第5節  「新たなる剣」


貿易都市ルザリアに近いのどかな村・・
クラーク達が合流地点として指定したポイントだ。
その中、村民達の憩いの場として親しまれている
『遊楽亭』という酒場がある・・。
まだ昼間ということもあり人もあまりいないが3人組みの男女が座っている・・
「クラークさん達、大丈夫でしょうか?」
キルケがオレンジジュースを飲みながら呟く
「もう3日か・・、伝書屋でこちらに向かっているというのは聞いたんだがな・・。
まぁ道中襲われてもあいつらなら大丈夫だ」
珈琲を飲みながらロカルノ
「・・・・・ですが、この一件、かなり厄介なことは確かですね」
椅子に正座しながらお茶をすするクローディア・・
「・・そういえばさっきロカルノさんに会いに来ていた男の人は誰なんですか?」
「・・ああっ、私がよく依頼している情報屋・・っというところだな。」
「へぇ・・、何かわかったんですか?」
「・・・・まっ、追々説明しよう」

カランカラン・・

扉の鈴の音がなり1組の男女が入ってきた
「おまたせ〜!」
セシルとクラークだ
「クラークさん!無事でしたか!?」
真っ先にクラークを心配するキルケ・・
「ああっ、まぁな・・、最悪の事態になっちゃったが・・」
あまり浮かない顔をするクラーク・・
「・・その様子だと・・」
「まぁ、順を追って説明するよ。それよりそちらの女性は?」
正座しているクローディアを見てクラークが訪ねる・・
「お久しぶりです、兄上・・」
懐かしそうに微笑むクローディア
「えっ・・、もしかして・・・・・・・クローディアか?」
「ええっ、もう何年ぶりですかね・・」
「ああっ、しかし・・随分大きくなったな〜・・」
「何時までもあの頃のままじゃいられませんよ」
「そりゃそうだ、でもどうしたんだ・・?」
「・・まぁそれも順を追って説明しましょうか・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・

「そうか・・、ファラが甦ったか・・」
珍しく唸るロカルノ・・
「ああっ・・」
「あれはほんと強敵よ、どうしようかしらね・・」
騎士鎧を脱ぎ捨ててセシルがぼやく
「・・・あいつの事は俺にまかせてくれたらいい」
「クラークさん・・、大丈夫ですか?」
「大丈夫さ。まぁ、新しい得物を見つけないといけないけどな」
そう言い紫電を抜く・・
美しかった刀身はすでになく、剣先が折れてなくなっている・・
「妖刀『紫電』・・、姉上の剣ですね・・」
それを見てクローディアが言う・・・
「・・ああっ、形見として使っててきたが・・、やむおえなかった。・・すまないな」
「いえっ、剣は己を守るもの、姉上もきっとわかってくれます」
2人にしかわからない過去に他の3人が黙り込む・・

「・・それよりどうするんですか?新しい得物って・・?」
沈黙を破るようにキルケ
「う〜ん、心当たりならあるよ。それで・・少し別行動とってもいいかな?」
「・・まっ、かまわん。私達は奴らの行方を追おう」
「・・すまない、あいつらも俺の『とっておき』を見舞ったんだ。そう遠くにはいけないだろう・・
それと、キルケ」
「はい?」
「悪いけど一緒に来てくれないかな?」
「・・私が・・ですか?」
得物を探すのによもや同行を願われるとは思ってもなかったので驚くキルケ・・
「そっ、ついてきてほしいんだ・・」
「・・わかりました」
「悪い、そんじゃあしばらく頼んだぜ。セシル、クローディアに変な気起こすなよ」
「・・誰が!!私はレズじゃないって言っているでしょうが!
あんたこそキルケにイケナイことしちゃ駄目よ!!」
「・・やれやれ、まぁ別行動中も一応「つなぎ」はいれておこうか」
ロカルノがなだめる
「・・それではお気をつけて、無理をなさらずに・・」
ロカルノ、セシル、クローディアを残し2人は新しい得物を探しに行った・・・・・・

「・・さて、私は奴らの行方を調べる。クローディアは一旦依頼主に現状を伝えたほうがいいな。
セシルは使いぱしりで動いてくれ」
「わかりました」
ロカルノの指示に素直に従うクローディア、しかしもう一方は
「なんで私がパシリなのよ〜!!」
っと大いに不満なようだ・・・・・・




それから数日・・
ロカルノからの連絡も特になく不思議と騎士団も静かなようだ・・
クラークとキルケはルザリアより遠く離れた森林を歩いている
熱帯のジャングルのような森ではなく清い空気が漂っており天に届くかと思うくらい
大きい木がそびえている・・・
「・・すごいとこですね〜、こんなとこに人が住めるのですか?」
キルケがクラークに訪ねる
「・・まぁ元々世捨て人だからな〜。自給自足には慣れているみたいだぜ?」
「へぇ・・、どんな人なんですか?」
「ドワーフの老婆だ。女鍛冶師ミョルキルっていってな。その道じゃかなり知られた名工さ」
「女性なんですか!・・よく鍛冶なんてできますね」
鍛冶仕事は力仕事だ。それ故鍛冶師なんてものは屈強な男が多い
「まっ、亜種なだけに老婆でも力があるのさ。それに彼女の作るのはあまり重量のあるものじゃないんだ」
「ふぅ・・ん、あっ、あの小屋ですか?」
目の前に見える蔦で覆われた小屋が現れた・・
ぱっと見るとなんだか廃墟のような感じがする・・外見は質素だが煙突は立派な
作りになっている
「ここだな、全く・・、廃墟だな・・・」
「・・ですね・・。でも煙突から煙が出てますから住んでいる・・んでしょうね」
「・・だな。よしっ、入ってみよう」


「ば〜さん!いるか!」
ノックもせずに扉を開けクラークが叫ぶ
部屋は質素に片付けられておりあまり生活感は感じられない
「・・・なんだ?」
薄暗い部屋の奥から黒い肌の老婆が出てきた・・
「おおっ、いたいた。久しぶり〜!」
「・・クラーク、お前か・・」
突然の来客にもまったく動じない老婆ミョルキル
「ああっ、またちょっと世話になりたいんだけど・・・」
「・・まぁ、いいが・・、何が望みだ」
「こいつ、直せる・・?」
腰にさしていた紫電を渡す
「・・・貴様、また『アレ』をやったのか・・」
刀を抜き刃の崩れ様でクラークがやったことを理解した模様・・
「・・ああっ、仕方なくな・・」
「・・・、ここまで崩れたなら何か新しい剣を探した方が早いぞ・・?」
「・・・そうだな、時間がないからな〜。・・じゃあなんか良いものあるか?」
「・・・刀なんぞそうそう作れるもんじゃない。それにこれほどの魔剣を潰したんだ。
厄介な奴が相手なんだろう?ここにあるものでは役不足だな」
きっぱりと結論を言うミョルキル・・・
「あらっ・・・・・・」
「ただ一つ、この先にある祠に太古の即身仏が守護している鬼神の剣がある・・」
「即身仏・・?」
キルケがわからないっといった顔をする
「ああっ、東の方に伝わる聖職者の儀式でミイラになる荒行なんだ」
「ええっ!!?」
「生きながらミイラになり力を保持して何かを守る・・、その者が即身仏というのだよ。
お嬢さん」
「・・はぁ・・」
「そんな大層な番人がいるんだ。すごい物なんだろうな」
「さぁな、ただ地脈と即身仏で守られている剣だ。わしも近づくのがやっとだったよ・・」
「・・行って見る価値がありそうだな」
「・・そう言うと思った・・、が、そんなものを得物にするのなら貴様は
もはや真っ当な人間とは言えなくなるぞ?」
「・・・・・・へっ、そのくらいの覚悟はしているさ」
「クラークさん・・」
「ふんっ、では場所を教えよう。お嬢さんはここにいるほうがいい・・・
とばっちりくらってはいけないからな」
「そうだな、キルケ、すぐ戻るから少しここで待っていてくれよ」
「・・わかりました。でも・・、少し時間貰ってもいいですか・・?」
「・・ああっ、いいぜ?」

ミョルキルに祠の場所を聞き小屋の外に出る2人・・
「どうしたんだ?キルケ・・?」
「・・クラークさん・・・!」
突然クラークに抱きつくキルケ・・
「・・キルケ・・?」
「・・あまり、無理しないでください・・。クラークさんを見ていると、私・・」
「・・すまないな、心配かけて・・。でも今が無理する時なんだ」
「・・・・・・・・」
「俺はこれ以上、仲間が死ぬのを見たくない・・。」
「でもっ、クラークさんが死んでしまったら・・」
「俺は死なないよ。きちんとキルケの想いに応えてあげるまでは死んでも死にきれない」
「・えっ・・?」
「・・すまない・・・・、キルケ」
そっとキルケに口付けをするクラーク
「んっ・・・、クラーク・・さん・・」
「・・・そんじゃ!ちょっくらその剣を拝んでくるぜ!」
キルケの背中を叩き森の中を走っていくクラーク
「・・・クラークさん・・・」
その姿をキルケは静かに見守った・・・・

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