第十三節  「海主VS鉄の薔薇」


セシルの人外じみた襲撃により船が轟沈した頃
そこからまんまと逃げおおせたアンザルサンは小さな救命用のボートを漕ぎつづけ
目的地である小さな孤島に上陸していた
そこは数十メートル四方に広がる平野がある程度、中央に大石が置かれているのと多少草が茂っているだけで
それ以外は何もないという不思議な地形・・
波が静かなこともなるがこれほど海を目の前に植物が育っているのはどこか不自然さを感じさせるほどである
「へっ、なるほどな。これだと多少眼を引くが普通の浅瀬の島に見えるってわけか」
軽く鼻息をつきながらアンザルサンがシーラを担ぎながら島へと上陸する
「・・・これで・・俺は全てを手に入れる・・」
狂気じみた笑みを浮かべるアンザルサン、そして肩に担いだシーラを地に放り投げて噛まされている猿轡を取る
「・・ん・・はぁ・・貴方は・・」
「ここまでくれば用無しだ。まぁ殺すのもなんだ・・俺が進化する瞬間を拝ませてやるよ」
「命が欲しければ今すぐ止めなさい、この儀式は・・」
「わかっているさ、『深きものどもの主』あるいは『海の主』とも言われる海獣ダコンと同化する法・・だろ?
この「祭壇」と呼ばれる島であの島に置かれていた気象をも操る秘石「ダコンの眼」を持ち奴を呼び起こす
・・それだけで大陸を支配できる術を手に入れられるというものの・・貴様の一族は相当な阿呆だな」
懐から取り出す宝石「ダコンの眼」を持ちそれを軽く見せながら笑うアンザルサン・・
対しシーラは涙を目に浮かべながらも激しい怒りの眼差しを彼にぶつける
「その石は私達よりも前にあの島にいた民達が暴れる主ダコンの暴走を止め海の平静を取り戻した石・・
その石に宿る魔力により気象を操ってまでもその存在を知らさせるわけにはいかなかった史実は
あの石室で貴方も知ったはずです!」
「・・そうだな、俺の情報網で太古の化け物の目玉を安置させている石って事までは知っていたが・・
まさかそれ以上の出来事を起こす事できるとは思わなかったよ。
貴様達より前にいた民どもも結局はダコンと一つに成りたかったんじゃなかったのか?
態々融合の方法まで書き記しておいておくとはな」
「石室に刻まれた文字は”片目を奪われ眠りについたダコンに万が一甦った時の対処法”として記されていました!
貴方のような邪悪な目的のためではありません!」
「ふん、そんな事なんぞ当人にしかわからん。まぁどの道その書置きのおかげで俺はここにこれたわけだ
少しは感謝しないといけないのかもな」
あからさまに人を見下す笑みを浮かべる・・
「貴方という人は・・」
「話はここまでだ。貴様の命ぐらいいつでも奪える事を覚えておけ・・せっかく生かしてやっているのだからな」
そう言いアンザルサンは島の中央にある岩に立ち天にダコンの眼を翳しながら叫ぶ!!

「さぁ!俺の前に姿を現せ!そして俺の物となれ!海の主ダコンよ!!」

暗闇の海に響いた叫びと同時に手に持つ宝石が薄気味悪い紫色に光り出す
「・・く・・くる・・」
それに何かを感じたシーラ、歯を鳴らしながらも平地に生える芝をしっかりと掴み何もない暗闇の先を見つめる
その時

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

地の底より起こる強烈な振動、まるで大地の咆哮のようなそれは暗闇の海を揺らし大海の中で余りにも小さな島を侵食しだす
高い波がまるで豪雨のようにシーラの身体に打ち付ける
そして地鳴りが徐々に大きくなっていき・・

バッシャァァァァァ!!

海中から姿を見せる怪異・・、突如巨大な山が出現したかのような錯覚を覚えさせるほどそれを巨大で・・丸かった・・
「・・ははは・・・、なるほどな。その名に恥じない姿だ・・」
それは巨大なダンゴ虫のような巨獣、背には黒光りした鱗が幾重にも連なっており腹の部分には幾つのも足が蠢いている
一つ一つの先端が鋭く尖っておりこんな足で陸地を歩かれたら町一つ易々と壊滅できるだろう
そしてやや細くなった先端に頭部があり碧片眼が機械的に周囲を見渡し口からは特大の鋏のような牙がむき出しになっている
「あ・・ああ・・・」
巨大なダコンの姿にシーラは全身を震わせて必死に地にしがみついている
「さて、世紀の儀式の始まりだ!」
そう言うとアンザルサンはわざとダコンに見せ付けるようにしながら宝石をおもむろに口に含み・・
「んぐ・・ん・・んが・・」
無理やりそれを飲み込む・・流石に息苦しい様子なのだが全くためらいのないアンザルサン
「さぁ・・お前の探している眼は俺の腹だ!欲しければ俺ごと取り込め!そして・・」
狂気の笑みを浮かべながらそう叫ぶ、それが理解できるのかダコンの空洞となっている片目から触手が幾重にも飛び出てきて
アンザルサンの身体に絡みつくやいなやゆっくりと引き上げる
「そして・・この眼の魔力の力を得た俺にその身をよこせ・・」
全身絡みついた触手を見ながら笑うアンザルサン・・
触手の動きは正確で片目の窪みにアンザルサンを取り込む、そして何かがへばりつく音が当たりに鳴り響き・・

キシャアアアアアアアアアアアア!!

突如ダコンが暴れ出す!身体を捻るたびに波が発生しシーラの身体に襲い掛かる
「きゃあ!!・・く・・ダゴンが・・乗っ取られている・・」
その姿に怯えながらもどうすることもできないシーラ
ただただ月明かりの中ダコンがもがき苦しむ姿を見つめている
その時
”てぇぇぇぇぇぇ!!!”
雄々しく叫ぶ咆哮とともにダコンの体に突き刺さる無数の矢と炎弾
強烈な衝撃がダコンの身体を揺らす
そこにあるは船首に乙女の姿が刻まれた白き戦闘船
「シーラ!無事かい!」
船首に乗り上げて指示を出しているソシエが怒鳴り声で投げかける
「ソシエさん!」
「化け物と一緒なのはともかく・・ようやく合流できたね」
「急いで逃げてください!あの化け物は・・」
「わかっている、あの石室の事はある程度解読させてもらったよ!だけどここは退けないね!
全員攻撃続行!」
そしての怒鳴り声とともに再び獣人達は弓を引き矢を海主に向けて放つ!
鋭い矢はダコンのヌメヌメとした身体に突き刺さり青色の不気味な液体を流させるのだが
巨体のそれに対してはそれほど有効な攻撃とは言えない
続けて攻撃魔法を学んだ獣人達が隊列を組んで炎弾を出すがこれもその巨体を揺るがすほどの攻撃にはならず・・
そして
『ふふふふ・・無駄だ・・』
不意にその場にいる全員の頭に人を見下した男の声が響き出す
「何っ!?」
「・・ああ・・」
『ふふふ、こうまでうまく行くとはな・・アイアンローズ、一歩遅かったようだな』
「ちっ・・融合が終わっちまったようだね・・」
『ああっ調子も良い・・これでコソコソ逃げ回る必要もなくなったよ。今度逃げるのは貴様のほうだな』
「はん!このソシエ=ローズに撤退って事はありえないんだよ!」
『やれやれ、噂通りのクレイジーさだな。まぁ良い・・この体の腕試しにはちょうどいい素材だ
・・その前に・・』
ゆっくりとダコンは怯えるシーラの方を見やる
「ひっ・・」
『けがわらしい獣人の娘よ、世話になった礼だ、我が最初の犠牲になるがいい!』
ダコンの足が鋭く伸びシーラ向かって襲い掛かる!
「シーラ!」
ソシエも船から飛び出て救おうとするが距離的には到底間に合わない!
「あ・・ああ・・」
高速で襲い掛かる槍のような足にシーラは動く事もできずに歯を鳴らし怯える
『ははは!怯えろ!そして惨めに死ね!』

”させるかよ!!!”

突如叫ぶや否や海から飛び出てくるウィッグ
何時の間にか船から飛び出したようで上半身裸のままシーラに飛びつく!
その刹那、ダコンの足がシーラのいた場所を深々と貫いた
『貴様は・・』
「へっ・・、ようやくてめぇに一杯食わさせる機会ができたぜ」
シーラをお姫様抱っこしながらにやけるウィッグ
だが・・・
「あ・・貴方・・背中を・・」
ウィッグに抱かれながら彼の背に負った傷を見て唖然とするシーラ
「ああっ、ちとだけかすっちまった・・どこまでも二枚目にはなれない体質だぜ」
本人もその感覚にはすでに気づいており背中から伝わる血の感覚に集中力が欠けてくる
『懐かしいな!どこぞで商人でもしていればいいものをこんなところまできて俺の邪魔か?』
「はっ!恨みを晴らさずにしてのうのうと仕事もできないんでな!
ダンゴ虫の化け物になったところで結局のところ今までの罪を償うことには敵わないぜ!」
『やれやれ、どこまでも愚かな奴だ・・死ね』
バキィ!
「ぐわぁ!」
地に突き刺さった足が鞭のようにしなりながらウィッグの身体を吹き飛ばす
彼は咄嗟にシーラを庇いながらそれをまともに受けて海まで飛ばされる!
背中に傷を負った状態でそんなものを受けたウィッグ、衝撃で意識をもぎ取られながらもシーラを奪われないようにしっかりと
抱きしめ海岸スレスレでなんとかふんばる!
「へ・・へ・・軽いぜ。ダコンって奴も大したことないな・・」
精一杯強がるウィッグ、だがその一撃ですでに骨は軋みを上げロクに動けない状態に・・
『やはり貴様は馬鹿だな。大人しく溺れていればいいものを・・』
「このままじゃ危険です・・私の事はいいから逃げて!」
「ダメだよ、今君を放したらそれこそ君が狙い打ちにあう」
「だ・・だけど・・」
「あの野郎による犠牲者をこれ以上増やすわけにもいかない・・君は俺の命に代えて護る!」
『美しいなぁ・・ウィッグ。ばかばかしすぎて笑えないがな』
「はっ、そんな余裕もすぐになくなるぜ?・・アンザルサンよぉ」
血が滴りながらも虚勢を張るウィッグ
その一言にダコンの体がザワザワと動き出す
『いい加減貴様のふざけた虚勢には付き合ってられないな』
「俺もお前の醜い姿はこれ以上はごめんだな・・もういいぜ!」
ニヤリとウィッグが笑った瞬間!

ザバァ!!!

突如海中から姿を見える黒い飛竜!
背に乗るロカルノがウィッグとシーラを瞬時ですくい上げそのまま上昇!
『何っ!?』
『ウィッグさんの怒りの分です!!』
咄嗟の出来事に対応が遅れたダコン・・否、アンザルサン。
無謀にな腹に向けて飛竜アミルが大きく口を広げる!
そして

轟!

閃光とともに走る竜波(ドラゴンブレス)!
闇夜に光る白き光はアンザルサンの腹部に直撃しその巨体は揺らぎつつ水面に沈んでいった・・
「ふん、眼には眼を、奇襲には奇襲を・・だ」
ずぶぬれになりながらダコンが沈んだ地点を見やるロカルノ
「だけど溺れ死ぬところだったわよ〜」
同じくずぶ濡れに彼の隣に座るセシル
『何時になく無茶な提案でしたけど・・うまく行きましたね』
苦笑いに念波を送るアミル、二人を背に乗せた状態で海中に入り奇襲を行うという荒業に本人も
良くうまく言ったものだと呆れる
「私一人ならば全く問題なかったのだがな・・」
「肝心な時に船にいるのが嫌なだけよ〜、それよりもウィッグ!だいじょぶ?」
ダコンの様子見をロカルノに任せセシルは背後で横たわるウィッグを気遣う
見ればシーラが涙目になりながら彼を介抱している
「あ〜・・なんとか生きてるぜ・・。ったく、あの化け物相手に良く切り抜けたもんだぜ・・」
「しゃ・・・しゃべったら傷が開きます!」
「だいじょぶだよ、兎のお嬢ちゃん。これでも俺は海の漢、腕の骨がへし折れようが背中の肉が削がれようが簡単にゃへこたれねぇ」
ニヤリと笑いながらも当人、どこからどう見ても満身創痍
「まぁ治療してあげるわよ。約束を護った報酬ね」
「へっ、だが約束どおりこの子を無事救出したんだ。報酬はたんまりもらわないとな」
「まっ、それだけ口が聞けるなら問題ないでしょうねぇ」
呆れながら彼の傷を魔法で治療しようと取り掛かる
だが
「・・!セシル!二人を抑えろ!アミル!」
『はい!』
「へ・・?きゃぁぁぁ!!」
唖然としながらも咄嗟にロカルノに言われたとおりにシーラとウィッグをしっかりと掴むや否や
アミルの体が急旋回!
それと同時に蒼白い閃光が幾つも海面から走り彼女に襲い掛かる
「高度を上げ避けきるぞ!」
『了解です!』
止む事のない無数の閃光、執拗にアミルを叩き落とそうと海中から放たれる
対するアミルもただ回避するだけでなく巧みに旋回しながら虹色魔方陣を展開し魔法弾を連射する
海中に突っ込む魔法弾は激しく水しぶきを上げるがダコンに傷を負わしているかは海上からは全くの不明
それゆえに残りの魔力を考えながら連続して魔法弾を放つ
その押収がしばらく続いたがアミルの高度が上がる毎に閃光の数が減っていき
ついにはその攻撃が途絶える
「・・・・(ガタガタ)」
「・・落ちたら死ぬよな・・」
セシルに鷲掴みされながらなんとか落下しなかったシーラとウィッグだがその荒いアクロバット飛行に生きた心地がしない
「相手が相手だけにそんくらいしょうがないわよ」
「・・っというかセシル・・器用だな・・」
移動や攻撃の指示を出すロカルノは首の付け根に座りアミルを操っているのに対して両手が使用中なセシルは
アミルの右翼の付け根に足を挟んで何とか落下しないようにへばりついているのだ
「・・あんの殺人飛行の中で学んだ落下を防ぐ技術よ」
「???」
『メルフィ様・・、ようやく人の役に立つことができましたよ・・』
よくわからないウィッグとシーラをよそに、頭に響くアミルの声はとても哀愁に満ちていた・・
それはともあれアンザルサンとアミルが熾烈な攻防を行っている間にソシエの船は何時の間にかかなり後退している
そして
『ロカルノ君〜、仕事はここまで。後は私が始末するよ』
ふとソシエが念波で話しかけてきた・・良く見ればあの小さな孤島の中心にソシエ一人が立っている
『ソシエさん、よろしいので?』
『まっ、ちょこっと力を貸してもらうかもしれないけどね。ウィッグの傷は私の船でしなさい』
『・・了解です』
念波での会話を終えそのままソシエの船に向けて降りようとするロカルノ
しかしそれに・・
「で・・ですが、あのダコン相手にいくらなんでも一人は・・」
シーラは顔色を悪くしながら言い出す
「大丈夫よ〜」
「セシルさん・・」
「あの馬鹿ダンゴ虫はねぇ・・やっちゃいけないことをしちゃったの」
「・・えっ?」
「ママを本気で怒らしたの。こうなったら神でもママを止められないわ・・ともかく戻りましょう?」
あっけらかんというセシルだがその瞳は心底ソシエに怯えているのがわかる
「了解だ、アミル・・まだ出番があるだろうが戻るぞ」
『わかりました。ならばこの状態で待機します』
そう言うとアミルは静かにソシエの船に向かって降下していった

・・・

対し島に一人立つソシエ
美しい金髪が激しい夜の海風に揺れながらも静かに仁王立ち
「さて・・大方念波を聞いていただろう?さっさと上がってきなよ」
アンザルサンに向けてそう叫ぶソシエ
静寂な闇に声は静かに響いていく
だが

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

ザバァァァァァァァァ!!!

途端に轟音を上げて海より現れるアンザルサン!
巨大なダコンの肉体・・、アミルの竜波による腹の傷もかなり治癒されているようで焼けた箇所が所々あるぐらいになっている
『ククク・・この俺にたった一人でどうするというんだ?』
「決まっているだろう?徹底的に滅ぼすのさ」
ニヤリと笑いながら腰のレイピアを軽く抜くソシエ、不動の構えでアンザルサンを睨む
『アイアンローズと言われて相当な慢心があるようだな・・』
「そんな名前、こちらから頼んでつけてもらった覚えはないねぇ。でかい図体で粋がってないでさっさときなよ?
格の違いを見せてやるよ」
軽く鼻息をつくソシエ、だが

ドォン!

刹那にダコンの足の一本が超高速で襲い掛かり地をえぐる!
『ぬっ?』
正しく必殺の一撃なのだが鋭い突起がソシエに当たるその瞬間に彼女の姿がスッと消える!
「遅いんだよ!」

斬!

瞬間、ダコンの足が綺麗に切断されておりその上にソシエが器用に立っている
『そんな薄っぺらい剣で俺の足を良く切り落とせたものだ・・』
「剣で斬っているんじゃないよ。さて、次をドコを斬って欲しい?」
『ぬかせ!』
アンザルサンの怒号とともに無数の足が伸び一斉にソシエに襲いかかる!
「ふん・・」
はんば呆れた表情を浮かべながらその姿を瞬間に消滅させる
そして

斬斬斬!!!

見えない姿に見えない刃、超高速の剣技が強烈な凶器であるダコンの足を次々に切り崩していく!
『ぐっ・・こざかしい!』
「ふんっ、常人ならば脅威になろうが・・私にはただの管にすぎないね」
残影を残しながら再び地に足をつけるソシエ
いとも簡単にダコンを切り裂いたレイピアには血の雫すらついておらず月明かりを反射してきらきらと獲物を睨んでいるかのようだ
『ならば・・これならどうだ?』
にやけるアンザルサンの声、次の瞬間その口が大きく開き付近の空気が揺らぎ出した!
「・・っ!?」
『島ごと消え去れぃ!!』

轟!!!

凄まじいエネルギー収束の光が放たれたか思うとそれは島にぶつかり・・

ドォォォォォォン!!

凄まじい轟音とともに島を破壊する。小規模な島ゆえもはやその衝撃に岩は崩れ海の中に消えそうだ
その中、ソシエの姿は光の中に消えていったのだが・・
「やれやれ、足場でも奪おうとしたのかい?」
何時の間にか残されたダコンの足の一本に立つソシエ、完全に光に捉えられた位置であったがそれをもろともしない移動である
『ち・・しぶといな。だが貴様が言う通りもはや足場もあるまい、このまま海中に引き込んでやろうか?』
「はっ!甘いわねぇ・・芸を見るのはもう飽きたよ!」
そう言うとソシエは大きくダコンの足を蹴って宙を飛ぶ!
『なに・・?』
「アミル!!」
ニヤリと笑った瞬間にソシエのいた地点に黒い飛竜が高速飛行してきて彼女の乗せる!
『ちっ、うっとおしいのが戻ってきたか』
忌々しげに唸るアンザルサン、またもや口を大きく広げあの光線を放とうとする

「・・やれやれ、まともにあたればまずいな・・どうします?ソシエさん」
アミルを操るロカルノも手の内用がないのか顔を曇らせる
「あれを貸しておくれ・・」
「あれ・・とは?」
「腰に下げている剣だよ!」
「・・ディ・ヴァインを?・・なるほど・・」
ニヤリと笑い快く自身の得物をソシエに投げ渡す
「こうまで面白い仕組みがある剣ってのは私は好きだね。まぁ後は仕留めるよ
それとあの子の剣も後から投げておくれ」
ジャキっと剛火の戦剣を抜き力を込めるソシエ・・
「了解です・・」
『ロカルノさん!』
不意にアミルが叫ぶとともに以心伝心に手綱を操るロカルノ、瞬間夜を照らす破壊の閃光がそこを走る
体勢を崩しながら旋回しようとするアミルだがそこからソシエが躊躇なく飛び降りる!
「調子に乗りすぎだよ!」
落下しながら剣に力を込めるソシエ、するとディ・ヴァインの刃から炎の刃が出現する
それもロカルノが作り出すよりも遥かに大きくまるでダコンの体そのものを斬り裂けるが如くの大きさ・・炎の巨刃といっていいほどだ
『な・・に!?』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ゴォォォォォォォォ!!!!

凄まじい炎の刃はダコンの身体を一刀両断していく、
ソシエの魔力により巨大化した刃はいとも簡単にダコンの身体を切り裂いていき
海中に突入する直前でダコンの腹を蹴り再び宙を舞う
『グゥ・・オオオオオオ』
「ロカルノ君!」
空中を高く舞いながら振り向きもせずにソシエが叫ぶ!
それと同時に空を切り走るもう一つの刃・・ソシエはそれをこともなく受け取る
「ふふふ・・久しぶりだね・・氷狼刹、またちょいと力を貸してもらうよ!」
握られるはセシルが持つ氷雪の魔剣『氷狼刹』、それを懐かしむように笑いながら大きく振りかぶる!
「これが氷狼刹の本当の力よ!見てな!馬鹿娘!!!!」
そう言うと氷狼刹の大きな刃は蒼い冷気に包まれそれが肥大化していく
『き・・さまぁ!』
「唸れ!!氷雪の魔剣!!!」

轟!!!

振りかざす氷狼刹、そしてそこより吹きすさぶは正しく氷雪なる吹雪。
強烈な冷気の竜巻が大きく切り裂かれたダコンの肉体を包み込み
周囲の海まで氷河の如く凍りつかせる!
『ぬおおおおお・・ば・・ばかなぁ!』
全身の動きが取れず凍り固まるアンザルサン、対しソシエは不適な笑みを浮かべながら
凍りついた海上に華麗に着地する
「ふっ、ちと張り切りすぎたかねぇ・・」
目の前には巨大な海の主が見るも無残に咲かれ凍りついた姿がある
『ぐ・・だが・・この程度で・・俺は・・滅び・・』
「もちろん、この程度でくたばらせないよ。氷狼刹を使ったのは動きを封じたため、
ロカルノ君の剣を使ったのは確実にあんたを滅ぼすため・・こうしたがたいのでかい化け物はしぶといのが定番だからねぇ・・
塵一つ残さないよ」
にやりと笑うソシエ・・
『何をする・・気だ・・』
「出力が不安定で実用化はまだ見送っていたんだけどね・・ほら・・きたよ・・」
そう言い、軽く氷狼刹で後方を指す、遥か方向でソシエの旗艦が待機しているのが見えるのだが
それとは違いもう一隻全速でこちらに向かっている船が・・
それは紛れもなく白色に塗装されたソシエの船の一つ、だが船首には大きな砲台が設置されており
船全体は淡く光っている
そして甲板にはメイド長であるウィンクが目標に向けて静かに舵を取っている
「哀れな化け物に対するレクイエムだ、派手にぶちかましてあげな!」
そう言いゆっくりと手を上げた瞬間!

カッ!!

眩い閃光とともに強烈な光の筋が船より発射される!
それはソシエの頭上を通りアンザルサンの身体に接触するやいなや空間を歪ませ凍りついたからだを白く包んでいく
『な・・なんだ!?これは・・、体が・・砕け・・て・・』
「試作型の魔導式魔素圧縮衝撃砲ってやつさ・・。空間を歪ませて超爆発を起こす・・らしいけど
まぁついでだ。冥土の土産をもう1個くれてやるよ!」
『ま・・ま・・さ・・』
「船一隻あんたにくれてやるのさ、ウィンク!仕上げだよ!」
そう言い再び飛びあがるソシエ、それにタイミングを合わせるようにウィンクも船から飛びあがり翼を広げながらソシエの
腕を掴み後方にさがっていく
「魔導ブースター機関を暴走させ、ありったけの火薬を詰め込みました。試作砲の影響からしてかなりの広範囲を消滅させるでしょう」
焦りもせずに淡々と言うウィンク
「まっ、計算通りだ。すでに後退命令を出しているのだろう?」
「はい。総員すでに安全圏まで待機しております
では我々もそこまで後退します」
そう言い翼を大きくはばたかせアンザルサンから距離を取る
無人の巨大な爆弾となった船は氷狼刹でできた氷河を割りながら正確にアンザルサンの元へと走る!
『ば・・・ばかな!この俺が・・こんなことでぇぇぇ!!!』
狂ったように叫ぶアンザルサン・・
そして船首がアンザルサンの体に触れた瞬間・・

!!!!!!!!!!!!!!

爆音と閃光が周囲を包みながら円形の光球が造られる
その中で海の主の影は脆く崩れ去り瞬く間に塵と化していった・・


 

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