第十二節  「私が守る」


「やばそうな男だったけど任せて大丈夫なの!?」
「クラークとキルケの事だ。魔法ならばキルケが対応し、
その逆ならクラークが切り開く。・・私達が出る必要もない」
巨大にして薄く暗い回廊をただ走るロカルノとセシル・・
遥か後方では組織の幹部と思われる男とクラーク達が戦闘をしているのだが振り向こうともしない
「に・・しても・・走るの速いわよ!ロカルノ!」
いつもは重装鎧を着込んでいるためにセシルと同じ速さだが
今はセイレーズの服を着ており重さのある防具は一つとしてない
そのためにかなりの速さで駆け抜けている
「落ちついていられるか、ついてこなければ置いていくぞ・・!」
「・・もう!」
いつもとは違うロカルノにセシルも圧倒される・・・
そして回廊は一つの巨大な扉で終わりを向かえる
「セシル!」
「わかってるわ!・・どっせい!!」
扉に向かって巨大な氷の矢を放ち、文字通りぶちぬく・・
その中からは濃密な瘴気に近い空気が漏れ出す
破れた扉からは何やら黒い電気が走っているところを見ると・・
「やっぱり、結界張ってたわけね・・一気に突っ込む?」
「言われるまでもない。敵の数はわからんが畳み込むぞ!」
「熱いわね、じゃあロカちゃんのために暴れちゃいましょう!!」
ニヤリと口元を上げ二人は扉の中へ突っ込んだ・・
・・・・・・
そこは正しく儀式の間・・、悪魔の像があり生贄の祭壇があり
それを取り囲むようにドーム状の席が設けてある
どうやら昔は屋内の闘技場か何かだったようだがそれを改造して造られたようだ
ただ昔とは違い今はおどろおどろしい瘴気が渦巻いている・・、
すでに何かの儀式が数回行われていたのだろう
そして祭壇には四股を拘束されている碧髪の女性が・・
「フレイア!」
瞬時にロカルノが叫び駆け出す!
「ちょ・・ちょっと!ロカルノ!どこに敵が潜んでいるか・・」
珍しいセシルの静止・・だがロカルノは構わずフレイアの元に走り出す
「フレイア!今助ける!」
「に・・兄さん!危ない!」
顔だけを動かせるフレイアが必死に呼びとめる・・
それと同時に・・

ドォン!!

ロカルノがいた地点に突如爆発が起こる!
「ロカルノ!!」
セシルが思わず絶叫するのだが
「ちっ・・、こいつがいたな・・」
何時の間にかセシルの横にロカルノが戻ってきている・・
「あ・・ら・・何時の間に?」
「今だ。それよりも気をつけろ」
ロカルノの緋瞳はまっすぐと爆発の起こった地点を見つめている
砂煙が徐々に納まっていくがその場所に人影が・・
「貴様は・・ハイデルベルク城にいたあの重戦士か」
姿を現したのは長いウェーブの黒髪をした有翼人・・
鴉のような羽を持ち目の色は不気味な金色、その眼光は蛇のように鋭い
上半身は裸で何やら黒い紋章のような刺青をいれている。
下は普通のズボンでかなりの軽装だが何やら羽根の飾りがされた靴を履いており
両腕には先が鋭い鉤爪を装備している
「ああっ、そうだ。」
「軽装に変えれば俺に勝てるとでも思ったのか?人間如きが・・」
冷笑・・、見下した瞳でロカルノを見つめるがロカルノは冷静そのものだ
「ああっ・・そうだ。」
「ふん・・クズが!」

ゴゥ!

呟いた瞬間にロカルノの目の前まで駆けた有翼人・・
爆発的な加速、そして疾風の如き一閃を放つ!
「・・ふん・・」

バキ!

次の瞬間、有翼人は衝撃とともに吹き飛ばされていた
「お・・俺の速さについてきただと・・!?」
「ロカルノだ。名乗っておけ・・、そのくらいは憶えてやろう」
堂々と言い放ちディ・ヴァインを抜く・・
「・・・、バグ・・っとでも言っておくか。最も貴様が憶えても仕方あるまい・・」
「ふっ、今回は私も少々苛立っているのでな。手加減はしないぞ」
「抜かせ!」
殺気立つ二人・・だが次の瞬間!


キィン!!

二人は中間地点にて激突する!
どうやって踏みこんだのかはその場にいたセシルでさせわからない
さらに・・

ドォン!ドォン!!ドォン!!


二人の姿が消え何かが爆発するような音が空中で鳴り響く・・
「二人とも化け物ね・・」
姿を見えずに攻防を繰り広げることにセシルも唖然としている
・・が、その間にも有翼人バグはフレイアに対しても
気を配っているようでセシルが迂闊に救出しに行こうものなら反撃を受けかねない
「・・私にゃあのスピードでの戦闘はできないし・・おまかせね・・」
それでもいざとなれば援護に入ろうとなんとか二人の動きに目を凝らすセシル。
勝負はロカルノがやや優勢・・、バグが鉤爪で攻撃しそれをロカルノが掻い潜り戦剣にて返す
高速戦闘にてディ・ヴァインは存分にその性能を発揮しており
戦いの中でも適切に攻撃を回避しカウンターまでとっている・・


「おおっ!!」

バキ!

一瞬の隙を突きロカルノが蹴りを放ちバグを蹴り飛ばす!
それでもバグは翼を広げて衝撃を流しすぐ体勢を立て直した
「ちっ・・、流石にやるな・・」
距離を空け構え直すロカルノ、あれだけの戦闘があった中でも無傷であり静かにバグを睨んでいる
「ふっ、生意気な事を言うだけのことはある。
魔法強化していない人間がよもや俺と同等の動きができるとはな・・」
さして効いた様子ではないバグ・・、首を廻しながらニヤける
「私は伝説とまで謳われた盗賊セイレーズを継ぐ者だ。この程度・・当然のこと・・」

「にいさん・・」

父と同じ服装をし懸命に戦っている兄を見てフレイアも心の中で何かが弾けそうになっている
「そうか・・なら、俺がその上を行くということを教えてやろう・・」
そう言いながらバグは両腕の鉤爪を脱いで投げ捨てる・・
「得物を捨てた?なに?自暴自棄?」
「セシル、下らん事を言うな・・」
「ほう、わかるか・・。
重たい得物をつけた一撃よりも完全にスピードを解放させた素手の一撃のほうが威力がある。
もはやチェックメイト・・だな・・」
そう言うと黄金の瞳をギンっと鋭く尖らせ姿を消した!

・・・・・

周囲には動く気配もなくバグは完全に姿を消した・・。それはまるで消滅したかのような現象だ
「・・・ちっ・・」
しかしロカルノは焦った様子・・、彼も動いて対抗するかと思えたがジッと構えたままだ
その瞬間!

ドゴ!

「!?」
突如ロカルノの身体が「く」の字に曲がる・・、それが確認されたかと思うと

バキ!ドガ!ゴス!バキ!ドガ!ゴス!バキィィ!!

正しくタコ殴り・・、姿すら見えずにロカルノの身体は飛ばされた・・
一撃からしてかなりの威力があるようで剣を地に刺し起きあがるロカルノも足にきているようだ
「く・・、ふっ、素手相手に遅れを取るとはな・・」

”強がるな、目では追えているようだがそれだけでは俺を捕らえるのは不可能だ”

「まだ私は立てている。勝負は終わっていない」
再びディ・ヴァインを構えるロカルノ・・だが少しふらついている
「兄さん・・私のことはいいからもう逃げて!」
その姿を見て耐えかねてフレイアが叫ぶ・・
「そうよ!ロカルノ!いくらなんでも分が悪いわ!」
セシルもそれに同調、相手にはまだまともな一撃が入っていないのだ
「ふっ・・、甘く見るな。これでも勝ち目のない戦いはしない・・!」
”ほう・・それでもまだそんな口を聞くか・・ならば・・・”
ロカルノに向けられていたバグの殺気が消えた。
そして・・
”生贄は、死んでいても意味がある・・”
「!!!?」
その言葉とともにロカルノの中で何かが弾けた!
”娘・・、兄のために死ね!”
姿を見せぬままフレイアに迫る殺気!
「!!に・・兄さん・・!!」
拘束され動けないフレイアは目を固く閉じ覚悟を決める

ドス!!

重く肉を貫く音がした・・、だが、フレイアの身体には傷がついていない
「えっ・・?」
状況がわからなく目を開けたフレイア・・その先には彼女を庇うようにロカルノがいた
セイレーズの帽子は剥がれ肩から手刀が突き抜けており血が噴き出ている
出血の量は酷くかなりの深手なのは目に見てわかる
「兄さ・・ん」
自分の顔に兄の血が滴り思わず唖然とするフレイア
「お前は・・俺が守る!」
緋色に光る瞳は温かく彼女を見つめている
「ほう、間に合ったか・・だが致命傷だ。もう終わりだな・・・・ぬ!?・・抜けない!?」
ロカルノの背中から手刀を突き刺したバグだがそれが食いこんで抜けない
「ようやく捕まえた・・な」
「き・・貴様、これを読んで・・!?」
「さぁな。ともかく反撃させてもらおうか・・!」
気合いが篭ったロカルノの声・・だが目はすでに霞んでいる
「抜かせ!そんな体勢で何ができる!?」
背後を取られているロカルノ・・、反撃するにもバグを投げ飛ばすなりしなければ攻撃はできない。
とはいえうかつに相手を逃すと超高速にて補足ができなく今度こそやられる。
・・だが
「ディ・ヴァイン!!」
その声とともに何時の間にか逆手に握っていたディ・ヴァインが光り炎刃を創り出す!
それはドンピシャの角度でバグの胸に目掛け伸びる!


ドス!・・ボゥ!!

「ぬ・・うおおおおお!!」
水晶のような炎刃がバグの胸に刺さったかと思うと身体が燃え始める!
「ふっ・・!い・・・頂く!」
それを勝機と見たかロカルノは肩の筋肉を緩めバグを解放する・・
「ぐ・・この程度の炎!風でかき消せば!」
一旦空に逃れ火を消そうとするバグ
しかし

ドス!!

「何・・?」
宙に上がったのと同じタイミングで彼の腹に自身の使っていた鉤爪が突き刺さる
「私を忘れていたのかしら?」
見ればセシルが悪魔像へと伸びる階段の中腹まで上っておりこの機会を伺っていたようだ
「き・・貴様ぁ!!」
予想外の追撃に激怒するバグ・・
「卑怯とは言わないでしょうねぇ?最も、卑怯でもいいんだけど・・。
人の男に手を出してタダですむと思うなや!!!」
もっと激怒しているセシル・・炎刃と鉤爪の深手により
うまく動けないバグに巨大な氷塊を造りだしぶん投げる!

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!!

宙を覆い尽くすような氷塊がバグを襲いかかる・・!それは巨大にして回避はもはや不可能
「う・・おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
絶叫とともに氷結の誘いが彼を包み地へと激突させる!!
「ロカルノ!決めて!!」
「ああっ!!これで決まりだ!!!」
氷の塊目掛けディ・ヴァインの特大炎刃が振り下ろされる!!

ジジジジジジ・・・!!!

氷が超高温の熱でとかされ水蒸気となり場を満たしていく・・!
強烈な一閃は氷塊を溶かし壁や地面を一文字に斬ったところで消滅した
そこにバグの姿はなく、腹に刺さっていた鉤爪だけがドロドロに溶けた状態で転がっていただけだ
「うっひゃ!すっごい水蒸気・・、室内でやるの止めましょうね。って・・大丈夫?」
ふらつくロカルノにセシルが歩み寄る・・
彼は手刀によって貫かれた肩を押さえてなんとか立っているようだ
「なんとかな。流石はセイレーズが使用していた服だけ合って下手な鎧よりかは丈夫らしい。
普通の服ならばあの乱撃で絶命していただろう・・」
「よく勝てたわね・・」
「勝つと決めていた。だから勝った。・・それだけだ。それよりも魔力の消耗がきついな。
どこぞの馬鹿に譲るべきではなかったか・・」
「そんだけ口聞けりゃ大丈夫ね。」
呆れるセシル・・手を貸すのをやめて苦笑いをする
そしてロカルノはゆっくりとフレイアの元へ・・
「兄さん・・」
「フレイア」
先ずは拘束していた金具を無理やり切り払い彼女の身を自由にする
「兄さん・・大丈・・夫?」
心配そうにロカルノを見るフレイア。かなりの傷なのは誰もがわかる
「ああっ。それよりも・・すまない。お前を危険な目に合わせてしまった」
「兄さん・・いいのよ、そんなこと・・。私こそ何も知らなくて兄さんの事を・・」
「いいんだ、フレイア・・・。くっ・・」
フレイアとの和解が終わった途端にロカルノが倒れる・・、やはり無理をしていたようだ
「ロカルノ!・・・いけない!血を流しすぎているわ!
ったくこの馬鹿、強がってるんじゃないわよ!」
流石に慌てるセシル・・
そこへ・・

「お〜い!終わったか!」

ナイスタイミングにてクラークとキルケが入ってくる
「あっ、キルケ!ロカルノがやばいの!急いで回復して!!私じゃ手に負えないわ!」
「わかりました!応急処置をしてから船に急行します!」
駆け出すキルケ、テキパキとロカルノの傷の回復をする
「ともあれ島から脱出するぞ、こんなイカれた連中だ。
計画が失敗したとなったらここごとドッカンってことになりかねないからな」
クラークの言葉と同時に

ドォォォォォォン!!

神殿の奥の方から爆発音が響いた
「・・あんたが言ったせいで・・」
「俺のせい・・?」
「なんでもいいですよ!とにかく血は止めました!続きは船の上でしましょう!」
「ああっ、退路はクローディアが確保してくれている!フレイアさん!走れるか!」
「え・・ええ!行きましょう!」
迷惑かけたのが申し訳ないのが言われるまでもなくロカルノを担いで走り出した
・・・・・・

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