第四節  「散策と偽装」


王公認で二人の聖騎士と司祭という偽りの生活が始まった
彼女達の部屋は礼拝堂の上に建てられた居住スペースなだけあって
かなり高い位置にあるらしく窓から見える光景は正しく絶景。
城壁の頭が見え、堀と街の一面光景が広がっている・・、
ここから見ると街が彼方まで続いているようにも見える。
天候も快晴ですがすがしい気持ちになるはず・・なのだが・・

「セシルさん〜、起きてくださいよ〜!」
早朝、聖職者の朝は早い・・。
それは神殿騎士も同じで朝から合同の祈祷をするのが決まりなのだ
しかし、布団を抱き締めながら涎垂らして寝ている聖騎士女が一人・・
それをキルケは揺すりながら起こしている・・。
彼女自身は普段から朝早く起きて祈祷をしているので問題ナッシング・・、
着慣れていない白法衣を着て懸命に起こしているのだが・・
「ロカルノ〜・・」
寝言全開で惚けているセシル・・
「セシルさん〜、もう祈祷始まっちゃいますよ〜?(ペチペチ)」
「・・ロカ・・いやん♪もうそんなところ触っちゃって〜、ゲヘゲヘ♪」
起こす方にとってはかなり恐い・・
「あう〜、ロカルノさん、いつもどうやって起こしているんだろう・・」
「ううん・・、触ったお返し〜・・」

ガバッ!

いきなり布団を離しキルケを羽交い締めにする!
「きゃ!セ・・セシルさん!ちょっと・・間違えてますよ!」
「うふふ〜、ロカ〜・・」
本当に寝ているのか寝ボケているのかキルケの顔を押えて唇を近づける
「ううっ、助けて〜・・!」
細い腕から想像できない腕の強さに抵抗できないキルケ・・だが、その瞬間頭で秘策が閃く!
「あっ、あそこに全裸で寝転がっている猫人の少女が!」

「!!何っ!どこどこ!!?どこにいるの!!」
効果抜群・・、瞬時に目を醒まし辺りをキョロキョロしている危険人物
「・・セシルさ〜ん・・」
「あ・・あら・・キルケ。何私に抱き着いているの・・夜這い?」
「違います!セシルさんを起こそうとしたら寝ぼけながらキスしようとしてきたんじゃないですか〜!」
「あ・・そうだったの・・。じゃあもう一眠り・・」
「そんなことよりも早くしないと礼拝の時間ですよ?さっき修道士さんが言いにきたんですから!」
「げっ!!そっか!神殿騎士も一緒に礼拝するんだったわね!
私、祈りの言葉なんてもはや完全にデリートしているんだけど!!」
いきなり慌てて起き出すセシル・・、対しキルケは危機を回避できて一安心のようだ
「初日ですから口を動かすだけで何とかなるんじゃないですか?」
「う・・そ・・そうね。髪で口の動きが見えないようにしちゃえ!ともかく・・すぐ着替えるわ!」
急いで着替え出すセシル、脅威的な早さで脱いでいる
「でもいつもはどうやって起きているんです?セシルさん・・寝起き悪すぎですよ?」
「ええっ?そりゃあ頃合いになると庭から聞こえる刃音とかで目が醒めるわよ・・、
訓練がなかった日にはロカルノの優しい抱擁で・・(ウットリ)」
実際は鼻をつまみ口を塞いだ状態で窒息させて起こしているのだが・・
彼女にとってはじゃれている感じなのだろう
「はいはい・・、じゃ、そろそろ行きましょう」
「ああん、キルケも冷たいの〜!」
急いで着替え終わるセシル・・、寝ぼけ顔も部屋を出た瞬間に消えうせ凛々しい騎士となる・・
それを見てキルケは驚き呆れるばかりだった・・


祈祷の時間
高い天井の礼拝堂には修道士、司祭、神殿騎士が集まり神へ今日一日の平穏を祈る。
ステンドグラスに朝日が当たり教会内の神聖さをさらに演出しており神々しい雰囲気が漂っている
そんな中、聖母像の前にはこの教会の最高責任者
グランドマザーと呼ばれるおばあさん司祭さんが両手を組んで祈りを込めてだす
それに続くように準司祭として祈祷をするキルケ、その後に沢山の修道士、
そして最後尾にはきちんとして身なりの制服を着た神殿騎士達・・っとなっている
キルケは平然と祈りを込めているが
セシルの方は有名人ということで神殿騎士の中でも最前列に行かされて祈らされている・・、
余裕を見せた態度だが祈祷が終わるころには足が微妙に震えていたとか・・・。

祈祷が終われば各自自分の仕事へとつく。
ある者は国民へ神の教えを説いたりある者は務め先の孤児院への応援と意外とバタバタしている
その中でキルケは自由行動として神殿騎士セシルと共に城の見周りをしている
グランドマザーもカーディナル王から直接事情を聞いているので二人を笑顔で見送った
「さて、うかつに地下に入るわけにもいかないし・・どうしましょう?シスター」
「そうですね、とりあえずは城の見物しませんか?セシル様」
「「おほほほほ・・」」
息苦しい口調で話をする二人・・、誰が見ているかわからないので姿勢は崩されないのだ
ともあれ、城の中で怪しい部分がないか細かくチェックする二人・・
城外へは行く必要はないとみなし堀の周辺、庭、城内の怪しい場所などを見学するように
見て周ったが特に気になるものもなかった。
また、情報部周辺へと近づく不審人物どころか地かに降りる人すらほとんどおらず
これは長期戦になると思いつつもその日は城の見取りを頭に叩き込み教会へと戻ろうとした
そこへ・・
「待ちなさい」
ホールに差し掛かったところで不意に呼びかけられる
見てみればそれはフレイアの姿・・・、きちんとしてスーツ姿で長い碧の髪を括りこちらを凝視している
「私達に・・何か?」
「・・『金獅子』セシル、少し話があります・・。そして準司祭のキルケゴール様にも・・」
「・・・わかりました、ではどちらでお話しましょうか(・・この子から動いたか・・)」
「私の自室に案内します。こちらへ・・」
そういうとさっさと歩き出すフレイア、キルケとセシルは呆気をとられながらそれに続いた
・・・・
・・・・
二人が案内されたのはフレイアの自室。
飾り気がない質素な部屋に入りフレイアは静かにベットに座る・・
一応二人に対しても椅子を用意したところを見ると敵意を剥き出しにするつもりもないらしい
「さて・・、貴方達がユトレヒト隊の一員だと言うことはわかってます。
・・・何故この城に勤めることになったか・・・、大体の予想はできますが説明していただきませんか?」
「言う必要はないわ」
さらりと言ってのけるセシル・・、それにフレイアは一瞬殺気を放つ
「何故なら、私達の行動を貴方に報告する義務はない。
それに情報部の代表だったらそんなことぐらい調べればいいんじゃないの?」
「き・・貴様・・」
「まぁまぁ、フレイアさん・・ですか?あんまりロカルノさんを邪険にしたらかわいそうですよ?
あの人も苦悩しているんですから・・」
「・・・・」
「おまけにセシルさんもなんだかフレイアさんの話題になると嫉妬しちゃって大変なんですよ・・
『妹だろうが何だろうが私の男に手を出す奴ぁ肉塊一つ残さなんぜよ』って・・(ギュッ!)
・・いたた・・いた〜い・・」
キルケの話にセシルが耳を抓って阻止・・
「・・ふ・・・ふん、あんな男が好きなんて、金獅子も男の趣味が悪いわね」
「・・・ふぅ。すねるのは結構だけど少しは他人の事も考えなさい・・。
貴方が長年共に過ごした男がどんな人間か、そしてどんな思いをして過ごしているか・・」
「部外者が口を出さないで!」
「そりゃあ失敬。まっ、身の周りを気をつけなさい・・じゃね」
そう言うとセシルは椅子を片付けつつもキルケを引っ張って外へと出ていった。
部屋を出た途端に聖女スタイルに変わったの言うまでもない・・
「何よ・・、あの女・・」
一人残ったフレイア、最後の言葉が気にかかるがそれ以上に
キルケの言葉が深く胸に突き刺さりまた深く悩み始めた



それから二人は情報部には近寄らず教会での生活を中心に
不審な動きがないか探るのに尽力している
フレイアも彼女達の行動には不思議と文句を言う訳でなく黙々と職務を真っ当している
・・のだが・・別に問題が・・・
「男がぁぁぁ!男が欲しいぃぃぃぃぃ!!」
今日も一日の勤めも終わり部屋に戻って本来の姿へと戻ったセシルが
枕に顔をうずめて声が大きくならないように叫ぶ・・。
外は暗くなっているが見まわりの兵士も巡回しているかもしれない・・
叫ぶのはよろしくないのはわかっているのだろうけど・・
「セシルさん・・、欲求不満・・ですか?」
「悪い?私は貪欲なのよ、身体が男を求めて仕方ないの〜、キルケ〜、この身体の疼きを止めて〜」
これが聖騎士の本当の姿・・、決して見てはいけない姿でもある
「私は同姓愛はちょっと・・、クローディアさんとなら乱れてもいいんですけどねぇ」
「何よ!クローディアと私じゃ何が違うの!?」
「全然、違います・・」
ともあれ、ライオンの檻に入れられたうさぎの気分になるキルケ・・。
発情したセシルは実に恐いものなのだ
「うう〜、こうなったら正体ばれずに悪戯かますか・・」
「ばれたら大変ですよ!止めてください!」
現役の騎士が夜な夜な街の青年を強姦、新聞の一面は間違いなし・・
おまけにそれが超有名人だとなれば・・
「だったらキルケ!何とかしなさい!」
「駄目ですって、私は司祭としているんだから貞操帯つけているんですよ?ほら・・」
恥ずかしく法衣を軽く上に捲ると下着の変わりに薄い金属で股間を包んでいるバンドが・・
しかも前に鍵がかけられている
「あ・・貴方、そんなもんつけられてたの?」
「聖職者ならば当然ですよ、禁欲が基本なんですから・・」
「うへぇ・・、そんな世界に入らなくて正解ね
っうかそれだったらここに来た時に処女かどうか確認されたってこと?」
「グランマにしてもらいました。・・って言うか正真証明の・・処女ですよぉ・・」
顔が真っ赤になるキルケ・・いざ自分から言うとなれば恥ずかしいようだ
「嘘っ?じゃあいつものあれって・・芝居?」
「違いますよ!例え純潔を破らなくても一つになれる方法はあります♪」
「あっちじゃなくて・・、ま・・まさか・貴方その歳でそっちの方で・・!?」
「・・(コクッ♪)・・クラークさんと一つになりたかったですし、
純潔は一応神に祝福されてから捧げたいと思いましたから・・ね」
照れまくりのキルケ、両手の人差し指を合わせていじっている
「だからって・・、痛くなかったの?確かアルシアに開帳してもらったらしいけど」
「痛い以上に幸せでした♪あの人が身体に広がっていって・・うふふ〜♪」
「のろけないでよ・・あ〜!今の話聞いたら尚更ムラムラしてきた・・
こうなったらそんな金属板、引き千切って悪戯しちゃえ♪覚悟しなさい!」
「え゛・・きゃあ!!」
そう言うと欲望のありったけをキルケに向けて押し倒す・・
「セシルさん〜、正気に戻ってください〜・・・」
「うふふ・・、クラークなんかよりも私のほうが気持ちよくなれるわ・・よ♪」
欲まじりのセシルさん・・。早くも暴走してます・・
そこへ

”キルケに手を出せばクラークが本気で怒るぞ”

どこからともなく響く救世主の声・・
「ロカルノさん〜、いるんだったら出てきてセシルさんを満足させてあげてください〜・・」
キルケも乱心状態・・、それを無視してロカルノは静かに天井から降りてきた
見れば黒いジャケット姿で仮面はしていない
「セシル、予想通りだが暴走し過ぎだ。」
「ロカルノ!今すぐ抱きしめろ!!優しくだ!!」
「やめろ・・、状態はどうだ・・。」
飛びかかるセシルの額を手で押さえ主にキルケに対して問いかける
「フレイアさんとは1度話をしました。それ以外の変化はないですね」
「そうか・・、こちらも少し気になる情報を掴んだ。近々向こうが動き出すだろう」
「わかりました。でも・・それまで私の身は持つのでしょうか?」
「・・・、こいつだな・・」
「ううう・・、私が欲望に耐えられない身体になったことはロカルノもわかっているでしょう?」
「だったらキルケの見ている前で廃人寸前まで犯されたいのか・・?」
「・・え・・・それも・・いいけど・・(ポッ)」
真の危険人物、ここに在り
「・・ロカルノさん〜!私は嫌です〜!!」
もはや涙目のキルケ、思えば彼女も災難も良いところだ
「ちっ・・仕方ない。セシル、ついてこい」
「了解♪じゃあまたね、キルケ〜♪」
ロカルノが音もなく天井に入っていったかと思うとセシルも同等の素早さでそれに続いていった

「・・、はぁ・・私も我慢しているのになぁ・・」
時々真面目にやっているのが空しく思えるキルケゴールであった・・


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