第1節 「風を切る者」
地平線の果てまで見えそうな見渡す限りの平原。
太陽の光もサンサンをしており、絶好の陽気だ。
暖かい風が草を躍らせている・・・
その平原の中にある街道・・、
行き交う人々もほとんどいなく、歩いているのは一人の男だけだ。
緑色の長髪でリジットレザージャケット、旅人が愛用する丈夫な黒革のズボン。
背中に短めの弓を背負い腰には木の杖らしきものを下げている・・
そして何故か肩には羊のぬいぐるみが・・・
「良い天気ですね、絶好の旅日和といったとこですか」
肩の羊のぬいぐるみが呟く。
羊の名はレイブン。天界を追放された経歴をもつ堕天使だ。どういう訳か彼女は
羊のぬいぐるみに憑依し旅をしている
「天気がいいのは嬉しいけど・・、街道に誰もいないのは不安だよ。この道あっているよね?」
肩のレイブンに訪ねる緑髪の男。
彼の名はアルフォード=マルタ。
自由気ままに旅をしている男だ。エルフと人間のハーフなのだが外面的には人間の血が
濃いようで普通の人間と変わらない・・・
エルフの血は内面的に引き継がれているようで、天性の弓の腕や敏捷性などが人間の
持つ能力とはかけ離れている。
「アル・・、愚問ですよ。あなたが変な寄り道をしなければ迷うことなど『絶対!!』ありません」
絶対というセリフを強調するレイブン。っというのもアルは方向音痴のケがあり
レイブンの案内を勘違いして幾度となく迷子になっていたのだ
「うっ!自信たっぷりだね・・・」
「だいたいここは街道ですよ?そのまま歩いていたら嫌でも町につきますよ」
正論である。見渡す限りの平原に一本伸びる道・・、旅人ならどうやっても
迷うことはないだろう・・
「は〜、それもそだね・・・。今度の町はまともなとこがいいな〜」
以前訪れた町で変質者風の男(?)に追っかけられて以来
このごろアルは寝つきが悪いのだ
「あれは異例中の異例ですよ。そんなに心配しなくても・・んっ?」
ふぃに会話を止めるレイブン
「・・・追い剥ぎ、かな?レイブン、何人いる?」
近くの草むらから気配を感じ取るアル、すぐさまレイブンに人数を確認した
「・・6人ですね」
「・・大所帯だね、さっ、隠れてないで出てきなよ?もうばれているよ?」
付近にアルがそう声をかける。しばらくして野盗風の男達がぞろぞろ出てきた・・
人数はレイブンの言ったとおり6人だ
「へっ、ばれたらしょうがねぇ。兄ちゃん、金目の物をだしな!」
ショートソードをかざし脅す野盗さん・・、他の5人はにやけている
「なんというか・・・、こういう類の人ってどうして言うことがみんな同じなんだろうね?」
呆れ口調のアル、6対1なのに平然としている・・
「そうですね、思考能力が陳腐なのでしょう」
アルの質問に軽く答えるレイブン、なかなかの毒舌だ・・
「ってめえら!!」
その二人(?)の応対にキレる野盗、一斉に襲いかかろうとする。
アルも素早く構える、ただし弓も木の杖も手にとっていない。
徒手空拳で戦おうというのだ。
その時
「野盗の後方からさらに熱源・・・これは・・?」
レイブンが状況をアルに報告していると
一匹の猟犬が天高く飛びあがり野盗達に襲いかかる
「なっ、なんだ!この犬は!殺っちまえ!」
突然の襲撃にうろたえる野盗達、猟犬を斬り殺そうするがかすりもしない
「・・すごいワンコだな、レイブン」
野盗達はもはや猟犬の相手に必死でアルはやることがなくなった・・
「・・・・・・・・」
レイブンはアルに応えず静かに猟犬を見ている
やがて6人いた野盗は全て倒された。どれも首筋を噛まれて出血しているが
急所を外しているのがわかる。動脈を掻っ切っていればもっと勢いよく血が噴射するからだ
猟犬は倒れた野盗を尻目にアルの方を向く
「次は僕・・かな?」
只者ではない猟犬の腕を見て腰の木の杖に手をかける。
これは刃が仕込んである「仕込み刀」といわれるもので
刃も斬鉄剣と言われる業物の一種だ・・
「・・・・・」
しかし猟犬は襲う気配もなく草むらに消えて行った・・・
・・・・
「?、変わったワンコだな?」
猟犬が入って行った草むらを見つつアルが呟く
「いや、あれは犬ではありません」
無口になっていたレイブンが話し出す
「ん?じゃあ狼?」
「あれは・・・、悪魔です」
静かに呟く・・。
暖かい風が穏やかに吹くなか、レイブンは草むらを静かに見やった・・・・・
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