第七話  「ヨフアル娘と騒動」


俺達がネストセラスと戦っている間にラキオスとマロリガンの戦いはすでに終止符が打たれていた

結果はラキオスの勝利、マロリガン側は首都を制圧された途端にすぐに抵抗を止めた

っというか元々この戦いを仕掛けてきたのはクェドギンって奴の判断だったらしいので

そいつが倒された以上、戦う気は毛頭ないみたいだ

そして驚くべきはマロリガンのエトランジェ二人がラキオスに協力したことと

やはりアンジェリカの言った通り『漆黒の翼』ことウルカ=ブラックスピリットがラキオス勢に加わっていた事だ

強力な人材がラキオスに集まりつつあり勢いがついているな・・

後は帝国との決戦ということだがその前にマロリガンとの戦いの疲れを癒すために

すぐに宣戦布告せずにとりあえず平和な状態が続いている

っというか帝国側からの動きがまったくないらしい・・それがさらに不気味なんだけどな・・

それにしても、ラキオスがうまくいっているのに俺達は全然だよなぁ・・


・・・・・・・・・・


「はぁ・・やっぱ・・勿体なかったかなぁ・・」

余り宿に篭りっきりなのも何なのでということでアンジェリカの提言で今日は例の高台にて作戦会議

っても・・ネストセラスの洞穴の目撃以降の報告はされていないし情報もないので日向ぼっこ状態・・

そうともなるとやっぱり損したかな〜

「何を言っているのよ。言い出したのは貴方でしょう

?それに・・私達が全力を出してもあの龍を仕留めきれるかわからないんだし

マナ結晶体を持ち出した事で周辺暴れられても困るのは確かでしょう」

壁にもたれ腕を組みながらあっさりと言うアンジェリカさん

まぁ急所一点集中であれだけ与えても倒せなかったんだ、スタミナ勝負でもネストセラスの勝ちだろうしな・・

「そりゃそうだけどなぁ・・あの報告書には回収された結晶体は他になかったわけだし、その後の情報もさっぱりなんだろう?」

湖を見渡す外壁に上り寝転ぶ。

良い天気だ・・、ラキオス周辺には気候の変化は少なく常に心地よい暖かさだ

住みやすさで言えばやはり一番だろうな・・

「それが、さっき仕入れた情報だけど・・マロリガンとの総力戦で

ラキオススピリット隊が結晶体を回収したという情報があるらしいの」

・・なぬ・・?

「・・そんな情報どこから仕入れているんだよ・・?」

「ラキオス城にちょっと盗み聞きできる玩具を置いてね、宿で盗聴しているわけ・・」

そんなことをいつの間に・・、だから宿に篭る事が多いのか・・

「まぁそれならば信憑性が高いわな・・」

「ところがよろしくない情報も流れているわよ?ケムセラウトでラキオス兵士になりすました男が出没・・

ラキオス襲撃の際に不審兵が目撃されたりしたしあの裸で寝てもらった兵士も職場復帰して服が盗まれた事が発覚したらしいわ」

・・まっ、いずればれると思っていたんだが・・な

「やれやれ・・仕方ない。いつまでも仮装するわけにもいかないからな

それで・・スピリット隊が回収した結晶体はどうしたんだ?もう破壊した?」

「いいえ、研究用に取っておくらしいから今のところ保管されているんだって」

「保管か・・、じゃあ城の中か?」

「・・ラキオス国で貴重品を保管するにはどこか最も効果的だと思う?」

ナゾナゾですか・・

「最も安全なところ・・か。俺としては〜、やっぱ城とかだと思うんだけどなぁ・・、女王の目の届くところ?」

「まぁ・・間違いじゃないわ。正解は最も強力な部隊の手に渡しておく」

・・まさか・・

「・・スピリット隊の詰め所・・か?」

「その通り、第2詰め所に保管されることが決まったそうよ」

「おいおいおい、常勝不敗のスピリット部隊が相手か!?」

ある意味龍相手するよりも厄介だぞ・・、相手は敵じゃないんだ・・

下手に手を上げることもできない

「そうなるわね、わかっているでしょうけど帝国との決戦も近いから怪我はさせれないしね」

・・・ぬははは・・・

「ダメ元で兵士に変装するか・・?、最後まで切り抜けられるかどうかわからんけど・・」

「結局はそうなるわね、まぁ今回は相手は不審人物だと思って行動するだろうし・・用心してよね?」

「事を荒立てるつもりもないさ・・」

結局はラキオス兵士か・・まぁ・・俺の普段着よりかはマシか・・

「ふふっ、それにしても・・元の世界に戻ることでドタバタしているけど・・良い国じゃない?」

寝転がる俺の隣に立ち湖を見下ろすアンジェリカ・・

まぁそれは言えている。戦争だなんだあるがそれさえなければ過ごしやすい

ここから見下ろす湖の景色、体を撫でる風が快い

ただ・・

「そうとは言っても俺には帰る場所があるからなぁ〜・・」

遠くの空を見てため息一つ・・

結局、この世界に来て随分経ってしまった

・・まぁ急いでどうなるものでもないけど・・向こうじゃ駆け落ち騒ぎになっている可能性大だもんなぁ・・

「タイムさんの事ね?まぁ・・、今は忘れてもいいんじゃない?」

「あのな・・、忘れてどうするんだよ?」

「だって・・こんな美女が隣にいるのよ?他の女の事を考えるのは失礼じゃなくて?」

悪戯っぽい笑みを浮かべて寝転ぶ俺に顔を近づけるアンジェリカさん

「失礼じゃなくて、じゃなくて・・、それじゃほんとの駆け落ちになるだろうが・・」

「駆け落ちじゃないわよ・・これは事故。だから何かの間違いがあっても仕方ないもんじゃない?」

「止めてくれ、俺は器用じゃねぇよ・・んっ・・?」

足音だ・・こっちに向かってくる

「あらあら・・こんな人気のないところに誰か来るなんてねぇ・・」

アンジェリカにも聞こえるぐらいの足音、ってか走っているな・・

考えてみれば俺達がここに立ち寄るようになってから人が来るのって初めてだ、ううむ・・迷子だろうかな

結構迷いやすい街だし

「人が来るなら離れておくれ・・公衆わいせつ罪で捕まってしまうかもしれないぜ?」

「あら、そんなのは私達の世界の話よ?案外この国じゃ公認かもね?」

んなわけあるかい・・

まぁ、そんな事言いながらもアンジェリカは俺から少し離れ外壁に肘をつきながら再び湖を見つめる


そして


「とうちゃ〜〜く・・って・・あれれ?」

勢い良く高台に走りこんできたのは白い服を着た少女、左右の黒髪を括ってグルグル巻きにしている

珍しい髪型だな・・ってか、手入れ大変そうだ・・

活発そうな少女だが、あれ・・、何か見たことあるな・・

「駆け込んできたところ悪いな・・、先客さ」

目が合ったので軽く声をかける、ここに人がいたのが相当驚きなのか少女は目を丸くしている

「珍しいな〜、ここに人が来るなんて!」

「そうか?まぁデートスポットにゃ手ごろな場所だとは思うけどそれほどまで珍しいのか」

「デート・・ああっ!そうか!お二人さんデート中なんだぁ!」

嫌な笑み浮かべて指を挿すな!指を!

「ちゃう!例えだ例え!」

「ふふふ・・でも周りからはそう見えるんじゃなくて?」

アンジェリカさん、そういう冗談は止めてください・・

「ふぅん・・、デートじゃないとしたら二人はこんな人気のないところで何していたの?

まさか・・エッチな事とか!?」

興味深々な少女・・ませておるな・・幼児体型のくせに・・

「そう見える?うふふ・・確かに愛を語るにはちょうどいい人気のなさかもね・・」

「アンジェリカさ〜ん、こんなところで誤解を広めたら、俺怒っちゃうよ〜?」

「まったく・・いい加減な性格なのにそういうところは一途なんだからね・・。

お嬢さん、まぁ私達は腐れ縁の仲ってところね・・期待していたのとは違うわ」

「ふぅん〜、そうなんだぁ・・」

「ってかお嬢ちゃんこそこんな高台に一人で来てどうしたんだ?おまけに・・」

目に付くは手に持つ大きな紙袋、そこから漂う香ばしくも甘い香り・・下で売っているヨフアルってお菓子だな

「そんな袋に入るほどのヨフアルか・・こんなところで食うなんてまるで失恋してドカ食いしている女の子だな」

「あ〜!ひっどぉい!私失恋なんてしてないもん!」

「まぁ俺がそう見えるだけだ♪」

「ふぅんだ!私はここから見える景色が好きなだけなの!」

頬を膨らませる少女・・ううむ、元気だな・・

「はははっ、そりゃ悪い。よっ・・と、お邪魔なら退散しようか?」

ここを占拠するのも悪いから寝転がるのを止めて降りる、良い景色なんだしな

「う〜ん、別に独り占めするつもりないからいいよ!

それにしても・・お兄さん達見慣れない格好しているね!」

俺は黒い武道着調の服にアンジェリカはこれまた黒を基調とした魔女っ子姿

・・見慣れた格好なわけないな・・

「俺達は旅の大道芸人さ。だからこんな奇抜な格好とか髪をしているんだ」

もはやお約束のフレーズ、まぁ多少強引なんだが自分から言えば結構皆納得してくれる

「へぇ・・そうなんだぁ!あっ!じゃあ何か見せて!?」

「図々しいな・・、まぁいいや。これも何かの縁だ・・特別に見せてしんぜよう」

「わぁい!」

心底喜ぶ少女・・やはり、こうした芸ってのはこんな王都でも珍しいらしい

「さて、簡単なのでいくか・・え〜っと硬貨硬貨・・」

ポケットから金を取り出す、っと・・しまった

「お兄さん、ポケットから何か落としたよ?あ・・これ・・?」

愛用のナックルグローブ『崩天』の片方を落としてしまった

何でもポケットに入れるのはやっぱ悪い癖か・・

「悪い悪い、これは衣装の小道具さ・・」

「・・・これ・・って・・あの時の・・」

ん・・?マジマジで崩天を見つめている・・

「おいおい、そんなに珍しいものか?」

「う・・ううん!何でもないの!はい!」

???

わからん子だな・・、まぁいいや・・

「よし、取り出したのはこの硬貨・・、よぉく見てろよ?」

硬貨を親指と人差し指で挟む・・

「うん!」

「はい!」

途端に硬貨がくの字にグニャリと曲がる、種も仕掛けもない・・ただ力任せに曲げただけ・・

「すっ、すごい・・!」

ふふふ・・大抵の奴は目を丸くして驚く・・


「どうだ、仕掛けがないってことは触って確かめな」

「うん・・ほんとだ・・普通の硬貨だけど・・これで使えなくなってちょっともったいないよ?」

「このまま捨てるわけにもいかないだろう?ほれ?」

グニャリ・・

おっと曲げ過ぎた・・微調整微調整・・

「これで元通りだ」

「すっごぉぉい!お兄さんもしかしてものすごい馬鹿力?」

「いやいや、これこそ奇跡の力ハンドパワーというものです」

・・正解は馬鹿力です

「ふぅん・・でもありがとう!面白い物見せてもらって!」

満面の笑みを浮かべる少女、ふっ・・大道芸人としても十分暮らしていけるな

「うふふ、女の子には優しいのね?」

「何か言葉に棘がありますが・・?アンジェリカさん」

っというかあんたは色魔だろう

「別に?」

「あっ、お兄さん!お代にこれ上げるね!」

「おっ、ヨフアルか・・いいのか?」

「いいのいいの♪まだまだたくさんあるんだから!」

・・いあ、それを一人で食う気なのか・・

袋一杯のヨフアル、考えただけでも胸焼けしそうだな

「ま・・まぁありがとよ。

それにしても、こんなところで静かに人とふれ合うのも悪くないな・・」

考えて見ればこの世界の人間とゆっくり談笑する機会もなかったものな・・

急いでも仕方ないし、息抜きするのも悪くないか

「ほんと・・これで戦争がなければいいのに・・」

おっと・・急に暗い顔になる少女、

レスティーナが女王になってからスピリットに対する考え方を改める奴が増えてきたからな

ラキオス国民にもようやく戦争の悲惨さってのがわかってきたんだろう

「直に終わるさ・・ラキオスの勝利でな」

「・・どうして、そう思うの?相手はあのサーギオス帝国だよ?」

不思議そうに俺を見つめて聞いてくる・・、なんだ・・不安なのか・・

「まっ、俺からしてみればだが・・帝国のスピリットはそれこそ捨て駒だ。

対しラキオスのエトランジェやスピリットは自分の意志で戦う事を選んでいる、負けられない意地もある。

そこに勝利の方程式ってのが隠されているんだよ」

「方程式?」

「どんな戦いにも必ず勝機がある・・それを掴み取れるかどうかは戦う者の意志の強さで決まる・・ってな。

まぁ帝国に決定的に欠けているところだ。

ラキオスのスピリットそれぞれが戦う意志がきちんとしていれば負けはしないさ」

そしてだからこそ、先頭切って斬り込む者は決して臆してはいけない

周りの意志を濁さないために堂々と戦わなければいけない・・

そうだったよな・・?

・・姉御・・

「ふぅん・・」

「例の恩師さんからの受け売りかしら?」

「その通り、残念ながら俺個人じゃそんなの逆立ちしても悟れねぇよ」

まず無理です・・ってかあの部隊に入らなかったら俺はチンピラのままだっただろうしな

「お兄さん・・すごく考えているんだね」

「そうか?まぁ結束力のないところは負ける、それだけの話だろう?

個々の力の強さが直接結果に結びつくほど戦争は甘くないさ

それに、レスティーナ女王もよくやっているんだしな」

スピリットに対する偏見をなくす、簡単に言うけど時間がかかる事だろうしな

「そういえば貴方、やけに女王様の肩を持つわね?」

アンジェリカさん・・、ツッコむ場所が違うと思うが・・

「そりゃ前の王との考え方がまるで違うんだ、180度に近い方向展開は前王に協力していた奴にとっちゃ面白くない

・・敵は外だけじゃなくて内にも多いとみて間違いないだろう。

そんな足枷がある状態でここまでやってきたんだぜ?

現にマロリガンとの戦闘もラキオスの被害を最小限に食い止めているし

内政も比較的安定している・・高い評価はできると思うんだが・・?」

「・・・・・」

・・ん?少女のほうがなんとも言えない顔をしている

「ほんとにそれだけ?」

「・・・何が言いたい・・?アンジェリカさん・・?」

「いやっ、レスティーナ女王の立場ってタイムさんに似ているからね・・。

会えない寂しさをレスティーナ女王と重ね合わせて紛らわしているんじゃない?」

「じゃかぁしい!俺はそこまで単純じゃねぇ!」

まぁ確かに肩がこるポジションでがんばっている点は一緒だがな

「・・タイムさん?」

「ああっ、この男の恋人の事よ・・、一応はいるのよね」

一応って・・言うな・・

「へぇ・・お兄さん彼女がいるんだぁ・・」

「あっ、失礼だな!お嬢ちゃん・・、これでもツンデレ系ごっつい美女と交際中さ!(キラーン)」

「ふぅん・・自分から歯を輝かせて言うことじゃないと思うんだけどなぁ」

「何を!?スタイルも抜群なんだぞ!?それこそあの女王さんのかわいそうな体型とは比べ物にならないくらい!!」

胸ポヨンポヨンにクビレすっきり、プロポーションの良さはどこに出しても負けない!

まぁ性格には多少難はあるが総合的に素晴らしい女性、それがタイムなのさ!

「・・・・(ピクピク)」

おんや、何故か少女が青筋立てている・・

「クロムウェル、女王の体型なんて良く知っているわね・・」

「いあ、前に見たことあってな・・。スレンダーと言えば聞こえがいいが・・特に胸がね・・。

本人気にしていなさそうだが・・あれは・・ねぇ・・」

「・・・ボソボソ(何よ、やっぱりあの時失礼な事を言っていたじゃない・・)」

「んっ?どうした?」

「なんでもない!ラブラブなのを自慢してもらってごちそうさまでした!」

「何怒っているんだ?あ〜、お嬢ちゃんも胸がまだまだだしなぁ・・」

レスティーナ女王と良い勝負な胸の小ささだ・・

「こっ、これから成長するんだもん!それにいつまでもお嬢ちゃん呼ばわりしないで!?

私にはレムリアって名前があるんだから!」

・・っと、そういえばなんともなしに自己紹介もせずにお嬢ちゃんでずっと通っていたな

「悪い悪い、完全に自己紹介まだだったな・・俺はクロムウェル、こっちがアンジェリカだ。

まぁ気を悪くするなよ♪」

「ふ〜んだ!知らない!」

ううむ、子供みたいなすね方だな・・レムリアって・・

「そんじゃ失礼の詫びとして胸を大きくする秘訣を特別に教えてやろう!」

「・・(ピク)」

そっぽを向きながらすねつつも無言のまま聞き耳立てている・・やはりレムリアも胸の事を気にしているのか

「その秘訣はなぁ・・」

「ひ・・秘訣は・・?」

ふふふ・・知りたくて仕方ないようだな・・

「好きな男にたくさん揉んでもらうことだ。それが一番!」

「へっ!?ええ〜!?」

顔を真っ赤にして固まるレムリア・・

これしきで赤面になるたぁ・・青いな・・

「俺の知り合いの医者に聞いたところによるとだな

『好きな男に揉んでもらう→本能的にそいつの子を産みたいと思う→

より母乳が出るように胸を成長させる信号を脳が出す→バストクラスチェンジ』

っという仕組みがあるんじゃないかって言われている。まぁ実証はされていないがな

因みにそれにはクラスアップ施設を建設する必要性があるらしい」

「・・ほんと〜・・なの?」

「・・まぁ、最後の馬鹿な冗談はいいとして。

クロムウェルが言った説が根拠があるかどうかは別だけど好きな男に触ってもらって大きくなるのは本当ね。

レムリアも胸が気になるなら好きな男との関係を進めることね」

微笑みながら偉い事進めているアンジェリカさん、そして自分の豊満な胸を寄せて見せびらかしている・・

・・なんか少女相手に大人の会話をしているな・・何時の間にか・・

「う・・ううん・・好きな人・・かぁ・・」

「おやっ、いないのか?そろそろ一人や二人いてもおかしくない時期だろうに」

「気になる人はいるんだけど・・すごい鈍感というかなんというか〜・・」

・・鈍感ね・・致命的なハンデだな

「いかんな、鈍感な野郎を振り向かせるためにもドンドン攻めるんだ!それが唯一無二の打開策!」

「そ・・そうなの?」

「ああっ!相手に気づいていてもらえない以上関係が進展するわけないだろう?

向こうが気づかないのならばこちらからこれでもかってくらいアピールするのだ!

いざとなれば相手の寝床に近寄って無理やり(スコーン!)・・・アンジェリカさん、

ヒールがこめかみに刺さったんですが・・」

「若い子に夜這いの仕方なんて教えないの・・」

意外にまともな意見を・・色魔のくせに・・

「あの・・大丈夫?すごく痛そうだけど・・」

実際かなり痛いです、ってか普通なら医療所送りですがな。

「んなもん怪我のうちに入らないって・・まぁがんばんな・・。

おっと、結構話しこんでしまったな」

「あっ!ほんとだ〜・・そろそろ戻らないと・・」

ガックリと肩を落とす・・

ん・・?戻る?普通なら帰るって言うもんだが・・どっかから抜け出して来たのかな

まぁ、深く詮索すべきじゃないな

「悪いな、せっかくの時間を潰しちまって」

「ううん、話ができて楽しかったよ!」

「そうか・・まぁ道中気をつけなよ」

「クロムウェルさんもね!余りイヤラシイ目つきしていると兵士さんに捕まったちゃうよ!?」

・・奇跡的に今のところ捕まっておりません

スピリットには言われましたが・・

「余計なお世話だ・・」

「うふふ、それじゃあね〜!」

「おうよ!じゃあな!」

手を振りながら細い路地に入ろうとするレムリア、俺とアンジェリカは手を振って見送るのだが

突然思い出したかのようにこっちの方を振り返った・・

なんだ・・?

「あっ!クロムウェルさん!」

「・・おおっ?」

「ありがとう!」

「・・・・、何が・・?」

芸を見せたことか・・?そんな礼を言われるほどのことでもないんだが・・

「・・なんでもないの!それじゃあね!」

手を振りながら勢い良く走り出すレムリア・・

ううむ・・礼を言われるほどの事したかな?

「変わった子ね・・」

「そうだな、ああいうのが一杯いたなら戦争なんて馬鹿なことにはならんだろうが・・」

「純朴すぎるのも危険よ。あら・・?」

「ん・・?」

街の方から煙が昇っている・・、火事・・?

いや・・気になるな・・

「いくぞ、アンジェリカ」

「わかったわ・・」

軽く返事をしながら俺達は街へと向かう細い路地を走り出した


・・・・・・


急いで路地を抜け、城下町の広場まで走ったらそこはもう大混乱

広場の店から数軒火の手が上がっている・・

「・・・サーギオスの手の者か?」

「そう考えるのが自然ね、こんな広場で騒動起こして・・国民の動揺を狙うつもりでしょう」

動き出したわりに姑息なことで。

ってか帝国って大層な名の割にはコソコソ動いてばかりだな

おっ・・と、また広場の店の一つから火の手が上がった・・

ってか爆発だな

それに負けないぐらい悲鳴がこだましている、

逃げ惑う人たちにラキオス兵も収拾しようとしているがこれじゃ焼け石に水って奴か

「大混乱ね・・どうする?ここまで敵さんの思う壺の状態よ?」

「目立ちたくなかったが〜、まぁこのまま安全地帯まで逃げるのは俺の性に合わないな」

「わかったわ・・それじゃ、お任せね」

そう言いながらも協力するくせに・・まぁいいや

「耳塞いでな・・スゥ・・・」

大きく息を吸い込む、こうした混乱を鎮めるにゃこの手が一番・・




「てめぇらぁぁぁぁぁ!!!!静まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」





腹の底からの大喝声!!!!

もはや戦闘時の気合声に逃げまどう民衆はピタリと立ち止まった・・っというかすくみあがっています?

まぁ近くにいた奴は鼓膜に影響は出ているだろうな

「隣にいる私の事も考えてよ・・、鼓膜破るつもりなの?」

あ〜、無視無視!

「この爆発はサーギオスの策略だ!混乱すればするほど奴らの思う壺だ!落ち着け!!!」

俺の叫びに一同呆然としながら立ち尽くす

とりあえずは混乱は治まった・・かな

「ほれっ、アンジェリカさん出番だぜ?」

「はいはい、この程度の騒動で慌てるのもみっともないと言えばみっともないわね」

耳を塞いでいた手をどけながら愚痴る、いやっ、無差別に火の手が上がれば普通は逃げるぞ?

まぁいいや、アンジェリカは一歩前に出て・・


パチン!


軽く指を鳴らしたかと思いきや燃え盛っていた炎は嘘のように消えていった

水がなくても火は消える、風の力を応用すればな

「消火完了、流石に石造りな分焼け落ちる可能性はないわね」

一瞬の出来事に民衆は夢でも見ているかのようだ

「さて・・、後は放火した犯人さんだな。わかるか?」

「もちろん。ええっと・・そこの碧色の服を着たお兄さん、わかっているわよ?」

二コリと笑いながら指差す、その先の人ごみの中に確かに碧色の服を着た若い男が立っていた

周りの人間はアンジェリカさんの言葉を信じたのか一斉に警戒して後づさる

「ぼ・・僕が・・ですか!?」

男は信じられないような表情を浮かべている

「ええっ、貴方よ。サーギオスの工作員さん」

「な・・何を根拠に!?失礼にもほどがあるぞ!」

・・それがデタラメだったらな、

他人を陥れる事が大好きがアンジェリカさんだがこうした時に嘘を言う女じゃない

「ふふふ、貴方ともう一人の相棒さんが裏路地で打ち合わせしているのを盗み聞きしちゃってね。

証拠もあるわよ?」

「な・・んだと・・?」

盗み聞き・・?それに証拠って・・

「認めるならそれでいいのだけど、お縄につく?」

「冗談じゃない!訳のわからない衣装を着た女に犯人扱いされて黙っていられるか!」

「あらあら、流石に被害者の芝居の練習もしているのね・・ならばここにいる全ての人に証明してあげるわよ」

そう言ってどこからともなく取り出すは透明な水晶球

俺達の世界で魔導師や貴族が使用する”記憶球”という代物で映像や音声をデータとして保存することができる特殊な水晶だ

この世界にはそういう代物がない分男も怪訝な顔をしている

「本来ならば映し出すのは小さな立体画像なんだけど・・今日はサービスして、この空にスクリーンとして出してあげるわ」

これでもかってくらい嫌な笑みを浮かべながら記憶球に手を翳す

次の瞬間、大空に透明な画面が作り出される

それはどこかの路地裏、薄暗いのだが二人の男が立っているのがはっきり見える

”手はずは整ったか?”

あの碧服の男がもう一人に聞いている、口調がまるで違うが声からしてあいつに間違いない

”ああっ、広場に仕掛けた。明日人通りが溢れる時に作戦を実行させる”

もう一人の男が応える、こちらは茶色の服装・・撮影した角度からして後姿しか見えないな

”ぬかるなよ、マロリガン戦の勝利で浮かれている馬鹿どもに恐怖をたたきつける絶好の機会だ”

”もちろんだ。これで国民の動揺を誘った後はスピリットどもの奇襲もしやすい・・我らサーギオスの勝利はより揺るぎないものとなる”

まぁ・・決定的な証拠だな

それ以降も続いているらしいのだがアンジェリカは上映を取りやめて記憶球をしまい込んだ

「・・・さて、これでここにいる民衆すべてが証人となったわけね。大人しく捕まりなさい」

見下したように言うアンジェリカ

こうした挑発的な言い方は得意中の得意だったりする・・

そして当の碧服の男は冷や汗を垂らしながら震えている

まぁ、想定外もいいところの事態だものな

「サーギオスの工作員は潮時もわからない馬鹿しかいないのかしら?そこで震えていても何もならないわよ。

それとも逃げる?この民衆の中から・・」

「う・・うおぉぉぉぉ!!!」

おおっと、逃げ出すかと思いきや短剣取り出してアンジェリカ目掛けて突進しだした

剣を取り出すや否や周囲から悲鳴が起こるのだが本人は至って冷静

「やっぱり馬鹿ね。・・『疾空』」

「!!?な・・!?うげぇぇぇぇ!!?」

あ〜、半殺しだ。

短剣の刃を叩き折って風の弾丸が男の体を処狭しと撃ち込まれる

相当な衝撃が伝わっているみたいでまるで一人で踊っているようだ・・。

関節が変な方向に曲がっていたりするけど

龍にゃ通用しない術でも普通の人間じゃ手加減しないと即死な魔法だ

一発の風の弾丸だけでも頭蓋骨を砕く事もできるだろう

・・それが無数になるんだ、全身複雑骨折はまず確定だな

「残念だったわね、手加減してあげたから・・後は拷問でも受けてから処刑されてちょうだい。

さて・・もう一人、共犯がいたわねぇ・・

作戦を確実に成功させるためにこの民衆の中に紛れているでしょうけど・・出てくる?

それとも・・逃げる?どちらにしても命はないでしょうけど・・」

周囲を振り向きながらアンジェリカが言うが無反応、まぁ今の男の行動からして

捨て身で突っ込んでも痛い目見るだけだしな

「ふふふ・・出てこないらそれでもいいわ・・後で、じっくり遊んであ・げ・る・・」

あらぬ方向に向けて言い放ち投げキスするアンジェリカ

・・あの様子だと・・もう一人の居場所もわかっているな

それを承知であんな事言っているとは、ほんといい性格だぜ・・

「まぁ、これで騒動は終いだな。ほらっ、兵士さん!呆けてないで容疑者確保しろよ!」

「はっ!あ・・ああ!!」

夢でも見ているように呆然としていた兵士だが俺の問いかけに我に返る

それは周りの民衆も同じで夢から覚め一斉にワーだのキャーだの歓声が巻き起こる

・・・ううむ・・

まぁ神剣魔法以外の魔法を見て驚くのはわかるがねぇ・・


「おいおいおい!そんな簡単に浮かれるなよ!」


再び大渇声、俺達称える前にやることあるだろう

「いいか〜!?そこで痙攣している男がいるようにラキオスと帝国はもう戦争状態に入る!

直接的に戦うのはエトランジェとスピリット達だろうが

あんたらだって間接的にも関わっているんだ!

前線で戦う奴らのためにもその事をもっと意識しろ!これくらいの事で動揺するな!

腹をくくって自分達なりに帝国の思い通りにならないようにしろ!

でなければ命張っているエトランジェ達や指揮をするレスティーナ女王の足を引っ張る事になるぞ!」

俺の言葉に誰一人言い返す事はできず周りは完全に静まり返った


「まぁお前達は非戦闘員だ、戦えなんて誰も言わない。

だけどだからと言って戦争とは無縁というわけでもない。

せめてこの国のために命張って戦う奴のバックアップをするぐらいの心ぐらいは持っておいて欲しいんだよ」

「ふふふ・・まっ、貴方らしい意見ね」

「うるせー、ともあれ・・これでひとまず大丈夫だ。皆、怒鳴って悪かった・・じゃあな」

これ以上ここにいても気が滅入るだけだ。気絶している男も兵士が逮捕したみたいだし

そろそろお暇するか

「じゃあ・・行きましょうか」

「おう・・ん・・?」

黙り込む民衆の中に見慣れた白服の少女・・レムリアが立っていた

なんだ?あのグルグル巻きに括った髪が片方ほどけていて俺を見ている

「よう、レムリア」

「あ・・クロムウェルさん・・」

レムリアも呆然としているよ、まぁ・・それも仕方ないことだろうが

「あらあら、綺麗に括った髪がほどけているわね。逃げ回る人に巻き込まれてもみくちゃにされたのかしら?」

「えっ!?あ・・そう・・そうなの・・」

「まったく、好き勝手に逃げたら転んで下敷きになってしまうしな〜、気をつけろよ?

そういう事故でも死んでしまうことってあるんだぞ?」

「・・うん・・」

なんだ?レムリアの奴も元気なさそうだな・・

まぁ街中でこんな事起こってテンション高かったらそれはそれで異常か

「ふぅ、まぁもう安全だから気をつけて帰りな。俺達も帰ることにするよ」

「そうね、視線が集まっていい気がしないし・・それじゃあね」

「うん、ありがとう・・」

ううん、サーギオス工作員がいたことにショックが大きいのかな

まぁいいや・・目立つの嫌だから俺達は早々に路地裏に入った

結局、その日は広場に活気が戻ることはなかったようだ


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