第十二節  「人形遣いの切り札」


リキニウス城

レイハ達がコーネリアを救い出した後もはやそこに残るはディと王のみで城内は絶えず爆音が響いていた

ただ敵の相手のみならば他の面々でも務まるのだが

最初から自爆目的で狭い空間での戦闘となるのであらば
中々に厄介、

接近戦をメインとするクラーク達ならばもっと手こずっていただろう

しかしそこは予測済み、

人形には人形をと言うことで自爆に対しては魔導機兵が引き受けて少しずつ歩を進めた

まともに至近距離から自爆をされる事十数回・・

常人であれば原型も止めていない爆発を受けながらも鋼の体を持つ戦士は健在、

波状攻撃をかけてくる戦馬に対して一歩も退かず攻め続けた

だが性能の違いは大きけれどもやはり何度も爆発を受ければダメージが出てきており

動きも少しぎこちなくなってきている。

 

「・・まぁ、無理もありませんか。

無制限に防げるとは思ってましたが予想外に火力が強かったようですし・・」

 

自作の戦士の様子を見て軽く息をつくディ、城内は爆発の余波にガレキの山の状態になっており

その様子からしてみれば無事である事自体が立派だと言える

ディ自ら接近し自爆される前に迎撃すれば

魔導機兵に対するダメージは抑えられたのだろうが彼は敢えてしなかった

一流と三流の違いを見せつけるという拘りと言ったところか

「耐久度実験のようなものですかね・・さて、ご対面と行きますか」

軽く息をつけながら前を見やる。

そこには大きな石の階段が伸びており風が流れてくる

今彼がいるのは城の三階部分、その階段の先は屋上庭園となっておりディが感じた反応はその先から・・

出入り口はそこだけ、ディは迷うことなく階段を昇り風吹きすさぶ屋上庭園へと足を踏み入れた

 

・・・・・・

 

屋上庭園は余り広くはないが質素に纏められていた

花壇が数種、規則正しく設けられており花が風に揺れている・・

テラスとしてベンチやテーブルなども置かれており小さいながらも趣味が良い空間が造られていた

その先、庭園の最奥にて短く黒髪にひげを生やした中年の男が

そこから見える遙か彼方、シウォング方面を見つめていた

そこからでもシウォングとの境目、激戦が繰り広げられた平原もここからなら確認できる

すでに一面覆っていた火は消え闇夜に包まれてこそいるが風に乗り焦げた臭いがここまで辿ってきた

 

「・・・来たか・・」

 

その中振り向きもせずに男・・リキニウス王が呟くように言った

感情を感じさせない冷たい声、

ディが自分に対し向かってきた事などわかっているのだが身動き一つしない

「ええっ、それで逃げる算段は取らなかったのですか?」

見下すようなディなのだが王は鼻で笑いまた平原を見やる

「戦いを持ちかけた以上頭が逃げ回っては話にはならない。

外道の手を尽くしたならばなおさらだ」

「・・・、自ら外道と認めますか」

「王族と言えども常識は持ち合わせているつもりだ、これだけ小さな国ともなると王と民衆との距離も近い。

民の感情からしてもこの一件・・誰一人として認められる事ではあるまい」

「お粗末な魔導機兵を造り、ユトレヒト隊を欺き駒とし、

偽造硬貨まで製造した・・暴君としては十二分に合格ですよ?」

「違いない。貨幣を偽った時点で我が末路は決まったようなものだからな」

発端となる過ちを自ら口にする王だがそれに迷いなどは感じられない

「・・・何故他国・・いや、自国内の人間を信頼しなかったのですか?」

「この国に他国が魅力を感じる資源などはない、大国が相手をするわけもない・・。

臣民達は・・そうさな・・私は信頼する事ができなかった・・か。

知恵を出せばなんとかなったかもしれんがそれをするだけの技量もなかったのだろう」

「それで他国侵略ですか、馬鹿馬鹿しいにも程がありますね」

「否定はせんよ。すでに国は崩壊していた・・

偽造をし魔術師を招き表面上は国としての体裁は整っているのだがそれも上辺だけ・・

不作の間の蓄えにかかった費用を合わせればとてもとても・・」

自嘲気味に笑う王、それに対しディは目を細める

「だから侵略行為を許すという訳ですか?下らない」

「侵略行為など許されるはずもあるまい・・?

正当性の欠片もない蛮行、あってはならない事だ・・だからこそ私はここをいる」

「・・・・・、・・貴方は知らない。

虐げられ、苦境を安住の地とせざるえなかった者達の無念を。

苦境を安息の地に変えんと志半ばに散り、礎となった者達の御霊を。

己が掴取った希望の地を、権力者達に搾取されぬ志井の勇気を。

祖達の武勇伝を胸に、志継ぐ子達の幼くも逞しい心意気を。

だからこそ、我等は希望の地に住む権利に関係なく義務を果たしましょう。

道迷い救い求める者には、希望と明日への道標を。

礼知らずの略奪者には恐怖と破滅を。

我等が民を侮ったことが初から貴様の敗因と知りなさい」

「ふ・・、正しいな・・国は相応の歴史がある。

君達の国は私がここから見た通りの良国のようだ・・、

しかし・・平原の向こう・・それがここまで遠いものとはな・・」

「そう感じるのは貴方が見ているだけで、体験していないからですよ。

己の脚で歩いてみなさい。見て直ぐ近くが如れ程、遠く彼方にあるか」

「ふ・・だがもう遅い。遅いのだよ・・」

「貴方は・・」

「少年よ、私は禁忌を犯した。相手に刃を突きつけ自国を潤そうとした蛮行を、だ。

しかしその計画ももはや終わりを告げた・・」

周囲に漂う焦げた臭いがその証明、現場に行かずともそれが勝敗を現している事はわかりきっている

「その通りです。罪は追々償って貰いましょう・・大人しくお願いしますよ」

「ふっ・・それは違う。ここまで来て他人の手を煩わせるにもいかぬだろう・・・」

「なっ・・!?」

目を見開くディ、次の瞬間王は腰に下げた儀礼用の剣を抜き・・

迷うことなく自らの腹に深く突き刺した

「これが・・・誇り高き国に侵略した罪と言ったところだな・・」

噴き出す血液、だが王の表情には苦痛の色は浮かんではいない

「馬鹿な!そんな事をしても・・!」

「少年よ、どうあれ私が成したことは許される事ではない。

今までの行い全てがな・・

この戦いがどう転ぼうと私は最初から自らを裁く事を決めていた・・観客がいるのは想定外だったがな」

「それで済むと思うのですか!?」

「生きて・・償える事ではない・・

それに私が死にその汚名と悪行の全てを私の所業とするならば・・この国はまだ持つ・・」

冷たく流れ落ちる血を見ながら静かに笑う王、異様とも言えるその姿にディは思わず息を呑む

「・・・・」

「だが・・もう一つだけ、愚かな所業は残されている・・。それで暴君の愚行は終わりだ・・」

「逃げるつもりですか・・?」

「逃げる・・か。ふふっ、結局は私は・・逃げたかっただけなのかもしれないな・・現状という苦難から・・

民の生活を支えるという責務から・・・

・・・・少年よ・・すまんな・・。君の主へ謝罪をしておいてくれ・・」

ニヤリと笑い・・王は力を失った体で塀を昇り音もなく視界から消えていった

「愚かな・・、それだけの覚悟がありながら・・」

塀により下を見下ろす・・そこには爆破によりむき出しになった階下の一室に倒れる王の姿

目を見開き空を見つめながらもその表情は満足そうであった

「・・、責務と貧困で狂った・・と言ったところですか・・。

傍迷惑なものですが・・残された愚かな所業・・?」

アゴをさすり考え出すディ・・すると中庭に設置された大きな蔵が爆発を起こす

それより姿をみせるは巨大な魔導機兵、

リキニウスの戦馬と良く似ているのだが大きさは比較にならない

それは言うなれば牛馬(ミノタウロス)、頭部には雄々しき双角をした牛そのもの、

凛々しき鋼の体躯には宝石がちりばめており下半身は大馬

その手には巨体に似合った巨大なトマホークを持ち全身には碧色の線が浮き上がっては消えていく

「あれだけの巨体・・よく造り出せたものですね。全く!」

舌打ちをしながら庭園より飛び降りるディ・・

それと同時に牛馬は猛烈な勢いで駆けだし平原目掛け猛走を開始するのであった

 

────

 

一方

 

「さてさて、ディは上手くやっているか・・」

 

「ディさんならば大丈夫ですよ!後は合流するだけですね♪」

 

「・・ったく、色々疲れたんだから勘弁して欲しいんだけどねぇ」

 

リキニウス領近くまで進んできたクラーク達

もはや国境超えをしても止める者がいない状況、3人とも戦いは終わったものだと思いこんでいる

「まっ、リキニウス国民が不安がっているだろうからなぁ・・、そこらの対応ぐらいはあるんじゃないか?

徴兵させてはいないらしいが・・」

「・・結局王は騎士団以外は自国の兵力を使わなかったですね・・」

平原の中、キルケがぽつりと呟く

それに対しクラークも怪訝な顔を浮かべた

「ああっ、その分を戦馬に頼っていたようだが・・な。

俺達と騎士団、戦馬のみでの他国侵略・・成功させる気が本気であったのかどうか・・」

「何言っているのよ、あの戦馬の中には毒粉仕込んだのもあったのよ?手段選んでないの丸出しじゃない」

「だが、騎士団と同行した戦馬には仕込んでいなかった。それが仕掛けられたのは戦馬部隊のみだ

本隊である騎士団一行の戦力からしてみれば兵卒の数は不足している」

報告によるリキニウスの戦力には謎が残る・・、全貌が見えてきたら尚更であり

本当にシウォングを落とすつもりがあったのか操られていたクラークでもわからないのだ

「・・もしかしたら・・ここの民衆を戦いに巻き込みたくなかったのではないでしょうか?」

「考えすぎよ、キルケ。我が娘を人質に取る外道よ?今頃ディにしばかれてヒーヒー言っているわよ!」

極悪な笑みを浮かべるセシル、あの無愛想面の王が泣き出している姿を想像している

だが、三人の中では一番しっかりとした正装なのに一番品がないのもいかがなものか・・

「まっ・・王の心情は王にしかわからないか。

あいつなりに民を思っていたのかも知れないし人間よりも人形の方が役立つと思っていたのかも知れないし」

「どうでもいいわよ、私達を舐めた罰さえ与えられたら・・っと・・・ねぇ・・あれ・・なんだと思う?」

視界に入るは丘より砂塵を巻き上げかけてくる巨大な物体・・

ここからはまだ距離があり、夜ということもありそれがなんなのかは確認できない

「・・ここからの距離からして・・、背丈は一軒家ほどの高さはあるか・・砂塵でよく見えないけど・・」

「っ・・いえ、クラークさん・・あれは・・魔導機兵です!」

砂塵の間に姿を見せるは巨大な機械兵、いち早く気付いたキルケが思わず叫ぶ

「何ですって?まだ残っていたの?」

「あれは・・とっておきの奴ですよ、放出する魔力も半端ではありません!

おそらくは広域破壊用の物です!」

顔を引きつらせるキルケ・・それに対しセシルも顔色を変えた

「本当ね・・何あれ・・?魔石を大量に埋め込んだ爆弾みたいじゃない!!」

「おいおいおい・・まずいぞ。シウォングに突っ込ませる気か!?」

「とっておきという奴ですね!ここで止めておかないと!」

そうこうしている内にリキニウスの牛馬があっと言う間に大きく見えてきた

「ミノタウロス?俺達にとっちゃ少々苦手かもしれないが・・あんな勢いだ、ここで止めないとまずいぞ」

爆走する牛馬(ミノタウロス)、勢いに乗ったそれは並の突進ではなく真っ直ぐに突っ込んでくる

「そうですね・・!」

「全く・・何てもの仕込んでいたのかしらね!自爆でもされたらここら一帯吹き飛び兼ねないわ!」

戦馬達に自爆装置ないし毒粉が仕込まれている事はわかっている

ここまできたら毒粉など意味はない・・仕込まれているのは自爆装置・・

それだけの巨体ならば恐るべき破壊力を秘めているに違いない

故に何が何でもシウォング国内に行かせるわけにはいかないのだ

「ちっ、俺は本調子じゃない!キルケ・・牽制するぞ!セシル、任せるぞ!」

「わかりました!」

「しょうがないわね、今までの苛々をあの人形にぶつけてやるわ!」

役割が決まったのならばすかさず行動に移す、

クラークとキルケが前に出てセシルは後方で様子見

爆走する牛馬はもうすぐこそまで迫っていた

 

「傷が完治していないが・・大!斬!鉄!」

 

「来たれ・・闇祓いし孤高の光 紡ぎ纏いて天明なる守護を示せ!『閃光(ディバ)(イン)飛翔(ラン)(サー)』」

 

放たれるは空断つ大真空刃と空穿つ閃光の槍、それらは併走するように同じ速度で駆け牛馬目掛け突き進む

対し鋼の巨体は真っ向から駆けるのみ、最初から避ける命令(プログラム)がされていないらしい

二人の牽制はかなりの高威力、それがぶつかれば少なくとも足止めにはなる・・が

 

バチィ!

 

まるで電気が流れるかのような放電音と共に真空刃はかき消え、

閃光の槍はグニャリと曲がりあらぬ方向へ飛んでいった

「なんだありゃ!?」

「きょ、強力な魔術障壁です!私の術だけじゃなくてクラークさんの剣術も効かないなんて・・!」

「侵攻を止めないためのとっておきの細工か!クソ・・セシル!」

「わ〜っているわよ!バリアーなら直接叩きつぶす!」

一撃を放ち終えて呼吸が整わない二人を尻目にセシルが駆ける!

相手の勢いは一向に衰えず、しかもその体躯はセシルの身長の倍を軽く超えている

それでも彼女は全く動じず、長い金髪を風に揺らしながら高く跳躍!

 

「ぶった切ってホルモン焼きにしちゃるぅぅ!!!」

 

大刃の蒼き騎士剣、その剣身に氷が纏いそれは剣ではなく氷の鈍器へと化す

それはぶっとくトゲトゲしいハンマー、セシルは真っ向からそれを叩きつける!

対し牛馬はセシルの攻撃を感知したのか勢いを殺さずそのまま巨大なトマホークを豪快に振り上げる!

 

キィン!

 

巨大な刃と氷がぶつかる、打ち込む角度からすればセシルが優勢なのだが・・

「・・んきゃぁぁぁぁ!!」

氷のハンマーが砕かれそのままトマホークを振り上げられる、勢いでセシルは宙高く吹き飛ばされて・・

「もべっ!!」

顔から地面に落下、

姿勢からして格好悪い事この上なく・・おまけに牛馬はそのまま速度を落とさず平原に突入した

 

「・・いつも思うんだけどさ、こいつの悲鳴って女のモノじゃないよな?」

 

「やだなぁ〜クラークさん。セシルさんに女らしさを感じたら私達はどうなるんですか?」

 

倒れるセシルに止めの言葉・・愛する男女は戦場でも空気を変えず・・

「気遣いの言葉ぐらいかけろや!あんの牛野郎!私の一撃を・・!」

「・・力だけなら負けはしないのですが・・あれも障壁の効果ですね・・」

寧ろあの巨体の豪撃と互角である事こそ異常なのだがそこらはノータッチ、

元よりセシルが異常なのはわかりきっている

「難儀な・・こんな時にメルフィ達がいればいいんだが・・ほんとどこ行った?」

「知らないわよ!ったく・・忌々しいわね!」

地団駄を踏みながら起こるセシルさん、その姿は滑稽ながらもどこか微笑ましい

悪く言えば必死さが全然感じられない・・

「・・ってか俺達って牛相手に苦戦するよな・・、何かのジンクスか?」

「昔の事でしょう!キルケ!あの障壁を突破できたら後はもう手はないわよね!」

「え・・ええ、怪力は十分驚異でしょうが・・」

「・・ようし・・良い事思いついた!もう一度特攻よ!クラーク!私が仕掛けた後に続きなさい!」

腕を振り回して息巻くセシル・・殺る気満々でパッキンケダモノの本領発揮となりそうだ

「お・・おう、でっ・・どうするんだよ?」

「こうするのよ♪」

ニヤリと笑い華麗に地を蹴り飛び上がる・・、

すかさず足元に『風牙』と『氷狼刹』を滑り込ませた

盾内部の篭手へ装着する留め具に剣の握りを潜らせそこより氷が発生して固定化される

そして見る見る内に氷狼刹全体に氷が広がりそれは大きな氷のボードとなった

剣身は氷が覆い、先端は鋭く尖っているのが特徴で盾部分には氷がつかずむき出しの状態、

しかしそこ鏡面部分からは魔法陣が浮かび上がっておりそこから風が起こってボードを宙に浮かせる

そしてボードに華麗に着地したセシル・・

十分足を広げバランスを取った後にそのブーツに氷が伸びてがっちり固定した

「そ・・それは・・ぶつけるつもりですか?」

「ええっ、北国で冬場行われている『すの〜ぼ〜ど』ってのを思い出したの・・、

これであいつを追い越して後に真っ向からぶつかっちゃる!

さぁ行くわよ!」

気合い十分に姿勢を屈める・・

参考にしたスポーツは斜面がなければ滑らないのだがこのボードは後部に風を発生させる仕掛けがある

おまけに進路先の地面に氷の道を造らせその上を滑り速度を上げる

氷道は加速装置、風自体も十分な推力となり驚異的な速さで疾走する牛馬に並んだ

そして

 

「速度アァァァァァップ!!」

 

さらなる加速・・黄金の髪は風に揺れ抵抗を少なくさせるためにボードの刃部分はさらに鋭くなる

そして牛馬を追い越し十分な距離を稼いだ処で急旋回、

初めて試みる戦法の割に見事に乗りこなしているところがこの女の驚愕すべき点、

この適応能力の高さが奇抜な戦法の動力となり対象に恐怖をたたき込む

しかし、それは騎士としての資質とはまた別なのはお察しクダサイ

「今度は突破させないわよぉぉぉ!!」

再び真っ向から向かい合う獅子と牛馬、セシルはさらに速度を上げて狙いを一カ所に絞る!

 

「ROSE戦闘教義指導要綱14番!『一獣惨災』!!」

 

咄嗟に思いついたいい加減な技名とともに障壁に突っ込む!

驚異的な加速でぶつかった刃は一点に集中し牛馬とぶつかる・・

見えない障壁は明らかに圧されており一瞬セシルの体を空中に止めさせるも・・

 

パァン!

 

牛馬の腰部に埋め込まれた魔石が数個、一斉に砕けた瞬間にセシルの体が駆ける!

懐に入られた牛馬は反撃する間もなく巨大な氷刃が胸に深々と突き刺さった

因みにセシルは衝突直前に足の拘束を解除して飛び上がり、牛の頭を飛び越えて華麗に着地・・

「調教・・完了」

不敵な笑いを浮かべながら振り向きその光景を見つめている

戦闘方法は騎士のものではないがその身体能力はデタラメである

そして、その決定的な瞬間を見逃すクラーク達ではなく・・

「合わせるぞ!キルケ!」

 

「わかりました!

・・命脈かき消す常黄泉の霧 罪多き肉体に死を穿て!『闇天(イービ)()飛翔(ラン)(サー)』」

 

先ほどとは違う漆黒の魔法陣、それが砕けるとともに現れるは視界を遮る暗闇の霧・・

キルケの命令に従うようにそこより無数の闇が走る

闇は槍となり鋭き刃にて牛馬の体に突き刺さり貫通させる

その全ては体表に埋め込まれた魔石達を狙い、砕かれる毎に巨体の動きが鈍くなっていく

「やはりあの魔石は駆動系補助・・でもそれが砕けたとなると反応が鈍くなったはず!

クラークさん!今です!」

「応よ!」

よろめく牛馬、それでも何とか体勢を立て直し向かってくるクラークに対しトマホークを振り下ろす

しかしそれは対人、ましては機動力が優れた剣士に対しては無謀であり安々と回避された

「取ったぜ!牛野郎!」

俊敏な反応と障壁による防御により鉄壁を誇った牛馬だが足下に入られてはどうすることもできず

クラークの鋭い居合いにてその足は切断され巨体が崩れる・・

足下より脱出したクラークは間髪入れず飛び上がり全力で刀を振り上げる!

「鉄の体だろうが関係ねぇ!そのままぶった斬ってやる!」

振りかざすは紫電雪花、美しき刀身に雷が纏う

牛馬も何とかそれを耐えようとトマホークを両手で構え防御の姿勢を取るが・・

 

斬!

 

その体が落下するとともに巨大な雷閃が鋼の体を深く切り裂く・・

構えたトマホークも綺麗に斬られその巨体は放電をしながら地に崩壊した

鉄をも斬る剣技『斬鉄』

鋭い一撃が金属を断つ一流の技・・

加えて刀に雷を纏わせただけに切り札の牛馬でも致命傷は避けられなかったようだ

「ふぅ・・ったたた・・!やっぱ全力は傷が開くか」

華麗に着地するも脇腹を押さえるクラーク、

やはりまだ本調子ではないようでそんな彼にすかさずキルケが寄り添った

「大丈夫ですか?クラークさん」

「ああっ、大丈夫だ・・。これで・・奴の企みも終わりかな・・」

「そうですね、ありったけの魔石を使ったようですし・・

粗悪品と言えどもこれだけの数があるからあの馬力が出せたんでしょうね」

残骸を見て関心するキルケ・・、

焦げ臭い臭いがするももはや牛馬はその原型を留めていない

切り裂かれた内部には魔石とそれを繋ぐ回路、

魔術文字が見えているがもはやそれらは停止状態にあった

「やれやれ・・一体だけで助かったわね。こんなのが群れになったらひとたまりもないわよ?」

「メルフィさん達ならば何とかなりそうな気もするんですが・・」

「行方不明な奴に期待できるかよ・・。とにかく・・後は城がどうなったか・・んっ?」

安堵の息を漏らしながらもクラークが眉をしかめる、

見れば牛馬の残骸、その内部から赤く輝く物が幾つか目につく

「ねぇ・・キルケ?これって〜〜・・やばくない?」

「え・・ええ・・、たぶん・・自爆用の魔石が始動しちゃっている感じ・・ですかね・・?」

「・・因みに、やたらと赤く光っているんだけど・・どんな規模なんだ?」

「────あ・・ははは・・ここいら一帯吹き飛んじゃいそうです」

凍り付いた笑顔・・当然その目の前にいる三人はまともに爆破に巻き込まれる訳で・・

「逃げるぞ!!キルケ!」

「は、はいぃぃ!至近距離だと幾ら何でもまずいですぅぅぅ!!!」

すかさずキルケを抱き上げて逃げ出すクラーク、もはや傷などおかまいなし

「ちょっと!さっさと逃げるんじゃないわよ!」

セシルもなりふり構わず、残骸から氷狼刹と風牙を取り出し全力で走り出す

しかしその頃には牛馬の体全体が赤く光り細かく振動し出している

「くそっ、安全なところまで何とかいかないと・・!」

暴走を止める事に頭が一杯で自爆の事を忘れていた事に愚痴るクラーク、そこに・・

 

「クラークさん!目標は自爆します!姿勢を低くして!」

 

突如として宙より声が響く、見ればそこは背に四対の燐光翼を広げ空を飛ぶディの姿が・・

「ディ!ここでしゃがんで大丈夫なのかよ!?」

「僕が何とかします!急いで!」

「わかった!」

ディの指示に従いキルケを抱きしめながら地面に倒れ込む・・

「よし・・何としても防いでくれよ!」

意を決し地へと投げるは二つの魔石・・

それは光を放ちフレームを組み立て魔道機兵へと展開する

2機の機兵はクラーク達の前に並び防御姿勢を取った・・爆発に真っ向から向かい合うつもりのようだ

「ちょっと!ディ!私は!?」

「知るか!もう爆発する!耳を塞いでいてくださいよ!」

そう言うとディは全力で高度を上げ安全地帯まで退避する・・

刹那に周辺が昼のように明るく輝いた

 

「ゴラァァァァ!!!ディィィィィィィ!!!!覚えてなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

一帯を光が包み込むその時、セシルの怒鳴り声が木霊したがそれも一瞬

彼女の声をかき消すように爆音と衝撃が暴挙を振るい周囲一帯の何もかもを吹き飛ばしていった・・

 

 

 

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