十八章  「13部隊最後の戦い」


傭兵公社第13部隊兵舎・・。
たった半日にして彼らの面々は大きく変わってしまった
ファラの部屋には冷たくなったファラとナタリーが・・。
そして作戦会議室には面々が静かに怒りを堪えて会議を始めている
・・外にはジャンヌ一味が周りの警戒をしてくれているため気がねなく今後のことを考えられる

「公社側からの連絡は一切なし、ジャンヌ達の話だともう直ここに襲撃がくる。
さらには公社勢はグラディウスへと侵攻を進めるらしいからな・・」
地図を広げ作戦を考えるフロス、しかし急激な戦力低下に彼も頭が痛いようだ
「・・・どう出る?闇雲に戦闘を重ねてもこちらがやられるだけだ」
いつでも静かなシグマ、しかし眼光は鋭い・・
「当然・・、ここを襲う部隊を蹴散らして一気に総師の首をとる。
グラディウス勢とのゴタゴタになる前にな」
地図の駒をまっすぐ公社本部へと置くクラーク・・
「・・隊長がそこまで無茶をいうなんて・・」
「今までの訓練をしてきたのは何のためだ?・・今の俺達を止める者はいない・・」
「そうだ!俺達でやらなければ誰がやるんだ!」
「・・ふっ・・。しかしさすがに連戦となり準備万端な総師とやりあうのは無謀だ。
さしずめ、私達の手のうちは全て把握しているだろう。
1度本部へと侵攻して状況を見極め、それから大将首を頂く・・それでいいか?」
「ああっ、すまねぇな。・・・それと・・だ。俺から皆に伝えることがある」
今後のことが決まってクラークが静かに立つ
「・・隊長・・?」
「俺は・・、誰も死なせたくなかった。それでもファラとナタリーを死なせてしまった。
・・もう俺には隊長の資格はないと思う。
だからこの闘いで俺は隊長を辞める。・・・そしてこの公社を去るつもりだ」
「「「「・・・・・」」」」
「だからこの闘い、俺は公社13部隊のクラークとしてではなく
一人の剣士クラークとして戦うともりだ・・。
もし、この闘いに命が惜しいと思うなら強制はしない・・」
「隊長・・いや、クラークさんらしくないぜ!俺は自分の意思で公社連中に喧嘩を売るつもりだ!」
バンっと机を叩き一番に立ちあがるクロムウェル
彼もナタリーを失い、自分の無力さを嫌でも感じたのだ。このままで終らせはしない
「もちろん、僕もおともしますよ。まだ・・何も終ってません」
「私もだ。途中下車というのは主義ではない」
「・・・・、今が立ち向かう時、逃げるなぞ論外です」
アル、フロス、シグマも一切迷いなし・・。静かに立ちあがる
「お前等・・、ほんと・・、馬鹿だな」
「隊長の影響ですね。じゃあ・・」
「ああっ、各自、装備を整え公社本部へ進行だ!この兵舎は放棄する・・背水の陣だぞ!」
「「「「了解!!」」」」
各自一斉に作戦室を去る、

逝った者達の安らぎのために・・


13兵舎前・・
すでに夜が更けているのだがそこにはジャンヌ一味がどうでるか固唾を飲んで待っている
ナタリーを運んだ時から覚悟していたのか全員フル装備で戦争にいくかのようだ
そこへ真っ先に出てきたのはクラーク・・。
薄碧のコート姿に背中にはブレード、
腰にはナタリーが愛用していた銘刀『雪月花』と妖刀『紫電』を下げている。
そして顔にはファラがいつもつけていた丸い伊達眼鏡が・・
「死んだ者の愛用品を持ち、共に戦う・・ってことかしら?」
静かにクラークを見るジャンヌ、その目に灯るは悲しみか哀れみか・・
「遺体を背負って戦うわけにもいかないだろう?
あいつらだってこの一件の行く末を見たいだろうしな」
「・・・、甘い男ね。よく今まで生き残れたもんだわ・・」
「放っておけ、これが俺のやり方だ。すまないが・・頼まれてもいいか?」
「何なり言って?まぁ真正面から公社連中とやりあうのは勘弁してほしいけど」
「そんな無茶言うかよ。公社の動きを撹乱してほしいんだ。できるだけ派手にな」
「・・・いいわ。じゃあ大規模にがんばってみるわ。それと・・、もうここやばいんでしょ?
あの二人の遺体、事を終るまでアジトに預かるわ」
「・・いいのか?」
「もちろん。これで借りは返せるわね。」
「・・全く律儀だな。裏の仕事なんて辞めて真っ当な仕事についたらどうだ?」
「それができない奴もいるからね。あたい達は家族だから一人たりとも見捨てられないんだよ」
「・・・なるほどな、まぁ・・がんばってくれ」
「お互いにね。じゃあ早速移動を開始するわ。必ず二人を引き取りにきてよ!?」
「もちろんさ、死ぬなよ」
クラークの心配を余所にジャンヌはこめかみに指をねじ込み軽く笑い走っていく
一味は散り散りに行動を開始し蜘蛛の子を散らすように辺りに消えて行った
「・・・・・・」
そんな中無言で本部の方向を見つめるクラーク、
澄んだ瞳には怒りや悲しみが感じられずただじっとそこにいる。
「・・・・、大丈夫ですか?」
そんな彼を見ながらシグマが出てくる
珍しく心配そうにクラークを気遣っているようだ
「・・あ・・ああ。お前も決戦用のスタイルか」
「元々、公社の鎧はサイズに合いませんので・・」
巨漢の戦士であるが故に装備も間に合わず、簡単な肩当て以外はいつもの服装だ
公社制服を着ていないところを見ると彼も一人の男として戦いに向かうつもりなのだろう
「頼りにしているぜ?」
「・・・、任せてください・・」

「俺達も頼りにしてくれよ?」

「もちろんだ・・、クロムウェル」
クロムウェル、アル、フロスが一緒に出てきた・・。
少なくなった13部隊が揃った
「隊長、いよいよですね・・。あの・・刀は・・」
「それはお前が持ってろ、シグマも壁になる余裕もなくなったはずだ。俺はこれがある」
そういうと二振りの刀を叩いて見せる
「姉御の剣・・、いいのか?勝手に使っても」
「ああっ、あいつも共にこの戦いを見たいだろうからな。それに・・・使って悪かったら化けて出てくるさ」
「・・・確かに、姉御らしいな・・わかった。」
「おう、じゃあ・・。そろそろ来るな・・。どんな連中が来るかわからん、各員気をつけろよ」
遠くから馬の足音が響いているのをいち早く察したクラークがそういう
「了解です・・。」
兵舎入り口にて待ち構える13部隊、そこへ馬に乗った軍団が押し寄せた

「おやおや・・、面々そろって待っていてくれたのかね?」

軍団の先頭に立つは白銀の鎧に包まれた騎士男・・グレッグ
「こっちにくるという情報は掴んでいたからな・・。お前達第2部隊が殺しにきたとはな・・」
「ふふっ、この間の雪辱、意外に早く晴らせそうだからな。喜んで13部隊壊滅の任、引き受けたよ。」
「喜んで・・?総師の暴走はわかっているんじゃねぇのか!」
戦うことを喜んでいるかのようなグレッグにクロムウェルが激怒する
「わかっていないようだね・・。我々は総師のご意志に全て従うのみ。
主人に仕えることこそ騎士としての礼儀だ」
「・・・・、お前もどうやら狂気に魅入られたようだな・・」
「ふっ、シグマ君。君こそ自部隊を抜け出して13部隊へ移動をするなんて私からすれば異常だよ」
「なんといようがお前の勝手だ。俺達の邪魔をするというならば・・一人残らず斬る!!」
「その意気はよし、我等とて誇りを元に来ている・・まぁ、
腰抜けの隊長は反対をしていたが大人しくなってもらったよ・・天国でね」
「・・、御託は十分だ。いくぞ!野郎ども!このキザは俺に任せろ!!」
クラークの叫びと共に第2部隊と第13部隊が一斉に衝突!
グレッグとクラークを避けるように戦闘が行われた
「お前の相手は俺・・だな」
「ほう、私としてはシグマ君から戦いたかったが・・仕方あるまい」
「相変わらずの余裕面だな。だが俺も今日ばかりは怒髪天を突くってやつでな・・」
「ふむっ、その重装備を見れば伺えるな・・、
では・・礼をつくしつつ公社の反逆者を処刑させてもらおう」
そういい馬から飛び降りるグレッグ・・
あの白銀剣を構え笑いながら言いやる
「今の俺を止められると思うな・・!」
静かに『雪月花』と『紫電』を抜く
「・・二刀か。ナタリー君との戦闘を思い出すな。最も・・惨めに死んでいったようだが・・」
武技会での彼らしからぬあざ笑う発言・・
「・・・何だと・・・?」
「不退転の覚悟は見事・・だが相打ちを狙う事自体がみっともない・・。
勝てぬとわかっているならば尻尾を捲いて逃げるべきだったな・・・ぬっ!!」
グレッグの言葉が言い終わらない内に彼の目の前に飛びかかるクラーク!
「古式二刀流!『鬼旋風』!!」
クラークが二刀を同時に振りグレッグに斬りかかる!

キィン!!

鋭い金属音とともにグレッグが後ずさりをする!
「ぬぅ・・この力・・・」
驚くグレッグにさらにクラークは肉薄し・・

斬!!斬!斬!!

まさに音速な連撃!
背中に重量のあるブレードを背負っているとは思えない軽快さだ
グレッグの白銀剣は弾き飛ばされ鎧越しに鋭い衝撃が身体を襲う・・
「ぐわ・・っ・・おの・・れ!」
何とか反撃しようと痛みの走る身体をこらえ突きを放つ・・
しかしクラークはそれよりも早く踏みこみ
「舞え・・紫電!!」
超至近距離から妖刀『紫電』の雷光真空刃を放つ!
「う・・おおおおおおおお!!!」
グレッグは感電しながらも衝撃で吹っ飛ばされた・・。
公社の「帝者」がこれほどあっけなく倒される風景は第2部隊にも動揺を与えているようだ
「命をかけて仲間を守ったナタリーを馬鹿にするやつは俺が許さない・・。憶えておけ!」
クラークにとってもナタリーは特別な存在。
恋愛の対象こそならないがそれこそ半生をずっと共に生き切磋琢磨に剣を競い合った仲なのだ。
その彼女の名誉を傷つける行為にキれたようだ
「ぐ・・ふふっ・・。間が抜けていそうで中々激情家じゃないか・・」
刀傷と感電傷に瀕死のはずのグレッグが笑いながら立ちあがる・・
「・・・・」
意外に平気そうな彼に黙りながらも内心驚いているクラークだが・・
「やはり、この身体では剣聖帝には勝てぬか・・・。」
「この身体だと?」
「ふふふ・・見せてあげよう・・!総師の思惑をな!」
そういうとグレッグの身体が大きく変化をする・・
右肩が大きく盛りあがりまるで怪物のようだ。さらには腹が縦に割れ鋭い牙を持つ口が・・
「・・・、それがお前の理想か?」
「そうだ、総師の御心に同調し選ばれた者のみがなれる進化した戦士・・それが私だ!」
クリーチャーと化したグレッグ・・、口調も荒荒しくなっておりもはや彼ではないようだ
「進化した・・だと?なるほど、総師は人間を化け物に変える事が目的か・・」
「抜かせ!」
そういうと巨体を勢いよく反動付かせ宙へと飛び立つ!
そして流星の如く落下しクラークの元へ!
「・・・ちっ!」
間一髪飛びのくがそこにはクレーターが・・
グレッグは振り向きもせず肥大化した右腕を振りクラークへ追撃を仕掛ける!
「何!?」
でたらめな攻撃に回避が遅れる・・、腕は寸分の狂いもなくクラークの胸へ
「もらったぞ!剣聖帝!」
胸をえぐることを確信するクリーチャー。
しかしその間にすばやく割ってはいる巨漢の影が・・・
「ぬぅん!!!」
大戦斧にてまともに受けとめる戦士・・シグマ
「邪魔が入ったか!」
「・・・・・、相手が貴様以外いなくなってな・・」
ジッとグレッグを見据える13部隊の守護神というべきシグマ
確かに周りを見たら第2部隊の戦士が全員倒れており、対し13部隊の面々は無傷
接近戦で不安があったアルも公社相手に弓と刀を巧みに使い分け戦ったようだ
そしてフロス・・、もはや軍師というよりも一人の戦士というべきか・・。
鉄棍を携え息を切らせながらも無傷で乗り切ったようだ
「なるほど・・、では5対1か・・。それもよかろう。今こそ公社最高の戦士が誰か証明してくれる」
「・・・・、いやっ、お前の相手は私だけで十分だ」
「シグマ?お前・・」
「この後さらなる激戦が予想されます。雑魚に労力をかけては大事に触りますので・・」
静かに言ってのけるシグマ
この男が言うとどれだけ心強いものか・・
「シグマの言う事に甘えようぜ?クラークさん。
人間のなりそこないに寄ってたかってってのはみっともねぇ・・。
まぁシグマが名乗り出なかったら俺がそいつをぶっ殺していたけどな」
軽く言うものの殺気が凄まじいクロムウェル。
ナタリーのことを悪く言われた事に殺気を放っているのだ
「・・やれやれ、じゃあシグマ・・頼むぜ?」
「承知・・」
「ふん、黙って聞いてやれば図に乗りおって・・。
いいだろう!まずは貴様から血祭りに上げてくれる!」
シグマに特攻をするグレッグ・・
しかし

バキ!!

物言わぬシグマは無造作にグレッグを殴り飛ばした
「ぬぐ・・」
「私を甘く見るな・・。ファラとナタリーの無念・・貴様の身体で晴らさせてもらう!」
巨漢戦士の咆哮、物言わぬシグマが気合いとともに戦斧を振るう!
「馬鹿め!その程度の攻撃なぞ・・!」
強靭な腕で戦斧を受けとめようとするグレッグ
・・しかし・・

ズバッ!

「ぐ・・・ああああああああ!!」
腕を見事切り落とすシグマ・・・
「・・・・・、人外の力に頼る余りに技巧を忘れたか・・・・」
そう言いやると大戦斧を構えなおし真一文字に・・
どんな大木でも切断できそうな一撃はグレッグを真っ二つにする!
「ば・・馬鹿な!私は神の細胞を与えられた新たな種だぞ!貴様なぞに!!」
「・・・、慢心すればどんな種だろうが地に落ちる。・・落ちろ、どこまでも深く・・」
そう言うと戦斧を両手で持ち・・

豪!!

凄まじい風圧とともにグレッグへ止めを刺す。
高みを見て道を誤った騎士は惨めな最後を迎えた・・

「・・・流石は元剣聖帝・・。恐ろしいもんだぜ・・」
その風景に口笛を吹きながら感心するクロムウェル。
謙虚なシグマについつい偉そうにしていた彼だがあたらめて彼の凄まじさを実感しているようだ
「そうですよね・・。」
「感心している場合か。これで私達を止める者はいなくなった・・。本部へと一気に攻めるぞ」
「了解だ。こいつらの馬を失敬するぞ!全員目指すは公社本部!
そこに総師がいるかわからんが手がかりはあるはずだ!!」
「「「応!!」」」
気合いと共に13部隊は公社本部へ・・・。





公社本部・・。
深夜にも関わらず常に松明と錬金灯により明るい屋敷。
しかし奇妙なまでに人気はなく、いつも万全の体勢で警備に当たっている兵も今はいない
「ちっ・・すでに出陣した後か!」
本部のホールにて舌打ちをするクラーク・・。予測していたとはいえ口惜しいのだろう
「馬を乗り潰すぐらい飛ばしたが・・。でも、ここに何かヒントがあるんじゃないのか?」
「そうだな。あのグレッグの変貌、そしてジャンヌが言っていた化け物との関わりも気になる・・
各自分散して調べてみるか」
「そうですね。・・でも、伏兵の心配とかは・・」
「それはないとは思うが・・一応は用心したほうがいい。
なんせ行動がわからない総師の寝床だからな・・」
「じゃあ俺は執務室から調べる、クロムウェルとアルは2階、フロスとシグマは1階を調べてくれ」
そう言い一人執務室へと入っていく。




執務室は全くそのままの状態だ
大きな机も、ソファも・・。そして時間の流れが止まったかのような奇妙な感覚も・・
「ここに何かある・・」
そう言い机を乱暴にあさる。鍵がかかっていたものの刀で切断し中身を確かめる
公社の支出を表した書類や部隊別の戦歴など様々・・
しかし、そこへなにやら厳重に保管されているかと思われる黒いファイルが・・。
ファイル自体に鍵がかけられており何度も読み返したかのように痕が見られる
「・・・・、これは・・・」
鍵をこじ開け中身を見るクラークだったがその中身に愕然とする

超人種による調査結果

『公社運営にて各地に兵を派遣する中で
稀に人間とは思えないくらいの技量と判断力を持つ者がいる。
通常に兵では相手にならず公社の運営上のことも考えその内容を調査した
彼らは人間の姿をしているがその内面の能力は他を圧倒するものがある。
特に危機に瀕した時のその力が開花し、成長することが確認されている。
彼らは太古に悪魔種か天使種と交わりを持ち特殊な能力を持った者の末裔と推測されるが
事実は不明だ。
そこで彼らの事を「超人種」と名付け公社にてその能力を持つ者を見つけ開発する事にした。
これで現状について何かわかるかもしれない。』


超人種の適性者

『総師の命により現時点での超人種の適性にありそうな
戦歴の持ち主である者を集め部隊を編制した
被験者の名はクラーク=ユトレヒト。
現16部隊配属でありこれまで数々の命令違反を繰り返してきた札付きの兵だが
能力は確かなものがある。
特に危機に陥った時の粘り強さは超人種としての片鱗を感じさせ我が情報部により推薦をした。
彼には今後部隊長となってもらいいくつもの難解な任についてもらう。
それにより窮地による彼の超人種としての開花を観察したい
なお、より困難さを求めるために彼の部隊は極少数、
さらには問題のある隊員を加えさせ経過を見ることを進める
部隊は13番目でいいだろう。・・災いを呼ぶかも知れない部隊なのだから』



13部隊の経過

『これまでの戦歴を見ればその内容に驚かされる。
たった数人で一個部隊に匹敵する戦果をあげているのだ。
詳しい報告では問題隊員を手なずけ統率を計っているとの事だが16部隊の時にはどうしようもない命令違反兵士だった者とは思えない行動だ。・・これも超人種との適正か

今回は新隊員として先日公社におとずれたアルフォード=マルタの経過も報告する。
彼は当初我等が推測していた超人種の類に最も適合している人間とエルフの末裔であり
人間の身体からして見事な身体能力を見せている。
だが、それは弓の腕などに留まっており試験では危機状況に置いて
混乱を起こしそのまま気絶するといった事態が生じた
これにより超人種としての可能性は低いのだが特殊な例として入団を許可し
クラーク=ユトレヒトとの経過の比較に使用するといいだろう

それと、最近暗殺依頼された国家反逆者についてだが、
相次ぐ返り討ちに合っているようなのでこれ以上は
依頼を遂行する事は無意味と情報部では結論をつけた。
事情は国家機密だということなのだが動きが人間離れしており公社の戦士でも丸で刃が立たない。
私の推測でその反逆者も超人種に似た存在だろうがこれ以上の詮索は不要だ
依頼国ヴィガルドについてもこの一件を機に関わりをなくしたほうがいいだろう』

武技会の報告

『武技会におけるクラーク=ユトレヒトの活躍は我等が予想していた通りであり
また恐ろしいものでもあった。
しかも総師の計らいで連戦となった状況で前剣聖帝であるシグマ=カミュを討ち取ったことは
戦いの中で進化をしているということの裏付けなのかもしれない
しかしそれには同隊のファラ=ハミルトンの声援が
大きく影響をしているということも関係しているようだ。
総師がさらに彼の進化を促したいというならば彼女を殺害して
クラーク=ユトレヒトの覚醒を呼び起こすきっかけとすればいいだろう。
・・ただ、今日決まったゼダン奪回での任が完遂できれば・・だが・・
正直私には不可能だと思う。もし彼がゼダンを奪還だきれば彼はすでに人間ではない。
・・経過を見逃さないためにも情報部の全員を動かしてもその動向に注目したい』


13部隊生還について

『まさに奇跡としか思えない・・。私としても信じられないくらいだ。
隠密に優れる情報部でさえ多数の被害を受けた中死者を一人も出さずして
ゼダンを奪還させるとは・・。
もはや彼は人ではない・・。
総師の理想の戦力として十分な働きを見せるだろう。
それでこそわざわざ戦争を仕組んだだけの事はある。
だが、まだ彼の進化は止まらないのかもしれない。
・・そうなると総師の身に危険が押し寄せるかと思うのだが
それも先日手に入った人工的に肉体を変化させる妙薬があれば対抗できるだろう・・
これでグラディウスを制圧すれば我等の楽園が完成する。
最強の兵士クラーク=ユトレヒトと人ならざる変異の軍団。それさえあればどんな敵も
寄せつけないはずだ』

・・ファイルには他にもこれまでの部隊に起こった事などが詳細に書かれていた・・
「・・俺達は・・さしずめモルモットだったということか・・」
書類を握りしめるクラーク、危険動物にされたことへの怒りではない
自分のために大切な二人の家族を失ったことが許せなかったのだ
「だが・・こいつら・・グラディウスへと戦争を行ってどういうつもりだ・・。理想郷・・?」

「自らの枷を放ち自分の国を作るつもりなのです・・。
それこそ戦いの絶えない戦士達の理想の世界へと変えるために・・」

不意に声が響く・・、見れば窓際に一人の人間が立っていた
マントを深くかぶっており声からして女性だということはわかる
「総師の者か・・?」
不意打ちもせずそういうマント姿の女性はそこにいるのだが一応は刀を抜き警戒する
「剣を収めてください。私はグラディウスの者です・・」
「・・わかった・・」
素直に刀を収めるクラーク、それをみて今度は女性が驚く
「・・・随分とあっさり認めてもらえましたね」
「敵意を感じないし・・信用できそうな気がするからな」
「・・・・なるほど」
その一言に納得したような女性
「でっ、グラディウスの奴が何の用だ?総師はおたくらの首をとりにいったようだし」
「それは承知しています。私も詳しくはグラディウスのものではありません。
・・国を離れた第四王子ダグラスに仕えるものです」
「ダグラス・・?最近王を追放されたっていうあの王子か・・」
「ご存知でしたか・・。私は彼の命で様子のおかしい公社の動向を探るつもりできましたが・・
すでに時が遅く・・・」
「そうだったのか・・、グラディウスは傭兵公社の反逆については・・?」
「全く・・、現王は公社は自分の飼い犬と思いこんでいるようですから・・。
それに王も他国侵略へ頭を巡らせていることばかりで恐らく今ごろは・・」
「・・・なるほど・・。これが総師の思惑のようだ・・見てみな」
自分に対する書類を女性に手渡すクラーク、
女性はマントごしにそれを見るが読み終わるころには手がワナワナ震えていた
「こんなこと・・」
「このままグラディウスへ侵攻を許せば一般市民も巻き添えをくらう。
現に一つの村が皆殺しにあったからな・・、あんた、そのダグラスに願い出て民の避難と
暴走の鎮圧へ手助けをしてくれるようにしてくれないか?」
「・・・、そう・・ですね。グラディウスの民は王に対して愛想を尽かしています。
きっと王子の声にしたがってくれるでしょう・・。
ですがそれが終わるまで我々は加勢はできません」
「それはいいさ。元々俺達は総師を殺すためにきたんだ。
道を切り開きあいつを倒せば公社連中も足並みは乱れる。
そうなれば少なくても被害は食い止められるだろう」
「・・わかりました・・。ではそうお願いしてきます。ですが我等の第一の目的は王族の暗殺です
・・それを第一の行動とさせていただきますので・・」
書類を投げ返し窓から音もなく出ていく女性・・
「親殺し・・か。どこも物騒なものだ」

「クラークさん、調査が終わりました。どうやら誰もいないようです・・けど・・」

執務室に入ってきたアル、扉の向こうには全員集まっているのがちらりと見える
「何か見つかったのか?」
「客間に血痕が・・」
「・・・・・」
だいたいの予想はつく・・それでも確認の為にアルの後に続く・・。

・・・・・・・
アルが案内した客間・・、それはその日の昼にファラが殺された所だ・・
ソファ付近に血だまりが出来ておりそこには書類と羽根十字のネックレスが落ちている
そして血が滴る様に窓まで伸び、窓が割れている
「・・・ファラ・・・」
血のついたネックレスを持ち握る・・・
「・・あの・・クラークさんは何か見つけたのですか?」
「ああっ・・、この書類と一緒に見てくれ」
1度握りつぶしたあの書類と血にまみれた書類を取りフロスに渡す
・・・・
しばらくしてフロスは驚き唸っている
「何が書かれているんだ?フロス副隊長?」
「・・・、13部隊の結成の真実だ。
要はクラークの力を開花させるために全て仕組んでいた・・っということだ・・」
「・・・・、全て・・ですか?」
「そうだ、例えばあのゼダン奪還に関しても
総師がビルバオとシュッツバルケルを操って起こさせたらしい。
この血まみれの書類にはその詳細も描かれている・・そしてファラやナタリーも・・」
「俺の『超人種』とやらの能力の開花のために殺した・・、
死体を見せて逆上させれば何か起こると踏んだんだろう・・」
「・・・ふ・・ふざけやがって!!!」
怒りの余り壁を殴るクロムウェル・・
「そんな事って・・、隊長・・」
「俺にそんな能力があるかは知らない・・しかしこうまでコケにされて黙っていられない・・
先ほどグラディウスの人間とも会って協力を頼んだ。総師を倒すぞ・・」
「・・・、了解」
「わかりました。必ず・・僕達の手で・・」
「ああっ!俺達を甘く見たことを後悔させてやる!」
「・・、盛りあがるのはいいのだが総師の行方はわかったのか?
そこいらの手がかりは私は掴めていないのだが・・」
一人冷静なフロス・・、それに皆さん肩透かし・・
「そうだった・・、っうかグラディウスに向かっているんだから
グラディウスに行けばいいんじゃないか!?」
「そんな闇雲だといつまで経っても辿りつけないっつの!・・くそっ・・どうする・・。
あいつに聞いておくべきだった!」
ダグラスに仕えるという女性ともっと話しておくべきだったと後悔するクラーク・・
一同どうするか手込めている・・
そんな時、クラークが手に持つファラの羽根十字ネックレスが淡く輝き宙へ浮く・・
「な・・なんだ・・」
驚く一行・・。そしてネックレスはある一方へ向かって閃光を放ち、クラークの手へと落ちた
「あの方向は・・。グラディウスと結ぶ旧山道・・。まさか・・」
「・・そのまさかに信じてみよう・・ファラの贈り物だろうさ・・」
突如起こった不思議な現象に素直に信じてみようとするクラーク・・
彼女が大事にしていたものであるゆえ迷いはない
「手がかりもないし。結局山越えなきゃグラディウスへはいけない・・俺は賛成だ」
「僕もです。例え隊長じゃなくなってもクラークさんの言葉は信じますよ」
「・・・・、そうと決まれば急ぎましょう・・。グラディウス勢と衝突してからでは事態は難しくなります」
「・・ああっ、じゃあクラーク・・。指示をだせ・・」
「フロス・・ったく・・13部隊!これが最後の戦いだ!旧山道を駆け上り傭兵公社総師を倒す!」
クラークの命令に士気も高まる・・、
決戦の予感を感じながら13部隊は死地へと赴く・・


<<back top next>>