第十節  「孤島包囲作戦」


翌日
屋敷にいた者全てが地下訓練場に召集され巻き返しへの作戦が言い渡された
全てのメイドは戦闘用のセーラー服に着替え早くも戦意向上している
昨晩遅くまで作業をしていた疲れもやや見えるのだがそれ以上に彼女達には成し遂げたいことに闘志を燃やしている
そんな中、彼女達の前に立つソシエもいつもと違う服装になりウィンクと同じような白いチャイナ服調の戦闘服に
薄く蒼いマントを肩にかけている
そして腰にもいつもは下げていない蒼い鞘のレイピアを下げており完全戦闘態勢であることを表している
「さて、皆連日動き回ってすまないね。だがシーラを無事救うためにもう一度力を貸して欲しい」
塾女ながらにして妖艶な姿のソシエだがその瞳は真剣そのもの
「了解です!皆の力でシーラちゃんを無事助け出しましょう!!」
そんなソシエの言葉にウサミミが鼻息荒く叫ぶ、彼女だけではない。
ここで働くメイド全てがウサミミと同じ思いなのは目でわかる
「良い返事だ、ロカルノ君やアミルちゃんも頼むよ」
「任せてください・・仕事はこなします」
最前列でニヒルに笑うロカルノ、こうして見るとその自信が周りを鼓舞しているかのようにも見える
「精一杯がんばります」
その隣でいつもの服装で静かに頷くアミル、・・この二人が並ぶと寧ろ夫婦のように見えてしまうのだが
そうはさけない女傑が騒ぎ出す
「・・ママ〜、私に何か激励の言葉とかは〜?」
一人マイペースなセシル、いつもと変わらない様子だが腹の内側にはマグマの如くこの一件に対する怒りが蠢いていたりする
「シンガリになって死ぬ気でツッコメ」
「・・・その教育が娘を間違った方向に向かわせるのよ・・」
「何か言ったかい?」
「何でも!」
結局、いつでもどこでも母子は変わらず・・
「まぁいい。そんじゃウィンク、説明を頼むよ」
「かしこまりました、目標は恐らくこの一件の発端となった南東にあるあの島・・通常船ならば丸一日かかる距離ですが
魔導ブースターを使用して急接近します」
そう言うと目標の島の地図を広げ各艦の配置を指示しだす
「目標は多数船を所有していると思います。各艦、目標を取り逃がさないように完全に包囲してから同時に接近してください」
「目標地点まで最大速度で移動する。そのために包囲後の魔導ブースターは使えないだろうね
慎重な行動を心がけておくれよ」
「で・・ですが、相手も僕達の船を奪ったのだったら接近に気づかれる可能性があるのでは?」
静かに聞いていたポチが口を挟む
「確かに、島を包囲後は通信はせず各艦の判断で行動してください。そしてロカルノさんにアミルさん・・」
「わかっている。一足先に島に接近して牽制すればいいのだろう?」
「はい、速やかに艦が配置できるように上陸していない船を落としていってください。
できれば島内でシーラさんの足がかりの情報収集もお願いします」
「わかりました。がんばります!」
船酔いも収まったアミル、珍しくやる気に溢れている
「頼むよ、ウィッグんところの連中は私の船に乗りやつらの動きを観察してくれ。
もし連中が馬鹿な真似をする素振りを見つけたらすぐさまこちらに言っておくれよ」
「わかったよ。船首で望遠鏡にかじりついておく」
「ママ〜、私は〜?」
「お留守番でもしておくかい?昔みたいに良い子になるかもね♪」
「暴れたい暴れたい!暴れたいの〜!」
「ええい!駄々こねるんじゃない!あんたも私んところで待機・・白兵戦になるまで大人しくしていな!」
「・・美味しいところは全部ロカねぇ・・」
「しょうがないだろう?なんならロカルノ君に代わってアミルちゃん操縦するかい?」
ソシエのその一言で思い出される昨日の高速飛行・・
「・・遠慮しておく・・まちがいなく落ちるわ・・」
「ふっ、慣れだ・・」
「ロカルノの偉大さには感服もんよ・・」
「もういいかい?そんじゃ総員乗船後作戦を開始する!」
その言葉にメイド達はピチっと敬礼で応えすぐさま行動へと移していった

一時間後、素早い行動にて順序よく沖に出る鉄十字艦隊
全艦並行して最終確認の通信が行き交っている
そして旗艦であるソシエの船の甲板には翼を広げいつでも飛べるようにウォームアップしている黒き飛竜アミルが・・
「本来なら余り使いたくないのだが・・我慢してくれ」
そんなアミルの口角に特注手綱を装着させるロカルノ、大きな金具がアミルの口をはさみしっかりと固定する
本来ならば鋼の棒を噛ませて固定させるものなのだが彼女の戦闘能力を最大に活かすために特注したのだ
『いえ、手綱があったほうがロカルノさんも安全ですから・・』
「ふっ、ならば遠慮せずに暴れてくれ」
装着が完了しアミルの首筋を軽く叩くロカルノ、巨大な飛竜は主を慕うが如くにそれに応え頷く
「よし・・ならば一足先に行かせてもらう」
完全武装なロカルノ、船員に一声かけながらアミルの背に飛び乗る
「ああっ、うまくやっておくれよ」
「期待に応えれるように善処しますよ」
「ちゃんと私の活躍の場を残しておいてよ!」
「お前が暴れたら海が血で汚れる・・」
ロカルノの母子に対する対応もさまざま・・
「これからの通信は傍受される可能性がありますので情報交換はできません。
判断はロカルノ様にお任せします」
対しウィンクは作戦の最終確認、こうしてみるとウィンクが一番仕事をしているようにも見えるのだが
それは性分ということで・・
「了解した。以降は合流するまで私の判断で従う・・ここの船は目立つ。誤爆する心配もないだろう」
ニヤリと笑うロカルノ、白い艦隊は海上ではとても目立つのだ
「あんたじゃありえないだろうさ・・任せたよ・・」
軽く親指を立てるソシエ、それにロカルノも無言で親指を立てて応える
『それでは参ります。・・のちほど合流しましょう』
大きく翼を広げテイクオフ、かつての慌しい飛行とは違いゆっくりとアミルは大空に向かってはばたいていった

・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・

それよりかなり上空を飛行するアミル、その姿は余りにも目立つために遥か上空から敵を捕捉し
急降下しようというのが目論みなのだ
『・・大丈夫ですか?この高度だと空気が・・』
念波でロカルノを気遣うアミル、彼女でさえ少し息苦しさを感じるほどなのだ
「ふっ・・心配するな。低酸素状態で有効な呼吸法を使っている・・」
彼女の視界からはロカルノの姿は確認できないがその声はいつもの彼そのものであり
飛竜は安堵の息を漏らす
『そんな技術があるなんて・・ロカルノさんは物知りですね』
「いつ、いかなる時でも最大限動ける状態を作り出す・・・一流の泥棒試験には必須だったのさ」
『ど・・泥棒?』
「私の恩師でもあり師匠だ。私はあの人から習った事を応用しているだけに過ぎない」
・・つまり、自分は大したことがない・・っと
自信に溢れたロカルノの珍しい言動にアミルは内心キョトンとしている
「・・おかしいか?」
『い・・いえ・・そういうわけでは・・』
「ふっ、まぁいい・・。この高度ならば念波会話だろうと奴らも気づくことはないだろう・・
目標を補足しだい一気に降下して蹴散らすぞ」
『了解です。しかし急降下の際の身体への負担は相当な物です・・お気をつけて』
「私の事なら心配しなくていい。君は思うように空を駆けてくれ」
『そうはいきません。ロカルノさんにもしものことがあってはセシルさんに合わせる顔がありませんので・・』
「・・・ふっ、了解した。辛くなったら声をかけよう・・舌をかまない程度になるが・・な」
『安心してください。・・貴方の声は・・聞き逃しは・・しませんよ・・』
少し照れながら念で話すアミル、その内側に溢れんばかり存在している想いの影響
しかしその相手はあくまで自分を作戦パートナーとしてしか見ていない
それは重々承知しているのだ
男性経験はおろか恋すらしたことがない彼女でも背を預けるロカルノの想いというのは理解している
それだけに少し切なさが心を痛める
「アミル・・集中しろ」
『え・・っ!?あっ・・すみません・・』
ロカルノの声に我に返るアミル、何時の間にか高度が少し下がっていたのだ
「お前らしくないな・・どうした?」
『いえ・・なんでもないです・・なんでも・・』
「・・?そうか・・?」
再び高度戻し飛行に専念するアミル
いつもよりも高空から見える景色はまた違ったもので周囲360度全てが蒼の世界
この季節特有の雲ひとつない晴天が広がり正しく絶景
仕事で余裕があればじっくりしていたいものだとロカルノは少し心でぼやきつつも・・
「・・・・、ふっ・・鳥の目からは虫が良く見えるものだ」
静かに笑う・・遥か低空、海面に米粒ほどの大きさの物体を確認したのだ
『人の肉眼で良くわかりましたね・・』
「これも、泥棒から学んだ事・・さ。近くに数隻・・いくつか編隊を組み少し離れたところで連絡用として一隻といったところかな」
仮面の中から覗く瞳はさながら隼の如く
瞬時で敵の配置を確認する
『どうしますか・・?』
「無論・・」
『ふふっ・・』
「『蹴散らす』」
二人の声が重なった瞬間、アミルは空を蹴り急降下を開始しはじめた!
・・・・・・・
強烈な衝撃がロカルノの身体を襲う中、アミルは躊躇なく加速しながら垂直落下していく
その衝撃だけで並大抵のものならその背から引き離されてしまうのだが
そこはシュッツバルケルの名将、『竜帝』譲りの技術を持つロカルノならばそれもたやすいとアミルは考えているのだ
そして海面スレスレで激突しそうなところで方向転換、水しぶきを上げながら猛スピードで海賊船に接近する
海賊船の乗員達は咄嗟の出来事にかなり動揺しているらしく慌てふためいているのが分かる
「アミル!」
『はい!!』
船に接近しながら合図とともに魔方陣を展開させるアミル、それは彼の得物である槍『戦女』の柄に出現し
爆音とともに水の巨大な刃を作り出す
その瞬間、槍は船をも両断できるほどの巨大な剣となり、ロカルノは手綱を離しつつ両手でそれを構えた
流石に水で出来た刃なだけにその重量はハンパではなくロカルノが振れる代物ではない
だが彼はそれをアミルの翼を平行になるように構えて踏ん張りだす
そして
「沈め!!」

斬!!!

飛竜が海賊船の隣を猛スピードで通過すると同時に巨大な水の刃が横一文字にそれを切り払った!
よほど刃が鋭かったのか切られて数秒たっても船に変化は起こらない
・・・が、巨大な水刃の形成が元に戻り大量の水が海に還るのと同時に
次第に甲板はぐらつきマストは折れ、ものの見事に崩壊していったのだ
「まずは一隻・・」
『前方に二隻います!』
「アミル、任せるぞ・・」
『了解です!』
そう言うと水を切りながら急上昇するアミル、海賊達は急接近する飛竜になすすべもなく慌てている
そして広げられた竜翼から展開する二つの虹色立体魔方陣
魔導文字が蠢くそこから力場が働き光の球が出現しだす
『船底部目掛けて・・いけ!』

轟!
轟!!

狙いを定めて発動!
超高速で空を切り爆音とともに光球は寸分の狂いなく水面ぎりぎりな船底に着弾し爆発を起こす
船にとってはそれだけで致命傷、船倉に水が流れるのを確認するまでもなくアミルは通り過ぎていった
「ふっ、流石はアミル・・だな」
『恐縮です・・』
嬉しげにそう言いながらも周囲の警戒をするアミル、前方に今度は三隻待ち構えており
再び気を引き締める
そこへ
「・・っ、アミル、上昇だ!」
『了解!!』
甲板にある装置を見てロカルノが叫ぶ、その命令に瞬時に応えアミルは大きく翼をはばたかせ急上昇
すると・・

疾!

彼らが今いたところに鋭い大型の矢が走る!
『あれは・・』
「対艦戦用の大型拡散型のボウガン装置だ。
獲物である船に大穴を空けさせるためにとりあけ大型魚を狩る銛を改良したような巨大矢を使用する
リロードには少々時間がかかるようだが命中すれば例え君でもただでは済まない。
・・気をつけろ」
『了解です・・しかしそれだけ厄介な物なのに・・ソシエさんの船やさきほどの三隻は積まれていないんですね』
「ソシエさんの場合は海に矢を捨てるような使い方をするのがあまり気にくわないのだろう。
弓兵部隊も編成されていたが寧ろ突撃を基本としている
連中は・・、見ればわかるさ」
そう言いながら襲いかかる矢を巧みに回避し三隻の海賊船の周りを旋回するアミル
一隻につき両舷に一つづつ大型ボウガンが設置されているのだが・・
『なるほど・・あれだけの特殊な矢・・数が限られているのですね』
頷くアミル、大型ボウガンを引いている海賊の後ろには補充する係がいて残量の確認をしながら矢を渡しているのだ
「そうだ、あれだけの矢を一度に3本も発射する。それに加えて大型の矢を発射させるために弦の消耗も激しい
脅しの材料には使えるがこうした場合には懐に響く両刃の剣・・っと言ったところになる」
『なるほど・・しかし、対艦戦用の武器を使用してくるとは予想外でしたね・・』
「ふっ、連中もそれなりに金をかけているとみた
・・だが、船対船ならばまだしも・・」
『私の動きにはついてこれないようですね・・』
素早く飛びまわるアミル、射手はそれに狙いを絞ることができず無駄打ちをはじめている
「ふっ・・、船に穴を空ける程度の腕しかないのだろう。
まぁこれで少しは相手の戦力も把握できた・・アミル」
『了解です・・』
ニヤリと笑うロカルノに応えるアミル、すぐさま虹色の魔方陣が展開され

ドォン!ドォン!ドォン!!

光球が発射、次々と着弾していく・・
なんとかして飛竜を打ち落とそうとした射手達であったが
強烈な魔法弾を見舞われ自分達の生命線である船の状況を確認するために手薄になっていた
致命傷を受けた船は轟音とともに崩壊されておりそれに命を預ける彼らは青い顔になりながら
脱出に取り掛かりだしていた
「さて・・後は連絡用の船一隻だけのようだな・・」
『報告させる前に落としますか?』
「いやっ、甲板に接近してくれ・・・私が制圧する」
『お一人で・・ですか?』
「軽いものだ。なんなら降下後に援護を頼む・・人形態でな
外観を傷つけずに制圧して孤島に接近する」
『なるほど・・この姿じゃ目立ちますものね』
「そういうことだ。」
ロカルノが不適に笑うとともにアミルは頷き再び加速する
すでに最後の一隻は前方の船の沈没とアミル達を確認しており急旋回して撤退しようとしていた・・が

轟!

その隣を飛竜が高速で飛行し水しぶきを立てる!
それだけでも立派な牽制であり船上に海水が降り注ぐとともにそこには仮面の騎士がすでに甲板に立っていた
「て・・敵襲!」
「ちっ!相手は竜じゃねぇ!ぶっ殺しちまえ!」
「ひぃぃ・・おたすけぇ・・」
今までの戦闘で動揺が走っていた海賊達なだけに自分達の聖域に侵入者が入ってきたことに
はんばパニック状態になっている
「抵抗しなければ殺しはしない・・まぁ、海水をたらふく飲むことに変わりはないだろうが・・な」
堂々と言い放つロカルノ、槍を構え放たれる殺気は並大抵のものではなく
海の猛者達の心に恐怖を植え付ける
「ふ・・ふざけんじゃねぇ!多勢に無勢だ!一気に殺るぞ!」
「お・・おう!!!!」
「そうだ!これだけの人数なら!!」
浮き足立ちながらも一斉にカトラスを抜きロカルノに襲い掛かる
対しロカルノは全く動じず、襲いかかる獲物をジッと睨んで緩やかに槍を動かして出した

・・・・・・

数分後、ロカルノを降ろして周囲を確認した後に
連絡線に戻ってきたアミル。
誰もいない甲板に降り立ち閃光とともに人の姿へと変身をした
「あ・・の・・ロカルノ・・・さん?」
シン・・っと静まりかえった甲板にアミルも少し不安そう
そこに
「ふっ・・遅かったな」
船室から出てくるロカルノ、かすり傷一つ負っておらず何もしていなかったのようだ
「ロカルノさん、あの・・海賊達はどうなったんです?」
一応、人の姿でも戦えるようにも携帯している鉄鞭を取り出しているアミルだが
この姿での戦闘は少し心もとないようで顔が強張っていたのだが
「ああっ、甲板にいた連中はまとめて縛り上げて海に放り投げた」
「へっ・・あれだけの時間でですか?」
ロカルノの一言で拍子抜け・・
その表情にロカルノは口元をほころばせる
「十分だ。まだ船内に忍んでいる海賊がいるかもしれない。
それらを調べた後にこの船で孤島に接近するぞ」
「わかりました、・・では行きましょう」
そう言い船内に入っていく二人、結果ものの五分もしたら仮眠をしていた者も含め船内全員の海賊を捕らえて
船はまたゆっくりと動き出すのだった・・・


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