番外  「時には昔の話を・・」


そこは紅葉に溢れていた

美しくも幻想的に紅の葉が清らかな風に舞い地へと落ちる・・
そんな中にひっそりと建てられているのはお寺
瓦や砂の壁で作られているそれは大陸の文化とかまるで違い独特の雰囲気を出す
そして寺の庭にはずらりと並べられた墓・・、小さな立方体のような石が亡き者の名を記している。
一つ一つ、大事にされているのか合計合わせても十数個しかない。
そんな中、一番隅の墓に人が二人いる。
墓のすぐ隣は壁であり壁の上には紅葉樹がしな垂れて風に揺れていた

「・・・、随分とご無沙汰・・だったな」

墓石に水をかけて手を合わせる男・・クラーク、何時のもロングコートじゃなく紺色の着物を着ている。茶色の髪もいつもよりかはきちんと整えているが丸眼鏡はそのままだ
「そうですね、兄上がここに来るのははじめて・・ですか?」
隣で手を合わせるクローディア、薄桜の着物姿で静かに立っている
「ナタリーの件じゃあな。
まっ、あいつの髪入れたお守り持っているから化けて出てくることはないだろう」
墓には「ナタリー」と言う名が刻まれている、それは二人にとっての正しく家族だった女性のものだ
「そうですね。・・ですが・・この花は・・」
彼らが来た時にはナタリーの墓の前にまだ新しい花が添えられていた
「ああっ、さっき僧に聞いたけど昨日金髪で黒い服を着た男が来たらしい。」
「・・クロムウェルさん・・」
すぐに名が思い出される、故人が親しくしていた弟分クロムウェル。
海を渡らなければ来られない上に人里離れた錆びれた寺に彼が来ていたのだ
・・それだけでクローディアも嬉しく思ってしまう
「あいつにとっても思い入れがあるからな。わざわざルザリアからここまで来るのも頷けるぜ。
・・・でも、この寺まだ朽ちてなかったんだな・・」
周りを見ても所々寂れている、寺もかなり痛んでおりここで修行している僧は一人だけなのだ
「ふふっ、なんでもお師さんが裏で管理費を渡してくれているらしくて・・」
「そうか・・あの人の事だ、偉いさんに仕えてもおかしくないし
カムイの王に協力して莫大な金持っているって一時期えらい噂になったもんな」
「そう言えばそうでしたね・・、なんだか凄く昔のよう・・」
「そうだな〜、俺とナタリーが道場を出て、公社でナタリーが死んで・・
冒険者稼業初めて・・もう随分経つからな」
腕を組んで昔を思い出す・・・、それだけの時が経っても変わらぬものは変わらない
「それでも、こうして今も兄上の隣にいられる。・・不思議なものですね」
「だな・・、めぐり合いってやつかな。・・そう言えばお師さんは今どうしているんだ?
せっかくカムイまで来たんだ。顔ぐらい出しておこうと思うんだけど」
「ここから少し離れたところで隠居してますよ。
道場はたたんで今では若い女性と仲良く暮らしているそうです」
クローディアの言葉にクラークは少し顔をしかめる・・
「なんだよ、『剣の道に女は不要』とか言っておきながら・・あのハゲ」
「急に気が変わった・・だそうです。
まぁ私が外国での武者修業に出れたのもそれがあったからみたいですけどね」
「結果オーライか・・。さっ、もう行こうぜ・・。ナタリー、また気が向いたら来るよ」
「姉上・・また・・参ります」
軽く手を合わせ二人は寺を後にした・・




カムイ

周囲を海に囲まれた異国。
独自の文化を持ち独自の慣習を持つ国で他国との関わりをあまり持っていなかった。
そんな中、武者修行ということで剣士が海を越え
ハイデルベルクに渡ったことから『刀』の存在が知れ渡り貿易が始まったのだ。
気候の変わり目が美しく、国土のほぼ100%の木が鮮やかな紅の葉を持つ紅葉樹であり
外国の人間もこの美しさに目を奪われて何度も訪れるらしい。
だが、見た目は美しいこの国も過去幾度となく戦乱や疫病、飢餓に襲われており
この紅の木が多いのは亡くなった者達の血が染めたと言う僧もいる




「それにしても何故突然姉上の墓参りを・・?」

寺のあった山を降り麓の川で休みながらクローディアが聞く
周囲は野原となっておりそこに座って休憩をしているのだ
「うんっ?話があるって言っただろう?」
あぐらをかきながらクラークが笑う。・・それを見ただけでクローディアも思わず胸が高鳴った
「わ・・わざわざそのために・・ですか?」
「まっ、セシルとかいたらやかましいからな。
キルケもつれてくればよかったけど知らない女の墓参りだし
あいつもハイデルベルクでの生活で少し疲れていたからな」
セシルとの共同生活&禁欲生活によりキルケもかなりお疲れのようで
彼らが館を出発する日も見送りに寝過ごしたりもしていた
「そう・・ですか。それで・・あの・・どう言う・・話でしょう・・か?」
「ああっ。そうだな・・。どこから話そうか・・」
ふと考え込むクラーク、しばし沈黙がそこに流れる
・・周囲からは川の流れる音、そして心地よい風、風、風・・・
遠くには民家も見られるがそれさえも風景に同化している
「あ・・兄上、あの・・」
クローディアにとってみればもはや心臓が止まりそうな状態・・堪え切れずに聞いてしまう
「おおっ、悪い。この間、クロムウェルの奴からちょっと気になることを聞いてな・・。
お前が俺のことがすきだって・・」
「・・・あ・・・」
「そうなのか・・・?」
クラークの言葉にクローディアはたじろぎまくる・・
しかし胸に手を押さえ深く深呼吸をしてクラークに向かい合う
「は・・はい・・。私は・・ずっと兄上のことが・・・好き・・でした・・」
顔は真っ赤になり心臓はバクバク鳴っている。落ちつかない、落ちつけない・
彼女の中身は告白というプレッシャーに負けないように必死で耐えていた
「そっか・・。やっぱりそうだったんだな・・」
対しクラークは妙に落ち着きはらっておりクローディアの頭を優しく撫でてやる
「兄上・・、あの・・ご返答は・・?それに・・以前わ、私が一番だと・・あれはどういう・・」
「まぁ落ちつけ。俺もお前のことが好きだったぜ・・」
「好き・・・だった?ということはやはり・・嗚呼!」
クラークの言葉に取り乱しまくるクローディア・・
「おいおい、早まるな。お前はな・・、俺が一番最初に異性として意識した女なんだよ」
「えっ・・」
「そっ、最初は妹みたいに思っていたが気になりだしてな・・。
だけど俺はそれを必死でしまい込んだ。・・女性を愛するという気持ちごとな」
「ど・・どうしてですか?」
「あの日々は俺の宝物だ、お師さんがいて、ナタリーがいてお前がいた。
俺とナタリーが喧嘩をしてお前が怯えていた、そしてお師さんが俺達を叱ってゲンコツが飛んできた。
・・そんな日々が俺がクローディアの事を想った事で崩れる・・そう思ったから・・さ」
「兄上・・そうだったのですか・・」
クラークの気持ちにクローディアは唖然とする。
今まで彼からそんなことを聞いた事がなかったのだ
「だが、そのためにお前を悩ませたのかな・・。いつから、俺なんかを好きになったんだ?」
「最初から・・ですよ。貴方が私達姉妹を助けてくれてお師さんの処で住ませてくれた。
そして右目を失って言葉を話せなくなった私を貴方は必死でかまってくれました・・
この手だって・・」
そっとクラークの手を持つ。良く見れば指のあちこちに切り傷の跡が残っている
「私を元気つけるために慣れない彫刻刀で木を切って動物を作ってくれましたよね・・。
失敗して血が一杯出て・・」
「ははっ・・そうだったな。あれでお師さんに怒られたのなんのって・・。
だけどそれからか、俺が木をいじるのが好きになったのは・・」
「ふふっ、そうですよね。その時から私は・・兄上の事を想いはじめました・・。
外国へと修行に出たのも・・兄上とめぐり合いたいと思ったからです。
貴方はシレっとしていましたが・・」
意地悪そうに微笑みクローディアはクラークの手を自分の頬へと当てる・・
「悪いな・・。でもそんな頃から俺のことを・・
素直にお前を好きだと言っておけばお前に辛い思いをさせずに済んだかな・・・?すまない」
「いえっ・・。兄上にそのような考えがあったとなれば私は何もいいません
・・ただ・・・あの・・これからは・・」
「わかっている・・、クローディア・・」
口篭もるクローディアがむしょうに愛おしくなりその頬を撫でてやる
「兄上・・・愛しております。キルケに負けないくらい・・強く・・」
「ああっ、俺もお前のことが好きだ。
・・っても昔そういう感情を封印してファラやキルケに目覚めさせてもらったばっかりだから
まだよくわからないのが本音だけどな。
・・それでもお前は俺の大切な人だ。二人と同じくらい・・」
暖かい声をかけクローディアを抱擁してやる・・
「兄上・・、嬉しいです・・今までで・・一番・・」
クラークの胸の中で彼女は嬉しさの余りに涙を流す・・
ずっと胸にしまっていた気持ちがかなった瞬間だった
「でも・・あいつにはなんて説明しよう・・」
「キルケは私ならばいいって言ってました。それに兄上ならば二人とも大切にしてくれると・・」
「・・・、裏で色々あったんだな」
「兄上は・・鈍感ですからね」
「言ったな?んな口は塞いでやる!」
「えっ!?・・・あっ・・・・んん・・」
突如肩を持たれ唇を奪われる・・。
驚いたクローディアだったが気持ちを込めるように目を閉じクラークのぬくもりを感じる
・・再び川のせせらぎだけがそこに響いた・・・


翌日
近くに宿に泊まった二人は改めて恩師の元へと挨拶しに出発した
田舎の宿であったためにあまり立派なものではなかったが
クローディアにとっては思い出深い一夜となっただろう・・
「やれやれ・・・、宿の人間にゃ新婚と見られていたな・・」
「そうですね・・。」
畑が並ぶ野道をトボトボ歩く二人だがクローディアはその話題になると顔が赤くなる
周りから恋人や夫婦という視線で見られるだけでも興奮してしまうようだ
「まっ、こんな格好だしな〜。久々の着物だと何だか落ちつくな・・」
「よく・・似合ってますよ」
「ありがとよ。しかし、お師さんのところに行くのにわざわざ船を借りなきゃならないとはな」
話によれば彼らの恩師、アイゼンは川のほとりに住をかまえており
陸からは道なき道を突き進まなければならないらしい。
そのために生活の足は船で移動しているんだとか・・
「文字通りの隠居ですからね。世間にも一部の人間しか知らないみたいです」
笑顔で話すクローディア・・、やがて近くの村に入り、川沿いで船を借りその場所まで移動する・・
船の操作はクローディアが見事にこなしカーブを描いている川を優々と進んだ
・・周りには向こうの山まで広がる水田、そして紅葉の赤で広がった森・・
川の上から見るその景色はまた絶景でありかつてそこに住んでいた彼らもしばしその心を奪われた

・・・・・・・・・

しばらくして、川の中に木で作った簡素な船着場があった
そしてクローディアはそこに向けて船を止めた。
降りた先には大きめの家が建っており広めの庭には家畜が元気よく暴れまわっている
そしてそれらに餌をやる若い女が・・。
山吹色の着流しを着て短い黒髪は綺麗な髪飾りをとめている
「あの子が・・、お師さんの・・?」
見たところキルケよりもまだ幼い・・成人して間がないくらいかそれ以下か
「あの・・どちら様ですか・・?」
その子がクラークに気付いて歩み寄ってくる・・
「あ〜、お師さん・・ってかアイゼン師匠はいるかな?」
「は・・はぁ、今お昼寝をしておりますが・・」
なんだかシドロモドロなクラークに首をかしめる女性
「お師さんがお昼寝ですか・・現役の時では考えられませんね」
船を括って下りてくるクローディア・・、それを見て女性の顔が輝く
「クローディアさん!お久しぶりです!!」
「ええっ、ご無沙汰ですね、サクラ・・」
どうやら二人は顔見知りらしい・・が、クラークは何が何だか・・
「お〜い、クローディア。説明してくれよ?」
「ああっ、そういえばサクラは兄上達が旅だった後で雇われましたからね・・。彼女はサクラ。
アイゼン流剣術道場で住み込みで働いていた女性です。
サクラ、この人はクラークです。以前から話していた兄弟子ですよ」
仲介して説明するクローディア・・
「あっ、じゃあクローディアさんが好きだったっていう人ですね!」
ずばりと指差して笑うサクラ・・、それにクローディアは片方しかない目を丸くする
「サ・・サクラ・・なんで・・」
「顔を見たらわかりましたよ。
クローディアさんいつも無表情なのに『クラーク』って名前が出てくると途端に照れるんですから」
「ほっほう・・、なるほどな。まぁそんなことよりもお師さんは昼寝ならば少し時間でも潰すか・・
寝起きの機嫌の悪さは一級品だったからなぁ」
二人のやりとりにクラークも思わず微笑みしばし時間を潰そうとした・・が


「ほぅ、懐かしい顔じゃな・・」
突如家から出てきた巨大な体躯の老人
見事に禿げているがそれが良く似合っておりその顔からして
若かりし時にはかなりの男前だったのは容易に想像できるほどだ
「お師さん、久しぶり」
「久しぶりです・・」
懐かしい恩師・・アイゼン流剣術現継承者・・アイゼンの顔に
クローディアは深く頭を下げ、クラークは軽く手を上げる
因みに『アイゼン』という名は継承者とともに引き継がれる偽名であり彼の本名は誰も知らない
「まぁ、海を渡れば早々戻ってくるのは難しいからな・・ともかく上がれ。サクラ、茶をいれてくれ」
「は〜い」
「募る話もあるだろう、さぁ上がれ」
優しい笑みを浮かべアイゼンは二人を居間へと招いた

・・・・・

家の内部は全て畳・・
余り深く手を入れていない居間にてアイゼンはどっこいしょっと腰を下ろし
クラークの顔をマジマジと見つめる
「・・な・・なんだよ?お師さん・・」
「腕を上げたな・・、傭兵稼業なんぞに手を染めただけあって随分と剣のイロハを学んだか」
「あ・・・ああ。まぁそれだけ危険な目にあったからな・・。ってか顔見てわかるもんなのか?」
「達人に不可能はない。・・それにお前、クローディアに手を出したな?」
「「!!!!!」」
見事に言い当てられちゃってあたふたする二人・・
それを見てアイゼンは豪快に笑い出す
「はっはっは!!図星か!」
「あ・・あああああああああの、お師さん・・それは・・その・・」
「そ、そうまぁなんだ。あれがそれでこれなんだよ!」
歴戦の戦士二人がシドロモドロになり目が泳ぐ・・
「ちゃんとした言葉でしゃべれ、未熟者が。わしな、何も悪いとは言っておらん。
クローディアもお前がいなくなってからはため息ばかりだったからな。
今の顔を見ればそれがどうなったかなんぞ動作もないこと」
「・・お・・恐れ入ります・・」
偉大(?)な師に頭が下がるクローディア
「それも手を出したのはごく最近と見た」
「「!!!!!!」」
「はっはっは!冗談だ!それよりもどうしたんだ?わざわざここにくるなんて・・」
「ああっ、ナタリーの墓参りのついでだよ。道場たたんで隠居しているから顔を見せにさ」
「ほう、嬉しいことを言う・・。だが墓参りもついでではないのか?」
「お師さん・・勘弁してくれ・・」
鋭すぎる師の読みにクラークもお手上げ・・。
「まぁそれはよかろう。
・・じゃがクラーク、随分と魔の残り香がするが・・
最近は外道どもの相手をすることが多いのか・・?」
「ああっ、悪魔降ろしだの邪神召還だの・・
あげくの果てには死者を復活させたりとまぁ臭いことばっかだ」
「・・海の向こうも物騒な世になったものだな・・・。
それでそれに立ち向かうための切り札を持った・・か?」
「何でも知っているな・・お師さん。ひょっとして頭の中見ているのか?」
「まさか、残り香以上に強烈な気配を放っているのに気付いただけだ。
その右手の『鬼』の痣から放たれるな・・」
「・・私には何も感じませんが・・」
「クローディア、歳を取り剣の道に没頭すれば見えるものも変わってくる。
お前も歳を取ればわかるさ」
「ったくほんと化け物だな。・・その通り。向こうの地で眠っていた鬼神剣『九骸皇』って代物だ
実際はこんなの」
そう言うと九骸皇を解放させて姿を見せる
禍禍しい紅の刃にお茶を入れて入ってきたサクラも少し怯えてしまう
「・・・、なるほど・・」
アイゼンも目を細めてその刃を魅入る・・
「紅の剣身・・・ほう・・これは・・」
「知っているのか?」
「まぁな、わしの先々々代のアイゼンが遭遇したらしい・・、強烈な魔の剣をな。
あまりに強烈故に他国にてそれを封じると僧侶を連れて
当時としては無謀ともいえる海越えをしたんだそうだ」
「それが・・これなのか?」
「可能性だ。そもそも、異国にてこんな刀に似た刀身の代物があるか?」
「まぁ、即身仏や鞘とかもあったからな〜・・じゃあこの剣についてお師さん何か知っているのか?」
「さぁな・・だがその剣はまだ本当の姿ではない・・。
全てを解放するとその剣の妖気がお前を食らうからな・・。
本気でそれを解放しているつもりだが本能的に制御しているんだ
・・お前はそうしたことに対する直感は天才的だからな」
「・・へぇ・・それでも連続して使えないんだけど・・」
「それだけの代物だ・・。少し待ってろ・」
アイゼンは近くの道具箱を取りそれを漁ると中から黒い珠が繋がった数珠を取り出す・・
「お師さん・・それは・・」
「魔を封じそれを九つに分ける数珠だ。その九骸皇の力を封じ段階的に能力を引き出せるだろう」
「9段階・・ですか・・」
「すなわち、臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前・・・。
この国での魔を退ける九つの呪『早九字』だ。
それらの呪が九骸皇の魔を九つに分断するだろう」
「おいおい、この剣の魔力を裂けるだけの力があの数珠にあるのか?」
「案ずるな、この数珠の珠の一つ一つは戦いに魅せられ戦いの中で
死を向えた武人の体内に現れるという『鬼石』を集めたものだ。
一つでも悪鬼を静める力を持つ・・。
これをその右手につけ、九字の解放に従い力を発揮すれば今以上に使い勝手もよくなろう・・
ただし、全てを解放するのは危険過ぎる・・『臨』より初めて使えるのは『皆』の程度か・・。
お前が死を覚悟し力を求めるならば全てを解放してみせろ。」
そういうとアイゼンはそれを軽く放り投げる
「あ・・ああ。わかった・・・」
「まっ、軽々しく命を捨てることはわしは教えてないがな・・。ともかく、今日は泊まっていけ。
こんな時のためにとっておいた酒もある。・・弟子と酒を交わすのはこれがはじめてだ」
心底嬉しそうな顔をするアイゼン・・きっと、ずっと憧れていたのだろう
「そうですね・・、私達は成人する前に旅立ちましたから・・」
「おう、じゃあじじいと杯を交わそうか」
「ふっ、小癪な・・・。じゃあサクラ、何かうまい肴を用意してくれ」
「はい♪たんと召し上がってくださいね♪」

・・・その日、師弟は夜遅くまで酒を飲み昔の事を思い出した

翌朝
酒は飲めども朝は早く・・
サクラを除く3人は朝霧の庭にて準備体操をしている
「しかし・・、お師さんも引退したのにまだ朝身体を動かしているのか?」
伸びをしながら言うはカムイに着て以来紺の着物姿のクラーク
師との稽古ということでいつもつけてある丸眼鏡も外している
「習慣というものは染みこむと止められん。身体を動かさんと寝起きもあまり良くなくてな・・
まっ、中毒みたいなもんだ」
「そうですか・・」
「ともあれ、お前達の成長を確かめさせてもらおうか」
そう言うとおもむろに手に取るは刀ではなく太めの棍棒・・
つまり弟子相手にはこのくらいでちょうどいい・・っと
「やれやれ・・、相変わらずの威圧感だな・・。じゃあ手合わせ願うぜ・・九骸皇・・『臨』!!」
気合いとともに呼び起こす九骸皇・・、しかしそれは以前と違い力をセーブした状態で
禍禍しい気も放っておらずただの剣のようだ
「・・ほう、数珠はキチンと作用しているようだな」
「ああっ、負担もほとんどねぇや・・っても魔を消す力とかも出てないが・・ちょうどいいな」
「では・・参りましょうか・・」
静かに正眼の構えをするクラークとクローディア、
二人とも銘刀を持っているのに対しアイゼンはそこらへんに転がっている棍棒・・
差があり過ぎるのだが誰も不満を言わない。
何故なら・・
「いくぜ!」
「鋭!!」
「ぬっ!?」
パシッ!・・、ドガッ!!

鋭い二人の斬撃を縫うようにかいくぐりクラークの手首を掴むアイゼン・・
そしてそのまま彼を蹴り飛ばしクローディアもそれを巻きこんで飛ばした
・・それだけ力量が離れているということだ
「太刀筋は鋭くなった!・・が、一撃で仕留められるだけの気合いがまだまだ足りんぞ!!」
「・・くっ・・、ったく勝てる気がしないな」
「そうですね・・、ここは一つどれだけ腕が上がったか、お師さんの肩を借りましょう」
最初から勝てるつもりはない・・、ただ師に自分達の腕を見てもらう
それだけのために二人はかけて腕を振った
・・・・・・
・・・・・・
結果、クラークの攻撃が何発かは当たれどもそれ以上にボッコボッコ・・
しかしアイゼンも歳には勝てず息を切らしたところで終了した

久々の手合わせも終わり弟子達の旅立つ時がきた
「おおっ、もう帰るか?・・新婚旅行に師は邪魔か?」
用意を整え船着場に立つ二人に意地の悪そうな笑みを浮かべるアイゼン
「!!お師さん!俺達はまだ結婚は・・」
「そ、そうです!兄上にはもう一人・・」
「クローディア!?」
「・・、ほっほう!お前も随分と男気が上がったようじゃな!」
「・・・うるせぇ・・。っうか向こうに他に家族がいるからな、あんまり留守にするのも悪いしさ」
「・・ふっ、それでいい。家族を大切にな」
「「お師さん・・?」」
意味深な師の言葉に思わず二人の声が重なる・・
「まっ、それも大切ということだ。さっ、さっさといけ。
今日はサクラとともに神社への参りを予定しているのでな」
そう言うと隣に立つサクラの肩を抱くアイゼン・・
孫くらいの娘にベタベタ触る光景はちょっと不純・・
「は・・はは・・じゃあまたくるぜ!」
「では、いってまいります」
静かに礼をして別れる二人・・やがて船は静かに出発した


・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


「は〜、クラークさん達遅いですね〜」
処変わってユトレヒト隊の館・・
二人が中々帰ってこないことにキルケも思わずソファでゴロゴロしてしまう
「あいつはトラブルメーカーだし、きっと何かに首つっこんでいるんじゃないの?」
キルケの前でお茶を飲みながらセシルが言う
その隣ではロカルノが静かに新聞を読み耳を傾ける
「ふむ・・それは間違いないな。まぁクローディアもいることだ。
問題が起ころうと大して支障はないだろう」
「っうか二人旅よ?全くもってイヤらしい・・
きっと帰ってくることにはクローディアの御腹が大きくなっているわよ」
「・・どんなペースだ?」
阿呆な話題になっているその時・・

「ただいま〜」
玄関からクラークの声が・・
「あっ♪おかえりなさ〜い!!」
キルケがそれに飛び起き一気に走って玄関へ・・
そして愛しの彼に抱きつく!
「おかえりなさい、クラークさん♪もう遅いですよ〜!」
「ははっ、すまない。身内に会っていた分滞在期間が長くなってな」
「身内・・ですか・・?あっ!」
クラークから降りた時、隣のクローディアとクラークが手を繋いでいるのが見えた
それに気付いた途端キルケは満面の笑みを浮かべ・・
「クローディアさん!うまくいきましたか♪」
「え・・ええ、はい・・」
嬉しそうにうつむくクローディア・・、どちらかというと彼女がクラークの手を握っていたようだ
「ま・・まぁ、そう言うことだ。お前も・・こいつも愛するから・・な?」
「ええっ、大歓迎ですよ♪じゃあお茶にしましょう♪」
「おおっ、おい・・!」
大喜びするキルケに引っ張られるクラークとクローディア
奇妙とも言える三角関係が成立した瞬間だった


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