第十八話  「桜花狂咲」


エーテル変換施設である神殿は結構単純な構造らしい

入り口からそのまま一本道、楽なんだがその分警戒心が強まっていくんだがなぁ・・

その後伏兵はいないし・・

だが、この通路の先に何やら不気味な空気が漂っているしその中で感じた事のある気配がある

・・オウカ=ブラックスピリット・・

だがその気配が少し変わって感じる・・これもこの施設とさっきから起こっている地震のせいなのか・・

・・考えても仕方ない、今は駆け抜けるだけだ!



突き当りと思われる一際大きな扉・・あそこだな!

一気にけり破る!


バァン!



勢い良く開かれる扉・・、視界に入る異質なる建造物・・

そして・・

「な・・何!?きさまは・・!!」

ドレーパー・・だっけ?

まぁこんなヤツはどうでもいい。

大きなドーム状の広間のようなこの空間には巨大なマナ結晶体らしきものに剣が突き刺さって宙に浮いている・・

・・これが・・変換施設の中心・・?

はじめてみるが・・すごい違和感を感じる、異世界の文明ってのが今更ながら感じられるな・・

結晶体の前にドレーパーが立ち祭壇みたいなのに手をつけている

そしてその前にオウカが突っ立っておりおまけのように数人の帝国兵が・・

「・・・本当だったか・・、やれやれ・・」

「貴様・・何故ここにいる!?」

ドレーパーが驚いている・・?

なるほど・・、罠だと心配したんだが普通に情報が漏洩していたわけ・・か

「悪の臭いがしただけさ・・ご無沙汰だなぁ?オウカ?」

「・・・・・・」

・・!?

・・目から力が失っている・・?

「ふ・・はははは・・!無駄だ!こいつはついに我が忠実な部下となったのだ!」

・・神剣に心を奪われた・・のか・・

「こいつが・・な・・」

「くくく・・流石にしぶとかったが独断で単独行動を行った罪として私とソーマ様が裁いたからなぁ!

流石のこいつも快楽に溺れたのだよ!」

「へぇ・・、そんで、それでも評価が上がらなくスピリットが支給されないから使い物にならん兵士で対処している・・っと。

挙句今までの不始末とオウカの罰則のとばっちりで追いやられてマナ消失起こしてラキオス軍を滅ぼして帳消しにするつもり・・か」

「貴様・・」

図星だな・・、良い意味でも悪い意味でも・・わかりやすい野郎だ・・

「残念ながら俺が来た以上それも叶わないだろうな・・。ここだと逃げ場はない・・覚悟しな」

「ほざけ!貴様こそここで葬ってくれる!!

帝国にたて突く異能者を仕留めただけでも汚名返上にもなろう!お前達!さっさと攻撃しないか!!」

近くにいる兵士を蹴っ飛ばして急かすドレーパー・・

正真正銘のクズだな

まぁ、こんなのは何処にでもいるんだろうが・・

「・・俺は今とても機嫌が悪い。邪魔するなら・・死ぬぜ?」

「ぬ・・う・・おおおお!!」

「でぇぇぇぇえい!!」

たじろぎながらも向ってくる帝国兵・・てめぇらもドレーパーと同罪だ・・

襲い掛かる槍を軽く捌き脳天に本気で突きを放つ!



ボン!っと何かがはじけるような音がして兵士はそのままフラフラと倒れる

・・脳みそ潰れたかなぁ?

「警告には従うものだぜ・・、さて・・三下のドレーパー君部隊も残すところオウカとお前だけになったか・・」

「く・・オウカ!ヤツを殺せ!!」

「・・・」

無感情の瞳のまま俺を見つめるオウカ・・命令には絶対服従なところは変わりはなくふらりと祭壇から降り立った

「よぉ・・ラキオスで文を渡したのは・・お前だったんだな?」

「・・・・・・」

「これ以上その馬鹿に阿呆な事をさせないがために無茶を承知でそんな事したのか・・

その心意気は感服するよ・・」

「・・・・・・」

何を言っても無反応なオウカ・・他のスピリットと同じく人形だな・・

「だが、俺が求めるのは心あるお前との戦いだ。

そのソーマとか言う奴に何されたのか俺は知らないが・・お前はそんな事に屈する奴でもないだろう?

・・目を醒ませ」

「・・・・」

ゆっくりと足を広げ抜刀の構えをするオウカ・・

心を奪われたスピリットが元に戻る事は前例がないとヨーティアは言っていたっけ・・

だが、前例がないだけ・・だ

「言葉は無用・・か、ならばぶん殴って目を醒ましてやる!!!」

不本意な形だが俺をここに導くためにこいつは心を失ってしまったんだ・・

なら、それを取り戻し・・後ろの馬鹿の愚行を食い止める!!

「・・・・」

無言のまま漆黒のハイロゥを広げ突っ込んでくるオウカ・・

気迫も何もない無機質な剣を放つ・・

神剣に心を奪われた者は力が強いと言われるが、あのオウカの一撃とは思えない・・


「ディフレクト!」


軌道を見切り弾く!

鋭い一撃だが・・魂が篭っていない。

軌道を見切れば脅威にならん・・

得物を弾かれ大きくよろめくオウカの頬目掛け全力で拳を振る!


「・・・・!」

まともに入り吹っ飛ばされるもすぐさま体を捻り体勢を立て直す

・・戦闘能力自体は上がっている・・が、剣に乗せる心がない

「そんな剣で・・俺が倒せるのか?」

「・・・・」

無言のまま再び構える・・

「どうしたオウカ!さっさと殺せ!」

外野が・・!!



「黙れ!クズがぁ!!」



「ひっ・・!!」

俺の剣幕に完全に飲まれていやがる・・こんな小物に・・な

「俺とオウカの戦いだ・・てめぇは後で殺してやる・・。

ここから逃げ出さない以上・・暴走させることもできないだろうからな・・」

「・・くっ・・!」

けっ、やはりマナ消失とともに心中する気はさらさらないらしい

「ふん・・、オウカ・・一つ教えてやらぁ・・。剣士ってのは身体能力でその強さが決まるんじゃねぇ・・

魂が篭っていなければどんな俊敏な攻撃もナマクラだ。

そしてそのナマクラが・・今のてめぇだ」

「・・・・」

「お前は俺を倒したいんだろう?まぁ・・神剣なんぞに心を奪われている場合じゃないはずだ」

「・・・・」

無言で踏み込み再び居合いを放つオウカ、機械的に同じ軌道で放っていやがる


「いい加減にしろ!」


居合いを放つオウカの腕を掴みオウカの頬に平手をかます!

その衝撃で口覆うマスクが剥がれる・・

「・・・」

瞳の力は失われたまま素顔を見せるオウカ、確かに頬が少しこけているな・・

ちっ・・、掴まれた腕にさらに力をこめて戦おうとしていやがる

「こんなもん不要だ・・」

膝蹴りをオウカの手に放ち神剣を手放させる・・

衝撃で宙を舞い落ちる神剣、それでもオウカは戦う事をやめようとしない。

「・・・・・」

「オウカ!」


パァン!


もう一度全力でひっぱたく!遠慮もない一撃に吹き飛びながら持ちこたえる・・

口から血が出ているが・・

「・・・」

無言のまま俺を見つめるオウカ・・、ちっ・・どうすればこいつの目が醒めるんだよ!?

「目を醒ませ!オウカ!お前はそんなに弱い奴じゃない!!

神剣なんぞに負けるな!」

「・・・ク・・ロ・・ム・・」




!!!



目に光は篭っていないが俺の名を言った!?

「お前・・」

「ク・・ロム・・ウェル・・ど・・の・・」

感情が・・戻っていく・・

やってみるもんだぜ、まったく


「こ・・ここまでの苦労が!おのれ!こうなったら・・」



・・何?オウカの刀を手にとってドレーパーの野郎が突っ込んできやがる!?

ちっ・・、オウカはまだ神剣の支配から完全に立ち直っていない!

くそったれが!!


「死ねぇ!出来損ないがぁ!」

「・・させるかよ!」

こうなったら!オウカには悪いがあいつの体を蹴り飛ばす!

「・・くっ!」

まだ弱っているオウカなだけにそのまま吹っ飛んで倒れる・・刺されるよりかはマシだ!

「く・・おのれぇ!」

「いきなり襲うな!このクズが!」

オウカを蹴り飛ばしたその体勢のままドレーパーを蹴る!

こちらは手加減なし、まともに顔面にかましてそのまま吹き飛ばす・・衝撃音からして歯が何本か折れたな

神剣手放して無様に転げまわりやがった

「へっ・・、神剣を持とうが使い手がヘボけりゃなぁ・・」

「ぐ・・お・・おのれ・・私の顔に・・!!」

「小ざかしい事をするからだ」

俺とオウカの戦いだ、邪魔をすれば容赦はしねぇ・・

全く・・、つくづく品がない野郎だぜ。



「神剣の主として命ずる。マナよ、爆炎となりて世界を包め・・」



ん・・!?

何!?入り口から赤スピリットが入ってきた!?



『アポカリプス』


ま・・ず・・!!

回避するよりも速く爆炎が体を駆ける!伏兵・・だと!!

「ぐぅぅぅっぅ!!!こな・・くそ!!」

爆炎を纏い吹き飛ばされる・・、まともにそれを受けてしまい受身を取る事も出来ず壁に叩きつけられちまった・・!

まずいぞ・・・

「ちっ・・、直撃か・・」

まともに戦闘は・・できねぇな・・、激痛が走ってやがる・・


あれだけの威力を放つ魔法を使うスピリットだ・・戦闘能力は高いだろう

俺も援軍が欲しいな〜・・

って・・ふざけている場合じゃねぇか・・


「援護に来てみれば・・無様なものだな・・ドレーパー・・」


「き・・さま・・。今までどこにいた!?」

「貴様の命令よりもソーマ様の命令が優先される。前線の様子を見ていたのだ・・

よもや、前線よりもこちらのほうが危機的な状況とは思わなかったのだがな・・」

「ぐ・・、だが!伏兵を見逃していた貴様らにも非がある!」

・・仲間割れ・・か?

「言い訳は見苦しいぞ?そのために貴様の部隊に留守を任せたのだ。

・・外の部隊もラキオススピリットに敗れたようだ

もはや脅しではなく本当にマナ消失を起こすしかないようだな」

「・・許可が出たのか!?」

「シュン様も了解を頂きパスコードも頂いた・・、できれば『求め』のユートを生き残らせるようにとのことだったが戦況は思わしくないのでな・・」

「わかった・・、だが、退路は確保できているのだろうな・・」

「ああ・・できているさ・・」

ニヤリと笑う赤スピリット

・・違うな・・足の遅い人間を起爆スイッチにして置き去りにする気だ・・



「そ・・そうか・・ふふ・・ははははは!やはり私の作戦は素晴らしい!」



「・・ふん、それはそうと・・神剣を持たぬ異能者・・、危険だ。この場で始末する・・」

ちっ・・やっぱ見逃してくれないか!

「やれやれ・・不意打ちしておきながら手加減してくれないのか・・」

「当然だ・・。『紅蓮』のエスメラルダ率いる小隊を打ち破りオールラウンダーすらモノともしない男・・。

帝国にとって非常に危険な存在だ・・ここで確実に殺す」

神剣を構えゆっくり近づく赤スピリット・・、こうなったら・・

きしむ体に鞭入れてチャリオッツで刺し違えるか・・

っというか、チャリオッツ使用しても満足に戦闘できるかどうか。

神剣魔法は恐ろしいもんだ・・

「何・・!?上級兵のあのエスメラルダ達をだと!?」

「ふん・・だがそれも終わりだ、死ね・・・!」


「くっ・・!」


南無三!


振り下ろされるダブルセイバー・・それがやけに遅く見える・・

これってほんとにやばい・・?


「やらせません・・!」


!?


神剣が俺の体に届く前に赤スピリットにぶつけ、吹き飛ばす黒い影・・あれは・・


「き・・貴様!?」


オウカ=ブラックスピリット・・。

神剣を片手によろめきながら俺の方を見つめる

その瞳にはしっかりとした意思が乗っていた

「お前・・」

「クロムウェル殿・・かたじけありません。・・・ここは私にお任せください」

マスクなしの素顔のオウカ、こうして見ると幼く見える

「・・任せるも何も・・俺は満身創痍だっての・・」

心を取り戻したオウカ、お手並み拝見・・か・・

「オウカ=ブラックスピリット・・貴様・・神剣に心を奪われたはず・・!」

「そ・・そうだ!一度剣に飲み込まれたら二度と元には戻らない!」

驚く赤スピリットとドレーパー・・

「剣に心を奪われても・・、声は聞こえます・・。

私は彼との一戦のため深き闇から舞い戻ってきました・・」

「下らん、心を取り戻したとて体力は消耗している・・。そんなにその男と戦いたいならハイペリアで仲良くやっていろ!」

ハイロゥを展開して構える赤スピリット

「死する気は今はありません・・。そして・・貴方なぞに敗れるほど我が剣は甘くもありません」

フラリと刀を鞘に収め居合いの構えを取るオウカ・・

確かに俺の攻撃が効いているのか神剣の支配を払ったためなのか相当疲労しているみたいだ

「き・・貴様!私がいなければ解毒はできん!所詮は長く生きられぬのだぞ!それでもいいのか!」

「・・・・、死は承知・・例え貴方に盛られた毒が体を蝕もうとも私は戦いの中で散ります。

そして・・私に死を与える者は神剣の呪縛から解き払ったクロムウェル殿こそ相応しい・・

故に・・その命、貰い受けます」

・・やはり・・アンジェリカの推理通り毒を盛られたのか・・

「狂ったか!?貴様の命を救えるのは私だけだ!その命を自ら捨てるのか!?」

「・・私が今まで生きていたのは強者にめぐりあうがため、そして強者と戦い戦士として死ぬために・・

そのために毒の苦痛も貴方の辱めも耐えてきました・・。

そして私は強者とめぐり合えた。

それで死ぬ事が狂った事というのならば・・私は存分に狂い咲きましょう」

「・・そこまでだ・・。消えろ!」

忌々しく吐き捨てながらオウカに襲い掛かる赤スピリット、神剣魔法も強烈だが・・通常の攻撃も鋭い

親衛隊レベルか・・?

しかしオウカは微動だにせず踏ん張るように構える

そして走るダブルセイバー・・オウカの視線はそれを瞬時に見切りヒラリと回避する

余裕だな、オウカは・・

心を取り戻したこいつの実力はサーギオスの中でもトップクラスなのは間違いない

「くっ・・!」

「封刃無音の太刀・・!」

大振りの一撃で隙が出来た赤スピリットにオウカが漆黒の太刀を放つ!


斬!


黒い衝撃が奴を襲い吹き飛ばす・・、スキルを封じるオウカ独特の技

頼みの綱の神剣魔法を封じられてしまったら、いかにあの赤スピリットと言えども分が悪すぎるだろうな

「き・・さま!」

漆黒の闇が電撃のように体を駆けながら赤スピリットはオウカを睨みつける

だが、その動きは鈍いな

「覚悟・・雲散霧消の太刀!!」

その隙を見逃さず跳躍し高速の居合いを放つ・・

無音の太刀で動きを制限させた赤スピリットは迎撃することもできずその一撃に霧に還って逝った

流石だぜ・・

「後は・・貴方です・・」

体をふらつかせながらさっきから縮こまっているドレーパー向けて歩き出す

思えばあのおっさんが一番オウカの強さを理解しているんだよな・・

「ひ・・、き・・貴様・・私を殺すのか!?」

「・・・、これ以上貴方に従う道理はありません・・。

そして・・根源たるマナを悪用する者にこの大地で生きていく資格もありません

・・ご覚悟を・・」


「やっ!やめろ!私に近づくな!!」


「・・・」

ゆっくりと剣を構えドレーパーに止めを刺そうとするオウカ・・情けはない

だが、動きが少しおかしい・・


「ぐ・・ぬ・・・がはぁ・・。こ・・こんな・・時に・・!!」


急に苦しみ出し膝を地につけるオウカ・・、毒・・なのか?

「ひ・・ひひひ!その苦しみ・・!解毒薬が切れたようだな!」

「くっ・・」

胸を抑えながら耐えているオウカ、対しドレーパーの野郎は態度を変えて狂い笑ってやがる!

「ははははは!そうなっては流石のお前と言えどもどうになるまい!

私にたて突く愚かなクズめ・・、こ、この私の手で殺してやる!」

そう言いながら飾りとしか思えない腰の剣を抜きやがる・・けっ・・ふざけやがって・・

「・・、く・・クロムウェル殿・・申し訳・・ありません・・」

こちらを向き謝罪するオウカ、覚悟が伺えるが・・諦めるのには早すぎる!


「ははは!私が作った毒だ!所詮はその苦しみから逃れることはできん!

はは・・ははははは!!!

せめて私の手で楽にしてやる!!」



そうはさせるか!!!


ヴァイタルチャリオッツ!!!

「ぐ・・ぬ・・おおおおおお!!!!」

アポカリプスの一撃でガタがきている体を強制的に起き上がらせる!

チャリオッツ仕様でもやはりキツイ・・

だが、それでもこのクソ野郎を止めるには十分だ!!!

「クロムウェル・・殿・・?」

「な・・何故立てる!?神剣魔法をまともに食らったんだ!動くのもままならぬどころか死んでもおかしくないはずだ!」

「てめぇには理解できないだろうな・・、戦士ってのはぁ・・その気迫で不可能を可能にするもんなんだよ!」

「嘘だ!そ・・そんな事私は認めない!」

「うるせぇ・・!好き放題スピリットを玩具にしやがって・・、相応の傷みを味あわせてやるよ!」

「くるなぁ!うわぁぁぁあ!!!」

ガムシャラに剣を振り回すドレーパー・・!

そんなもので俺を止められるはずもなく残る力全てを使って奴を殴る!

「ぐあぁ!ひぃ!や・・め!助け・・!!!」

余裕がねぇ、全力で急所を狙う、鼻間、眉間、心臓、目を速攻で殴る!殴る!!殴る!

「これで・・終わりだぁ!!」

最後の一撃!!

渾身の力での蹴りで吹き飛ばす!!


「ぐぼぉあぁぁぁぁ!!!」

顔の骨が砕け人の顔とは思えない醜い表情のまま吹き飛ばされるドレーパー!

蹴った瞬間に内臓が破裂する感覚が伝わった・・致命傷だ!

そしてダメ押しとばかりに暴走させようとした結晶体に衝突し、醜い男にその心に相応しい無様な最後を迎えた・・

「はぁ!はぁ!はぁ!!」

ちっ!くそ・・!たった数発かましただけで息が上がってやがる!

こりゃ普通なら絶対安静状態なんだろうな・・

「クロ・・ム・・」

「オウカ!毒で痛むのか!?」

俺の事は後回しだ!まずはこいつを何とかしないと・・!

「すみません・・、再戦を迎えずに・・。私は・・これまで・・です・・」

抱き起こしたオウカは力なく呟く

・・こんな華奢な体で戦乱を駆け抜けたのか・・

「バカ!下らん事をぬかすな!張り倒すぞ!!」

「で・・すが・・もはや・・解毒する術など・・私に・・は・・」

「こっちにはその手のことのスペシャリストがいる!もうすぐここに辿り着くんだ!」

「そ・・です・・か・・。さすが・・わか・・て・・ぐ・・うぅぅぅ!!

汗をかきながら尚も苦しむオウカ・・

くそっ、こうなったら・・あの手だ!



コォォォォォ・・・



手に微弱な陽気をためオウカの体に翳す・・

以前タイムやアンジェリカにも行った陽気を使った治癒法だ。

これをやる度に『お前死ぬ気か?』って注意されるんだが・・今俺にできることはこれしかない・・

「・・え・・?こ・・れは・・?」

・・よし、苦悶の表情が少し和らいだ・・

「・・・俺の力・・ってところさ。

お前の身体を活性化させている・・専用の解毒剤がなくても体の解毒作用を活性化させて

痛みを軽減させることぐらいはできるさ・・」

「クロムウェル・・・殿・・」

「んな目で見るな・・。それよりも、直にラキオスのスピリットや俺の連れが来る。

そうなったらアンジェリカって名前の奴に解毒を受けてくれ・・」

「貴方は・・どうなさるのですか・・?」

「へへへ・・これをやったらな・・しばらく眠ってちまうんだよ・・。

まぁ・・それなりの代償ってのもあるんだがな」

「そ・・そんな!私なんかのために・・!」

「取り乱すなよ・・らしくないぜ?

俺と再戦するんだろ・・なら・・大人しくしていろ・・」

「クロムウェル殿・・」

「ぐ・・ちっ・・きついな・・。ったく・・間抜けに神剣魔法をまとも食らっちまったからな・・」

汗がダラダラ出てくる、それとともに体から力が抜けてくる・・

「いけません、無理をされては貴方の体が・・」

「後味悪いのよりかはマシだ。それにお前をここで死なせるわけにはいかないからなぁ!」

・・ったく、しょうもないことで命張っているよな・・俺・・

ん・・?


「クロムウェルさん!無事ですか!?」
「いたいた〜!」


あれ・・、ヘリオン?それに他の連中も何時の間にかこっちに向かって来ている・・

やれやれ・・変換施設内だと気配が探りにくいみたいだな

「よう・・無事だったか?」

「街は制圧したよ!それよりも・・何やっているの?」

「この黒スピリットを助けてやっているんだよ・・本隊は到着したか?」

「ええっ、今到着してこちらに向ってます」

「うし・・じゃあ・・アンジェリカにこいつを頼むとだけ伝えてくれ・・」

「そんなの自分でしなよ、面倒・・」

・・こんな時でも・・面倒かよ・・、ったく・・

「俺は・・少しできなさそうだからな・・任せた・・ぜ・・」

陽気の使いすぎで訪れる後遺症・・、発声をしながらそのまま意識はパタリと途絶えた。

「ク・・クロムウェルさん!?」
「えっ!?ちょっと・・倒れたよ!?どうしよう!?」
「どうしよぅ・・ニムゥ・・」
「う・・神剣魔法で何とかやってみる・・」

・・ほんと、しばらく起きられねぇぜ・・・


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