第七節  「竜人の憂い」


翌日より神父にして元シュッツバルケルの竜騎士でもあるマーチスにより
アミルとロカルノは竜騎士としての訓練を行っていた
アミルはその性格によりロカルノに合わすのがうまく、ロカルノもマーチスのテクを見る見る吸収していった・・、
天才肌というだけの飲み込みの速さであるが以上に竜を操るのには性に合っているらしい

「・・はい、そこまで。流石はロカルノさん、これだけの期間で竜の乗り方をマスターするとは・・」
集落にある草原の広場、
そこに飛竜形態となったアミルに跨るロカルノに神父・・いやマーチスが感服する
「・・何、ワイバーン相手に乗るのとは訳が違う。アミルの知性の助けあってだ」
フル装備のロカルノ、リュートが改良を加えた漆黒の重装鎧『要塞』と刃の大型化を図った
『戦女』そして腰には剛火の戦剣『ディ・ヴァイン』を下げている
実戦を想定しなければ意味がないということで一通りの装備をして乗り込んだのだが
それでもアミルにしてみれば軽いようだ
『・・ありがとうございます、ロカルノさんの指示が非常の的確ですので頼りになります』
念波による会話のアミル、やはりゴツイ飛竜の顔でこの声が頭に響くのは違和感がある
「良いコンビですね。アミルさんはスピードに集中、ロカルノさんは旋回と回避を担当すれば
もはや問題はないでしょう。お互いの担当を信用すれば完璧です」
「うむ・・ではもう一度飛ぶか・・行くぞ」
『はい!』
再度調整を行う二人・・それをつまらなさそうに寝転びながら見るメルフィ
「・・つまらんのぉ・・」
活躍の場を奪われて面白くなくゴロゴロ転びながらその光景を見ていたのだ
天気は快晴で高原の風は気持ちよく気分さえ良ければ良い感じに昼寝ができるのだが
そうもいかないようだ
「ミィ・・だいじょうぶ?」
そんなメルフィの隣で懐いてくるミィ、マーチスが仕事中でやることがないらしく
先ほどからメルフィの隣にジッとくっついているのだ
「・・お前、何で目を開けないのじゃ?」
「ミィ・・め・・みえない」
目をクシクシと撫でる仕草をしながら説明するミィ・・、自分でもそのことを理解しており
別に気にしていないようだ
「むぅ・・、そうだったのか。まだガキなのにお前も大変じゃな」
「ミィ・・?」
首をかしげるミィ・・何が大変なのかわからないらしい
「・・お前と話を合わせるのは難しいわ!(ピシ!)」
苛々をミィにぶつけるメルフィ、でこピンが小鼻に直撃にミィが驚く
「ミャ!・・ミィ!!(ピシ!)」
・・うっとおしがられているとは思わず遊びの一種と感じたのか楽しそうにでこピンの反撃
「ぬわっ!おのれ・・盲目のくせしてピンポイントで!これでどうだ!(ピシピシ!)」
「ミィ〜!!(ピシピシ!)」
・・巫女姿の少女とシスター服の猫少女がでこピンのやりあいをする姿はどこか微笑ましくも見えるが・・・
メルフィの方はやや必死の様子・・。
幾ら竜人であるとはいえ人間状態では姿通り少女レベルの力がないに対しミィは
クローディアに心眼を学んだ超感覚の持ち主・・何気に押されているようだ
それを見てマーチスは笑いながらやってくる
「ミィ、そこらにしないと顔が腫れますよ?」
「ミィ・・ミッ!(シタッ)」
行儀良く手を上げ神父に擦り寄るミィ、対しメルフィはやや息を切らしている
「はっ・・はっ・・。この娘、中々やるな!」
「まぁ、盲目を補うために心眼を学びましたからね・・。それよりもメルフィさん、皆さんと一緒に作業しなくていいのですか?」
「・・ああ、バリケードなんぞ気休めじゃ。それにクラークが張り切って殆ど一人でこなしておるわ」
ロカルノ達が乗竜術を学んでいる間にクラーク達は集落の被害を抑えるために結界内で
軽い塀を作っている。いざとなった時の足止め程度にはなると思ったのだろう
まぁ住民に取ってみれば武器を取るにしても分が悪いのでこうした供えはありがたく積極的に参加しているようだ
「流石は・・。きっと立派な塀ができるでしょうね」
「・・あの男は何者だ?手際が良すぎるぞ?」
木を切り長さをそろえる作業なんぞそれはもう素早く・・、
里の家を造った竜人も目を丸くしていたとか・・
「まぁ・・巧みの世界まで足を突っ込んだ趣味・・ですね。
私の教会も見事にリフォームしてもらいましたし・・。それよりも外部からの結界は大丈夫なのですか?」
「・・・・・・、まぁ飛行するのも悟られないようにしておるから大丈夫と思いたいが・・正直不安なのじゃ」
「・・っと言うのは・・?」
「・・・・・、婆ちゃんが言うには結界を常に見ている感覚があるらしいのじゃよ。
ダミーとしてのトラップも幾つもそれを観察したのを感じたようでの。・・これだけ日数があれば・・」
「すでに大まかな場所は特定できている・・ですか」
「うむ・・、まぁこのスレイトホルンはここらは平坦な草原だが他は険しい地形ばかりじゃ。
まとまった戦力が早々集うとは思えん」
「・・そうですね。まぁある程度ならば皆さんで退治できるでしょう」
不安を拭い去るようにミィを抱き上げ青く晴れ渡った空を見つめるマーチス
そこには鳥と変わらないほどまで小さく見える竜の姿があった

そしてマーチスが見上げる上空では・・
『・・何だかこの綱も・・ギャグボールを噛まされているみたいですね』
テレパスで会話するアミル、口に綱を噛ませてそれを手綱として使用しているのだ
「・・・、君も随分だな」
その手綱を持ち舵を切るように操る。アミルもそれに合わせ自在に空を駆けている
『セシルさんほどじゃありませんが・・、こうしたことにも興味がありますので・・
でも本当にお上手ですね。一人で飛ぶよりも安定できます』
「ふ・・、そう言われて浮かれるわけにもいかないが、な。私はサポートだ。
この大空を駆けるのは君の役目。大した事はしていない」
『・・変わっていますね。』
「そうか・・?それよりもこの作戦でお前がメルフィを退けた時・・やけに自虐的になっていたようだが・・」
『・・・、メルフィ様は・・族長様という家族がいます。・・私にはそれがないですから・・ね』
「・・・、両親は・・」
『私が産まれてまもなく母は死にました。父は・・風来坊らしくすぐに里を後にしたようです
人間の騎士と共に戦地を周って最後を迎えたらしく・・顔も覚えておりません。
わかるのはヴァーハムートという名だけ・・それが私の家族です』
「・・ヴァーハムート・・」
その名にロカルノが驚く・・、背中にいれどもアミルはそれに気付き
『・・どうかしましたか?』
「・・君の父親を知っている・・」
『・・えっ?』
「私の国の英雄だ。国を守り初代国王ソフィアの命を救った英雄ダンケルク・・
それに力を貸し大空を駆け抜けたのが守護竜ヴァーハムート。話からして間違いは無いだろう」
『父さんが・・そんなふうに言われていたんですか・・』
「具体的にどういう性格かはわからんがな。それでも君は一人ではないだろう。
君が死ねばメルフィも悲しむだろうし私達の中でも悲しむ者もいる・・そうなればメルフィも私達ももう君の家族・・・っということになるだろう。」
『ロカルノさん・・』
「まぁ、私でなくても他の面々なら必ずそう言うだろうな・・馬鹿で人がいいのが取り柄な連中さ」
『ロカルノさんも皆さんを信用しているのですね』
「・・・・ふっ、まぁ安心しろ。私が乗る以上君を死なせはしない。相手が誰だろうと・・な」
『ありがとうございます・・、気が、晴れました』
「ふっ、さぁもう今度はアクロバット飛行に移る・・急旋回などを繰り返して勘を掴むぞ」
『了解です!』
ロカルノの指示に素直に従うアミル・・、飛竜は華麗に空を舞い、騎士はそれを鮮やかに操った

その夜
一通りの備えが終わり一同はアミルの家にて就寝に付く
客人ということで専用に部屋を用意をしてもいいのだがそこは竜人さん、
人を招くという行為自体存在しない故に余分な部屋などは一切ないのだ
まぁそれでも大きな部屋なので作戦用のテーブルさえ片付けたら全員寝られる状況であったり
・・
ロフトの上にはアミルが寝息を立て、小屋の床にはカップル達がテリトリーを築くが如く陣取っている
クラークの腕には髪を解いたキルケがしがみ付くようにして寝ている・・、
そしてもう片方には眼帯を置いたクローディア、こちらはクラークの腕枕に甘えスヤスヤと。
寝顔からして隻眼とは思えない・・
そしてもう一組、ロカルノ&セシル。ロカルノは仮面を取り静かに寝ているが
セシルはそんな彼をベアハッグにかけるが如く抱きついている・・
他にも神父はミィの隣で行儀良く、ステアも同じ一室にて寝床についていた
唯一メルフィだけは族長と一緒に寝に行っている
・・すでに夜遅く全員が深い眠りについている時間だ
そこへ
「・・・」
音もなく気配もなく現れるひとつの影・・、天井部分からス・・っと降りゆっくりと行動を開始する
月の明りもそこそこに気配のみで動く影。
それは正確にステアの元へ・・
「・・・・」
彼女の前に立った影は意を決したように身をかがめようとする・・
一瞬だが月の光が反射した
その瞬間

「・・待てよ、それ以上やると先にお前の腕が飛ぶぜ?」

静かにクラークが言う・・・が、起き上がったわけでもなく声をかけただけだ
「・・!」
しかし影は動揺を覚えたのか動きを止める・・
「・・・、寝床を襲うのは感心できないな。っとはいえ一切気配を出さず正確に狙いを絞る
・・アサシンか」
「・・・・・、ふっ、左様です。」
影が丁寧に言う。なりふりかまわずステアを殺そうとするわけでもないらしい
「彼女も被害者だ。・・それを殺すつもりなら俺達も遠慮はしないぜ・・」
そう言うと一気に部屋に殺気が溢れる。
ロカルノやクローディアも起きており様子を見守っているようだ
「・・多勢に無勢。気付かれた以上は任務も続行不可・・か。だがこの娘は裏切り者。
相応の裁きは受けなければなりません・・。それがシュッツバルケルの理」
静かに言う影・・男性の声だが感情はなく冷たい印象を受ける
「・・、そんな摂理は元々あの国にはありませんよ。・・ケイオス君」
そんな中、神父が軽く声をかける・・
「!!?・・こ・・この声は・・」
明らかに動揺する影・・
「この暗闇では顔合わせとはいかないですが・・私です。未だに忍として汚れ役を買っているようですね」
「・・将軍・・」
「昔のよしみです、彼女は見逃してやってくれませんか?どの道内部情報なんて私がいるのですから大まかには伝わってますよ」
「・・・・・・、わかりました。ここは引きましょう・・」
「すみませんね・・・それと、彼女に『会いに行く』・・っとだけ伝えてくれませんか?」
「・・それを素直に受けるミネルバ様ではありません」
「言うだけでいいですよ。何も正式にアポを取るつもりでもないわけですし・・」
「・・御意・・では・・」
ス・・っとかすかに音がしたと思いきや影の気配はなくなっていた
「・・神父さん、今の奴は?」
暗闇の中、襲撃した者の正体について聞くクラーク
「・・、ケイオスと呼ばれる忍です。情報収集は元より暗殺などの汚れ役を昔から請け負った人物ですよ。」
「・・・・、ステアを殺そうとする寸前まで殺気を消していた。暗殺に関しては正しくプロだな」
クラークと同じく侵入者を察知していたロカルノ、体勢をそのままに話す。
・・っというよりも体勢が変えられないようだ
「ええっ、そうですね。クラークさん達の感覚の鋭さでなければ今も危ないところでしたよ」
「・・そうですね。キルケやセシルさんも全然起きないわけですし」
同じくクローディア、彼女にいたっては枕もとに置いていた愛刀を握っている
「セシルは別だろ?ともかく、難儀なのがまだ向こうにいる訳だな・・どうする?ここがばれているしあいつ他の竜人を・・」
「どうやら狙いはステアのみだ。・・竜人は後で利用するから殺しはしないだろう」
「それに、一度しくじってしまえば同じ日に二度襲撃する馬鹿はいません。・・今宵はもう安全でしょうね」
「まっ、そっか。じゃあそのケイオスって奴についても明日話合おうか・・寝るぜ?」
「ああ・・」
「そうですね」
「おやすみなさい、兄上」
会話もそこそこに再び眠りにつく4人、襲撃があり一人の命が危険にさらされた割には全く落ち着いている。
当のターゲットになったステアもそんなことに気付かず夢の中のようだった

・・・

「・・あん・・・兄上、その・・手が・・」
「わ・・・わりぃ・・」

どうやら寝返りの際に不謹慎な格好になったらしい。そんなこんなで夜は更けていった

翌日
「・・つまり、私が寝ている間にそんな物騒な事があったのね」
不機嫌そうにセシルが言いやる・・全然気付いていなく蚊帳の外だったのが気に入らないようだ
「お前は気付いていて当然だ。呑気に寝ているな」
「うるせー、妖怪ハベラシ川の字眼鏡」
「で・・でも・・私・・」
当のステアはケイオスの名に震え上がり知らない間に命を狙われていたことにショックを受けている
「何、事情は一応ケイオス君にも言いましたよ・・まぁ聞いてくれると思わないんですが・・」
「おまけにこっちの事も多少伝わりましたね。・・事態は動きますか」
唸るキルケ・・、それは全員同じで確実に事態は緊迫していく
「・・よし、ならばこちらから先制するか。アミル」
「はい・・、いよいよ出るのですね」
「ああ、神父もそれでいいか?」
「了解です。・・彼女と接触するとなれば今しかなさそうですしね」
決意を固める強襲部隊3人・・
「そんじゃ、一応退路は用意しておくか。」
それにクラークも軽く立ち上がった
「・・お前が出るのか?」
これにはロカルノも意外そうに・・
「まっ、追撃はあるだろうからな。空ばっかり見ていたら足元すくわれるってのを教えてやるさ」
ニヤリと笑いながら腕を鳴らすクラーク、こうなると彼は頼もしい
かくして単独で敵地に乗り込むという無謀な作戦は火蓋を落とされた

・・・・・・・・

一方
黒薔薇師団がテントを築いていた町ラオスにはさらに大きなテント群が気付かれ鎧をきた兵隊が渦巻いていた
その中、御大を表す紋章が描かれたテントに彼女はいた
「・・・・、なるほどな」
質素ながら頑丈にできた椅子に腰かけ緋色の髪の女将軍ミネルバは部下の報告に耳を傾けていた
「・・申し訳ございません。通り魔如きに遅れを取るとは・・」
報告するは黒薔薇師団団長のサラ、流石に御大の手前ということでいつも以上にきびきびとしている
「失態は聞いている・・が、その者も只者ではないだろう。・・なんせ貴公らでも仕留められなかったのだからな。」
「・・申し訳なく・・」
「よい、その事についてはケイオスに任せている。・・帰りが遅いが任務をこなせるであろう」
任務とはすなわち敵の正体を明かす事、それと捕虜の口を封じる事・・
結局それは一つにつながった形になったのだが。
そこへ
「・・お待たせしました。ミネルバ様」
どこからともなくケイオスが姿を表す・・、黒い髪をし鷹のように鋭い眼光、
そして漆黒の忍び装束を纏った姿は正しく闇の使者とでもいうべきか
「貴公にしては遅かったな」
「少々手間取りまして・・。結論からして拉致されたステア=ウェンツの暗殺は失敗しました」
膝をつき早速報告するがその結果に二人の女傑は驚きを隠せない様子
「・・・貴公がしくじるとはな・・」
「・・はい、状況を見るためにようやく発見した飛竜の里にてその住人とは違う集団がいるのに気付きました。
その中にステアはいました・・どうやら拉致した通り魔とやらもその集団の一人かと思われます」
「・・なんと・・、連中が助っ人を呼んだと言うのですか?ケイオス様」
「・・いかにも。しかも驚くべきことに・・集団の中にマーチス殿がいました」
「・・・・真か?」
目を細めるミネルバ・・
「暗闇の中で声のみでしたが間違いありません」
「・・・そうか・・」
かすかに落胆を匂わすミネルバの口調、しかし表情は一切変わっていない
「そこで私はその集団の事を調べました。彼らは『ユトレヒト隊』と呼ばれる冒険者チームで
マーチス殿と共に暮らしていたようです。
・・どういう経緯でこの地に来たのかはわかりませんが・・我らに敵対する意思は感じ取れます」
「・・ケイオス様、そのユトレヒト隊の戦力はいかほどに・・」
サラも部下を拉致した集団の力量を詳しく知りたいようだ
「わかる範囲では強力です。・・・ステア氏を攫った金髪の女はセシル=ローズ。
ハイデルベルクで『金獅子』の異名を持つ女騎士です。」
「あれで・・騎士だと・・?」
おおよそ騎士らしからぬ行動を思い出しサラは思わず拳を握り締める
「他の面々はこの短期間では調べきれませんでしたが・・もう一人、リーダーだけはわかりました。・・クラーク=ユトレヒトです」
その言葉にミネルバとサラの顔が強張る
シュッツバルケル軍部の人間ならば正しく忌み嫌われる名、自分達の国を動乱へと陥れるきっかけとなった部隊の長の名前だ
「・・・・、どうやら敵勢は奇しくも我らの怨敵のようだな」
「左様で・・。」
ケイオスの言葉に一同沈黙・・、当初の目的に比べて予想外の展開になったのだ
それもかつての将軍が敵に回ったとなると流石の軍人でも動揺を覚える
・・そこへ・・

「敵襲です!!」

テントの外から兵士の怒号が響き渡った・・



そしてラオス上空では飛竜が飛び回り様子を見ている
「・・こちらから仕掛ければ話し合いどころではない・・が、相手はすでに気付かれている」
「弓兵隊も展開しつつあります・・、今・・・ですね」
飛竜アミルの背に乗るロカルノとマーチスが眼下の兵達を見つめている
「・・よし、行くぞ。アミル」
『はい・・!』
ロカルノの掛け声とともに急降下を始める飛竜・・
それと同時に地上からは迎撃の矢が幾つも飛びかかってきた!
「来るぞ、魔法弾で牽制しつつ右にローリング!」
『はい!』

轟!

両翼に魔方陣が展開したとなると虹色の魔弾が剛速球となり地上へと降り注ぐ
それと同時にアミルは回転をしながら矢をやり過ごす。
その時の翼の風圧で大抵の矢は勢いを失うが地上に近づけばそれも効かないだろう
「神父、そのミネルバとやらはどのテントにいるんだ!?」
「・・・・・、あれです!一番大きな軍旗が駆けられている灰色の・・」
見れば軍のテント群の中でも一際大きめのテントが目に入る・・がそこにはすでに弓兵が編成されて弦も引いている
「流石に飛竜相手の用意は万全か・・、だがただの飛竜ではないと言う事を・・教えてやらねばな」
一点に狙いを定めるロカルノ・・それにアミルも気付き
『了解です・・では・・』
一旦突撃の低姿勢を解き翼を大きく広げるアミル・・、同時に巨体を包むように紅い魔方陣が展開された
「これは・・」
「飛行中に教えた術だ。流石に高位飛竜族が使用すればこれだけの規模になるようだな」
「・・はははっ、すでに私のレベルを超えてますね」
本物の天才にマーチスも苦笑いをし自分の時代が終った事を改めて感じる
そして飛竜は炎の塊となり隕石の如く落下する

「う・・撃て!撃てぇぇぇぇぇ!」
「隊長!効果がありません!」
「泣き言を言うな!我らの後ろには御大が・・ぬ・・うあああ!!」

突撃する炎に矢は燃え尽きテントの前でアミルは地を削って着地する!
守っていた兵士達も風圧で吹き飛ばされたり直接アミルに衝突し即死な状態になったり・・
『到着です!離陸できなくなる前に話を!』
「わかっている・・テントごとなぎ倒すぞ」
手に持つ新たな戦女にてミネルバのテントを切り払い対面しようとしたロカルノだが・・

斬!

それよりも早くテントから刃が放たれた・・それはまっすぐアミルの頭部目掛けて疾駆する!

キィン!

咄嗟に反応したロカルノがそれを受け止める・・刃は大刃の槍で三つ矛のようにわかれている
・・・そしてそれと同時にテントが風に流され槍の主が姿を表した
「・・ほぅ、私の一撃を受けるとは・・」
ジッとアミルに乗るロカルノを見据える緋髪の女性・・、着ている鎧や髪飾りからして
それが誰かがすぐにわかる
「・・ふっ、御大自ら歓迎するとはな・・」
槍と槍が交差しながら会話をする二人・・しかし周りはそう言うわけにもいかず兵士が押し寄せ
周りを取り囲んだ
「・・ミネルバ様・・」
「よい、手出しをするな。・・久しぶりだな・・マーチス」
硬直もそのままにミネルバはマーチスに声をかける・・
周りは自軍の英雄が敵襲をした不審者の中にいることに動揺を覚え固唾を飲んで見守っている
「・・ああ、変わりは・・ないようだな」
いつもの丁寧な口調ではなく昔の口調になるマーチス、何とも言えない表情をしている
「そうでもないさ、・・・それで何のようだ?」
「君がやろうとしている凶行を止めさせるために説得を・・ね」
「凶行・・?我が国が再び以前のような豊かな国にするための切り札を作る事・・そのどこが
凶行なんだ・・?」
「豊かな国・・か。竜を手に入れ竜騎士部隊を編成すれば確かに内乱が起こることはなくなる
・・だが豊かにするには他国侵略するしか方法がないはずだ。・・これ以上災いを広げてどうする?」
「・・ふん、戯言を・・。平和は与えられるものではない。勝ち取ることだ。お前もその信念でかつて戦争をしていたのではないのか・・?」
「それが誤りだとわかったからこそ、僕は剣を取る事を止めたんだ。
飛竜族にも生きる権利はある・・これ以上愚行をするのは止めるんだ」
必死に説得するマーチス、しかしミネルバは冷笑を浮かべ・・
「国を捨てたお前にそれを言う権利もあるまい・・、マーチス、私の元へ来い。断るならば
ここで死んでもらう・・」
ロカルノの戦女を払いのけマーチスに槍を向けるミネルバ・・
「・・断る。僕はもう過ちを繰りかえさせない」
「ならばこれまでだ、総員・・攻撃を開始せよ!」
「・・ちっ!」
説得は決裂・・、それによりロカルノが先制してミネルバを仕留めようとするが彼女も只者でなく
槍のリーチを計算し後ろに飛び退く
それと同時に周りの兵士弓を引く・・
「アミル!上昇しろ!」
『は・・はい!!』
可能な限りの跳躍・・、しかし弓兵はしっかりと狙いを定めており
飛び上がって無防備なアミルの腹目掛け・・

ヒュン!!

一斉に矢を放つ!
「ちぃ・・アミル!歯を食いしばれ!!」
『!!』
ロカルノの言われた通りに口を噛み締める
それと同時に・・

バッ!

ロカルノが手綱を持ちながら飛び降りた・・、そして腰にある剛火の戦剣を手にかけ・・
「ディ・ヴァイン!いくぞ!」

ボゥ!

不安定な状態で炎刃を発生させ襲いかかる矢を切り落とす・・
巨大な刃なだけに矢は物の見事に消し炭にさせられやり過ごす
その間にもアミルは翼を羽ばたかせ、さらに魔法により上昇速度を上げ矢が届かない高さまで辿り着く
『大丈夫ですか!ロカルノさん!!』
「・・ふっ・・流石に腕が痺れるが・・大丈夫だ・・」
遥か上空にて手綱と戦女を握りぶら下がるロカルノ、アミルの手をつたい
背中に上った
「・・やはり、駄目でしたね・・」
何も出来ずに苦い顔をするマーチス・
「まぁ仕方あるまい、アミル。君も大丈夫か?」
『何本かお腹に矢が刺さっていますが・・蚊が刺した程度です。全発食らうと危なかったですが・・』
「そうか・・とにかくご苦労だな。このまま里に向かう・・うるさい追撃隊はあいつが何とかするだろう」
眼下の山道には幾つ者騎馬兵達が見えるがかまわず飛竜は里に向かい降下しだした
・・・・

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