第2節  「城塞都市カストロス」


野盗に襲われた地点から北に進むこと一刻・・・
かなり離れていてもその存在が確認できるほどの巨大な城塞が建っている・・。
これが城塞都市と言われている草原の街カストロスだ
かつてこの一帯を支配していた遊牧民族がやがて天候の変化などで1箇所に
集まるようになり、作られたと言われている。
それ故、乗馬を得意とする彼らの貿易はたちまち発展し、穏やかな気候も手伝い
急速に発展していった。
今では区画整理されるほど発展し、農業区と商業区が大きく別れている・・・

「へぇ〜、城壁の外とは大違いだな〜」
周りを見渡すアル・・、彼ははじめての町なら例外なくこうしている
「城塞都市カストロス・・、噂以上の発展ですね。でも・・、表が発展したら裏も発展するもの、
むやみに人気のないとこに行くのは慎んでくださいね」
「わかっているよ、レイブンももうちょっと楽しんで旅しない?」
「あなたの能天気に付き合っていたら楽しむ余裕もありませんよ・・・・」
ため息まじりのレイブン・・、
本来彼らの旅は楽しむものではないのだが・・・・
「まぁまぁ、とにかく広場に行って見ようよ?」
露天で魚の形をした変わった饅頭を買い、広場に向かうアル・・・・
日が照ってはいたが、空の彼方には少し雨雲がたちこめている、
しかしそれに気づくものはいなかった

・・・・・・
広場は農業区と商業区の狭間にあり、この街一番のにぎわいだ。
中央に大きな噴水があり、なにやら銅像が建っている・・・
あれやこれや見ているうちに首が疲れてきたのでベンチで休憩することにした。
「いや、これが草原の中の街とは思えないね・・」
「そうですね、小国の首都に匹敵する賑わいですよ」
確かに周りには人が溢れている・・
「この穏やかな気候が作物の豊作を産み、街の発展につながったんだね〜。
でも草原で作物って育つの?」
「本来は育たないですが・・、この一帯なにやら地殻の変動があったようですね。
地形が変われば気候も変わる・・というわけですよ」
「さすがはレイブン、物知りだね。」
世間話をする二人・・、だが第3者が見ればアルが一人で話しているようだ。
そのことでよくアルは変人に見られるが彼は全く気にしない

しかしレイブンが話をしているのを興味深く見ている女性がいた・・
黒くて長い髪が特徴で中々の美人だ
その女性はアルに近づいてくる・・・
「あの・・、すみません・・」
女性がアルに話しかける
「えっ、僕?」
いきなり声をかけられいささか驚くアル
「はい・・、ちょっとおたずねしたいことがあるのですが・・」
「はぁ・・、どうぞ。」
訳のわからないまま、ベンチの席をあけるアル、女性はちょこんと座った。
「私はこの街に住んでいるセリアと言います。」
「あっ、僕はアルです」
「あの、こちらの羊のぬいぐるみ・・しゃべっていましたよ・・ね?」
「えっ、ああ、そうだよ。彼女はレイブン。元天使だよ」
「レイブンです。私に何か・・?」
淡々と話すレイブン、ジロジロ見られているのでいささか気にさわるようだ・・
「そうですか・・、あの、いきなりで失礼なんですが・・。黒い猟犬を見ませんでしたか?」
セリアのその一言に顔を合わせる二人
「ああっ、街の外で・・猟犬を見たけど・・どうしたの?」
「そうですか、あの・・・あなたの連れではないのです・・ね?」
「んっ?そうだけど・・・」
「とりあえずそれを聞く訳を説明してくれませんか?どう言えばいいのかわからないですし」
要領を得ないのでレイブンが訪ねる
「あっ、はい。実は・・・・・・・・」
彼女は静かに説明し始めた。

彼女は3日前の深夜にあやまって裏通りに入ってしまい、ゴロツキに襲われかかったそうだ
その時、誰かに助けてもらったが暗くてよくわからなかった。ただ月明かりがさした時に
黒い猟犬を見かけたのでもしかしてと思ってその日から猟犬を探しているらしい。
そして今日、羊のぬいぐるみに話をしている変人・・を見つけ、
関わりがあると思い声をかけたそうだ・・・

「そうだったんだ、あの猟犬がね〜」
「私達が見た猟犬とあなたを助けた猟犬は恐らく別物でしょう」
「えっ?」
ほぼ断定するような口調のレイブン
「私達が見た猟犬は、間違いなく悪魔が変身したものです。
悪魔が人を助ける・・・聞いたことのない話ですよ」
堕天使が悪魔を語る・・、珍しい光景だ。
「そうですか・・、ではまた見かけたら連絡をくれませんか?あの方(?)にお礼をしたいし・・」
「ああっ、僕達がこの街にいる時点で見つけたならそうするよ?君は・・」
「宿屋で働いています。商業地区のこの地点にあります」
目の前にあった街の案内看板を見て説明する。
「うん、わかった。それじゃあ見かけたら連絡するよ」
「ありがとうございます。では私はこれで・・・!」
深くおじぎをしてセリアは立ち去った・・・・・・

・・・・・
「また・・・、面倒事に巻き込まれましたね・・・・」
レイブンが呆れ口調で言う・・・・
「まぁ見かけたら・・だよ。どう思う?」
「悪魔が人を助けるなどと前代未聞ですよ?」
「でもあの黒い猟犬は僕達を助けたようだったけど・・」
「・・・あれは偶然かもしれません・・」
悩むレイブン・・、さすが元天使、悪魔が嫌いのようだ
「まっ、興味あるから見つけたらその時・・だよ」
「そうですね、じゃあそろそろ行きましょう。何か予定は?」
「そうだな、この短弓もすこし調子が悪いから武器屋で修復しようかな?じゃ、行こう!」
ベンチを立ち、武器屋に向かうアルとレイブン。
もはや悪魔の猟犬のことは忘れかけている・・・
しかしこの後彼らはまた猟犬と出会うことになる・・・・・・・


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