第四話  「『例外』の存在」


傭兵として戦場を駆けていただけに生命の危機に関する事には感覚が特化されている

それは血の臭いだとか殺気だとか色々だ

だがここは王達の寝所であり城上部・・察知するにしても異常だ

それに臭いはしても他に殺気や悲鳴などは聞こえない

こいつは・・殺す瞬間まで感情を殺せるプロの仕業か・・

だが・・誰の仕業だ・・?



「警鐘が・・一体何が・・」

異常を感じ取ったレスティーナも立ち上がり警戒する

・・・ん・・、

かすかに気配が・・2・・3人・・

足音はない・・

兵達ならば安全が確認できないであろう王女の名前を叫ぶだろう

それに何よりも血の臭いが強くなってくる・・

へっ、ようやく勘が取り戻せたみたいだ・・

「王女さん、下がっていな・・」

「どうしたと言うのです・・?」

「敵さんだよ・・」

そう言うと同時に図書室の扉が吹き飛ぶ・・

木片が焼けているところからして火を使ったんだろう

そして無言のまま中に入るは赤い髪に黒服を着た少女達・・


目に光はなく殺気もない・・正しく人形だな。

「・・スピリット!?それにあの紋章は・・サーギオスの!」

「帝国か。まぁ帝政取っている国が考えそうな事だぜ」

「スピリットが人を殺すなんてそんなことがあるはずがありません!」

「だがこいつは現実だ。剣にこびりついた血の量からして相当暴れたらしいな」

軽く首を回しながら懐から相棒を取り出す

硬度を高めたブラックダイヤを使用したナックルグローブ『崩天』

まぁ不測の事態想定していたが必要になるとはなぁ・・

「いけません、神剣を持たない貴方がスピリット相手では勝ち目がありません」

「とはいえ、敵さん見逃しちゃくれなさそうだしな。

まぁ下がっていな。それにだなぁ・・」

切りかかってくるスピリット達、なるほど・・無駄がない

得物は双剣、ダブルセイバーってやつか・・こりゃ派手だねぇ

だが!


バキ!!


先陣切ったスピリットの一撃に合わせカウンターをかます!

女殴るのは主義じゃないんだが・・黙って殺されるわけにもいかない

俺の一撃がまともに入ったスピリットはそのまま吹き飛び床を転がりながらピクリとも動かなくなった


「『例外』ってのは・・どんな事にでもあるんだよ・・」


神剣使いがいないと思い踏み込んだらしく残った二人も咄嗟に距離を空けて様子を見る

・・ん・・?

今倒れたスピリットが金色の霧状になって消えていく・・

・・これがスピリットの最後か・・、なるほどな・・俺達の戦争の悲惨の欠片もねぇや

「「・・・・・」」

仲間が死んだのに顔色一つ変えない二人・・良い根性だぜ

「女を殴り殺すのは虫唾が走るしやりたかないんだが・・相手に刃物向けたリスクぐらいわかんだろ?妖精さん」

「・・・」

なにやら丸っこい球体を作り出し剣を構える赤い妖精

・・剣の力を使う時に現れるハイロゥってやつだ・・

おっとそう考えたなら近接攻撃は不利と判断した途端に神剣魔法で対応する気か!

ってかもう魔方陣みたいなのを展開しやがる・・

冗談じゃない!マナ結晶体の報告書が燃えるだろうが!

「図書室は!!火気厳禁だぜ!!!」

「「・・っ!!!」」

10の距離を一瞬に0にする・・この踏み込みこそが俺を生き残らせた術だ!

魔法使おうとしていたそのわき腹に俺の拳が突き刺さり鈍い音を鳴らしながら吹き飛ばす

残る一人も同様だ、攻撃のタイミングが遅れた分相打ち覚悟で斬りかかってきたが

うろたえた攻撃なんぞに当たってやるわけにもいかずそのまま心臓に一撃・・

あっけないもんだ、まぁ急所に全力で叩き込んでいるから仕方ないんだろうがな・・

ってかそもそもこいつらももう少し防具つけたほうがいいような気もするんだが・・

「やれやれ、まさかこんな形でスピリットと戦うとはなぁ・・」

「・・・・貴方は一体、何者なのですか?」

呆然としつつも疑惑の眼差しを見せるレスティーナ・・ちょいと警戒までしている

こうなっちゃ芝居も終わりだ

「そうだな・・『スーパーラキオス兵』って事にしておいてくれよ。

さぁ行くぜ王女さん!震えるのも驚くの首かしげるのも後だ!」

「あ・・ちょ・・と!」

レスティーナの手を取り図書室から抜け出す・・

廊下にゃ血痕が残っており王を守ろうとここに上がってきた兵士の死体がゴロゴロ転がっている

・・その中にさっき俺に図書室の鍵を渡したあの兵もいた・・

眼を見開いたまま天上を見上げ息絶えている、信じられないといった表情だ

「スピリットが人を襲うなんて考え方してなければ・・この事態も当然だな・・」

呟きながら階段を駆け下りる・・、被害は相当大きいらしい・・

動いている兵士なんてほとんどいない・・

虫の息な奴も数人いるのだが、俺にはどうすることもできない

致命傷だ


「酷すぎる・・」


後ろでレスティーナが呟く・・温室育ちには人が死ぬ様を見るなんて初めてだろう

「よく見ておきな・・。これが戦争ってやつの真実さ・・」

っと!またきやがった!

階段を降りた瞬間に構えていやがる・・待ち構えていたか

くそっ、感情が欠落している分気配がほとんどない、

今度は青と緑と黒・・バリエーション豊富だこと

「こちとら要人護衛中だ!手加減できないぜ!」

会話にならないと思うがレスティーナの手を離し一気に突っ込む!

「・・っ!!」

それに真っ先に反応し前に出る緑スピリット、話に聞いていたが防御能力に長けているらしい

「挨拶代わりだ!」

待ち構えるのは非常に結構、ならば蹴りをかますのみ!


ゴン!


なぬ・・?スピリットの周辺に碧色の壁が・・

俺の一撃を押さえ込んでいる

「あぁらま・・、味な真似を・・!」

バランスを崩したのを勝機と見たのか、緑スピリットの頭を上から今度は黒スピリットが飛びあがり突っ込んできた!

ウィングハイロゥって翼を持ち俊敏な動きをする黒スピリット、オマケに得物は刀ときたもんだ

「・・・!!」

狙いを定めて抜刀する黒スピリット、高速の居合いだが・・

「なめるなぁぁぁぁ!!!」

刀持った相手には・・どうあっても負けるわけにはいかねぇ!!

それに居合い斬りの対処なんぞ俺の十八番だ!

太刀筋に合わせて深くしゃがみ踏み込む!降下しながらの居合いゆえ斜めにばっさりだ・・

確実に捉えれば必中は間違いない・・

だがそれを見切り数歩踏み込まれたら・・腹ががら空きになる!


ドン!!


綺麗に黒スピリットの腹に拳がめり込む・・それも刹那の間で次の瞬間黒スピリットは力なく宙を舞い出す

「次!!緑!」

黒スピリットに合わせて槍で援護しようとしていた緑スピリットだが黒スピリットが殺られたのを見て咄嗟に防御の姿勢を取る

・・だが甘い

「二度も同じ手は食わないぜ!『ライトニングブレイカー』!!」

雷を纏い唸る拳!止められると思うなぁぁぁ!!!


バキァァァ!!


渾身の一撃は緑スピリットの防御を突き破り彼方まで吹き飛ばす・・後は見る必要はない

「・・・・」

「後はお前だけだ。退くか?」

「・・・・」
元より構えた剣を下げない青スピリット・・

黒い翼をはばたきいつでも突っ込む体勢を取る

こいつも同じだ、相打ちを狙っている。

おおよそお国のために命に代えても邪魔者を排除する・・ってところか

「ちっ・・いけ好かねぇ。・・来いよ、楽にしてやる」

俺の呼びかけに無言のまま飛翔する青スピリット、やはり捨て身だ

だがそんな攻撃で俺を殺れるわけもない。

タイミングを合わし後は・・儚く散っていった

「どれも急所を狙った。人を殺めたといえども自分の意志じゃないだろう・・苦痛は与えないさ」

金色の霧に向かって言うのだが・・それが相手に伝わるわけでもない・・か

ん・・、レスティーナ王女さんが呆然と突っ立っている

「・・王女さん・・どした?」

「帝国のスピリットが・・こうも簡単に倒れるとは・・」

「う〜ん、帝国がどんなものか知らないけど少なくともこいつらよりかは遥かに手を血に染めているからな・・」

「そう・・ですか・・」

なんか夢でも見ているかのような顔だな

「とりあえず安全なところまで走るぞ。

警鐘は鳴っているんだ・・エトランジェやスピリット達の援軍は来るだろうが

同時にあんたを狙っているスピリットも血眼になるだろう

最も、狙いがそれだけならの話だが・・」

エーテル変換施設なんかを狙われたら厄介だ・・が、そこまで見て周れない

ラキオスのスピリットに任せるとする

「・・わかりました、貴方を信じます。安全な場所までの護衛をお願いします」

覚悟が決まったのかキリッと表情を引き締まるレスティーナ

戦闘を見るのも初めてだろうに・・腰を抜かさずに気丈な事だ

「うし、そんじゃ一気に駆けるぜ!ちょいと御免よ!」

「え・・あ・・!?やっ、止めなさい!何をするのですか無礼者!」

王女なだけにお姫様抱っこしたのだが・・無礼なのか?

「あのな〜、王女さん。俺の脚力とあんたの脚力・・同じだと思うか?」

「だ・・だからと言ってどうしてこんな事をするのですか!?」

「つっ走るからさ!別に疚しいことしないから安心しろ!」

外に向けて一気に駆け抜ける・・確か中庭が近いからそこから一気に外に出よう!



・・・・・・・・
・・・・・・・・



その後、追っ手のスピリットは何度か立ちふさがったが問題なく撃破し

無事にラキオス城近くの森に辿り着いた

・・どうやらスピリットってのは三人で一小隊という編隊をしているらしいな

「どうやら城にいた敵スピリットはラキオスのスピリット隊が撃破したみたいだな・・」

意外にすんなりいけたので少々驚きだ。

そして隣にいる王女さんはなんとも言えない表情で城を見つめている

周辺の木々の隙間から冷たい風が吹くのだがもはやそれも感じていないだろう

「・・よもや、このような事になるとは思いませんでした」

「想定外なら奴らも同じだ。あんたを仕留めそこなったのだからな」

王族狙いだったのは間違いない

あそこまで侵入したとなると恐らくは・・

「・・恐らく、ラキオス王達は助からなかっただろうし・・これから大変だろうな」

「・・・そうですね、兵士達だけではどうにも対処できないでしょう・・父様も母様も・・」

「王族はもはやあんただけだ。否応がなしに戦乱に巻き込まれるだろうが・・

逆を言えば流れを変えるきっかけになったのかもしれない」

「・・・・・・・・・・」

深く黙り込むレスティーナ、まぁ現実として受け止めるにしてはショッキングな事だ

・・・だが、受け止めなければ前には進めない

「ショックだろうな・・今すぐ立ち上がることはできないかもしれないが決断の時はやがてくる。

だから・・図書室からここまで来る途中で見た光景を決して忘れてくれるなよ?」

兵士達の死体の数々、感情を持たずに消えていく妖精・・

スピリットという駒に頼りのうのうと塀の中で戦局を見ていてはわからない光景だ

「・・もちろんです・・、忘れたくても、忘れられません・・」

「・・、それでいい。

まぁ深く考えるな・・あんた、スピリットやエトランジェに対して温情的に接しているんだろう?

ならば一人じゃないさ・・決してな」

「・・・・ありがとう・・ございます」

呆然と城を見つめながらレスティーナは一雫の涙を流した、そしてそれが白い肌に消え深く眼を瞑る

その途端彼女の顔つきは一国を従うべき王者のモノへと変わっていく。

「・・・・・どこの誰かは存じませんが助かりました。

貴方が何者かはわかりませんが・・これからの戦いに力を貸してくれませんか?」

覚悟に満ちた眼差しで俺を見つめる

あ〜・・そう言われてもなぁ・・

この兵装のために兵一人アンジェリカがオトしたし、俺達が絡むとこの国はさらに混迷しそうだ

・・国公認で事を進めることができるのは非常にありがたいんだが・・

「悪いな、俺のような異分子を巻き込んだらロクな事がないだろう。

帝国のやり方ってのは気に入らないがあんたと同じ道を歩むことはできない。

・・それに、あんたの崇高な理想が俺なんかで穢れるのはどうも・・ねぇ」

「そんなことありません!現に貴方は私をここまで守り通してくれたではありませんか!」

「そのためにスピリットを殺して・・な。

まぁスピリットだけならエトランジェと変わらないのかもしれないが俺はその他にも色々と葬ってきているんだ

言うなりゃ薄汚れた殺人者って奴さ・・」

「・・・・貴方が・・?」

そりゃ波乱万丈な半生だからな・・

「そういう事・・大丈夫さ。エトランジェやスピリット達がいるんだろ?

互いに信頼できていりゃ負け無しさ

まぁ、俺も手を回す余裕があるのなら影ながら協力させてもらうよ・・」

結束が取れた部隊というのは強い

道具としてしか兵を見ない連中に負けることはないだろう・・。


負けるとしたら・・それは身内の裏切り、

俺達はかつてそれで大切な人を失ったから・・な



「・・・わかりました。無理にとは言いません。

ですが・・せめて客人として招かせてください。この出来事を伏せますので・・」

「あ〜・・そう・・だ・・ねぇ・・」

ご好意ありがたいが・・顔が知れると動きにくくなるな

「是非・・」「レスティーナ様!!」

おっと、ちょうど良い感じにお迎えがきた

「エスペリア!無事でしたか?」

声のした方に振り返るレスティーナ・・


・・・チャンス・・・


「はい、私達は大丈夫です。レスティーナ様はお怪我はありませんか?」

「私も大丈夫です。この方が私を・・・あ・・」

こっちを振り返るレスティーナ、しかしそこに俺の姿はない。

まぁ悪いが隠れさせてもらったよ

「・・この方・・?」

迎えは・・昼間俺とぶつかった子の保護者らしいあのメイド姉ちゃんか

・・結構位高かったのかな

「・・・、いえ、なんでもありません。それで、被害は・・」

「被害は・・甚大です、王や王妃様も帝国の手に・・」

「・・、そうですか・・」

「正確な被害はただ今調査しています・・それよりも第一詰め所が炎上してカオリ様が・・

帝国の手に捕まってしまいまして・・」

「!!・・カオリが帝国に!?そんな・・」

「ユート様もショックを受けております、安全は保障されているようなのですが・・」

「とりあえずは城へと戻りましょう・・それからです」

「わかりました!」

周辺を警戒しながらエスペリアって姉ちゃんとレスティーナは混乱続くラキオス城へと向かっていく

・・彼女は、最後までこちらを振り向かなかった

・・・・その後、夜が明けてから被害の全貌が明らかになった

やはりラキオス王と王妃はスピリットの手によって死亡、第一後継者のレスティーナ一人だけが生き残る結果となった

そして数日後、レスティーナは亡くなった王の後を継ぎ女王となったとともに

今回の奇襲を企てたサーギオス帝国を倒すために体勢を整え、進む事を選択した。

あの悲惨な光景をなくし、自分の理想を叶えるために・・・


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