第1節  「黒い少女」



「はい〜、まいどね。またどうぞ」
ちょび髭を生やした店の店員が紙袋に入った食材をクラークに渡す。
「はいよっ、うわっ、結構重いな・・」
マスターにお使いを頼まれたことをちょっと後悔しながら表通りに出た。

表通りは夕時ということもありあまり人通りがない・・
っと言ってもこの村には混み合うほど賑やかになることはないのだが・・
「は〜、ツケもたまっているしなんでもいいから仕事ないかな〜。
おつかいしているなんてことがセシルに知られたら半殺し決定だな・・・」
ぼやきながら歩いていると前方から黒いケープを被った少女と二人組のチンピラが
こちらに向かって走ってきている

「彼女〜、おれっちたちといいことしよ〜よ〜」
バカ丸出しでチンピラAが追っかけている。見ただけですぐわかるくらい酔っている
「いやっ、やめてください!!」
誰だって呆れるような口説き方だが少女にはそれどころじゃないようだ。
(トラブルはごめんだけど見逃すわけにもいかない・・・か。ちっ)
心の中で軽く舌打ちをし、チンピラのいる方に歩いていく
「おいっ、そこのバカ丸出しのチンピラーズ!!」
「「んっ?んっ?なんだてめ〜は?」」
予想外のとこから声がしたので驚くチンピラ〜ズ
「ん〜、残念だけど君達のようなお馬鹿さんに名乗る名はないんだよ、
怪我したくなければとっとと失せちゃいなさい(ボキボキ)」
「「なんだとっ!!てめ〜〜!!!」」
余裕面で指を鳴らすクラークに顔を真っ赤にして襲いかかるチンピラ〜ズ。
そして・・・  

 バキッ!!ドコッ!!!

「「覚えてやがれーーー!!」」
クラークの軽い一撃で数メートル吹っ飛ばされ
そのままお約束的な発言をし、去っていく・・
「全く、ああいうバカはどこにでもいるもんだな・・おいっ、お嬢さん。大丈夫かい?」
少女はクラークの高速の攻撃に唖然としている
「お〜い、お嬢さん?」
「あっ、危ないところをありがとうございます!」
「ああっ、別にいいよ。それより気をつけなよ?
ここら辺で女の子が一人歩きするのはちょいと無謀だよ?」
少女は話を聞いている様子でもなく疲れて果てている
「本当に、ありがとう・・ございま・・す(バタッ)」
「おっ、おい?いきなりもたれかかるなよ!?それ以前に人の話はちゃんと聞けよ!」
「Zzz・・・、Zzz・・・」
安心したのか少女はクラークの声に全く反応しなく眠りこけている
「・・ったく、近頃の若い者は話をちゃんと聞きやしない!」
このまま少女を置いて行こうか考えたがさすがにそんなこともできず、
かといって近くにこの子を預ける場所もない。
マスターのお使いも早いとこ済まさいといけないのでクラークも少々焦っている
「・・ったくしょうがないな、ひとまずマスターのとこに連れてってやるか・・」
ひとまず少女を肩に担ぎ酒場に戻ることにするクラーク
しかし第三者が見たら明らかに「人さらいの図」である。
「あ〜あ、なんかいいことないかな〜」
そうぼやいているクラークをよそに少女は穏やかな寝息を立てている・・



その頃、酒場

「でっ、クラークは仕事がないからお使いに行ったってわけね・・・・・」
眉間にしわをよせて金髪の女騎士セシル=ローズが呟いた。
仕事が終ったばかりなのか軽装の鎧を着たままだ
だが声のトーンからしてかんなり機嫌が悪いようである。
「まぁ、あいつらしいといえばあいつらしいか」
セシルと真向かいの席に座っている目元を覆う仮面を被った男がニヒルに笑っている
「ロカルノ〜、あなたはほんと動じないわね。あいつは私たちが働いている間に
さぼっていたようなもんなのよ!!?リーダーのくせして!」
「落ち着けっ、おつかいも立派な仕事だぞ?
それにおつかいだなんてあいつにお似合いじゃないか」
嫌みをいいながら仮面の男ロカルノがセシルをなだめている
そこへ・・・

「ただいま〜、マスター頼まれた物買ってきたよ〜♪」
呑気な声を出し少女と紙袋を担いだクラークが帰ってきた
セシルの背中から赤い闘気がでているのは気のせいか・・?
「ごくろうさん、しかし、メモにはそんな少女って書いてなかったはずだが・・・・
どうしたんだ?」
「ああっ、これは・・・・んっ!?」
クラークが訳を説明しようとした時、背後から凄まじい殺気を放つセシルが飛びかかった
「あなたは〜!!私達が働いている間にこんな女の子をかどかわしたのか〜!!!」
どうやらセシルはクラークが少女を攫ってきたと誤解している模様
「えっ?セシル、違うって!やめろ!いあああぁぁぁぁーーー!!」
セシル入魂の空中キリモミキックが決まりそのままマウントポジションへ・・
地獄絵図のはじまりはじまり〜・・


「・・・・・という訳なんだ・・(ピクピク)」
顔面に半殺しの跡を残しながらクラークが説明している
しかし半殺しの原因になった黒いケープの少女はあれだけの騒ぎにもかかわらず
眠りこけている、ある意味大したものだ・・
数名いた酒場の客もセシルの暴行を見て逃げ出しており
カウンターではマスターが胃薬を飲んでいる・・
「そういうことだったの、だったらちゃんと説明してくれたら手を上げたりしないのに・・」
「説明する前に飛びかかってきたのはどこの誰なんだよ!」
「・・過ぎたことは気にしない気にしない」
クラークが憤怒しているのに対し
セシルは気に止めることもなく手をひらひらしてそう応対した
「この女ぁ・・・・」
「おいおい。それよりクラーク、結局この少女を連れてきてどうするつもりなんだ?」
クラークとセシルのやりとりを呆れるように見ながらロカルノが尋ねる
「どうするったってな〜、放って置く訳にもいかないからとりあえず連れてきたんだけど・・
どうしよう?ロカルノ?」
「私に聞くな、しかしその子、なにやら訳ありという感じだな」
「そうよね〜、こんな治安の悪い村に一人でいるなんてどうかしてるわ」

クラーク達のいる村はどちらかというと治安が悪い。
王国からだいぶ離れているのに加えて本来治安を守る王国騎士団も
近頃貴族のボンボンが隊長になったとかで堕落の一途をたどっている。
この村に駐在している騎士も新兵に毛が生えた程度の腕なのだ
そういう事情もあるためこの近辺の村の店主などは自衛手段に冒険者などを雇っている。
かくいうクラーク達も酒場のマスターに雇われて半分寄生する形で厄介になっている・・
もちろん酒場を守ることが最低限の契約でその他のことはマスターは面倒を見ない。
だから冒険者は他の仕事で生計を立てている・・
例えばおつかいに行ったりとか
「はぁ〜、あなたってほんとにトラブルメーカーよね〜」
「そういう星の下に産れたのかな?・・おっと、眠れるお姫様が目を覚ますみたいだぞ?」
椅子を並べたベットに寝かしている少女がちょっとうめきながら目を覚ました・・
「う・・・ん、あれっ、ここは・・?私・・・?」
今自分のいる状態がわからないようであたりを見渡しいる・・
「目が覚めたかい?お嬢さん。ここは俺が世話になっている酒場だよ、安心しな」
「あっ、あなたは!?」
「俺はクラーク、冒険者さ。君は村の表通りで気を失ったんだよ。
仕方ないからここに連れてきたってわけ」
「そうだったのですか・・、ありがとうございます」
深々とお辞儀をしてお礼を言う少女。その礼儀正しさに一同唖然としている
「でっ、あなたはあんなところで何していたの?」
「あのっ、あなた方は・・?」
「ああっ、このいかにも凶暴そうな女とそこの変態仮面は俺の仲間さ」
「「殺すぞ」」
クラークの脚色込みの紹介に二人が殺気立つ。
「まぁまぁ、でっ、この女がセシル。こっちの仮面がロカルノだ。ところでお嬢さんの名前は?」
「キルケです。キルケゴール=サルトル」
少女・・キルケが言った。発言に少しためらいが感じられる・・
「キルケか、よろしく。さっきセシルが聞いたのだがなぜあそこにいたのか
私たちに説明してくれるかな?」
ロカルノが珍しく優しい口調で訪ねる。この男、大の人嫌いで有名なのだ
「はっ、はい・・。でも・・・」
「心配しなくていいよ、聞いたからって別にどうこうするわけじゃない。
ただ俺たちにとっては君のような女の子があんな場所に一人でいるのが珍しくてね、
興味が湧いたって訳さ」
「わかりました。助けてもらいましたし、このまま何も言わないのも失礼ですね・・」
「そうそう、遠慮なく言っちゃいなさいよ♪」
セシルも興味津々の様子・・
「驚かずに聞いてください・・」
すこし強張った顔でキルケが口を開く・・


「私・・異端者なのです・・」

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