四章  「癒着」


ブレイブハーツ『氷狼刹』の持ち手がやってきて村人達も
当初は騒いでいたがすぐに静かになっていった・・。

なんせ小さな村だ、今まで騎士がいなくてもどうにかなってきた所なので
彼女が活躍する機会が全くないのだ・・・

「ま〜〜ったく!これじゃあ厄介払いされたのと変わらないじゃない!」
詰め所で葡萄酒をラッパ飲みするセシル・・
「まっ、地方の騎士なんてそんなもんでしょ?
平和なのはおおいにケッコー!!!」
相手をするは黒髪くくった活舌女ナタリー
「傭兵のあなたが言うのも何か変だけどね・・」
盛り上がる二人を見てお茶を飲みながらタイムが呟く
「タイムさん!なんで飲まないの!?」
「下戸なの・・、勘弁して・・」
「へぇ、タイムさん飲めなかったのですか・・」
可愛い顔してゴクゴク飲んでいるクリスが意外そうに聞く
「っというより・・クリスが酒豪なのが意外よ・・」
「タイムはほんっと駄目なのよ〜、恋人に注がれたら飲むかもね♪
おやっ、アル君何ガチガチになっているの?」
詰め所の隅で緊張しているアルフォードことアル・・
「いやっ・・、こんな女の人ばかりと一緒にいることがないので・・」
「ごめんね〜!こいつって女っ気全くないのよ〜!
あんたも男なら女の一人や二人ぐらい襲っちゃいなさいよ♪」
「いや・・、ナタリーさん・・。そういうのはちょっと・・」
「でもアルさんみたいな人って時間が経てば結構言い寄ってくる人が
結構出てくるんじゃないですか?」
「何?クリス・・。その根拠は?」
「女の勘です♪」
その勘は奇しくも当たる事になる・・
「でもこうも暇だとやることもないわね〜、
何かここら辺って見まわるような所あるかしら?」
「そういえば僕達が張っているテントの近くになにやら古い神殿のようなものがありましたよ?」
「神殿・・?そんなもんあるのね〜・・。よし!翌朝になったら行って見ましょう!!」
「ちょっとセシル・・、本気?」
あからさまに呆れるタイム・・
「うん!魔物が住んでいたら危ないじゃない?」
「そうですね!これも村の平和のため!!」
クリスも燃え燃え・・
それ以降も神殿の話で盛り上がり
ナタリー、セシル、クリスの3名はいつしか酔いつぶれた・・


翌日
神殿探索はしっかり覚えておりセシルとクリスが鎧を着て武装・・
「そういえばクリス、あんた得物は?」
「支給品のレイピアです!」
確かに質素な作りで柄の部分に支給番号が刻まれている・・
「これじゃあ何かあった時に役に立たないわね〜」
支給品キラーなセシルさんが言う・・・
「そうなんですか!?」
「まぁ、ね・・。あそこって騎士の数が多いから必然的に支給品の質が下がるのよ。
・・・じゃあこれを使いなさいよ」
腰に下げている剣を渡す・・
氷狼刹ではなく白銀の剣だ・・
「これ・・は?」
「私がローンで買った物♪こいつもらったから使う必要なくなったのよ」
腰の魔剣を軽く叩く・・
「いいんですか?先輩のお金で買ったのに・・」
「いいのいいの、可愛い後輩のためじゃない♪」
「先輩・・、ありがたく頂きます!」
白銀剣を持ちじ〜んっと感動するクリス・・・
「さっ、じゃあ行きましょう!」
意気揚々と出発する二人

「・・元気ね。さて、事務でもしましょう」
一人居残り事務をこなすことにするタイム。
うるさいのもいなくなりはかどりそうと
少しは上機嫌のようだ


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
その神殿は針葉樹の森の奥にひっそりと存在していた・・・
シダがびっしりと覆っておりよく目をこらしてみないとわからないくらいだ・・
「神殿・・・ですか・・」
「なんか・・廃墟ね・・」
ボロッチさに唖然とする二人
「まぁ、暇つぶしだし・・行きましょう」
ズンズン先に進むセシル。クリスも恐る恐る後について行った・・・




内部は外以上に荒れており壁が崩れたりしている・・
「・・・妙ね・・」
「?何がですか?」
「これ見てみなさいよ」
壁のロウソク立てを指す・・
最近使われた形跡がある、それも通りにあるロウソク立て全てに、だ
「こんだけ森の中にある廃墟なのに、照明が使われている・・
こんな居心地よさそうなとこに魔物が住んでいないのも変だわ」
「ナタリーさん達じゃないのですか?」
「それはないわね、あいつら場所だけしか知らないみたいだったし
ここ使っていたのならわざわざ外でテントなんて張らないわ」
「・・じゃあ・・」
「何かいるってこと・・・、気をつけて」
魔剣『氷狼刹』を抜き用心するセシル・・
クリスもそれにつられ白銀剣を抜いた
「・・なかなか似合っているじゃない?」
「へへっ、ありがとうございます・・」
先輩からの頂き物に嬉しく思うクリスであった
「・・!!おしゃべりはここまでのようね」
遠くから足音が聞こえたので表情を変えるセシル
壁にへばりつき恐る恐る足音の主を確認する・・・・
(・・・・法師?)
そこにいたのはなにやら黒いローブを着込んだ男だった
(あんな魔術師風の男が何しているんでしょうね・・)
(少なくとも、祈祷をしているようには見えないわね・・)

もっとよく確認しようとするセシル・・

コツン・・

男に気をとられすぎていて思わず小石を蹴飛ばしてしまった
「!!誰だ!!」
その音にもろ反応する男
(アッチャ―・・、こうなったら仕方ないか)
心の中で舌打ちをするセシル
「ええー、おほん。私はこの近くの村の・・うわっ!!」
自分の身分を明かそうとしたがいきなり襲ってきた法師風の男
「おのれ!生かして返さん!!」
魔法で合図し、援軍を呼ぶ・・
「・・こりゃあ穏やかじゃないし・・、話し合いでは済まないわね・・。
クリス!実戦よ!」
「わかりました!!」
「私が斬りこむから無理はしないで!」
そう言い放ち一気に駆け込む!
魔剣を振りかざし男を浅く斬った・・
「ぐ・・、ああ・・」
うめき声と共に地に倒れる男・・
「安心せぇ・・、峰打ちじゃ・・」
「先輩、その剣、両刃・・」
「あらっ?まっ、いいや・・」

「いたぞ!」
「殺せ!!」

通路の奥から同じように出てくる法師達・・
「ちっ、奥で何しているのやら・・。いくわよ!!」
気合い一発!氷狼刹に魔力を込め力ずくで振り払う!
それと共に吹雪きの如くな嵐が吹き荒れる!!
「くっ・・!私以上のじゃじゃ馬ね・・・・!!」
制御がうまくいかず攻撃を中断・・

それでも目の前には銀世界が広がっていた・・・・
「・・・芯まで凍りついているみたいですね・・」
氷の像と化した不審者達を叩いて確認している・・
「我ながら恐ろしい得物を持ったものね・・」
「いえっ、素敵です♪」
「・・あんたも変わっているわね・・。さあっ、行きましょう」
氷の中を滑りながらも先に進む・・・

・・・・・・
・・・・
・・・
・・
入り組んだ通路の先には巨大な扉があった
通路自体は天窓があって光が差し込んでおり明るかったし、わき道もあったが
例のロウソク立ての痕跡をもとに迷わずここにたどり着けたようだ・・
(・・・人の気配がしますね・・)
(ええっ、あいつらが必死になって襲いかかる理由がここにあるってわけね・・)
二人顔を合わせて静かに扉を開けた・・

「御用だ!御用だ!!」
入るなり大声で叫ぶセシル
しかし言葉が続かなかった・・
そこには巨大な悪魔の像が立っておりその前にある台には
おびただしい血が・・
台座の前には顔までフードで隠した男と何故か騎士が・・
「悪魔降ろし・・?」
クリスが呆然として呟く
この世に地獄の使者を降臨させる儀式・・、生贄を必要とする外道の法だ・・
さらに彼女を驚かしたのは台座の前に立っていた中年騎士・・
「あれは・・・?」
「ちっ、司祭殿、この不始末の責任、とって頂くぞ!」
中年騎士はそう叫び顔を隠して別の通路に駆け出した・・
「ふん、言われなくてもわかっているわ。
お嬢さん方、残念だがこの光景を見た以上は
骸になってもらわんとな・・」
マントを振りかざし不適に言う司祭といわれた男
「こんな人里離れた廃墟で結構な事やっているじゃないの。
私達も見た以上は捨てておけないわね」
「ふん、貴様らも贄にしてくれる・・」
そう言うと宙から飛び降りてくる法師達・・
「囲まれた!?先輩・・!」
「・・・慌てない騒がない!戦いは量より質よ!」
そう言い一気に駆けるセシル

「見てなさい!囲まれた時は速攻で一点を崩す!」
目にも止まらぬ加速で司祭を斬り飛ばす・・!!
「先輩・・!わかりました!行きます!」
包囲網の一点をセシルに崩されそこへクリスがさらに突進!
「えい!たあ!!」
華奢な体型の割には白銀剣を巧みに使い法師を倒していく
「貴様ら・・、諸君!距離を置き魔法を使え!」
司祭の命令に忠実に従い囲んでいた法師達は1箇所に集まる・・・!
「先輩!!」
「任せなさい!!氷狼刹!!盾になれぇぇぇぇぇぇ!!!」
一斉に放たれる光の矢!
それに対し渾身の一振りで氷の嵐を飛ばすセシル・・

「うっ、うわぁぁぁっぁぁ!!」
「おのれぇぇぇ!」

勝負はブレイブハーツの方に軍配が上がり氷の嵐は光の矢を弾き法師を飲みこんだ
「固まったのが裏目に出たわね・・」
制御はできずとも必殺の一撃を放てる
実に彼女らしい戦術だ・・
「その力・・、ブレイブハーツか・・」
一人生き残った司祭が唖然とする
「それに答える義理はないわね。でっ、こんなところで悪魔降ろしてどうしよっての?」
「・・・・・・・」
セシルを睨みつけて唸る司祭
「黙秘権行使・・か。クリス、適度に気絶さして詰め所で尋問しましょう?」
「はい!ではっ、縛ります!」
警戒しながら歩み寄るクリス・・
その時!

ドス!

司祭が隠し持っていた短剣を自分の胸に突きたてた!
「!、クリス!手当てを!」
これには流石のセシルも驚く・・
司祭は体を痙攣させ口から血を吐き出す・・
「この痙攣・・、まさか毒物!?」
「ちっ、口封じね!なんとかなる!?」
「・・・・手遅れです。もう逝きました」
静かにクリスが呟く
「・・ちぃ!とにかくタイムを呼びましょう。
彼女ならこいつらについて何か知っているかもしれないし」
現場をそのままに、ひとまずは知識豊富な相棒を呼ぶことにした。






「・・・・派手に暴れたわね。流石は殺戮戦女と言われた『金獅子』セシル」
現場に登場したタイムの第一声がそれ・・
いつもながら呆れてる
「全部私じゃないわよ!その2割がクリスよね?」
「8割やれば十分よ・・。でっ、こいつらが悪魔降ろしを?」
「もう終わらせたのかしらね?」
「台座が血まみれなところを見るとそうね・・、
こいつらの組織自体はよくわからないけど・・」

”こいつらは、異教ボルケイノの教員ですね”

何時の間にか扉の前に立っている碧髪の男アル
「アル!?どうしてここに?」
「いやっ、タイムさん達が走っているのが見えて・・」
「それに、ひょっとしたら私達のターゲットが動き出したのかと思ってついてきたのよ。
こいつの道案内の言うとおりにしたら迷っちゃったけどね・・」
さらにナタリーが登場・・
「貴方達、こいつらを監視していたの・・?」
「まぁ、そんな感じですね。こいつらはとある国の王に
犯行声明のようなものを送りつけていたんですよ。
それでそいつらの切り札等の情報を欲しいということで僕達に依頼があって・・」
「情報・・?金はかかるけどそう言う事なら
首謀者の始末も公社に頼んだほうが早いんじゃない?」
アルの説明にタイムが首をかしげる
「うちのリーダーもそう言っていたわ。まぁ用は面子を保つってわけらしいわ。
国王狙われてそれの始末を余所の傭兵如きに任せるのは恥だ!
・・・っと言うところでしょ」
つまらなさそうにナタリー、たしかにつまらない意地なのだが・・
「でも悪魔降ろしをするとは・・・、
どこからか援助がなければとても無理なんじゃないですか?
生贄とか儀式に必要なものとか沢山あるでしょうし・・」

「ちょっといいですか?」
話を聞いていたクリスが不意に話す
「どうしたの・・?クリス・・」
「セシル先輩、私達がここに入ってきた時、中年の騎士がいましたよね?」
「ええっ、ああ〜、なんかいたような〜いなかったような・・」
「・・続けて」
あやふやな証言のセシルを無視してタイムがうながす
「その騎士、見たことがあるんですよ・・」
「そりゃあいい!でっ、誰なの?」
ナタリーも自分の仕事に関係あるので興味津々・・
「あれは確かにハイデルベルク騎士団団長です」
きっぱりとクリスが言う・・
「団長が・・異教徒と手を結んでいるということ・・?」
信じられないっといった感じのタイム・・
「間違いありません、ねえ先輩」
「え〜、あ〜、・・・・・間違いないわ!」
「あやふやな判断で決めつけない!」
「騎士団長が異教徒と癒着・・、恐らくは巧みに情報交換し両方の利になるように調整・・
異教徒は騎士団長から資金を受け、騎士団長は事前に聞いたテロ行為に対しうまく布陣し
手柄を一人占め・・・、良く出来た構図ね」
ナタリーが苦笑い
「ハイデルベルク騎士団長は出世願望の強い人間だということは僕も噂に聞いています
クリスさんの言う事も信憑性が高いでしょうね」
「・・・どうする?セシル・・」
「・・・一度ハイデルベルクに戻って詰め寄りましょうか。
まぁ直接聞いても「はい」とは言わないでしょうけど・・」
「わかったわ。副団長に話したら力になってくれるでしょう・・」
「話がまとまったとこで悪いんだけど今回私達の仕事はこいつらの監視なの。
セシルさんが殺っちゃったからこれ以上私達がここにいる理由がなくなったわ。
・・個人的には協力したいんだけど・・、規律が厳しくてね。影ながら応援するわ」
「いいのよ、ナタリー。どうやらこれは私達騎士団の問題のようだし・・」
「すみません、セシルさん。
何か困った事があったら公社まで尋ねてください。
貴方ほどの人ならクラークさんも力になってくれるでしょうし・・」
「そうね・・、気がむいたら訪ねるわ。」
「んじゃ、私達はクライアントに報告に行くわね!
がんばって、セシル。
あんたの剣なら悪魔相手でも引けはとらないでしょ♪そんじゃまたね〜」
陽気に帰っていく傭兵公社の二人・・

「・・さて、私達も行きましょうか・・」
「ええっ、ハイデルベルクへ・・」
緊張した面持ちでセシルが呟く・・
それを見ている悪魔の像が心なしか笑っているかのように見えた・・・



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