第二節  「鉄薔薇と獣人」



「クラーク!これは喰えるのか!!?」

館の近辺にある林にてメルフィが違和感がわくほど鮮やかなオレンジ色のキノコを持って騒いでいる
出かけた面々のこと等おかまいなし、その日の彼らはのんびり野草採りに出かけてきているのだ
「あのなぁ・・いかにもってくらいの毒キノコじゃねぇか・・」
白シャツにズボンないつもどおりの服装に大きめの籠を背負っているクラークが呆れている
「そうなのか?」
「ああっ、これは笑い茸って食べると笑いが止まらなく毒をもっているんだよ」
「・・・ほぅ、また微妙な毒じゃなぁ・・」
「地味に効くらしいから毒薬として使用する奴もいるんだってよ。捨てとけよ」
「わかった!ならば次こそは喰えるものを取ってきてやる!」
ポイっとキノコを捨てて上機嫌で林を駆け回るメルフィ
「・・ノリノリだな・・ったく」
「兄上・・籠に入れますよ?」
苦笑いするクラーク、そこへクローディアは両手に沢山もった野草やキノコを持ってき大きめの籠に入れていく
「流石に見分ける目はいいな」
「昔取った杵柄・・ですね」
懐かしむように土に塗れた手を見て笑うクローディア
それを見てクラークも微笑む
「クラークさん!はい!」
加えてキルケも大量の様子・・こちらはキノコ関係は全くなく摘んできた野草も彼らには見慣れたものではなく
「・・俺達の知らない草だな・・こっち独特のものなのか?」
「え〜っと、ハーブ関係ですね。お茶にしても美味しいですしお料理にも適しているみたいですね♪」
「ふぅん・・まぁそういうことだったら確かに俺達が知らないのも納得だな」
「ですね♪・・うわぁ・・もうこんなに!流石はクラークさんとクローディアさんですね」
籠の中を見て大層驚くキルケ、それほどまでに彼らのペースは速い
「まぁ、ここらは野草採りなどはほとんどされていないようですからね。それだけ豊富なのですよ」
「だよなぁ・・、これは今晩はご馳走だな♪」
「ええ・・腕によりをかけますよ」
「じゃあお茶は私がいれますね♪」
和やかな異色カップル・・そこへ
「クラーク!ならばこれはどうじゃ!!」
必死に探し回っていたメルフィ・・、手に持っているのはキノコなのだが・・
「・・・・」
クローディアは顔を赤くしている。メルフィが持つキノコは形や大きさからして男性のソレと瓜二つ
しかもそこら中にイボイボがついておりかなりグロテスク
「うわぁ・・すごい・・」
何気にキルケ、興奮気味・・
「どう見ても食い物じゃねぇだろう・・」
「むぅ・・そうか?肉付きはしっかりしておるのだがなぁ」
キノコのカリをグニグニ握るメルフィ・・その行為だけで卑猥さ満載
「捨てろ、変な毒があるに決まってる」
「まぁまぁ・・せっかくですから・・ねぇ、クローディアさん♪」
「へ・・?え・・ええ。そうです・・ねぇ」
アタフタするクローディア、結局、卑猥なキノコのお持ち帰りは決定で
その日は大収穫を迎えた


それと同時刻
セシル達は・・

「ふぅん・・今回はまた珍しい子も連れてきたものねぇ」
聖礼都市ウィンヒルに構えるソシエの大豪邸、その中での絢爛豪華な居間にて屋敷の主であるソシエ=ローズがマジマジと
アミルを見つめている
いつもの如く白いスーツ姿を着込んでいるソシエはどこか神々しい
「珍しい・・ことには違いないけどねぇ・・」
ソシエの視線に萎縮するアミル、彼女も竜人、ソシエのもつ独特な気配を感じとりやや警戒しているようだ
「手を出さないでよ!ママ!」
「大切な客人に手をだすわけないだろう!何言ってんだいこの馬鹿娘は!
あっ、そうそう、ロカルノ君・・今夜はよろしくね(ニヤリ)」
早くも矛盾しているソシエ・・
「ロカルノに手を出さないでよ!!」
「社会勉強だよ!」
今にも一触即発な親子を余所に・・
「それよりも、私達を呼んだのには訳があると思うのですが・・」
付き合うだけ損・・っということで本題に早くも踏み込むロカルノ
この親子がすぐ喧嘩しだすということを熟知しての処理である
「ああっ、そうだった。全く馬鹿娘と違って要領の良い男だねぇ。ウィンク」
「はい」
例え親子喧嘩がここではじまろうと絶対止めに入らなさそうなまでに仕事に徹していた女執事ウィンクが
書類をロカルノに渡す。
常に姿勢を崩さず背についた翼までも手入れが行き届いており正しくプロ・・
「私には!?」
「あんたにはわからんだろうし複製する労力がもったいない」
「・・クソばばぁ」
「ああっ?」
メンチビームがぶつかり合っている間にロカルノはさっさと書類に目を通している
「・・この地図は・・南東の海一帯の物か・・秘宝・・?」
地図の上に秘宝とだけ記された印、しかし地図だけを見たらそこには何もない
・・そこから考えられるのは
「沈没船でも引き上げるのですか?」
「「むぅ〜!!」」

返事がない、ただの親子冷戦のようだ

「・・ふぅ・・・、ウィンクさん。事情を話してくれないか?」
「かしこまりました。その地図は先日略奪行為を行っていた海賊団を掃討した際に見つけた物で
当初は特に意識はしておりませんでした」
主には全くお構いなしに話を進めるウィンク・・まぁソシエにしてもウィンクがうまくやってくれることを
信じきっているから娘に喧嘩を売っている・・のかもしれない
「・・ふむ」
「ですが他の海賊の掃討の際にも同じような地図が出てきたのです。それも別紙に纏めました」
「・・用意がいい。・・ふむ・・名が知れた海賊の大方が持っていたようだな」
「ご存知でしたか・・」
「これでも、耳は良い方でな。だが、名を轟かせている海賊団もこの集団には勝てるはずもない・・っか」
ソシエの趣味になっている海賊狩り。私設の艦隊まで所有しており最先端の技術を取り込んでいるために
並の海賊達では相手にならないのだ
「恐れ入ります。海賊団の間にこの秘宝の情報が知れ渡っているのは明確。そこで私がそのポイントを調べに行きました」
「・・ふむ、だが・・海上を調べたところで何かわかるわけでもあるまい」
「いえ、そのポイントには島があったのです」
静かにそういうウィンク、それにロカルノも軽く頷く
「・・・ほぉ・・」
「海図のミス・・っというわけでもないでしゅう。そのポイントはそこまで航路から反れているわけではないので」
「では、何時の間にかそこに島が現れたというわけか」
「はい、私が上陸した際にはすでにどこかの船が上陸しており島は荒らされておりました」
「なるほど・・、こちらが気付いたと同時に海賊団の一部はすでに捕まえていたわけか」
「はい、そこには獣人が住んでいたようですがすでに・・」
流石に言葉を濁すウィンク、ロカルノもその先を聞かずともわかるので何も言わない・・
「唯一の生き残りの少女を私が保護しそのまま帰還しました。今でもこの屋敷で休んでいます」
「生き残り・・か。」
「はい、そしてその海賊はまだ彼女を探しているはずです」
「・・・?」
「流石に人一人抱えて戦闘は出来ないので情報収集だけでも行いました。彼らは秘宝を奪うために最初から獣人を皆殺しにしたようですが
その秘宝というものが見つからなかったようです。ですので詳しい情報を聞き出すために唯一の生き残りを探している・・っと」
「・・浅はかな・・」
「まったくです」
「犯人の目星はついているか?」
「残念ながら・・彼女が錯乱状態にあり暴れたりもしたのでそこまでは・・」
「・・まぁいいさ。だが、紙切れ一枚の情報でそこまでの過度の略奪をするほどの秘宝・・らしいな」
「島を発見されなかった事も気掛かりです。秘宝が財宝ならばいいのですが何かの古代技術ならば悪用されると
危険です。そこでロカルノ様達にご協力をお願いしたのです」
「・・事情はわかった。だが得られる情報がまだ少ないな・・」
「他の海賊掃討時に尋問を行っているのですが確かな物は得られていません」
「なるほど・・まぁ必要ならば直接島の調査も行えばいいさ」
静かに口元を上げるロカルノ、この自信がなんとも頼もしい
「ならば今すぐ飛行しましょうか?」
ジッと静かに話を聞いていたアミルが出番とばかりにロカルノに尋ねる
山中暮らしなアミルなだけに詳しい事はわかっていない様子だが
必死に理解しようとしている
「いやっ、下手に行動すれば尻尾をつかまれる。こういう時はまず情報を集めるのが先決・・なのさ」
「・・はぁ・・」
「とにかく、まずはその生き残りの少女と会うことがいいだろう。・・・会えるか?」
「・・いえ、それが相当なショックを受けたようで救出以来何もしゃべっていないのです。
ソシエ様もそれが気掛かりで・・」
気掛かり・・なわりには一触即発な親子、流石に殴り出していない様子だが
壁際で立っている獣人メイド達はかなりオロオロしている
「なるほど・・とにかく会って見よう。案内してくれ」
「かしこまりました」
「あの〜、ロカルノさん。このお二人は・・」
アミルも慌て出している・・ソシエとセシルのにらみ合いから放たれるは本当の殺気
・・危険な予感がプンプンするのだ
「放っておけ。人口密度が少なくなると爆発する・・・とばっちり受けたらいくら君でもただではすまないぞ」
「そうですか・・」
なんでこの人はここまで冷静なのか・っとアミルはロカルノに心底尊敬をしたとか・・
「ではっ、こちらへ・・」
何事もないように部屋を後にするウィンクとロカルノ達
それと同時に後ろの方から派手な破壊音が響き渡った・・


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