第三話  「働く暴走牛」


翌日・・

疲労困憊なタイムはそのまま自室でお休みという事でずっと眠りこけている

昨日はあれからもうひとがんばりという事でやるべき仕事を片付けた、

仮眠2時間でチャージできるものでもないんだけど

俺も一応事務処理のやり方を聞きながら手伝い終わらす事ができた

俺と一緒だという事がタイムの励みになったのか

その後は辛い表情も見せずにやり遂げ何とか寝間着に着替え爆睡し出した

あの様子だとまだまだ起きる気配はない、昼時にまた様子を見てやるか

何ならまた珈琲を淹れてやるのも悪くはない

 

「・・その前に、自分の心配しないといけないんですけどね・・」

 

思わず愚痴ってしまうのも無理はねぇ、

昨日言った通り今日は俺もタイムのお手伝い

正規の騎士業務だと問題がある。

そんな訳で異例の頼み事に了承の印を押すお仕事を団長室

タイムの席で朝から続けているんだよ

この豪華な椅子に座るのはあいつに『ご奉仕』してもらう時ぐらいだっただんだが・・

よもや本当に仕事をするために座るとは思わなかったよ。

羽ペンやインクのストックも整っておりタイムらしさが伺えるが

俺がやるのは書類を判断していいなら印鑑を押すぐらい

これは取り返しが付きにくいものだから安易に押すなってタイムも総務の連中も言っていた

けど・・まぁ見る限りどれもこの都市を思っての提案だからな。

 

例えば工業地区からは女性従業員の育児休暇制度の改良、

小さな子供を持つ親も育児に参加できるように有給制度が欲しいとの話

うむっ、良いアイデア。

シトゥラが出身の白狐族ほどじゃねぇがこの都市の住宅地区でもそういう地域ネットワークはあって

小さな子供を育てるのにあちこちから手が差し伸べられている、

でもやっぱり我が子の育児はその親がやるものだからなぁ・・

それをサポートするのも都市としての責務・・っと言うことで印をポチっとな

 

次に商業地区。

こちらは露店の整備案・・

表通りとかの大きな通りには貿易都市なだけに地方からきた奴らの露店が並べられている

領主はそこに目を付けて出店の料金を取って一時期は非常にゴミゴミしていたのだが

タイム率いる騎士団が整備したために大分スッキリした。

それでも露店の出店希望者ってのは多いから公共の土地である公園を貸し切って

月に何度かバザールを開いてはどうだろうという提案

大きな公園ともなると屋敷前のがちょうど良い、

催し物をするには十分なスペースもあるし騎士団の拠点が目の前だから変な不正はないだろう

元々常に賑わっている場所でもないから使用しないのも勿体ない・・が、

あそこにはタイムの後輩の墓もあるし他の公園を使用するにしても元々は住民達の物だからな

バザール後が汚れていたら反対する声が上がって続かない。

使用前使用後の美化活動を徹底する条件でなら了承・・、ポンっと

 

そんでもって住宅地区。

余り提案なんてないだろうと思っていたのだが〜、騒音防止を訴えてら。

酔っぱらいなんかが暴れているんだろうな。

まぁみっともない訳だ・・うし、夜間でも他者に迷惑をかけるのは言語道断。

夜間の騎士巡回を強化するか・・。

いあ、それ以上に酔っぱらいであろうとも

器物破損や騒音などを防ぐ条例作成を議会で作りあげる事を要求させるか

迷惑防止としての条例作成!発動!承認!

 

後はこの事案を住民投票させて定数に達したら成立・・

うん、一つ一つ良く読んで考えなければいけないけど基本的にマイナスになるような意見はない

議会は議会でよく考えているだろうな・・、

まぁそれはあくまで「理想」であって現実的には適えるのに色々と問題もあるんだろうが・・

それはまたタイムと相談してって事だな。

この三件については文句なしに認めてもいいだろう

・・ってか、テント群は都市の一部としては見られていないんだなぁ・・

未だにって感じがするが・・基本的に難民集団だからな。

そんでもって未承認だらけなのが貴族地区、いあ・・馬鹿です。

自分達の利権を上げる案ばかりで都市の事など何も考えちゃいねぇ・・

全部却下、舐めるな馬鹿者が。

 

「ふ〜、とりあえずはこんなところか。まぁ知恵を絞った案だけに努力を感じますなぁ」

 

そしてこの部屋に何故に珈琲を淹れるぐらいの設備がないのでしょうかねぇ

今まで気にしなかったんだが・・こら飲みたくなるってもんだ

タイムのところにいけばあるんだけどそれはそれで迷惑だろうから庭掃除をしていたベイトに頼んで持ってきてもらった

あいつらもだいぶこの屋敷の生活に慣れてきたようだねぇ・・

何でか知らないけどジョアンナとかが騎士の訓練の相手とかしていたけど・・

なんというか・・メイドって言うよりかは俺やアンジェリカに近い存在になっているみたいだなぁ

──っと、誰か近づいてきたな。

知らない足音だが・・

 

「タイム〜、いるか〜?」

 

・・ノックもクソもなく団長室に入ってくるは・・問題児マーロウ・・

こうしてみると・・むかつくな

「タイムは今日は非番だ。・・ってかノックぐらいしろよ、親に教わらなかったのか?」

「・・あっ?お前誰だよ?」

うわぁ、反抗精神丸出しって感じだなぁ

状況は違えども俺もかつてはこんなんだったんだ・・

「・・・・、認めたくないものだな・・若さ故の過ちというものは・・」

まっ、俺はグレていてこいつは根拠のねぇ自信なんだけど

「はぁ?何言ってんの?大体そこはタイムの席だろ?なんでお前が座ってるんだよ」

「何でってあいつの仕事を引き継いでいるからだよ、仕事している事も見てわかんねぇのか?」

「・・生意気だな、俺はベネディクト家の御曹司なんだぞ?いいのか?そんな事言ってよ?」

「うわぁ〜出たよ。ここまで面頭向かって言う奴久々だなぁ・・・、

ってかあれだな、パパにも殴られて事ないのに〜!って叫ぶタイプだな、お前」

ふんぞり返った態度、しかし・・これっぽっちも体を鍛えていねぇな。

お家の威光のみでここまで偉そうぶるのも見事っちゃ見事だ

他力本願が骨の髄まで染み渡っているようですね

「・・お前誰だよ?パパに言いつけてクビにしてやるよ」

極めつけだな、サリーさんが嫌いタイムが殺っていいって言うだけの事はある

「俺か〜、ってか俺の名前知らないんだな・・やれやれ」

軽く立ち上がり偉そうに腕を組むマーロウ君の元へ進む、

よほどパパが凄いのか全然退かないな

「はぁ?誰がお前の名前なんて知っているんだよ?馬鹿?」

「まっ、ルザリアに住んで間がないからしょうがねぇか。

・・俺はクロムウェル、ここで教官やっている・・

まぁ兼職みたいなもんだけどな・・それと・・」

「あだ!だだだだだだだだ!!!」

柔らかい頭を掴みとりそのまま持ち上げる、

食い込む爪に悲鳴を上げじたばたと暴れるも足が宙に浮いていちゃ何もできない

「ここの団長、タイム=ザン=ピョートルの恋人だ♪」

「いでぇぇ!お・・前がだと!?」

「ああっ、そうだぜ♪で・・君は何人の女を呼び捨てにしてくれてんだ♪

お前の右脳だけ千切り取ってその濁った目玉に見せつけてやろうか♪こら♪」

「や・・やめろぉぉぉぉ!!」

「・・けっ、情けない悲鳴上げてんじゃねぇよ。オンゾーシさんよぉ」

余り虐めても面白くないのでそのまま軽く投げ飛ばす・・、

受け身も知らないのかこのボンボンはまともに背中から落ちやがった

「っう・・てめぇ!俺のパパの事をわかっていないようだなぁ!

俺が言えばお前なんてすぐにクビだぞ!」

「ば〜か、俺は元々正規の騎士じゃねぇ。特別扱いだ・・てめぇこそわかってんのか?

ここはハイデルベルクの中でも多忙なルザリア騎士団だぜ?

そんなたるんだ体のままで仕事できると思っているのか?」

「俺は元々そんなダサい事しにきたんじゃないんだよ!」

「・・あぁ?てめぇ・・命張って仕事している連中がダサイだと?言葉選べよ?」

「う、うるせぇ!これ以上俺に手を出したらお前だけじゃなくてタイムもクビが飛ぶぜ?

まぁ・・お飾りの団長職なんて代わりは幾らでもいるだろうけどよ」

下品な笑みを浮かべるマーロウ君、

じゃ、遠慮無く

 

ゲベシ!

 

「ぐべぇ!!」

その胸目掛けての喧嘩キック♪面白いように飛んで壁に激突しやがった

「さて、死のっか♪」

「ま・・・まてよ、いいのかよ、き・・騎士がこんなことしても・・」

「俺は騎士である前に良識ある人間でなぁ・・

自分の女の事を馬鹿にされて黙っていられるほど非常識でもないんだよ

・・それと一つ言っておく。

タイムは飾りの団長じゃねぇ・・実力で勝ち取った正真正銘のルザリア騎士団長だ

それを馬鹿にする事も許さねぇし剥奪しようってんならてめぇの一族とその関係者ひっくるめて皆殺しだ・・

一人残らず苦痛に満ちた最期を味合わせてやるよ」

胸ぐら掴みながらすごむ・・いあ、相手は一応騎士だからな

無関係だったら半殺しです、昔なら殺してます

「あ・・あ・ああああ・・」

「ったく、情けない声出すなよ・・、ってか漏らすなよ?

小便一滴でもこの部屋を汚したらてめぇの顔面は複雑に折れ曲がるぜ?」

「・・・な・・なんだ・・よ・・てめぇ!」

「言っただろう、教官だってよ・・。

さて、それで・・貴族ながらにして勇ましくもこの地獄のルザリア勤務を望んだ・・マー坊君。

君は実力が不足しまくりなので実戦で使えるようになるまで私が仕込んであげます」

「だ・・誰がてめぇなんぞに・・」

「あ〜、拒否権ないよ。

後逃亡も不可能、お前がルザリアを出る時は死体になって出るぐらいになるかなぁ・・♪」

「嘘だろ、なぁ・・?」

「あぁ?てめぇ騎士になりてぇんだろ?

それともそのまま1回限りの使用限定で強行突入時の肉の壁にでもなりてぇのか?」

まぁそれはそれで世のため人のためになりそうですがね

「お・・俺はタイムに・・(バキ!)・・、団長・・に・・」

「──ふぅん、つまりはタイム目当てに親のコネを使って騎士になったってわけか。

モノにした途端におさらばってか?」

「・・・(コク)」

「はぁ・・お前な、人の職業馬鹿にすんのもほどほどにしておけよ・・。

タイムはすでに俺のもんだし騎士になった以上任務はこなしてもらう

そのために体力作りをしてもらおうかな・・」

「た・・体力作りだ!?なんでそんな事を・・!」

「そんななまりきった体で何ができるんだよ、ボケ。

ほらいくぞ・・5,6回ぐらいの輪廻転生経験はさせてやる」

「やめろ!そんな事をしてパパが黙っていると思うなぁぁぁぁ!!!」

・・ったく、こいつは本当にパパ頼りなんだな。

まぁここからは己の限界に己の力のみで挑む事になるんだ・・今の内に吼えていな

 

 

──────

 

しばらくして♪

 

「うげぇぇぇ、ゲボォォォ!」

 

お食事中の皆さんすみません、

只今ボンボンが胃液とか色々吐いておりますのでご了承ください

 

「おいおい!さっきから何回吐いてんだ!?おらぁ!さっさとスクワット500回続けろ!」

 

ヨロヨロになるマー坊を無理矢理起こし次のメニューを言い渡す

・・1,2時間筋トレをやっているだけなのに目が虚ろだぜ・・

「ば・・ばかか・・そんなに・・できるわけ・・ないだろ・・」

「馬鹿はてめぇだ。プロは準備体操にヒンドゥースクワッツ3000回は軽い、さぁさっさと始めろ!」

「死ぬ・・こんなの・・」

「ああっ、死ね♪おらぁ!何クズクズやってんだ!死んでもスクワット続けろゴラァ!!」

いつか使う機会があると思って東国に行った時に勝ったバンブーソードが役に立った

細長い竹を四面、ヒモで括った東国特有の練習用の剣であり殺傷能力は皆無ながら音がイイ!

バシバシって地面を叩く度にその音が気を引き締める。

東国のシゴキにこれは欠かせないと姉御に聞いた事があって墓参りのついでに買ったんだよ♪

ああっ、因みに俺は叩かれた事はない

姉御、いつも真剣で脅してきたからさ・・

・・・・いあ、「脅した」じゃねぇか、実際斬られたし

「た・・・たすけ・・て・・」

「泣いても叫んでも誰も助けにきてくれねぇよ!おらぁ!なんじゃそのへっぴり腰はぁ!

てめぇはそれでもルザリア騎士かぁ!」

怒濤の罵声にマー坊、涙と鼻水流してます

けど許さねぇ♪

タイムの生活を崩させようとした奴は例えそれが冗談であっても許さない♪

「うぁ・・あ・・・ダメ・・」

ちっ・・白目を剥いて倒れやがった。

貧弱が!

だが気絶すれば見逃してもらえると思うなよ!

って訳でバケツウォーターアタ〜〜ック!!

 

バシャ♪

 

「んがぁ・・!はぁ・・はぁ・・なにすんだよ!!」

 

「何って・・許可無く気絶しやがったから水ぶっかけて覚醒したんだよ。おら・・続きだ」

「もう嫌だ!なんでこんな事しなきゃいけねぇんだよ!!?」

「さっきも言っただろう?それとも辞めて死ぬか?

てめぇタイムにちょっかいだそうとした時点で

すでにクロムウェル憲法第4条『タイムの生活を脅かす存在は死あるのみ』に違反して死刑確定だ

ボンボンって事で高裁では懲役400年の温情判決が出たが

俺が控訴して最高裁で拷問付きの死刑が下された。

本当ならすでにルザリア市中引き回しにして砂袋を抱いたまま海の底に沈んでいたはずだぜ?

それなのにこうして寛大な処置してやってる俺の心優しさがわかんないのかねぇ・・?」

まぁ、脳内設定なんですがね

「わ、わかるか・・そんなの・・」

「やっぱわからん奴だなぁ・・じゃ、死ぬか?」

このバンブーソードだけでも撲殺できますよ?普通に

寧ろ一撃で殺すよりか酷い死に様になるな・・

 

『はいはい、そこまで。その子が怖がっているわよ・・』

 

ん・・?このS娘な声は・・

「よう、アンジェリカ。訓練場に来るとは珍しいな」

屋外の訓練場に足を踏み入れるは漆黒の魔女っ子ドレスな色気女、アンジェリカ

オレンジ色のウェーブ髪が大人っぽいが・・怖い人です

「ふふ・・窓から悲鳴が絶え間なく聞こえてきてね。

随分と嗜虐心がくすぐられる声を上げるものね・・その子」

「だ、誰だよ、あんた・・?」

警戒を強めながらアンジェリカを見るマー坊・・

まぁ誰だってこいつがただの美女じゃないのはわかるか

「アンジェリカ=メールキャデラック。ルザリア騎士団魔術顧問よ、マーロウ君」

ニヤリと笑うアンジェリカにマー坊はホッと肩をなで下ろした

「・・でっ、貴方はこの問題児をなんで虐めているのかしら?」

「何って鍛えているんだよ」

「嘘、完全なオーバーワークじゃない。殺す気?」

「そ、そうなんだよ!こいつ俺を殺そうとしてんだ!何とかしてくれよ!」

お〜お〜、恥ずかしげもなく・・

「──ですって。

まぁ貴方の問題ぶりはこの二日で屋敷中に広まっているんだから訳はあるんでしょうけど・・」

「・・ああっ、こいつが『パパ』に頼んでタイムをクビにさせるとかタイムがお飾りの団長だとか抜かしたからなぁ」

「・・ふぅん・・」

途端に目に冷たいモノが宿るアンジェリカ教官。

こいつを本気にさせたら俺以上に始末が悪い・・

「な、なんだよ・・だからと言って何も殺そうとしなくても・・」

「いいえっ、マーロウ君。

それだと殺されても仕方ないわね・・でもクロムウェルの前でよかったわね・・

もし私の前でそんな事真顔で言っていたらその瞬間に貴方の全ての関節を切断していたわ」

──冗談っぽく言ってますがすごくマジです

「・・え゛・・」

「マー坊、アンジェリカは俺以上に怖い女だ。見た目に惑わされるなよ」

「何を今更・・。まぁ、ほどほどにしておきなさい。

それとマーロウ君、今度タイムさんについてつまらない事を考えようものなら今度は私がオシオキしてあげる」

「オシオキ・・とは・・」

「ふ・・ふふふふふ・・・、今人の痛覚を何千倍にも高める薬を作っているの・・

服用すれば最後、指先一つ軽く触れるだけで凄まじい激痛が体を走りショック死する事は間違いないわ・・

その人体実験したかったところなのよ・・」

ちょうどいいモルモット見つけたっと流し目で見つめるアンジェリカに対してマー坊石化

・・マジだということはわかっているらしい

「──言っておくが、アンジェリカは躊躇はしない。

裏では人として死ねなかった亡者が山のように存在するのだからな・・」

「いつも言っているけど尊い犠牲よ。貴方、その中の一つに入ってみる?」

「け、結構です!」

「そう・・なら、がんばってこの場を切り抜けなさい。ああ・・それと・・」

笑顔でアンジェリカは胸元より小さな首輪を取り出し有無を言わさずマー坊に巻き付けた

「・・な・・なんだよ、これ・・」

「ルザリア騎士就任のお祝いよ。昨日までの貴方の勤務態度を見て急遽拵えたの、

私の許可無くルザリアから出ようとすれば爆発して頭が吹っ飛ぶわ」

 

怖っ!!!

 

「ま、マジかよ!こんなもの!!」

「ああ、魔術的な施錠がされているし無理に外そうとすれば間違って爆発しちゃうかもしれないわよ?」

「・・うそだろ・・なぁ・・」

「あら、信用ない女なのね・・私って。

じゃあ一緒にルザリアの外までデートしましょうか?

見事外まで出られたら私を好きにしてもいいわよ?

間近で赤く綺麗な花火が上がるかも知れないけど・・ね」

満面の笑みを浮かべるアンジェリカだが・・怖過ぎます

爽やかに接しているけどこいつも相当怒っているな・・

「遠慮します!!」

「そう・・まぁ、がんばりなさい。

クロムウェルの殺人メニューに耐えれたらまだ見所はあるかもしれないわ。

じゃあ・・私はこれで失礼するわね」

「あ・・ああ。まぁ・・ご苦労さん」

優雅に立ち去るアンジェリカ先生、それに対しマー坊は呆然としながらへたり込んだ

こうなるとこいつが哀れだな

「・・まぁ、これで騎士として生きるしかなくなったってわけだな」

「こ、これ・・本当なのかよ・・」

「さっきのでわかんなかったのか?

アンジェリカはアルマティで講師をしていたほどの魔術師だ。

あそこは人体実験なんざ平気でやるところだからな・・その程度の事なんて普通にするだろ」

「・・・なんだよ・・ここは・・」

「ハイデルベルク騎士団の中でも1,2を争う異能集団ってところか?

そこを選んだてめぇの運がなかったわけだ

さぁ・・休憩は終わりだ。

お前に残されているのは三つ!騎士としての資格を得るか!俺にシゴキ殺されるか!逃げて爆死するかだ!」

「なんで・・こんな事に・・」

「知るか、さぁ地獄の続きだ!その首輪の随まで汗染みこませるぞゴラァ!!」

アンジェリカも遠慮はねぇ!俺もどんどんいくぜぇ!

死ねよや!マー坊!!

 

 

──────

 

さらに経過する事一時間

みっちりしごいて訓練は終了した。・・いや、終了せざる終えなかった。

いあ、だって泡吹いて倒れたんだもの。

てめぇか蟹かってストンピングでもしたろかとも思ったが

何時までもあんなブオトコの相手をしても面白くないのでとりあえずは医務室に寝かして放っておく事にした

・・まっ、逃げようにしてもこの都市内で俺の目の届かないところは貴族地区以外はほとんどない

それ以上にあの首輪をしている以上都市外にも出られないし

首輪自体の気配にてどこにいるかは
アンジェリカさんにはわかっているだろう

まぁ伝書屋とかでパパに連絡されたら厄介なのでとりあえずそこは抑えた。

街の連中にも後は伝えておくとしておこう。

・・ふふふ・・ここは奴にとっての牢獄よ・・・

 

ともあれ、あんな野郎の事に気をかけてもつまんねぇのでそのままタイムに会いに行く事にした。

豪勢な屋敷内の私室、すでに昼過ぎだと言うのにタイムはまだ眠っていた。

っとは言ってももう起きそうなのでベイトに食堂から飯を運んでくるように頼んで俺は目覚めの珈琲を淹れてやる。

広い部屋に上る香り・・昼だけど朝って感じがするなぁ・・

 

「──ん・・んぁ・・」

 

セミダブルなでかいベッドにてタイムは悶えながらゆっくりと目を開けた。

スッピンでの寝起き顔、でもすごい綺麗なんだな、コレガ。

性格が良いから素顔もいいんですよ。

「おはよう、タイム」

「おはよ・・クロ・・」

自然な仕草で目覚めのキス、こいつも自然とそんな事をするようになったんですなぁ・・うんうん

「今珈琲淹れてるよ。もう昼過ぎだけど飯も頼んでいる」

「ありがとう。ふぅ・・こんなに寝たのも久しぶりね」

「はははっ、まぁよく眠れたのは幸いだ。寝ることしか休日が過ごせないのも辛いところだけどよ」

非番となれば大概体を休めているぐらいだからなぁ・・。

重要な役割とは言えもっと私生活も充実させるべきだっての

「仕方ないわよ。こうして休めるだけでも幸せな方よ・・

王都勤務だと忙しい時では休みなんてあり得ないんだから」

体壊すぞ?・・まぁ、あれだけの規模の大都市なんだから仕方はないかもしれないけどさ

「んじゃ、たまには休暇を取って旅行とかでも行くか?」

「旅行か・・いいわね♪でもクロ・・そういうの得意なの?」

「ははは、プレゼンできるほど遊びで旅なんてしてないからなぁ・・。カムイぐらいかな」

・・っと言っても姉御の墓参り以外は立ち寄らないんだけどな

「カムイ・・。すごい田舎で有名らしいけど良いところなの?」

「そりゃもう、自然色豊かというかハイデルベルクとは正しく別世界だな。

地形も植物も・・。時間がゆっくり流れているって感じがするよ」

 

東国の列島カムイ、幾つかの島から連なる国家で俺の恩師の故郷

西島、本島、北島の大きな島を代表に後は大小様々な島からなっている国家で独自の政治体型を持っている

近年までハイデルベルクとの国交を封鎖していた、

それ以前は随分と内乱とかが続いていたらしく自然が豊かなのだが血が絶えなかったんだとか。

まぁ、諸島を統一したとしても島の一つ一つまで統治者の目は届かせるのは難しい

だから反乱の機会も多かったんだろうな・・。

だけど国が改めて統一されハイデルベルクとの国交が結ばれてからは穏やかな国となり観光客も増えてきたそうだ

気候も穏やかだし結構人気があるんだよ・・主にこの国で疲れた人が行っているみたいですが・・

 

「そう・・クロが案内してくれるならいいわよ?」

「俺が案内するったって姉御の墓がある寺ぐらいしか知らないぜ?」

「ん〜、それもいいかな?」

ニコリと笑うタイムだが・・

「おい・・」

「ふふふっ、私だってその人と無関係じゃないのよ?

それに見てみたいの・・クロが愛した人が眠る地を・・」

タイムは以前ちょいとした出来事から姉御に体を乗っ取られた事がある

それからというもの、嫉妬深い性格なのに姉御に対してのみは別の感情を抱くようになった

──けど、姉御の墓なんて案内しても面白くはないんだけどなぁ

「う〜ん、面白くないぞ?」

「面白いお墓参りなんてあるの?」

「・・ねぇな」

「ふふっ、馬鹿♪」

爽やかに笑いながら再び唇を合わせる。

まぁ墓参りだけじゃ何だし一度東国ツアーでも考えてみるか・・

 

コンコン・・

 

『坊ちゃん、お食事をお持ちしましたよ』

 

っと、こらベイトの声だ

そういや食事を持ってきてもらうように頼んでいたな

「おう、開いているぞ」

「はいはい、じゃ失礼しますよ」

盆を片手にやってくるは褐色肌でどっしりした体つきが特徴のメイドさんベイト。

人なつっこい笑顔を浮かべているが実は投げと関節技の達人でありその分野では俺でも適わない

元々はヴァーゲンシュタイン家って腐った家に仕えていたんだけど家が潰れたので俺がこっちに招いたんだよ

一応は育ての母ってところか

「・・ベイトさん、すみません」

「いえいえ、団長。お疲れのようですので精の付く物を用意しましたよ」

寝間着で恥ずかしそうにしているタイムに対しベイトは満足げに笑みを浮かべる

一応は雇い主だけどベイトはそんな事を気にしない。

寧ろ・・俺の恋人として接しているような感じだな。仕事中は別だけど

「すまねぇな・・ってかベイトがわざわざ作ったのかよ?」

「ええっ、坊ちゃんたってのお願いですからねぇ・・。坊ちゃんもまだでしょう?

二人前用意しましたのでどうぞ」

・・流石に気が利いているなぁ・・

「ありがとよ・・、んじゃ軽く頂くか」

ベイトの飯も久しぶりだし・・ちょいと遅い昼食にしますか

 

・・・・・・・・・

 

そんな訳で今日の昼食はベイトお手製の料理。

精が付くという事で鳥肉とニンニクの塩味スープ、やや固めのパンと蒸かし芋のバター添え

私室にあるテーブルに腰掛けてゆっくりと堪能させてもらった

俺にとってはすごく懐かしい味付けでありタイムも満足した様子だった。

ヴァーゲンシュタイン家で家事をこなしていただけあってベイトや他の三人の料理は馴染みが深いが

一番食っていたのはベイトの料理だったなぁ

 

「はい、食後の珈琲ですよ」

 

結局、珈琲は俺は淹れずに食後までここに残ってくれたベイトが出してくれた

俺が食べている姿を満足そうに見つめられると何だか照れてしまうけど

タイムも着替えるタイミング完全に逃してそのままなのかどことなく恥ずかしそうだ

「ありがとよ、・・久々だなぁ・・ベイトの料理も」

「そうだと思って腕によりを掛けましたよ。もっと時間があれば手の込んだ物を作れたのですがねぇ」

「それはまた別の機会にでも・・。ふぅ・・一息つけたなぁ、タイム・・・昼寝でもするか?」

「・・もう、食べたばかりでしょう?ゆっくりとさせてもらうわよ」

両手でカップを持ちゆっくりと珈琲を飲みながら笑うタイム

・・うん、疲れは抜けているようだな

「それで坊ちゃん、訓練場から坊ちゃんの罵声が聞こえたのですがどうしたのですか?」

あっ、聞かれてたか。まぁ当然だな・・

「ああっ、ベイトなら知っていると思うけどマーロウってボンボンの相手をしていたんだよ」

「──ああっ、あの子ですか。まるで昔の坊ちゃんを見ているような感じでしたねぇ」

懐かしそう言うなよ・・

「俺はあのクソ家の事を自慢した事なんざ一度もないぜぇ?」

「根性が曲がっている点では同じですよ」

・・くそ、言い返せない・・

「それで・・相手にしたってどう相手にしたの?」

「騎士としての基本体力を鍛えるためのトレーニングってところかな、

後アンジェリカさんがルザリアから出たら爆発する首輪をプレゼントしたよ」

「・・また無茶を・・」

「ちょうど良い薬さ。今は泡吹いて医務室で眠っているよ」

そろそろ悪夢にうなされる頃かもしれませんがね

「まぁまぁ・・その程度でおすましになられるとは坊ちゃんもまだまだ青いですね。

ジョアンナとアイヴォリーは『骨折り人間サンドバック』にすると息巻いておりましたのに・・」

 

あの処刑ですか?

 

「骨折り人間サンドバック?」

「・・ああ、あの二人が行う究極の私刑だ。まず対象を動けないように固定する。

次に先手、後手を決める。後は順番に一発かましていくんだ。

条件は対象の骨を折る事・・先に骨を折れなかった方が負けっていう壮絶な拷問ゲーム」

ジョアンナには鉄の拳がありアイヴォリーには鋼の足がある

一度だけ見たことがあるけどボキボキ音鳴ってたな・・それ以上に悲鳴がすごかったが・・

「あ、あの二人がそんな事を・・」

「ん〜、まっ、そら同僚である騎士に対してもあの態度だろう?

それが召使いだったらその腐った態度も倍増だろうしなぁ・・

ヴァーゲンシュタイン家もほとほと腐っていたが一応メイドに対する態度ってものはちゃんとしていたし」

使用人とはいえいなければ困る、

だからこそ頭ごなしに命令するんじゃなくて

ある程度感謝を込めて頼むのが正しい雇い主というものだ

4人とも仕えていたのはまぁ酷い主だったが不満らしきものは言った事はなかった

そうともなるとあのボンボン、

ヴァーゲンシュタインのクサレツガイを超えた態度の悪さだったって事か・・

「鍛えがいがあるとは思っていたのですが、坊ちゃんに取られてしまいましたね」

「別に独占はしねぇよ。皆でシメればいいんじゃないか?」

「流石に命はないわよ」

まぁ・・殺そうと思えばいつでも殺せる状況だしな

「一応猶予は与えているんだぜ、連絡できないように手は回した、都市外には出られない

今のあいつにできる事は騎士としての資格を得ることができるかどうかだ。

無理なら現世からさようなら・・っと」

「・・もう・・まぁ、そのくらいしないといけないかもしれないわね。

じゃあクロ、彼を任してもいい?」

「・・まっ、どうせタイムの言う事なんて聞かないだろうしな。いいぜ」

脱落すればそれでいいものだしな。

気軽に虐めてやるとしますかぁ・・



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