第十六節  「竜戦士達」


御大の激闘が続いていた頃、ユトレヒト隊は戦闘地域より外れた処にて応急処置を行っていた
すでに軍勢は壊滅状態・・空に飛んでいる竜の集団からして戦況はもはや絶対的とも言える
「・・それで、神父さんがメルフィに乗って突っ込んだってわけか」
援護のためにやってきたアミルにクラークが言う
異形の瘴気により大地は穢れているが消耗した体力を補給するために仕方なく座っている
流石の戦士達も疲労の色は濃いようだ
「はい・・ミネルバさんを救うためにと竜の加護を受けて飛び立ちました」
心配そうに戦場である火の海を見つめるアミル・・
「なるほど・・、あの超高速で飛びぬいていったのはやはりメルフィだったか・・っつ!!」
話に参加するロカルノ・・だが
「動いちゃ駄目!!」
「そうですよ!意識があるのが不思議なんですよ!」
セシルとキルケに羽交い絞めされ、治療を受けている・・
特にセシルはもう付きっ切りだ
「やれやれ・・大仰な・・」
と本人は言っているものの戦闘服は血で染まりきっており動きもふらついている
「もう大人しくしておけよ、ロカルノ。・・ったくお前にそれほどの傷を負わすとはケイオスって奴も凄腕だったか」
クラークが言う通りにロカルノが負っている傷は全てケイオス戦での負傷
異形集団の戦いではほとんど無傷だ
・・それは彼の力量もあるが傷ついた彼を守るためにいつも以上に必死に戦った
セシルのおかげでもあるのだが
「・・しかし、これで終わったのでしょうか?兄上・・」
こんな状態でも正座なクローディア、多少なりとも手傷を負っているがまだまだ戦闘は可能の様子だ
「連中の戦力は飛竜によってほぼ壊滅・・、例え後発のシュッツバルケル勢がまだいて加勢したとしてもあの火の雨の中で燃え尽きるだろう
・・後はミネルバ・・か。神父さん任せになるな」
「・・それと、メイガスだな。どこに潜んでいるのか・・」
「だから!大人しくしてよ!」
「そうですよ!」
「・・やれやれ」
「ほんとに重傷かよ・・?ん・・あれは・・?」
火の海よりこちらに飛来する影が一つ・・
「・・メルフィ様です!無事だったようですね!」
巨大な一角を持つ飛竜が緩やかにユトレヒト隊の前に着地・・
『背中に乗せている二人を降ろしてくれ、まずはそれからだ』
「わ・・わかりました!・・これは!」
アミルがメルフィの背に乗り寄り添うように気絶する二人を見て驚愕する
「・・何があったんだアミル!?」
「・・神父さんと・・ミネルバさんです!」
「・・・そうか・・、生きてるよな?」
『危険な状態だが何とかなる、とにかく降ろしてやれ』
メルフィの言葉にクラークが静かに頷きマーチスを降ろしてやった

・・・・・

「・・まぁこんな処だ。」
神父とミネルバを降ろし人間形態になったメルフィが起こった事を簡単に伝える
「竜の力を・・か。神父さんも命がけだったようだな」
「・・それだけ大事な人なんですよ」
けが人が増えたということでキルケは大忙し、ロカルノはセシルに任せてマーチスの肩の傷の治療を開始した
「それで・・、そのメイガスは・・どうなったのでしょうか?」
「わからん。肉体が消滅したとかで精神のみで干渉していたが・・このまま収まるはずもない」
メルフィが腕を組んで悩みだす
その時

カッ!

戦場である火の海から眩い閃光は走る!
「・・ぬっ!この邪気!!」
すぐさまそれに反応したメルフィ・・閃光に目を被いながらもその方角を睨みつける
光が止むと腐った肉が結集したような巨人が立っていた
目鼻口はあるのだがどれも穴が空いているだけのようで不気味な容姿としか言いようがない
「間違いない・・奴だ」
以前闘ったことがあるだけにその巨人が何なのかクラークは直感で感じとった
”役立たずが・・こうなれば私自ら滅ぼしてくれる!!!”
全ての者の頭に響く狂気の声・・それは紛れもないメイガスのモノ
元凶が何なのか知る飛竜達はそれを見るなり一斉に炎弾を放射し始める!!
強烈は火の雨が巨人に直撃し揺らめくのだが・・
”うっとおしいわ!!”

キィン!!

強烈な耳鳴りが起こったかと思うと周囲の気配が微妙に変わった
「・・な・・んだ!?」
「結界だ!・・魔導回路の組み立てを妨げるようにしている・・これでは魔法は使えんぞ!」
メルフィが叫ぶ・・、敵の結界の範囲に驚いているようだ
「ちっ・・じゃあ飛竜達は接近戦で仕掛けるしかないか?」
「・・あの異形は肉を集めただけに過ぎん。通常の攻撃では意味がないはずだ!」
「難儀ですね・・では・・どうすれば・・」
そうこう言っている内に巨人は立ち上がり口からどす黒い光を空に向かって放つ・・
飛竜達を打ち落とすつもりのようだ
「・・よし!俺が奴の魔を切る!その後にアミルとメルフィが接近で一番火力の強い魔法で消し飛ばしてくれ!」
「・・クラークさん・・」
「奴の能力がどれほどか知らないがそれしか方法はないだろう・・、活躍の場だぜ?メルフィ?」
「・・お・・おうとも!望むところだ!」
クラークの言葉にメルフィも乗り気だ
「よし・・じゃあ、俺と・・キルケ、きれくれるか?」
「私ですか?」
「ああっ、九骸皇で奴の魔を潰してから二人が焼き払うまでに魔法で牽制してほしいんだ。・・神父さんの傷はいけるか?」
「は・・はい、一応塞がっております」
「なら大丈夫だな。じゃあ他の皆はここで待っていろ。セシルも手一杯だろうしな」
ロカルノの治療を続けているセシル・・反論する暇もないらしい
「・・ちっ、良い所を持っていくな」
対しロカルノが口圧しそうに・・
「兄上・・キルケ・・どうかご無事で」
クローディアは自分の役目は終わったと悟り二人を励ます
「はい、じゃあ行ってきますね!」
気合十分なキルケ・・そんな彼女の頭を優しく撫でるクラーク・・
「・・では・・皆さん!ここは私達が抑えます!!一度退いてください!!」
アミルが空中で逃げ惑う飛竜達に声をかける・・、念波にでも流していたのか宙にいる飛竜達はすかさず退いていった
「・・よし!ならば行くか!高位飛竜族の力・・見せてやろう!!」

カッ!!

二人同時に竜形態へ・・
「よし、俺はメルフィに乗る・・キルケはアミルに乗り俺の指示に従ってくれ」
「わかりました!」
気合十分な二人の戦士・・
ゆっくりと竜の背に乗り忌むべき敵を睨みつける
『さぁいくぞ!あのような肉の塊に妾らの里を荒らされてたまるか!!』
『そうですね・・今こそ我らが力を見せる時です!』
そういうと二匹の飛竜は火の粉舞う空へと羽ばたいていった

巨人が出現した場所にはあれほど凄惨な状況であった異形の死体や体液などはなく
すべてその体に使用していることがわかる
飛竜に乗りながら様子を見るクラークとキルケ
”また私の前に姿を現すか・・剣聖帝!”
頭に響くメイガスの声・・、それにクラークは顔をしかめる
「ほんとしぶといな・・、自らの罪を認めてさっさと死に絶えろよ」
”抜かせ・・強者が弱者を虐げる・・それのどこが罪だ”
「俺はてめぇのやり方が気に入らないだけさ。・・自然の摂理をどうこう言うつもりはない」
『そうだ!下郎が・・妾らの力見るがいい!!』
”愚か・・、貴様らを殺せばもはや飛竜どもは私も兵隊になる・・それに・・魔人か・・
面白い収穫だ”
勝ち誇ったメイガスの声・・それにキルケはいきり立つ
「まだ勝負は決まっていません!それに私はクラークさんのモノですよ!」
”はっ・・ならば見よ!我が真の力!!」
咆哮とともに巨人の体の至たる所から奇妙な目が現れる
『!!・・まずいぞ!アミル!回避だ!』
咄嗟にメルフィがそれを察知し鋭く叫ぶ
『は・・はい!』
アミルが呼応した瞬間

轟!!!!!

巨人から無数に放たれる黒い光
全方位に放たれるその一つ一つは驚くべき威力を誇りスレイトホルンの山肌を抉っている
「・・ちっ!!『九骸皇』!!」
当たってしまってはまず助からない・・、攻めに転じるためにクラークは切り札を出す!
『よし・・接近するぞ!』
「おうよ!!」
メルフィの乱暴なまでの超接近・・紛い物の巨体にはその俊敏な飛行を迎撃することは適わず
「うおおおおおおお!!」
メルフィの落下に合わせて九骸皇を振るう!!

しかし!

キィン!!

「うおっ・・、なんだ!!」
突如剣が弾かれクラークとメルフィはその衝撃で飛ばされる・・ちょうど巨人の黒閃光の射程内に・・
『メルフィ様!』
『ぬ・・わかっている!!』

轟!!

放たれる光を間一髪回避するメルフィ・・
普段のアクロバットな飛行が幸いしたようだ
「ちっ、九骸皇の力が効かない!?」
”ふふふ・・その魔剣はすでに解析した・・我が結界の前では無力なものよ・・どうする・・?”
「く・・九骸皇が効かないのならばまずいですよ!クラークさん!!」
『どうする!?クラーク!』
”悩んでいる暇を与えん・・ハエは落ちろ!”

轟!!

尚も降り注ぐ閃光
それにクラークは・・
「・・やってみるか・・」
『何を!?』
「封を解くのさ・・。数珠第五の封『皆』をな・・!!」
彼の右手を包む鬼石の数珠が輝きだす・・それとともに九骸皇の刃がゆらめき
刃が紅い炎と化した
『な・・これは・・』
「この剣は強力すぎるからな・・数珠の力で段階的に剣の能力を引き出すようにしていたんだ。
・・しかし・・お師さんの言うとおり・・体力が見る見る減っていきやがる!・・直に倒れそうだ、一気に行くぞ!」
再び切りかかるクラーク
”無駄だ!我が結界は・・”
「九骸皇は・・伊達じゃねぇ!!!」

斬!!!

パァン!!

クラークが刃を立てメルフィが超高速にて駆け上り切り裂く・・
強烈な斬撃が巨人の体を切り裂いていき・・それと同時に何かが音を立てて崩れるのが全員感じ取った
「結界が解けた!後は任せるぜ!!」
九骸皇を収めながら怒鳴る!
それとともに他の三人はとどめに移る
”ぐぅ!!・・ならば・・貴様らを道連れに・・”
「やらせません!!『ペインフルスピア』!!」
結界が解けた今キルケの魔法ラッシュが炸裂・・
強烈な光の槍が巨人の胸を集中的に着弾し巨体をのけぞらせる
「今です!!」
『おう!いくぞ!アミル!』
『はい!』
勝機を感じ二匹の飛竜はキルケによってできた胸の傷に向かって駆ける!
”や・・やめろぉぉ!!”
『失せろ!ここは貴様がいていい場所ではない!』
『私達の力・・甘くみた報いです!!』
メルフィとアミルが同時に虹色に輝く巨大魔方陣を展開する・・
そして
『『いけぇぇぇぇぇぇぇ!!』』
強烈な白きドラゴンブレス・・
全てを白く染め巨体を包んでいく

”・・ば・・かな・・私の・・計画が・・ああああああああああああああああああああ!!!”

閃光の中、愚者の叫びが聞こえたがそれも一瞬で滅び切っていった


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