第4節 「ファラ=ハミルトン」
「キルケがロカルノと一緒に行くなんて珍しいわね〜」
草原を歩きつつセシルが呟く
「そうか?まぁ自分の役割を理解した上での事なんだろうさ」
彼女はあれでもしっかりしているからな。
「・・・案外ロカルノの事が好きだったりして!」
「へぇ〜!そうなんだ!セシル〜、ライバル出現じゃないか!」
「・・・・・はぁ」
何故か呆れ顔をするセシル・・・、なんだ・・?
「・・ほんっとあんたって恋愛に疎いのね〜、野暮かと思って黙っていたけどここまで
疎いとイライラするわ!!」
なんでいきなりカリカリしてるんだよ、こいつ・・
「いいっ?キルケはあなたのことが好きなのよ!」
「んなこと知っているよ」
「・・・へっ?」
間の抜けた声を出すセシル・・
「お前な〜、アレだけ積極的なんだぞ?いくらなんでも気づくだろう・・」
こいつ、俺を馬鹿にしすぎ・・
「じゃあ何であの子の気持ちに応えてあげないのよ?」
・・・・・はぁ・・・
「・・・・分らないんだ・・・」
「えっ?」
「俺みたいな血まみれの男がキルケを幸せにできるかどうか・・ってな・・
普通の女性としての幸せを求めるなら俺みたいな人間より普通の奴を好きになったほうが
いいに決まっている・・。お前も人を殺めてきたのならわかるだろ?」
「・・・・・・」
「その結論がでないから気づかないフリをしていたのさ。
でもこれ以上答えを長引かせるのもキルケにとっては酷だろう・・な」
「・・・・あなたはキルケをどう思っているの・・?」
「・・どうだろう?俺には普通に恋愛した経験がないからな。正直『好き』って感情が
うまく理解できない・・。
でも・・、あの子が必要だとは・・・思う・・」
だけど・・、あの時の二の舞はごめんだ・・
「・・その気持ちが『好き』なんじゃないの?」
「・・さあな・・、ともかく!さっさと例の騎士団を追っかけようぜ!」
俺達が向かっているのはルザリアから南に数日歩いたところにある
遺跡だ。
旧文明の遺物らしく何に使われていたのか全くわからないそうだ・・
ともあれ交易隊の場所もんなとことおるはずもなくセシルと共にせっせと歩くことになった・・
「はぁ〜、こんな凶暴強姦魔と一緒に旅していると気が滅入ってくるよ・・」
セシルは以前興味本位で旅した希望都市シウォングにて獣人やら少年やらを
襲った前科がある(「ユトレヒト隊VS極星騎士団」参照)
さらにはロカルノの祖国ダンケルクでも何やらやらかしたみたいだ・・
「しっつれいね!私は可愛いのが好きなのよ!あんたみたいなは賞味期限切れよ!」
「・・嫌な表現・・、んなことばっか言っていると極星騎士団のあのワンコみたく怯えられるぞ?」
「・・んなこと・・ないわよ・・」
・・・んなことあるだろ・・?
「さぁ、馬鹿なこと言っている間に着いたようだぞ?」
前方に巨大なドーム状の廃墟が見えてきた
「・・大層な建物ね〜、私ならもっと綺麗なレイアウトにするわ」
「・・・さぁ行くぞ」
「ちょっと!ツッコミなさいよ!!」
・・アイツを苦しめる奴らがここに・・・・・
ドーム内部は静寂そのもの・・、しかし何らかの気配はある・・・
「セシル、油断するなよ?もしなんかあってもロカルノみたく助けないぞ」
「大きなお世話、自分の事ぐらい自分でしなきゃあね・・」
そういいつつ既に魔剣「氷狼刹」を抜き用心している・・・
あちらこちら倒れている石柱・・、足場はいいとは言えない・・
辺りは静かにさしこむ光が神秘的な雰囲気を出している
”ようこそ、剣聖帝・・”
突如女の声が広がる・・
「・・・姿を見せたらどうだ?聖何とか騎士団さんよ?」
反響して響いているため奴らの場所がつかみにくい・・
気配も全くないしな
「なんだったらこの廃墟ごと破壊してあげましょっか?」
セシル・・、それはやり過ぎだ・・
その発言に答えてかどうか前方の空間を裂いたと思いきや一組みの男女が出てきた・・
女は銀色の髪をなびかせ、どうやら盲目のようだ。男は金髪でやたらと長髪だ・・
「やあハニー、また会えたね」
「・・あんたはルザリアで会ったナンパ野郎・・?まさか聖ヴァルハラ騎士団の
一員だったとはね・・。」
「ドゥヴァンだよ。こんなとこで会えるなんてこれはまさに運命!どう?お茶でも?」
いきなりセシルを口説き出すドゥヴァンと名乗った男・・
こいつ口説くなんて・・いい趣味だな、おい・・
「・・・やれやれ、あの時首をはねておくべきだったわね」
「・・っという事は貴様が団長のヘルテイトって奴か?」
盲目の女性に訪ねる・・
「そうです。傭兵公社で『剣聖帝』と恐れられてきたクラーク殿に覚えてもらえるとは
光栄ですね」
・・・・・
「・・なぜアイツを甦らせようとする・・?」
「・・・、私達はただ力がほしいだけです・・」
「どんな理由であろうと彼女をこれ以上苦しませることは俺が許さない」
「残念ながら流石のあなたでも後手に回りすぎています・・」
そういうとヘルテイトは手をかざす・・
再び空間を裂く音がし、一人の少女が現れる・・
「・・・・き・・さまぁ・・!!」
蒼髪のポニーテールに黒と赤が入り混じった法衣を着ている・・・・・・
ファラ=ハミルトン・・・、俺がかつて愛した女が目の前にいる
しかし眼には光りが灯っておらず無表情だ
「特製の肉人形に憑依させましたがうまくいったようですね。彼女もあなたに会いたくて
この世界をさまよっていたようですし・・」
「・・・黙れ・・」
「先に言っておきますけど彼女はもはや貴方を認識することはありません。
私達の剣として生まれ変わったのです」
「黙れ!!」
ヘルテイトめがけて真空刃を放つ・・
「・・早い。ファラ」
そう呟くとヘルテイトの前にファラが瞬時に移動し手をかざす・・
パァン!
乾いた音がし、真空刃は消えた・・
「おお!こんだけやるなら僕の出番はもうないね♪」
ドゥヴァンは鼻歌まじりにさっさと退散していった・・
「・・・・何か対策はあるの?クラーク」
「・・ファラは接近戦には弱い・・っといっても接近するまでが大変だがな・・」
「そんなことやってみなきゃわかんないでしょ!」
そう言うとセシルが一気に駆け出す
「私が相手よ!すぐ凍らせてあげるわ!」
「・・女聖騎士『金獅子』ですか・・。ふふっ」
「そのせせら笑いを絶叫に変える!」
氷狼刹を地面に刺しファラとヘルテイトを氷のトラップにかける・・
こいつの得意な手だが・・、ファラに通用するか・・?
ガチッ!!
ファラとヘルテイトの足を瞬時に氷の網が絡みつき凍られている・・
しかし
「セシル!注意しろ!!」
足が凍り付き身動きが取れないのにそのまま印を切っている!?
「こいつっ、この状態で詠唱!?・・・発動する前に!!」
術を詠唱するファラに斬りかかる・・・・・
その刹那
ファラが手を放ち、拡散状に炎の弾丸を撃ち続ける・・!!
「セシル!避けろ!」
「あんたじゃないんだから無理よ!!・・炎なら!!!」
氷狼刹かざし目の前に氷の壁を作る・・!!
その壁に弾丸は絶え間なく撃ちつけあっという間に溶かしてしまった・・・
「やはり素晴らしい・・、流石は『黒い炎の魔女』・・」
満足そうに笑うヘルテイト・・
「・・・・・貴様等がいるから!」
セシルが無理でも俺なら!!
「・・ファラ」
俺を見て一瞬怯える表情をしたファラ・・、
まさか・・
「あ・・・・、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然絶叫しやたら滅多に炎の弾丸を撃ち出す
「やはり最愛の者が現れると心が乱れますか・・、改良が必要ですね」
・・・・・!!
「おおおおおおおお!!」
貴様を殺せばぁぁぁ!!
紫電でヘルテイトの頭上に振り下ろす・・!!
キィン!
「ファラばかりに気を取られすぎたようですね・・、これでも結界には自信があるのですよ・・・」
俺の太刀を受けとめる結界・・だと!?
「ファラ」
後ろからファラが炎弾撃ちつけようとしている・・
「ちっ、間に合わない・・!?」
「さようなら・・、剣聖帝」
俺に向けて放たれる炎弾・・、くそっ!
「私を忘れては困るわよ!!」
・・突然セシルが俺を庇い氷の壁を作る
「・・セシル!?」
「・・このままだとやられるわ!一旦退くわよ!!」
「・・逃がしませんよ、ファラ」
ヘルテイトの命令にさらに猛攻するファラ・・
ちっ、この状態で退くには・・・、アレしかない・・・!!
「やりたかないが・・・・とっておきだ・・!受け取れ!!」
紫電に俺の全魔力を込め暴走させる・・、
限界を超えた紫電は蒼く輝きだす。
『終刃破』・・己の得物を破壊する禁じ手・・。
得物を失うかわり超爆発を引き寄せる・・!!
「砕!!」
気合い声とともに眩い閃光が発せられる・・、
いくら結界を張っていようがこの手には通用しないはずだ・・
「くっ・・・、なんという手段を・・・。・・まぁいいです・・今回は引き分けとしておきましょう・・」
閃光の中ヘルテイトの声が聞こえた・・
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