第十三話  「リレルラエル侵攻戦」


翌日

まだ夜が明けきらないうちに俺達はラキオスを出発した。

見送りなんぞいらないと思っていたのだがまた徹夜していたヨーティアと

それに付き合っていたイオだけが城門前まで見送ってくれた

ヨーティアの野郎は何度も無駄な時間だのなんだの言っていたが結局は最後まで見送っていた

・・口は悪いが良い奴なんだろう。

対しイオは口数少なく「ご武運を・・」っとだけ・・

2度目の見送りも簡素なものだがそれがイオらしいと言うかなんというか・・

まぁ最後にゃヨーティアにスピリット隊の出陣の日を確認しておいた

主役の前座が間に合わなかったならかっこ悪いから・・なぁ・・

そんでもって数日後にはケムセラウトに到着

アンジェリカの風の補助魔法がまたしても大活躍したからな・・

山一つぐらいならば風でおもっきり飛んで越えてったし

・・ああいうの、慣れていないとすんげ〜怖いですよ?ほんと

最高度でサルドバルトが見えたぐらいなんだしそっから急激な落下すんだからな・・

ま・・、だから早く着いたわけでもあるから文句は言えない

っというか文句を言うと後が怖いんだよ・・



・・・・・・・・



・・・ケムセラウトは以前のままののどかさだったが戦争開始の緊張感と最近建造された奇妙な建築物が妙に目に付いた

話によるとヨーティアが開発した代物でスピリットやエトランジェにのみ有効な代物らしく

住民の関心はまったくない。

そしてスピリット隊はまだ到着しておらず、戦争はまだ始まっていなかった

これは好都合、このまま慎重に南下をすればリレルラエルに到着できる

ただすでにケムセラウト〜リレルラエル間には帝国のスピリットが配置されているらしい

さらにリレルラエルに到着するにはサーギオスが建築した『法皇の壁』ってのがあるらしくそこを越えればサーギオス領になる

「・・地図を見る限りにゃこの途中の森辺りに偵察部隊が潜んでいると見て間違いないな」

リレルラエルから南に向かう道は封鎖されていたので一旦町を出てから少し回りこんでリレルラエルへの街道に出た

面倒だがケムセラウトの代表にお願いして封鎖を解いてもらうわけにもいかないしな

だが流石に・・人っ子一人いない。

まぁ戦争を起こす両国を結ぶ唯一の道だ。

うろうろしていたらとばっちりもらうこと間違いなし・・だろうな

「とりあえずは森付近まで進みましょうか。そこまでなら何もないでしょう」

「ああ・・そうだな・・」

アンジェリカに促されて街道沿いを進む・・、

地図だと川を越えて少ししたら街道は森の中を通りその先に『法皇の壁』がある

地形からして森までは安全だろう。身を隠す物がほとんどない平野だからな

「ラキオススピリット隊の出発ってもうすぐだっけ?」

「ええっ、今日にでもラキオスを出るらしいけど・・ヨーティアが言うにはすぐに追いつくだろうから急いだ方がいいって言っていたわね」

「おいおいおい、これでもケムセラウトまで最速で来たんだぜ?

風の術なんてないあいつらがそんな簡単にここまでこれるかよ?」

「さぁ、詳しい事は教えてくれなかったわ・・、含み笑いを繰り返すだけだったし」

科学者の悪いところだ・・

「まっ、裏方になる限りにゃ表方に顔をあわせるわけにもいかんしなぁ・・」

「見つかったらその時はその時よ。貴方が半殺しに合った後で事情を説明するわ」

「・・できれば・・半殺しになる前にお願いしたいところなんですが・・」

あのキョウコって女・・、怖いですし・・

「因果応報って言葉・・知っている?」

「・・すみません・・」

こうなったら遭遇したならとことん逃げ切ってやる!

「やれやれ、それにしても相手の数は多いのは確かね・・戦闘に入ったら二手に別れて各個に相手する?」

・・そうだな・・

「対多数戦はお前の方が得意だろうが相手の数もあるからな・・。

敵を分散させて後は通信しながら行動するか」

「了解、森の中にいる限りこちらから通信はできそうだから、後は成り行きね」

「・・俺の目がないからって片っ端からスピリットを残虐な方法で殺すなよ?」

この女はそういうところに容赦がない

ある意味心強いんだが〜・・、人としてねぇ・・

「わかっているわよ、これでも好きでスピリットを倒しているわけじゃないのよ?」

・・嘘つけ!これでもかってぐらい挑発しておいてエグく殺したやろがえ!

「・・本当ですか?」

「貴方も・・もう少し他人の心を読むようにするべきね」

悪戯っぽく笑うアンジェリカさん・・、いや・・この人の心理はまったく理解できない・・

俺に気があるのかないのかも不明なんだし・・

「お前は特別だっての・・おっ・・川だ・・」

平野の向こうに川が見えてきた、その先には木々が生い茂っているのがわかる

橋を越えた先が戦闘地域ってことかな

「そうね・・、この世界は水の音が綺麗でいいわ・・。

私の荒んだ心を癒してくれる・・」

無視です


「・・この距離ならば向こうもまだ俺達を確認していないだろう。俺が先に街道から森に入るよ。

アンジェリカは別ルートで侵入しておくれ」

「・・了解よ。しっかり引き付けておいて・・」

かまってくれないのが嫌なのか少しブスっとしている・・

こちらのボケには冷たいくせに仕方のない奴め

構うとろくなことがないのでさっさと簡素な橋を渡って森へと向かうことにした

・・・・・・

清流で流れが穏やかな川を簡素な橋が建てられている

余り使われてないのか手入れはさほどされていない、

しっかりと補強しているので自然に崩れ落ちることはないだろう

・・まぁ、ある程度空が飛べるスピリットがいるこの世界には橋を焼け落として時間を稼ぐなんて戦法はないんだろうな

そう考えると俺達の世界との確かな違いってのが実感してくる・・

今更だがね

ともあれ、そのまま街道は森へと入る。中々にうっそうと茂っているが道自体は整備はされている

・・ある程度中まで進んだ時点で俺はゆっくりとナックルグローブ『崩天』を装着した

木々の隙間から視線が感じられる・・それも幾つも。

神剣を持つスピリットではなくただの一般人が封鎖されているはずの区画を歩いているんだ・・戸惑いはあるだろうな

まぁ、だからと言ってそのまま通過を許すはずもないだろう

「・・いるのはわかっている・・出てきな・・」

俺の一言に付近の空気が凍りついた・・

それとともに警戒心むき出して森の中からスピリットがゆっくりと姿を見せる

数は・・6人。

とりあえずはこんなもんなのかな・・

等間隔で俺を取り囲み神剣を構えてくる

神剣を持たずして自分達の存在に気づいた事に恐れにも似た感情を覚えているのだろうか・・

「貴様・・何者だ・・?」

黒2・・緑3・・・青1・・ふぅん、侵攻阻止するためなのか緑スピリットが多いな

代表格なのか黒スピリットの1人が俺に尋ねてきた

「何者だと思う?」

「え〜・・っと・・敵・・さん?」

無邪気そうな青スピリットが少し手を震わしながら応える

実戦経験が全員豊富なわけでもないか

「う〜〜ん・・どうだろ?敵であって敵ではない?」

「僕達の相手はラキオスのスピリットやエトランジェだけだ!死にたくなかったから帰ってよ!」

槍を構えながら勇ましく言うは緑スピリット。

・・ラキオスのハリオンとはまるで違うなぁ・・

「死にたくねぇが〜、退けないんだな・・これが・・」

「我らの忠告を無視するならば・・斬る・・」

「いいぜ、きなよ・・。ただぁ・・」

ゆっくりと構えるとともに闘気解放・・

「「「「「「・・っ!?」」」」」」

「神剣持ってないからって手加減しないことだな。多少痛い目見ることには変わりはないが・・」

「ぬかせ!雲散霧消の太刀!」

真っ先に飛びかかる黒スピリット、全般的に居合いが得意らしい

・・んがっ!

バキィ!

刀抜く前に俺の裏拳が黒スピリットの姉ちゃんのテンプルに当たる

手加減しておいたがそれでもこちらに向かってくる勢いをそのまま打ち返したのだ

相当な衝撃がかかっており姉ちゃんは少し唸りながら吹き飛びそのまま倒れた

・・まぁ流石に霧にゃ還らない、このぐらいの加減でとりあえずはいいか

「遅いぜ?もうちょい速く踏み込まないと必殺の一撃とは言えないな」

気絶した黒スピリットに軽く投げかける。

俺の余裕の態度に周りのスピリットは益々動揺しているように見える

「殺していないよ、安心しな・・言ったろ?敵じゃないって」

「そ・・そんな事信じられません!覚悟ぉ!」

今度は緑スピリットが槍を構えて突進する・・

渾身の突きを俺に放つが、やはり・・緑スピリットは攻撃向きじゃないんだな

黒スピリットの踏み込みよりも遅いのでヒラリと回避できる

「えっ!?」

全速の一撃をあっさり避けられて驚く緑の姉ちゃん

隙だらけだ

「はい、おやすみ」


トン!


軽く雷を放出した手刀を首筋に叩きつける!

「う・・・・」

急所から伝わる衝撃に唸りながらそのまま姉ちゃんはパタリと倒れた

「さて、とりあえずは4人・・時間はかけられないからさっさといくぜ〜」

「くっ、皆のために負けられない!」

「いきます!」

踏み出そうとした瞬間に残った緑スピリットの二人が仕掛けてきた

必死さが伝わるんだがやはり防御担当していたほうがいいな

ブン!

ブン!

大振りに槍を振りテンポ良く攻撃してくる二人、突きは危険だと判断して斬りに重点を置くつもりらしい

だが余り慣れていないのかさほど速くはない

それを二人呼吸を合わせて何とか隙を作らせないようにしているのだ

「ちったぁ考えているんだろうが・・」

踏み込めなくもない。

一気に気絶させられる攻撃だろうが・・

それよりもまず・・

「カオスインパクト!」

黒だな!

神剣魔法発動とともに俺の足場に発生する黒い霧の渦・・

それに包まれる前に俺は素早く回避し、黒スピリットの懐に飛び込む!

「な・・・何!?」

「悪りぃな!見えているんだよ!」

ドォン!

「ぐ・・あぁ・・」

至近距離からのボディブロー、内臓を貫く衝撃に黒スピリットは目を見開いたままぐったりと倒れる

後3人

「サンダーショット!!」

そのまま振り向き様に拳から雷を放つ!

咄嗟の攻撃に緑スピリット二人は防御姿勢を取る!

しかし・・

「きゃああああ!・・・あ・・」


一人はそれに間に合わず感電して体を震わせながら倒れる。

もう一人の緑スピリットはシールドハイロゥでなんとかサンダーショットを防いだようだ

「やるねぇ・・緑のあんた・・」

「ぼ・・僕達は負けられないんだ!」

キッと俺を睨む緑スピリットだがその顔は恐怖にひきつっている

それは後ろでガタガタ震える青スピリットも同様・・こちらはもはや戦意喪失気味だ

「負けていいんだよ、その先にあるのは無ではないぜ?」

「信じられないね!お前が言うことなんて!」

まぁ仲間殴り倒しているからな

「まっ、信じるか信じないかは目が醒めてからにしな・・いくぜ!」

「っ!神剣よ!」

俺が踏み込むと同時に緑スピリットは神剣の力を使って防御壁を作り出す

攻撃はいまいちだが防御の反応は流石にいいな!

だが!

「オラァ!」

ガァン!

「くぅ・・!ま・・まだ・・!」

神剣の力を使おうが殴るのみ!シールドハイロゥ目掛けて鋭い一撃を放つ・・

威力は防御壁で緩和されているが衝撃は十分伝わる、少し体勢を崩した隙を見逃さずに

瞬時に後ろに回りこむ!

「とったぜ?」

「え・・!?(トン!)あ・・う・・」

首筋に手刀を入れるとともに力なくうな垂れる。

後ろからの攻撃には力を入れていなかったらしい

「さて・・、後はお嬢ちゃんだけだな」

「ひぃ・・!」

周りの先輩であろうスピリットが倒されるのを目の当たりにしてもはや恐怖に体がこわばっている・・

かわいそうに・・

・・って俺がその張本人か・・

「別に殺しもしないし痛くは・・ないと思うから大人しくしていなさい」

「そ・・そんなこと信じられないもん!気絶させて後からイヤらしい事するかもしれないもん!」

「あ〜・・そんな事するような奴に見える?」

「・・(コクコク!)」

・・凹むわぁ・・

「んなことしねぇよ・・。それに気絶させたのにはちゃんと訳があるんだよ」

「・・・・」

「この戦争が終わった後にお前達が今よりマシな生活を送れるようにするためだ。

ラキオスが勝てばスピリットの生活は保障される、それは女王も決定したことだ。

だから殺さずに事が終わるまで眠ってもらっているだけなんだよ」

「・・そ・・そんなこと・・」

「信じられない・・だろう?まぁ、今まで虐げてきた人間に対する感情は所詮俺にはわからんよ

だから、その目で確かるといいさ。

眠ってもらうぜ・・?」

「・・・・」

ゆっくりと剣を構えそれを拒む青スピリット

「・・ふぅ、まぁ予想はしていたがな・・こいよ」

「・・や・・やああああああああああ!!」

ハイロゥの力を借りて突っ込む青スピリット、だがその一撃が届く前に俺の拳が腹に深く食い込んで

彼女の意識をもぎ取った

「・・あ・・・う・・」

ゆっくりと倒れる青スピリット・・わかっちゃいるけどいい気はしないなぁ・・

「とりあえずゆっくり休んでおけよ。死んで無に還るよりかはよっぽどマシさ」

眠るスピリット達に声をかけるが当然応えはない

俺にできるのはこんなことぐらいだ

ゴォォォ・・

っと・・、向こうは向こうで派手にやっているみたいだな。

遠くで轟く風の音がここまで響いてら・・

戦闘はまだまだ始まったばかりだ。

この調子でドンドン眠っていってもらいましょうか!!


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