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第六節  「鉄十字艦隊」


ウィンクの教育の賜物か召集時間に誰一人遅れることなく
キビキビした動きで担当の船に乗り込み、出航した
20隻近くある船は沖合いに出ると広範囲に広がり、
あっという間に青い水平線の彼方に消えていくのだった

「視界良し!進路良し!現在異常ありません!」

ソシエが乗り込む一回り大きな旗艦、そこでポチがいつもとはまるで違う真剣な顔つきで報告する
因みにメイドは全員服装を白いセーラー服に着替え腰には支給されたレイピアを帯剣している
「了解、各自周囲の探索を継続、ポチは通信隊の情報収集、ウサミミは船をこのまま直進させなさい」
適切に指示を下すウィンク、流石に彼女にはセーラー服が似合わないのか
チャイナ服調の白い戦闘服を着込んでおり妖艶さが倍増している
「ママ、固まって動いたほうがよかったんじゃないの?」
「馬鹿だね、海ってのはあんたが思っているよりもはるかに広大なんだよ
固まっていて目標の相手を見つめられるわけないだろう?」
ソシエだけはいつもと同じスーツ姿、彼女専用の席に座りながら娘を馬鹿にしている
ソシエを中心にロカルノ達が待機しておりその前方でウサミミが真剣に操舵桿を握っている状況
さらには船首や船尾には数人の船員が周囲を警戒している
「竜で空を見るのとでは違う、肉眼が確認できるギリギリの範囲を活かして展開しているんだ」
「ほぇ・・・、そんなことするんだ。それで通信は念波を使うわけね」
「担当ごとにそれようも魔導訓練を行っております。テレパス担当は長距離通信を可能としておりますし
探索班は白兵戦時の損傷を抑えるために肉体強化術と防御法を習得させております」
淡々と答えるウィンクだがどれも普通の人が習得するのにはかなりの修練を必要とするものである
どうやら魔導にも長けた人間を雇っているとロカルノは直感した
「なるほどぉ・・って、アミル・・何呆然としているの?」
感心しているセシルの隣でアミルが珍しくボ〜っと海の彼方を見つめている
「え・・あ・・すみません。私、こうして海を見るのがはじめてで・・」
我を忘れていたことに顔を赤くするアミル
「ふっ、山育ちにはよくあることだ。しばらくは変化もないだろう・・ゆっくり堪能するといいさ」
「ロカルノさん・・ありがとうございます」
そういうと一礼して甲板に下りるアミル
その姿にセシルの中の嫉妬はさらに膨れつつ・・
「アミルには優しいのねぇ?ロカルノォ?」
血管を浮き上がらせながら攻め出す
「何がだ?」
当のロカルノの本心はまったくわからず・・、それにセシルのフラストレーションはまた溜まる
「・・なんでもないわよ・・、それよりも風が余りないのにやけに早いわね・・」
確かに帆に風は当たってはいるのだがそれ以上の速さで船は動いている
「ああっ、色々内臓しているっていっただろ?ウィンク、説明」
「かしこまりました。ソシエ様が所有している船には全て動力補助用の魔導ブースターを内臓しております
それ一つでは長時間船を動かすことは難しいですが推進力を補う事に一役買っております」
「・・へぇ・・、そんなもん売っているのねぇ」
「非売品・・ってか試作品だよ。まだまだ安定していないもんだからねぇ・・」
「どこでそんなもの手に入れたのよ・・?」
「表立っていえないね。あんたも顔を広げておかないと後々苦労するよ」
「余計なお世話よ。・・てっきり、メイド達が肉体労働で漕いでいたかと思った」
「馬鹿だね!そんなことするわけないだろう!」
「冗談よ!」
船上でも母子に変化なし・・
ここで喧嘩をされては轟沈間違いなしなので何気にウィンク、黙りながらも腰のレイピアに手をかけていたりしている
「それよりもソシエさん、シーラを屋敷に置いてよかったのですか?」
それを見てロカルノもさりげなくソシエに尋ねる、クレバーな人間は水面下で色々と大変なのだ
「そこは私も迷ったんだけどね。あの子もまだ若い、
自分の家族を殺した面々と顔をあわせるとなるとショックも大きいだろう?
まだまだ心の傷もあるだろうしね」
「なるほど・・」
「それに、慣れていないと船に酔うだろうし・・」
チラリと見た先には船首でアミルがうなだれている姿が・・
「・・竜人でも・・船酔いするのね・・」
「ポチ、アミル様を医務室へ・・」
「かしこまりました!ウィンク様!」
巨乳を揺らしながらポチ、走る
その姿を見たセシル、心の内に心地よい風が走る
「医務室まで完備か・・」
「戦闘船ですので。治療班も待機しております」
「ふっ、分担は完璧・・だな・・」
「ここらを漂うはずもないだろうし・・二人も少しは見学でもしておきな。何かあったら召集かけるからね」
「了解した。私としても色々興味深いからな・・」
ロカルノはそう言い静かに甲板へと降り立った



・・船内は予想以上の広さ、豪華客船を思わせる上質な木材を使用しているが柱は鋼鉄製で戦闘を想定しているのが
見て取れる
「魔導理論を応用した推進器か・・、私も知らなかった技術だが一体どこで開発されたのか・・」
とりあえずは興味のある動力を見て回ろうとしていたロカルノ
艦内地図はいたるところにかけられておりその場所をすぐに把握したわけで
すぐさまそこに向かおうとしたのだが・・
「・・ふむ・・」
軽く顎をさする、前方にある部屋には医務室の看板が・・
「・・様子を見ておくか・・」
そう言い静かに医務室の中に入って行った

・・・

医務室内の広さは船内とは思えない広さ、ベットの数は20を越えており二部屋に分かれている
薬品や医療道具はもちろん完備、ここらからもウィンクの完璧主義を伺える
「様子はどうだ?」
「あっ、ロカルノ様。飲み薬で落ち着いていますがちょっと安静が必要ですね」
治療班の獣人達、流石にセーラーではなく白衣姿であるがその手つきは徹底された訓練をうかがえる
そしてベットで横たわるアミル、顔色からはそれほど酷いようには見えない
「わかった。少し話をしてもいいかな?」
「あっ、はい。少しぐらいなら大丈夫です」
そういうと治療班は何か勘違いしたのか気を利かすように席を外す
それにロカルノも若干顔をしかめたがやがて気を取り直して・・
「大丈夫か?アミル」
「あ・・ロカルノさん・・う・・」
「無理はしなくていい・・」
起き上がろうとするアミルの肩をロカルノは抑え寝かしつけてやる
「すみません、何だか・・頭がグルグルして・・」
「それが船酔いというものだ。山育ちの君には辛いだろう」
「こんな事が起こるのですね」
博識な竜人と言えども体験していなければわからないこともある・・っということで
今のアミルはもはや見た目相応の女性にすぎず・・
「ふっ、まぁ寝ていれば楽になるだろうが・・いつでも動くようにはしておきたい」
「す・・すみません・・」
「少しじっとしておいてくれ」
「???」
呆然とするアミルを余所にロカルノは彼女の腹に手を添え集中し出す
「・・・むぅ・・・ん・・」
小さな魔方陣を展開しほの明るい光が現れる
初歩的な治癒光、訓練を受けた者ならもっと大きな光を造り上げられるのだが
彼はその力の大半をセシルに譲っただけにこれが精一杯のようだ
「え・・あ・・」
「身体能力を活発にさせる。それで薬の効果も上がるだろう」
「ありがとうございます・・すみません、無理してもらって・・」
彼女とてロカルノのパートナー、魔導があまり扱えないことは承知している
それでも自分のために治癒を行ってくれる心使いに嬉しく思うアミルであった
「ふっ、まぁ私にできるのはこのぐらいだ・・何かあれば連絡がくる。それまで身体を休めておいてくれ」
「・・はい・・」
静かに頷くアミル、それを見て少し笑うロカルノ
セシルがこの場にいたら間違いなく嫉妬に狂えただろう
・・・・
医務室を後にし当初の目的の動力室へと向かおうとしたロカルノ
そこに
「ロッカ〜♪」
後方よりセシルの声が・・
「ん・・セシルか。どうした?」
「ううん、何時までも海見ていても面白くないから」
「ふっ、お前らしい」
「それよりも〜、アミルの介抱をしたんだってぇ?」
何気に治療班、セシルに密告。嫌〜な笑みを浮かべている
「ああっ、流石の竜人も初体験の船酔いには勝てなかった・・っと言ったとこか」
「ふぅん、そこをロカルノの愛の力で全快〜♪ってわけ(ジトー)」
「愛の力・・?そんな良く分からないもので船酔いは治らん。軽い治療をしただけだ」
「・・・(ジトー)」
「どうした?」
「なんでも!」
女性というものは色々と複雑、しかしロカルノはそんなこと気づくわけもなく・・
「それよりも私は動力室を見る。お前もくるか?」
「えっ・・・?いいの?」
「何か他に見て回るのか?」
「ううん♪別に♪」
「・・??」
急に機嫌良くなるセシル
天才肌の彼にも女性というものは理解しがたかった

・・・・・

動力室は船層丸々を占めている
そこは流石に最高機密なだけに扉が何重にも設置されており
上層とは違いすべて鉄製となっている
「・・随分丁重な扱いねぇ」
まるで雰囲気が違う内装にセシルも少し驚いている
これほどまでのつくりの船というのは他に見ないほどなのだ
「ふん、船底を鉄製にすることで沈没を防ぐことも想定しているのだろう」
「・・へっ?」
「海上戦では船は生命線となる。そのため昔から泳ぎが得意な水兵や魔導士は相手の船底に穴をあけて形勢逆転を狙ったらしい」
「・・ロカも陸育ちなのによくそんなこと知っているわねぇ」
「・・ふっ、どんな情報でも仕入れておくのがクセでな」
「流石は大泥棒の養子♪」
「茶化すな。・・だがそれにしては大げさだ。私が思った以上に物騒な動力なのか・・」
「見てみないとわかんないわねぇ・・まぁママのパスがあるから機密だろうが物騒だろうが大丈夫でしょう?」
対して深く考えずにセシルは突き当たりの鉄扉を開いた
そこにあるのは意外に広い空間、何かの貯水タンクのような物が5,6個立ち並んでおりその中央に
大きめの鉄製装置が置かれている
「あれがその魔導ブースター?」
「そう見るのが妥当か・・」
流石に圧倒されているロカルノとセシル
そこに
「ロカルノ様にセシル様、こちらの見学ですか?」
数人いるツナギ姿のメンテ班が二人に気づき近寄ってきた
「ああっ、どういうものか気になってな」
「そうですかぁ♪」
自分達の仕事に興味を持ってくれた事が嬉しいのか全員はしゃぎ気味・・
「それで、あの鉄の塊がそのブースターって奴?」
「あっ、はい!どうぞ寄ってみてください!!」
メンテ班に促されてその装置の前に案内される・・
よく見ればまるで陶器を焼く釜のような形をしている
「ほぅ・・試作品とはいえきちんとした仕上がりのようだな」
「これを造った人が完璧主義者だったらしくて、納得がいくまで手を加えたそうです!」
「ふぅん・・でっ、どういう原理なの?」
「ええっと左の貯水槽から流れ込んでくる水をこの装置が魔素を取り出して動力としているんです。
魔素吸引が終わった水は『死水』と称して右の貯水槽に入れられます」
「ほう・・、随分と斬新なシステムだが・・死水か。良い名前ではないな」
「ええっ、魔素は万物に宿る力、それを抜かれた物ですのでそのままでは生物に悪影響を及ぼしかねないと
言われております。見た目は普通の水なんですがここに魚を入れたら1日たたないうちに死んでしまいましたので」
「なるほどぉ、・・でもそれじゃその水どうする気よ?」
「そのまま海に垂れ流せば海域の環境に影響が出ますのでそのまま屋敷に持ち帰っています。
貯水槽を日光に照らし続けていれば一月もあれば元の水に復元するんです」
「ほう・・しかしそれならばここにある貯水槽が限界になれば装置の使用ができないのではないか?」
「そこが問題点ですね。死水の蓄積量を随時報告して臨界点を越えると魔導ブースターの使用を停止しなければなりません」
「・・なるほど、まだまだ試作ということか」
「そうですねぇ、推力は申し分ないですので後はその死水処理を改良する必要があります
将来的には死水の自動治癒装置をも併設して完全な装置として完成させると息巻いていましたね」
「ふぅん・・随分熱心な開発者ねぇ。ママと顔見知りな分どこかの有名人?」
「ええっと、余り表立っては有名なお方ではないですね。ベアトリーチェ=ゴージャスブルーというお名前の錬金術師です」
「何・・?錬金術師・・だと?」
「ええっ、少し変わったお方でしたが・・」
「錬金術師ってそんなのが多いのかしら?(バキ!)あだ!」
「誰の事をそんなのと言っているんだ・・」
「いやぁ・・あははは・・」
彼女に関わりのある錬金術師と言えばロカルノの義母であるミュン以外いない
ロカルノもそれをわかっており鉄拳小制裁・・
彼にとってミュンという存在はそれほどまでに大きい
「ふん、しかし錬金術師が造り出す物にも思えないのだが・・」
「まぁ、あの人が銃造ったのは師匠さんが鍛冶師だからできたものだしねぇ・・」
「あの人??」
「ああっ、こっちの話♪」
「はぁ・・、確かベアトリーチェ様は本職は錬金術師としてレアメタルの製造などをしていらっしゃるようですが
他にも色々と博識で有機生物の生成やこんな魔導装置の開発まで幅広い能力をお持ちのようです」
「・・ほぅ、いわゆる天才・・っと言ったところか」
どの分野も一筋縄ではいかない物、それを全て習得している事にロカルノも驚く
「そうですねぇ。この装置も2日で仕上げましたし・・」
「・・マジ?」
「ええっ、お一人で『チャッチャと仕上げる』とおっしゃってそのまま本当にチャッチャと終わらせました」
「・・バケモノね・・」
ケダモノ、他人をバケモノ呼ばわりする
「ふむ、それほどまでの能力を持ちながら表世界で無名とはな・・。何やら訳ありか・・」
「詳しい素性は私達も存じ上げておりません・・」
思えば謎な人物であるベアトリーチェにメンテ班も首をかしげている
「ねぇねぇ、さっきから気になっていたんだけど・・」
「なんだ?」
「有機生物の生成って・・何?」
「主に魔法生物などを作り出す技術だ。生物同士の配合や自分で細胞に手を加えて新たな生命を造り上げる
・・ある種、最も人道に背いた事と言えるだろう」
「・・そんなことしているんだ・・。って・・ただ命弄んでいるだけじゃないの?」
「そういう考え方もある。だが表立っては作物を品種改良し痩せた土地での栽培を可能にしたりと人の生活に貢献することも多い
・・裏では目を覆うこともあるだろうがな」
「・・??」
「全てがいつも成功するとは限らない。それが無機質の石ならば問題もないだろうが生物となると自分の身に危険が降り注ぐ
・・たまにあるキメラが突如街中を暴れ出す事件などはそれだ」
「なるほどねぇ、キメラもそういや合成生物だものね」
そうした事件は地方にいけばいくほど多い
それだけ騎士団の目が届かない過疎地で実験したほうが何かとやりやすいのだ
従ってキメラが暴れ出してしまったとしても地方の騎士ではどうにもならず冒険者達が活躍する場合が多い。
「ふっ、裏の世界では不老不死の象徴として人造人間(ホムンクルス)などの生成実験なども盛んらしい。
そのベアトリーチェという者もそうした組織出身なのかもしれんな」
「ふぅん〜、そのホムンクルスが不老不死と関係あるの?」
「人は老いていくと体の臓器も鈍くなり病気になりやすい。
そこで自分と同じ人造人間を造り出し臓器を移植して延命するというのが
人造人間生成の基本的な考えだったようだ」
「へぇ、・・結局は爺婆の道楽なのね」
「そうとも限らん。
そんな技術が実際発展しているのならばクローディアの右目も手術をすれば再び光を取り戻せることも可能だろう
今の医学では到底治すことのできない不死の病でも・・な」
「えっ!そうなの!!!」
「実際にあるのならばな。だがクローディアの事だ
・・それが可能だとしても拒否をするだろうな」
クローディアの事を思い出し思わず微笑むロカルノ
それにつられてセシルも笑い出す
「あの子のことだものねぇ。『兄上と出会えたきっかけですから』って言いそう」
セシルが思わずクローディアの真似をしだす
同時刻、兄とともに中睦まじくお茶を飲んでいたクローディアは派手にクシャミをして周りにからかわれたとか・・
「皆さん、仲がよろしいようですねぇ」
仲間内の和やかな会話になっていたことにメンテ班の少女達も微笑ましそうにしている
「まぁ、結束は君達には敵わないさ・・」
「ありがとうございます♪」
「結局はそのベアトリーチェって奴の話題が持ちきりだったけどね・・」
頭を後ろに腕を組み、セシルが笑う

その時

『目標補足! 目標補足! 各員戦闘配備をお願いします!』

突如部屋にポチの大声が響き渡り全員の顔が引き締まる
「ふっ、ようやく仕事か・・セシル、いくぞ」
「合点承知ってやつね♪そんじゃあねぇ〜」
余裕なロカルノとセシル、その態度にメンテ班は少しの間呆気にとられていた


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