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第三節  「破魔僧『阿闍梨』」





ナタリーの墓で再会をしたクローディアとツクヨ
墓参りもそこそこにひとまずはツクヨの家へと移動する事になった
ツクヨの住み処はナタリーの墓がある寺より村を3つ程離れた場所にある
農業が生活の要であるカムイでは村周辺に広大な農場があるために村間の距離はかなり離れている
故に村3つ分とは言えども移動距離は相当なモノであるのだがそこは女傑2人
常人の非ではない健脚にてその日の内にツクヨ宅へ到着しその日は昔話と近況に華を咲かし夜を明かした



そして翌日・・

「先生、宜しくお願いします」

「貴女とこうして鍛錬するのも久々ですね・・、どこからでも打ち込んできなさい」

ツクヨの自宅・・、小さな道場もある一軒家の庭にて朝から対峙する2人
武芸者の朝は鍛錬から・・まずはクローディアの力量を確かめてから話をするという事になり
丹念に体をほぐして用意を終えた
双方簡素な稽古着、手に持つ得物もクローディアは木刀、ツクヨは長めの棍であり
本域ではない事が伺える
だが・・
「クローディア、言うまでもないですが・・」
「打ってくるからには全力で・・・ですね、先生」
双方神経を研ぎ澄ませており剣気を放っている
「・・よろしい」
口角を上げツクヨが笑う、それに対しクローディアも笑みを浮かべるのだがそれも一瞬、
すぐさま研ぎ澄まされた剣気を放ちその体が跳ねた!

「鋭!」

素早い踏み込みとともに横薙ぎの一撃!
木製の模造刀とは言えどもその鋭さはかなりのモノであり骨ぐらいなら簡単にへし折ってしまう威力はある
しかし、それは命中すればの話
全盲の師は涼しい顔のまま音もなく半歩下がり、木刀は空を切った
「破!!」
一撃が回避されても尚切り込むクローディア、
初手で捉えられる相手とは最初から思ってはおらずすかさず次の一撃に繋げる!
横薙ぎから踏み込んでの切り上げ、モーションはやや大きくなるものの
相手は回避動作を行ったばかり・・加えて得物は槍を模した棍、接近戦では素早い攻撃はできない
しかし、相手は東国最強の女傑。
まるで最初からその太刀筋を予想していたかの如くふわりと回避をした
「詰めが甘いですよ」
緩やかな回避動作、そこから刹那にて踏み込み掌底を放つ!
「っ・・・破ぁ!」
体術での反撃にクローディアの顔色は一瞬変わったが、自身を襲う一撃に対し彼女も掌底にて合わせる
ただしそれは真正面からではなく横から・・
目的は叩くのではなく流す・・
力ではなく技でツクヨの反撃を流し、それをチャンスとクローディアは掌底で体を流しながら胴を回し片手にて刀を薙ぎ払う
「ふふふ・・」

カァン!!

確実にツクヨを捉えた一刀・・しかしそれを受けてやるほどツクヨも甘くなく
とっさに棍で一刀を受け止め木材がぶつかり合う独特な音が鳴り響いた
しかし、それで終わるクローディアではない
攻撃が止められたのであるならばすかさず次の手を出せばいい、すかさずに刀を引きながら両手で持ち直し
ツクヨの頭目掛けて渾身の力で振り下ろす!

カァン!!!!

一際大きい衝突音、無駄な動作なく最短で仕掛けた一撃は呆気なくツクヨに受け止められる
そして・・
「・・ふっ!」
「っ!!!」
軽い呼吸とともにクローディアの体は凄まじい衝撃とともに吹き飛ばされる・・
何気ない動作だがここがツクヨの恐ろしい実力
片腕だけでも人を軽々と吹き飛ばす程の腕力を秘めているのだ
対しクローディアは衝撃を受けながらも木刀を手放さずに着地し体勢を整えようとする
思わぬ負荷に彼女の体の反応は少し鈍るもののそれでも常人を遙かに超える体捌きで切っ先をツクヨへと向ける
しかし、そのツクヨはいつの間にか彼女の目の前まで迫ってきており・・
「受け取りなさい」
目にも止まらぬ速さで放たれる棍・・それはクローディアの喉を正確に捉えていた
タイミングからしても正に必中の一撃、並大抵の者ならば身動き一つ取れずに急所を突かれるところだが・・
「まだまだ!!」
不安定な状態ながらも放つ横薙ぎの一刀
居合いと見間違える程の速度で木刀は棍を弾いた
これにはツクヨも予想外であったのか一瞬驚きの表情を見せるも軽く笑みを見せすかさず棍を戻す
その刹那、突如として棍の数が増えた
目にも止まらぬ連続突き・・、至近距離からでは正に回避は不可能
だが・・

「はぁぁぁぁ!!!」

気迫と共にクローディアの木刀が空を切りツクヨから放たれる無数の突きを確実に捌いていく
剣身の長さからして、捌く事に適している木刀とは言い難いのだがそこはクローディア
抜群の剣速にて女傑の突きの速度に付いていき捌いていく
しかしそれも辛うじて成せている事であり反撃の機会を作る隙すらない
一方的な防戦、手傷はもらわずともクローディアの消耗は激しく額に汗が滲み出ていく
・・そして・・
「ふっ!」
ツクヨの突きがもう一段階、速くなる・・
そしてその瞬間にクローディアが持つ木刀の剣身が爆ぜた
それはクローディアが得物にて防御をしたのではなく・・
「己の気を抜けば得物の気も抜けます、神経をもっと研ぎ澄ませる必要がありますね」
静かに笑いそう言うツクヨ
最後に放った一撃はクローディアではなく木刀を狙い放たれ、見事にそれを弾け飛ばしたのだ
「はぁ・・はぁ・・ありがとう・・ございます」
「流石に息が上がっていますか・・、ですが見事です。
この私を相手にここまで渡り合えるのはアルベルト以外では貴女が初めてですよ」
「そんな、私なんて・・まだまだです」
呼吸を整えながらも謙虚さを忘れないクローディアなのだがそれにツクヨも苦笑を浮かべる
「謙虚さも大事ですが自身を誇る事もまた大事です。そこらは・・クラークに教えられているようですね
攻めにも良い荒さが加わりました」
「良い・・荒さ・・?」
「例えば体術の組み合わせ・・あの動きはクラークのモノを模したのでしょう、刀一筋の貴女にとっては良い傾向です」
「は、はい。兄上からの助言にて組み入れていましたが・・・」
「それでいいのですよ。さて・・貴女の腕はよくわかりました、これなら安心して任せられるでしょう・・
訓練はこれまで、ひとまずは汗を流しましょう」
軽く言うツクヨに対しクローディアは大きく息をつき呼吸を整えるのであった


・・・・・・・・


しばらくして・・
水浴びをして汗を流し落とす2人、
ツクヨ宅は彼女一人が暮らすには不自由がない広さの平屋であり道場や客間なども備えている
っとは言えども道場は現在は付近の子供達の勉学を行うためのスペースとして使われており
ツクヨ自身が鍛錬として使う事はないのだがきちんと整理はされている
それは客間にしろ他の部屋でもそうでありおおよそ生活感が感じられないほど整理されている
几帳面云々ではない、そうする事も心の鍛錬としているのだ
クローディアも彼女にそう教えられておりやや殺風景な居間に座れども何やら懐かしい気持ちに包まれていた
「・・さて、余り焦らしても意味がありません。今回貴女を呼んだ用件を言いましょう」
その中でもツクヨは何時も通り、だが遠路遙々手を貸しにやってきた娘のためにやや上等な茶葉にてお茶を淹れていたりしている
「お願いします」
「クローディア、貴女は阿闍梨(あじゃり)の事は知っていますか?」
「阿闍梨・・確か古くからカムイに伝わる女人の破魔僧の事・・ですよね。
魔を砕く者として戦巫女と同等・・いやっ、それ以上の力を秘めているとか・・」
「その通りです。戦巫女は祭具にて、阿闍梨は法術にて魔を砕きカムイを影から支えてきました。
双方同じ様な性質なのですが、阿闍梨は高位の僧としてカムイの(まつりごと)にも深く関わり合いを持っています。
それ故に民は彼女達の存在を知る機会はないのが現状です」
「そう・・ですね。大きな寺院にて祈祷を行っている事ぐらいしか私も知りません」
「確かに、大規模な寺院に阿闍梨衆は駐在をしていますが問題はそこではありません・・
先ほども説明したようにカムイの政に阿闍梨は関わりを持っています。
しかし・・ここ数ヶ月、彼女達の総本山である七天阿闍梨院(しちてんあじゃりいん)から連絡が取れなくなったのです」
「・・連絡が・・ですか」
「ええっ、総本山は人里離れた秘境にあるが故に連絡が遅れる事は稀にあるのですが、途絶える事は未だかつてありませんでした
何か異常があったとみて調査に数名向かわせたのですが、その者達の連絡が途絶えました」
「・・・では、各地の寺院に駐在している阿闍梨達は・・」
「そこです・・、寺院に駐在していたはずの阿闍梨達も刻を同じくして突如として姿を消しました。
世間にその事は広まっていませんがカムイ政府はこの事態を重く見ております
そこで・・最悪の事態を想定してに貴女には隠密で調査に向かって欲しいのです」
「その総本山で様子を伺えば良いのですね」
「そうです、本来ならば貴女にお願いすべき事ではないのですが・・七天阿闍梨院はカムイの政治に関わってきているだけに
私達が表立って動いては警戒を招いてしまう恐れがあります。
貴女ならば隠密で行動でき腕も確か・・適任と思ったのです」
「わかりまして・・先生の力になれるのであれば喜んでご助力します」
「・・頼みましたよ。念押しでクラークも呼べればいいのですが・・あの子は要らぬ騒動に巻き込まれ否応がなしにも目立ってしまいますからね」
軽くため息をつくツクヨに対しクローディアは予想通りの反応に苦笑を浮かべる
「それで・・具体的に私はこれから何をすればいいのですか?」
「七天阿闍梨院総本山の場所は政府高官にしかわかりません、移動手段を含め一度王都に向かいタケル王に会いなさい
以後の行動は王から伝わるでしょう」
「わかりました・・が、私は先生とは違い王城へ入られる身分ではありません。
先生の書状が何か・・用意をお願いしなければ・・」
「何を言っているのですか・・。助太刀とは言え、貴女やクラークは先の戦乱でイザナギ様を助けた身・・
今でもクローディア=グレイスの名はカムイ政府に『勲士』として登録はされています
勲士章もきちんと私が保管してますよ」
そう言い綺麗に包まれた布袋をソッと出しそれを解く
その中には金で出来た菊の紋章が煌びやかな輝きを見せている
「勲士・・確かカムイ国軍でも名誉に預かった一部の武士にのみ授かる地位・・
私などが頂いても・・」
「ふふふ、謙遜のし過ぎですよ、クローディア。これを見せれば王城へも自由に出入り出来ます。
表立っては動けませんが私も別で動きをかけましょう」
「わかりました・・、最善を尽くします」
「頼みましたよ。こうした事ならば貴女が世話になっている『ユトレヒト隊』として依頼をした方が危険は少ないのですが
いかんせんカムイでは大陸の人間は目立ってしまいますからね・・」
「・・ふふふ・・」
「・・?どうしたのです?」
「──いえっ、世話になっている人が先生が仰る事を事前に言っていたものですから、つい・・」
「なるほど、クラークが長を務めるとは言え思慮深い者もいるようですね。少しは安心しました」
そう言い笑みを零しながら茶を啜るツクヨ
感じからして本当に安心をしているようで、
どうやらクラークがリーダーを務めている事に対してかなり疑問を持っていたようであり
クローディアはただただ苦笑を浮かべるのであった

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