第五話  「利用する者される者」


レスティーナが女王の座につき打倒サーギオスを掲げつつ

その足場を固めるために反帝国を掲げるマロリガン共和国に同盟を申し出たらしいが

交渉は決裂、おまけにマロリガンから宣戦布告してきて帝国の相手は後回しに

まずはマロリガンとの戦争をするハメになった

ヨーティアが言ったようにマロリガンも裏で色々目論んでいるらしい

まぁすぐにドンパチをはじめるわけでもないらしく今現在戦争に向けての準備が進められている

・・・・忙しければ忙しいほど俺達には都合がいいってわけだな・・



「それで、結局わかるのかよ・・報告書」

ラキオス城下町の宿の一室にてアンジェリカと作戦会議

スピリットに襲われたり王女・・いや今は女王さんか、彼女を護衛しながらも何とか持ち帰った

『マナ結晶体』の報告書・・字が読めないって最大の問題点を抱えつつ持ってきたんだけど

すでにそれに向けてアンジェリカさんは行動を開始していた

子供用の絵本を買いあさって知っている単語とそれに対応する文字を記憶し徐々に文法を見つけ出していっているらしく

ここ数日宿に篭りここの文字の解読に取り組んでいるのだった

「私を誰だと思っているの?これでも古文書の解読は得意だったのよ。

・・簡単な文なら何とか読めるようになったわ」

・・・おいおい、早いな・・

「それで・・どことどこにあるんだよ?」

「そう簡単に全部わかるわけないでしょ?全部解読するにはまだ時間がかかるわ。

・・・今分かるのは・・旧ダーツィ大公国のケムセラウト近辺でマナ結晶体が発見されて

そのケムセラウトに保管しているらしいの

近日中にラキオスから使者を送る予定だったみたいね」

おおう、急に言われても・・地図地図・・っと

「え〜と・・ケムセラウト・・今のラキオスの最南東だな、すぐそこが帝国領じゃねぇか」

「それだけ遠方になると使者もすぐに送れないみたいね。

まぁ帝国の襲撃もあり今ラキオスは体勢の建て直しに忙しいわけだし

・・まだ使者が到着していないと見て間違いないわね」

まぁ今は来るべきマロリガン戦に向けて動いているらしいからな・・。

「でも・・意外なところにあるもんだな」

「近くには未踏の地である巨大断層『龍の爪痕』があるらしいから、発見されても不思議じゃないかもしれないわね」

龍の爪痕・・、何でもそら恐ろしいほどの断層らしく底がまったく見えないんだとさ

噂ではその底は亡者、魔物が蠢く「バルガ・ロアー」って世界に通じているって言われている

まぁそこまで巨大な代物があるならそんな説も出るだろうな・・

「とりあえずはまだそこにあると見て間違いないわけだな」

「たぶん・・ね。日付的には最近の事だし・・これだけゴタゴタがあって報告書もここにあるんだから

そうすぐには発てないはずでしょう」

・・この世界の日付などは結構独特のモノがある。アンジェリカはすでに慣れているらしいけど

俺のほうはさ〜ぱり・・

まぁ元々知的な事は苦手だからなぁ・・

日が昇り一日が明け日が沈み一日が終われば一緒だ

「それじゃ手はずとしちゃやっぱラキオス兵士になりすましてケムセラウトの代表から結晶体を頂ければいいってわけだな」

「少しは察しがよくなってきたわね」

・・おかげさんでね・・ってか結構重宝するな・・ラキオス兵の服・・

「まぁやってみるよ・・。保障はできんがね」

「やってもらわないと困るわよ。それじゃがんばって」



・・なぬ?



「質問!俺がケムセラウトに行っている間アンジェリカさんは何をするのですか!?」

「情報収集」


あっちょんぷりけ!!!


「・・・楽してねぇ?」

「そんなことないわよ、じゃあ代わってみる?

この世界の動向から報告書の解読、色々あるわよ?

それに転移術の改良をしないといけないし」

・・・・絶対無理だよ・・

「すんません・・」

「貴方にしかできないこともあるし私にしかできないこともあるってこと。

まぁ戦力的に必要ならば私も手伝うから・・今は一人でがんばって?」

「へいへい・・、そんじゃルートは〜、さほど気にしなくてもいいか、どの道サモドアで合流するわけだし

今はマロリガンとの国境沿いが緊張しているだろうしな」

「そうね、普通にいけば問題ないと思うけど・・、帝国の近くだという事から気は抜けないわね。

マロリガンとラキオスの戦争が始まるというのにあまり動きを見せていないんだから・・」

確かに、不気味だな・・こうした三つ巴な状態ってのは色々と思惑が交差するものだ

当初のラキオスの狙いみたく2国が同盟結んだり、あるいは2国間の戦争を高見の見物しておいて

それが終盤に向かったところで奇襲をかける・・

俗に言うところの”漁夫の利”作戦とあるしな

「十分気をつけるさ。まぁ余裕があればお礼参りでもしてやるよ」

・・ラキオス城の奇襲は俺にとっても良い思いはしなかったからな・・

「・・、ほどほどにね。表立って動くと後々苦労するわよ?」

「その時はその時さ・・。そんじゃ、ちょっくら行ってくるぜ〜」

イオから貰った荷袋を担ぎさっさと出発する、別に躊躇しても仕方ないし

「いってらっしゃい。戻ってくる時にはもっとマシな体勢になるようにしておくわ」

期待しているぜ、アンジェリカ



・・・・・・・



さて、ラキオスからケムセラウト間は結構立ち寄る街も少ないみたいだし〜・・

ここで食料を少し買いだめしておいたほうがいいだろう

幸い、王都なだけにそうした店には事欠かない

適当に保存が利く食料を店の人に聞いて見繕ってもらった

・・まぁ干し肉とかはわかりやすいけど他に保存が利く物って中々わかりにくいもんがあるからな、

店で説明してもらうのが一番だ

そうした会話が客と店との信頼を産む、貿易都市に暮らしていただけにそうしたノウハウには自信がある

だから髪は奇抜な分最初は警戒していた店の連中も話しているうちに打ち解けていった

まっ、悪い人間ばかりじゃないってことさ

「さ〜て、用意は一通りできたが・・結局歩きになるのかな・・」

馬みたいなのがあれば道中楽なんだが・・それらしいモノはないや

生活水準が高い割には都市間移動は不便・・

この世界の人間は自分が住んでいる街から他の街にはあまり移動しないんだろうかな?

「まぁいいや・・歩きも慣れだし・・んっ?」

なんだ?・・人だかりができている

大道芸か何かかな・・ライバル出現の予感!?

同業者なら早めに消しておくか、貴重な収入だからな・・

どれどれ・・



「てめぇ!何ガン飛ばしてくれているんだよぉ!」

「だ・・だから、何も見てませんよぉ・・」



・・なんだよ、酔っ払いが女の子に絡んでいるだけか。

ごっついおっさんが顔を赤くしてまぁだらしない。

しかも相手はまだ幼いじゃないかい

やれやれ・・

「何しらばっくれているんだよぉ!ああっ!スピリットだからって偉そうぶってんじゃねぇ!」

「ひ・・ひぃ・・偉そうぶってなんかいませんよぉ!」

勢いに任せて殴りかかろうとするおっちゃん

しかし

「おっさん、白昼堂々酔っ払って女の子に狼藉か?すこ〜し、情けないぞ?」

ハエが止まるようなトロい一撃を掴む取ることなんて造作もない

別に力を入れるわけでもなく軽く掴んだだけなんだがおっさんの拳はピタリと止まった

・・見掛け倒し全開だぜ?

「なんだてめぇはぁ!離せ!この・・!!」

何とか振りほどこうと試みているおっさん、お前にゃ無理だ

「離せって言って簡単に離してもらえると思っているのかぁ?おっさん世の中甘く見すぎだぜぇ?」

「く・・バカ力めぇ!」

「お前が非力なだけだ・・寝てろ・・」

おもむろにおっさんの額に指を沿え



ビシ!



ど真ん中にデコピンを放つ!

「んぐっ!!!!!」

強烈な衝撃におっさん白目をむいて倒れちゃった♪

まぁしばらく暴れられないだろうねぇ・・

「飲むことにゃ文句言わないが見苦しいんだよ、おっさん」

騒いで飲む事は嫌いじゃないがこうまでみっともないとねぇ・・

「あ・・あのぉ・・」

ん・・おおっ、絡まれていた黒髪少女がモジモジしている。

そういやおっさんが殴る時に『スピリット』って言ってたな・・。ううん・・まぁ一般人と違う

白っぽい制服みたいなのを着ているがそれがなければ俺にはわからんな

「ああっ、危ないところだったな。・・どこでもしょうもない輩は昼間っからいるもんだなぁ」

良く見れば黒髪のツインテール・・そして腰には刀・・姉御みたいだな

「あ、ありがとうございます!」

深々と頭を下げる黒スピリット少女、礼儀は良いらしい

「いやっ、いいってことさ。

それよりもこんなのどうしようもない馬鹿なんだからその鞘で脳天叩いてやればいいんだよ」

・・話によると一般市民とスピリットではスピリットのほうが貴重とされている・・、

だからスピリットに危害を加えるとかなり重い罪に問われるんだとさ

まぁ、戦争の駒が減るのが困るからそういう処置をしているんだろうが

一般市民の中には捨て駒を丁重に扱わなければいけないという考えが癪に障っている馬鹿もいるらしい

「え・・そんなことできませんよぉ・・」

両指を合わせて怖気づく少女・・、まぁ・・人殺せないんだったか

「優しいことだ。ってかマロリガン攻略のための準備中じゃないのか?いいのかよ・・王都にいても」

「ええっと、今日は休暇にすることになりました。

あまり根を詰めてもいけないと言われまして・・」

「そりゃ賢明だ。オーバーワークは逆効果だからな・・良く知らない馬鹿は無駄にスパルタするから悪循環に陥るケースもある」

「そうなんですかぁ〜・・」

「まぁ、訓練で習った事を頭で見直す時間も必要だろう?訓練ってのはまず体で覚えるものだからな。

それを後で頭でも覚えなければいけないってわけさ」

今日行った訓練の反省点を考え改良を加えて翌日に活かす、

それをやらずしてガムシャラに鍛えても成果ってのは中々でないんだ・・これが

「なるほどぉ!すごいです!あの・・どこかの国の訓練士さんですか?」

「俺?あ〜、まぁそういう事に関わってきた人間さ」

「へぇ!そうなんですか!あっ!じゃあラキオス訓練士として志願しにきたのですか!?」

・・おいおい、目を輝かすほどの事か?

「い・・いあ、そういうのじゃないんだよ」

「そうなんですかぁ〜・・うう・・わかりやすい人が来てくれたら嬉しかったのですが・・」

「なんだよ、ついていけないのか?」

「はい〜、皆さん親切で優しいのですがそれでも私にはなかなか難しいです」

「ふぅん、何・・、成長の度合いは人それぞれだ。

ちゃんとした訓練士はそれにあった訓練メニューを組むだろうし

毎日欠かさず精進すれば大丈夫さ。案外晩成型なのかもしれないしよ」

「なるほど〜、ありがとうございます!!」

深く頭を下げる少女、うむ・・愛嬌はあるが強そうには見えないな

おやっ、同じ服を着た少女が向こうから走ってきた



「ヘリオン遅い〜!!」


青髪のポニテで活発そうな少女・・ううむ、ラキオスのスピリット隊って幼女集団か?

「ネリーさん、すみません!ちょっとトラブルに合いまして・・」

「とらぶるぅ?ああっ!そこのツンツン変な髪のお兄さんに悪戯されていたんだねぇ!!?」

んがっ!?

「ちょい待てや!ごらぁ!」「ちっ、ちがいますぅ!!」

「照れてるところが怪しいなぁ♪」

「どっちも照れておらんだろうが!」

「まぁ細かい事は気にしない気にしない♪」

マイペースな女め・・

「ったく、俺は・・ヘリオンだったか?

この子がそこで伸びている馬鹿に絡まれているのをちょいと仲裁した優しいお兄さんだ」

「そっ、そうなんですよ。悪人面に見えますけど決して悪い人じゃないです!」

「・・素か?おい・・?」

「へっ?」

まぁヤクザが回れ右することでお馴染みの俺ですが、悪人面じゃあないはず・・・・はずなんだよ・・

「う〜ん・・悪人面ぁ・・、・・まぁいいや。あんまり帰りが遅かったからハリオン達先に帰っちゃったよ?」

流した・・、こいつ・・できる・・

「ええ〜!皆さんもう帰っちゃったんですか!?」

「うん、焼きたてのヨフアルが冷めないうちにお茶と一緒に食べたいって強引に先に帰っちゃった」

「ハリオンさん・・」

ううむ、結束力が・・ないね

「ニムも急かしたからねぇ〜」

「あははは・・、あのっ、とにかくありがとうございました!」

「おおっ、まぁ気にするな。これから大変だろうががんばれよ」

「ふぅん、目つき悪いお兄ちゃん結構優しいね♪」

この青ガキ・・

「悪くはないですよ!ただ・・イヤラシイというかなんというか・・」

・・・・・・・

「ふ〜んだ、どうせ俺って変態ですよ〜」

「ああっ!いじけちゃいました〜!」

「ヘリオンが変な事言うから〜」

「ネリーさんが毒舌なんですよ!」


ムンガー!!


「どっちも毒舌じゃ!いいからさっさと行けっての!」

「あははは!そんじゃね〜!」

「あの、ほんとありがとうございました!」

走り去っていく毒舌スピリット娘・・俺の目つきがそんなにいやらしいか!

まぁ注意されたことがあるからしょうがないんだけど!

子供に言われると・・ショックやねぇ・・

「・・はぁ・・、まぁいいや・・さっさと行こう」

周囲の目が痛い・・

何だかムショウに腹が立ったので伸びているおっさんの股間を一蹴りして旅路につくことにした

ってかラキオス兵士よ、騒ぎあったわりには全然こないじゃねぇか・・

仕事しろっての・・



・・・・・・・・
・・・・・・・・



ラキオスを出発してラセリオ、サモドアを経由すること数日

まぁ流石に俺達の世界とは違い魔物だの野盗が横行する気配がないのですんなりといけた

それなりに交通も整っているがすれ違う旅人もいなかった

・・・戦争中だものな。

そして俺がケムセラウトに到着した頃にはすでにラキオスとマロリガンが交戦状態に入っていた

戦局は中々安定していないらしい・・まぁ戦場がダスカトロン大砂漠って砂漠地帯だ。

さらに敵さんにもエトランジェを率いた部隊がいるのに加えて何か物騒な装置まで用意してあるときた

その影響で現在は硬直状態が続いているらしい

だが悪い知らせばかりでもなく、ラキオスに大天才と言われる”ハーミット”って奴が協力したらしく

色々とラキオスの手助けを行っているらしい

天才に『大』って付けること自体うさんくさいんだが・・まぁあのヨーティアみたいな人種なんだろうな。

・・・ってかヨーティアにイオ、マロリガンに近い処にいたがまぁ戦争に巻き込まれることもないか・・

それにしても『ハーミット』・・なんか手から茨出したり念写できそうだな・・・




「さて、毎度おなじみにラキオス兵スタイルで無事ケムセラウトに着いたのはいいが〜・・・」

田舎だ・・、流石は現ラキオス国最南東・・のどかな風景が続いている

帝国領がすぐそこだってのに警戒されていないのが何と言うか、マロリガンに気を取られてる感じがするな

まぁラキオス国領になってしばらく経っているのでそれなりに好意的に街の人は接してくれている

やはりこうした田舎ってのは人々の気性が穏やかなのが多いな・・



「レスティーナ女王様からの使者ですか。ご苦労様です」



到着してから適当に声をかけた結果、とある一軒家に招かれてこの街の代表と対面することとなった

こういうのは大抵長老みたいなのが行うかと思ったら代表者は意外に若い・・40代ぐらいかな

「いえっ、これも職務です。・・まぁ、多少兵士の数も少なくなって手を回せたのは私一人ですが・・ね」

ふふふ・・我ながら巧妙な嘘だ。

先のラキオス城への奇襲は全国へと知れ渡っている、その被害も・・な

一人ひょっこり現れた兵士を疑うかどうかはわからんが真実味を持たせる演出はやっておいたほうがいいだろう

・・ボロがでない程度に・・ね♪

「事件の事は我々も聞いております・・レスティーナ女王だけでも切り抜けた事は非常に喜ばしい事でしょう」

心底嬉しそうな笑顔の代表者・・

こいつを見たのと同じようにレスティーナは結構民衆ウケがいい

っというか前のラキオス王が感じ悪すぎたのも影響しているんだろうが・・

会ったことがないまま逝ったが今までの話聞く限り相当なお馬鹿野心家だったらしいからなぁ

殴りたかったなぁ〜

「いやまったくです・・それで、マナ結晶体は貴方が保管しているのですか?」

「あ・・はい。すぐお持ちします・・・おい・・」

奥のおばちゃんに声をかける、代表者と言っても普通の住民と変わりはないみたいだ

まぁ帝国の制度とラキオスの制度では違いもあるだろう、最近代表になったんだな

「すぐにお持ちいたします。ですがその前に是非お聞き願いたいことがございまして・・」

「・・はい?」


「いやっ、ご存知の通りこのケムセラウトは帝国と目と鼻の先ほどの距離です。

いつ奇襲があるかわからず住民も不安がっております

そこでなんとかスピリットをこの街に配備していただきたいと思いまして・・」

なるほどな、帝国にとってはラキオス進行の際にその足がかりになる街だ、そんな不安があっても当然だろう

「なるほど、住民の不安・・私も良く理解できます・・。

ただ現在マロリガンとの硬直状態にあります

すぐにスピリットの配置はできないでしょうがレスティーナ様もケムセラウトの事はちゃんと考えていらっしゃるはずです。」

確証は持てないが〜、マロリガンとの戦闘をしつつも帝国の動きには目を光らせているはずだ

「そうですか・・、わかりました。女王の判断を待ちましょう」

「ご安心を、何か起こったとしても放っておくお方ではありませんよ」

「それを聞いて安心しましたよ」

ホッと息をつく代表者・・あ〜、たぶん・・だよ?

おっと、そうこうしているうちにおばちゃんが木の箱を持ってきた

「こちらです、お確かめください・・」

随分慎重に管理しているもんだ

どれどれ・・、ふむ・・

箱の中身には青みかかった水晶のような拳くらいの鉱石・・

淡く光ったそれは見ていると落ち着く。

なるほど・・不思議な物だな・・

「あ〜っと、私は実物を未だ見たことがないのですが・・どうやら間違いなさそうですね」

「そうですか、・・私は一度見たことがありますのでマナ結晶体に間違いありませんよ。どうぞ、お持ち帰りください」

「ども、ありがとう・・。ではっ私はこれにて」

「道中お気をつけて・・・。

『龍の爪痕』近辺で見つかった物ですので時間があれば探索隊などを出してみるのもいいかもしれないでしょう」

「女王様にお伝えしておきます。貴方達にもマナの導きを・・」

丁寧に挨拶してその場を立ち去る

王都のスピリット差別する連中にゃヘドが出るがこの街の人は気立てがいい

っというか全員レスティーナの自治に期待を寄せているようだな

騙すのは悪いから・・話はこのぐらいにして退散することにした



・・・その夜・・・



サモドアまでは距離があるので夕暮れ時になったら進むのを止めて近くの森で夜営をすることにした

まぁ用意はしっかりしてきたし食料もケムセラウトで補充したので問題はない

手ごろな木の前に火を起こし夕食を取った

こうした事は異世界でも変わりはない

「マナ結晶体か・・魔石に似ているが・・不思議な物だな」

大切に木箱に保管されたマナ結晶体を見つめる・・

こんな森の中じゃ飯食った後はもう寝るしかないのだから仕方ない

それにしても・・このマナ結晶体にどれだけのエネルギーが込められているのか・・

これだけで術を行使できる量があればいいんだが・・

「思っていたより小さいからなぁ・・」

拳ほどの大きさ・・、ううむ・・基準がわからんから何とも言えんのだが

不安が残る大きさだよな

まぁ実際の術にどれだけ必要なのかはアンジェリカじゃないとわからんし・・

おそらく、そう簡単に事は運ばないだろう

・・な〜んとなくわかる・・勘だけどな

それにしても・・、静かだ・・。

枝が焼ける音ぐらいしかせずに周囲は静寂そのもの・・月の灯りがほのかに周囲を照らしており

森の中なのにある程度遠くまで見える

そして何よりも空気が澄んでいる

・・ここにいるだけだと世界を巻き込む戦乱が起こっているなんて信じられないもんだな

それにしては不可解だ・・。

エトランジェが現れ国の争いが表面化しアッと言う間にこの状況になる

・・事がすんなり行き過ぎている、まるで何かが手引きしている感すらあるな

俺達は事故でこの世界に迷い込んじまったが・・他のエトランジェはどうなんだろうな・・

望まぬ戦いをさせられているところからして来たくてこの地に立ったわけじゃないんだろうが・・・。

・・・・ん・・?

「やぁれやれ・・、一介の兵士襲うのにスピリットとはねぇ」

闇夜の中に見える数人の影、音もなく接近してくる

なるべく死角を利用して接近しようとしているのがわかる、慣れていなきゃ普通の人間が気づくことはないだろうが・・

俺は普通じゃないからな

ラキオス兵装もとっぱらったし動きまわれるが・・正直やる気はしないな・・

まぁ相手は見逃す気はないので結晶体を懐にしまいつつ『崩天』装備してゆっくり起き上がる

・・できるなら装備したままにしていたいがこの世界にゃこうしたグローブってないからなぁ

「いるのはわかっている。でておいで〜」

森の奥に響く声で言ってやる

・・すると音もなく俊敏にスピリットが姿を現した

やはり3人、全員緑色の髪をしており槍を持っている・・防御と支援に優れるグリーンスピリットか

硬いのは苦手なんだけどなぁ

「「「・・・・・・」」」

相も変わらず無口な帝国スピリット、

こりゃラキオスで見たヘリオンやらネリーやらの毒舌娘達のほうが愛嬌があるわな

「非戦闘員とは言わないがぁ・・、兵士襲い掛かるにしちゃ多すぎないか?」

「・・・・」

ジャキンと槍構えちゃって・・ノーコメントですか・・

「奇襲の際にゃ致し方なかったとはできれば殺したくないんだがねぇ・・」

軽く構え、迎撃に備える

その瞬間にスピリットの一人が飛び込んでくる!

そのまま鋭い突きで俺の心臓を狙う・・まったく迷いがないが

正確な攻撃ってのは逆を言えば見切りやすい

「狙いが甘いぜ?」

鋭い突きを手で払い軌道を反らす、それだけで体勢がぐらついてしまうのが槍の難儀なところ

そして戦場ではそれが命取りになる

一気にスピリットに肉薄しこめかみを掴む・・

「・・!?」

「しばらく寝てなさい」


ビリビリビリビリビリ!!!


突如起こる電撃にスピリットの体は軽く痙攣したかと思うと力なく崩れ倒れた

気絶させる程度に力抑えたから問題ないだろう

「命に別状はないさ、さて・・あんたらの編隊はわかっている・・

攻撃担当が気絶しちゃ俺に勝つことは難しいんじゃないか?」

スピリット達は3人1組で行動することが多くその際にはアタッカー、ディフェンサー、サポーターと役割を決めて戦闘を行う

真っ先に攻撃を開始した今のスピリットがそのアタッカーに違いないだろう

・・全員緑だけど・・

「「・・・・・・・」」

まぁ忠告して退くわけもないか・・そういう教育をしているみたいだしな

「はぁ・・気が乗らないからやりたかねぇんだけどなぁ」

「・・・!」

俺が肩を落とした瞬間を好機と見たかスピリットは一瞬にかけて槍を振るう!

「はい!残念!出直してきなさい!」

んなものに当たるかよ!

おまけに今気絶させた奴に比べて突きの速度が明らかに遅い

捌きながらそのままタックルをかまし吹き飛ばすだけで十分対処できた

「・・・!」

まぁタックルかましただけで倒せるはずもなく多少よろめきながらもスピリットは体勢を立て直し再び槍を構える

「・・・ふん、まだやるかよ・・」

ん・・・?



”そこまでです・・下がりなさい・・”



新手か・・、彼女達の後ろから中年のおっさんと今度はブラックスピリットが出てきた

おっさんの服装は黒い軍服のような物、髪は黒くて短めだが〜・・目つき悪・・

これが悪人面ってやつだ、毒舌娘ドモ・・

そしてブラックスピリットの方は長い黒髪をポニーテールに括り服は他のスピリットと若干違っており手甲がやや長く

口元を黒いマスクで覆っている

だが・・目は死んでいない。静かに俺を見つめている

・・どうやらおっさんのほうは上司かなんかなんだろうな、すぐさまスピリットが槍を下げた・・

だが、このまま話し合いになるような感じじゃない・・か

「いきなり襲撃しておいてずいぶんだな・・、制服からしてサーギオスか」

「いかにも。まさかスピリットを退ける兵士がラキオスにいるとは思いませんでしたよ」

「その様子だと俺に目を付けていたようだな」

「貴方に?違いますよ・・。私の目当てはマナ結晶体です・・偵察だけだと何なので手土産にはちょうどいいと思いましてねぇ」

うやらケムセラウト周辺の偵察部隊のようだな・・

にしては随分偉そうな奴だな

「こいつが目当てねぇ・・残念ながら渡すわけにはいかないな」

「やれやれ、大人しく渡せば命だけは助けてあげてもよかったのですがねぇ」

・・むかつくな、所詮は利用する者のくせに・・

「やれるもんならやってみな・・そこで寝ている奴と同じ末路になることは間違いないだろうがな・・」

「・・ふぅ、ソーマ隊の恥さらしですね」

倒れている緑スピリットを見下すおっさん、まぁ・・帝国と聞いた時点でこの程度のことは言い出すだろう

「別に恥さらしじゃないさ・・相手が悪かったってところかな」

「大した自信ですね・・まぁ神剣を持たずしてその戦闘能力は中々なんですが浮かれるとロクな事がありませんよ?」

「そのセリフそっくりそのまま返すぜ」

神剣も戦闘能力もない奴が戦場で偉そうにするなっての

「ふん、命知らずな・・オウカ、殺しなさい」

ニヤリと笑いながら後ろに下がるおっさん・・結局は他力本願じゃねぇか

「承知しました、ドレーパー様・・」

代わりに事務口調で応えながら前に出る黒スピリット

「・・・・、主命により誅します・・手加減はできません」

丁寧に言いながら構える・・ふぅん・・あのドレーパーっておっさんが強気になるわけだ

利用される者にしちゃ・・惜しいな

「良い腕だ・・名乗っておきな、俺に倒される前にな」

「・・・・・、他者に名を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀では?」

・・ごもっとも・・

「悪いな・・、クロムウェル=ハットだ。遠慮はいらねぇ・・全力できな」

「・・承知しました。私はソーマ隊第一師団副隊長『無音』のオウカ・・クロムウェル殿・・ご覚悟を・・」

礼儀正しいオウカだが殺気や闘気に漲っている

「へへっ、ご覚悟って言っているわりには嬉しそうじゃないか?」

目つきでわかる、こいつ・・強者に会う事に喜びを感じているようだ

「・・参ります」

俺の問いかけに応えず踏むこむオウカ!

っ!・・速いな!

だが軌道を見切れば・・!!

咄嗟に身を低くし驚異的な加速で突っ込むオウカの攻撃を回避する!


チッ!


頭を降ろした瞬間髪が少し切れる音がした・・

目で追える速さじゃない・・

ぬっ!?


ズズズズズ・・ドォン・・


うひゃ・・俺がもたれていた木が綺麗に切断されてら・・

とんでもない鋭さだな

「・・次は、貴方の首を刎ねます」

切り倒された木の先からゆらりと起き上がるオウカ、この距離を一瞬でねぇ・・

「デモンストレーションってやつか?残念だがお代はやれないぜ?」

「・・ふっ・・」

マスクで口元がわからんが少し微笑んだようだ、そしてそのままゆっくりと刀を鞘にしまい再び踏み込もうとする

へへ、この緊張感・・あの人以来だ!

「わりぃな、刀相手にゃ負けるわけにはいかないんだ!今度はこっちからいくぜ!」

そう言うとライトニングブレイカーを発動させ両腕に雷を纏わせる

「・・雷・・なるほど・・」

「そう、そこで倒れている緑スピリットは俺の雷に感電して倒れたってわけさ」

「神剣を使わずして魔を操るとは・・驚きです」

「神剣魔法とは系統が違う、ってか詳しい事は知らん!」

専門分野じゃないですからね!

「系統などどうでも良い事・・貴方が強敵・・それがわかれば私は結構です」

「同感だ・・そんじゃいくぜ!『サンダーショット』!」

唸る拳とともに放たれる雷の弾丸!!

威力は小さいが速度はある!

「・・っ!」

咄嗟にオウカは横に飛び回避する

それが狙いだ!

「攻め手に回らせてもらおう!」

回避した方向に突っ込み蹴りを繰り出す!

強烈な一撃が確実にオウカのわき腹を捉えた!

「・・っく!なんの・・!!」

何・・?避けの体勢から咄嗟に鞘を取り出した!


ドン!!


チィ!・・蹴りが入る前に鞘で抑えやがった!

機転の利く奴だが・・流石にその両手で鞘を握る不安定な体勢での攻撃はできないだろう!

「まだだ!」

蹴りを受け止めた衝撃で体を立て直し逆の足を大きく振り上げる

空中戦闘で有効なのは足、この踵落としが回避できるか!!


ぬおっ!?

咄嗟に翼の形をしたハイロゥを羽ばたかせ俺の踵落としから逃れた!?

「覚悟!」


チィッ!!


一瞬で体勢を直しつつ出の速い逆手での居合いをかましやがった!

だが距離が甘い!避けながら放つ技だけに咄嗟の体を仰け反らして何とか回避できた!

「くぅ・・やるなぁ・・オウカとやら・・」

着地と同時に今の斬られた箇所を確認する・・

流石に回避しきれなかったらしく腹から胸にかけて服がすっぱり切れている

・・皮膚も浅く切っているな

「貴方も流石・・ですね・・」

同じく着地して俺を見るオウカ、踵落としが回避しきれなかったようで頭部から少し出血を起こし顔を汚している

「へへっ、手傷は五分五分ってところか・・。次で決めるか?」

「・・承知しました・・。真っ向勝負・・!!」

額の血を拭き腰を低く構えて刀を手に添える

「掛かってきな!」

こちらも腰を落とし構える・・いつでも飛びかかれる姿勢だ

ゆっくりと対峙する俺とオウカ・・

他の連中は手を出すわけでもなく見守っているだけだ

ふん、後ろからの奇襲を警戒しているんだがこれだと心配なさそうだな

「・・・、相手は私一人です・・ご心配なく」

・・感づかれたか

「気遣い無用だ、そんじゃ・・」

「承知・・」



「いくぜ!」「参ります!」



同時に駆け出す!

「唸れ!『ライトニングブレイカァァァァ!!』」

「『雲散霧消の太刀!!』」

刹那、交わる刃と雷拳!!

閃光が迸る中俺とオウカの体は交差して・・着地する


・・・・・

しばしの沈黙の中・・

「痛み分け・・ですね」

先にオウカが呟く、そう、俺の拳は確かにあいつに届いた・・

電撃が体を駆け回りうまく動けないはずだ

そして・・

「悔しいがそのようだな」

俺もすっぱりと左腕を斬られている、俺の攻撃を回避するためか深手じゃないが

それでも攻撃が放てる状態でもない

「くぅ・・、・・ドレーパー様・・これ以上の戦闘は不可能です」

「・・ふぅ、致し方ありませんね。貴方でも勝てない相手ならばここは退くしかなさそうです。

・・ただ・・わかっていますね?」

「・・、承知しております・・」

やれやれ・・

「自分は何もしていないのに罰を与えるつもりか?」

「私は彼女達の管理をしている身です。任務に失敗したのなら相応の罰が必要でしょう?

・・まぁ、彼女にも決して苦痛ばかりでは・・ありませんがね」

ヘラヘラ笑いやがるドレーパー・・なるほどな、言うところの『妖精趣味』か

「役得な事で・・」

「ふん、ともかく・・今回は見逃してあげましょう。ですが・・貴方は帝国にとっても危険な存在。

この私が確実に葬って差し上げますよ」

な〜にが『この私』だ!実際戦うのはオウカだろうが・・

「けっ!てめぇには千年経っても無理さ!

おいオウカ!」

「・・・・」

無言のまま俺を静かに見つめるオウカ

「今回は引き分けだ!その阿呆が俺を狙うってんならまた対峙するだろう!そん時に決着をつける!

だからそれまで剣に飲み込まれずに腕を磨くんだな!」

「クロムウェル殿・・・・、承知しました・・次に会う時こそ決着をつけましょう」

ふと静かに笑うオウカ、それとともに足元がふらつきながらも

気絶している緑スピリットを抱きかかえ一同仲良く森の闇の中に消えていった

けっ・・むかつくな・・

あのドレーパーって奴を仕留めたかったが・・俺の方も腕の出血が思った以上に激しい

治癒にしばらく時間がかかりそうだ

オウカ=ブラックスピリット・・か

あの人以外の刀使いに負けるわけにはいかない・・。

それに、あいつ・・何かサーギオスに属することにためらいがあるようだ

俺達で何とかしてやりたいところだな・・。


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