第十九話  「休息、そして決戦へ・・」



”様子は・・どうですか・・?”

”エスペリア殿・・、相変わらず・・です”

”そうですか・・。アンジェリカ様・・本当にこのままでいいのでしょうか?”

”今回はいつもより長期間眠っているけど・・命には問題ないわ。その内目を醒ます・・と思うわ”

”で・・すが、もう気絶してかなり経ちます。流石に・・”

”瀕死の状態であんな真似するからね。ほんと・・死んでも後先考えない人だから”




・・・う・・・



「く・・う・・なんだ・・人が寝ているのに・・?」

人が良い気持ちで眠っているのにうるさいなぁ・・

「クロムウェル殿・・!?」

覗き込むように視界に入るは・・オウカ・・

ここは・・どこかの屋敷の一室か・・

ん・・オウカ・・?

「・・よう、無事だったか」

元気そうなオウカ、頬のコケは消えている・・

「は・・はい、クロムウェル殿のおかげです」

「ようやく目を醒ましたわね・・あまりまわりを心配させないでよね?」

「アンジェリカ・・ようやくって・・どのくらい気を失っていたんだよ?なんか頭が重いんだけど・・」

「おおよそ半月ほど・・ですね」

うえっ!?

「マジかよ!?なんでそんなに!?」

そりゃ体がけだるく感じるわけだぜ・・

「赤スピリットの高位神剣魔法の直撃を受けた状態で気功使ったからでしょう?

やっている事が自殺行為と変わらないわよ?」

「・・いつもの事だよ。いつもの」

「まったく・・・、それで死なれたら私がタイムさんに合わせる顔がないじゃないの」

「死ぬつもりでやってんじぇねぇっての・・・。それよりも・・ここどこだ?」

このままだとアンジェリカの説教が炸裂しそうだ、さっさと話題を変えるか

「ここはリレルラエルのスピリット駐屯所です、拠点制圧と同時にここでの拠点として使用しています」

丁寧に説明するエスペリア、だが・・半月寝ていたのにリレルラエルか・・

「戦いは膠着状態に入っているのか?」

「サン・スミルとゼィギオスからスピリット部隊が大量に押し寄せてしばらくは防戦一方になっていたの

・・まぁ、数が多ければ多いほどこっちに取っては好都合だったから・・まとめて片付けたわ」

ニヤリと笑うアンジェリカさん・・。

まぁ広範囲の魔法やらトラップも得意なんだ、リレルラエル奪還に編成を組んで数で押し切ろうとしても

とんでもないしっぺ返しがあることだろうしなぁ・・


「数日前にエトランジェ殿達がサン・スミルとゼィギオスを占拠しました。

後はユウソカを占拠すれば『秩序の壁』は崩れサーギオスへの道は開けます」


・・流暢に話すオウカだが・・

「『秩序の壁』って・・何・・?」

「まぁ城塞を使用した結界みたいなものよ、サン・スミル、ゼィギオス、ユウソカに専用の施設を設置して侵攻を阻止しているわけ。

その内に二つを占拠して残るスピリットはユウソカ防衛に結集しているのよ」

・・ふぅん〜・・

「チェックメイトの3手前・・ぐらいか?」

「そうなればいいんだけどね、こっちも大変だったのよ」

・・むっ?

「大変とは?」

「ユート君が死に掛かっていた事ね」

なぬ!?

「おいおいおい・・俺が寝ている間に何があったんだよ?」

「帝国のエトランジェ、シュンがユート君の前に現れてね・・彼の妹のカオリを人質にしてブスリ・・ってところかしら」

・・・帝国らしいエトランジェだな

「シュン様は・・カオリ様に執着していたはずです。話を聞く限りシュン様は正気が保てていないような気がします」

「・・オウカ、そんなもんなのか?」

「ユート様もそのような事をおっしゃっていました」

「・・剣の影響かなんかか知らねぇが・・狂人相手ってのは厄介だな。気を引き締めないと足元すくわれるぜ?」

「そんな事は承知よ。まぁ・・ユート君の暴走はエスペリアさん担当ということになったから安心していいんだけど」

「え・・あ・・はい・・。ユート様は・・私が・・お守り致します」

・・??

ほんと、色々あったらしいな・・

「それはそうと、俺が気絶した後のリレルラエルの状況はどうだったんだ?

オウカは無事なのは見ればわかるけれどエーテル変換施設暴走とかが気になるんだが・・」

「そうね、オウカは貴方が気功を施したおかげで何とか毒にやられず解毒に成功したわ。

こんな事もあろうかとヨーティアと一緒に何種類か用意していたから、ほらっ・・今はもう頬のコケもなく元気よ

エーテル変換施設については機能を停止している状態ね。

ドレーパーはどうやら暴走させる方法を知らずにガムシャラに行おうとしたみたいなの。

それが地のマナに影響して地震などは起こったけど・・

無茶苦茶いらったから変換施設として使い物にならなくなったわ」

・・行き当たりばったりなクソヤローだぜ・・

「そんじゃ、オウカは晴れて自由の身か・・。よかったな」

「は・・はい・・。これもクロムウェル殿のおかげです」

静かに微笑むオウカ・・ううむ・・こうして見ると違った印象を受けるな

「うし、状況がわかればジッとしてもいられねぇか・・ユートはどこにいるんだ?」

「あ・・はい、ラキオスでお休みになられています。

意識は取り戻したものの戦闘をするにはまだ無理があったので・・」

・・相当深手だったんだな・・

「じゃあ仕方ないか・・。だが・・散々眠ったおかげで体がなまってら・・」

「余り無茶しちゃだめよ?まだ本調子じゃないでしょうし・・」

「わ〜ってるよ。ほらっ、オウカも俺になんて構わなくてもいいぜ?一応は捕虜扱いだろうが自由なんだろう?」

「はい・・ですが、クロムウェル殿のお傍に・・いたほうがよろしいかと思いまして・・」

・・・照れている?

なんか・・妙な展開になってないか?

「あ〜、ありがとう。まぁ俺の看病に疲れているだろうし・・少し休みなよ?」

「は・・はい・・」

「・・ふふふ・・」

アンジェリカが静かに笑っている・・あの笑いは悪魔の微笑・・

何かオウカに仕込んだな

ゆすりネタを与えないように気をつけておこう



・・・・・・・・・・



数日後

ようやく体調が元に戻り体も元通りになった

駐屯所以外の街は活気がほとんどない。

ラキオス領になったのだがそれを歓迎せず逆にレスティーナの思想に反発さえしている

だがラキオスのスピリットが駐屯しているわけだから反乱を起こすわけではなくひっそりと暮らしている

その様子は余りにも不気味なので俺も余り街にはでないようになった

以前のラキオス以上に居心地が悪いからな

まぁそんな感じで過ごしている内にサン・スミル、ゼィギオスからキョウコとコウイン、他メインのスピリットが、

ラキオスからはレスティーナとユートがリレルラエルに集まった。

前線はネリーやセリア達が守っているし帝国も攻めに回る様子がないのでそのまま今後の作戦会議となった


そして一同集まるはリレルラエル駐屯所屋敷の居間・・


「悠!無事だったの!?」「悠人、まったく・・ドジしてんじゃないぞぉ?」


エーテルジャンプって特殊な転移装置にて瞬時に遠方から飛んできたユートに先ずはキョウコ、コウインが声をかける

流石は親友ってところだな・・

「わ・・悪い、もうなんともないから・・」

「ユート様!もうお体は大丈夫ですか?」

キョウコとコウインを差し置いていきなり抱きつくエスペリア・・

な・・なんだ!?

「エスペリア・・、この通りさ。心配かけてすまなかったな」

「いえ・・ユート様がご無事ならば・・私はそれで・・」

「エスペリア・・」「ユート様・・」


ぬおお・・二人が手を取ると同時に体の周りにピンク色のラブラブオーラフォトンが・・!

「・・お・・おい、アンジェリカ・・あの二人は・・どうしたんだよ?」

「見たまんまでしょ?恋仲になったのよ。

貴方が寝ている間に一悶着あってね。

サーギオスのソーマがエスペリアを誘拐してそれをユートが助けたのよ」

・・へぇ・・そうだったんだぁ・・

「ってことはソーマって野郎もそのままオダブツか・・オウカの件で殴ってやりたかったなぁ・・」

「あんたの分もまとめてぶった斬ってやったよ。・・それに・・クロムウェルのおかげでエスペリアを助ける事ができたんだ」

・・なんですと?

「俺、寝ながら援護したのか?」

・・だとしたらすんごい夢遊病だぜ・・

「そうじゃないよ。クロムウェルがオウカを神剣の呪縛から救ったって事を聞いたから・・俺

も神剣に心を奪われかけたエスペリアを救うことができたんだよ」

「・・ユート様・・」

「・・・・・、美しい話だが・・そのラブラブオーラフォトンはなんとかしてくれ・・」

二人して拳をあわしたらハートの装飾したラキオス王の波動が出そうだぜ・・

『ラブラブオーラフォトン天驚拳』ってな・・

「・・コホン、再会の喜びはこのくらいにしてよろしいでしょうか?」

・・お・・レスティーナが何気に怒っている・・

まぁ、一般人はエーテルジャンプは使えないってことだからそのまま遠距離旅行になったわけだしな

「レスティーナ様・・申し訳ございません!」

「わ・・悪い・・、レスティーナ」

「・・まぁいいでしょう。それよりもクロムウェル・・無事に目が醒めて何よりです」

「おおっ、少しばかり眠り過ぎちまったらしいが・・な。

まぁアンジェリカさんがいたんだし、皆そんなに苦労しなかっただろ?」

「・・寧ろあんたがいなくてもアンジェリカさんがいればそれでよかったって感じかしら?」

・・相も変わらず酷いね、キョウコさん

「まぁ、確かにアンジェリカさんは大活躍だったよ。迎撃に回るとこれほど厄介な相手はないぜ」

「うんうん!オルファの魔法よりももっとたくさん敵さんを殺していたよ!」

・・オルファ・・、それは目を輝かして言う事じゃない。

「トラップを設置したら面白いようにかかるものね・・・。

ゲリラ戦なんてこの世界にはないみたいだし」

「いあ、それよりも風を操る術がほとんどないんだから見切りようがないんだろ?

ウィングハイロゥで突っ込んできても風で軌道反らせるだろうし」

「・・確かにハイロゥでの踏み込みを風で妨害されては威力が下がるのは必至、アンジェリカ殿の力には感服いたします」

ウルカさんはいつでもどこでも真面目ですな・・

「まぁ・・俺が寝ている間に人道に背いた行いをしていなかったらそれでいいよ」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

・・何故、そこで黙り込む・・?

「お・・おい・・!」

「ん・・、それよりもクロムウェル、体は・・大丈夫か?」

「お・・おう・・この通りだ」

アセリアが流すとは・・、な・・何しやがったんだ!?

・・まぁいい・・知らぬが仏だ・・

「ふふふふ・・」

この笑いが、周りを狂わしている気がする

・・キニシナイキニシナイ!!

「それはそうと、レスティーナ。保護したスピリット達は大人しくしてくれているかな?」

「ええっ、目覚めた者もいますが大人しくしてくれています。・・神剣は預からせてもらっていますが・・」

そりゃな・・、まだ人間を信じられてない者のほうが多いだろう

「説得は帝国がぶっ壊れてから・・だな・・。そこらは期待しているぜ

でっ、これからはどんな布陣にするつもりなんだよ?」

ほとんどラキオスの優勢だが油断はできない・・師曰く”窮鼠猫を噛む”って言うし

「はい、全ての勢力をユウソカに向けるわけにはいきません。

精鋭で一気に制圧しつつも秩序の壁崩壊とともにすぐさまサーギオスに向けて進軍できる体勢はとりたいと思っています」

まぁユウソカに集中してもいられんしな・・

「そこで、部隊を二つに割って行動しようかと思っているんだ。ユウソカ奇襲部隊とサーギオス侵攻部隊。

どちらも辛い戦いになることは違いないだろうけど・・やるしかない」

「ユウソカはスピリット部隊が結集している分陥落が困難、対しサーギオスの方は秩序の壁が崩壊するまでは待機だけど

その後が大変・・だな、相手は精鋭揃いにもなるだろうし・・ユート、編成は決まっているのか?俺はどっちでもいいぞ?」

顎をさすりながらコウインが言う、状況を見極める目は大したもんだ

「あんたはユウソカに行ったほうがいいんじゃないの?今の状態だとユウソカの方が侵攻しにくいことは見えているんだし・・

あっ、でもそうなるとニム達はサーギオス侵攻隊ね♪」

「・・不公平な編成だぜ・・」

「ま・・まぁ、モラルを保つためにそれはやむをえないとして・・。俺とエスペリアはサーギオス部隊の指揮を執ろう。

シュンの奴がまた何かしてきてもいい様に警戒したいからな。そっちはコウインとキョウコ・・頼む。

後は編成次第だな。・・クロムウェル、あんた達はどうする?」

・・う〜ん・・そうだなぁ・・

「ユウソカのほうがいいか・・な。裏方が前座を務めたほうが盛り上がるもんさ・・」

「それならば私もユウソカね。それでサーギオス侵攻部隊の方も少しは回せるでしょう?」

アンジェリカさんがいるのといないとではだいぶ違う、それはもう周りはわかり切っている

「そりゃねぇ・・。正直、目の前で竜巻出されたらどうしようもないものね」

「ああっ、俺達が防御固めてもあれは耐えられないだろうな・・。帝国にとってはマナ消失並の脅威だ」

「ふふふ・・褒めても何も出ないわよ?」

・・褒めているんかい・・?

「そんじゃ後の編成は任せるとするか・・。それで、レスティーナってそもそもなんでここに来たんだ?」

「そもそもとはなんですか、帝国の人間がわが国に反発しているのを鎮めに来たのです。

私が視察に来たとなればそれなりに対処もできましょう・・それにもうすぐ決戦です

代表者である私が前線におらずして士気が保てないでしょう」

「なるほどなぁ・・。まぁスピリットだけでなくラキオス兵や女王さんがこの地に来たとなればギャーギャー騒がなくなるか・・」

「でも、その分女王様の身の危険はあるんじゃなくて?御大の命を狙う輩も少なくないでしょう?」

確かに、まぁ帝国の人間が女王を殺そうとするとは思えない

・・そんな活力もなさそうな連中だからな

考えるとしたら帝国側からの刺客だ・・な

「そのぐらいの覚悟は出来ています。私にできるのは・・このぐらいですから」

ううむ、立派だねぇ・・。

「まぁレスティーナやラキオス兵はしばらくは俺達と一緒にゼィギオスで待機だろう。

吉報を待っているぜ・・」

「待っていてくれてもいいんだが〜・・今度の編成はキッチリしてくれよ?」


・・・ニムントールさんは世話が焼けるから・・ね・・




・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・
・・




「・・、ううむ・・確かに、キッチリしてくれとは言った・・言ったけど・・」



サーギオス中部にあるサン・スミルの駐屯所の館にて俺を待っていたスピリット、それは・・

「何?ユート様の命令じゃなければ私だって嫌よ」

「全くそうね、共に行動をしてきたネリー達のほうが適任だと思うんだけど・・」

「まぁまぁ〜、いいじゃないですかぁ〜」

セリア、ヒミカ、ハリオン・・・

いあ、ハリオンはいいですがセリアさんとヒミカさんがよく了承したものだと感心する

因みに他の面々はコウイン&キョウコ、そして俺達。

大部隊相手にするにしちゃ少々人数が物足りないかと思うけど、

なんてったってエトランジェ2人とイレギュラー的な俺達、

そして実戦経験豊富なスピリット3人だ・・精鋭部隊って言っても過言じゃない

ただ・・

み〜んな嫌そう♪

まぁこの中の3人は俺に対して嫌悪感持っておりますから・・

「まぁ・・頼んます・・。そんじゃスピリットさん達はそのままで小隊組めば丁度良いし

エトランジェ夫妻はアンジェリカがサポートって感じですかい?」

「ちょっ!ちょっと!何を馬鹿な事を言っているのよ!!?」

「いあ、馬鹿な事か?」

「馬鹿な事よ!余り変な事言うと・・また『かます』わよ!」

うげっ!ハリセンを取り出しやがった!

「わ・・わ〜ったよ!だから物騒なもんはしまえ!」

見た目殺傷能力皆無なのにあの威力・・下手な神剣よりも強力だぜ・・

「まっ、冗談はさておき・・私はコウイン君とキョウコさんと行動したほうがいいみたいね」

「ああっ、それでメインで暴れてくれたらいいだろう。

強力なエトランジェコンビにおっそろしい風魔法がプラスされるんだ

ちょっとやそっとじゃ止められねぇぜ?」

「じゃあ〜、私達は楽できそうですねぇ〜」

ハリオンさん・・・・

ひょっとして緑スピリットって面倒くさがりの集団か?

「・・ちゅうか、あんたら三人は対赤スピリットがもっぱらになるんじゃねぇか?

アンジェリカもバニッシュスキルもどきはできるけどやっぱ本家には本家が一番いいんだし」

「それもそうだよな。特にクロムウェル・・あんたなんか神剣魔法食らえないだろう?俺達はまだ慣れているけどな」

「わかるか?コウイン・・。『アポカリプス』直撃で瀕死さ・・」

・・元々魔法攻撃は苦手なところもあるんだけどな・・

「だらしがないわねぇ・・。まったく」

う゛・・

っというか!赤スピリットのヒミカさんにそんな事言われたくねぇな!

・・言い返せないけど・・

「だらしがねぇさ〜・・だから、セリアのおやびん!アイスバニッシャーで頼んます!」

「・・・、仕方ないわね。でもアンジェリカ様は神剣魔法に対する抵抗はあるのですか?」

「私は気にしなくていいわよ?それに・・火には慣れているから・・ね」

「へっ、慣れている・・?」

驚くキョウコ・・う〜ん・・まぁ、余り打たれ強い見た目じゃないしな

「ふふふ・・、そうねぇ・・この子と同じ名前で『ヒミカ』って炎術師とお友達なのよ」

ヒミカの頭を撫でながら懐かしそうに呟く

・・そういやいたな、眠り姫みたく眠りこけていたからどんな関係なのかは今ひとつわからなかったけど

仲が良い同僚にして親友・・って感じだったかな?あいつが心許せる数少ない相手だろう

「わ・・私と同じ名前・・ですか?」

「そっ、使う術も炎で似ているけど・・性格はハリオンさんみたいな子でね。私と同じ講師として働いていたんだけど

ちょっと生徒に苛められたら泣き出して手当たり次第魔法を連発していたわ」

・・やっぱ、アルマティって変人の聖地だな

「れ・・連発・・、それで・・死者は・・?」

「魔法を学ぶ学校だから幸いゼロ、おまけに防御魔法の訓練になるとわざと怒らせる生徒までいてね。

よく注意したわ」

・・そりゃな・・

「・・おおよそ先生って感じじゃないな・・」

「私もそう思うわ、コウイン君。

でも本人にその事言った途端に発作でドカンってやられてからは何も言わないことにしたわ」

至近距離でドカン・・って・・

「そん時は無事だったのかよ?」

「咄嗟に防御壁を作ったからね。

だから不意打ちで神剣魔法使われても私には効かないわ

・・あの子ほど突拍子もなく強烈な魔法を放つ子はいないんだし」

・・・・・、青スピリットのバニッシュスキル訓練にはもってこいか?

「ま・・いいや。そんじゃ明日出発としようか」

「了解〜、今日はゆっくりしましょ〜♪」

堅苦しい話が終わったと思った瞬間クダけるキョウコ

・・ううむ・・、切り替えが早いねぇ・・

まぁ・・俺も同じ・・かな?

明日からまた戦いだ、今日はゆっくり休むとするか

・・・・・・・・・・・・・・・

その夜

別荘にでも使われてきた館に七人だけで一夜を明かすことになりやや人気が少ない感じとなっている

当然一人一部屋、夕食はアンジェリカが滋養に効くモノを用意して皆無言で平らげた

・・生物実験マンセーな割には意外にきちんとしたモノを作れるのに何気に皆驚いているんだ

毒と薬は紙一重、食後から何やら体の調子もよかったりするしな

「・・・ふへぇ・・まぁ色々面倒だなぁ・・」

何気に居間にあった棚を調べたら酒があったので一人頂くことにした

それほど飲まないんだがまぁ・・気分だ

因みに今女性陣は全員で風呂に入っている最中

俺とコウインは強制的に一番風呂で『覗くならば死を覚悟せよ』と

キョウコの一言に苦笑いするしかなくこうして時間を潰している

コウインも覗きの前歴があるらしいんだけど今回はあっさりと覗きを否定した

・・ひょっとして・・ロリっ子がいないから?

ううん〜・・奴とは戦友とも言えるがどうもその趣味は理解できん

思えばクラークさんもロリ趣味だしなぁ・・、義妹に手を出すしコスプレさせているし

そこまでの魅力というのがロリにはあるのだろうか・・?

ううむ〜・・今度タイムにゴスロリドレスでも勧めてみるか


「よう、一人寂しく飲んでいるじゃないか?」


「ん・・?おおっ、コウイン。まだ寝ないのか?」

いつも着ているコートを抜いて白シャツにズボン姿、首には数珠を下げていら

「まだ早いぜ?俺にも少しくれよ?」

「ああ・・、だが果実酒じゃないぜ?お前の若さじゃ少しキツイんじゃないか?」

「はははは、俺は口は大人・・ってことさ」

・・へっ、言うねぇ・・。

そういわれたら飲まさないわけにもいかないな。グラスに注いでやるか

「おっと・・すまねぇ・・」

グラスに注がれる黄金色の液体をちびりと飲みながら軽く息をつくコウイン

・・仕草からして相当飲めるな・・

「・・にしても、その首に巻いている数珠・・結構な代物だな」

「・・おっ、そうか?まぁなにやらの呪いみたいなもんがあるとかないとか〜・・

まぁ真面目に聞いていなかったらからただのお守りさ

・・っというか、これが『数珠』って何で知っているんだ?」

「・・ああ、俺の世界にもそういう形状で『数珠』ってもんがあるんだよ。東の島国にだけあるんだけどな」

「・・へぇ・・、俺達が住んでいた世界も同じさ。育ったのも東の島国なんだ」

・・ふぅん・・

「全く違う世界だというのに・・共通点はあるもんだな」

「ははは・・全くだ。ファンタズマゴリアだって俺達と似たところだってあるんだ。きっとどの世界も元は同じだったのかもなぁ」

コウイン達と似ている・・ああっ、ユートがやたらと嫌がる『リクェム』って野菜だな

確か同じ野菜があいつの世界にもあって『ピーマン』って名前らしい

・・前者の方がかっこいいんだけど

「そうだな・・クゥ!・・野郎と酒ってのもたまには悪くないな」

思ったよりも度数高いが中々良い味だ

「まっ、酒は静かに飲むもの・・っていうしなぁ・・」

「お前、意外に渋いな・・コウイン」

「ははは、まぁ性分だ。・・それよりも少し教えてくれないか?」

ん・・?

「なんだ?なんでもいいぜ?」

「あんた、元の世界に戻れるのにまだ戦っているんだよな・・なんでだ?」

「なんで・・って・・言われてもなぁ」

「いや、な・・。気になってさ・・、あんたやアンジェリカさんは神剣を持っていない。

この世界との関わりというのが俺たちよりも薄いだろう、

それなのにまだ戦う。俺にはそれが少し不思議に思えてな」

関わりが薄い・・なぁ・・

「単純な事さ・・コウイン」

「えっ?」

「神剣がどうこうなんて関係ない、俺はヨーティアやレスティーナに世話になった・・だから手を貸す、それだけさ」

「・・単純だなぁ・・」

「深く考えてないだけかもしれないがなぁ。

それに・・この事態を見てそのまま還るのは寝覚めが悪いってもんだよ」

「それはそうだけどな、それだけで命張れるなんて・・立派だぜ?」

っと言っても我ながら馬鹿な真似していると思っているしアンジェリカさんも今回の原因があいつだから

何も言わないだけなんだろうしなぁ

「褒めても何も出ないぜ?それに・・お前だってキョウコを助けるために親友と戦おうって決意したんだろ?

その心意気のほうが立派じゃないか?」

「ははは・・・、まぁ・・必死だったからな。それに結局は悠人のおかげで今日子も助かったようなもんなんだし・・」

「だが、お前の助けなくしてあいつは救えなかったんじゃないか?」

「おいおい、それこそ褒めても何も出ないぜ?」

「ははは・・そうだな、悪い・・だが、結局俺達・・」

「不器用だよな・・」

グラスを傾けながら苦笑いする俺達・・

なんだかね、お互い損な事やっているもんだぜ

ん・・?

なんだ・・、居間の扉にキョウコ達がいてら

「・・どうした、お前ら?」



「「うわぁぁ!」」



俺に声をかけられて動揺しているヒミカ&キョウコ、セリアは額に手をついて「やっちまった」ジェスチャーしている、

唯一ハリオンだけは特にリアクションがない

・・おっとりしていて反応しないのか、実はかなり冷静なのか・・

後者だったら嫌だなぁ・・

「おい、今日子・・どしたんだ?」

「あ〜・・いや〜・・何でもないのよ!ねぇ!ヒミカ!?」

「え・・はい!そうなんですよ!」

「全然何でもなさそうに見えないんだが・・ってかアンジェリカはいないな?」

「アンジェリカ様は〜、まだ入浴中です〜」

・・まっ、団体行動が苦手そうだけど・・、じゃあこいつら何しようとしていたんだ・・?

・・・・・

あっ、なるほど!

「風呂上りに一杯ってか。これ以外にも数本あるが〜・・結構度数高いから飲み過ぎるなよ?」

「ちっ、違うわよ!それに光陰!何お酒飲んでいるのよ!!」

「ははは・・、気分転換だ♪」

「な〜にが気分転換よ!あんた未成年でしょう!?」

「そんな法律〜、ラキオスにあったかぁ・・?」

確信犯な笑みのコウイン、ペースを握るのが上手いな・・

「し・・知らないけど!未成年が酒飲んじゃいけないのはどんな世界でも一緒よ!」

「・・そうなのか?クロムウェル?」

「ん〜・・俺はガキの頃から飲まされていたぜ?」

「こんな不良変態なんか参考にしない!」

「・・おいおい、好きで飲んでいたんじゃないっての。無理やり泥酔させて殺そうとしていただけだからなぁ・・」

・・あのクソ女、本当に俺を殺したかったんだからなぁ・・

「・・サラっと物騒な事言っていないか?」

「・・まっ、それなりの半生だということだ。

俺の世界でも飲酒の制限はあるけど・・飲みたい奴が飲めば良いって感じだからなぁ・・

それに、こいつ・・飲み慣れているぜ?」

「ぐ・・光陰・・・あんた知らないうちに・・」

「まっ、家柄色々と付き合いもあるんだよ。そんなことより・・4人して何やっているんだよ?

コソコソ動かれたらこっちが気味悪いぜ」

「そうだよ、人を変態呼ばわりする以上は盗聴などはご遠慮願いたいなぁ」

非は向こうにある・・ふふふ・・

たまにはこっちから言ってやらんとなぁ

「ぐ・・お風呂に入っていてあんた達が覗きにこないから・・

さらによからぬ事を企んでいるだろうと思って警戒していただけよ」



「「・・ひど〜・・」」



「ぐ・・」



「「いくらなんでもそれはないんじゃない〜?キョウコさん〜?」」



「ハ・・ハモリながら言わないでよ!悪かったよ・・、もう!」

「いくら俺達でもこんな時期に自ら危険を冒さないっての、なぁコウイン?」

「そうだそうだ!」

「大体コウインはネリシア達じゃないと萌えんのだし」

「そうだそうだ!」

「「「「「・・・・・・」」」」」

・・ううむ、ここまで堂々とロリ宣言していたらなんだか尊敬の眼差しもんだ・・

「・・まっ、それは置いておこう。せっかくだ・・お前達も飲めよ?」

「わ・・私達・・が?」

ん・・?ヒミカが目を丸くして驚いてる、飲んでいてもおかしくないと思ったんだけど・・

「何だ?飲んだ事がないのか?」

「スピリットには酒類は支給されませんからね・・」

「んじゃ良い機会だ。景気付けに飲んでけよ?」

「それじゃ〜・・頂きます〜」

「ちょ・・ちょっと!ハリオン!何いきなり同意しているのよ!?」

「せっかくなんですから〜、ヒミカもセリアも楽しみましょ〜?」

「ハリオン・・、そうね。明日からまた激戦なんだし、気を休める事ができるならそれもいいわ」

お・・おお・・セリアさんが同意した・・

言ってみるもんだな

「セリアまで・・二人がそういうならば私は反対しないけど・・キョウコ様はどうします?」

「わ・・私も飲んだことないけど・・皆が飲むんなら・・ちょっとだけならいいかな・・」

「へへへ、なんだよ。結局今日子も飲むんじゃないか」

「う・・うるさいわね!それじゃ、入浴中のアンジェリカさんにも言ってこようかな?」

・・、あいつ一人で入浴ってのもそれはそれで危ないんじゃねぇの?

髪の毛とか採集してそうだし・・

「それはいいよ、どうせ盗聴しているだろう」

「へ・・盗聴?」

「・・たぶんな・・。まぁそんじゃグラスでも用意するか・・あっ、因みに肴は会話だけな

宴会になったら明日に響くし・・」

・・・、まぁ・・そこまで盛り上がる面々でもなさそうだけどなぁ・・・


・・・・・・・


とりあえずは人数分のグラスに酒を注いで渡してやる

一同興味津々の様子だ

「なんだか〜、黄色いですねぇ〜」

「すごい・・独特な匂い・・本当に美味しいの?」

「確か、城下町で奇声を上げて飲んでいた人がいたから・・それは間違いないと思うけど・・」

「っというか光陰・・こういうのって・・水で割らないの?」

・・流石にキョウコだけは酒の知識は少しはあるらしい

「阿呆、んなもんロックに決まっているだろうが!」

「そうだぞ、今日子。薄めてしまってはせっかく作ってくれた職人さんに失礼だ!」

「あ・・あんた・・ねぇ・・。まぁいいわ・・。それじゃ、いただきま〜す」

キョウコに続き一同グビグビ呑んでいく

良い飲みっぷりだ



「「「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」「美味しいです〜♪」



ハリオン以外何やら悶えてますな

「胸が!胸が熱いぃぃぃぃ!!!」

「な・・何これぇぇぇ!!」

「の・・喉が焼ける・・!!」

ヒミカ、セリア、キョウコさんは免疫ゼロですな

「青いなぁ・・諸君。ハリオンは大丈夫なのか?」

「はい〜♪味わい深くて〜・・フラフラきて美味しいです〜♪」

・・もう出来上がってませんか?

「ハ・・ハリオン・・良く飲めるわね・・。何かの気付け薬と同じじゃない・・これ・・」

「でも〜、何か気持ち良くありません〜?」

「確かに頭が少し軽いけど・・味はずごいわね」

「ほんとほんと・・あんた達よく平気ねぇ・・」

グラスに残る液体を凝視しながらキョウコさん、でも顔は赤いね・・

「お子様だな、今日子〜。こんなもんは一気飲みしてナンボ!もっとガンガンいくぞぉ!」

おおっ!コウインが酒瓶を持ち3人のグラス無理やり注ぎ出した!

何気にこいつも酔ってないか?

「ちょ・・ちょっと!勝手に何しているのよ!?」

「残したらダメだぜ?三人とも・・」

「え・・ええ〜・・こんなの飲めないわよぉ・・」

・・なんだかんだでキョウコの声が艶やかになっとるなぁ・・

まぁいいや、酒は百薬の長と言うし・・

どうせ慣れないんだから早々に引き上げるだろう

・・・・・・・・
・・・・・・・・

しばらくして・・


「ほら〜!コウイン!あたしが注いで上げるってんでしょうが!!」


コウインに睨みながら絡んでいるはキョウコ

・・・・ではなく・・ヒミカ

酒瓶片手で腕をまくっている・・、目が据わっているのが怖いね

「す・・すんません、明日があるんで・・勘弁してください」

対しコウインはすっかり萎縮している・・、ううむ・・呑むと大人しくなるタイプ?

「ああっ?あたしの酒が飲めないってのかぁ!?脳みそにフレイムレーザーかますぞワレェ!?」

「すんません、すんません・・うぇ・・気持ち悪ぃ・・」

・・二人とも明日二日酔い決定・・

「こぉいん〜♪こっち向いてぇ・・♪」

コウインの腕に掴みながら甘えているキョウコさん・・、酔うとデレデレなんですね・・

「ヒミカさん、すんません、明日ほんとやばいんで・・」

対しコウイン、日頃とまるで違う甘えたキョウコに気付くことなく酒臭いヒミカさんに怯えている

・・これって悪酔いしやすい酒だったのかなぁ?

・・・ん・・・?


「・・どうせ私なんて・・高飛車で冷淡で血の気がなくて・・可愛げなんて全くない女なんだわ・・」

・・・・・

・・セリアさんが部屋の隅で三角すわりしながらブツブツ言っている・・

どうやら酔うと暗く自虐的になるらしい・・

「・・だいたい私が接し方が下手なのはアセリアが悪いのよ、何を言っても「ん・・」しか返してこないし教官に怒られても
同じ返事しかしないからこっちがどうやっていいかわからなかったんだし
あんな無愛想、無鉄砲、無表情なのと一緒だったらこんな嫌な性格になっても仕方ないじゃない・・そうよ、悪いのは全てアセリアよ・・
それなのに一人バカみたいに訓練して有名になって・・私の努力が霞んで見えるじゃない。
皆を纏めるのも大変なのにアセリアったらいつもいつもいつも自分中心でスタスタ行くんだから・・」

怨々と独り言を呟き続けるセリアさん、怖いので無視しましょう

「クロムウェル様〜♪おかわりいかがですか〜♪」

「おっ、ハリオン、お前は変わらないんだなぁ・・」

「そうですか〜?顔が少し火照ってますけど〜・・良い気持ちですぅ」

二コリと笑いながら酒を注いでくれるハリオン・・ううむ、良い嫁さんになれるだろうなぁ・・

「ははは、意外と酒豪なのかもな。・・おっとっと、そんぐらいで」  

「はい〜・・しかし〜お酒っていいですね〜・・とっても〜フワ〜ってします〜」

む・・、良く見れば笑顔のまま上半身が振り子のように揺れている

大丈夫そうに見えてかなり酔っているな・・

「お・・おい、大丈夫か?ふらついているぞ?」

「だいじょ〜ぶですよ〜、もっと飲みましょう〜♪」

「誰もいない明後日の方向向いてしゃべっている時点で大丈夫じゃないだろう・・、程ほどにしておけよ」

「いやですね〜、まだまだ大丈夫ですよ〜♪メッです〜・・はふぅ・・(パタ)」

・・笑顔のままダウンした・・

気持ちよさそうなのでソッとしておくか

「・・まっ、戦争中だと言えどもこのぐらいの余裕があってもいいってことだな!」

「・・これは少し羽目を外し過ぎよ?」

ん・・おおっ、アンジェリカさんが寝巻きのまま登場だ。

・・こいつぐらいだな、着替えとかしっかりしているの

「よぅ、随分長い風呂だったな〜?」

「別に髪を採取していたわけじゃないわよ?」

はははは・・やっぱ読まれてる・・

「まぁ気にするな、そんで・・何していたんだ?」

「二日酔いに効く薬の調合よ・・、この様子じゃどうせ皆二日酔いでしょうしね・・

そんな理由で進軍を遅らせないでしょう?」

あはははは・・

「悪ぃ、ここまではしゃぐつもりはなかったんだけどなぁ・・」

「別に・・本人の意思で飲んでいるんだから自己責任よ・・それに、私も混ぜてもらおうと思ったしね」

怪しい笑みを浮かべて隣に座るアンジェリカさん・・

ううむ・・肉食獣が獲物を狙う時のソレに近いですな・・

「食べたりしないから安心して・・」

ニヤリと笑いながら俺のグラスを取って酒を飲みだす。

ま・・まぁ・・ただ酒を飲むだけだ・・

「そんじゃ、薬あるんだし飲みまくるか!」

これは浮気じゃないぞ〜!タイム〜!


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