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第十四節  「異形の咆哮」


メルフィに連れられ里の入り口まで走り出たユトレヒト隊・・彼女が説明できなかった事態がそこにはあった
「・・燃えて・・いる・・?」
草原の彼方から煙が立ち昇っている、そこはシュッツバルケル軍地がある方向・・
「何だ、それに・・この気味が悪い気配・・」
ロカルノも思わず顔をしかめる、他の面々も動揺でその方向から伝わる気配に警戒している
「魔物・・ですね。それも異様な数・・純粋な殺意がここまで伝わってきてます」
「そうね。シュッツバルケルの連中は魔物を飼いならしているの?」
「・・・、これだけの気配を放つ異形など人には飼いならせるはずがありません。・・これは・・どういう事か・・」

”・・メイガスだ・・”

後ろからサラの声が・・、見ればステアに肩を抱かれて何とか立っている
「・・こいつが・・奴の仕業というのか?」
「・・・ああ、この気配・・奴が以前扱っていた異形の気配に間違いない・・」
「おいおい・・だから奴は死んだんだぜ?」
「奴は外法を学んだ男だ。・・それで終わりでなかったのかもしれん」
サラの言葉にクラークは考え込みだす
「・・なるほど、色んな人形を作るのが好きなんだ・・あのメイガスの『本物』ではない可能性もあるわけ・・か」
「・・そういうことだ。・・どうやら黒幕はまだ健在らしい・・」
「なら黒幕ごと叩き潰すまでよ!見たところ・・こっちに向かっているようね!」
ギン・・っとセシルが睨む・・草原の彼方の大地の色が変色していきている、そしてその先にはどす黒い物体がウネウネと動いているのがわかる
「結構な数・・ですが、退くわけにもまいりませんね。」
「ああっ、それに・・化け物相手ならば遠慮はいらないんだしな・・、アミルにメルフィ・・里を頼む。
俺達は討って出る!」
クラークのその言葉で二人はまたしても良い顔をせず・・
「・・、どうしても・・行かれるのですか?」
「まぁな。二人は里で化け物の進行を防いでくれ・・数が数ならば討ち損じてしまうだろうからな」
「じゃが・・!お前達は手負いなんだぞ!」
メルフィが言うとおりにセシルとロカルノは手傷を負っているのがよくわかる
「何言っているの、この程度の傷を気にしちゃやってらんないわよ?ねぇロカルノ?」
「・・ああ、そういうことだ。それに傷はもうキルケとミィの治療で処置は済んでいる・・心配するな」
とは言っているものの結構深手な二人・・、キルケも二人が強がっているのがわかっているために
あえて何も言わずにジッと見ている
「・・・、わかった!だが死ぬなよ!一人でも死んだら妾は怒るからな!」
ユトレヒト隊を巻き込んだだけにメルフィは重い責任感に悩んでいたようだ
「安心してください・・誰一人死にはしませんよ」
クローディアが微笑んでメルフィの頭を撫でる
本来年齢からしてもメルフィの方が比べ物にならないほど年上なのだがその気配はまるでなし・・
「む・・・う・・」
「まぁ、そういうことだ。じゃあ行って来る・・ステア、サラとイオ・・そんでもってミィや神父さんを頼むぜ?」
「・・はい、任せてください」
決意に満ちたステア・・その表情にクラークも少し微笑む
「・・剣聖帝・・頼むぞ・・」
ステアに体を預けるサラも静かにそう言う
「任せろ・・じゃあ、いくかぁ!!」
クラークが『紫電雪花』を抜き雄雄しく叫ぶ!
「行きましょう!回復と補助なら任せてください!!」
クラークの隣でキルケも気合十分、心強いサポート役だ
「参りましょう・・、我が剣の冴えを披露する良い機会です・・」
再び襷を巻くクローディア、最近感情豊かになってきたが今そこにいるのは眼光鋭い女剣士・・
「ちゃっちゃとすませましょう〜、ステアと良い事したいしぃ・・」
軽口を叩くセシル、サラ戦での腕の傷は一応は塞がっているが血で染まった戦闘服が痛々しい
・・本人は全然気にしていないようだが・・
「ふっ、ならばその事をソシエさんやミィに報告しなければな・・」
一番の重傷者ロカルノ・・、それでも全くそのそぶりを見せていない
そこが彼の逞しいところだ
「や・・やめてよぉ!」
「ならばせいぜい働け。・・彼女の相手をするのと異形の相手をするのなら・・」
「・・真の化け物の相手をする気なんてないわ!こうなったらとことん殺り散らかしたる!!」
・・目の前まで迫ろうとしている異形の集団よりも母親の超鉄拳のほうに恐怖を覚えているセシル
お下品な言葉とともに駆け出した!
「・・まぁ、やることはそのまんまだろうけどさ。そんじゃあいくぞ!!」
クラークの叫び声とともにユトレヒト隊は突き進みだした

・・・・・・・・・

夕暮れの草原は正しく小金色一色・・なのだが
草は異形の瘴気により根こそぎ枯れている
そして大地に立つこの世にあってはならない存在達・・
ブクブクに膨れ上がった肉人形、目や鼻はなく達磨のような体に腕が鋭い刃と化している
さらには狗のような異形・・肉をむき出しに長い舌は鞭のようにしなっている
他にもかつてクラークが戦ったリビングアーマーも小隊として編成されている
そして先人を切るはどす黒い触手が肌に走ったミネルバ・・、愛馬に跨り槍を持っている
彼女の周りにリビングアーマーを囲み、大多数の肉人形と前衛に狗と言った編成・・
しかしどこにもメイガスの姿はなく、全てが操られた軍は無言で里へと進行をしている
「・・・敵・・・」
不意にミネルバがつぶやく・・その焦点の合っていない瞳の先には雄々しく強力な真空刃が・・

轟!!

鋭い刃が異形を切り払う・・しかしそれは氷山の一角を崩した程度だ・・

「ユトレヒト隊参上!!てめぇらのような化け物はこの世に住まう場所はねぇ!引導を渡してやるぜ!」
咆哮と共に切りかかるクラーク・・、もはや手加減無用に愛刀を振りかざし軍勢を切り崩していく
その剣の速さと体術の組み合わせは正しく死角なし・・、異形の攻撃も的確に捌き一振りで数体切り払って行く・・
「何も考えず・・ただ切り裂くのみ・・!」
彼の背を守るように斬鉄剣『月華美人』を抜く女剣士クローディア。
隻眼とはいえ心眼を開いた彼女の間合いに隙はなく電光石火の抜刀は正に一撃必殺・・
彼女の手が動いたかと思うと数体の異形が肉塊と化す

シャアアア!!

「・・見切る!」
防具といえば手首につける木製の篭手のみの彼女・・伸びる凶器の舌が刺されば深手になることは間違いないのだが
悠々と回避している
そこへ・・
「『シャイニングスピア』」
光の稲妻が放射され広範囲に渡って敵を打ち砕く・・
黒いケープを纏った少女キルケ、だが独学で学んだ魔法と剣の腕は中々のもので
特に魔法による援護はこうした乱戦では非常に心強い
「キルケちゃん参上です!さぁさぁ!一気に倒しちゃいますよ!!!」
クラークとクローディアに守られながらタンカを切るキルケ、とはいえ積極的なのは魔法攻撃のみで襲い掛かる攻撃は
マンゴーシュで綺麗に捌いている。これも日ごろの訓練の賜物・・
そして彼らとは少し離れて暴れる二つの影が

「どっせぇぇぇぇぇい!」

金色の髪をなびかせつつ強烈な一撃を放つは金獅子セシル、サラとの相手では封印した氷狼刹の力を存分に発揮し
氷の矢が雨となりそれは汚れた血の雨と化して空を染めていく
「おらおらおらおらおらぁ!死ねよやぁぁぁぁぁ!!」
暴れるセシルさん・・それを相方は仮面で見えないが白い目で・・・
「・・やれやれ、まぁ相手が人以下ならばやり過ぎても問題あるまい・・」
そうは言いながらもロカルノは愛槍である『戦女』を操り手が無数に増えて見えるほどの速さだ
その猛攻に異形達は反撃をする暇もなく死に絶えていく
「何言っているの!貴方結構深手なのでしょ!負担軽くしてあげようとしているのよ!」
どうやらセシルなりの気遣い・・・、それにロカルノは軽く口元を上げ
「余計な気遣いだ。こんな下手物に私が遅れを取るとでも思っているのか?」
「・・もう!素直に甘えておきなさいよ!!」
とか何とか言いつつ彼が無理に強がっているのは良くわかるセシルであり手を緩めることなく
暴れ続ける・・彼の負担を軽くするために
「ロカルノさん!傷が開いたらすぐに回復します!」
「そう簡単には開かんさ・・さぁまだまだいるぞ!」
キルケもその事を気遣っているようだがロカルノさんが強情に余裕ぶる
かくしてユトレヒト隊の怒涛のラッシュは続いていった・・



その頃・・
飛竜の里のアミル家ではサラとイオの介護をするステアと神父&ミィが戦況を見守っていた
他の住民は村長宅へと避難・・、里の入り口ではメルフィとアミルが静かに彼方を見つめている
「・・・、口惜しいな・・このような状況で・・」
包帯を巻かれたサラが悔しげに呟く、認めたくなかった軍の異変が表面化しているのにそれを収めに出ることもままらない
親衛隊隊長としてはこれに勝る屈辱はないのかもしれない
「動くと毒です。あの金獅子と決闘をしてそんな状態で済むこと自体が奇跡ですよ・・まぁ加減をしていたのかもしれませんが・・」
彼女をなだめるマーチス・・
「・・・あいつは何者なのですか?マーチス様・・」
「まぁ、ハイデルベルクを代表する騎士・・ですね。素行は悪いようですが・・」
「ミィ?セシル?」
『素行』が『悪い』という言葉に何故か反応するミィ・・意味はわかっていないだろうが・・学習はしているらしい
「なるほど・・、しかし、それだけではない・・」
「まっ、色々とあったみたいですからね。ともかくゆっくりしたほうがいいですよ」
「・・マーチス様・・随分と・・変わられましたね」
穏やかな表情のマーチスにサラも唖然としている・・
「そうかな・・?いやっ、そうかもしれないな。彼女を失ってからは・・」
「・・彼女、マーチス様を背に乗せていた飛竜セプターの事ですか」
「・・ああっ、竜の割には人懐っこかったからね。・・私もこの腕を殺がれてしまってからは大人しくなったもんですよ」
寂しげに笑うマーチス、黒い法衣の袖を捲るとそこは酷いとしか言いようのない火傷と切り傷の跡・・
彼は軽く手を動かしているがそれが異常に見えるほどその皮膚は死に掛けている
流石のサラやステアも一瞬呆気に取られてしまう
「・・噂には・・聞いていましたが・・まさかそこまで酷い傷だったとは・・」
「ははっ、まだ完治はしてませんよ。日常生活には支障がないまでにはなりましたけどね」
苦笑いのマーチス、しかしその傷を負った当初は正しく地獄・・両手の指一本動いてくれずにもがき苦しんだ日々が思い出される
「一人の少女を餌にマーチス様の襲ったあの事件・・我らとしてはもう二度とあの過ちを繰り返したくなかったのだが・・」
「人は過ちを繰り返してしまうものですよ。・・それに、彼女と私の腕は今まで失った部下に対する贖罪です。
・・どうあれ、数多くの部下の命を私は捨ててきたのですからね・・」
「「・・・・・・」」
「・・でも・・願わくば・・あいつを救える力を・・今一時だけでも授かりたいものです・・」
「・・マーチス様・・」
かつては恋仲であったミネルバ・・彼はそれを忘れられないようだ
「異形の軍勢、それがどの程度のものかわかりませんが・・嫌な予感がしますね。」
軽く俯きミィの頭を撫でてやるマーチス
それと同時に家の窓から眩い閃光が差してき、彼らの視界は奪われた


一方ユトレヒト隊は・・
「ちっ!数が多いな!」
ゾロゾロと攻めくる異形どもにクラークも息が切れてくる
地面には仕留めた狗や肉人形の死骸と体液が散乱しており強烈な異臭を放っている
「流石に・・、ただの軍勢ではありませんね・・」
刃を振りこびりついた血を払うクローディア、彼女の背中には息も絶え絶えなキルケがおり彼女を守ろうと奮起しているのだ
「はぁ・・はぁ・・・。もう魔法の援護は止めておかないと・・回復魔法も使用できません・・」
立て続けに強力な魔法を発動したために体力の消耗著しいキルケ
それでもレイピアを抜き一歩も退かずにがんばっている
「もう無理するな、キルケ!」
「剣でも引けを取りませんよ!まだ沢山いるんですから!」
足手まといになるのが嫌なキルケ、無理をして強がるのだが・・
「・・、わかりました。ですが無茶はしないでくださいね」
足がおぼつかない様子・・、見るに見かねたクローディアはそう優しく言う
尚も襲ってくる異形達に彼らも厳しい戦況となっているようだ
さらに・・
「セシル!私にかまわず戦え!」
「駄目よ!傷が開いているじゃないの!!」
激戦の中で傷が開いてきたロカルノ・・、それをセシルは脇目もふらずに回復魔法を発動し彼の傷を塞いでいる
ロカルノは彼女に当たらないように器用に槍を使い迎撃しているのだがいかんせんこの状態では分が悪い
「ちっ!このくらい何ともない!」
「だから!強がっている場合じゃないのよ!」
いつもは遠慮なく戦うセシルだが緊急事態ともなればやはりロカルノの事が心配のようだ・・
彼女がそれほどまで気遣うのも最もで黒い戦闘服は赤く染まりきっている
仮面で目を隠しているがすでに霞んできているのは一目瞭然だ
「もう!キルケと合流したいけど・・こうも数が多いとまずいわね!」
「臆するな、まだ私もお前も戦える・・」
「・・・ほんと、臆することを知ったほうがいいわよ・・仮面馬鹿・・」
今の状態ではまずいとセシルが焦っているその時・・

カッ!

後方から眩い閃光が走る!
「・・なんだ・・?スレイトホルンから・・光の雨・・?」
敵をなぎ倒しつつ後方を見れば鋭く尖った山頂から光の玉が雨のように里を覆っている・・
「これって・・どういう事?」
「わからん・・・。山頂には竜の力を封じた碑があるだけだ・・、まさか・・」
ロカルノが思い描いた事態はすぐに確信へ・・、光に包まれた里から何匹もの飛竜が羽ばたき次々とこちらに向かってきたのだ
「封印が解けた!?一体・・どういう事なの!?」
「わからん・・、ともあれ心強い援軍にはなるようだ。一旦退くぞ!」
「え・・ええ!!」

「お前ら!封印が解けたみたいだ!一気に攻めるらしいぞ!」

同じ考えをしていたクラーク達、キルケを背負いながら合流し、そう言った途端に一目散に退散しだした
「・・ふっ、引き際も早いものだ。いくぞ」
「わかった!」
異形達の追撃も相手にせず一気に離脱するロカルノとセシル
その次の瞬間には飛竜達の業炎が一斉放射され地上にいた異形達はまとめて焼き払われ始めた


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