第2節 「異端者と雑技団」


キルケのその一言にその場にいた者(クラークを除く)の顔が一瞬こわばる・・

異端者
王国の国教に反する異教の者。
異端審問会によりそれは判断され異端者とされれば軽くて国外永久追放。
悪ければ処刑、しかも火あぶり・・・
しかも異端者を保護した者も同罪とされるのでタチが悪い。
本来国教を守るためこのようなことをしていたらしいのだが貴族階級の堕落により
最近は政敵を陥れる手段として使っているという噂もちらほらと・・

「なあ?異端者って・・何?」
政治事に疎いクラークが唸る
「まぁ・・、国家反逆者みたいなもんさ」
仲間内での知能系であるロカルノはこの手の情報はかなり詳しい。
「しかし君のような少女まで審問会は異端扱いするか・・。いくらなんでもやりすぎだな」
「でっ、どうして異端者にされたのかしら?」
「元々私の家系この国の出身で国教を信仰する普通の信者でした・・
でもある日突然僧兵に捕まり家族みんな異端者とされたんです・・」
その時の光景が思いださているのか少し涙ぐんでいる
「明らかに冤罪だなっ?大方、どこぞの貴族が権力ほしさに陥れたのだろう。
察するに君の両親は政界に顔を出せるくらい地位のある人間だな」
こういう痛ましい話でもロカルノは常にクール。
実際彼が慌てたところを見た者はほとんどいない
「はい・・、父は国の中でもかなりの地位を持っていたようです・・」
「それで、親御さんはどうなったの?」
「父も母も処刑されました・・、私は幸い国外追放だけで済みましてそれで・・」
「この村に着たってわけか」
難しい顔をしてまたしてもクラークが呟く、ほんとに理解しているのやら
「はい・・。村に着いた途端あの男の人たちに捕まって・・」
「そこをこのロクデナシが助けたってわけね。若いのに大変ね〜」
「ロクデナシは余計だ!」
セシルの発言にクラークが蹴りで反撃したが避わされすぐ返り討ちに合っている・・

「しかしその身の上ではあまり自由に動けまい。それにこれから行くあてはあるのかい?」
仲間二人の乱闘を完全無視してロカルノが訪ねる。
こういう時、彼は決して仲裁にはいらない・・
「いえ・・、どこにも行くところがありません・・・、あっても迷惑かけてしまいますし」
「そうか・・・」
「あの、みなさん冒険者・・ですよね?」
「ああっ、そうだ。私達はチームを組んでいて一応そこの半殺しに合っている奴がリーダーだ」
セシルVSクラークの無制限一本勝負はセシルの圧倒的有利でほぼリンチ状態・・
ロカルノが指さした時にはクラークは見るも無惨な姿に・・
本当はクラークの方が実力は上なのだがクラークには女を傷つけないという信念があり
終始防戦。軽く反撃はするが焼け石に水状態である・・
それだったらやめときゃいいのに・・
「あの・・、私も一緒に連れて行ってくれませんか?
なんでもしますから!お願いします!!」
突然の申し入れにクラークとセシルの死合は中断。
「仲間になりたいってことかな?君は何かできることある?」
「治癒魔法と浄化術ならできます。後攻撃魔法も少々・・」
「ふぅん、ならいいんじゃないの?」
意外にもあっさり答えるクラーク
「クラーク、そんなに簡単に決めれることじゃない。
異端者に協力した者も同罪になるんだぞ?」
「ロカルノ〜、女の子が困っているのにほったらかしにできるのか?
それに俺、もうこの子を一回助けちゃったからすでに協力者になるんじゃないの?」
事もなく言ってのける・・、この男は不安や恐怖などはあまり感じない。
「まぁそれもそうだが・・色々面倒なことになるぞ?」
「なんとかなるって。それに仲間は大勢いたほうがいいだろ?セシルはどう思う?」
自分に馬乗りになっている女に訪ねる・・
「う〜ん、いいんじゃない?
治癒魔法が使える子なんて貴重なんだしその子連れて行かなくても
あなたがいれば充分トラブルに巻き込まれるし」
意外にあっけらかんな反応するセシル。
彼女も物事を深く考えないタイプ・・・

「やれやれ、この二人がそういうなら私も異論はない、言っても無駄だしな」
「そういうこと、というわけで一緒にきてもいいよ、キルケ」
「あっ、ありがとうございます!みなさん!」
思わず涙ぐむキルケ、その姿は妙にかわいい・・
「ようし、そうと決まれば新しい仲間を祝して宴会といきませう!!」
「「これ以上ツケを増やすな!」」
二人の息のあったつっこみ攻撃でクラーク失神・・
それを見たキルケも出会ってから初めての笑顔を見せた・・
こうして冒険者達の夜は更けていく・・・

翌朝、新参者のために全員改めて自己紹介。
 クラーク=ユトレヒト
チームのリーダー。剣術と体術の腕は達人級で魔法にも多少心得をもつ万能戦士。
物事を深く考えない呑気な性格だが意外にしっかりしておりメンバーを引っ張っている。
傭兵出身だが今は冒険者として活躍中。
因みに傭兵時代には一部隊を指揮していた重い装備は滅多に使わない
機動性重視のスタイルで下は革の特殊強化ズボン(鉄線仕込み)
上は赤いシャツに薄緑のロングコートという格好で
両手首にはフルメタル製の篭手をつけている。
見た目は丸眼鏡をいつもしてちょっと髪の長めな優男。背はやや高い方か・・
そしてなによりもかなりのトラブルメーカー、言い換えたら「歩く災難」(セシル談)
東の島国で造られたという刀「紫電」を扱いかなりの戦果をあげてきた
 
 セシル=ローズ
チームのムードメーカー。元王国騎士の経歴を持ちかなりの剣の腕を持つ魔法戦士
性格はちょっと短気だが思いやりのある。
曲がったことが大嫌いな「実に男らしい女」(クラーク談)
騎士団を辞めても青い巡礼服の上にプレートアーマー、ガントレット、メタルブーツを装備した
格好をしている。騎士風の格好だがこれは彼女のこだわり。
長い金髪を密かな自慢としておりなかなかの美女なのだが性格に難があるため
言い寄る男は全て半殺しになっている。
獲物はフェンリルの牙から作られたと継承されている氷雪の魔剣「氷狼刹」

 ロカルノ(本名不明、ロカルノは通称)
チームの諜報担当。本名から経歴にいたるまで謎に包まれている。
頭が切れるが槍の扱いにも優れている
クールでドライな性格で何があっても動じない図太さも持ち合わせている
フォートレスと呼ばれる重装鎧を愛用、しかも顔には目元を覆う仮面をいつもしている
戦闘時にはその重装備を売りとし攻撃に耐えワンチャンスに賭けるという
シビアな戦い方を好む
かなりの人嫌い(しかし隠れフェミニスト)なのだがメンバーとは不思議と馬が合い
居心地がいいようだ。特殊合金使用の特注槍「戦女」を愛用している

 キルケゴール=サルトル
新参メンバー。優秀なエクソシストの家系の少女。
本人も強力な魔力を持っており治癒魔法等でチームを援護する役割である
穏やかな性格でくせ者揃いのメンバーの中では一番まともな人物
見た目はいつも黒いケープを着ており金髪のおさげをしているのが
特徴のかわいらしい女の子

「みなさんってここ一帯では一番の冒険者チームだったんですね!」
自己紹介にしきりに驚くキルケ。
この事に関しては世間知らずのキルケじゃなくてもみんな驚く。
なんせリーダーがひ弱そうな優男だしメンバーも金髪の男女(おとこおんな)に怪しい仮面の
男なんだから誰が見ても雑伎団状態・・
「そんなに驚くことないわよ〜。周りが大したことないだけよ」
「・・大した自信だな、おい」
自信満々で笑うセシルにクラークも呆れ気味・・
「それで、何かチームに名前とかあるのですか?」
グループで行動したことのないのか、なんだかキルケは楽しそう
「ん〜?3人だけだったから特に名前とかはないよ?面白そうだからこれを機につけよっか?」
「ふむっ、それなら「トレンディー仮面」なんかいいんじゃないか?」
真面目な顔(っと言っても仮面しているのでわからないが)でロカルノが提案する
「却下、っうか仮面しているのはお前だけだろ!」
「じゃあ「セシル様と不愉快な下僕達」っていうのはどう?」
「「却下」」
クラーク&ロカルノが即答で拒否、当然か・・・
「なによ、二人して・・(イジイジ・・)」
「う〜ん、ネーミングもなかなか難しいな。キルケは何かある?」
「そうですね〜、クラークさんはユトレヒトって性でしたよね?」
「うん?そだよ?」
「じゃあクラークさんがリーダーということで「ユトレヒト隊」っていうのは・・どうです?」
「「ユトレヒト隊」か・・、いいね、俺は賛成だ。そこのネームセンス0の二人は?」
「ネームセンス0って言うな、私はそれでも構わない。元々名前などおまけのようなものだしな」
「私も別にいいわよ、でもいつか必ず「セシル様と不愉快な下僕達」に
変えてやるんだから!!(ビシッ!)」
クラークに指さして高々と宣言する、まぁ実現はしないだろうが・・
「諦めろよ、自分至上主義な女(汗)じゃあ「ユトレヒト隊」に決定!」
チームの名前決めに盛り上がっている一行を見てマスターは今日もため息をついている・・

その時、店のドアが開きいかにも貴族って感じの中年男性が入ってきた。
「いらっしゃい、何にしますか?」
「いやっ、残念だが飲食にきたわけじゃない。
この店に腕の立つ冒険者がいると聞いてきたんだが・」
「ああっ、それならそこで騒いでいる4人組だよ。用があるなら直接奴らに言ってくれ」
「わかった・・」
呑気に朝食をとっているユトレヒト隊に中年貴族が近づく
「失礼、君たちが腕がたつという冒険者達かな?」
「まぁ、そういわれることもあるけど、何の用なのかな?」
こんな田舎の村には不釣り合いな中年貴族を目の前にしてもクラークは
顔色一つ変えずに応対している
「君たちに一つ依頼したいことがある。」
「ふぅん、あんたが依頼主かい?」
「いや、違う。依頼主はグレゴリウス家のとあるお方だ」
グレゴリウスという名前が出たときキルケがひどく怯えた表情をしたのを
クラークは見逃さなかった
「ふぅん、わかった。貴族様の依頼なんて滅多にないからな。引き受けるよ」
「そうか、ありがたい。報酬や依頼内容は直接依頼主にあって聞いてもらいたい。
これがその地図だ」
「わかった、こいつだな」
「確かに渡したぞ、では私はこれで・・」
そう言うと中年貴族はそそくさと店から出ていった

「・・さてっ、そのグレなんとかってとことなにか関わりがあるの?キルケ?」
どうやら他の二人もキルケの異常に気づいていたようだ
「はい・・、私達家族を異端者として訴えたのがグレゴリウス家なのです・・」
「ほう、これは奇妙な偶然だな・・、どうするんだ?クラーク?」
「とりあえず受けるよ、貴族の依頼となれば報酬もガッポガッポだろうし。
それに依頼内容もキルケと関わりがある内容の可能性が高い。
俺たちが受けた方がいいだろう。キルケ、これでいいかな?」
「はい・・」
「安心しろ、機会が合ったらその貴族ぶん殴ってやる」
「ありがとう、クラークさん」
邪な計画に少し微笑むキルケ、少し落ち着いたようだ
「ようし!じゃあ早速依頼主に会いに行きましょ!!」
どうやらセシルもやる気満々(貴族を殴ることに関して)
「お前達、まずは準備してからだろ。・・・やれやれ」
先急ぐ面々をなだめるロカルノ、彼がいるからこそこのチームが「殺戮部隊」にならずに
済んでいると言っても過言ではない・・


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