五章  「恋する魔術師」


新隊員クロムウェル=ハットが補充され、
13部隊の戦力も徐々にだが安定してきた

アイゼン流一刀剣術を使う隊長クラーク=ユトレヒト
同じくアイゼン流二刀剣術を使うナタリー=グレイス
我流の喧嘩殺法でタフさが自慢のクロムウェル=ハット
魔法攻撃に関しては他の追随を許さない黒い炎の魔女ファラ=ハミルトン

一人一人が相当な戦力でありフロスの優秀な作戦により軍隊としても評価も上がってきているようだ
それでも、問題集団と非難するものが多々いることには違いないのだが・・

毎度おなじみ13部隊兵舎・・。
日もまだ明け切らない状態での早朝に集まる部隊の面々
「今日から朝の訓練は義務とするから〜、そのつもりで」
ラフな運動着で明るく話すはクラーク。朝になると何故かハイになるようだ
「「ええ〜!!」」
これに猛反発するは朝が弱いクロムウェル&ファラ
「私が朝苦手なのは知っているでしょう!大体なんで魔術士が朝に身体動かさなきゃなんないのよ!」
「そ〜だ!そ〜だ!!」
「ファラの発言はわかるとして、クロムウェル。お前はどう考えても参加だろ?」
「う゛・・」
「心配しなくても起こしてあげるわよ〜、私がや・さ・し・く♪」
にやけるナタリー。腰の刀を抜きながら言うところ、壮絶な起こし方なのだろう
「因みにさぼったら俺とナタリーでリンチだからそのつもりで♪」
「ノオオオオオオ!!」
頭を抱えて嘆くクロムウェル!!

「そいつは参加して当然!せめて私はフロスと同じ生活リズムにしなさい!
今しなさい!そうしなさい!」
クロムウェルの話が終わり次第自分の話を言い出すファラ。まだ眠いらしい
「ファラは残念ながら必要だな」
「なんで!!?」
「俺がお前と一緒にいたいから」
「なっ・・何言っているのよ!!!」
顔が瞬時に真っ赤になるファラ、内心彼の事を想っているだけにかなり焦ってしまう
「・・・何冗談で焦っているんだよ。だって魔術師想定での訓練って必要だろう?
別に身体動かせとは言わないけどその訓練の時だけでも顔出してくれよ。
フロスだって数日に1度は参加しているんだし」
「・・・そういうことだったらしょうがないわね・・。貴方の顔に免じて許してあげる」
そっぽ向きながらも承認、心の内では冗談でも恋愛系には全くの疎さを持つ
クラークが自分の事を想っている事に嬉しく思うファラだった
「ようし、そんじゃまっ、始めますか!」
クラークのその一言で結局全員訓練を開始する
因みにフロスはまだ睡眠中・・

13部隊の朝の訓練メニューは至ってシンプルで
兵舎周りを数周周ってから準備運動
二人一組になっての何でもありの乱取りを延々繰り返したのに
少し休憩して日によって違う様々な状態での戦闘。
例えば丸腰での対多数戦などを行って終了
クロムウェルが吐きそうになったのは乱取りにあり、かなりハードなものらしいの・・だが

「よっ!ほっ!また腕を上げたな、ナタリー。うかうかしているとざっくりいっちゃうな」
「その割には涼しい顔して避けているじゃないの・・よ!!」
クラークVSナタリー。
二刀ゆえに手数の多いナタリーの猛攻を適切に捌いているクラーク。
二人ともさっきまで馬鹿みたいに走っていたものとは思えない
「そんじゃ、今度はこっちから!」
ナタリーの剣撃の隙を突き、今度は攻防一変。クラークの気合いのこもったブレードが舞う
「おわっ・・っと!たまんないわね!!」
ナタリーはこれをギリギリで回避、または二刀で十字留めして防いでいる
ひ弱そうなクラークだがその身体はたくましく、重心を乗せた一撃は流石のナタリーでも
両手を使わないと防ぎきれないのだ

「・・・よくあんな連撃を繰り出しながら会話なんてできるな・・」
「ほんと・・、腕に偽りはないってことね。クロムウェル、さぼったらあの二人にリンチだって・・」
「・・死ぬわな・・。寝坊したら命懸けて逃げるか・・」
これが自分のやらされると思っただけで汗が出てくるクロムウェル

「ふぅ、こんなもんか。じゃあクロムウェル、かも〜ん♪」
「げっ!!」
彼の恐れていた時が来た!!!
「ほらっ、クロムウェル、行きなさい♪敵前逃亡は死罪よん♪」
刀をしまいながらクロムウェルに近づくナタリー
「まっ、待て!手加減してくれるんだろうな・・?」
「何言ってるんだ、実戦では手加減なんてしてくれるわけないだろ?
さぁ、さっさとこないと俺とナタリーで2対1にするぞ」
「そっ!それはご勘弁!!ちくしょう!こうなったらやってやる!!」
最悪の事態は回避しなければならない、クロムウェルは覚悟を決め・・


バキィ!!

散って行った・・

「お花畑が・・・」
目を回しながら倒れるクロムウェル、ブレードの柄が見事に当たったのだ
それでも死なないのは丈夫だからか馬鹿だからか・・


「さっ、今日は終わりにしましょう。私、御腹減ったし〜」
「ファラ、待ちなさい。これからお前さんは俺と訓練。
ナタリーはクロムウェル連れて介抱しておいてくれ」
「わかったわ。ついでにフロス起こして朝食の準備しておくわね」
「頼む・・」
そう言うとナタリーはクロムウェルを抱えてとっとと兵舎に入って行った

・・・・・

「・・・ねぇ、クロムウェルみたいに叩かないでね・・」
「女の子にんなことするかよ。ちょいとお前に頼みたい事があってな」
「私に・・?」
「ああっ、実はな、戦闘能力アップのために魔法を覚えようと思うんだ」
「はぁ?何?剣士辞めて魔術師に再就職でもするの?」
「いんや、そこまで器用じゃねぇよ。
ただ今の俺じゃブレード使っているだけに攻撃がおおぶりになってしまう、
だから魔法で体力強化してずばやい連撃や切り札が欲しいんだよ」
「・・今のままでも十分強いけど・・」
「それも言うなれば『井の中の蛙』だ。だから・・な」
「う〜ん・・。いいけど・・。難しいわよ?耐えれる?」
「もちろん、頼りにしているぜ♪ファラ先生」
「ええっと・・じゃあ『身体強化術』と『切り札』ね・・。魔導回路云々は知ってるの?」
「『惑う海路』?」
「魔導の回路!大気中の魔素(マナ)を魔導式に組みこんで魔力と化する基本行為よ!」
「へぇ、そんなことしてたんだ・・全くわからん!」
胸を張りながら大いばりのクラーク
「・・・無謀ね・・。じゃあそこからね、作戦室でみっちり教えてあげる・・」
「おおっ、助かる。じゃあ訓練は一旦中止して飯にしようぜ」
ファラの頭をクシャクシャ掻きながら兵舎に戻っていくクラーク
いつもならその行為に罵声を飛ばすファラだが
この能天気男にどうやって魔法を教えるのか思考錯誤しているようだ

その日のデスクワークは見る見るうちに終わらせ、
クラークとファラは作戦室へ分厚い教本を持ち入って行った
他の面々はいつもの如く・・。
フロスは自室で兵書を読みふけり、ナタリーはクロムウェルの特訓。
面倒見がいい分その被害はすごい・・らしい
ともあれ、指令がない限りは比較的自由の利く職業ではある
そして二人っきりの作戦室での二人は・・

「何度言ったらわかるのよ!このくらいの原理ぐらいわかりなさい!!」
「専門用語で説明しすぎなんだよ!大体!魔素(マナ)ってのをいじくればいいんだろ!?」
「そんな考えではできるんじゃないってば!もう!」
いつもの如くな口喧嘩ショー。兵舎に響く大声なのだがいつも隊長室から聞こえてくるので
他の面々からの苦情は一切ない・・
「あ〜!魔法ってもっと簡単なもんじゃねぇのか!?」
「そんな簡単だったら誰でも使えてるわよ!馬鹿じゃないの!?」
「うるせー!世の中のイメージなんてそんなもんだ!
・・ともかく頭が割れそうだ・・止め止め!」
「駄目よ!!1度言い出したら最後までやりなさい!」
「うっ・・・」
ファラの気迫に押されるクラーク
「私が責任持って叩きこんであげる!だから諦めないで!」
「・・ちっ、わかったよ・・。頼むぜ?ファラ先生」
「任せなさい、馬鹿隊長」


さらに教本を持つ事数時間
日も暮れ、夜の闇に包まれている時にも
まだクラークは教本片手に燃え尽きている
事情は面々知っているので他の3人もおかまいなく夕飯を食べたようだ
真剣に取り組むクラークとファラを止めるものなどいなく
二人は一日中二人っきりでがんばっている
・・・・・・・
「・・よし、これでどうだ?」
魔導式を書いた紙をファラに見せる
すでに頬がこけて疲れ果てているクラークを気の毒そうに見るファラ
ともかく魔導式が作動するか確認する
「・・うん、大丈夫ね。とりあえず初級は合格よ。今日はこれまでにしておきましょう」
「・・ふぇ・・・。なんとかなったか〜・・」
「おつかれさま、はい」
こっそり作っていたパンとサラダを差し出す
「え・・、お前こんなの用意していたのか?」
「貴方が必死だったから気付かなかっただろうけどさっき出ていった時に用意していたのよ?」
「・・そうだったのか・・、サンキュ、ファラ」
「ううん、じゃあ頂きましょう。私も御腹減ったし」
クラークの隣に座りパンをちぎるファラ
いつもつけている丸眼鏡を取り少し目をこする
「・・すまねぇな、眠いだろう?」
「まぁ、疲れたことには違いないわね」
疲れ顔でパンをつまむファラ、食欲よりも睡眠欲のほうが強いようだ
「はははっ、でも喝をいれてくれて助かったぜ、おかげでなんとかなったし」
「ふふっ、貴方が弱音を吐いたりしたから私も意地になっちゃったのよ・・」
「やれやれ・・、みっともないところ見られたな・・」
「誰にも言わないわよ、約束してあげる」
意地の悪い笑みをこぼすファラ
クラークも苦笑いだ
「ははっ、助かるよ」

・・・・・

「ふぁ・・・、食べたら眠くなっちゃったね・・。ねぇクラーク・・ちょっと寝かして・・」
長いポニーテールを解くファラ、
よほど眠いらしいのか言葉が言い終わらない内にクラークに持たれかかり眠ってしまった
「ファラ・・?・・寝ちまったか・・」
すでに寝息を立てているファラ、このままでは風邪を引くと思い一旦起こそうとした
・・が
「・・クラーク・・」
自分の名前を寝言で言うファラが妙に愛らしく思えてそのまま寝かしてやること・・
そして教本は今日はそのままにしてファラを部屋に送る事にした

ファラを起こさないように気を付けながら抱き上げ彼女の部屋へ行く
初めて入るが彼女の部屋は驚くほど殺風景だった
机とベット以外はほとんど物がなく、生活雑貨も共同場所にしまっているようだ
「・・これが、女の子の部屋・・か?」
驚くクラークだが、あまりあれこれ見るのは失礼と思いファラをベットに寝かし布団をかぶしてあげる
「おやすみ・・、今日はありがとな・・ファラ」
そっとファラの髪を撫で部屋を出ようとするクラーク
しかし・・
「いか・・ないで・・」
立ちあがるクラークの裾を掴むファラ。
「起きていたのか・・?」
「うん・・お願い・・一緒に・・・」
寝起きなのかいつもに比べるとすごくか弱く見えるファラ、
蒼髪も降ろして別人のように見える
「・・わかった。一緒に寝てやるよ・・。」
少し笑って軽く上着を脱ぎファラの隣にもぐりこむ
「ありがとう・・・」
すごく嬉しそうな顔のファラ。
それをアップで見ているクラーク、恋愛に疎くともドキドキしてしまう
「あ・・ああ、じゃあおやすみ・・。疲れているだろう?」
「うん・・。クラーク、ギュッとしてくれる・・?」
まるで子供のようにお願いするファラ
「え・・・あ・・・でも・・俺だって男なんだし・・」
「・・お願い・・寒くて寂しいの・・」
意味深な発言をするファラ、その言葉にクラークは・・
「・・・わかった・・、俺に任せろ」
自分にできることをしてやろうと思い優しくファラを抱き締めてあげる
「ありがとう・・、クラーク・・・・zzzz・・」
彼女は安心した顔のまま眠りについた。寝顔はおだやかで本当に子供のようだ
・・・・対しクラークは男の欲望をこらえ、明け方まで眠ることができなかった

翌朝

朝練の数十分前・・。
まだ夜も明け切っていない状態にファラが目を醒ます
普段なら絶対に起きないのだが、魔術で細工した懐中時計が振動したのでそれで眠りが醒めたのだ
「う・・・ん・・朝・・?」
いつも朝は冷え切っている状態なのに今日は暖かい
・・自分を優しく抱き締めているクラークがいるおかげだ
「・・・・・・」
穏やかな寝顔のクラーク、見ていて自分も和んでしまうファラ
「一晩・・いてくれたんだ・・」
ずっと抱き締めてくれていた男の胸の中で嬉しく思う彼女であったが・・

ゴリ

何やら腰に当たるものが・・
「・・?何かしら・・?」
そっと自分に当たっているモノを見る・・が

「!!!!!!」

バチーーーン!!

「!!な・・なんだ!」
ファラにおもっきりひっぱたかれて目が醒めるクラーク!
ベットから転び落ち頭もぶつけてしまった
「なんだじゃないでしょう!何やっているのよ!」
ファラは顔を赤らめて布団で身体を隠す
「何やっているって・・お前の注文とおりに添い寝してやったんじゃないか・・」
頭をぼりぼり掻きながらクラークが説明、寝起きの良い彼も寝不足に加え
突然起こされたのでまだ眠いようだ
「それじゃなくて・・こ、これ!!」
目を反らしながら指でクラークの一部を指差す
「これ・・?ああっ、健康な男子ならば朝に誰でも起こる生理反応だよ・・」
元気になっている自分の「息子」に驚きもしないクラーク
「生理反応って・・、私を襲う気だったの!?」
「ちゃうちゃう・・、それは一晩中耐えたっちゅうに。何も考えていなくてもこうなるの」
「嘘よ、人間の身体がそんな非合理的に動くわけないでしょ!?」
「本当だって、なんだったらクロムウェルやフロスにも聞いてみろよ?全員同じ答えのはずだ」
「そんなの聞けるわけないじゃない!あ〜、も〜、せっかく素敵な朝だったのに〜!
このおったて男!!」
クラークの言う事に聞く耳持たないファラ、完全に変質者扱いしている
「だから違うって!」
「嘘よ!変態!」
「変態って・・、俺だって我慢していたんだぞ!」
いい加減ファラの文句にキレ気味のクラーク・・、手をワキャワキャ動かしながら接近する
「な・・何・・?」
「あのなぁ、ファラ。年頃の男に添い寝お願いしている以上襲われる覚悟がいると思わないか・・?」
「そ・・それは貴方が人畜無害だと思ったから・・」
「あま〜い!そんな人間この世に一人もいない!俺だって狼なんだぜ・・」
「だからって・・寄ってこないでよ・・」
ベットの隅へ急いで逃げるファラ、しかし体格差もあり巧みに間合いを詰める怪しい表情の
クラークに徐々に追いこまれている
「お前のことを思って一晩必死に耐えて寝不足なのに変態扱いはひどいよなぁ?よって・・!」
「!!」
悲鳴をあげる間もなくファラを捕まえ、唇を奪う
濃厚にねっちょりディープキスを交わし見事ファラを骨抜きにした
・・・・・・・
「はぁ・・クラーク・・」
「・・意外に素直じゃないか・・。もう叫んだりしないよなぁ・・」
「クラーク、目がイヤらしいよ・・」
「俺を変態よばわりした奴の言うことか?さぁ朝の訓練がはじまるまでにもっと骨抜きに・・」



”あ〜ら、ファラの部屋から男の声〜、これは一体どういうことなんでしょうかね〜?”

「「!!!」」
突如扉こしに明るい女の声・・
すなわちナタリー
「あっ・・・ナタリー・・」
「誰かいるのぉ?何だか聞いたことあるような声だったけど?」
「にゃ・・ニャーオ・・」
クラークさん苦し紛れの猫の真似・・っというかもはやばれていると思い最後の悪あがきのようだ
「あらっ?猫だったの、私も耳が変になったのかしらねぇ・・。じゃっ、庭で待っているわね♪」
そういうと足音は徐々に小さくなっていった
「・・・・」
「・・・・」
多分ばれているだろうな〜っと思い無言で顔を合わせる二人
「・・・・いこっか?」
「・・うん」

ともあれ、もう時間がないので二人とも準備をすることにしたのだが・・
「ねぇ、クラーク?」
蒼髪を括りながらファラが不意にクラークに聞く
彼は上着を羽織るだけなのですぐ準備ができた
因みに二人は昨日からずっと制服姿のままで風呂にも入っていない・・
「なんだ・・?まだ変態扱いか?」
「違うわよ。あれはもういいの。さっきのキス・・遊びなの・・?」
「!!・・あっ・・あれか・・?」
「・・・・」
「・・俺は遊びで唇を奪ったりしない・・」
「!!・・・・・ほんと・・?」
「本当だ・・じゃ、じゃあ俺そろそろ行くから!」
「あっ、クラーク!」
よほど恥ずかしかったのか一目散にクラークが出ていった
一人唖然とするファラ
「・・・遊びじゃ・・ないんだ・・」
唇に指を当てる・・、なんだか嬉しくなり一人にやけてしまった

・・その日のファラは上機嫌で訓練にも文句言わずに参加したとさ・・



<<back top next>>