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第六節  「セイレーズの名を継ぐ者」


「結局、捕らえた戦闘員は全員歯に仕込んでいた毒薬で自害か・・。大した訓練だ」
翌日、襲撃の後片付けが行われる中、豪華な円卓の置かれた一室でジャスティンが唸る
その場には他にカーディナル王、セシル、キルケが座っており他の人間は入ってくることを禁じていた
「やれやれ・・はじめからわかっていたら加減せずにたたっ切ってやったのに・・」
円卓に肘をつけながら鬱陶しそうに呟くセシル
顔が知れた仲だと欠片も猫かぶりをしない。
それでなくても腕に傷を負ってご機嫌が斜めなのだ
「セシル、加減なしに余り私の城を壊さないでくれよ・・。」
ホールには穴が沢山、むしろその修理のほうが金額としてかかるみたいだ
「王さん、殺るか殺られるかの世界でそんなこと気にしていたら生きていけないわよ?
昨夜だってキルケが護衛に行ったからいいものの狙いが王さんだったら
喉掻っ切られて今ごろ地獄で指立て伏せ500回の刑執行中だったんだから」
もはや一国の主に説教する始末・・、
「それを言われると耳が痛い・・。
しかし・・、1度ならずとも2度まで襲撃を受けて今度は最高の騎士が拉致されるとはな・・」
「それですが、地下の情報部から玉座まで眠り粉が散布されていたってことはもはや城全域です
・・外部からの人間がそこまでくまなく捲けるでしょうか?」
行儀良く座っているキルケ・・
彼女はあの後眠った兵達に後遺症がないか一人一人診てやったのだ
その分の疲労も目立っている
「言われてみればおかしいな・・。
風に流すだけならば限界がある・・それに通気口から侵入したり
他の戦闘員も迷わず地下に向かっていった・・」
「つまり・・・内通者がいるってわけね」
セシルの一言に沈黙が広がる・・、その否定は誰も出来ないのだ
「・・・やれやれ、俺が滞在している時に随分と厄介なことになったもんだ・・
王、それでは内通者の特定を急ぐとともにそいつらの身元を調べるのに尽力します」
「頼むぞ、ジャスティン。・・して、フレイアの方はユトレヒト隊がなんとかするのか?」
「ええっ、ロカルノがフレイヤにつけた魔導具がどんなものか知らないけれども
それを頼りにダンケルクの情報員が血眼に探しまわっているわ。
その他にも課題があるから今はそっちのほうに対策を練っているみたい」
「・・報告にあったすごい速さで移動する敵ですね・・」
「そっ、あれがフレイアの誘拐が目的だったからまだ良かったものの
下手すれば私達全員斬り殺されていたわ・・」
「・・水面下で色々と動きがあるようだな・・。ではセシルとキルケはこれからどうする?」
「とりあえずはもう少し城にいるわ、何かわかることがあるかもしれないし・・。
キルケもここの書庫でその運命の娘をいじくって何やるかを調べるつもり・・もう少し厄介になるわね」
「何っ、できればずっといてくれてかまわんよ」
ニヤリと笑うカーディナル王・・、対しあからさまに顔を歪めるセシル
「冗談・・上品ぶるのに疲れているんだから・・」
「そうですよ、王様。セシルさんの本性が国民にばれたら
それこそハイデルベルク騎士団の信用は失墜すること間違いないです!」
「「・・・・・・・・」」
「キルケ・・、お願い、その言葉の右ストレートは止めて・・」
流石のセシルもキルケの言葉は堪えるようだ・・・


一方
貿易都市ルザリアのテント郡、その中一番大きなテントの中にロカルノはいた
「そうか・・、フレイアは騎士をしていておまけに攫われたのか・・」
話をしている相手はこのテントの主でありかつては義賊としてその名を轟かせた男
セイレーズ・・、老いてはそれも過去の栄光と言う事で
今はこのテント郡で静かにその余生を送っている
彼の『息子』としてロカルノもできればその生活の妨げをしたくなかったのだが
流石に今回は彼の実の娘の危機だ・・、声をかける必要はある
「すみません・・・、私がいていながら・・」
黒いジャケットで動きやすい格好のロカルノ、口調からして浮かないのがわかる
「いやっ、眠り粉なぞに引っかかっているのであれば当然の結果だろうさ」
意外にも冷たい反応のセイレーズ、白髪の好々爺といったセイレーズだが今はその目は鋭い
体力のほうはこの街の名医により良好なようでベットに座って顎をさすっている
「セイレーズさん・・」
「それ以上にお前も手痛い目にあったようだな」
「残念ながら・・」
彼の体からは消毒液の臭いがかすかに漂っている。
・・鎧を裂いた一撃は皮膚にまで到達していたのだ
「それで、どうするつもりだ?」
普段は誰にも優しいセイレーズが鋭い眼差しで言う・・、他人ならば優しくもできよう、だが
ロカルノは自分達が育ててきた息子
・・優しくはできない、否、優しくしてはいけないのだ
「一応行方がわかるように手は打ってます。手痛い目を見たのは倍にして返す所存です」
「・・・良い目だ。ならば・・これを持っていけ」
そう言うとセイレーズが取り出したのは黒い貴族服に白羽のついた黒い羽根付き帽・・
いつでも使えるようにしていたのか綺麗にたたまれている
「これは・・現役の頃の・・」
「わしが使っていたものだ。お前の身体にもちょうどいいだろう・・。
あの鎧も修理が必要な今、お前が速さで対抗するには一番の代物だ」
「で・・ですが・・」
「それを着て戦え。お前がこの『セイレーズ』を継ぐ男に相応しいか・・。見せてもらう」
「・・わかりました・・ありがたく・・」
「それと、フレイアを頼むぞ・・ロカルノ。
怪盗セイレーズはいかなる者よりも速くいかなる者よりも気高い。」
「・・承知しています・・では・・」
そう言うと深く頭を下げてロカルノは出ていった
彼が去った後セイレーズは深くため息をつく
「・・息子よ・・、今こそ試練の時だ・・」
そう言いながらロカルノが出ていった方角を見続けた


・・・・・・・・

ロカルノやクラーク達は王都を離れて一旦館へと戻っていた
連れ去った犯人達が王都にまだいるとは思えなかったしそれなりの準備が必要なのだ
「クローディアはお前のとこの『草』さんと一緒だ・・、キルケも王立書庫に篭って調べている
・・俺達がどうでるか・・だな」
ふらりと館に戻ってきたロカルノにクラークは声をかける
二人だけとなった談笑室はどことなく寂しさが漂っている。
「そうだな・・、とりあえずはあのすばしっこいのに対する対応とフレイアに対してだ・・」
「・・、お前が出向いても拒絶される可能性はあるか・・、非常事態なのにな」
「ああ・・、だがこのまま妹をくれてやるわけにもいかん。
あのすばしっこいのに対抗するべく今回は軽装で戦う」
「お前が・・か?」
「鎧のない分速さでは引けをとらん・・
それに、私が父を継ぐ者としてならフレイアにも声が届くかもしれない・・、希望的な意見だがな」
「フレイアに対しては望み薄いが奴相手じゃなんとかなるか・・。鎧と服じゃな・・」
「だが問題がある。『戦女』の被害も深刻だ、それにあれだけの速さの奴と槍で戦うのは難しい」
「槍って距離が大切だからな・・・。でもお前ならそのくらいこなせるんじゃないのか?」
「その分刃への負担も大きくなる、それに万全の準備でないと勝てんだろう・・。
自分の槍の腕に過信はできんさ」
「じゃあどうするんだ?俺の刀使うか?」
「・・・、嫌味か?」
素人に刀などは使えるものではない・・が、クラークにとっては出来て当然みたいな感じだ
「へっ?」
「いやっ、なんでもない。だが・・少し心当たりがある・・ちょっと待っていてくれ」
そう言うとロカルノは浴室へ向かった。
・・しばらく何かを探したかと思うと紅い柄の剣を持ってきた
剣身がかなり痛んでおり何故か歯型がついてもある
「確かそいつは・・王都襲撃ん時に敵が持っていた魔剣じゃないか!」
「ああっ、業火の魔剣『レーヴァテイン』だ。これなら実戦に耐え、
十分な成果が出せる・・・と思ったのだが、この歯型・・・」
「セシル・・だな。そういや以前、風呂焚くのにヤケドしたとか言って
それを庭先で地面に叩きつけて憤怒していたな・・」
「あいつは・・・・・・」
改めてセシルに呆れる男性陣・・、これでは武器として使うのは難しい
「!・・そうだ!ちょっと待ってろ!」
ふとクラークが立ちあがり階段を駆け上がった・・
そして持ってきたのは使い古しの片刃ブレード
見ただけで業物とわかるがだいぶ傷がついている
「それは・・」
「俺が傭兵時代に使っていたブレードだ。
刀慣れした俺に対してそれを補うために造った特注品で中々の威力だ。
・・重いのが難点だったがな」
そう言うとクラークはブレードをロカルノに渡す・・
渡されたロカルノは一瞬唸ったがブレードを構え観察する
「むぅ・・確かにかなりの重さだが実戦で使いこまれただけあって頼りになりそうだな・・。
だがこの刃の痛みも無視できるものではない」
「まっ、色々無茶な使い方したからな。
だけど、この二つの傷物・・一つにして修復すればそれ以上の物ができるんじゃないか?」
「合剣か、確かに良い鉄を使っていればそれも可能だろう。
しかしレーヴァテインの魔力をそのままにこのブレードの刃を備えるほどの名工はそういまい。」
「まっ、ばあさんのところで頼むのもいいんだけど・・近くに名工がいるだろ?
頼りなさそうな名工がよ」
ブレードをロカルノのからふんだくってそれを肩で叩きつつ含み笑いをするクラーク・・
「彼・・か。そうだな、協力を願おうか」
クラークの意図を理解したロカルノ・・
そうとなればすぐさま行動に出て二人は最寄の街プラハまで出かけていった


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