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第八節  「怨敵の戦い」


シュッツバルケルの御大であるミネルバを襲撃した竜騎士
その背にかつての将軍であるマーチスがいたのは衝撃的だったが、
だからと言って逃げる飛竜を放っておくわけにもいかずその影を追っていち早く追撃部隊が追っていた
それはセシルにより雪辱を受けた黒薔薇師団の中でも機動力に特化した騎馬部隊
山道を物ともせずに駆ける数体の騎馬はどれも具足を装備しており悪路にも関わらず
スピードを緩めることなく走り続ける

「・・ちっ、襲撃を果たしておきながらおめおめと逃げられてなるものか・・」
先頭を走るは長い銀髪をした女騎士、白銀の鎧に全身を包み額を守る兜をつけている
美しい顔立ちなのだが目先は鋭くじっと上空の飛竜を見ている
片手には同じく白銀製で刃元に薔薇の刺繍のされた槍を持ちいつでも戦闘をできるように警戒をしている
他の面々も同じく白銀の鎧を着、各々の装備を身に纏っている
編成は先頭の槍を持つ女性、剣を腰に下げた女性が二人、そして最後尾を走る弓を背負った女性が三人・・
「隊長、このまま進めば中腹部の大平原に出ます!」
後方の兵があらかじめ調べてある地図を確認しながら報告、それが終らないうちに視界は広がりつつある
「よし、草原に出れば奴の追跡も容易だ。・・だが向こうからも障害があるかもしれん・・
総員警戒しろ、弓部隊は破損しないように注意しながら奴を落とすことに集中しろ!」
「「「はっ!!」」」
気合十分に上空の竜を落とそうと睨みつける女性騎士達。
そして飛竜は大草原の中に姿を消した・・
「・・上の言っていた結界か・・。破る道具は用意したか?」
大草原の入り口に差し掛かったところで一旦馬を止める女性騎士・・
部下に的確に命令をする
さっきまでの山道とは想像もつかないほど清らかな風が漂う。高原の空気は美味であるが
彼女達がそれを感じることはない
「はい、メーガス様より支給されました」
女性騎士の一人がきびきびと取り出すは何かおどろおどろしい儀式用の短剣
「・・そうか、・・効果はあるのか?」
「間違いないと当人は・・」
「・・正直怪しいものですね、人道に背いた術師などに頼らなければならないとは・・」
女性達は揃って苦い顔をする・・
「そう言うな、これも任務達成のためだ・・」
リーダーである槍を持つ女性騎士が周りにそう言い飛竜が消えた方向を見やる・・っと
そこに何時の間には一人の青年が立っていた
薄い碧のコートを着て腰に剣を下げている、長めの茶髪が特徴で目には小さな丸眼鏡が・・

「よう!馬でこんな高原まで来るとはよほどだな」

不審人物は至って明るく声をかける。まるで登山者が挨拶をするような感じだ
「・・貴様、何者だ?」
「なぁに、おたくらの追撃を食い止めようと思ってな」
男の言葉に部隊は一気に殺気を出し得物を抜く
「・・待て、私達相手に一人で挑もうという気か・・」
「まぁ、そんくらいでフェアだと思ったからな。できれば女性相手に手荒な真似はしたくないんだ
・・大人しく帰って・・って言っても無駄か」
殺気を剥き出しな女性達に頭を掻く男・・クラーク
「我らは黒薔薇師団騎馬部隊、私はその隊長のイオ=ゲイツだ。ただの女と見れば・・死を招くぞ」
他の騎士を手で征し騎馬ごと前に出るリーダー、イオ
「・・そりゃ悪い。・・・クラーク=ユトレヒトだ」
『紫電雪花』を抜きながら名乗るクラーク、その言葉に騎馬部隊の全員が驚愕の顔を・・
「・・何の冗談だ、貴様!」
「あ〜、やっぱ本気にしてもらえないか。
お宅らの中で広まっている傭兵公社第13部隊の隊長は隊員の一人と勘違いしているわけだよ」
「・・なんだと・・?では・・」
「そっ、正真正銘おたくらの怨敵である13部隊隊長のクラークさ」
その言葉と同時にイオの騎馬が勢いよく駆け出し鋭い一撃を放つ!
「っと!名乗ればいきなり仕掛ける気か!?」
余裕でそれを回避し騎馬をくぐりぬけて距離を開けるクラーク・・
「私が相手をする!お前達は里を・・」
「させるかよ!」
イオの命令より先にクラークが駆ける!
騎馬兵相手に引っ掛け回すように接近し・・

斬!
「く・・!」
斬!
「きゃ!」
斬!!
「しまっ・・」

たちまち女性騎士の弓が斬り折られた、張った弦が意味を失い立派だった弓は瞬時にガラクタに・・
「これで飛竜を落とすことはできないな、そんなリーチの短い剣や槍でアレとやり合うか?」
「「おのれ!!」」
激情する二人の剣騎士、息の合った連携で回り込み一斉にクラークに斬りかかる!
「・・っと!!」

キィン!キン!キン!キン!キン!キン!

自分の背丈よりも上から襲い掛かる斬撃にクラークは巧みに刀や篭手で払いのける
怒涛の攻撃に押されながらも冷静に捌くクラーク・・だがその背後には・・
「もらった!」
何時の間にか待ち構えていたイオ、鋭い槍がクラークの背中を狙う!
「不意打ちに声荒げる馬鹿がどこにいる!」
それを受けるクラークではなくその場で跳躍・・槍は空振りに終わり地に突き刺さった
そして
「隙有りだ!」

バキ!バキ!!

「く・・う・・」「うわっ・・」
イオの槍を蹴り跳躍・・剣を握る女騎士の手に紫電雪花の峰打ちが走る、
ピンポイントで打ち付けられたそれは強打となり衝撃が走る・・
そうなってしまえば握ること適わず得物を落としてまうのは必至・・
剣が落ちるより早くクラークが動き次の瞬間には三人に囲まれた位置よりも少し離れたところに・・
「おのれ・・ちょこまかと・・」
忌々しげに睨むイオ、対しクラークは彼女が使用していた剣を二本持っていた
「これでまともに戦えるのはお前だけ・・、どうする?このまま言っても丸腰の仲間と一緒に
敗れるだけだぜ?」
「・・貴様・・、敢えてこれを・・」
馬鹿にされている・・直感でそれを感じ殺気がさらにこみ上げる
「だ〜か〜ら〜、女に手は上げられないって言っているだろ?大人しく引いてくれよ」
「どこまでも我らを侮辱するか!剣聖帝!」
聞く耳持たず・・怒りに身を任せて突進するイオ・・だが
「ったく・・ちょっとは話を聞け!!」
それに対しクラークは剣を捨て一旦刀を収めながら・・・

斬!!!

強烈な突きを放つイオの槍を跳ね飛ばしそのまま刃が首筋へ・・
「た・・隊長!!」
得物をなくし声援を送るしかできない部下達はイオに注目する、咄嗟に彼女は馬を止めた・・
「・・き・・さま・・」
クラークの居合の一撃はイオの首を守る防刃服で止まった・・否、止められていた
だが首に当てられているのは刃の峰・・本気で戦うつもりはないらしい
「悪いがこういうことだ・・退け」
それでも殺気を込めるクラーク・・本当の修羅場をくぐり抜けた男の殺気にイオは思わず声を失う
「・・く・・」
一瞬たりとも自分の敗北を認めてしまい彼女の戦意の火はかき消された
「俺だって好きで人殺しをしているわけじゃねぇんだ。避けたい戦いだってあるさ。
・・ともかくここは退け。それでも俺に挑むなら・・全軍で来い。その時は手加減はしない・・」
ゆっくり言い放つクラーク、嫌で仕方ないと言った感じだ
「・・・隊長・・」
「一旦・・退くぞ」
意気消沈のイオ、己を恥じ元来た山道を突き進む
その部下達も慌ててそれに付いて行った
「・・やれやれ、武人肌な女性ってのも厄介なもんだ」
刀を収めながらその後ろ姿を見るクラーク、ああは言ったものの彼女はまた来る。
・・その直感が脳裏をよぎっていた

・・・・・・・・

しばらくして、追撃の部隊がないことを確認してクラークは高位飛竜族の里に戻った
拠点であるアミルの家ではその主は傷の手当てを受けていた、矢を受けてこそいたが軽傷のようだ
「よう、何とか生還できたか」
「まぁ・・な。多少強引ではあったが何とかなった。・・キルケ、アミルの傷は?」
鎧を外しくつろぐロカルノが傷の手当てをしているキルケに聞いた
「そうですね、見る見るうちに傷口が治ってます。流石ですね」
アミルが服をたくし上げその腹部を見ているキルケ、傷の治りにしきりに感心している
「自然治癒能力は長けていますので・・、それでも翼をやられたら危なかったですね・・」
「そうだな、いくら飛竜と言えども不意をつかれれば負ける事もある・・ところでそっちはどうだ?
地上を走る騎馬を数頭見たのだが・・」
「ああっ、武器を壊して取っ払ったぜ。・・また来るだろうけどよ、確か黒薔薇師団のイオって奴だった」
クラークが軽く言うがそれにステアが驚き起立する
「あ・・あのイオ隊長相手に勝ったのですか!?」
「・・あ・・ああ、そんなに有名なのか?」
「部隊の中で実力はかなりの物です。それを・・」
目の前のひ弱そうな男が退けたとの事が信じられない様子・・
「まぁ確かにツワモノだったけどなぁ。でも・・また来るな」
「何よクラーク、仕留めなかったの?」
「なんでも殺しゃ終わりってわけじゃないっての・・、結局、説得も無理だったか」
「・・ええ、全く・・無力ですみません」
落ち込んでいるマーチス、それを察してかミィもペロペロとその腕を舐めてやっている
「いやっ、まぁしょうがないさ。で・・どうよ?ロカルノ・・」
「御大であるミネルバの完全独裁・・だな、彼女さえ倒せば統率が取れなくなる
ラオスに展開している兵もかなりのものだがその黒薔薇師団以外は戦闘慣れはしていなさそうだ」
「・・・それでしたらやはり大将首狙い・・ですか」
「そうなるでしょうけど、一回襲撃すればもう同じ手は通じないっしょ。警戒も強くなっているはずだし〜、難儀ね」
頭を掻くセシル、暴れるだけならばそれでいいのだがそれだけでは済まされない
「こちらからの襲撃は危険だ。向こうが総勢できた時に私達で引きつけてその中少数で
ミネルバを倒す・・それが一番効率的だな。最も彼女が前線に立つかどうかは疑問だが・・」
「いえっ、兵の士気を高めるために本格的な戦闘ともなれば彼女は必ず最前線に立ちます。それがチャンスですね
後はこちらの被害が・・」
「竜人に戦闘をしろってほうが無理だ・・ここは俺達が前に立って最終ラインをアミルとメルフィが守ってもらおうか」
「そ・・そんな!それでは皆さんが・・」
「そうじゃ!妾らが先陣を切る!そうすればあやつが如き・・」
竜人二人が反論、死亡率が高いポジションに助っ人を立たすのが嫌なのだ
「いくらお前達が強力な戦闘能力を持っていても経験が浅いだろ?」
強い口調のクラーク、それにアミルは黙り込むがメルフィは黙っていられない
「じゃが!それでは何のために妾らの力がある!?」
「何も殺すことが守ることじゃないだろ?俺達の援護をして
流れ矢を防いでくれるだけでも立派に守っているんだ。っても、他に仕事があるなりゃそっちにも回ってもらうけどさ」
「むぅ・・」
「ともかく、今は休みましょう。本格的な戦闘になれば休憩もできません」
クローディアの一言でその場の話し合いは終了しとりあえずは各々くつろぎはじめた
その中、メルフィだけが唯一納得できない顔のまま無言でいたようだ


・・一方・・
「・・失態だな、イオ・・」
立て直されたテントの中、ミネルバが静かに言い放つ
そこにはイオ率いる追撃隊の面々が・・
「・・申し訳なく・・」
「貴公らならば見事討ち果たせるかと思ったのだが・・私の見当違いだったか?」
相手がクラーク=ユトレヒトだったということはわかっている・・が、本丸を襲撃した者を
逃がした事には変わりは無い
「・・・・・」
それに対し歯を食いしばし屈辱に耐えているイオ、美しい顔も台無しである

”・・まぁまぁ、そう目くじらを立てないことですよ”

突如テント内に男の声が響く・・見れば隅の闇に全身を黒マントで隠した人が立っていた
「・・・何用だ、まだ貴様に預ける竜は捕らえてはいないぞ」
マントの男に目もくれずミネルバは冷たく言う
「わかっていますよ、まぁ飛竜を捕らえ洗脳するまでの間少し暇でしてね・・その失態をさらした
女騎士さん・・もらっちゃってもいいですか?」
「・・・貴様・・」
「何、ロクに手柄を立てられない駒には改良が必要でしょう?この作戦は重要です・・
本来、失敗は許されないはずでは・・」
虫唾が走るような男の口調・・、だがミネルバは涼しい顔で対応している
「・・ふん、好きにしろ」
「・・ま・・待ってください!今回の失態は私の責任、この者達には何とぞ・・」
ミネルバの決定にすかざすイオが申し立てる
「・・隊長・・」
「ふぅ、情けですねぇ。麗しい愛情です・・ではその代わり貴方が部下の分まで私に付き合ってくれる・・っと?」
「・・そうだ・・それで構わない」
拳を握り締めるイオ・・、部下の女性達はその光景をただただ申し訳なさそうに見ている
「・・ふぅ、好きにしろ。対策はケイオスに任せた、遊ぶのもほどほどにしておけ」
「わかっておりますよ、では騎士隊長殿・・こちらへ」
癇に障る言い方をしながら男はイオを連れてテントを出て行った
残った部下達はあからさまに非難の眼差しをミネルバに向けるが・・
「・・本来これほどの失態をすれば死罪は免れぬ。軽くしたと思うのだが・・」
「で・・ですが・・あの男は・・」
「ふん、本人も承諾した。狂戦士になるか精神が崩壊するか知らんがそれで白紙に戻すというのだ・・
貴公らもかばってもらった分に見合う働きをするんだな」
冷徹な指導者に圧倒されるイオの部下達、それ以上反論することもできず
ただただその場を離れるしかなかった


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