第二節  「石の意思」


今後の予定というものがわからない状態なので
とりあえず三人はセシルのテントにて作戦会議を開いた
日はすでに昇りかけており、かすかに霧がさしている


「ここが目星の場所じゃないとすると・・、どこに行くべきか・・」
焚き木をたきそれに囲むように座っている中、ロカルノが呟く
「そうだな、セシル。お前ここで暮らしていたんだろ?何か怪しいことなかったのか?」
「知らないわよ。数日ここで休んでいただけなんだしさ・・・、あっ、でも・・」
「「でも?」」
「昨日・・だっけな。近くの池で水汲んでいたら変な物が浮んでいたのよね
・・確か(ゴソゴソ)・・これよ、これ」
荷物袋を漁って取り出したのは質素な髪飾り・・なのだが、それは石でできている
「石の髪飾り・・?だが、こんな物・・」
「少なくても職人が彫って作ったとかじゃないな。
ノミやらやすりを上手く使ってもこれだけ綺麗には仕上がらない」
髪飾りを持ちクラークが断定する・・、その目はまさに職人
「・・そうなの?」
「第一、女性が髪括るのにこんな重たいもんを使うかよ。」
「・・・・・、つまり・・それは元々普通の髪飾りだった・・っと?」
「そうとしか考えようがない。それを石にされたってわけかな」
「石化の魔物ぉ?そんな難儀なモンがこの周辺にいるっての?」
「そう考えればつじつまはあう、石とされたなら死体云々で発見されることはまずないからな。
この髪飾りを被害者家族に見せて確認してもらおう。当たりがでればこの説で正解・・だな」
そう言い、ロカルノはクラークから髪飾りを貰い懐にしまう
「でもそうだとしたら厄介だな、俺、魔術に詳しくないからいざとなるとやばいぜ?」
「そんな都合良く石化を解ける司祭さんとかいないしねぇ。」
「その心配はあまりなさそうだな。
クラーク、お前が着ているそのコート、魔術の耐性に優れていると見るが・・」
軽く薄碧のコートを持って静かに見ているロカルノ
「・・・あ〜、そうだな。そんな事言っていたな、あの親父・・」
「じゃあ貴方が仕留めればいいじゃない?
私の防具ってハイデルベルク騎士団の支給品をいじっただけのものだし」
袋から取り出した銀色の綺麗な軽量鎧を見せるセシル
「その点の心配もない。聖騎士ともなればそのくらいの防御効果のある鎧を支給されるはずだ
・・私のこの鎧もある程度の耐性がある。
この面々ならば石化能力の魔物でも対処できるだろう」
「・・貴方、鍛冶師?そんな詳しいなんて・・」
自分も知らない防具の特性を言われてセシルもびっくり・・
「ふっ、まぁ身内に詳しいのがいただけだ。さて、村人が動きはじめるころか・・。
私は村でこの髪飾りについて当たってみる。お前達は・・」
「じゃっ、俺はその池らへんを調べてみるよ」
「じゃあ私は街で一緒に聞き込みね」
「・・・・、聞きこみは一人でいい。二人で仲良く調べろ」
「「・・・・、はぁ」」
ロカルノが聞きこみに行く言った時点で想像できたがそれでも二人はため息を・・
そんな二人を尻目にロカルノはさっさと村に向かって歩き出した
「・・・仕方ねぇ・・じゃあ行くか、案内してくれ」
「・・いいわ。着替えるからちょっと待ってなさい」
仕事のために仕方ないっとのことで二人は重い腰を上げ始めた



セシルが石の髪飾りを拾った池はテントからさほど離れていなく
30分程度歩いた程度の所にあった
池はかなりの広さではあり、一面綺麗な水面が広がっている
周囲は木々がそびえており、森に入ってくる時に感じた不気味さはこの一帯にはまるでない
「ふぅん。綺麗なもんだな・・枯れた木がそこらへんにあったのに、ここら辺は全くない」
池を見ながら歩くクラーク、後ろをセシルが続く
彼女はあの露出の激しい衣装ではなく青い戦闘スーツの上に銀色の軽量鎧を着て
腰には大型のディフェンダーを下げている
「えっ?枯れた木なんてそんなにあったの?」
「ああっ、獣道を挟むようにな。それで気味が悪いって思ったんだよ。」
「ふぅん・・。全然気付かなかった」
「気付かなかったと言えば今朝わかったんだけど・・、この森、生き物っていないな・・」
周りを見ても池に水を飲む小動物もなく鳥の鳴き声も聞こえない
「・・・・・、そうね。何かあるのかしら?」
「まっ、何が起こっても対処することにしときゃいいんだよ。ともかくしばらく散策しようか」
池の周辺を歩く二人、辺りには彼らの足音しか聞こえない

・・・・

しばらくして・・
「そういや気になったんだけど・・、貴方傭兵だったんでしょ?」
「ん?まぁな。」
「じゃあもしかして・・傭兵公社出身?」
「あ・・、ああっそうだぜ?もう潰れちまったけどさ」
「ふぅん・・、じゃあクラーク・・、13部隊のクラーク?」
「・・・・、そう呼ばれた時もあるけど・・」
「そう!じゃあ貴方の部隊にナタリーっていなかった?私騎士時代にあいつとばったりあって酒飲んでね。」
「・・ナタリー・・」
その名前を聞いただけで表情が暗くなるクラーク
「今度来いって言ったまま公社が崩壊しちゃったからね〜、彼女、元気?」
「・・・・・・、ナタリーは・・死んだよ」
静かに、重く言うクラーク
「え・・・、あいつが・・?」
「・・・ああ。」
「嘘でしょ!?相当な使い手のはずなのに・・」
「俺も嘘であって欲しかったよ。だが、人外の者相手に相打ちだ。
俺がもっと警戒していれば・・ナタリーも、あいつだって救えたはず」
「・・・、そう・・。
・・・・・・だけど、それは貴方のせいじゃないんじゃない?」
「・・?」
「だって、剣を持った以上いつ死ぬかわからない。
彼女も剣を貫いたからこそ相打ちになったんでしょ?」
「そっか・・そうだな・・。すまねぇ、余計な気を遣わしちまって」
「いいわよ。今度墓教えて?花でも添えてあげるわ」

ガサガサ・・

「ああっ、いいぜ・・だがその前に・・」
「お客さん、ね。」
周囲がざわめいている・・
その瞬間

シュッ!!

小さな生首が茂みから飛び出す!目は真っ赤で髪は全て小さな蛇で出来ている
「わざわざ出てきたか・・しかし!」
クラークめがけ飛んでくる生首、言うところのメデューサヘッドっとでも言うべきか。
彼は足を少し開いたと思うと次の瞬間首は真っ二つに切断されていた
「ヒュー♪名が知られるだけあってやるわね。」
「んな事言ってる暇があるのか?」
戯言を言うセシルへ向かってメデューサヘッドが噛みついてくる
「雑魚よ?下らない・・!」

ゴス!!

ガントレットを装備した腕で思いっきり叩き落とす!!
メデューサヘッドは地面に叩きつけられて押しつぶされた・・・
「・・・騎士の戦い方じゃないな・・」
「あのね、儀礼ばっかこだわった戦い方じゃ生き残れないの!」
「騎士らしかね〜・・。っと!まだまだくるか?」
続々出てくるメデューサヘッド
クラークとセシルはそれを物ともせずにまとめて相手をした

・・・・しばらくして・・

「これで全部か?ったく、こいつらがこの事件と関わりがあるのは間違いなさそうだな」
まさに群とも言えるメデューサヘッドの相手を終えたクラーク、
息も上がっておらず全然余裕のようだ
周りには切断されたものやら地面にへばりついた無惨な死骸の山・・
奇妙な緑の液体が流れており池の色を少し変えている
「蛇の頭を持つ魔物の首・・ねぇ。確かそんな怪物いたわよね?」
「ああっ、確か〜・・なんだっけ?」
「知らないわよ、私。・・人間相手の職業だったし・・」
「んなもん俺も同じだよ。結局わかるのは・・」
「ロカルノ・・ね。あの仮面、博識っぽいしね」
「っうか俺達が無知なだけだろう?」
「・・否定・・できない・・」
二人してため息をつく
ともあれ、一旦ロカルノと合流しようと思いメデューサヘッドの現れた方角に
目印をつけて二人は村へと向かった


・・二人が村へ到着した頃にはすでに日が昇っておりちょっと遅い昼飯時っといったところか
ロカルノ自身はそうは思っていないのだろうが
仮面姿の男はすごく目立つので彼の居場所はすぐにわかった

「・・むっ・・どうした?二人とも・・」
酒場にてパンと千切って食べているロカルノ、白い目をした二人に驚く
「何お前だけ飯食っているんだよ?」
「そうよ、私達が森の中を歩いている間に・・」
「ふっ、昼時になれば飯を食べる、何か不思議な事か?」
「・・役得な・・、でっ、何かわかったのか?」
「ああっ、まぁ報告しよう。お前達も食べるといい」
「もちロカルノのおごりでね!!」
強引に座るセシル、ロカルノもやれやれと呟きマスターに声をかけた

・・・・・

「やっぱりあの髪飾りは被害者の物だったか」
「ああっ、あまり深くは伝えなかった・・。まだ無事かどうかわからないことだしな。」
「その方が良いわね・・。でっ、私達が出くわした魔物について何かわかる?」
「・・メデューサの眷属だろう」
正体がわからなかったあの蛇髪の生首をピタリと言い当てるロカルノ
「へぇ、やっぱ博識だな!」
「・・・・・この程度の知識、子供でもわかるぞ?」
「「ええっ!!」」
「実際出くわしたことはないだろうが有名な魔物だろう」
「俺達って・・」
「馬鹿だったのね・・」
「ヘコむな。どうやらお前達はまともな教育を受けずに成人したようだしな」
「・・まぁ・・、当たっているけどさ・・。でっ、そのメドーサってどんなやつなんだ?」
パンを千切りながら興味深そうに聞くクラーク
「下半身はナメクジ、上半身は人間の女で髪は全て蛇。
魔術を退ける盾と剣を武器としている魔物だ。
目から奇妙な光を放ち狙った獲物を石としてその石を丸呑みにするらしい」
「・・うえっ?じゃあもし被害者が石になっていたら・・」
「今はそれを考えるな。
ともかく、実際にはそんな魔物は滅多にお目にかかれないのだがな
・・」
「突然変異じゃないか?じゃあどうする?その生首しばいたところからさらに散策するか?」
「・・・、相手も眷属が殺された事で場所を変えたかもしれん。
ここは危険だが奴が動くのを待って後を追ったほうがいいな」
「・・って事は・・、夜まで村で待つって事か?」
「だったら最初っからそうすればよかったじゃない?」
「何の予想もなしに闇雲に敵を待ってどうする・・、
奴の目論みがわかればその分伏線も張れるというものだ。ではっ、夜まで宿で待とう」
「そうだな、部屋もとってあるしそれまで少し休んでおくか」
「ちょっ、ちょっと待ってよ。私宿に泊めれるだけの金なんかないわよ?」
懐の寂しい様子のセシル、ガマクチの財布を取り出して中を確認している
「っうかここの宿、二部屋しかないぞ?俺とロカルノで借りたからお前部屋取れないぜ?」
「じゃ・・じゃあ・・森で待っているわ」
「まぁ待て。お前だけ夜営となると連携もとれん。私の部屋で休むといい」
「・・・ええっ!?ちょっと!変な事する気じゃないでしょうね!!」
布団で仮眠を取れるのは嬉しいが仮面男がいる。故にかなり動揺するセシル

「安心しろよ、お前襲うような物好きなんてこの世にいないって♪」
「うむ・・」

「何気に納得すんじゃねぇ!しょうがないわね!泊まってあげるわよ!!」
二人の態度に激怒に激怒・・
ともあれ、メデューサが動き出すまで三人は様子を見ることにした



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