四章  「問題隊員補充」


それからもいつも通りの傭兵生活が続く・・
戦果は相も変わらず上々なのだがそれは所詮小人数で行うモノのみ
隊員の補充がされないのだから仕方ないので一行は別に不平を言うわけでもなかった

「おはよう、クラーク。今日もたんまり仕事があるわよ」
隊長室に入るなり書類のたばを置くファラ
あの夜以降彼女はクラークにやけに優しくなった
「・・またかよ・・・。なんか身体動かすことが少なくなったわりには事務仕事が増えたな」
「文句言わない、でも結構早く仕上げれるようになったわよ?字は汚いけど♪」
「うるせー」
「ああっ、それよりもさっき伝書鳩で通達されたんだけど。
本日の午後に13部隊に隊員が一人補充されるんだって」
小さな紙を広げてクラークに見せる
「ようやくか・・でっ、誰なんだ?何々・・・14部隊の新人クロムウェル・・?」
「噂の新米問題児よ。隊長殴りまくって手がつけられないってことでの異動みたい」
「・・・・うちは問題児の集団だな。」
軽く書類を放り、投げ槍気味に呟く
「そうかもね、クラークやナタリーは規則を守らない。フロスは前の軍師と耐えず反発」
「補佐のファラは逆ギレで魔法発動・・っと。ほんとにお払い箱集団だな・・」
クラークのその言葉にムッとするファラ・・
毎度のお約束行為といったことだろう
「でもどうするの?このクロなんとか。私は嫌よ。生意気なガキの世話なんて」
「ファラに任せたら性根は直るだろうけど命はないだろうな・・。フロスに頼んでも断るだろうし」
「ナタリーなんかは?結構面倒見が良さそうじゃない?」
「あいつかぁ・・・・・・・、止めたほうがいい。
気にいらなかったら翌日庭に細切れの死骸が広がっていることになる」
「・・・・じゃあ・・・」
「俺・・だな」
がっくしとうなだれるクラーク、「また仕事が増えるのか・・」っと言ったところか
「まぁがんばって。隊長さん♪」
「うるせー、楽しやがって・・」
「おほほほほ♪」
悩むクラークを見下した感じに笑うファラ。これが最近の隊長室での会話
ファラは確実にクラークの事を気になりだしているのだが、当人は全く気付いていないようだ




その日の午後、噂の新人は颯爽と兵舎にやってくる・・
クラークが昼食が終わったのちのすぐ隊長室に入ってきた
荷物をつめた鞄を背負う金髪の男性
着ている物はクラーク達公社支給の軍服だが、袖をまくっておりだらしがない感じだ
短い金髪をかきあげており見るからに「不良青年」のようだ
「14部隊のクロムウェル、今日から厄介になるぜ」
隊長相手に挑発的な口調で言うクロムウェル。
っと言ってもクラークもクロムウェルも年齢的にはさほど大差はないようだ
「おうっ、俺が13部隊隊長、クラークだ。こいつが補佐のファラ。まぁひとつ頼む」
軽く事務的に接するクラーク、別に口のきき方にはこだわらないタイプなので
態度の悪いクロムウェルに対しても普通に接しているようだ
「クラークか・・、なぁ?隊長って給料がいいのか?」
「ああっ?そうだな・・・、ファラ、いくらもらってるんだ?」
「何乗せられているのよ!そういうのは聞くもんじゃないでしょ!!」
「あ・・いけね・・。まぁ平の隊員だった時に比べたら上がった事には違いないな・・。
喜んでばかりではないけど・・」
「・・そうか、よし!今日から俺が13部隊の隊長だ!てめぇは大人しく俺の言う事を聞けばいい!」
「・・・つまり、着任早々隊長に喧嘩を売って自分が変わりに名前だけの隊長に昇進。
給料をがっぽがっぽってわけだな」
全く驚きもせずにクラークはクロムウェルの言ったことを整理する
「そうだ!安月給で命かけるのも馬鹿らしいからな!」
「だったら傭兵辞めたらいいじゃない」
アホらしいと顔に出ているファラ
「止めておいたほうがいいぜ〜、隊長なんて・・。
まっ、売られた喧嘩は買うのが手っ取りはやい。表に出なさい」
そう言うと壁にかけているブレードを手に窓から外に出る
「へっ、思い上がりやがって!!」
続いてクロムウェルも窓から飛び出る
「・・・・あんた達、窓から出るもんじゃないわよ〜!!」
言っても無駄とわかりつつも一応の注意、
彼らに常識は通用しないのはファラもよく知っているのだ・・




13部隊兵舎の庭
庭と言っても赤土まみれの荒野なのだが・・
いつもはそこでクラークとナタリーさらには嫌々なファラが朝の鍛錬をしている
そのため、動きやすく土が固まっており決闘にはちょうどいい
「クロ・・なんだっけ?得物は?」
軽く自分の得物である長身ブレードを振りクラークが訪ねる
「俺の得物はこれだ」
そう言うと腕にクロムウェルが腕にはめこむのは金色のナックルガード
シンプルな代物で飾りっ気は全くない
「なるほど、接近でのドツキアイか。悪くはないな」
クロムウェルの得物を見てにやける

「新人〜!やっちまえ〜!!」

何時の間にか隊長室の窓に腰掛けているナタリー。
得物を持参しており、後で手合わせ願おうとしているのだろう
その隣に呆れた感じのフロス。隊長用の椅子に座りクロムウェルのほうをじっと見ている
「・・結局、暇なのね・・お前達」
普段は忙しいとか言って仕事の協力をしない分、
こうした時のみの揃いの良さに脱力感を憶えるクラークであった
「じゃっ、一応私が審判ね〜。訓練だからまぁ殺すのは無し。
だけれども気絶するくらいならやったほうが気合い入るでしょ?」
二人の間には入ってファラが言う
「まぁ、な。それでいいかい?クロなんとか?」
「クロムウェルだ!俺が勝ったら隊長の座を頂くぜ!」
「好きにしろよ。ただし、お前が負けたら俺の言う事を聞いてもらうぜ」
「へっ、上等だ!おい、そこの貧乳女!さっさと初めろ!!」

「(カチーン)・・はじめ・・」

殺気を含む声でファラが開始の合図。
その瞬間にクロムウェルは素早い特攻で一気にクラークの眼前に迫る!
「ふぅん、言うだけあって速いな・・」
「おらぁ!!」
感心するクラークにクロムウェルが渾身の一撃を放つ!
「おっと!」
ブレードの柄でクロムウェルの突きを叩き流れを反らす
まだクラークはブレードを鞘に収めたままで本気ではない
それだけ余裕のようだ
「くそっ!まだだ!!」
渾身の突きを流されつつもそのままあびせ蹴りへ連携する
「間合いが甘いな」
完全に蹴りの射程内にいたクラークだが地を蹴って素早く飛びのく!
実に動きに無駄がなく緩やかな動作だ
「ちっ!なんで剣を抜かないんだ!やる気あんのかよ!」
攻撃が当たらないことに苛立つクロムウェル
「なんでって・・。お前の力量確かめるためにやってんだから本気だしちゃあねぇ・・」
「舐めやがって!!何でも言いから真面目にやれ!」
「口だけはほんと達者だな・・・。怪我しても知らないぞ?」
そう言うとクラークはゆっくりとブレードを抜く
切れ味の良さそうな剣身が姿を現し、クラークの顔を写している
「これを抜いたら手加減は難しくなるんだけどな・・」
ブンブンっと軽くふりブレードを構える
ウォームアップ程度の動作だが一振りの速さが鋭く、刃の残像が出来るくらいだ
「じょ、上等だ!」
「じゃあ・・・・・行くぜ!!」
その瞬間!!

斬!!

流れるそうに残像を残してクロムウェルの元へ接近しブレードを振るう!
それをまともに受けたクロムウェルは凄まじい衝撃と共に宙に舞った
受けたクロムウェルも何をされたかわからないだろう・・

「アイゼン流戦歩術『霧足』・・あいつの十八番ね」
窓に腰掛けるナタリーが面白そうに呟く
「何度か見たが、つかみにくい上に早いな・・」
「フロスは慣れていないだけよ。まっ、神業みたいに見えるようだけれども。
要は素早く踏みこんでクロムウェル・・で合っていたっけ?
あの子の得物を破壊してついでに刃の峰で叩き上げたのよ」
「・・よくわかるな・・」
「伊達に同じ流派じゃないわよ〜♪なんなら教えてあげよっか?安くしておくわよ」
「断る。頭脳労働が私の仕事だ」
隊長室でのそんなやり取りもお構い無しに
クラークが倒れているクロムウェルに近づく
「ファラ〜、どんなもん?」
「文句なしに貴方の勝ちよ。ちょいとやりすぎなくらいにね」
「へへ、悪いな。・・っという事だ。俺の命令にはしたがってもらうぜ?」
倒れて茫然自失なクロムウェルに声をかける
「あ・・・、俺は・・負けたのか」
自分が倒れていることにやっと気がつくクロムウェル。
拳にはめていたナックルがこなごなに砕けているのが感覚でわかる
「そういうこと。ひとつ言っておくが・・。お前に隊長は勤まらない。
己一人の感情でやっていけるほど甘い肩書きではない。
・・っても俺よりも有能な人材がいれば俺はいつでもこの隊長の地位を譲るつもりではあるんだがな」
「・・・・」
その言葉に自分は完敗したと思い知らされるクロムウェル・・
歯を食いしばり天を見る・・
「じゃ、クラークの用は終わったわよね・・?」
殺気を押し殺しながら笑顔のファラがクラークに訪ねる
「ああ・・・まぁ、ほどほどにな・・」
「何、あいさつよ♪あ・い・さ・つ♪」
爽やかな笑顔のままクロムウェルに近づくファラ
「お・・おい、何そんな殺気むきだしにしているんだよ・・」
「聞いていなかったの?挨拶よ♪貧乳とかいったお礼も含めて・・ね」
そう言うと光の矢を軽く放ちクロムウェルの顔面すれすれで軌道を反らす
「じ・・・事実だろ!俺は怪我人だぞ!おい、クラーク隊長!なんとかしろよ!」
「おっ、早速隊長と呼んでくれたか〜、嬉しい限りだな。
安心しろ!こいつがそうなったら誰にも止められん!!」

「どこが安心・・(チュドーン!)」

余所見をするクロムウェルに軽く炎弾がぶつかる
「大丈夫よ♪死なない程度に抑えているから、さぁ、受けとって♪」
素敵な笑みのままファラはクロムウェルに小さな炎弾をねちっこくたたきつづけた
・・クロムウェル、初日にして全身やけどで要休養・・


「ファラもねちっこくやったわね〜、まぁ治癒魔法でだいぶマシになったみたいだけど」
その日の夕飯、一同が食堂にそろったところでナタリーが苦笑いする
結局クロムウェルはファラの治癒魔法でなんとか回復したのだが
夕方までは居間でダウンとなっていた
「・・・まさかここまでやるなんてな・・」
まだ包帯まみれなクロムウェル。もはや暴れる気力もない様子だ
「死ななかっただけでもめっけもんだぜ?
まぁ、ここの生活では大人しくしたがった方が身の為ってやつだな」
「・・身を持っておもいしらされましたよ・・」
「まぁ、禁句さえ言わなければ堅いことがないところだから安心していいわよん♪クロピー」
「く・・クロピー・・?」
「ナタリー、なんでも愛称に「ピー」をつけるな・・」
今日の夕飯当番はフロスとファラ。厨房で二人がテキパキと作業をしている
それゆえ、他の面々はただ待つだけなのでこうして雑談をしているわけだ
「でも、俺が負けたのはあんたがはじめてだ・・・、口だけの隊長じゃないってことか・・」
クラークに対しては尊敬の念を抱きつつあるクロムウェル
「当たり前だ。遊びでやっているんじゃないんだからな。」
「へっ・・だが、いつかあんたを超えて見せる!」
指差して気合い一番に叫ぶクロムウェル
「まずは私に勝たないとねぇ・・」
両手で鍋を持ちながらフラフラ食堂に入ってくるはエプロン姿のファラ
「っうか魔術師とファイターが争うもんじゃないような・・」
フラフラしているファラのを軽くささえ、鍋を持ってやりながらクラークが言う
「まぁ、そうもこうもとりあえずは訓練はしておかないといけないな、クロムウェル。
昼間の決闘も最初から捨て身に近いからな」
皿を片手にフロス
「軍師の見解ってやつね〜。じゃあこの子私が面倒見てあげよっか?
斬り込みのなんたるかを教えてあげるわ♪」
意外なナタリーの申し出に一同驚く
「おいおい、せっかくの補充隊員をバラバラに切断する気か?」
「・・えっ、ナタリーさんってそんなことするのか・・」
「未遂だったけど過去に数回・・・」
「あれは俗に言うジョークというやつよ♪
よっぽどのことがないとそんなことしないから安心しなさい!クロムウェル!」
「・・・あの・・隊長の承認は・・」
「まぁ、認める。フロスの意見も正しいしな。クロムウェル、
ナタリーにこの部隊での厳しさって奴を学ぶといい・・・死ぬなよ」
最後の一声が妙に説得力がある・・
「まっ、そうと決まれば晩御飯にしましょ。今日はファラ様特製のクリームシチューよ♪」
自慢げに鍋のふたをとるファラ。
出来立てで湯気があふれておりいかにも美味しそうなのだが・・
「やっぱり、ニンジンがないわね〜」
「あんな物この間一生分食べたから却下!
それと、天才軍師が焼いた頭脳的パンが今晩の献立ね」
「・・別に普通のパンだ。とにかく頂くとしよう。
クラーク、ナタリーにクロムウェルをつけるのはいいが具体的な事は考えているのか?」
ファラがシチューを皿に移し各員に渡す(クロムウェルは自分で・・)
「ああっ、今日来た公社の指令の中でこの付近にある集落を襲う魔物の退治を受けたんだってよ。
それの退治を二人でやってもらおうかな〜って考えているんだけど・・」
「集落を襲う・・?そんなチンケな仕事良く引き受けたな・・」
作戦の規模の小ささに呆れるクロムウェル、やっている事は冒険者とさほど変わらない

「まぁ、余所にいたのであればそう感じるかも知れないが我々は極少数の部隊だからな。
他国の戦の派遣なんてとてもできるものじゃない。
それに、この荒野の中、食物を育てて国に収めてくれる農民は欠かせない存在だ。
彼らの頼みを聞かずに放っておくと直に余所にうつり
公社の飢餓問題を発生しかねない・・。意外に重要なことなのだよ」
シチューを食べながら軽く説明してやるフロス
荒れくれ者にはこうした知識も必要と思っているのだろう。
彼の行動は全て計算されているのだ
「そうだぜ?クロムウェル。お百姓さんには感謝しないといけない。
あいつらは武器の扱いなんてできないが作物を育てるスペシャリストだ。
俺達には到底真似できないからな。
共存するためには必要な仕事だ。・・それに、魔物相手ならこいつが遠慮なくやれるから・・な」
隣に座るダブルポニテのお姉さんを突っつく
「気になっていたんだけど・・ナタリーさんって・・強いの?そうにはあまり・・」
正直な感想のクロムウェル。まぁ誰が見ても「女剣士」ではなく
「よくしゃべる隣のお姉さん」だから仕方ない
「戦闘データからすればかなりも物だ。君では足元にもおよばないだろう」
「さっすがフロス!私も事よくわかっているじゃない〜♪
これでも剣術の一流派を代表する使い手なのよん♪」
「・・・そうは見えない・・」
「まぁ、そこいらは見た目で騙されるなってことだ。
それよりも後で魔物討伐の情報を教えるから準備しとけ。
明朝とともに作戦開始、リーダーはナタリー、クロムウェルはそれに従ってすみやかに
敵魔物を撃破せよ・・ってな」
「了解了解♪昼までには片付けて見せるわ!」
にこやかにシチューを食らうナタリー、これが戦場に出ると
無慈悲に相手を切り裂く剣士になるとは想像もつかないだろう
その点はクロムウェルも同じでいくら隊員が言っても
この女性が戦闘をできるようには思えなかったようだ



翌日、ナタリーとクロムウェルは朝の鍛錬が終わりしだい問題の村に向かうことになった

・・・のだが・・

「お〜い、生きてる〜?」
隣で死んだようにうなだれながら木の棒を使いなんとか歩いているクロムウェル
「・・・・は・・・・吐きそう・・・・」
「朝の軽い運動で大げさな〜、あの程度でバテていたら到底13部隊の看板は背負えないわよ」
「これでも、体力は自信あったんだけど・・・」
「まだまだ甘いわね。まっ筋はいいみたいだからがんばりなさい。
毎日たゆまず訓練を重ねたらクラークといい勝負かもね♪
新しい得物ももらったんだしがんばりなさい」
クロムウェルは昨日と同じ公社支給の深緑軍服に今日クラークにもらった黒いグローブ
見た目は布なのだが・・
「それは布に金属繊維を織りこんでさらに魔法強化された一品よ。剣撃程度なら軽く防げるわ」
そう言うナタリーはいつもの長いダブルポニテに動きやすいレオタード調の戦闘服
その上に公社が愛用しているなめし革の鎧を着ている
そして腰に下げるは二本の刀。黒い鞘が重厚感が漂う
「・・・ナタリーさんも刀を使うのか?」
「ええっ。あいつと違って物持ちがいいからこのとおり丈夫にできているわよ♪
クラークは馬鹿だからお師さんにもらった刀折っちゃってね〜」
「だからあんなブレードなんだ・・・。なんか使いにくそうだったなぁ」
「おっ!わかってるわね〜、あのブレードぐらいしかあいつの攻撃に耐えられる代物がないのよ。
でもあんだけ刃がでかいからすこぶるあつかいにくいってわけ♪」
クラークが使用しているブレードは刀の刃よりも二つ分くらいの大きさだ
「ふぅん、そうなんだ・・・うっぷ・・」
「全く、吐きそうならばそこで吐いたら?」
「いやっ、んなことしたら男子の面目が・・」
「今更気にしてどうするの?貴方も変わっているわね〜、
まぁだからここに配属になったんだろうけど・・。さぁさぁ!遠慮しない(バンバン!!)」
「うっ!おい!背中を叩くなよ!!や、止めてくれ〜!!!!」
・・・・・
男子の面目丸崩れ・・合唱(チーン)


早朝より兵舎を出発した二人だが昼頃には問題の村に到着できた。
村は畑の中にポツンとあった。
おもな作物は悪環境の中でもたくましく育つ小麦のようで数歩先が見えないくらい生い茂っている。
「これじゃあよく見ないな・・。敵がいつ接近するのやら・・」
小麦畑の間にある農道を歩きながらクロムウェルがぼやく
「あま〜い!心の眼で見なさいよ。今この畑に3人作業しているわ。
たぶん水をまいているのでしょうね」
「・・何でわかるの?」
「だから、『心の眼』すなわち感覚による周囲の察知よ。
目が駄目でも他の感覚と気配に気を配ればこのくらいはできるってわけ」
「・・・へぇ」
「貴方も13部隊で生き残るのならこのくらいはできるようになりなさい。
結成して少し経つけどどれも一対多数の超激戦よ?」
「・・・自信なくなってきた・・」
「まっ、私に任せておきなさい♪あそこが村長宅ね〜」
農道を抜けた先、村の中心部よりも離れた一軒屋が見える
木造のかなり立派なものだが結構痛んでいる。
ともかく村の中心部で聞いたとおりの外見なので二人はその中に入って行った


「・・・いやっ、公社様から派遣されたのはありがたい限りです」
村長が深く頭を下げるがいくら有名な傭兵ギルドとは言えども二人だけ、
しかもその両方が若者ともあって複雑そうな顔をしている
「いいのよ、頭下げなくても。それで、
私もボスから大して情報もらっていないんだけどどういう状況なの?」
「へぇ、クマの姿をした魔物が夜な夜な作物を荒らしに来るんでがんす。
村民もなんとか抵抗しましたが・・」
「クマの魔物、それじゃあ素人さんにはきついわね。大体どこからやってきてどのくらいの数なの?」
「被害はそう多くはねぇでがんす。たぶん数匹程度では・・。来るのは村の東側でがんす。
東に少し行くとデコボコした荒地になってますのでそこに巣を作っているかもしれません」
「ふぅん。わかったわ。じゃあ今晩早速待ち伏せしましょうか。貴方達にも手伝ってもらうわよ」
「へ・・へぇ」
訳のわからない顔をする村長、ナタリーはただにやけるばかりだ・・


その夜

村の東の街道口に座るナタリーとクロムウェル
周りは火により明るい。松明ではなく村を囲むように焚き木をしているのだ
いくら腕に覚えがある者でも村の別口から侵入されては手の打ち様はない
そこで村の周りに火をたき魔物の動きを制限しようとしたのだ
焚き木は当然村人が監視し作物に燃え移らないようにしているのだ
「クマが相手ならこうした事も有効、後は私達が退治すれば万事おっけ〜♪」
「まぁそんなにうまくいけばいいんだけど・・」
すでに準備万端なクロムウェル、後は暴れるのみと言った感じだ
「上手くいくわよ、この私が相手してあげるんだから。」
そう言うと腰に下げる刀の一本を抜く
ぞっとするくらい冷たい光を放つ刃、しかし心を奪われる美しさを持つ
「・・・・綺麗な刃だな」
素直な感想をいうクロムウェル
「銘刀『雪月花』。綺麗な刃でしょ♪切れ味も折り紙付きよ!試しに斬られてみる?」
「・・あんたが言うと冗談に聞こえない・・」
思わず身構えてしまう・・
「さっ、冗談はここまで・・。来たわね」
ゆっくり立ち上がるナタリー、刀をぬいたままだ
「?・・全くわかんないな」
「・・もう、世話が焼けるわね。前方・・1キロぐらい先に5,6匹。
この様子だと他にはいなささそうね、とりあえず、行くわよ!!」
「えっ、おい!!いきなり走り出すなよ!!」
突如駆け出すナタリー、クロムウェルも慌ててそれに続いた
・・・・
ナタリーの言ったことは見事に命中、村から少し離れたところ、
夜目になれていないとわからない暗闇の中にグリズリーが6匹静かに村に向かっていたのだ

「命中〜♪じゃっ、お仕事よ!クロムウェル!古式二刀流『鬼旋風』!」

鋭い踏みこみでグリズリー達の中に入ったと思うと一気に刀を抜き独楽の様に
一回転しながら切り払った!
それによりグリズリーの3匹は足や腕を切られている。
深手のようで絶叫したのちはあまり動けないのか倒れたままだ
「すげぇ・・」
見た目は華奢な女性が自分よりも遥かに大きなグリズリーを仕留めたことに
唖然とするクロムウェル
「こらっ!ちゃんと仕事しなさい!!」
そんな彼にナタリーが喝を入れる。
「あっ、ああ!!行くぜ!!」
ここぞとばかり残りの3匹に殴りかかる
自慢の喧嘩殺法で動物の急所を的確に突く
「その調子よ!斬りこみ役は後続のために道を作るのが仕事!
狙いはいいから後は一撃で仕留めなさい!」
クロムウェルの手伝いをせずに忠告してやるナタリー
「んなこと言ったってグリズリー相手に一撃なんて難しい・・うわっと!」
気をとられているうちにグリズリーの豪腕がクロムウェルを襲う
それをなんとか回避し、喉に全力で突きをかます!
「ゴォォォ!!」
聞きなれない悲鳴をあげてグリズリーは地面に倒れた
「やればできるじゃない、ほらっ、残り2匹がんばりなさい。2秒ね、2秒以内!」
「きついぞ!いくらなんでも!!」
そう言いつつも一頭目でグリズリーを倒すコツが掴めたのか一気に急所を叩き
2匹とも倒れた・・
「よし!どんなもんだ!ナタリーの姉御さんよ!」
「よろしい♪口だけではない・・っていうのは認めてあげるわよ♪」
「へへっ!・・ん・・こいつらまだ生きているな・・止めに・・」
「待ちなさい、それはやっては駄目・・」
いきなり真剣な口調になるナタリー、表情も恐い
「どっ、どうしたんだよ、いきなり・・」
「あれが見えないの?」
刀の柄で軽く示した先にはグリズリーの子供が数匹、心配そうにこちらを見ている
「・・・、こいつらの・・?」
「そっ、食べ物を求めてあの村に襲いにかかったんでしょうね。
子供を育てるために食物の少ない荒野から危険を犯してまで・・ね」
刀をしまいながらクロムウェルに歩み寄るナタリー
「だが、魔物は魔物だろ?殺しておかないとまた村が・・」
「例え魔物だろうが干物だろうが、子供の目の前で親を殺すことは御法度よ。
それに要は気持ち、それさえわかればこいつらも引くわ」
そう言うと倒れているグリズリーの1匹の頭を掴む
「いい?あの村にはもう近づかないの、これ以上やるなら・・貴方を斬るわよ」
最後の方に本気の殺気を込めて言う
月明かりの中で表情はよく見えないがグリズリーに何かが伝わったことは
クロムウェルにも何気にわかった
「これでよし!放っておいたらそのうち歩ける様になるわ。クロムウェル、村に帰るわよ」
「・・本当にこれでいいのかよ?あんただって魔物相手に遠慮しないって・・」
「私が責任もつわよ。それに、奪わなくていいのだったら命なんて奪わないほうがいいのよ・・」
一瞬、寂しそうにつぶやくナタリー
「あんた・・」
「まっ、これも勉強ね!さぁ村長に報告して翌朝には帰るわよ!
迅速な行動も傭兵に必要なものとしれい!!」
ナタリーが明るく言いながら歩き出す
いつも明るい彼女の違った一面を見たクロムウェル、
なんだか見てはいけないものを見た気がして黙りこんだまま彼女に続いた・・

・・・以降、この村でのグリズリーによる襲撃は全くなくなった
村にはナタリー達が「退治した」とだけ伝えたのでグリズリー達が生きていることは
村民達は誰も知らない・・



「ただいま〜!!終わらせたわよん♪」
翌日、兵舎に帰ってきて真っ先に隊長室で報告するナタリー
部屋ではいつもの如くクラークが頭を掻きながら書類とにらめっこし、
その隣でファラが丸眼鏡を光らせ間違いを指摘していた
・・彼女がやらねばならない書類はすでに終わらせている様だ
「おぉ・・おかえり。ごくろうだったな」
「なぁに、軽い軽い♪」
「まっ、事務仕事に比べたら軽いわな・・。クロムウェルもおつかれさん。
13部隊の初陣ではうまくいったか?」
「・・あ・・・ああ・・。なんとか・・」
なんだかデスクワーク中のクラークが恐く見えてしまうクロムウェル
何故だか・・生気がないからだ
「こいつったら朝練がきついからって吐いたのよ!全くね〜!」
「おい!!それは言わない約束だろう!姉御!」
あれ以来クロムウェルはナタリーの事を『姉御』と言って慕っている
本人もまんざらではない様子だ
「何の事かしら〜♪」
嫌〜な笑顔でしらばっくれるナタリー
「・・安心しなさい、クロムウェル。あんな訓練で吐かないほうがおかしいわよ」
どうやら同じ経験を持っていそうなファラが同情の眼差しで見つめる
「いやっ、そんなことで同情されても・・」
「まぁ、そのうち吐くこともなくなるだろう?がんばれよ、クロムウェル」
「・・・わかったよ!世話になるぜ、クラークさん」
バツの悪そうにクロムウェルが言う
出来の悪い部下が正式に一人増え、この夜は大いに盛り上がった・・


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