第6節  「さようならの向こう側」


アルがキメラと戦っている時、
レイブンはガレキをくぐりぬけ詰所に急いでいた。
怪我を負ったキースの救助のためだ。あの状態ですぐキメラを仕留めたとしても
ガレキを除けて医者に治療してもらっていてはおそらく命はないだろう・・
だから霊体に近いレイブンに一足先に向かわせたのだ・・
「・・急がないと・・・」
キメラのことも気になるのでレイブンも少し焦っていた・・
っと・・
「おやおや、これは珍しい。天使か・・・」
ふいに地下の暗闇から声が聞こえた
「誰です・・・・?」
レイブンが付近を警戒する・・、しかしどこにも熱源を感知できない・・
「ここの主だよ・・・」
そう言いゆっくり姿を現す・・、その正体はすでにゾンビになった男性だった・・
生命が絶えているのなら熱もないので感知が難しい・・
(アンデッド・・、まずい・・)
彼女が心の中でかなり動揺している。彼女には戦闘能力は全くない
羊のぬいぐるみから離脱したのも敵があのキメラ一体だけだと思ってこそ
やったのだ・・
アンデットとはいわば精神体が無理やり物質に憑依したもの、
それ故霊体も触ることができる。
つまりレイブンの存在を消すことも可能なのだ・・、
彼女もそのことはわきまえている
「実に面白い実験材料だ。君を新しい身体に組み込めばさらに傑作が生まれる・・」
「・・・・どうやらキメラを作ったのはあなたのようですね」
「いかにも、君達もバカだな。私の研究の邪魔をしなければ死なずにすんだものを・・」
「私達も仕事でしてね・・」
精一杯強がってみせるレイブン・・
「ふふふっ、まぁいい。それでは君の魂を頂こうか。その後は閉じ込めたあの2匹だ・・」
ゆっくりとレイブンに近づくゾンビ・・、
しかしレイブンに対抗する術は・・ない
「くっ・・こないで・・」
弱々しくうめくレイブン・・、
その時
フッ・・・
ふぃに周囲が明るくなりレイブンの目の前に
ウェーブのかかった金髪の男が立っていた・・
その金髪の男を見てレイブンが目を見張る・・
「アレス・・・あなた・・なの・・?」
そう、この男こそレイブンが愛したたった一人の男、アレス・・の魂だ。
アレスの魂ははゆっくりとゾンビに近づく・・
「ふん、浮ばれないモノか。邪魔だ」
ゾンビがアレスを切り裂こうとする・・、しかしそれは空を斬るだけで効果がなかった・・
「!?バカな、私は人を超えた種なのだぞ!霊体如き斬れぬはずがない!!」
何度も腕を振り回すが効果はない。やがてアレスの魂がゾンビの首をつかんだ・・
そして・・
「あ・・ごぁ・・・・・」
シュゥゥゥゥっという音を立てて骨になっていくゾンビ・・。
「ごぉ・・・・が・・・・」
やがて何もなかったのように骨は地面に埋もれた・・・・・

アレスの魂はレイブンを守ったのだ

その光景を呆然と見つめるレイブン・・
「アレス・・どうして・・?」
アレスの魂はゆっくりと振り向きレイブンに微笑みかけた・・・
そして
「レ・・・、あ・・とう」
口を動かして何か言っている・・しかし魂だけの存在である彼には発声することはできず
唇の動きだけで判断するしかなかった。
やがてアレスの魂も霧が晴れるように消えていく・・、
依然微笑んだままで・・・
「待って!アレス!!」
レイブンの叫びも空しく最愛の人の魂は消えていった、
しばらくその場に立ち尽くすレイブン、頬には涙が伝っている・・、
口では伝わらなかったがアレスの言葉を彼女の心にしっかり届いたようだった
例え、死に別れていても想いは続く・・、
・・・・・さよならの向こう側は存在するのだ・・・・・・
彼女は我に帰り詰所へと急ぎ始めた・・


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