第五節  「シウォング侵攻戦」


ユトレヒト隊がリキニウス勢に加わって数日が経過した

その後牢獄で監視される状態が続くものの彼らに直接命令が下る事はなかった

元より軍備が充実しているシウォングに対して早々に宣戦布告をするのは無謀、

外道に走っている以上奇襲をかけるのには何の躊躇いもなく

数少ない騎士を集め体勢を整えつつ周辺の傭兵まで雇い出し本命を除く編成を済ました

しかし相手は真龍騎公、不穏な動きなどすぐに気付く水面下で動き出している事はユトレヒト隊も気付いている

隣国の動向等島国同士でなければ常に注意をかけているのが普通なものであり

相手にそれが気付かれているのを承知の上でついにシウォング侵攻作戦が開始された

 

「・・やれやれ、早速出番か・・」

 

「全く・・、うっとうしいわね」

 

先陣を切る部隊に駆り出されたのはロカルノとセシル、

他は傭兵達とロギーがついている

奇襲部隊としては成立しているのだがそれでもシウォング軍を相手にするには無謀過ぎる

だがこれ以上に無理に兵を与えるつもりはないらしい

そこからわかる事は王の狙いは将の数を減らす事・・、

これだけ規模が小さい勢力・・初戦で押し寄せて小さな領土を制圧してもすぐに返り討ちにあう

それよりかは最初から極星騎士団と対等に渡り合える駒を使い

将の数を減らしておいたほうが良い・・そう判断したのだ

形としては奇襲なのだが王もシウォング側が自分の動きに気付いている事を理解しているらしい

そして例え将を討てなくとも動揺を誘えるだけでも収穫と考えているのであろう

 

「──ふっ、こうした姑息な事を企むには才があるようだな

だが・・、一騎当千の者に早々長く動揺を誘えるとは思わない事だ・・」

 

軽いため息をつくロカルノ、

着ている漆黒の重装鎧などは全て自前の特注品で得物も自分の物を渡されている

それはセシルも同じでフル装備で馬に跨っている

現在地はシウォングとの境界である広大な平原、

見晴らしが良いのだがその彼方にはすでに兵が潜んでいるのがわかる

「・・すまん、友人と戦う事になるとは・・」

ロカルノの隣で俯きながら謝るロギー、

将である彼の今回の任務は二人の監視・・

彼もコーネリアという主を捕らえられている以上いかに不服な任務でも拒否ができない状態にある

「お前が気にする事はない。現状を考えると仕方はあるまいさ」

「そうそう、今は・・ね」

冷静さを保つロカルノに対しセシルは不機嫌そのもの・・

ハチャメチャな女性だがこうした筋の通らない事は大嫌いな分余計に苛立っているのだ

今の彼女は爆破寸前の爆弾や

飢えに苦しみ獲物を探し彷徨う猛獣に匹敵するほどの危険さを孕んでいよう

そこへ・・

「よぉ、ねぇちゃん苛立っているじゃねぇか?」

「へへへ・・何なら仕事が始まる前に一発ヤっておくかぁ?」

馴れ馴れしくセシルに近寄る傭兵達・・

一応騎馬が支給されているもののその風貌はならず者と言った方が相応しく

おおよそ戦力になるとも思えない

数を揃えるために雇ったのだろう

おまけにセシルがどれだけの存在なのかも気付いていないらしく

ただ美女が苛立っているようにしか見えていないらしい

「お前達、これから戦闘だ!ふざけた事を抜かすな!」

軽い態度のならず者傭兵達に一喝するロギーだが効果はなし

「おいおい・・俺達は王様に雇われているんだぜ?その態度はないんじゃないかなぁ?」

「そうだとも、それに・・女の調達は好きにしていいって話で受けたんだぜ?

いわばこの女を抱くのも仕事って訳だ!」

へらへら笑いながらセシルの肩を抱こうとした瞬間・・

 

ピシ・・

 

「・・っ!?ひっ!!」

 

何かが固まる音がしたと思ったら男は慌てて手を引いた

見ればセシルの肩に触れようとした指が見事なまでに凍り付いていた

「あら、失礼・・気が立っていてねぇ・・。知らない間に力が出ちゃった・・

今は気安く私触らない方がいいわよ?

もう少し引くのが遅かったらその手全体が凍り付いて切断するしかなくなっていただろうし」

「てめぇ!自分の立場がわかっていねぇのか!」

「立場?私の仕事は敵将の排除よ?

あんたらがどんな契約でここにいるのか知ったことじゃないわ」

「・・な・・んだとぉ!?」

「ふんっ、私を抱きたいなら力づくでくればいいだけなのにね。上手くやれば中で出し放題よ」

「へへへ・・何だよ、好き者じゃねぇか」

「その代わり・・これでも苛立つと今みたいに力が制御できなくなるのよねぇ

・・体中半冷凍になって八つ裂きになる覚悟があるならいらっしゃい?

その時は遠慮なくズタズタに引き裂いてあげる・・。

そのハラワタをぶち撒いたら少しはストレス発散にもなるかしらねぇ・・」

とんでもない事を言いながらギロリと凄まじい睨みを利かす金髪の騎士

その睨みは正しく殺意に満ちた魔眼・・

人のモノとは思えない悪魔の眼力に傭兵達は皆竦み上がり言葉を失った

今まで見せたことがない本当のセシルの睨み、

それで心臓が止まらなかっただけまだこの男達は見所があったのだろうが

もはや戦意喪失・・金縛りにあったかのように震えだしている

「そのくらいにしておけ、私達の相手はそんなクズ共ではない」

「わかっているわよ・・ったく、鬱陶しい。

ロカ・・終わったらご褒美2割り増しね?」

「あぁ・・そこでみっともなく怯える阿呆共の分まで相手をしてやろう・・。だが・・」

「まずはあんまりやりたくない事しなくちゃね・・」

見れば平原の彼方より一個小隊、こちらに向かっているのが見えた

「・・俺は監視役だ。手を貸せない・・すまん・・」

「あんたが気にする事じゃないわよ、さて・・顔合わせと行きましょう。ロカ・・」

「ああっ、だがキルケが捕まった経緯は不明だ。不用意な会話は慎んだ方が良い・・いくぞ」

意を決しセシルとロカルノは親しきシウォング量へと足を踏み入れた

友と対峙するために・・

 

 

・・・・・・・・

 

シウォング側もリキニウス国の動向には当然の事ながら気付いており

自国領に入ろうと行動する者達を察知した真龍騎公は

その偵察と警告を行うために小隊を編成して向かわせた。

その任務に就いたのは勇雄騎将アレスと聖嬢騎姫リオ以下数名のシウォング軍兵。

極星騎士団の中でもその信頼が厚い二人、

一騎当千の力を持つ猛者達なだけに例え相手が大多数であろうとも十二分に相手をする事もできる

しかし、出撃した先で二人は思わず言葉を失った

 

「・・・、ロカルノさん・・」

 

馬に跨りフル装備のアレス、

黒いボサボサの髪が風に揺れる中その視線は侵略者に向けられる

それは隣のリオも同じで信じられないと言った表情だ

「──ふむ、アレスとリオか・・。

妥当な人選だ、それならば例え大部隊の侵攻でも止められただろう」

対しロカルノはあくまで冷静・・

こうした時彼の仮面はその表情を完全に殺す

「セ、セシルさん!一体どういう事ですか!?」

「リオちゃん・・まぁ色々と複雑な事があってね・・敵対しなきゃいけないって事になったの」

申し訳なさそうなセシル、不機嫌さを潜め今だけは申し訳なさそうに頭を下げる

「・・本気・・ですか・・?」

「悪ふざけで友に刃を向けるほど酔狂ではない。不本気だが・・手加減はできん」

そう言い槍の切っ先をアレスに向ける、

対しアレスは苦々しい顔つきのままゆっくりと自身の得物を抜いた

「アレス君!」

「俺はロカルノさんの相手をする、リオはセシルさんを・・手加減はなしだ」

「だ、だって!」

「リオ!二人の殺気からわかるだろう!」

目の前の友人は確実に自分達を殺しに来る、

それはリオも気配で十分わかった

「そう言う事よ、リオちゃん。さぁ・・とっとと始めましょう!」

「・・セシルさん!」

迎撃にリオも剣を抜く・・こうなってはもはや止められない。

そして双方望まぬ戦いが開始された・・

 

 

アレス達が率いた兵達は待機しその行く末を見守る、

彼らの中にはロカルノ達を知っている者も多く複雑な眼差しを見せている

その中距離を置きながら戦闘を始める二組の戦士達

アレスの相手はロカルノ、リオの相手はセシルとなり激しい攻防が繰り広げられる

騎馬戦で有利な得物である槍を使うロカルノに対しアレスの得物は両刃破壊剣『烈風裂羽』

槍に対抗するにはリーチが足りないが、その分扱い勝手は良くその攻防は拮抗している

懐に入らせまいと愛槍『戦女』を巧みに使い牽制するロカルノと

それを捌きつつも相手の懐に入る機会を狙うアレス

最小の動作にて鋭く放たれる突きに対しこれを最小の動作にて捌く

それはまるで演舞のようにも見えたが紛れもなく実戦である

双方一瞬でも隙を見せれば手傷を負う緊迫の駆け引き・・

しかし無駄のない戦闘は第三者を魅了するほど綺麗であった

 

「・・うおお!!」

 

「はぁぁぁ!!」

 

一撃を狙うロカルノ、一撃を伺うアレス

その戦闘は熾烈を極めるも動こうとはしない

通常ならばリーチがあり騎馬戦で有利な槍を携えるロカルノが圧倒的なのだが

その槍を相手にアレスは全く退く事なくそれを捌き続ける

これほどまでの腕を持つ騎士はそうはいない・・

遠目でそれを見ていたロギーはアレスの腕を垣間見た

それに対しロカルノは至って冷静、相手の腕については熟知している

アレスにしてもロカルノの意図が見えないにしろ現状こうするしかないと吹っ切れ神経を研ぎ澄ませる

一瞬でも気を抜けばその槍が容赦なく自分に突き刺さってしまう

彼もロカルノの腕を理解している

・・しかし・・

 

(・・ロカルノさんにしては攻撃の手が微かに緩い、不本意というのは本気のようだが・・)

 

彼が手を抜いている事がアレスには伝わってくる、

もっとも、第三者から見てみればそれはわかるはずもない

──本気の上の領域での駆け引き──

それがわかるのは立ち会った二人のみ

しかしアレスは手を抜かない、

馬を操りながらも槍を捌き中に入る機会を狙う

刃と刃が高速ぶつかる音は高く鳴り響き、まるで火花が飛び散るような錯覚を覚える

ただ捌くと言えどもロカルノの放つ一撃は鋭さに似合わずに重く、

当たり処が悪ければ確実に手に衝撃のダメージが残る

そんな鋭い攻撃が幾度となく繰り出させるのだ、

それがアレスでなければ軽々と得物をはじかれたであろう

 

(・・っ、ここだ!)

 

止まぬ刃の雨を捌きながらアレスは切り込むタイミングを計り

槍を大きく切り払い彼の懐に入る

「はぁ!」

すかさず放たれる横薙ぎの鋭い一撃、

ロカルノはとっさに身を引いたがその重厚な鎧に刃が走った

「ちっ・・うおおっ!」

特注の重装鎧、『要塞』の名を持つ名品だがアレスの一撃にて装甲は切り払われその刃が腹を浅く斬る

すかさず体勢を立て直しロカルノは拳を突き出してアレスを殴り距離を開ける

 

その刹那の瞬間、拳がアレスの腹に突き刺さった僅かの間に

ロカルノは拳に潜ませた小さな紙を彼の戦闘服の隙間に潜り込ませた

盗賊だからこそできる一瞬の技、それはアレスでさえ気付いていない

 

「・・ふっ、しばらく会わないうちにまた腕を上げたようだな」

 

「そちらこそ・・、確実に捉えたと思ったのに反撃をもらうとは思いませんでした

やはり・・貴方は厄介な人だ」

 

互いに軽く言葉を交わす、戦闘は小休止と言ったところで敵意は瞬時にかき消えていた

だがその向こうではセシルとリオが攻防を繰り返している

こちらも熱戦・・正当派な戦闘スタイルを持つリオに対しセシルは小細工なしの勝負

氷を使わなければ力押しでもない、真っ当な剣術でリオの相手をする

それは正しく異様な光景、

正しく騎士として剣を振るっているのだがロカルノと違いその顔は不機嫌そのもので

ド鋭い殺気を放出しており気合いではリオは大分圧されていた

知り合いだからこそそれはまだセーブされているのであり

これがリオではなく本当の敵が相手ならば勝負になっていなかったであろう

怪力も魔氷技も全開で悲惨な光景を作る殺戮(キラー)機械(マシーン)になっていたのは確実である

 

「でぇぇぇぇぇい!!」

 

ガァン!

 

「くぁ・・ま、まだまだ!」

 

セシルの豪快な一撃をリオは愛用の耐魔小型円形盾で受け止める

力を抑えているが刃の大きい騎士剣での一撃は相当重く

防御するにしても衝撃は抑えきれず体が後ずさる

神官魔導騎士故に力ではセシルには及ばない、

寧ろ女ながらに規格外な一撃を放つパツキンケダモノの攻撃をよく耐えているものである

「はぁぁぁぁ!」

 

ゴォン!

 

「くぅぅぅぅ!!」

 

勝負はセシル優勢のままでリオはその攻撃を盾で受け止めるのに精一杯となっている

真っ向から剣でぶつかり合おうものならば

自身の得物は折れはしないがはじき飛ばされるのは間違いない

だがリオにもただ防戦一方になってばかりでもない

「このぉ!」

 

「きゃっ!」

 

さらに一撃を貰い大きくのけぞるリオ・・だがその刹那

盾を支える手をセシルに向ける、

そこには浮かび上がれる方陣・・そして放たれるは高速の魔弾!

「・・・っ!」

至近距離での術に咄嗟にセシルは体を仰け反らせてそれを回避した

通常ならば確実に命中する状況の中でケダモノの身体能力を見事に発揮する

しかしそれには動作が大きすぎた、

例え当たらずともリオの体勢を整わすには十分な時間・・

彼女はそのまま得物である剣を追撃に振り払った

「てぇい!」

「甘い!」

 

キィン!!

 

確実に仕留められる間合いであったがセシルの敏捷性は凄まじくリオの刃を受け止めた

「そんな・・これでも決められないなんて・・」

「まだまだぁ、私を仕留めるには決定打にはならないわよ」

余裕の表情であるセシル

そもそもセシルのスタイルにはリオは不利である。

それでもここまでやり合うのはリオの実力とも言える

相性云々のみでは勝敗というものは決まらない

だが・・

「リオ、そこまでだ」

その戦いを中止させる相方の声が・・

「ア・・アレス君・・」

「ここは一端引く、侵攻を遮るために兵は待機させているから問題はないだろう

・・ロカルノさん、そう言うことです・・

その戦力でこれより先に進むならば覚悟を決めてください」

「賢明な判断だ・・互いに前哨戦で全力を出す必要もない」

距離を置いたアレス達に対しロカルノもセシルを手で止めた

無論彼女とてここで本気を出す気はない

「・・今回は警告という事です、次に攻め込めば容赦はしません・・俺達も・・団長も・・」

「心得ている・・ならば次は本気で行く。さっきと同じようにいくとは思わぬ事だ」

軽く言ってのけるロカルノ、だが当然挑発ではない

軽口を叩きながらも言葉では伝わらない事を相手に伝える、

それができるのも彼らだからアレスはそれに静かに頷き踵を返して退却していった

 

「やれやれ・・わかっていても後味が良くないな」

「ほんと・・、でもアレス達でよかったわね。

バカ殿やシエル達が来ていたら加減も効かない状態になっていたでしょうし」

「現状が続くなら直にそうなる。さて・・どうするべきか・・」

 

傷も忘れ思案にくれるロカルノ、そこにロギーが駆けてきた

「よう、見事だったな・・。極星騎士団の将相手にあそこまでよくできたものだぜ」

「何言っているのよ、それを見込んで無理矢理戦わせているんでしょう?」

忌々しげに言うセシルにロギーも言い返せなく・・

「そのぐらいにしておけ、ロギーを責めても何もならん」

「わかっているわよ・・ったく。で・・ロギー、今回の戦闘じゃ別に違反事項はないわよね?」

「ん・・?ああっ、問題ない。俺の見た目でも異常はなかった・・が・・」

「安心はならんな。キルケが捕まった経緯が不明な以上どこで監視されているかわからん・・

余計な掛け合いもなくしたほうがいいだろう」

「やりにくわね・・まったく・・」

「同感だよ・・くそ・・」

セシルの言葉にロギーが忌々しげに呟く、彼もまた王の暴挙に無理矢理付き合わされる駒

護るべき主を捕らえられた以上どうすることもできず不本意な役回りを担当する羽目となっている

「二人ともそうぼやくな、その内良いことがあるさ・・」

ニヤリと笑いロカルノは馬を操る・・、彼も彼とてやられたままで済む男ではない

すでに布石は打っている・・

だからこそ今は耐える時だとセシルの頭を軽く撫で仲間の待つ城へと馬を進ませる

・・結局、セシルによりすくみ上がらせた傭兵達は彼女達が立ち去るまで身動きする事ができなかった

 

 

────

 

 

一方、平原を挟んだ先にある希望都市シウォングにて・・

 

驚くべき敵がいた事に戸惑いを隠せないアレスとリオは

リキニウスとの国境の監視を兵士達に命じた後にまっすぐ本拠地である屋敷へと帰還した

迎撃に向かったアレス達の報告を聞くべく屋敷の執務室ではすでにこの国の主、

真龍騎公ライとその秘書、影忍戦姫レイハが報告を待っていた・・

しかし二人が伝えられた事実にその顔色を曇らせた

 

「その様子では・・他の御方達もリキニウス側についていると見た方がよろしいですね」

 

「そう・・だな、ふぅ・・意外な展開だ・・」

 

ライもレイハもユトレヒト隊が自分達と敵対している事がにわかに信じられない様子なのだが

アレス達が嘘の報告をするわけもない

「様子からするに不本意で戦闘を強いられているモノだと思います、

本気で襲いかかってくるように見せかけて絶妙なところで加減をしていました」

「私も・・セシルさんの相手をしたのですが、

魔氷による不意打ちは使ってきませんでした・・ものすごい・・不機嫌でしたけど・・」

「そりゃますます深刻な事態だな・・。あの馬鹿が自制するとはよほどな状況か」

何者にも捕らえられず自由に動くのがセシル

それが自ら行動を制限するのは非常に珍しい事・・故にただ事ではない

「俺もそう思います、

ともかく・・あの人達を下につけたのであるならリキニウスは本気でこちらを襲いかかるというつもりでしょう

──対策を練った方がいいですね」

「ですが・・いかにユトレヒト隊を使うと言えども

私達を相手にするにはリキニウスの国力で考えるなら無謀と言えます」

「・・あいつらを囲い込むだけの策士だ。

他にも何かありそうだな・・よし、ともかく今回はご苦労だな。

今日はもう休んでくれよ・・」

「わかりました、では失礼します」

ライの言葉に一礼して退室しようとするアレス・・なのだが

その瞬間に戦闘服の隙間から小さく折りたたまれた紙切れが転げ落ちた

「・・?おい、それはなんだ?」

「え・・?いや、俺は何も・・」

不審に思い小さく折り曲げられた紙を拾い広げてみる

「アレス君、何か書かれているの?・・何?人馬?」

「・・のようだがわからない。団長・・どう見ますか?」

広げた紙を机に置く・・

そこ現れるはロカルノが王の研究室から取り出したあの図面

「確かに・・絵柄からしてみれば人馬ですが・・この魔石と回路の図面は・・」

「なるほどな、ロカルノと相手をしたっていうんならこれがリキニウスの連中のもう一つの策ってところか。

アレスと戦いながらメッセージとしてお前の服に忍ばせたのだろう」

「あ・・あの戦闘の中で・・ですか?」

全くそれに気付かなかったアレスは驚きの表情を浮かべる

よもや戦闘中にそのような行動をしているとは思わなかったようだ

もちろん、気付かれないようにしてのけたのであるのだが・・

「完全な本気じゃなかった上にあいつの器用さだ、そのくらいやってのけるだろう。

結果としては驚きもしたが中々実りがある出撃だった、

こいつはルーに見て貰うとして今日はもう休めよ」

予想外の事態、

しかし相手が完全に敵ではないとわかった以上ライは不適な笑みを浮かべるのであった



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