第五節  「薔薇は静かに笑う」


ゆっくりと扉が開き入ってきたシーラ
着替えも忘れ眠りこけていたようで多少皺のついたメイド服を着ているのだが
それとは不釣合いなほど顔はこわばっている
「・・聞いていたのか?」
「・・はい・・、決心がついて・・ここに皆さんがいると聞いてきました」
「そうかい、とにかく中に入りなさい」
「はい」
一礼して中に入るシーラ、招かれるがままに中央のベットに座る
「大丈夫ですか?」
必死で自分の過去を向き合い耐えている姿にアミルが傍により手を握ってあげる
それだけでシーラの顔が少しほころぶ
アミルだからこその効果・・か
「ありがとうございます、アミルさん」
「・・・ではっ、話してくれないか?君の事とそしてあの島で起きた事を・・」
「はい、私はあの島に太古からすみ続けた一族の末裔です。
・・・親から教えてもらった事では昔、陸地で迫害を受けてあの島に逃げ込み
そこで生活をはじめたのが起原だったようです」
アミルの手を握り返しながら説明し出すシーラ・・
「あの島には秘宝がありそれを使用することで外界からは島が見えなくなるということを知った
ご先祖様はそれを利用して完全に外界と隔離をし、平和な生活を送っていました」
「・・秘宝ねぇ、島一つを隠すほどの物・・どんなのかしら?」
「すみません、秘宝については一族の長の家系が厳重に管理しているために私もまだ見ていないのです
・・成人したらその謎を教えてくれるはずでしたが・・」
「・・?ちょっとまった。シーラはその族長の家系なのかい?」
「あ・・はい。すみません、うまく説明できなくて・・」
「いやっ、いいんだよ。さっ、続けておくれ」
爽やかに笑うソシエ、しかし内面では鋭く情報を整理していっている
「はい、その日は島全体に妙な霧がかかっていました。
私は胸騒ぎがして海岸線に行ってみました・・そこで見慣れない船が停泊していたのです」
「・・船・・か」
「島を隠す力は少し沖合いまで効果があったらしくて私達も海にでて漁をしていました
ですがその船は私達の物ではありませんでした
それに気づいた時には集落から火の手が上がり・・皆の・・悲鳴が・・・」
その光景を思い出し声が震えだすシーラ
それでも彼女は全てを話そうと懸命に堪えている
「急いで集落に戻ろうとしましたが、剣を持った人達に見つかり無我夢中に逃げ回っているところを
ウィンクさんに助けてもらいました・・後は・・」
「・・わかった、それ以上はいい・・すまないな。」
「・・いえ・・」
「問題は、その船だね。何か特徴のようなもんはなかったかい?」
「・・え・・と、帆に大きな紋章がありました。大きな鷹のような・・」
「ふぅん・・海賊ってんだからてっきり骸骨マーク一色かと思った」
予想以上のセンスにセシルちょっと驚くが周りは白い眼をしている
「・・あからさまに普通じゃないマークを強調していたらロクに略奪はできん。童話の読みすぎだ」
「やっぱり馬鹿娘だね、育て方を間違ったよ・・」
「・・アミル、私も癒して・・」
きつい突っ込みにセシル、凹む
「ともあれ、その鷹の海賊団が目標のようだ・・。
ああいう物は自分達の誇り、よほどでない限り間違いないと見ていいだろう
すまないな、シーラ。よくがんばった」
ロカルノらしくなくシーラの頭を優しく撫でてあげる
「いえ、それで・・皆さんは・・」
「巡回しつつその海賊でも狩ろうかねぇ・・なんならここらの海賊を皆狩りとってやるのもいいさ」
不適に笑うソシエ、虚勢ではなく正しく『やろうと思えばいつでもできる』のような余裕が見える
「ママのことだからここら一帯の海を青から赤へ染める事もできるしねぇ」
「・・え・・」
「そんなことしたら生態系に影響がでるだろう?ったく」
「いや、そういう問題では・・」
論点が少しずれている親子にシーラは唖然と・・
「それよりも、海賊船とやりあうだけの船などは・・」
「安心しな、この屋敷にはね、なんでも揃っているんだよ。
それは明日見せてあげるよ」
「はぁ・・」
「ともかくお疲れさん。今日はもうゆっくり休みな。ロカルノ君達も今日はもう休むといい
明日から動き出すよ」
ソシエの鶴の一声でその日の話は終了
全員が退室した後もソシエはその部屋にとどまり一人静かに外の光景を見つめていた

・・・・・

翌日
朝食もそこそこに一行は地下訓練室の奥の間に通された
そこは普段は閉ざされている箇所であり扉を開けると同時に天上の錬金灯が点灯した
「・・金かけているわねぇ・・」
思わずセシルがポツリと
そこには10人横に並んででも楽に降りれるほどの階段が延々と続いている
非常階段のようにも見えるが粗末な造りではなく壁もしっかりと整理されており
そこはまるでトンネルのよう・・
「まっ、海賊狩りしていて金は腐るほどあったからねぇ。私はどうでもいいんだけど
ウィンクがこだわっているし」
「当たり前です、ソシエ様。屋敷の管理をする執事としては通路一つにも手を抜けません」
いつでも姿勢が正しいウィンク
彼女がそこにいるだけで周りはどこか緊張してしまう
・・、まぁ、だからこそ彼女に対して絶大な信頼が生まれるのだが
「まぁそんなこんなでこの屋敷もここまで大きくなったってわけさ」
「・・ウィンクさんのせい?」
「これだけの所帯です。金銭に余裕があるなら各自部屋を持たせて上げることも情です」
「まぁそれは私も考えていたことなんだけどねぇ。流石にこれだけの人手があると自給自足も軽いもんさ」
世間話をしながら下層へと降りる面々、奥からは風が吹き付けてきている
「そういや屋敷の近辺に広大な畑があるもんねぇ・・、何か周囲に木を植えて周りに見えないようにしているっぽかったけど」
「ここは聖礼都市だ、ソシエさんは例外として大抵の家屋の主は貴族。土を触ることなど汚らしいと思っている輩だろう
大方、景観が損なわれると文句を言ってくるに違いない」
「さすがわかっているねぇ、ロカルノ君。ここは海と山の美しさが有名な貴族達の別荘地ってやつだ。
そんなところに畑があろうものならいろいろと嫌がらせもするだろうしねぇ」
「そんな連中、葬ったらいいじゃない」
「ああいう自尊心の塊な連中とのいざこざは後を引くからね。私やウィンクは別にいいんだけどメイド達はそうはいかない
大半が身売りされていたんだからああした輩に対する警戒心と恐怖心は抜け切れていないんだよ」
「え・・あ・・の・・、ここの皆さんは・・」
何気ないソシエの一言にシーラが目を丸くして驚いている
「ああっ、そうだよ。ウサミミは少し違うがポチは性奴隷として身売りされそうなところを救ってやってここに住んでいてるんだよ
まぁ大半は孤児か性奴なんだよ」
「皆あんなに明るいのに、そんな過去が・・」
辛い体験は自分だけじゃないっと実感するシーラ、その姿を見てウィンクも
「誰しも辛い過去はあります。それを克服してこそ今があるのです」
っと無骨ながらも励ましたりしている
「そんなもんだ。それに・・、土を触る事に嫌悪感を抱くような者は自ずと滅びに向かうさ」
「えっ?」
「大地の恩恵も忘れたような者に大地に生きる資格はない。・・そういう事さ」
「ロカちゃん語るわねぇ・・普段はそんなことしないのに♪」
「分担をしているだけだ。暇があるなら手伝っているさ」
ニヤリと笑うロカルノ、まぁ実際庭に軽い農園を作ってソレを弄っているのはクラーク達や神父ぐらいなのだが
そんな話をしているうちに延々と続いた階段は終焉を向かえ
目の前に広がる広大な空間

「・・すご・・」

思わずセシル絶句、屋敷と同じくらいの規模の空間、そこに船が何隻も停泊しており
広大なドックエリアとなっているのだ
おまけにドック内に倉庫やらメンテ員の仮眠施設まで設けており万全といえる環境がそこにある
「こんな物まで造り上げるとはな・・」
一隻一隻が白く塗装された戦闘船、
華やかな装飾こそないが随所に金属板が張られており耐久性が高いのは一目でわかる
中でも一回り大きな船には船首を覆うように鉄の乙女のオブジェがあり一際豪華さと異質さをかもし出している
「多少型は大きいが頑丈さは保障付だよ。内部も色々と物騒なもんを内臓しているわけだしね」
「でも全部白色って・・・なんか遊覧船みたい・・」
「潔白を証明しているってことだよ、まぁプライベート用の船も隅に置いているんだけどね」
娘の発言には冷たいソシエ・・
そんな面々を余所に各船のメンテを行っていたメイド達がソシエの前にピシッと整列する
全員薔薇の刺繍がされたツナギ姿だがどこかいけない雰囲気
「メンテナンス終了、どの船も良好です!ウィンク様!」
代表らしき猫耳ツナギメイドが軍人ばりにきびきびした動きで報告
「夜通しの作業、おつかれさまです。後は我々が行いますのでメンテナンス班は休憩してください」
「「「「「「はい!!!」」」」」」
ウィンクの言葉にメイド達は全員敬礼をして階段を上がっていく
何の教育をしているのかわからないほどの動きの良さにアミル達も呆然と
「さて、それじゃあ久々に行こうか。
一時間後、メンテ班意外のメイドは全て招集、鷹の帆を持つ海賊船の散策に向かう!
シーラは屋敷で休んでいな、良い話を持って帰ってきてやるよ」
ソシエは勢い良くタンカをきり未だ呆然としているシーラの肩を叩いてやるのだった


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