第12節  「戦」


クラークが単身敵地に突撃しているのと同時間帯
シュッツバルケル勢もかく乱役として数名が別ルートにて里に迫っていた
しかしあらかじめユトレヒト隊が警戒に当たっていたために真正面からはちあわせに・・

「・・ほう、有能な戦士をかく乱役にするか・・。思い切った手を使うものだ」

里より少し離れた場所にて待ち構えるロカルノ、少し口元を上げてやってきた部隊を見つめる
「死亡率の高い任務を半端者には任せられんだろう・・」
馬に乗り静かにサーベルを抜くは黒薔薇師団団長・・サラ。
そして数人の女騎士が剣を構えている
「・・・・ふっ、無能ばかりではないか。セシル・・任せるぞ」
「えっ?私?ロカはさぼる気?」
ロカルノの後ろにて関節を鳴らしていたセシル、準備は万端のようで氷狼刹もすでに抜いている
「私はもう一人、相手をしなければな・・。いるんだろ?でてこい・・」

”・・流石・・っという事ですか”

妙に優しげな声・・次の瞬間サラの馬の陰から音もなく忍が現れた
口元を隠し忍装束を纏った姿・・そしてただならぬ気配を押し隠しているのがわかる
「姿を見るのは初めてだが・・ステアを暗殺しようとしたケイオス・・だな」
「ええ・・、やはり暗殺という手は貴方達には不向きのようですね」
「そう簡単に幕は引けないさ・・。お前の相手は私が努める。」
「・・委細承知・・」
そう言うとケイオスは草原の方に駆け出しロカルノも重装備ながらもそれを追った

・・・・

「盛り上がっちゃって・・じゃあサラさんだっけ?相手をすることになったから一つよろしゅうな」
残ったセシル、相変わらず飄々と声をかける
「貴様・・ステアはどうした?」
「暗殺しようとしたくせに今更親分面ってのもよろしくないんじゃないの?サラサラ?」
「・・・・」
「まっ、生きているわ。里で住民を守る最終ラインをあの子と一緒に努めている」
「何・・?寝返っただと・・?」
「当たり前でしょ?殺されかけてまでおたくらに従うほどの結束があって?まぁステアはそれでも祖国がよくなるために協力するって言っていたけどね」
「・・・そうか」
かすかに安堵のため息を漏らすサラ、それにセシルは引っかかった
「随分と安心しているじゃないの?」
「ふん、貴様には軍属の人間の気持ちなぞ理解できんだろう・・どこの馬の骨か知らんが・・容赦はせんぞ」
馬から降りゆっくりとサーベルを抜くサラ、他の女騎士もそれに合わせ陣形を築いている
「したらあんたの負けよ。ちょいと誤解しているようだけど・・私も元は軍属なんだからね〜?」
「ふん、そんな破天荒な騎士がいるか・・いくぞ!」
そう言うとサラは踏み込み鋭い一撃を放つ!
道場剣術とは違いまさに修羅場をくくり抜けてきた者が揮う「生きた剣」だ
セシルはその一撃を回避しつつサラに反撃をしようとする・・が
「覚悟!」
「!?甘いわ!」
セシルの回避した位置を正確に把握しつつ他の女騎士達が追撃をかける
それもヒット&アウェイを基本とし馬での連携ゆえに流石のセシルも中々反撃できない・・
「うわ・・ひゃ!・・ったく!やらしい連携よね!」
「隙だらけだ!」
そんなセシルにサラが斬りかかる!完全な隙目掛けたチャンスで鋭いサーベルがセシルの頭上に降ろされる!

キィン!

「な・・に!?」
完全に取った思いきや凄まじい反応速度でセシルはサーベルを氷狼刹で受けた・・
「ま〜、そんなところね。基本に忠実な連携・・周りはあくまで私に隙を作らせる囮、最後は一撃必殺の腕を持った隊長が仕掛ける。
ここまで見事にこなすのは流石だけど〜、パターンがわかれば防ぐのは容易よ?」
ニヤリと笑うセシル・・それを見てサラは背筋に寒気を覚えた
「貴様・・芝居か!?」
「いいえっ、貴方が仕掛ける時までそういう連携があったことなんて忘れていたわ。条件反射で攻撃を防ぐのは歴戦の戦士の証よ♪・・はぁ!」

キィン!

「な・・力負けしている!?」
鍔競り合いのままでセシルに圧し飛ばされたサラ、飄々としているセシルの本当の実力を垣間見て警戒を強める
「多勢なのは別に卑怯とは言わないけど・・やっぱこういうのはタイマンが決まりでしょ!!」
対しセシルは力任せに氷狼刹を地に突き刺す・・
「!?避けろ!」
咄嗟にサラが飛び退くが他の面々は乗馬ゆえに反応が遅れ・・

ビシッ!!

地を駆けた氷の網が馬の脚を凍りつかせた・・
「これで助太刀は無しね。さっ、続きやりましょうよ・・サラサラ」
「・・貴様・・」
「なぁに?決闘は嫌なの?」
「その態度が気に入らんだけだ・・・」
チャキ・・っと刃を鳴らして低く体勢を取る。出される殺気はかなりの物で並の者ではないことがわかる
「固いわねぇ、肩こるわよ」
対しセシルも氷狼刹を握りなおし構える・・その構えはいつもとは違いきちんとした正眼の構え
道場剣術の基本中の基本の構えだ
「・・型破りが常用手段ではないのか?」
「あんたねぇ、正々堂々勝負するのに姑息な手段はとりたくないのよ。氷狼刹の氷の力も使用しないわ。
剣の腕のみで勝負よ!」
「・・いいだろう、軍国シュッツバルケルの剣・・貴様に見まってくれる」
「はん、名門ブランシュタイン家の名を汚すわけにもいかなくてね・・いくわよ!」
そう言うとセシルは一気に踏み込み氷狼刹を振り下ろす!
クラークの剣撃に負けないほどの鋭さを持っており昨日今日で体得したものではないことがはっきりとわかる
「舐めるな!そう簡単にやらせるか!」
対しサラは真っ向からそれを受け止めようとはせずにギリギリのところで一旦後ろに跳び下がる
そしてそのまま地を蹴り一気にセシルに切りかかる
刃が広く大きな騎士剣では連撃は難しいセシルの踏み込みからしても一撃に掛けているということを察知したのだ
「覚悟!」
「・・ちっ!」
鋭いサーベルが空を切る・・セシルの頭めがけ振り下ろされたのだが咄嗟に横に回避され彼女の髪を数本切った程度だ
空振りに終わったサラに横に回避したセシルは素早く蹴りをかましサラを飛ばす!
「ぐ・・、姑息な・・!」
バランスを崩したところに食らった蹴りだけに隙ができてしまう。
その一瞬をめがけセシルは追撃を・・
「いけぇ!」

キィン!!・・ゴキ・・

鋭い金属音の後に鈍い音が響いた
見れば膝をついたサラがセシルの一撃を避けきれないと悟ったのか氷狼刹を真っ向から受けたのだ・・それも刃の峰に腕を添えて
「・・やるじゃないの・・握りを両手で持ったくらいじゃ防ぎきれないから腕を添えて受け止めるだなんて・・でも
骨は完全に折れたわね」
「・・だ・・・まれ!」
尚も続く鍔競り合い、隊長の不利に他の隊員は加勢に加わろうとするが・・
「他の者は手をだすな!・・この女は・・私が倒す!」
未だ覇気が消えぬサラ、渾身の力にて刃を反らせセシルの一撃を流し距離をあける。
セシルが忠告したとおりのようでサラは峰に添えていた左腕をダラン・・っとさげている
「片手でまだやる・・か。大したもんね・・」
「貴様とは・・背負っているものが違う!」
片手だけで尚も構えるサラ、それにセシルは目を細めて・・
「言ってくれるじゃない・・私も相応に背負っているものがあるのよ。・・来なさい、楽にしてあげる・・」
セシルから伝わるド鋭い殺気・・、どうやら今までの戦闘も完全に本気だというわけではなかったようだ
「いいだろう、これで終わりにする。黒薔薇師団の意地を・・見せてやる!!」
左腕を下げたまま剣を構えるサラ、捨て身の一撃にかけているのは見るまでもなく・・
「「・・・・・」」
無言のままに距離を狭める・・彼女達の領域が近づくにつれ二人から汗が一つ二つと流れてくる
そして・・両者の剣が届く範囲に入ったかと思うと両者一斉に動き出す!
お互い防御のない必殺の一撃・・先に当たったほうが相手の急所を切り勝者となる・・
「はぁ!」
「でぇい!!」

・・・・

二人の気合声とともに体が交差する・・
その場にいたものは刃がどう交差し攻防が行われたのか全く見えなく呆然としている・・だが
「・・見事・・」
フッと笑いサラは前のめりに倒れた。
「・・・・、片腕折れてながら私に手傷を負わすとはねぇ」
見ればセシルの腕からは血がしたたっており青い戦闘服を赤く染めている
急所こそ外れたが中々の傷でセシルは倒れたサラを感心している
そうこうしている間に周りでこの一戦を見ていた女戦士達が馬を降り剣を構えている
・・それも倒れたサラをかばうように
「何・・・?貴方達私とやるっていうの?」
「・・そうだ・・、団長の仇・・晴らさせてもらう!」
「サラの下につき彼女を超えられない貴方達が束になろうと・・私には適わないわよ?」
「我等の命にかけても・・貴様を倒す!!」
全員捨て身の覚悟・・、しかし力量の差はいやでも認識させられているゆえに彼女達の内心の恐怖はセシルには手に取るようにわかる
それでも一歩たりとも退かずにキッと睨んでいる
「・・人望はあるようね。じゃあ・・隊長とともに死ぬ覚悟もちゃんとできている・・か」
哀れむようにセシルがつぶやく
次の瞬間には女達は次々とセシルに襲い掛かって行った


・・・・・・・
・・・・・・・

一方
「・・さて、ここぐらいまでくれば邪魔も入るまい・・」
場所を変えたロカルノとケイオス・・草原の隅、岩肌がゴロゴロ転がす荒地まで走りぬけそこで対峙した
「それだけの装備をしておきながらその脚力・・流石ですね」
黒い忍び装束のケイオス、背負う忍刀が唯一の得物のように見えるがまだそれに手をかけてはいない
「・・・ふっ、鎧を着込んでも動けなかったら話にならん。・・お前が影で動くと厄介だ。・・ここらで退場してもらおうか」
そう言うと戦女を構えジッとケイオスを睨むロカルノ・・
ケイオスも無表情のまま軽く息をつき忍刀に手をかけた
「恨みはありませんが・・、全てはミネルバ様のため・・」
「・・・主君の命ならば人道をも背くか・・」
「それが忠誠というものです。・・私に決定権はありません。ただ仕える主の命に応えるのみ・・異国の戦士よ。
覚悟・・!」
最後に明確な殺気を残しケイオスの姿は霧のように消えた
「・・ふっ」
それを見てロカルノは軽く笑いあらぬ方向に槍を振る!

キィン!

何もない空間へ振ったのだが鋭い金属音が響いた・・そこには剣を振り下ろしているケイオスの姿が・・
「そう簡単にこの首はくれてやらん。私としても負けられんのでな!」
得物が迫り合ったままの状態でロカルノはケイオスごと吹き飛ばす・・がフッと軌道を変えて華麗に着地した
「・・くっ・・流石・・見事です!」
「時間はかけられん、手短に行かせてもらう」
一気に距離を詰めて鋭い一撃をロカルノが放つ・・、リーチがある槍での突撃は脅威そのもの
対しケイオスは冷静にその軌道を睨み、ゆるやかにそれを回避する
「それはこちらも同じ事・・手間取っては大事に触ります・・」
そのまま反撃に移り、最小限の動作にてロカルノに斬りかかる
「・・っ!やる・・!」
ゆるやかな動きだったのだが見れば防刃加工のされた戦闘服ごと腕を浅く斬られていた
牽制に腰に下げた『ディ・ヴァイン』を逆手で抜き払うもそれも空振りに終わり距離を開けられた
「ちっ、私の攻撃がこうも当たらんとはな」
「それはこちらも同様・・、先ほどの一撃にて腕を落とすつもりでしたが・・強固な守備ですね」
先制を取ったケイオスだが逆に焦りの表情・・、回避した槍の一撃は彼には触れなかったはずなのだが空を切り
彼の皮膚をも浅く切っていたのだ
「鎧に頼るつもりもないのだがな・・、だが、流石は御大直属・・力量は奴と同等・・・か」
「買いかぶりです・・。さあぁ、そろそろ終わりにさせてくれませんかね・・」
「望むところだ。早いところ終わらせないとセシルが暴れすぎるのでな」
フッ・・っと笑い仮面を投げ捨てるロカルノ、槍を構え集中を高める
「この状況で他者を気にするとは・・いやっ、貴方だからこそ気になさるか・・」
ケイオスもフッと笑い腰を低く忍刀を逆手にし駆け出した・・
ただでさえ視覚で捉えきれない身のこなしのケイオス・・しかし次の瞬間・・

フ・・・

気配が幾つにも分かれた、姿は見えないが確かに増えた殺気
「分身・・っという奴か!」
表情が険しくなるロカルノ、いくら彼でもケイオスほどの身のこなしで分身をされては見切るにも限度がある・・

”覚悟!”

無数に襲い掛かるケイオス・・、対しロカルノは
「霧雨・・連天砲!」
ギリギリまでひきつけてから無数の突きは放つ・・、雨の如く敵を襲う槍はケイオス数人を貫いたのだが・・
「・・・くっ!」
”流石に我ら全員を落とすことはできないようですね!”

斬!斬!斬!斬!!

幾つもの影がロカルノを駆け抜け・・血が吹き出た
「ぐっ・・やる・・!」
強固な鎧を避け戦闘服を目掛けて切りまくるケイオス、致命傷には至らないが傷数が多く・・
”これで・・最後です!”
一気に決着をつけるためにケイオスが踏み込む・・

グサ・・!

鈍い音が響く・・、見ればケイオスがロカルノの腹目掛け忍刀を立てているのだが・・
「・・ふっ・・」
軽く笑うロカルノ、見れば忍刀を掴み腹に刺さるのを寸前で防いでいる
グローブをしていれども走る刃を掴んだためのその手からは血が吹き出ている
「な・・、私の動きを・・」
「仮面を取ってまで貴様の動きを見切ろうとしていたんだ・・このぐらいは当然・・」
「・・・なるほど・・肉を切らせて骨を断つ・・ですか」
「不細工な戦い方だが・・貴様ほどでは手加減もできん」
ニヤリと笑うロカルノ、いつの間にか槍を捨ててディ・ヴァインを抜いている
すなわち、ケイオスが剣を離して距離を開けようものなら瞬時に追撃できる・・っと
「・・・・・、ふぅ。チェックメイト・・ですか」
彼もそれに悟り、軽いため息をつく
「最後に聞いておこう。・・ミネルバの真意は何だ?」
「言ったでしょう、私にとって主の思惑は関係ありません。あの御方の意思に従う・・それのみです」
「・・なるほどな・・」
「・・・さて、それでは・・終わりにしますか」
少し笑ったかと思うと・・

斬!!

忍刀から手を放ち素早く懐からクナイを取りロカルノの首筋を狙う・・が
そのクナイごとケイオスの体を剛火の戦剣が切り裂いた


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