第3節 「愚者の依頼」


荘厳な雰囲気をはなつ立派な屋敷があちらこちら建っている・・
ここいら一帯は貴族の居住区で中でも上流の階級者ばかりが住んでいる
その中でも一際目立つ屋敷がある・・、グレゴリウス邸・・
キルケ一家を異端者として訴えた貴族がこの家に住んでいる。
その屋敷の前に4人の人影が現れた。
ユトレヒト隊の面々だ。しかし貴族に会うということで身なりを整えている
クラークはいつもだらしない髪をきちんと整えており、
セシルもいつもと違って落ち着いた雰囲気を出している
この二人、黙ってさえいたら貴族とも思える容姿なのだ。
(一度気を抜いたら台無しなのだが・・)

ロカルノはいつも通りの仮面鎧姿。
キルケは素性がばれるかもしれないので
村娘姿で髪もおさげからポニーテールに変えている
「なかなか似合っているじゃないか、キルケ」
キルケの変装にクラークが茶化す
「ありがとう、でもこれでばれませんか?」
ちょっと不安そうなキルケ・・
「安心しろ、そこまで変わっていたらまずばれまい。
それとクラーク、
せっかく変装したのにお前が「キルケ」と言ってたら元も子もないだろうが・・」
ロカルノが適切なつっこみをする・・、最もだ。
「あっ・・」
キルケと呼んでしまったことに今気づくクラーク・・
「だめだめね〜、しっかりしなさいよ。」
「キルケ、これから屋敷に入るがその中で君のことと訪ねられても何もしゃべってはいけない」
「わかりました」
「お前達もそれでいいな、何かキルケのことを言われたらフォローするんだぞ?」
「「わかってるよ」」
そんなこんなで一行は屋敷の中に入っていった・・

屋敷内は異常なくらい人気が無く案内している執事も無愛想、無表情と人間味が全くない
やがて応接室らしき部屋に通される。
応接室も高価そうな置物もちらほらあるが誰が見ても「悪趣味」なものが多い
女性の銅像に儀式用の剣が刺さっている物や悪魔を描いた絵などちょっと異常な物ばかりだ

「(ヒソヒソ)・・ちょっとやばいんじゃないの?」
セシルがこらえきれずクラークに耳打ち
「(ヒソヒソ)・・我慢しろよ、こんな趣味のやつ貴族の中にはいくらでもいるだろ?」
「(ヒソヒソ)・・シッ、そこまでにしろ。くるぞ」
ロカルノが二人の小言を静止した時、重そうな扉の開け依頼主と思われる男が入ってきた。
ひょろりとした体躯でオールバック、高価そうな法衣をきていかにも嫌な男そうな外見だ

「ようこそわが屋敷に・・、私が家主で今回の依頼主のセルバンテスだ」
「はじめまして、お招きいたしまして恐縮です。私がリーダーのクラークです」
「噂はかねがね聞いているよ。早速依頼の話をしたいのだが・・いいかね?」
足を組んでえらそうな態度をとる、さすがは貴族・・・
「どうぞ」
「何、簡単なことだ。人一人連れてきてほしいのだよ」
「誘拐・・、ですか。・・・しかしその人は・・」
「もちろん、悪人だ。始末してほしいのは国教を脅かす者・・つまり異端者と呼ばれる者だ」
セルバンテスのセリフにロカルノを除く全員に緊張の表情が走る
「・・異端者に関することなら異端審問会にまかせればいいのでは?」
「何っ、彼らも色々大変でな。手が回りきらないのだよ。
それにそんなことは君たちの心配することではない。
どうかな?引き受けてもらえるかな?」
見下した表情で冷徹に言うセルバンテス
「わかりました。引き受けましょう・・。でっ、その人物は?」
「キルケゴールという若い女だ。」
その一言に当のキルケは少しうつむく。かなり恐怖を感じているようだ。
心配したセシルがそっと手を握ってやる
そんな様子に気づくわけもなく淡々と説明をしているセルバンテス
「これがその人相書きだ。そうだな?そうだなっ、そこのお嬢さんくらいの背の高さだ・・」
キルケの方を見て言う。メンバーにも緊張が走る・・!
「・・なるほど、では彼女と見比べて調べるとしましょう」
冷静を保ちつつクラークが返答、ここでばれたら元も子もない
「うむっ、できるだけ早く頼みたい。その分の報酬は約束しよう・・」
「わかりました。最善を尽くします」
その後報酬の額の話などをした後一行は屋敷を後にした。
結局セルバンテスはキルケが目の前にいることに気づいてない様であった


「やれやれ、とんでもない畜生だな」
屋敷を出た後クラークがつぶやく
「追放だけさせといて誘拐だなんて・・ちょっと異常よね。キルケ、大丈夫?」
顔色の優れないキルケに心配するセシル
「はい・・、でもこれからどうするんですか?」
「もちろん、あんなやつの依頼通りに動いたりしないよ。
あの畜生がなんでキルケを狙っているかを調べてその目論見ごとぶっ潰す」
「でもっ、それじゃあただ働きになるんじゃ・・」
キルケが心配して言う、どうやら財布の中身が寂しいことを知っているようだ
「心配しなさんな、どさくさに紛れてあの趣味の悪い置物の一つ二つ頂いて
売りさばいたら充分食っていけるさ」
人差し指をクイックイッっと曲げてクラークが言う。
この男・・盗みの腕も一級なのだ・・

「そんじゃあ行動開始と行きますか?
ロカルノはセルバンテスに関しての情報を出来る限り探ってきてくれ」
「・・わかった、それでは酒場で落合おう」
そういうとロカルノはさっさと街の人混みの中に消えていった
「そんでもってキルケ、追放してまだ狙われるってことは何かあるはずだ。
心当たりはあるかい?」
「えっ・・と、いきなり言われても・・」
さっきの出来事がよほど怖かったのか少し混乱気味の様子
「まぁ、急がなくていいよ。何か思いついたら言ってくれ。
そんじゃあ俺はキルケの家系の事について調べるとするか」
「家系ってどういうこと?クラーク」
「奴の狙いはキルケじゃなくてキルケの家系に伝わる何かかもしれないからな。
セシルはキルケの護衛を頼む。
雇ったのは俺たちだけとも限らない。それじゃ、酒場で落合おう」
「わかったわ、まかせといて。気をつけてね」
「お前もな。じゃっ、また後で・・」
そう言い残しクラークも人混みの中に消えた
・・・・・・
「じゃ、私たちは酒場に帰るとしますか。」
「あの・・?」
「んっ?何?」
「大丈夫・・ですよね。私・・」
困惑した表情のキルケ、自分が狙われているのだから無理もない
「心配いらないわよ!あいつらって見た目変だけどすご腕なんだから。
あんなバカ貴族なんてぐちゃぐちゃに丸めて燃えるゴミの日にポイ、っよ!」
「・・ありがとう、セシルさん」
少し微笑みキルケが言う
「礼なら事がすんでからにしましょ!じゃ、酒場へレッツゴ〜」
キルケと手をつなぎながら歩きだすセシル。
女二人が手をつなぎさらにそのうち一人が
騎士風の女ということもあってかなり目立っていた・・・


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