をここまで血気盛んにさせるセシルにはある種すごいとも言える

・・まぁ、相応の因果応報とも言えるものなのだが・・

 

だがそんなシエル対しディとルナは絶好の機会に決意を固めるもどこか浮かない顔

あのパツキンケダモノが萌えた時の底力は凄まじい、

それだけに下手をすれば返り討ちにあう可能性もあるからだ

ケダモノ相手には幾十にも計画を練らなければならずそれでも仕留められるかどうかは微妙なところ

何せ勝ち誇っていたとしても一度萌えたら限界以上の力を発揮するが故に相手の底が見えない

故に隙を見せたら犯されかねないのだ

 

 

「──ライ、屋敷の近くに・・」

 

何とも言えない顔つきのディとルナを余所に不意にレイハがライに耳打ちをする

クノイチ秘書は常に主の身辺を気遣っている

故に少しの異常でも俊敏に感知してそれを主へと報告する、プライベートがない大変な職業である

「ああっ、誰か玄関近くにいるな。うちの連絡役か?」

「それにしては気配が薄いです。・・私が見てきます」

「・・おう、一応気を抜くなよ」

スッと立ち上がるレイハに対し気を遣うライ、

もっともそれで不覚を取るようなレイハではないし何かあってもこの面々ならばすぐに駆けつけられる

単独で乗り込むにはこの屋敷は鉄壁と言えよう

 

「それにしても・・一度あいつらとは本気でやり合ってみたいと思っていたが

まさかこんな形で実現するとはな・・」

「まったくぅ・・厄介よねぇ。

大体何弱みを握られたかわからないけどセシル達らしからぬヘマをしたものねぇ」

呆れてお茶を飲み続けるアルシアなのだが心内ではセシルとキルケを身を案じている

小悪魔的な性格でも根は純粋、心友のセシルと教え子(?)なキルケの事を無下にはできない

「それだけリキニウスに侮れない策があったと見た方がいいでしょう・・。

あの国が俺達を攻める事に関してユトレヒト隊という駒は実に有効だ」

冷静に分析するアレス、

最初は面を食らった彼なのだが今となっては敵対する存在をしっかりと認識している

そして知らず内に震える体・・

強者と戦える、それも一度本気でやってみたかった相手ともあって潜在的に武者震いを起こしているようだ

「まっ、確かにナ。

だが・・親交のある者同士を戦わせる事自体すでに失敗の兆しが出てイル

・・言葉を交わさずとも状況は伝わるものダカラナ」

「そうですね。現に手の内がこちらにも伝わりましたし・・後はどうするかですか」

「わう!悪いの 倒す!」

「まっ、結局はそうなるわな・・っと」

言葉を交わしたその時、居間にレイハの姿が見えた

「ライ・・お客様です」

事務的なレイハの声、すると隣に一見どこにでもいるような質素な格好をした男が姿を見せる

「おや、あんたは確か・・」

「失礼、私はダンケルク国情報部副隊長のアゼフと申します。

ロカルノさんより命を受け貴方達に状況打開の協力を願いに参上しました」

一礼する男アゼフ・・

予想外の珍客に面々はやや驚きながらも一同は彼が用意したシナリオに耳を傾けるのであった

 

 

 

──────

 

 

 

 

一方

リキニウス城にある一室・・窓もなく簡単な家具しか置かれていない部屋

一応手洗いなども設置されており簡単な宿泊室のようにも思えるのだが

入り口は厳重に施錠されており完全な密室となっている

 

「もう、結構経ちましたよね・・」

 

「・・ええ・・」

 

その中で落胆した様子でベッドに座るはキルケとコーネリア

外の様子が全くわからない状況で数日が経過しもはや今が昼なのか夜なのかも曖昧になりつつあった

「すみません、よもやのような事態になるとは・・」

もう何度目になるかわからないコーネリアの謝罪、

ここに囚われて以来彼女は落ち込んだ様子でキルケに謝り続けている

「いいですって、捕まっちゃったのは私も悪いんですし。それに今に何とかなりますよ♪」

対しキルケは全く落ち込んではいない

彼女にしてみれば捕虜=拷問なんて事を想像していただけに

軟禁されているだけで何もされない事に寧ろ楽観的になっている

「強いのですね・・キルケさんは・・」

「まぁ余り深く考えていないだけなのかもしれませんね、それに・・あの時の事が本当良くわからなかった分

今は抵抗してむ無意味だと思いまして・・」

「捕らえられた時の事ですね・・。

ミランダさえ気付かれずに気絶させた・・これはやはり魔術によるものなのでしょうか?」

「そう・・ですね。それとは少し違う気がします、

ロカルノさんの到着を待っていたら突如首筋を叩かれたのですから・・

ミランダさんも倒れてここに軟禁されたとなると相当な腕の人が忍び込んでいたのかもしれません」

その時の光景を思い出すキルケ、自分が不覚を取った原因というものは本人には未だわからないようだ

「・・、父上はそれを承知で私を呼び出し捕らえた訳ですか・・。

しかし、ミランダはキルケさんが気絶をした事を覚えていないと言ってました

そうともなると・・まずミランダを気絶させた後にキルケさんを狙ったわけ・・ですか」

「そうだとするとすごい相手ですよ、

・・何の気配もなかったのですから・・。

ミランダさんのうめき声すら聞こえなかったですし・・」

現状に至るまでの経緯を振り返る二人・・

 

話した通り、キルケはコーネリアの私室にてロカルノの到着を待っていた時に突如気絶されられ軟禁、

コーネリアは呼び出された先で王に反乱の事を告げられそのままここに捕らえられたのだ

ミランダもキルケと同じなのだが二人比べて利用価値があると言うことで現在は王の元へ連れて行かれた。

彼女もロギーと同じくコーネリアを人質としてとられたら何もできない、

王の命令に不快感を露わにするも反論もできず無言でそれに応じたのだ

「でも・・皆さんは・・大丈夫でしょうか?」

浮かない顔のコーネリア、

ミランダがここに来る時に知り得た情報を教えてくれており

ユトレヒト隊がシウォング侵攻に使われてる事もある程度は知っていた

「大丈夫ですって!何とかなりますよ!」

明るく接するキルケだが内心は不安が残る、

誰が相手だろうと自分の愛するクラークは負けるはずはない

そう信じている彼女だがその相手が極星騎士団となるとそれは少し変わってくる

今まで出会ってきた中で彼らの強さは群を抜いている、

本気で争った事がないだけにいざ戦う事になった時どうなるかはキルケにはまったくわからないのだ

「そう、ですね。前向きに考えないといけませんね」

強がるキルケにコーネリアも無理をして微笑む

同じ捕らえられた身として二人には奇妙な親近感が生まれたようである

そして空気が少し和んだその時、

頑丈に封じられていた扉が開きゆっくりとミランダが入ってきた

外の廊下には兵が何人も監視しているのが一瞬だけ見えるのだがそれも僅か、

ミランダが丁寧に扉を閉めて一礼をした

 

「姫様・・」

 

仕事着と言うことで侍女用の地味なドレスを着込んでいる彼女だが

顔立ちが整っている分そんな服ですら美しく見えてしまう

「ミランダ!無事でしたか・・」

「はい、王は私を騎士として戦力に加えるつもりです・・

その様子ではロギーや他の騎士達も姫様の命を盾に従えさせているようで・・」

「そう・・ですか・・。ですが貴女が無事でよかった・・」

「姫様、それにキルケ様。申し訳ありません、私がもう少し注意をしていれば・・」

浮かない顔のミランダ、

腕に覚えがあるもいざという時にそれを発揮できず主どころか

キルケまで危険な目に遭わせた事を恥じているようだ

「だ、大丈夫ですよミランダさん。

それにほらっ、相手が悪かったというか〜・・まだよくわからないんですから・・」

「・・ありがとうございます・・」

キルケの気遣いにてその端麗な顔立ちが僅かに綻んだ

 

「──それでミランダ、状況はどうなっているのかわかりますか?」

 

「はい・・シウォングへ奇襲をかけるべくロカルノ様達を向かわせたのですが

成果も上げずに引き分けとなり帰還されたようです」

落ち着き払ったミランダだがその言葉にキルケの顔色は優れない

やはり極星騎士団と衝突したという事実は彼女には重たいようだ

「ロカルノさんが・・ですか・・」

「はい、ですが奇襲・・っというには人員が少なすぎます。寧ろ工作行為でしょう・・」

「そうともなるとやはり極星騎士団が目当てですか・・?」

一騎当千同士の対決、それはあってはならない事とコーネリアは声を震わした

「おっしゃるとおりです、不審な動きは極星騎士団も察知している。

王はそれを承知で奇襲に向かわせたのでしょう

失敗覚悟の作戦と思われますがその実は予め領域侵犯をする事に対し

極星の将を呼び寄せロカルノ様達と戦わせる事が狙いと見ています」

「ライさん達と・・ですか・・」

「はい・・、ユトレヒト隊は対極星騎士団用と王は決め込んでいるらしく相手に動揺を与え、

あわよくば数を減らす目的で出撃させたようです

ですが結果は引き分け・・、シウォング側も我が国への警戒を強めています」

「事態がついに表面化してしまいましたか・・、もはや・・戦争は避けられないのでしょうか・・?」

「大規模な戦闘行為は行われていません・・

王もまだ宣戦布告は行ってはいないのですが、それよりも先に真龍騎公より書状が届きました」

顔色を曇らせるミランダ、それに対しコーネリアも息を飲む

領域を侵し攻めてきた国に対する書状・・当然穏やかなものであるはずがない

「『リキニウス国の行為は明らかに侵略行為であり見過ごす事はできない、

通常ならば戦となるのが当然の流れだが民に被害を及ばせるのは双方の本意ではないはず

・・そこで双方最強の戦士を出し一騎打ちをして勝敗を決めよう』・・との事です。

シウォング側からは王であるライ=デェステェイヤーが出るようで・・」

「ライさんが・・そのような事を・・?」

「普通ならばそれを受け入れるものではないでしょうが・・先ほど王はその申し出を引き受けました。

そしてクラーク様に一騎打ちをするように命令をしたようです」

「っ!?クラークさんをですか!?」

愛する男の名前にキルケは目を見開き思わず叫んでしまう。

彼女にとってはもっともあってほしくはない事・・、

ライの腕前を良く知っているが故にまともに戦えば

クラークでも無事で済むはずはないという事は嫌でもわかってしまうのだ

「はい、相手は真龍騎公、

それに対抗できるのは彼しかいない・・っとロカルノ様の進言でそうなりました

しかし王は本気で一騎打ちのみで戦いを終わらせるつもりはありません。

あくまで極星の将を削るだけで命令をした様子で

もしクラーク様が勝利を納めても戦へと発展するのは・・」

それ以上は言わないミランダ、冷静沈着な彼女らしからぬ苦い顔つきになる

当初の目的とはかけ離れた最悪の事態、流石のミランダでも平静は保てるはずもない

「・・・・、わかり・・ました」

「クラークさん・・」

「すでにクラーク様に出撃命令が下りました、

私も今回はその決闘の監視を行うように命じられ・・その様子を詳しく報告しろと・・」

「ミランダが・・、ですがユトレヒト隊の戦闘行動の監視はロギーが行っていたのではないのですか?」

「そのはずなのですが今回は何故か私がやれと・・、

姫様のお命が預けられている以上どちらでも同じなのですが王は私に行かせたがっていました」

人質を取られている以上反論はできない・・がその様子から感じ取れるモノがある

ミランダから見た王の命令は明らかに不審な点があった

「そうですか・・、ミランダも気をつけて」

「勿体ないお言葉です、それに私の任務は勝敗の報告・・

真龍騎公が決闘の場で私まで牙を剥くとは考えられませんのでご安心を」

「ミランダさん・・ライさんと面識があるのですか?」

まるで彼の事を知っているかのようなミランダの言葉・・

キルケは思わず恋人の身を案じるのも忘れそれを聞いてみた

「いえ、直接の面識はございません。

しかしこの地で剣を持つ者としてライ=デェステェイヤーの名は耳を塞いでいても届くモノです」

「なるほど・・」

「このような事で顔を合わすのは気が引けるのですが仕方ありません、

クラーク様の御武運を祈りその戦いを見極めて参ります」

「ミランダ・・」

「ご安心を・・それに・・姫様とキルケ様の身は私がお守りします・・必ず・・」

決意に満ちた眼差しのまま一礼をするミランダ、そして意を決して部屋を後にした

「ミランダ・・、私は・・・」

「・・クラークさん・・お気を付けて・・」

籠の中に閉じこめれたままの彼女達にできるのはそれぞれの大切な人の無事を祈る事のみであった

 

 

 

 

────────

 

 

 

そして翌日

・・真龍騎公ライとクラークの決闘の場が整われた

場所は以前ロカルノ達が衝突したシウォングとの国境沿いの平原

だだっ広い大地に生い茂る草木は風に揺れなびいている・・

その決闘の演出かのようにそれは曇っており黒く重く空を支配して風が吹きすさんでいた

そしてシウォング領より姿を見せるは真龍騎公ライとその側近である四姫

他に兵を引き連れてはいないが付き添いの四人のみでもおおよそ兵4000人分の仕事は軽くこなせる

ライ初め四人は正に完全武装、決戦用の服装にて相手を見つめている

対しリキニウス側はライの相手として戦う羽目となったクラーク

そしてその勝敗を見守るミランダと後は正規の騎士数名

クラークはいつもの装備で薄碧のコートに愛用の得物、

防具らしいのは腕に付けた軽量籠手「剛護腕・拳式」ぐらいのもの

決戦用のスタイルをするべきであったのだが彼自身の決戦装備は遙か遠い自宅に仕舞われている

もっとも装備に頼る彼ではなく本人は気にしていない

彼を監視するミランダは今までの服装とは違い銀色に光る鎧を纏った騎士姿、

侍女姿の彼女も似合っていたのだがやはり元本業、

中の戦闘服から鎧の着こなしまで見事に様になっており正しく麗しい女騎士・・

馬にまたがる姿も優雅さすら感じ取れる

しかし長い髪を風に揺らせクラークを見つめる眼差しは慚愧に耐えないものであり・・

 

「申し訳ありません・・」

 

もう何度目かの謝罪を述べる、それは彼女の後ろに待機する騎士達も同様

彼らもミランダやロギーと同じくコーネリアを慕う者達・・

王や国のために剣を持つ彼達も今回の動きは異常であり通常ならば戸惑いを見せるものの

コーネリアが人質にされているが故にその暇も与えてくれない

「気にするな、あんたも被害者なんだ」

対しクラークは馬より飛び降りて軽く体を慣らす、

口調からして本当に全く気にしていない様子である

「ですが・・」

「こうなったのは仕方ない、

それに・・あんたが傍にいたからキルケが無事だったのかもしれないんだ」

「クラーク様・・」

「まっ、お互い・・自分の仕事をしようぜ」

ニヤリと笑ってみせるクラーク、だが彼女は未だ複雑な顔色を浮かべる

それでも自分が落ち込んでいても仕方ないので

「御武運を・・」

深く一礼をして彼を送り出すのであった

「おうよ・・うし!行くか!」

腕を回し決戦広場へ・・、

 

そこにはすでに決戦用の戦闘装備をしたライが仁王立ちして彼を待っていた

後方で待つ四姫は無表情のままでそれを見守っている

 

「よう、悪いな、クラーク」

 

「気にするな、こっちがヘマしたんだからな。こっちこそ面倒事に巻き込ませて悪いと思っているよ」

 

「それこそ気にするなよ。どのみちリキニウスはこっちを狙っていたようだからな」

 

「違いない・・じゃ、こちとら余り多くしゃべれない身なんで・・そろそろやるか」

 

「ああ・・いいぜ!」

 

まるで日常会話のような口調のまま

軽く掛け合いをした後に互いの得物をゆっくりと抜き構える

ライの得物は身長大の研ぎ澄まされた片刃破壊剣『神狼牙』

クラークの得物は美しき装飾が施された黒鞘が特徴の合魔刀『紫電雪花』

武器のみで言うならばライが有利、刃の大きさからして破壊力が違う

しかしそれだけで勝負はつかない・・破壊剣は破壊剣の、刀は刀の戦い方があるのだ

 

「スゥ・・」

 

軽く息をつき、クラークは刀を下段に構えて精神を集中させる

ライとの距離はかなり離れている・・ここから切り込む事もできるのだが間合いは詰め切れない

対しライは構えたままジッと動かず・・

しかしそれでも精神集中をしているのはクラークにははっきりとわかった

そして先制としてまずクラークが動く!

 

「大・・斬・・鉄!」

 

その場で体を独楽のように回転させ勢いを付けた状態で刀を鋭く横に払う!

 

轟!

 

鋭い剣筋から生まれるは特大の真空刃、

アイゼン二刀流剣術『大斬鉄』精神を研ぎ澄まし特大の真空刃を二撃放つ大技

本来は二刀にて行われ、縦に振り下ろし走る『天撃』横薙ぎに走る『地撃』にて構成されている

しかしクラークには連続してそれだけの真空刃を出す事はできないが故に

一発のみでの発動をさせ本来の技とはやや違った物となっている

だがその分威力は高い、本来抜刀した状態で振るい放つものを居合いとして放っているのだ

一撃とは言えどもそれは二撃に匹敵する技と言えよう

そしてそれは低空を駆け草原に生える緑をまとめて切り払いながらライに向かって走る

避ければ後ろに待機している四姫まで届きそうなまでの勢い

本来見えぬ空気の溝波なのだが鋭さを持つそれは白い刃の姿を見せている

まともに受ければ無事では済まない、しかしライは身動き一つせずにクラークを見やり

「・・破ぁ!!」

気合いと共に破壊剣を振り払う!

 

轟!

 

神狼牙からはクラークのものと同等な特大の真空刃が放たれ、真っ向から迎え撃つ!

空を舞う二つの刃、それが真っ向からぶつかった瞬間、周囲に衝撃が走り刃が崩れていく

真空の刃が崩壊した事により風の流れは変わり鋭い風切り音とともに四散された

だがそんな事最初からわかっていたのかライとクラークは同時に駆けだしている

真空刃は挨拶代わりか開戦の狼煙か

そのまま二人は肉薄し戦闘を開始する!

先手はライ、豪快に神狼牙で薙ぎ払うも

それよりも早くクラークは飛び上がりそのままの体を回転させて右踵落としを放つ

ライはそれを格闘腕甲で叩きはじくのだがクラークは体勢を崩されながらもそのまま体を捻りそのままは左足が駆ける

これには予想外だったのかライは素早く飛び退きそれをやり過ごす、

刹那着地をしたクラークはそのまま体を跳ねさせライに追撃、

素早く振り込み刀を下から切り上げライを追い詰める・・が

それで勝負が付くほど甘くはない、神狼牙を振り上げ高速で切り下ろす!

 

 

ギィン!

 

凄まじい衝撃とともに甲高い音が響き二つの得物がぶつかる

しかし質量からしてみれば神狼牙の方が有利、いかに折れず曲がらずで有名な刀でもただでは済まなく

クラークはライの一撃の威力を殺してから刃をさらに立てて神狼牙の刃を滑らすように流しながらさらに踏み込む!

これにはライも驚くのだが次の瞬間、クラークの拳がライの頬にめり込んだ

戦闘開始後初のヒット、しかし踏み込み切れていない分威力は十分とは言えない

さらに追撃をかけようとするクラークに対しライはとっさに神狼牙を手放して

クラークの手を掴むや否やその体を軽々と投げ飛ばす

姿勢が整わず頭から地に落とされるクラークだが土壇場で地に手を付き

そのまま体を回転させ体勢を整わせ飛び退きながら咄嗟に真空刃を牽制へと放つ、

対しライはそれを事もなく回避し得物を拾い上げて構え直した

 

「っててて・・一筋縄じゃいかないか・・」

 

刀を一端鞘に収め手を振るクラーク、投げを回避するために強引に地に手をついた時に少し痛めたらしい

それが防げなかったら頭から激突し相当なダメージを貰ったに違いない

「それはこっちも同じだ、鍔競り合いからさらに踏み込むとは思わなかったぜ。

小回りの効く得物ってのもいいもんだ」

「そんなデカ物とまともにぶつかり合ったら流石に折れちまうよ、

こいつを壊したら東国最凶の悪霊に祟られるんでな」

今の彼の刀はかつての家族であった者が使用していた刃を改造した物、

故人故に無断でそれを行ったのだが化けて出てきたので以降大切に使っているのだ

そうとは言っても元より手入れもきちんとしているので問題はなかったのではあるのだが・・

「余裕だな・・ともあれ、次は今のようにはいかないぜ!」

「上等だ!」

そう言うと互いに踏み込み戦闘続行、一進一退の激戦が展開された

 

 

「・・攻めあぐねているな・・ライ」

 

「そうねぇ、流石はクラークと言ったところかしらぁ。

あんなやりにくそうなライは中々見れないわよぉ」

 

「双方少しでも気を抜けば決定打となってしまいます。

その状況下の中であれだけの攻防・・流石ですね。あの動きでも挨拶代わりなのでしょう」

 

「だが双方まだ手札は伏せてイル。どちらが何時その札を見せるかが・・勝負処ダナ」

 

待機しながら戦闘の様子を見る四姫、

高レベルな駆け引きに感嘆の息を漏らすがそれだけが彼女達の仕事ではない

「・・でぇ、あれがセシル達に依頼をして人質に仕えている女騎士兼侍女というわけねぇ」

気付かれないようにクラークの監視役のミランダ達を見定める

「そのようですね、ミランダ=レージ。

リキニウスを代表する女騎士としてその名前は把握しています

・・噂と違わぬ実力の持ち主のようですね」

リキニウス勢を観察するはレイハ、

予想を上回る攻防にミランダはおろか他の騎士達も呆然と戦いを見つめていた

「ふぅむ・・なるほどナ。

・・アレス達の報告にあったロカルノの監視役もさる事ながらあの女騎士も中々やる。

そんな監視状況でよくも連絡がつけれたものダ・・」

「アゼフさんの事ですね。

秘密裏に同行させておき連絡を取らせるとは・・ロカルノさんも抜け目がない御方です」

同じ諜報活動を主とする者としてレイハは感心する・・、

 

今回の依頼でロカルノは秘密裏にアゼフを情報収集役として引き連れていた

遠方故に移動手段には困るのだがそこは退屈なメルフィに協力を頼み

シウォング近辺にて別行動でリキニウスに入国していたのだ

後の接触は控え情報収集に徹したところユトレヒト隊が捕らえられた事を知り自身の判断で行動を開始する

長年ロカルノに仕えただけあって二人の接触方法は実に巧み、

ロカルノが確認できるギリギリの位置で様子を伺うようにし

その存在を確認させたところでコンタクトを開始する

今回の場合はアレスとの戦闘後、

国内に帰還するわずかな間に小さな鏡を使い反射光にて信号を送っていたのだ

無論相手に気付かれないようにアゼフからの返信はなくそのまま行動を開始してライ達の元へ向かった

さらにアレスに敵の侵攻に関する情報を与えライ達に行動を促すようにしたのだ

当然その事はその場にいたロギーも知る事はないし遠方の小国の信号の解読など

仮に王がその現場を別の方法で監視していたとしてもわかるはずがない

こうしてロカルノとアゼフは水面下で見事連絡を取ったのだ

 

「魔に頼らず技術のみで連絡を取り合うのもすごいものねぇ・・

でも、その割には際どい作戦だったのが気に掛かるわねぇ」

「・・仕方がない、キルケが人質にある以上失敗は許されない」

「ダナ・・、だがライの奴、難しい顔をしておきながら何気にのめりこんでいるナ。

全く・・内心暴れられて満足しているのダロウ」

呆れ口調なルー、ライとクラークの戦闘は熾烈を極めているのだがどこか二人とも満足そうに打ち込んでいる

「呆れたぁ、深刻な状態なのに真剣勝負に夢中になっているわぁ。

そんなにクラークと戦いたかったのかしらぁ?」

「・・無理もない。私も血が騒いでいる」

落ち着き払いながらシエル、

彼女もクラークと手合わせした仲であり目の前の戦闘を自分に置き換えているのかうずうずしている

「・・まぁ、私達は私達の仕事をしましょう・・。そろそろ動くはずです」

そう言いながらレイハは戦いを静観する、

諜報に関しては彼女がこの中では一番秀でており

彼女の言う事に無言で頷きながら四姫は愛する男の戦う姿を見つめだした

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

もはや何の遠慮もなく打ち合う、ライの神狼牙の一撃をクラークの紫電雪花は真っ向から打ち合う

太刀筋の鋭さはクラークの方が有利であり神狼牙が振り切らない内に刃をぶつける

流石にクラークでもライの本気の一撃を受けてはまともではいられない

当たれば負ける、緊迫の戦闘の中豪快なライの一撃を前にクラークはやや劣勢

神狼牙のみならばまだしもライには鍛え抜かれた体術も持ち合わせている

巨大な刃は懐の守りを浅くさせるがそれはその隙を埋めるに余りある

故にクラークが懐にかいくぐろうにも中々踏み込めないのだ

しかしいつまでもそのままでいられるはずもない、

全距離(オールレンジ)に渡り優秀なライに対し長期戦は不利

意を決しクラークは一端距離を開けて紫電雪花を左手に持ち替えた

 

「へっ、九骸皇!」

 

気合いを込めて右手を振るう、

途端右手に赤い霧のような物が放たれ刃の形を作られていく

装飾の欠片もない深紅の刀・・それこそがクラークの切り札である鬼神剣『九骸皇』

見ただけでただの刃だとは思わない異質な気配を漂わせるそれは破魔の刃・・

それを受ければ魔術による補強術を打ち消す事も可能である

「二刀流か、初めて見せるスタイルだな!」

「お前相手に手加減なんてできないからな!いくぜぇ!」

気合いとともに駆け出すクラーク、

これにより今度はライが防戦に立たされる

居合いほどの鋭さはないもののクラークの攻撃はどれも冴えており気を抜ければ一気に畳み込まれる

「・・ちっ、速いな!」

両手に持つ刃を流れるように放ち、

さらに足技を加えるその連撃は怒濤でありライに反撃の機会を与えない

まるで剣舞のような連撃、なまじの腕ならば防御ごと打ち砕かれてもなんら不思議ではない・・が

「防御が厚いな!!くそ!」

一撃一撃、神狼牙で防ぎながら相手の出方を伺うライ

大きな刃は使い方によっては盾としても機能をする

「反撃出来ない分やらせるかってんだ!!」

額に汗を浮かばせ叫ぶライに対し無駄な攻撃を少なくし連続して追い込むクラーク

これだけ激しい戦闘を行っているのに双方手傷は最初の一撃だけしかないのが嘘のようだ

「っ!!そこだ!!」

一瞬の隙を突きライは素早く飛び退き神狼牙を振るう、

バックステップにして間合いを外しつつ放たれる豪撃、

それは牽制と言えども気を抜く事ができない凄まじいものであり

踏み込もうとしたクラークは宙高く飛び上がりそれをやり過ごした

「なんのっ!」

宙にてさらにクラークは追撃、二刀を交差させそのまま叩きつける!

勢いをつけた一撃は正に驚異・・急落下とともに振り下ろされ確実にライを捉えるのだが・・

「このっ!」

 

キィン!!!

 

凄まじい金音、咄嗟にライは神狼牙にて強烈な一撃を防いだのだ

大型の剣故に小回りが効かない物と思われるのだが一流が使えばそれはまた違う

彼はそれを強烈な一撃を放つ剣として使い、強固なる盾としても使う

その機転の速さは流石でありなまじの重装兵よりもその防御は厚い

卓越した技術を披露しながらライはそのままクラークを薙ぎ払う

華奢な刀身では神狼牙には対抗しきれずその体は吹き飛ばされた

 

だがクラークもただでは引き下がらない

体を立て直すまでの間に呼吸を整え地に付いた瞬間・・

「本来の・・大!斬!鉄!」

振り下ろしの真空刃、続けて横薙ぎの真空刃が駆ける!

初撃の大斬鉄とは違いその威力は低いものの連続して放たれる真空刃はライを確実に捉えている

「・・っ!ちぃ!」

咄嗟にライも真空刃で迎撃、しかしそれは一撃のみを相殺したのみで

その隙間を縫うようにもう一撃、真空刃が走りライの腕を浅く斬って消えていった

「・・くそっ、やっぱ二刀じゃ威力が出ないし狙いも甘くなっちまうな・・!」

「それでも手傷を負わすだけの威力がある分厄介なもんだぜ」

静かに笑うライに対しクラークも不敵に笑った

本来ならば決着がついていてもおかしくない攻防であったのだが未だ双方攻め手に欠けている

「このスタイルじゃ・・お前を仕留める事は難しいみたいだな・・」

「剣ってのは両手で握るもんだからな、一撃の威力が落ちるのは仕方ないだろう?」

「ははは・・あいつが聞いたらキレるだろうな・・。

んじゃ、本来のスタイルにて一発でかいのぶちかますか?」

「・・なるほど・・あれか・・」

双方それが何なのか理解しているようでありライは神狼牙を構え直し、

クラークは紫電雪花を鞘に収め九骸皇を両手にて握り締める

そして二人とも静かに目を閉じ精神を集中しだした・・

 

 

「・・あらあらぁ、ついにやっちゃうみたいねぇ・・」

 

「以前の迷宮探索の際に開発していたあの技・・ですか」

 

動きが止まった二人に対しアルシアとレイハの顔が少し強張る

「得物を媒介に戦場に漂う闘気を一気に集め、それを起爆剤にしてさらに力を込めるあれカ・・

まさかあんな物を放たないと決着がつかんとはナ・・」

「・・、場に漂う闘気は十分、得物の特性による優劣はあろうが放つ力はおそらく五分と五分・・」

「・・それってまずくないぃ?シエル?」

「幾らライでも無傷でクラークには勝てない。それはクラークに対しても言える。

だが、大技のぶつけ合いをするしか戦況に変化は起きない」

「まぁ・・どちらが優れているにせよ、ここらまで余波がくるかもしれんナ。念のために用心しておくカ」

戦況を見守る四姫、冷静に二人の状態を確認するもその先がどうなるかはわからない

そうともなればミランダ達リキニウスの騎士達などどうなるかわかろうはずもなく・・

その戦いに目を丸くしている者がほとんどである

 

「「・・・・・」」

 

そんな事などに気を回す事もできないライとクラーク、ゆっくりと目を閉じながら精神集中を続ける

すると突如風が旋毛に舞い二人の得物へと集っていった

見えない風は渦となり剣を包みこんでいきそれは次第に力と化していく

それは戦場に残る戦いの残り香、特殊な外気としてそこに漂う『闘気』

本来この平原は争いなどは起こらなかったのだが

先のロカルノ達の戦闘と今の二人の戦闘にて闘気が場に溜まりつつある、

ライとクラークはその闘気を集め力として利用するべく精神を研ぎ澄ましているのだ

そして力の渦は二人に呼応して光り出し巨大な刃と化して固定化された

 

神狼牙に現れし刃は黄金の剣光

 

九骸皇に現れし刃は紅蓮の剣光

 

闘気の質は同じ、しかしそれに加われる持ち手の力によりその姿は異なって具現化された

「・・やっぱ、同じ様な技と言えども変化はあるもんだな・・」

「全くの同じ技って訳じゃないからな・・。

俺のが一点集中型でライのは高威力にての拡散型って感じか

・・得物の差かな・・」

「基本的な力は同じだろ・・んじゃ、いくぜ!!」

 

そう言い光の剣を持つ二人の戦士はゆっくりと構え・・同時に駆け出す!

「神・魔・殲・滅『破龍咆哮』!!」

ライが振るうは黄金の光、それはまるで龍が高らかに吼えるが如く凄まじい轟音を放ちクラークに襲いかかる!

「神・鬼・殲・斬『滅鬼殺刃』!!」

クラークが振るうは紅蓮の光、それはまるで鬼の爪が如く鋭く駆けライに襲いかかる!

 

二つの光は真っ向からぶつかり合いその瞬間周囲に閃光と衝撃波が拡散された

 

「うぬ・・!拮抗してオル!だが・・あれだとまずいゾ!」

「ここまで届くほどの衝撃波出しているんだもの・・ぶつかった瞬間に臨界点突破しているわぁ!」

「よもやこれほどまでとは・・、このままでは暴走して爆発してしまいます」

「・・ライ・・!」

 

心配そうに見つめる四姫・・、その視線の先大技を打ち合うライとクラークはもうその姿を確認する事はできない

ぶつかる刃の閃光が二人を包み込んでいるのだ

黄金と紅蓮の光はまさに拮抗しており二つの刃がそれ以上進むことはない

だが・・

 

「ラァァァァァァイ!!!」

 

「クラァァァァァァク!!!!」

 

ライとクラークはその状態からさらに力を込める、

これによりぶつかり合う光、渦巻く力の渦は増し二人の刃の形が崩れだす・・

 

 

「っ!!!イカン!!暴走してオルゾ!」

 

刃の崩壊とともにルーが叫ぶの時すでに遅し。

次の瞬間、黄金と紅蓮の光は入り交じり凄まじき大爆発を起こすのであった


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