第一節  「セシルの里帰り」



「兄上、お茶が入りました」
「おっ、サンキュ〜」

いつもの如くなユトレヒト隊館、外も暖かくなってきて過ごしやすい季節の到来・・
談笑室ではのんびりとクラークとクローディアがお茶を飲んでいる
「良い陽気だなぁ・・」
「ええ、暖かくなりましたね・・。」
「もうそろそろ野草も生えてきそうだな」
外の穏やかな景色を眺めクローディアもシミジミと頷く
「なつかしいなぁ・・良く三人で晩飯の素材として狩りにいったっけ」
「ええ・・そうですねぇ・・」
「ここらで生えているかわからないけど今度行って見るか?」
「・・えっ?」
「懐かしいだろ?そういうのも・・」
クラークの言葉にクローディアは二コリと笑い
「では、キルケとともに三人で行きましょうか」
「そうだな、騒がしいのは出かけるみたいだし」
「そういえば今日出発でしたか・・」
クローディアがまたお茶を啜る
そこへ

”準備完了〜!!”

ドタバタしながら大風呂敷を持ってやってくるは長い金髪が特徴のセシル
しかし今ひとつ顔色がよろしくない
「おいおい、実家に帰るのにそんだけ着替えが必要なのかよ?」
「着替え?んなもんいくらでも向こうにあるわよ・・私が持っていくのはこれ・・」
風呂敷の隙間をクラークに見せ付ける
そこから見えるのはびっしりと敷き詰められた瓶・・中は何かの液体がなみなみと入っている
「・・回復薬(ポーション)?それもこれだけって・・確かお袋さんの仕事の手伝いだろ?
こんなにいるのかよ?」

事の発端は以前セシルが突然拉致されて母親の元へと送還された時、
そこで仕事の手伝いをしろと脅迫された事による
しばらく連絡はなかったものの一昨日になって封書で連絡がきてセシルは無理やりパートナーのロカルノと
NOといえないアミルが参加することとなった

他は全員拒否・・それも仕方のないことなのだが・・
「海賊退治如き指先一つでダウンよ・・このポーションの山は対ママ用・・。朝寝坊としかしたら
『目覚めの脳天杭打ち(パイルドライバー)』が炸裂してもう生き地獄なんだから・・」
ヨヨヨ・・っと泣いているふりをするセシル
そんな事をしているから娘がこんな性格になったのでは・・っとクローディアやクラークは内心ぼやいていたり・・
ともあれ、それほどまでに母親の力に怯えている
まぁ娘がケダモノでバケモノならば母はもはや神の位・・戦おうとするだけ無謀なのだ
「っうか・・街でこれだけ売っているもんか?」
「全部買い占めたわ・・、足りない分はキルケに・・」「セシルさん・・もう・・勘弁してください・・」
セシルの説明中にフラリと入ってくるキルケ・・いつもの活発さはどこへやら
髪の毛ボサボサで目にはクマ、お手製のエプロンには細かな粉末がびっしりとついており
実にカラフルになっている
「お〜い、キルケに調合やらせたのか・・」
「だって私がやるより配合うまいんだもの」
「だからと言ってここまでやらすな。・・徹夜か?」
「はひ・・であ・・おやすみ・・なさい・・」
フラフラ〜とクラークの胸に倒れそのまま深い眠りへと・・
「キルケもだらしないわねぇ、たかだか一日徹夜したぐらいで・・」

ゴン!

「ふべ!」
「調合は神経を使うんだ、遊んで徹夜するのとは訳が違う」
後ろから頭を殴って登場するは彼女のパートナーであるロカルノ
彼は既に旅支度を済ませておりいつでも出発可能なようだ
「やれやれ、大変だな・・」
「こいつが恐れおののくのはソシエさんぐらいだからな・・無理がないだろう」
「お前も気をつけろよ?未遂だったんだろ?」
「・・わかっている」
仮面の下の顔はかなり曇り空、以前ソシエに襲われかけていたロカルノ
百戦錬磨の彼なのだがソシエの捕縛術になす術もなく絶体絶命の危機に陥った経験を持つ
「安心して、ロカルノが抱いていいのは私だけなの!ママと言えども容赦しないわ!」
「・・ふっ、お前がどうこうする前になんとかしてみせるさ・・・」
「・・お・・お気をつけて・・」
普通じゃない内容の会話にクローディアも唖然としている
「そんじゃ、庭でアミルが待っているみたいだし早めに行ったほうがいいんじゃないか?」
「それもそうね・・そんじゃしばらく留守にするわ〜、四人で仲良くしていてね」
「おうよ、土産は史上の最強の親子喧嘩の結果話でいいぜ」
ニヤリと笑うクラークだがセシルの顔色は赤くはならず逆に青ざめている
「いやっ、寧ろ『金獅子、公開処刑』のほうになりそうだ。ではいくぞ」
「ちょっと!不吉な事を言わないでよ!もう!」
不機嫌たらたらになりつつもセシルとロカルノは外へと向かう
残されたクラークとクローディア、眠りこけているキルケの三人
「・・私達も、行かなくてよろしいのですか?」
悲壮な顔のセシルを見ていたらなにやら同情の念が生まれてくるクローディア
「行きたいか?」
「い・・いえ・・三人で片付くのであるならば・・」
「・・だろ?それに、キルケもお疲れだしな。たまにはこうして三人でゆっくりするものいいだろう」
「それもそうですね、いつもセシルさんは騒々しいですし」
クローディアも思っている事は思っているようだ
「そんじゃ〜、人目もはばからないから〜、一度クローディアの裸エプロンを見てみたいなぁ♪」
「へ!?は・・はだか!?」
「そうそう〜」
「わざわざそんな姿でつける理由がわかりません・・」
生真面目なクローディアさん、そんな事をすること自体想像したこともない
「理由・・なぁ」
「だって・・、お料理をするのにわざわざ裸になる必要性が・・」
「クローディア」
「は・・はい?」
「浪漫だ」
「わかりません・・」
男の浪漫を解するにはまだ若い様子でもう顔が真っ赤なクローディア、
最近のクラークはやけに妹いぢめが好きになった
「いっその事自然に戻って裸で暮らすか?」
「・・・」
ありえない提案に純情剣士、硬直・・
そこへ

「裸がどうしたんじゃ?」

ひょっこりと巫女さん服の少女メルフィがやってきた
「・・そういやお前がいるんだったよな・・」
「・・何をがっかりしておる?」
「なんでもない・・、アミルの見送りをするんじゃなかったのか?」
「見送りも何ももう飛び立ったわ」
「うえっ!?何の音も聞こえなかったぞ!?」
「アミルはそういう役に立たない小技が得意じゃからなぁ・・」
その点自分は早く飛べる!っと胸を張っているメルフィ
彼女の頭の中は半分は「自信」で詰まっている
「・・寧ろ、騒音なく飛び立てる技術の方が役に立つと思うのですが・・」
「そんなもん何のアピールにもならんわ」
「目立ちたがり屋め・・。まっ、数日はやかましいのもいないわけだ。のんびりできるぜ?」
「妾は騒がしくてもどちらでも構わんのだがなぁ・・、アミルがいないのは・・」
やはり寂しい・・っと
「・・ならば、メルフィさんも一緒に野草を取りに行きませんか?」
「ヤソ・・ウ?なんじゃそれは?」
「山に生えている食用の草だ。博識なお前でも知らないんだなぁ・・」
「そんなもん妾達は口にしないからな・・面白そうじゃ!付き合ってやる!」
「待て待て、キルケが過労でダウンしているんだ。起きるまでお預け」
「む〜!行きたい!行きたい!行きたい〜!」
「・・相当な長寿な龍人がダダこねてんじゃねぇ!」
「・・ちっ」
「まぁまぁ、今日は神父さんがミィと一緒に買出しに出るようです。一緒に出かけてきてはどうです?」
「おっ!そうか!ならば急いで行かねば!っじゃあな!!」
慌てて隣の教会へと向かうメルフィ、彼女にとって隣に住む盲目の猫少女ミィは可愛い妹分のようなもので
悪戯しながらも意外と仲がいいのだ
「・・・あれで数百歳っていうのもなぁ・・」
「彼女達なりの時の経過が違うのでしょうね」
「そだな・・それじゃ、キルケも寝ているし、俺達も昼寝するか?」
「兄上・・あまり寝てばかりだと身体がなまりますよ?」
「この陽気の中で昼寝しない人間は不幸なやつさ。・・眠くないのか?」
「当然です。まだ昼前なんですから」
クローディアにしてみればキルケがいない分の家事が待っているだけに
昼寝をするなんて選択肢に入るはずもなく・・
「・・なら、眠くさせてやるよ!(ガバッ!)」
「兄上っ!?きゃあ!」
勢い良く跳びかかりクローディアをソファに押し倒すクラーク
何をするかは言わずもかな・・


数時間後、買出しから帰ってきたメルフィはソファで皺だらけの服装のまま
心地よさそうに眠っているクローディアを目撃したとさ

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