第二話  「天才の助け舟」


年齢不詳職業(?)スピリットなイオに連れられて洞窟の中を進む俺達

なるほど、内部は意外にもすっきりしている。

薄暗いが置いていかれることはない

まぁ本来ならこうした洞窟って鍾乳石だの暗いところ好む虫がだの結構おどろおどろしいもんだからな

「・・場所によっては台所の永遠の敵が占拠しているところもあるらしい・・」

以前見たことがある・・暗闇の中に蠢く無数の黒い影・・

うわっサブイボが!!

「「はっ?」」

「あ・・いや・・ははは・・こっちの話♪」

「・・そうですか」

ううん、イオって何だか感情の変化というのもがないな。

どこか達観している

「クロムウェル、早くも暴走しているの?」

「んなわけないだろう、洞窟に関する苦い思い出がフラッシュバックしただけさ」

「軟禁でもされたのかしら?」

「・・やめてくれ・・」

・・っと、馬鹿な話をしているうちに奥から光が見えた

「あちらです。少々お待ちください」

一礼して先に向かうイオ、よく見たら何か部屋のようになっているんだな

「・・なぁ・・やっぱここって・・」

「異世界ね。あのイオさんの口の動きからしてこちらの言葉と全く違うし・・・何か違う。

それに気になる単語がね」

「『スピリット』だな。・・やっぱ職業?」

「さてね、ある程度の予測はできているけど確証がないわ・・。情報が少なすぎるし」

「・・まぁ、山の中で得られる情報なんて限りあるしなぁ」

そういや少し肌寒い感じもするな、北のほうなのか・・

おっと、イオが戻ってきた

「お待たせしました。主人も歓迎するとのことです・・どうぞこちらへ・・」

主人?なるほど・・他に人がいるのか

こりゃいい、情報を多く引き出せるか

まぁこんな辺鄙なところに住んでいる限り・・まともな人物じゃないと思うんだけど・・


・・・・・・・


招かれた先は書斎のような一室・・の成れの果て

本が山のように積み重なっておりその部屋の主らしき人物もこれまた本を椅子にして座っていた

っかりっぱな椅子があるのに本が占拠しているし・・

「ようこそ。空き巣か宝探しでもしにきたのかと思ったら意外にまともな人物だねぇ」

バサバサな髪にはだけた白衣の・・女性か。

意外にあっかるい感じの口調でイオとは対極的な存在だ

「そりゃどうも・・、まぁそんな遊びできたわけじゃないんだけどな」

「んんっ?じゃあ私に用なのか?・・どこかの使いとか?」

「いや・・迷子さ!」

キラーンと白い歯を見せて爽やかに応える俺・・いやっ、このくらいやらないと恥ずかしいし・・

「・・はぁ?事態がよくわからんぞ。・・それにその服装、まさか・・」

顎をさすりながら何やら考え出す女性・・

「ううん〜・・有り得なくはないか。ラキオスやマロリガンにも現れたってぇ話だからねぇ」

「いや、勝手に話進めるなよ・・。そもそもあんた誰だ?」

「あたしか?あたしはヨーティア=リカリオン。・・まぁ見ての通りの天才だ」


・・すみません、基準わかりません・・


「ヨーティア・・ね。俺はクロムウェル、こっちはアンジェリカだ。気づけばこの山の中で寝ていてな

ここらがどこなのかま〜〜〜ったくわからん!」

「ここはマロリガン共和国とソーン・リーム中立自治区の国境付近です」

「マガリロン?」

イオが説明するにも一度聞いただけじゃ覚えにくい・・

「マロリガンだ。どうやら相当なボンクラみたいだねぇ」

「うっせい!地名の名前なんて覚えにくいんだよ!」

「・・どちらかといえばクロムウェルが覚えるのが苦手なだけだと思うけど?

でもマロリガン共和国とソーン・リーム中立自治区・・やはり聞いたことないわね」

確かに・・、全く知らない地だ

「ともかく、こっちから情報出したところで理解できるわけでもない。経緯を詳しく説明してくれよ。

それであたしもわかりやすく説明してやる」

まぁ・・結果オーライ?

俺が説明しても意味不明だしここはアンジェリカさんにお任せするか・・


・・・・・・・・
・・・・・・・・


俺達がこの地に来た原因を言った後、ヨーティアは実に興味深そうに頷きながらこの地の話をしてくれた

何でも諸国同士が「マナ」と呼ばれる力を取り合いし小競り合いをしておりその前線に立っているのが

俺達人間ではなくイオみたいな「スピリット」と呼ばれる種族に任せってきりなんだそうだ

そんでスピリットってのは5色に別れそれぞれ特性がありイオは白スピリットと呼ばれ珍しい存在なんだそうだ

スピリットには永遠神剣と呼ばれる強力な武器を持っており人間には扱えなかったらしい
・・
過去形なのはここから北東に向かったラキオスって国に俺達と同じく別の世界から来た奴が

神剣をもって戦うことになったんだとさ

・・どうやら資質があるのかどうかそれを境にラキオスの勢いがついてきて北の小国を纏める勢いなんだって

他にもマナをエーテル化するだの何だの色々説明していたんだが・・

俺の脳のキャパを越えているのでアンジェリカさんにお任せさ・・


「・・気に入らないなぁ・・」


話を聞き終えて素直に一言

「あん?あたしのことか?」

「ちゃうちゃう。そのスピリットってのが戦って人間は安全なところで傍観しているってことがだよ」

「・・ふぅん、その理由は?」

「いやっ、だって俺の世界じゃ戦争になれば下手すりゃガキまで戦場に送り込まれるもんだ。

それを女性のスピリットに任せっきりでおまけに差別するような体質は俺は好きにはなれない

戦争の余波ってやつは想像以上に酷いもんなんだぜ?」

「同感ね。民間人に血が流れない戦争・・理想的なのかもしれないけど悲惨さが伝わらない殺戮に終わりなんてないわ」

「・・はははっ、良い考えだ。そういう意見は嫌いじゃないね」

「それで限りある物の奪いってなぁ・・。そのうちよからぬ事が起こるんじゃないか?」

因果応報、阿呆な事をしたら同様、いやそれ以上の災いがふりかかるもんだ

「それは十分にありうるがな。

まぁあたしとしてはそれ以上にアンジェリカ・・だっけか?あんたの魔法に興味があるね。

神剣を使用せずに行使するだけではなくこっちに来て間がないのにここまで会話ができる・・研究に値するよ」

ここの世界じゃその神剣を使用してじゃないと魔法が使えないらしい

だから神剣魔法と言われているんだってよ・・まぁそれに対する例外的存在が現れたんだから興奮するのはわかるんだが・・

ううん・・眼の色からして・・なんか危険っぽい気がする

「時間があれば詳しい話もしたいところだけど・・そうもいかないみたいね。

帰るための手はずを整えたいし・・。

私に使えるからってこの世界の住民が使えるとは限らないしね」

「なるほどね・・残念だ。まぁあたしもこれから色々と忙しくなりそうだからねぇ・・

全く・・天才暇なし・・かぁ」

「・・んっ?こんな秘境じみたところにいるのに忙しいのか?」

「失敬な奴だな、天才というのは何時如何なる時も忙しいもんなんだぞ!」

・・・それが本当ならば天才は変人と呼ばれるのも仕方ない事だろう

「そんな事よりもそろそろ必要なエネルギー体の問題について話しましょう。

そのマナやエーテルを利用しない手はないけど・・

どうするの?話にあったエーテル変換施設を占拠する?」

「おいおい、物騒な事を言うねぇ。供給している一帯から喧嘩売られるのがオチだ」

「そうだ、強引だぞ?アンジェリカ・・まぁアルマティ出身はそもそも手段を選ばないからな・・」

・・生活の基盤になっているらしいからそんなもん横取りにしたら大騒ぎだ

「じゃあクロムウェル、他に良い手はあるとでもいうの?」

「いや、・・あは・・ははは・・」

・・それを振られると辛い・・



「・・マナ結晶体を利用してはどうでしょう?」



・・おっ、イオが冷静に助け舟を・・

「・・なるほどね。確かに良い手だが・・希少な物だぞ?」

「センセー質問〜」

「なんだい?ボンクラ生徒?」

「マナ結晶体ってなんだ?ってかボンクラ生徒で悪かったな!ごらぁ!」

「そのノリが馬鹿なんだよ。・・理由は定かではないがある条件でマナが結晶化することがあるんだよ。

それを利用すればあんたの儀式に必要な分の力場ぐらいは作れるだろう・・ただ・・」

「ただ?」

「まぁ言ったように大変希少なんだ。

国内で発見されても大概国王が管理している・・まぁ破壊してマナに還元して自国の増強に当てるのがもっぱらなんだけどね」

・・やれやれ、必要な物は国家機密な代物ですか・・

「・・他に手はなさそうね。マナ結晶体を集めつつ術の改良を施して元の世界に戻る・・いいわね?クロムウェル」

「へ〜い・・ってか簡単に言うけどその結晶体が見つかったって噂とか流れるのか?

『本日、この町で大当たり〜!』みたいな」

「やっぱ馬鹿だね・・。機密品だから例え街で見つかってもほとんどの人間には知らされないよ。

ひょっとしたらその存在すら知らない奴もいるかもしれない・・」

・・やれやれ・・それじゃ聞き込みしたところでどうにもならないな・・

逆にそれでマークされそうだし

「やっぱり〜、エーテル変換施設を強奪する線にする?」

「強引って言ったのは誰よ?でも情報が乏しいのは痛いわね・・雲を掴むような話だわ」

「はははっ、上手い例えだねぇ。異世界の格言というのも中々面白いもんだ。

それがある場所を知っていたらあたしも教えられるんだが・・こればっかりはね

前いた国のならば知っているんだがとっくに破壊されているだろうし・・」

「・・、ならばラキオスに忍び込んで情報を得てはいかがでしょう?」

おおっと!イオさん再度助け舟!

「もはや『助け舟のイオ』・・だな」

「は・・?」

「馬鹿は放っておきな・・しかし・・ラキオスか・・流石は私の助手、良い手だ」

「確かエトランジェが戦線に加わり勢力を広げている北国ね・・、なるほど・・」

アンジェリカさんもわかったらしい・・

具体的に何がなるほどなのやら・・

・・お・・・俺って・・馬鹿だったの!?

「あの〜・・説明を〜・・」

「つまり、立て続けに勢力を伸ばしているならば新たに勢力下に置いた土地に関する情報というのはラキオス自身も詳しくないの。

それに体勢が整うまではマナ結晶体のように副産物のような物には目がいかなくなる・・そこを狙うのよ」

なるほどね、結晶体がお目当てで戦争ふっかけているわけでもないだろうしな・・

「そのためにはラキオス城に忍び込む必要がある・・まぁ相当な覚悟は必要だろうがね。・・どうする?」

「ふふふ・・ヨーティア君・・」

「なんだ?凡人が偉そうに・・」

「俺はこれでも俺の国の王に『ノゾキ王』の称号を叩きつけられるがまでの漢だ!忍び込むなんて朝飯前だぜ!」

はっはっは!ノゾキ、これ即ち単独潜入作戦(スニーキングミッション)!

それをこなす俺にとって城に入って情報取ってくるのなんざ楽勝だぜ!

・・ってあれ・・周りの目が白いな・・

「・・、そんな阿呆な称号もらっていたのね」

「まぁ誇りにするもんじゃないね」

「・・・」

イオさんに至ってノーコメントですか・・

「と、とにかく!やるべき事は決まった!後は行動あるのみだ!」

「・・旅に最小限必要な物は揃えておきました。ラキオスまでともなると少々心細い面はあるかと思いますが・・」

何時の間にか荷袋を用意していたイオさん・・縁の下の力持ちたぁこのことか・・

「だいじょぶだいじょぶ。何ならそこらの動物とっつかまえて焼いて食えばいいんだし」

「・・逞しいねぇ・・。生命力に溢れているというか野蛮というか・・」

「・・毒舌に関しても天才だな?」

「ははは、まぁ気をつけるにこしたことはないね。エトランジェだってわかったらそれだけで国に眼を付けられるわけだし」

「生憎俺達には永遠神剣なんて物騒な物はないぜ?まぁそれなりに人殺しのノウハウはあるけどな」

「戦力になるならどうでもいいんじゃないかい?剣の有無も無理やり持たせるかもしれないし」

・・国境越えれば奴隷扱い、まぁ俺達の世界でもよくあることさ

まっ、のこのこ捕まる真似はしないがね

「そんな奴に簡単にゃ捕まらないさ・・それで、ラキオスまでのルートってどうなんだよ?」

「・・サルドバルド王国を跨ぐルートが一番近いのですが近々ラキオスと交戦状態に入るので危険です

ダラムから北上してラキオスを目指したほうがいいですね」

地図を広げて説明をするイオ・・よくよく見れば不自然な地形だよな・・

東のほうが絶壁だし砂漠と雪原が間近だし

ダラムっというと・・旧イースペリア国か。

なんでもマナ消失って大爆発が起こったらしいから

ダラムに到着するまでは人気が少ないと見て間違いないだろうな

「了解した。何か何まで悪いな」

「いいってことさ。こっちは暇つぶしにやっていることだしね

時間があればもうちょっと手伝ってやれるんだがねぇ・・」

「おいおい、忙しいんじゃないのか?ってかどっちだ?」

「休憩をするのも立派な行動だ。それに置けるリラクゼーションとして凡人に付き合った・・そういうことだ」

・・む・・屁理屈っぽいが・・

「まぁいいや。こいつは礼だよ・・異世界の硬貨だ。レアだろ?」

この状況下じゃ俺達の使う金は無意味だ

こんな事ぐらいしか有効に利用できないだろうしな

「っと・・金は投げるもんじゃないぞ?」

「どの道この世界じゃ使えないもんだ。気にするな」

「まぁ頂いておこうかな?記念として面白そうだ

材質なんか〜気になるなぁ〜」

ニヤニヤ笑うヨーティア、ううむ・・なんだかよからぬ事を考えてそうな笑みだな

「それじゃあ私からも・・」

アンジェリカも礼としてコトンっと散らかった机に小瓶を置く

透明な紅色をしたおしゃれな化粧瓶・・だが・・こいつは・・

「悪いねぇ・・あたしは化粧ってのが嫌いでねぇ」

「違うわよ、これは媚薬・・。携帯小型用だけど中々のものよ」

・・あんた何常備しているんだよ!!

「媚薬・・かぁ・・珍しい物持っているんだね」

「・・この世界では稀か?」

「いんや、出回っていることは出回っているらしいんだけど・・あたしは興味なかったからね。

実物見るのも初めてさ」

「まぁ気晴らしにでも使ってくれたらいいわ。数滴飲み物に混ぜるだけで効果抜群だから

・・翌朝までは続くと思うわ」

「・・ふぅん・・。まぁ機会があれば使わせてもらうよ・・」

女二人じゃ使う機会もないだろうけどな

「よし、そんじゃ出発しようか・・日の傾きからしてまだ日没まで時間がある。そこそこ行けるだろう」

「まぁ焦らなくてもいいだろう。今日は泊まっていけばいいさ」

「ヨーティア様、客人用の部屋などございませんが・・」

「ベットにも椅子にもなる万能な物がここにあるだろぉ・・」

ニヤリと笑うヨーティア・・猛烈に嫌な予感するんだが・・

「まさか、ヨーティア様。客人に本の上で・・?」

「大正解♪流石はイオだ♪」

「おいおいおい!本の使い方間違っているだろうが!」

「な〜にを言うか!ここにある本の内容なんて全てあたしの頭の中に収納済みだ!用がなくなった本を有効に活用しようという

私の親切心がわからんかねぇ・・」

「・・わからん・・、ってか屈折した解釈だと思う・・」

まぁ郷に入れば郷に従え・・ここは大人しく従うことにしますか・・

地べたになると考えれば・・マシか・・


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