第三節  「リキニウスの戦馬」


見知らぬ遠き異国の地、

その中でもこじんまりとした酒場にて依頼主を待つユトレヒト隊。

外では賑わいを見せる中、貸し切りの酒場内で寛ぐもののやる事がなければ窮屈とも言える

だがやる事が無くて待機と言えども歴戦の冒険者達は効率の良い時間の潰し方を心得ている

クローディア&クラークは座禅を組み瞑想、東国の精神集中鍛錬としての定番であり

クラークはやや苦手ながらもクローディアに至っては丸一日でも続けることができる

セシルは好きに飲んで良いという事だったので店の棚から洋酒を失敬。

ハイデルベルクでは見ない種類のモノも多い中で適当に選んだものをキルケが水割りにして出している

万能メイド娘キルケ、一般家事どころかバーテンとしての腕も身につけている

そして勝手な行動をしている面々の中、ロカルノ一人は見つからないように酒場の屋根裏などに昇りながら

外に出ずに集められる範囲で情報を集める・・、当然アミルはそのサポート・・

もはや仕事でも私生活でも立派なパートナー。セシルいよいよ危ういか・・

しかし、そんな時間が何時までも続く訳でもなく

小一時間ほど経過した時に酒場の扉がゆっくりと開くのであった

 

 

「お待たせいたしました、このような狭い処ですみません」

 

 

やってきたのは相も変わらず質素な服装のミランダと彼女と比べてかなり小柄な女性、

素顔が見えないように厚めのケープを被っているのが体の線からして華奢なのがよくわかる

「いんや、まだそんなに待っていないさ。それで・・そちらが?」

「はい、私の主・・コーネリア様です」

一礼するミランダ、そして姫君コーネリアはゆっくりとケープを脱いだ

そこにあるは純真無垢な少女の顔、

肩幅程度で綺麗に揃えた黒髪は艶に満ちており正に令嬢

脱いだケープを折りたたみ持つその仕草にすら気品が漂う

身分を隠すために着ている物はそこらの町娘と変わらない程度の質素な物のだがそれが実に彼女にあっている

清楚感が漂うその容姿には煌びやかな衣装よりも着飾らない普段着の方が似合っているのだ

それ故、似合いすぎていて目の前の女性がこの国の姫だとは思えないくらいである

 

「──皆様、遠路遙々私の願いを聞き入れてくださってありがとうございます」

 

まずは一礼、声は澄んでいるのだがそれ以上に深刻さが感じられる

それだけ今の現状が思わしくないのであろう

「いや・・気にする事はない。それなりの交通手段を有している」

「ええっ、ミランダから聞きました。伝説の種である竜に乗り移動とはにわかには信じられませんでしたが・・」

「珍しい事には違いない・・が、この事は内密しておいてくれ。

竜というモノは幻想種として神格化して見る者も多いからな

不毛な争いを産むきっかけなる事すらある」

 

幻の種である竜・・

人が目撃した事はほとんどいないが故に伝説の存在とすら言われている

その中で人の世にいるのはワイバーン等の下位飛竜がもっぱら。

アミル達のような魔を操る高位飛竜は人の世で暮らす事はない

しかし、本当に神殺しの力を得ているのは竜ではなく龍、

アミル達でも不老でもなければ不死でもない

人々が神として崇める存在に近いのだがそれ自身ではないのだ

それ故に勝手に神として扱われる事は危険なものでありその素性を隠して方がいいと判断している

英雄や神などは人の世に早々いてはいけないもの・・

何故なら邪な者によりその生を害される可能性が高いから・・

人界から神秘がなくなったのもそのためなのかもしれない

竜にしてもそう、

その存在が余りに有名な故に「竜殺し」をして名を上げようとする馬鹿者も未だに多い。

人という存在は時として安易に禁忌を犯すものなのだ

「・・わかりました。それなりの訳があるのでしょう・・」

「察してくれるのはありがたい。

波風立たせたくないからな・・でっ、現状はどうなのかな?」

リーダーはクラークのはずなのだがコーネリアとの話を進めるのはロカルノがメイン・・

この役割はほとんど変わる事はないらしい

「──はい、ミランダより大体の事情は聞き及んでいるかと思いますが状況は思わしくはありません。

父の研究は日に日に進んでいるようで・・もはやその姿を見る機会も少なくなってきました」

「・・・それで、ここの王様は何を目論んでいるの?」

「それがですが・・私には魔術の心得がないのでよくわからないのです。

ただ・・思い切って父の部屋に忍び込み、このような物を持ってきました」

そう言うとコーネリアはクシャクシャに皺が走る一枚の紙を取り出した

多少見づらいのだがそれは何かの図面、

魔方陣と宝石図が描かれている。

後は細かい文字が沢山書かれていたのだが

専門用語が多い分それが何なのか理解する者は限られてくる

「何かの設計図か・・、よくもこんな重要な物を持ち出せたな」

「ゴミとして捨てていた物を拾ってきましたので・・。

ですのでそれが父の画策する物と同じとは限りません」

「手がかりとなるのであるならば十分有力でしょう・・キルケ、わかりますか?」

「ちょっと・・見てみますね」

この中ではそうした知識が豊富なキルケが一歩前に出てテーブルに広げられた図面を見つめる

細かいところまで解読していくキルケだがその顔色は次第に変化していった

「・・何かわかった?」

基本的な魔術学は知っているはずのセシルだが全く理解できていない様子でキルケに尋ねている

寧ろ彼女がこういう事に詳しかったらそれはそれでショックであろう

出来るケダモノ、それはあまりにもらしく(・・・)ない(・・)

「そう・・ですね・・。大体わかってきました・・・が・・」

今ひとつ歯切れの悪いキルケ、困惑顔のまま皺まみれの図面を見つめ続けている

「・・どうしたのですか?」

「独学で学ぶにしては行き過ぎている計画な気がします。

──ここに描かれた図面は特殊な魔石精製法について記しています。

内容は、魔導機兵(レギオン)に関する物です」

魔導機兵(レギオン)って・・おいおい、ディが使ってたあの機械人形か!?」

 

魔導機兵(レギオン)・・専用核魔石により造られる戦闘人形

主の意志に忠実に従い与えられた命令をただただ完全にこなす

扱いこなせれば至極便利な物なのだが魔石を動力源にしている等の制約も多い、

そして何よりも完成させるのに相当の技能が必要となる

 

「──いえ、ディさんの魔導機兵(レギオン)に比べてみたらかなり質は悪いです。

それにこの石のみでその形を形成できる物ではありません」

「・・じゃあ魔導機兵(レギオン)じゃない?」

「そうですね・・言うなれば魔導機兵(レギオン)回路(サーキット)と言ったところでしょうか・・

ディさんの魔導機兵(レギオン)が人で言うところの心臓でありそこから人を形作る特注品とするなら

この魔導機兵(レギオン)回路(サーキット)は脳のみ・・っと言ったところです。

魔導回路による駆動系の制御や戦闘システムの実行などをプログラミングされたものですね

もっとも・・この図面の代物は起動(シー)手順(ケンス)が完全ではない失敗作です」

「・・つまりは、例えこれが完成していたとしてもそれ単体だと効果はないって事?」

脳のみでは動く事は出来ない、ここらは指を咥えて見ているセシルでも十分理解は出来る

「そうです、この魔石は本体に組み込むためにあるでしょう。

総合的な完成形はディさんの魔導機兵(レギオン)に形状は近いと思います」

「──つまりは素人が知恵を絞ってディのような天才に肩を並べようと言うわけか」

「その分のコストはかかると思いますね・・、

ディさんが魔石のみで構築するのに対してこの魔石だとその本体と活動エネルギー用の魔石が必要です。

一体にかかる値段はかなりのものでしょうがディさんのよりかは活動時間は長いかと思います」

「専用のエネルギー体が備わっているんだものなぁ・・。

そん代わりディのと比べたら携帯性最悪と言う訳か」

「最悪どころか・・本体の形態によっては起動させないと移動すらできないかもしれませんね」

「──欠点が多いけどとりあえずは切り札って訳ね。

・・でもそれ見たらディやルーが腹抱えて笑いだすんじゃないの?」

一流を真似た三流の贋作など一流にとっては見るに耐えない物であることは間違いない

しかし素人目線からしてみれば金はかかれども立派な戦術である事も間違いない

「大体はわかった・・つまりは擬似魔導機兵を量産して数で攻める訳だな・・

まぁこの国の国力でシウォングの猛者どもに喧嘩売るならそんくらいは必要か」

「そうですね・・、ですがそのレギオン軍団の形状や規模などはここからだとわかりません。

この図面もまだ試作段階のようですし」

「いや、それだけわかっただけでも効果はある・・、ある程度の見通しが立てただけでも収穫は高い」

「はい・・あっ、でもこの図面の題に『リキニウスの戦馬』って書かれています

・・それがヒントかもしれませんね」

「戦馬・・か。馬型戦闘魔導機兵ってか?鉄の馬が暴れ回る光景もシュールだな」

「ってかそれはそれで止められないんじゃないの?」

基本的に騎馬に乗った敵を相手にする時は自身が騎乗していない時ならば馬を狙うのが有効、

直接騎手を狙うために改良された長身の槍であるパイクなどもあるが状況的に一発勝負となってしまう

逆に馬の足を砕き騎手を落馬させれば一気に形勢逆転する事も十分可能となる

だが鉄の塊でできた馬ならば足を払うこともままならず、

助走を付ければ体当たり一つでも致命傷になりかねない

何より馬は本来臆病なもの、

人工的にその性格を勇猛に出来るのであるならば戦力としては恐ろしい物だろう

 

「やはり・・わかる人にはわかるものなのですね・・」

 

その様子にコーネリアは目を丸くして驚いている、

自分が見た時には何の事なのか全く分からなかっただけに

紙切れ一つで計画の尻尾を掴んだキルケには心底感心しているようだ

「知識は身を助ける・・知っているのと知らないのではこれだけの差があるからな。

情報のありがたみというのは思っているよりも大きいものさ」

「・・身に染みます。

ところで・・さっきからおっしゃっている『ディ』という御方はお知り合いなのですか?」

「その通り、まぁディってのは愛称だからな・・

正確には希望都市シウォングの極星騎士団の一人、聖士魔将ディオール=クラウスだ」

「っ!?なるほど・・シウォングの将なのでしたか・・」

「まぁ本人はそれほど将って肩書きに自覚はなさそうだが・・」

笑いながらそう言うクラークだが肩書きを気にしないのはディ以外にも多数いる

かくいうクラークもその一人であったり・・

「クラーク様、それでしたらば王がレギオンという物を使って

侵攻してもシウォング側にもレギオンがあるという事ですね。

・・ならば被害も・・」

「ミランダ、王がどのような物にこの石を組み込むかはっきりしていない以上結論づけるのは早い」

「ロカルノ様・・」

「まぁどうあれミランダが心配する事態にはならないわよ。

ディが持っている魔導機兵(レギオン)の数には限りがあるけど、

あそこは別に人形に頼って生きているわけじゃないもの・・

それに忌々しいけどバカ殿がいる以上シウォングの民間人に被害が及ぶ可能性は極端に少ないわ」

毛嫌いされ毛嫌いしている真龍騎公ライ、それでもセシルはそれなりに評価をしている

まぁ、手放しで褒める程の器量を持ってはいないのだが・・

「もっとも・・計画がこれだけならば・・な」

セシルの言葉にロカルノが顎をさすりながら呟く・・

「ロカルノさん・・?」

魔導機兵(レギオン)は人ではない、完全なる使い捨てと言って良い・・

それならば通常ならば考えられない戦術も平気で行える」

「・・どういう事でしょうか?ロカルノ様」

「ありきたりなところで言うならば相手を巻き添えにする自爆、

もしくは敵陣での毒ガス散布と言ったところか」

何事もないように言ってのけるロカルノだがコーネリアの顔色が真っ青になる・・

そのような人道に背く所業、

温室の薔薇とも言える彼女には想像もしなかった悪行であり

それ故にそんな事を企もうとしている父に対して恐怖を覚えてしまう

「・・・そ・・そんな・・」

「ロカルノ様!いくらなんでもそのような愚行をあの御方がするとは考えられません!」

対しミランダは今までに見せたことがないように激情する。

彼女にとってもそれほどに王に対する信頼は厚かったのであろう

「落ち着くんだ、これはあくまで可能性の一つ。

極星騎士団と対峙する上で侵攻するとなればそのぐらいの事をしてのけないと勝算は少ないだろうからな」

対しとことん冷静なロカルノ・・もちろん彼自身そのような行為を許すような男ではない

冷たき鉄の仮面の中に潜むは烈火の如く燃える緋色の瞳・・

大局的、冷静さを心がける彼だが根はクラークに負けないほど熱い男である

だがそれでも敵の行動を予測する事は重要、

そのためには考えたくもない悲惨な手段も考えなければならない

ここらが頭脳担当の辛いところか

「それだと・・余計にそのレギオンの正体を調べる必要性がありますね」

「クローディアの言う通りだな・・、

コーネリア、他にレギオンに関する資料というのは手に入れる事はできるか?」

「立ち入り禁止区域に足を踏み入れる事はできるのですが・・残念ながら・・」

「仕方あるまい。ならば・・自力で仕入れるしかないか・・」

ニヤリと笑うロカルノ

ユトレヒト隊の頭脳にして重戦士、それ以上の盗賊の技術を持つロカルノ

情報収集から敵地潜入までこなし必要な情報を手に入れる能力は高い

重装スタイルと最軽量スタイル、その二面を持つ極端な彼。

故にどのような状況にも対応ができる

 

「どうなさるつもりなのですか?」

「城にてその研究資料を頂きに行く・・」

「ロカルノ様が・・ですか?」

「あぁ、ミランダは知らないだろうけど・・こいつは大盗賊の技術を受け継いだ男なの。

大概の場所に潜入できるわよ。

赤い背広着させたら意外に似合うかもねぇ?

ねぇロカ、『セ〜シルちゃ〜ん♪』って言って?」

軽く言うセシルだがミランダは言葉を失う

騎士として王家に仕えてきた身からしてみれば盗賊職は本来忌み嫌う者

そんなモノを生業とする者にろくな者がいないというのがこれまでの彼女の考え方だ

しかし目の前の盗賊と名乗る男はそれとはまるで違う、

高い知性と気品を感じさせた彼が盗賊という事が信じられないのだ

「言っていろ・・。

しかし・・身内でも立ち入りが制限される区域だ。

目的以外の物を持ち帰るのはまずい・・、

何せ手に入れた資料がゴミとして捨てられた物だからな」

「そうですね・・ロカルノさんでもどれが必要な物なのか探し当てるのは難しいと思います」

何事にも博識なロカルノ、しかし自身がその能力をセシルに譲った魔術に関しては詳しくはない

加えてそれは元々底が知れない分野、自分が余り使う機会がない以上知る必要はあまりない

「──ならば、キルケも城に侵入して必要な物を落ち合って確認する・・っというのはどうでしょう?」

そこにクローディアが提案をする。

ロカルノのリーダーシップに影を潜めてこそいるがこの侍娘の洞察力も中々に優秀であり

活路を開く術を見つけるのはお手の物。

赤貧サバイバル生活の賜なのかもしれない

「ふむ・・良案だな。コーネリア、キルケを城内に入れる事は可能か?」

「え・・ええ、私の私室に招き入れるぐらいでしたら問題はないでしょうが・・」

「ならば決まりだな。キルケ・・コーネリアとともに城内で待機してくれ。

めぼしい物をもってこよう・・それが必要なのかその場で判断してくれ」

「わかりました、ではコーネリアさんと一緒に分からないように城内に入ればいいんですね」

「まぁ王族の部屋だ、余り入ってくる奴もいないと思うけど気をつけろよ」

「はい♪それで・・ロカルノさん。クラークさん達はどうします?」

「今回は出番はないな・・宿で吉報でも待っていればいいさ」

セシルは騒がしいしアミルはその手の事は不得手、何より注意すべきはクラーク。

セシルが言うには『トラブルを引き寄せる男』同行させたら何かが起こってしまう

「そりゃ楽でいいなぁ・・まっ、お前の事だからミスなんてないだろうが気をつけろよ」

「言われるまでもない。ではコーネリアにミランダ・・

詳しい城の見取り図を書いてくれないか?大まかでいい。

細かな潜入経路は現場判断で何とかなる」

軽く言ってのけるロカルノ、対しコーネリアとミランダは信じられないような表情のまま

彼に言われるまま情報を教えていくのであった

 

 

──────

 

 

その後軽く打ち合わせを済ませた後

昇っていた日は傾きだしやがてリキニウスに夜がやってきた

クラーク達残留組はそのまま酒場を後にして手短な宿に宿泊する。

打ち合わせとならば気を遣うものの何もしなくていいともなれば気兼ねなく宿で寛げる

セシルとアミル、クラークとクローディアが相部屋となって

片や妙にぎこちなく、片や久々の兄妹水入らずな状況と相成った

 

それに対しコーネリアとミランダは二人並んで城門を潜って戻っていく

その隣にはキルケの姿が────なかった。

 

流石に部外者が城に入るのは目が付く、

そこでロカルノが考えたのがセシル所有の危険ブレスレット「プレデター」の使用

魔力消費の代わりにその身を透明にできる性犯罪者御用達のアイテム

今回初めて正しい使い方をする事になったのだがそれがセシルではなくキルケというのは真に悲しい事である

ともあれ、セシルほどではないがプレデターを十分使いこなせるキルケはその身を隠し

二人と共に誰にも気付かれず中に入るのであった

因みにロカルノは完全別行動、話し合いが終わった後姿を眩ませ行動を開始させている

こうなると彼の足取りを掴むのは不可能に近い

それこそがプロの仕事、夜の闇に紛れたのならばもはや誰にも止められないのが大盗賊の証

そんな訳でロカルノの事は気にせずにコーネリア達は私室へと向かった

 

 

リキニウス城は王の居城としてはその規模は余り大きくない

小高い丘に建てられたそれは一応は中庭や監視塔を備え城自体は広めの3階建て

しかし国を導く者の家としてはやや窮屈な感がある

しかも3階と2階の大半は完全立ち入り禁止、

さらには中庭に建てられた大きな蔵まで現在入室禁止令が出されている

異様な空気を感じる城内、

しかしそれはまだ城として機能する範囲での状況であり

人が生活する上で必要な設備のほとんどは1階に設けられている

2階は謁見室と王族関係者の私室のみとなっており城内に勤める者は

今や1階部分以外の立ち入りはほとんどできない状況となっているのだ

 

「こちらです、ここならば誰も入ってくる事はないでしょう」

 

「・・ふぅ、ありがとうございます。

・・意外に魔力消費がきつくって・・もうちょっとで解けるところでしたよ」

 

コーネリアの私室に到着し透明状態を解除していつもの愛らしい姿を見せるキルケ

もはや変装する必要もないのでいつもの黒ケープ姿で参上、

メイドやらゴスロリの服装に比べたら質素なのだが彼女にはよく似合っている

「キルケ様・・ロカルノ様のためにどこか潜入経路を確保しなくてよろしいのでしょうか?」

「ああっ、大丈夫ですよ♪私が入ってこれた時点でロカルノさんなら軽々入り込めるはずです」

「・・そう・・ですか・・」

国を護る者としてキルケのその発言は何とも複雑な気持ちにさせられた

「それよりも・・、お姫様の部屋なのにあっさりしてますね」

周囲を見回してキルケが呟く、

お姫様の部屋=ピンクの壁紙にぬいぐるみ多数っといった感じなのだが

コーネリアの部屋はそれとはほど遠い・・

寧ろそんな乙女趣味全開な部屋に住んでいる姫などろくでもないのが多いのかも知れない

彼女の部屋はそこそこ広くアンティーク調の家具がいくつか並んでいるだけであり質素ではあるが品は良い

本棚などには国のためを思ってなのか経済学だとか農薬学などの本が多数を占めている

「私室とはいえ余り飾るのは好きではありませんので・・、

それに私などは自分のお金で暮らしているわけではありません」

「そうですかぁ・・、それはそれで勿体ない気がしますね」

「・・そう言う物なのですか?」

「ええっ、アミルさんでもロカルノさんを模った人形を枕元に置いているくらいですし」

生真面目なアミル、その部屋もこの部屋と同じくらい質素な物なのだが

枕元には愛するロカルノの人形が置かれている、

夜、彼が自室に来てくれない日はソレを抱いて眠っているのだ。

「は・・はぁ・・」

「キルケ様、そのようなお話はここまで、ロカルノ様の結果を待ちましょう」

どんな時でも冷静なミランダがキルケを諭す・

一応は本来の仕事場なだけに地味な侍女服に着替えており背筋を伸ばしてコーネリアの隣で待機している

侍女としてはこれ以上ないぐらい似合っている

「そうですね・・、この城のセキュリティってどうなっているのですか?」

「宝物庫等は別なのですが大抵のドアには一般的な鍵を使用しています。

それほど大きな規模の国ではありませんので・・

国宝を管理しているだけに相応の特殊な鍵を使用していたはずです。

しかし父の研究室となると誰にも立ち入りを禁止されているため詳しい事はわかりません・・

・・もしかしたら魔法に関する鍵が使用されている可能性もあります」

「なるほど・・もしそうだとしてもロカルノさんだと触れる前に気付くでしょうから大丈夫ですね」

「あの御方ならばどのような罠が張っていようが気付くでしょう。・・後は・・」

ミランダがしゃべりだしたその時・・

 

コンコン

 

ゆっくりと静かに・・ノック音が響く

その瞬間ミランダは目でキルケに話しかけ彼女はそのままベットの影に身を潜める

小柄な彼女は完全にベット隠れよほど近づかないと確認できないほど見事にその姿を消した

「どなたですか?」

 

”夜分恐れ入ります、ロギーです”

 

返ってきた男の声にミランダは警戒の色を解く、

それはコーネリアも同じでよほど信頼のおける者なのがよくわかった

「わかりました、どうぞ・・」

そう言いミランダゆっくりと扉を開く・・入ってくるは長めの赤髪をした騎士

それなりに身分が高いようで着込んでいる板金鎧もしっかりとしておりその顔もなかなかの伊達男

だが堅苦しい装備とは違い真面目な表情をしていてもどこか人なつっこい雰囲気を漂わしている

「どうしたのですか?こんな時間に・・」

「あぁ、王が姫様を呼んでいるんでな・・。姫様、王がお呼びです」

「父上が・・ですか。そのような時間に・・何か急用でしょうか?」

極力平静を保つコーネリア、

しかし自分達の行動が気付かれたのかとやや顔が強張っているのがよくわかる

「ええっ、王は今取り組んでいる研究がお忙しい故に(まつりごと)を姫様に委任されるようです。

それについて伝える事を伝えておきたい・・っとおっしゃっていました」

「そうですか・・、代行としてその職務・・真っ当できるかわかりませんが・・」

「姫様ならば大丈夫ですよ、さぁ、行きましょう」

爽やかな笑顔でコーネリアを励ますロギー、

騎士っぽさはないものの信頼できる魅力というものがその顔には溢れていた

「わかりました・・では、ミランダ・・」

「畏まりました。お戻りになられるまでにベッドメイキングは済ませておきます」

「・・お〜お〜、リキニウス一の堅物女は侍女になってもますますお盛んだな」

「──ロギー、姫様の御前です。

幾ら言おうとも貴方には理解できないでしょうが口の利き方には注意していただきたい」

目を細めて忠告するミランダ・・、

彼女も騎士出身である事から考えてみればロギーとは因縁浅はかな関係にあるらしい

「へいへい、そんな事気にする御方ではないでしょうけどね。では姫様・・宜しくお願いします」

「ええっ、分かりました」

ロギーに一礼して部屋を後にするコーネリア、彼も王の元まで同行するらしくそのまま彼女について行った

そしてコーネリアの私室に残されるはキルケとミランダのみ

「ふぅ・・信頼のおける人のようで助かりました」

「姫様の室内へ足を踏み入れるのは極限られた人にしか認められていません、ご安心を・・」

「そうですね・・お姫様ですものね。──では、ロカルノさんの到着を待ちましょうか」

ニコリと笑いながらベッドに腰を下ろしロカルノの到着を待つキルケ

慣れない一室、隣にミランダが立たれた状態には城内での作戦は続行されるのであった



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