第十一節  「闇にして闇にあらず」


薄暗い回廊の先をただ進むクラーク達・・
背後はクローディアが守ってくれているゆえに安心して突き進める・・のだが・・
「何だ・・?」
突如クラークが立ち止まる・・、先ほどから戦闘員の襲撃もなくなったのに
目の前におびただしく血を流し絶命した戦闘員が数人そこに倒れているのだ
「・・何?仲間割れかしら?」
セシルも訳のわからない様子・・だが・・
「・・・はっ・・皆さん下がって!!」
キルケが何かに気付きクラーク達の前に出て結界を張る・・
それと同時に・・

オオオオオオオオオ・・・・・!!

人間の物とは思えない奇妙な呻き声がしたかと思うと
戦闘員達の身体から血が飛び出しユトレヒト隊を襲う・・!
「これは・・・」
「『ブラッディハウリング』・・暗黒魔法です!」
「ああっ、キルケが前使ったグロイやつな・・」
かつて彼女が使用した魔法、血に呪詛を込め生者を骨も残さず喰らい尽くすグロ系魔法だ
「安心している場合じゃないですよ!これって結界も壊すんですから!」
キルケが慌てるように結界の膜に意思を持った血がまとわりついて抑えこんでいる
「なら・・潰すか。『九骸皇』!」
キルケの結界内で鬼神剣『九骸皇』の招来させるクラーク
血のように赤い刀が表れそれを切り払う!

パァァァン・・・!

鏡が割れるような音がしたかと思うと血は一斉に地に落ちた
「ひゅ〜♪相変わらず便利な剣ねぇ」
「連続はできないからどっこいどっこいだぜ?・・ともあれ、出てこいよ・・?」

”ほう・・神殺しの剣・・か”

回廊の奥から目までターバンで隠した黒法衣の司祭が歩いて来る
纏う空気は正しく災いを呼ぶ瘴気そのもの
「どうやら、ここの偉いさんのようだな・・?フレイアさんはどこかな?」
九骸皇を消し静かに言うクラーク・・だが・すでに戦闘態勢に入っている
「この先だ。しかし部外者の立ち入りは遠慮していただきたいのだがな」
「ふっ、すでに奥に部外者がいるのだろう?・・下らん話は程ほどにしておけ」
「やれやれ・・、報告以上に熱い男だな・・ロカルノ君・・」
冷たい口調で男が話す・・あからさまに見下しているようだ
「調べはついているか・・まぁ当然と言えば当然だな。
だがお前一人にそう時間もかけていられない・・ロカルノ、セシル・・先行け!」
「ああっ、遠慮せず行かせてもらう!いくぞセシル!」
「了解・・!」
クラークの言葉に甘えロカルノ達が駆け出す・・!
それを援護するべくクラークとキルケは魔法と真空刃にて牽制する・・が
「ふん・・」
黒マントの男は動くわけでもなくすんなりと二人を先に行かせた

・・・・

「先に行かすだけの余裕があるってことか?ターバン野郎?」
愛刀『紫電雪花』の切っ先を向けるクラーク
「先に行こうが行くまいが貴様等が死ぬことに変わりはない
・・私としても早く儀式をはじめたいのでな・・効率よくいかせてもらう」
「やれやれ・・たいそうな自信だな?だが・・こっちは二人だぜ?」
「ええっ、徹底的にボコりますよ!」
キルケも腰に下げたレイピア『ローズクォーツ』と
マンゴーシュ『ペンタグラム』を抜き意気揚々としている
「ふ・・ならばこちらも呼ぼうか・・『ヘルストーカー』・・」
男が声をかけたかと思うと天井から何かが落ちてきた・・それは両手に鋭い曲剣を持つ剣士
ただし変な死臭が漂っており皮膚は灰色だ・・
「我が組織の中からいい素材を集めた人形だ・・。お前の相手ぐらいは勤まるだろう・・」
「・・・、身内をゴミ扱い・・ってか。気にいらねぇな」
「だから何だと言うんだ?時間が惜しい、手短に行こう・・。殺れ」
「・・・」
男の声に反応しヘルストーカーは異常な速さで向かってくる!
「ちっ!」
クラークもそれに対抗しつつ突っ込む!

キィン!!

曲剣と紫電雪花がぶつかり鋭い光を放つがそれが終わる前にすでに激しい連打の嵐が!
「うおおおお!」
「・・・・・」
クラークの体術を交えた激しい連撃にヘルストーカーは無言のまま対応している
生気がなく白髪に覆われた顔はそれこそ人形そのもの
・・顔は女性のものだがあちらこちらにつぎはぎがありバランスが悪い
「ほぅ、やるものだ・・」
だが攻撃は次第にヘルストーカーが押してくる・・
「クラークさん下がって!『シャイニングスピア』!!」
溜まりかねたキルケが光の稲妻を起こしヘルストーカーに放つ!
「応!!」
クラークもそれを瞬時に察知し急いで飛びのく・・
そして

轟!!

ドンピシャリで稲妻はヘルストーカーへ・・
電撃は死肉を焼きさらに衝撃で壁まで吹き飛ばす!
「神聖魔法・・、それもかなりのものだな。・・しかしそのくらいで倒れる人形ではない」
高見の見物の黒マントの男・・・、戦闘に参加する気はないようだ
そしてヘルストーカーもあれだけの電撃を受けていながらも全然平気に起き出す・・
着ていた布の服は焼け焦げその不気味な体が覗き見える
そしてどうやら関節なども相当負荷がかかっているのか動きがぎこちなくなった
「ちっ・・あの人形、人間としての限界を超えて造ってやがる」
「ええっ、じゃ・・じゃあ・・・」
「化け物じみたスタミナを持ってやがる・・俺の攻撃を受けながらも押し返してきた」
「その通り。一切の痛みを消した心を持たない凶器だ。
通常のアンデッドなどとは比べ物にならないほど強靭にできている。
・・お前達がいくら腕が立とうとそれは人としての限界を超えられぬ範囲だ。
まぁ、今の動きだけでもう飽きたな・・そろそろ死ぬがいい・・」
ゆっくりと手を前にかざす・・それとともに先ほどの地に染み込んだ血液が再び宙に浮き出す
「神剣は人をも食らう剣・・先ほど使用したのならばそう連続では使えまい・・?」
「・・・・」
男の言葉に歯軋りをするクラーク、突っ込もうにも距離がありすぎる・・
「ちっ・・キルケ・・」
「はい・・」

「ふ・・絶えろ・・『暗き闇より出でし、紅の共鳴・・・
  我が声に従い生者を食らえ! ブラッディーハウリング!!』」

再び血は凶器となりて襲いかかる・・が!
「『暗き闇より出でし、紅の共鳴・・・
  我が声に従い生者を食らえ! ブラッディーハウリング!!』」

キルケも同じく『ブラッディーハウリング』を発動する!
それも男が発動したハウリングを乗っ取る形で・・
「な・・なに!?」
「まずはその人形から!!」
血の波がヘルストーカーを襲う!

ゴポッ!!

すでに足の死肉が痛んでいたヘルストーカー・・、無理な加速をすれば逃れられるだろうが
そこは人形、男の命令が遅れてしまってはどうにもならず
「・・・・」
無表情のままその体を食らわれ、無残に血の餌食となった
「娘・・、何故暗黒魔術を使える・・?『ブラッディーハウリング』は血の契約がなければ行使
できぬ漆黒の術。神官如きが扱えるものではない・・!」
忠実が下僕が消失したことよりもキルケが闇の魔法を使えたことのほうに驚く男
「独学ですよ!それに契約云々なんて面倒ですし
女性は処女を捧げなければならないですからやりません!!」

「な・・んだと・・?契約なしに漆黒を行使できる存在・・ま・・まさか・・!ちっ!
 『血よ!闇よ! 汝らを糧にここに地獄門の番を呼び起こさん!
     煉獄の魔犬・・・ ケルベロス!!』」

焦り急に呪文を詠唱しだす男・・
それによりキルケが操っていた血にドス黒い赤色の魔方陣が浮びあがり形が変形・・
三つの頭を持つ血の魔犬となった
「高位の暗黒魔法・・!?あの人・・かなり危険な人ですね!」
「っうかあの様子だと『ブラッディーハウリング』と
同系統の魔法っぽいな・・下手に手を出せねぇじゃないか?」
「ええっ、生半可な結界も通用しませんし・・」
「ちっ・・九骸皇の発動までにゃもう少し時間がかかるし・・ヤバイか・・」
「私に任せてください!
クラークさんは万が一の時のために九骸皇を使えるようにしておいてくださいね!」
そう言うとクラークよりも前に出るキルケ、眼前には人を食らう血の魔犬が睨みを聞かせているが
彼女はそれに臆することなくしっかりと立っている
「無駄だ!地獄の番犬ケルベロス・・そして呪われた血の呪縛だ
・・いかなる魔術も暗黒魔法をも飲みこむ!死ねぃ!!」
「「「ガォォォォォォ!!」」」
男の叫びに共鳴するようにケルベロスは雄叫びをし突進してくる・・!!


『荘厳たりし意思 七色の光となりて
   地を覆わん!! ペインフルスピア!!』

今度はキルケの身体に光が包む
それとともに眩い魔方陣が展開し虹のように輝く刃が雨のように天から降り注ぐ!
「・・高位神聖魔法・・・・」
それを見るなり男の顔が青冷める・・、そして虹色の光はケルベロスを包み・・

パァァァァァァ・・・!!!

閃光とともに血液ごと消失させた・・
「これで間違いない・・、娘・・貴様・・」
「???・・これで貴方の切り札は無効になりましたね!覚悟しなさい!」
「う・・うわ・・うわぁぁぁぁぁ!!」
あからさまにキルケに恐怖する男・・
それとともに自身を包む巨大な魔方陣を展開し自分の身体が赤く染まっていく
「『魔人の仔』め!私が・・消滅してやる!」
「!!?じ・・自爆魔法!?クラークさん危ないです!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!!!

男の破滅の波動に周囲の壁は揺れ出す!
「建物ごとふっ飛ばす気かよ!」
「魔人め!!私の手で消滅してやる!!!!」
「あの人、完全に狂ってますよ!ここで魔法を使ったら共鳴して爆発しますし・・」
「俺の出番か!少し下がっていろ!」
「は・・はい!」
クラークの言われたことに素直に従いキルケは回廊の壁まで下がる
そして・・
「もいっちょ!!『九骸皇』!・・斬!!」
暴走する男に向かってまっすぐ振り落とされる紅の刃・・

パリイィィィィン・・

何かが弾ける音とともに魔方陣などは強制的に解除され自爆のエネルギーもプツリと切れた
そして男は・・
「あ・・・う・・・おのれ・・・」
ターバンに刃が刺さり唸りながら絶命、衝撃でターバンが落ちた男の目は正しく怯えが感じ取れた


・・・・・

「こいつ、途中からおかしくなかったか?キルケ?」
九骸皇をしまいキルケのほうを見ながら首をかしげるクラーク・・
「そうですね・・?私のほうを見て『魔人の仔』とか言ってましたし・・」
「魔人・・ねぇ。セシルのほうが十分過ぎるほど魔人だと思うけど・・」
彼女の方はその前に『変態』と言うワードは欠かせないんですが・・
「何にせよおかしな人ですね。人を化け物扱いしちゃって!」
キルケさん、ご立腹に何気の男の死体を蹴っている。
「まぁそんなに頬を膨らませるなよ?キルケが何だろうとキルケに変わらないし・・
俺だってこの剣で人間じゃなくなったらしいからな・・」
そう言うと笑いながらフルメタルの篭手に浮ぶ鬼の字を見せる・・
「そうですね、大事なのは愛し合う気持ち・・ですね♪」
一転笑いながらクラークに抱きつくキルケ・・。
いつでもラブコメを展開できるだけの技量を持ち合わせている
「おいおい、まだロカルノ達が戦っているんだぜ。
勝利の抱擁はこの戦いが終わった後、そしてお前の貞操帯が解けてからだな♪」
「ううっ、こんなものクソ食らえです・・」
「・・セシルの言葉を移っとるで・・じゃあ先を急ごう!」
「ええっ!」
キルケを降ろし二人は走り出す・・、先で戦っている仲間のために・・


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