第2節  「朝焼けの広場にて」


翌日・・
空が白くなり始めた時間にアルはすでに起きていた。
彼はいつも早起きで朝の鍛錬を欠かさない・・
「ヒックシ!う〜、海が近いと朝は冷えるな〜」
準備運動しながらぼやくアル。シャツにズボンだけのラフな格好だ
「そのくらいは常識ですよ。でも潮風が気持ちいいじゃないですか」
いつもよりはご機嫌なレイブン。っというのも身体(?)を丹念に洗ったからだ。
この羊のぬいぐるみも魔物の返り血を浴びたりしていて結構汚れていたのだ
「潮風なんて感じることできるの?」
「・・ほっといてください」
いつものようなやり取りをしていると
「おはよう、早いな。アル」
っとフロスの声がした
「おはようございます、フロス副隊長も朝鍛錬ですか?」
「まぁな、習慣というものはなかなか忘れられないものだな」
傭兵時代から彼らは朝早くの鍛錬を続けている、生きるか死ぬかの世界だから
少しでも腕を磨いておきたいという気持ちの現われなのだろう・・
「・・こいつが団長のお気に入りですか?」
フロスの後ろから男が出てきた。短い赤髪が特徴の小柄な男で見ただけで
「熱血系」だとわかる。なにやら不機嫌そうだ・・
「?、こちら様は?」
アルも不思議そうな顔をする。
「ああっ、紹介しておこう。彼はキース=ラクレイン。
うちの期待のホープってやつだ。キース、こちらがアルだ」
「そうだったんですか、僕はアル、よろしく」
爽やかに手を差し出すがキースはそれを叩いた
「俺はお前と友達になるつもりはないぜ。団長の知り合いかどうか知らないけど
この騎士団では力が全てなんだ。いくら客とは言えでかい態度をとると承知しないぜ?」
どうやら昨日フロスと談笑していたのが気に入らないみたいだ
「あらら、じゃあ力があるんなら副隊長と話してもいいってことかな?」
「へぇ、やろうってのか?」
見下すように笑うキース
「おい・・」
フロスが静止に入ろうとするがすでにキースは殺気だっているので無駄だと判断した
「ふぅ、アル、すまないが相手にしてやってくれないか?」
「いいですよ、鍛錬代わりにはちょうどいいですし」
笑いながらアル、それを見てキース君さらに逆上・・
「上等だぁ!!」
こうして二人は成り行きで手合わせをすることになった・・

早朝の広場・・、
港のほうは漁船が沢山停泊しており魚の積み下ろしで賑わっているが
広場はまだひっそりとしている。太陽も昇って日が照ってきた
朝焼けだ・・
そこに3人の男が立っていた。アル、キース、フロスの3人である。
フロスが審判として見守ることになり冷静に二人を見ている。
レイブンもフロスの肩に乗って呆れたように見ている
キースは愛用しているクレイモアを構え殺気だっている。
アルは・・いつも通りで仕込み刀の斬鉄剣「無銘」を抜き自然体で構えている
「腕の一本二本は覚悟しているだろうな!ひ弱な兄ちゃんよ!」
「アルだよ、息巻いてないでさっさとくればいいさ」
その一言でキース君プッツン、勢い任せに斬りかかる。
しかし
「その程度の攻撃!当たらないよ!」
大ぶりの一撃をかいくぐるように避けるアル、彼は接近戦は不得意なのだがそれでも
数多くの戦場を経験しているためキースとは役者が違うのだ
「う、うわっ!!」
まさか避けられるとは思っていなかったキースは満面驚きの表情・・
アルは避けの動作と共にすぐ攻撃の動作に移る。鋭い斬鉄剣「無銘」の刃が
キースの首に走る!キースの首はスポンと飛び殉職・・・・というわけにはならず首の皮1枚
切ったとこで刃を止めた・・
「実戦なら、これで「死に」・・・だよ」
息も切らさず落ち着いた口調のアル、しかしキースはもはや聞いていない様子で
顔を真っ青にしている。
「そこまで!・・・刀の扱いも上達したじゃないか、アル」
「まだまだ、付け焼刃程度の腕ですよ」
苦笑しながらアル。
「これでキースも少しは成長するだろう、礼を言うよ。」
「っというよりこういう展開になるのを予想していたんでしょ、副隊長?」
「ふふっ、お見通しか」
不適に笑うフロス、どうやら全て計算づくだったようだ・・
「伊達にあなたの下で働いていませんよ(ニヤッ)」
笑いながらアルが言う。フロスは第13部隊の副隊長の時には戦線には出ずに常に
作戦の立案や、事務処理をしてきた。そして彼の作戦はほぼ確実に成功してきたのだ
「流石だな、さぁとにかく朝食にしよう、キース、動けるか?」
フロスが声をかけるが彼は今だに固まったままだった・・・


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