第2節  ロカルノ編  「悲しき依り代」


いつも私達が拠点としている教会・・・
今は私と神父だけだ。
セシルは知り合いの騎士に情報を探してもらい
クラークとキルケはその問題の魔術師ファラの墓の確認・・
私は教会に祖国ダンケルクの諜報者「草」を呼び情報を求めるつもりだ。

しかし、いつも余裕面をしているクラークがあんな顔をするとはな・・
色恋沙汰な分、私としても意外だ・・
「死者を甦らせる・・・、誰でも持ってそうな望みですが・・・・・。
正直私は感心できませんね」
礼拝堂で静かに呟く神父・・・。
ステンドグラスから穏やかな光がさしこむ・・
「私も同感だ。生があり死がある・・、だからこそ人は人を愛せるんだ・・」
「おまけに甦らせる理由は彼女の持っていた力だとしたら・・・・・、やりきれませんね」
全くだ・・・、死人に対する冒涜と言ってもいいだろう
「神父さん、死者を無理やり蘇生できることなど本当に可能なのか?」
大抵のことには知識はあるが魔術に関してはさっぱりだ。

元々、私には魔術の才がなかったからな・・・
以前風の魔術を少々かじったことがあるが・・、やはり性に合わない・・・

「形式では可能・・でしょうね。そういう秘術をいくつか聞いたことがあります・・。
がっ、それが成功した試しはないですね・・」
「成功した試しが・・ない?」
「甦らせる魂が転生して消えていてはいくら呼びかけていても答えないでしょうし、
この世に舞い降りたいと望む亡者が『依り代』にこぞって集います。
だから術を行使してもできるのは人の形をした獣・・・、
もしくは亡者により奇形化してクリ―チャ―にしかならないですよ・・・・」
・・・・・・、かつて愛していた者がそうなるのだったら・・
あいつには耐えられるのだろうか・・?
「しかしそのファラという魔術師が死んだのはかなり過去の話のはずだ。
もはや骨しか残っていないだろうが・・・」
「彼女だったもの・・、骨とか髪の毛でもいいでしょう。
それを媒体とし肉人形を作ればそれも可能でしょう。
いずれにせよかなりの知識と力は必要となります。ただの墓荒しの仕業ではありませんね」
・・・・・、やはり力を欲している術士が怪しいな。
まぁそういうのはいくらでもいるだろうが・・・・・・

「ロカルノさん、おまたせしました」
教会の扉が開きダンケルク諜報部員、通称「草」が入ってきた。
手紙を出して2日・・・、早いな
「いやっ、ご苦労だな。手紙に書いた内容についてわかったか?」
内容は蘇生術を行使できる術士を探すこと。
ただし、怪しい者に限るが・・・。ある程度高い地位を持つ司祭などは
そんな回りくどいことをしなくても他に手はある
「はいっ、一つですが興味深い話がありました・・」
「なんだ?」
「日ごろから神の降臨を願っている集団が最近不審な行動をとっているとのことです」
「神の降臨・・・、大それたことを願っているもんだな・・・・・・。
でっ?その集団は?」
「『聖ヴァルハラ騎士団』隊長ヘルテイトをはじめとする宗教騎士団です。
ただし、かなり小規模のもので神団関係者の護衛がもっぱらの仕事のようです・・」
「そのヘルテイトという男が問題なのか?」
「あっ、ヘルテイトは女性です・・・・、そうですね。騎士の前身はネクロマンサーだと
言うことも囁かれているようです」
ネクロマンサー・・、死者を操ると言われている暗黒魔術師・・・。
その存在は少なく、伝説の魔術師とされている・・・
「そうか・・、その騎士団は今どこに?」
「貿易都市ルザリアで滞在しているようです。もっともここにくる途中にはすでに
移動したようですが・・」
ルザリア・・・、セシルの行った町だ。
あいつも何かつかんだかもしれないな・・
「わかった。とりあえずその『聖ヴァルハラ騎士団』の同行を密に調べてくれ」
「わかりました。」
「それと・・・、もう一人調べてもらいたい」
「もう一人・・?」
「シグマという木こりだ。何か裏があると思う・・」
「手紙にあったクラークさんの元部下ですか?」
「そうだ。見ただけだが彼はかなりの実力がありそうだ。くれぐれも気をつけろ」
「了解しました。ではっ、これにて!」
颯爽と出ていく「草」余計な話はせず行動に全てを費やす・・
それが鍛えられた者の証ということだ・・

「・・・・どう見ます?」
聖書片手に神父は静かに聞く・・・
「おそらくはその騎士団がやったと思う・・、確証はないがな。」
「確証がないのに?」
「直感・・っというやつさ。ネクロマンサー、神の降臨、さらにルザリアからはそのファラの
墓も近いという・・・。つながっていても不思議ではない」
「・・・・なるほど」
「さて、そうとなれば私もいつでも動けるようにしなければな。
少し村に出て準備をしてくる。」
「わかりました。」
静かに外に出る。草だけでは大変だろうからこちらからも動いて情報を集めなければな


「・・・・神よ、彼の者に慈悲を・・・・」

教会の中から神父の祈り声が聞こえた・・・・・・・


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