第三節  「二人の竜人」


とんだ依頼人メルフィが来てから数時間、辺りはすっかり暗くなったところで
ようやくロカルノとセシルが帰ってきた

「・・ロカルノさん、なんだか少しやつれてませんか?」
とりあえず談笑室で一息ついたロカルノにキルケが心配そうに・・
見れば確かに少しやつれている
「・・まぁ、事あるごとにフレイアとセシルが喧嘩をしだすから・・な」
「しょうがないじゃない!あのガキ、私を野蛮騎士だってののしるのよ!?」
断じて私は悪くない!・・っと一点張りなセシルさん。
しかし彼に怪我を負わせたのは紛れもなく彼女であったり・・
「フレイアとセシルの喧嘩か・・流石のロカルノも無傷ではすまないわけなんだな」
「・・・ふっ。これも運命か・・。それよりもその娘が依頼主か?」
ソファにデーン!っと腕を組みながら待っているメルフィ・・、ロカルノもやや奇異の目で見ている
「そうだ。お前達はこれで全員揃ったのか?」
「まぁな、事情はさっき軽く言った程度でわかっただろう。」
「ああ・・、シュッツバルケルの動向・・か」
「軍国が飛竜狩り・・ね。まぁ兵力を整えたいのならそうもしたいんだろうけれども・・無茶ね」
セシルもこの件は少し気になる様子だ
「それをやるからこその軍国なのでしょうが・・どうしますか?兄上・・」
「俺は皆の意見に従う。まぁ仕事としてはやばいことには違いないな」
決して軽いものではない・・しかも報酬の話はしてはいないが・・期待はできない
そこへ・・

コンコン

「すみません、皆さん。お客ですよ」
神父がミィを連れながら入ってきた。そしてその隣には紫のウェーブの髪をし黒いドレスを着た女性が・・
妖艶な姿だが目は人懐っこく仕草も淑女っぽい
「客・・?」
「あの・・あっ!メルフィ様!」
女性が中を見渡した瞬間メルフィを見つけ叫びだす!
「おおっ、アミル!どうした!?」
どうやらメルフィと顔見知りの様子らしい
「どうしたもこうしたもありません、勝手に依頼人を探すと言われてどんだけ探し回ったことか・・!」
「おおう、すまないな。お前がウロウロ迷っていたからズバッと決めてやろうと思っただけじゃ!」
「何とか合流できたからいいものを・・万が一の事があっては私は族長に対して・・!!」
周りも気にせず説教をしだすアミルと呼ばれた女性
しばらくは収集がつきそうにないので一同その光景を見つめるしかなかった

・・・・・
・・・・・

数分後、ようやく事が落ち着きロカルノやその場にいた神父にもメルフィの依頼の説明を詳しくした
「・・・なるほど、シュッツバルケルの侵攻を阻止するために君達竜人二人がわざわざハイデルベルクまで助っ人を探しにきたのか」
「ええ、そうです。メルフィ様の言うとおり貴方達はかなりの実力も持ち主のようで・・。お願いできれば嬉しいのですが・・」
メルフィに変わって同じく封印を解かれた竜人アミルが丁寧に応対する
・・どうやら普段からそうした役回りのようだ・・
「・・二人して頼まれたら放っておくのも気が引けるな・・。でもシュッツバルケルが今になってなんで・・」
どうしても腑に落ちない様子のクラーク
「ねぇねぇ?シュッツバルケルって何?」
意外にもセシルは他国の様子は余り知らないようでシュッツバルケルがどういう国なのか全然知らないらしい
「・・・、大陸西部に位置する軍事大国だ。かつてはかなりの規模の軍を持っていたが
先のシュッツバルケル=ビルバオ間戦争で大半の戦力を失った。
以降は内戦が相次ぎ他国にちょっかい出せずに治安維持に終われている国だ・・」
対し情報通のロカルノが簡単に説明してやる
「ふぅん・・、じゃあ内戦が収まって他国侵攻を狙っての行為なわけね」
「・・だろうな。一時は回復は不可能と言われた状況だが最近になって優秀な騎士が軍を掌握して国を立て直したらしい。
その飛竜族を襲撃する計画もその騎士の策だな・・」
「なぁるほど、あそこは元々ドラゴンナイトを編成していたものな。それを甦らせてさらに士気を高めようってか・・したたかなもんだぜ」
「ともあれ、そんな理由で平穏を望む部族を一方的に侵略する輩は私としても気に入らない
・・手を貸そう。セシル、お前は?」
「まっ、いいわ。ロカルノが行くのなら私も行かないとね♪」
「私は兄上の決定に従います。」
「私もそうですね♪クラークさん、お願いします!」
「・・よしっ、じゃ決定だな。メルフィ、お前の依頼を受けるよ」
「そうか!助かる!」
「ありがとうございます・・、この恩は・・」
「まぁ、それは余り考えないようにしようぜ・・。じゃあ準備ができたらお前達の集落に連れてってくれよ」
「わかりました、では今夜はここに泊めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「アミル!妾らは依頼主だぞ!そのくらい当然だ!」
いつでも威張りな少女メルフィであった
「・・横暴だぞ、まぁいいや。今日はゆっくり休もうか。神父さん、またちょっと空けるから頼むぜ」

「・・いやっ、私も連れて行ってもらってもいいでしょうか?」

見ればかなり神妙な表情の神父・・
「・・連れて行くって・・?」
「・・、まぁ、シュッツバルケルには多少縁がありまして・・ね」
言いにくそうな神父、それ以上は語りたくないらしい
「・・そっか。まぁいいんじゃないか?じゃあミィはどうするんだ?一人で留守番は・・」
「ミィ・・」
神父の隣で大人しくしていたミィだが『留守番』の言葉に耳が垂れ下がる
・・かなり嫌らしい
「差し支えなければミィも一緒で・・。私が責任を持って守りますよ」
神父が軽く言う・・、普通の聖職者ならば頼りないのだが彼は普通ではない
つい先日もその片鱗を見ているクラーク達故に心配は無用と感じ取った
「ならいいか。じゃあ今夜はゆっくり休んで明日に備えよう。キルケ、アミルさん達のベットの用意をしてくれ。」
「はい♪じゃあお二人さんこちらへ来てください」
メイド服を所有しているだけにこうしたことの手際がいいキルケ、アミルとメルフィを明るく誘導していった
「それとロカルノ、『戦女』の修理が終ってもらっておいたぞ」
「そうか、後で確認しておこう・・すまないな。」
「まぁいいさ。じゃあ今日はもう寝るか。クローディア」
「・・はい?」
「・・一緒に寝るか?」
「・・・・・は・・はい。ご一緒・・させていただきます」
モロ照れるクローディア、神父やミィがいる手前に言われては相当恥ずかしいらしい
「あらあら〜、明日から旅なのに腰砕けちゃ駄目よ♪」
「・・・」
セシルの茶化しに顔が真っ赤になるクローディア・・。
性に対する経験は常人以下故に敏感に反応してしまうようだった

翌日
食事を終えて庭に集合したユトレヒト隊+神父とミィ・・。
シュッツバルケルまではかなりの距離があるのだが
メルフィやアミルが軽装で良いと言い出したのでそれを信じて普段通りのスタイルとなった
とはいえ、簡易テントや非常食各種はしっかりと装備しているのだが・・
「さて、飯も食ったし用意は万全だけど・・どうやってお前達の集落まで行くんだ?
馬を使えば一番早いんだろうがこの人数じゃちょいと厄介だぜ?」
いつもの如くの正装、薄い碧の特注コートに篭手をつけたクラーク、
しかしフルメタルの篭手は左腕のみで右腕は変わりに黒い数珠が巻かれている。
師より渡された封魔の数珠で彼の切り札『九骸皇』を制御するものだ
「・・、だろうな。おまけに国を幾つも越えるんだ。・・大変な手間だ」
戦闘用の黒いジャケット姿のロカルノ、
重装鎧はまだ着ておらず腰に戦剣『ディ・ヴァイン』を下げているぐらいだ。それだけでも大抵の戦闘には全く問題がないのだが
「まぁいいんじゃないの?それはそれで・・」
「余り長いこと館を空けるのはよくないですがね」
他の面々も準備は万端・・
神父やミィも旅行カバンを用意している

「何、妾らの背中に乗っていけばあっと言う間じゃ!」
「そうですね、昼前までには着きますよ」
幼女と淑女、落ち着きながら説明をする
「・・昼前って・・どうやってです?」
「ふむ。まぁ見ておれ!」

ピカー!!

視界を奪うほどの閃光が放たれたかと思うと次の瞬間、彼らの目の前には二匹の巨大な飛竜がいた。
一匹は立派な角を持ち、もう一匹はそれよりもやや大きな体つきだ
『これで妾の故郷まですぐにつくということじゃ』

面々の頭に響くメルフィの声・・
「ほええ・・、竜人だってのは本当だったのね」
『・・今の今まで信じていなかったのか!?』
呆然とするセシルにメルフィが睨みを利かす・・っと言っても竜眼なだけにかなりの迫力であったり
『まぁまぁ、ともかく皆さん乗ってください。かなりの高度を飛びますので道中くれぐれも手を離さずにしっかりと掴まっていてくださいね』
「お・・おう、じゃあ背中を借りるぜ。どちらかといえば・・アミルさんの方が乗り心地はよさそうだな」
『何を!?妾のほうが早く飛べる!』
『メルフィ様、背中に人を乗せて高速で飛ぶと振り落としてしまいますよ・・』
「・・全員、アミルさんに乗ったほうがいいんじゃないですか・・」
だんだんメルフィに乗るのが怖く思えてきちゃうキルケ
『ですがそれでは定員オーバーで危険です・・』
「どの道危険だ。セシルと私はメルフィに乗る、神父さんとミィはアミルのほうが安全だろう・・」
中々に肝が据わっているロカルノだがセシルは嫌そうな顔をしている
・・まぁ彼が言うからには拒否しても無駄だということは彼女もよくわかっている
「いえっ、では私もメルフィさんのほうへ乗りましょう。アミルさんのほうは体が大きいので他の皆さんで乗っても大丈夫ですしね」
「おいおい、見たところメルフィの飛行はやばいんじゃないか?」
「何、大丈夫ですよ」
少し笑いながらメルフィの背中に乗る神父・・全く臆することなく手際よく乗り竜鱗に掴まった
「まぁ・・そうならいいんだけどさ。メルフィ、聖職者が乗っているんだ。振り落とすなよ」
『任せろ!音速で届けてやろう!』
「いや・・話聞いているか?」
見たところ飛びたくてウズウズしているメルフィ・・
「まぁ何とかなるさ。では空の旅と行こうか」
「・・気が進まないけどねぇ」
ぶつぶつ言いながらもロカルノとセシルが乗り込む
『よし!じゃあ一気に行くぞ!』

轟!

強靭な脚力で飛び上がったと思いきやメルフィは翼を広げ一気にはばたいた!
『メルフィ様!後ろに人が乗っているんですよ!!』
『わかっている!いくぞぉぉぉ!!』
全然わかっておらず高速で発進!!
「落ちる!落ちるって!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

・・セシルの悲鳴が響いたがそれも一瞬で途絶えてしまった。
「・・なあ、アミルさん。こっちには幼い子も乗っているから・・安全に頼むぜ?」
『・・はい、申し訳ないです』
そう言うとアミルも静かにはばたく、皆背中に掴まりミィはクラークに抱きつき身動き一つ動かさない状態だ。
だが、思った以上の衝撃もなく強い風が流れるくらいで思った以上に快適だ
「・・・、彼女とは大違いですね」
『あの人は落ち着きがないものでして・・では出発します。突然強風がくることもありますがそれ以外は景色でも見ていてください』
アミルの声が頭に響くと同時に飛竜は雄雄しく翼を広げ大空を駆け出した


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