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第二話  「道楽息子、騎士になる」


 

「・・おっと、ほれ・・ここじゃ!」

 

「・・んがぁぁぁぁ!!?角取りやがったな!うあっ!こんなにも・・!」

 

「ふふふ・・わしの勝ちじゃな。数えんでも白一色じゃ」

 

「おのれ・・リバーシってのはここまで奥が深いとは・・」

 

俺のチェスの腕が低すぎるからと巷で流行っているテーブルゲームをやり出したがこっちでも勝てないとは・・

・・っと、唐突だったな。

俺はクロムウェル。

ここ貿易都市一番のハンサムガイで道行く男が皆サムズアップするほどの漢だ

いつもは騎士団屋敷でゴロゴロしながら過ごしているんだがタイムからの願いと言うことで

貧民層が暮らすテント群の長、セイレーズ爺さんの介護をしている

・・まぁ普通に元気なんだけどさ、

暇つぶしという事でたまにはチェスの相手でもしてくれと言われてな。

俺もやる事ないので協力したんだけどまぁ相手にならない・・

勝てないボードゲームほどスッキリしないものはないな

そこで爺さんが用意したのは貧民達の中で持っていたリバーシってゲーム。

チェスとかに比べたら内容は簡単、

白と黒が片面ずつに塗られた石を持ちプレイヤーがそれぞれどちらかの色を決めて

ボードに交互に敷き詰めていく、

後は相手の石を囲めば自分の物にできそれを繰り返し最終的にどちらの石の数が多いかっていうので勝敗を決めるんだ

単純そうだけど中々に奥が深い

・・ってかさっきまで優勢だったのにいきなり逆転されたしな。

うむ、きっとこれを考えた奴はころころ態度を変える民衆をあざ笑うためにこれを開発して・・

『君達はこの石と同じだ、状況が変わるとすぐに流される。

今日は白だが明日にはすぐ黒になるかもしれない自分の意志を持たない愚民だ』

・・なんて言っていたに違いない!!

 

「全くに、お前はもう少し頭を鍛えた方がいいぞ?クロマティ」

 

「うるせぇ・・それが性にあわねぇから体鍛えてんだよ」

 

ニヤリと笑いながら俺をけなす白髪の爺さん

ボケてはいない・・寧ろその歳にしちゃしっかりしているんだけど

何故か俺の事をクロマティと言い続ける

・・もはや修正効かないみたいだから、気にしないでいこう

しかしまぁ、朝っぱらからこんな事して何が楽しいのかねぇ・・

「なぁ・・あんた昔は盗賊としてブイブイ言わせていたんだろ?

もうほとんど病気も治ってんだから体動かせよ?」

「あのなぁ・・昔が達者だったからと言ってそう同じように体なんぞ動かせるものか。

それに病み上がりな老人がそんなにできるもんじゃない」

「そう言うもんかな・・。『転がる石に苔はつかない』って言うだろう?」

動き回っていりゃ衰えないって意味だったかな、確か

「永遠に転んでいる石などあるか、やがては止まり苔がつくもんだ。

毎日欠かさず鍛錬を繰り返したとて限界は来るものじゃぞ?」

「・・あ〜、なんか嫌な事聞いちまったな。そうならないと思っていたんだけど・・」

「もちろん、その年齢層の中では秀でた運動能力は維持できるじゃろう。

考えてみろ、わしが今まで毎日同じメニューをこなし体を維持できたからと言って

お前と同じだけの身体能力が確保できると思うか?」

 

───可能なら化け物ですね──

 

「無理っすな」

「そうじゃろう?まぁ限界はあれどもそれに近いところを維持できればそれでいいのじゃよ。

これでもそれなりの運動はこなしている」

ふぅん、そういや室内で何かやっているらしいな。

本を握ってそれをオモリとしてトレーニングしているってカチュアも言っていたか

「・・ってか、俺の恩師の恩師ってのが爺だけどとんでもない奴だって言ってたな・・。

それはどう説明するんだよ?」

「恩師の恩師・・?ややこしいな・・、いいか、クロマティ。歳を取るのはただ体が衰えるだけではない

その分頭の中に知識が詰め込まれている。

その恩師オブ恩師がとんでもない奴だと言うのは察するに肉体の衰えを頭でカバーしているんじゃよ」

「・・そういうもんか?

確かに剣術道場開いていて人の心を見透かすような化け物だとか言っていたけどよ」

化け物が化け物って言うんだから相当なんだろうな・・

「剣士か、ならば納得じゃ。

高齢まで生存している剣士というものはそれだけの修羅場をかいくぐっていたという事

いかなる状況でも切り抜ける洞察力を身につけている、加えて・・その対処も体に染みついている。

身体能力が衰えども体が覚えているのであらば常人よりも素早く対処できる。

鍛えるとはそう言う事を言うんじゃよ」

なるほどなぁ・・確かに体で覚えた事ってのはいつまでも残っているもんだ

考えるよりも先に行動している事とかあるからなぁ・・。

それに長年鍛えた洞察力が加わって体は衰えども相手よりも早く反応できるってわけか・・

・・ほんと、すげぇんだな・・クラークさんの師匠・・

「・・じゃ、そこらのボケた爺は?」

「ありゃ何もせずに歳取っただけの事じゃ。

人というものは使わない物は一気に失われるらしい。

何かを磨こうともせずにボ〜っと生きておったから頭が空っぽになったんじゃよ」

なるほどねぇ、まぁ・・ああはなるまい・・

「そう考えると哀れだな・・」

「なぁに、武道に精通した人間だけに言えた事ではない。己を磨く心を失えば男はもうお終いじゃ。

それが若かろうが老いていようが・・な」

「・・つまりは常に向上心を持って行きようって事?」

「そんな前向きな男などそうはいるか、前に進めずとも自分を保とうとする心もまた己を磨くモノ・・

人間何もしなくてもドンドン失っているものじゃぞ?」

なるほどな、放っておいてもドンドンマイナスになるから攻めてプラスマイナス0にしましょうって事か

・・うむ、爺特有の為になる話だ・・

っと、誰か来たな。

 

 

「失礼します・・ああっ、クロムウェルさん。こちらにいらっしゃいましたか」

 

 

静かにテントに入ってきたのは緋色髪の青年ことキース。

ルザリア騎士団テント群担当課に所属する『できる子』です

「よう、キース。お前も爺さんの相手か?同情するぜ・・」

「セイレーズ老はここ一帯の面倒を見てくれている御方です、

面倒を見られているのは俺の方ですよ」

真面目だねぇ・・、ほんと・・なんであんな愚妹が付くんだろう?

これも運命?だとしてもあんまりだよな〜

こいつにはもっとこう・・清楚な女性が似合いそうな気がしたんだが・・

「なるほどなぁ・・じゃ、俺は邪魔かな。そろそろ自分の場所で仕事をしてくるよ」

「仕事・・?」

「タイムをからかいに♪」

もしくはリラックスさせに・・ってか。

放っておいたら根詰めすぎるからなぁ、あいつ。

「やれやれ、お盛んじゃの・・。まぁせいぜいヤってこい」

その言い方は卑猥にございます、ミスターセイレーズ

「職場での俺達は清廉潔白ってね、そんじゃな」

まるっきり嘘だけどその場を後にする、

残ったキースはそのまま何か相談しているようだし〜

まっ、爺との話はためになるんだが若さを吸われている感じがして少々疲れるからな

午前のお仕事これにて完了・・っと。

 

 

─────

 

貿易都市ルザリア

大国ハイデルベルクの西部に位置する貿易拠点として

他国からの陸路での貿易隊が立ち寄る都市であり活気に満ちている。

この時期は作物の収穫時でありそれらが露店などに並べられるのも目に付く

近くの漁村からも大漁だったのか鮮魚も売られたりしている

年中騒がしいところだけどこの時期は特に活気に満ちているな

・・だけど人が集まる以上もめる機会も増えるって訳だ、

だからこの時期は商業地区の騎士達は大忙し

次に工業地区、
住宅地区とテント群もその余波を受ける分引き締めが必要

ってな訳で必然的にルザリア騎士団長であり俺の女でもあるタイムに対する疲労やストレスが溜まってくるわけであり

俺の使命はそんなタイムの心と体を癒す事に他ならない!!

まぁ・・一応教官って立場もあるんだけどさ、

この時期忙しくて誰も俺に付き合ってくれないの♪

 

・・・・・・・・、何か寂しいね・・

 

別に構ってもらおうとも思わねぇけどな。

そうこうしている内に騎士団屋敷前に到着〜

表通りが近いんだけど流石に騎士の本拠地という事で人通りは落ち着いている

まぁ屋敷と道を挟んである公園にゃ子供連れや貿易旅行の疲れを癒しているのか

ベンチで眠っている商人おっさんもちらほらと・・。

後はかなりやる気なくベンチに座り煙草を吸っている騎士とか

 

 

・・ん?・・騎士?

 

 

「──なんだあいつ?見ない顔だな・・」

 

ルザリア騎士団の制服を着ているが〜

黒い髪はぼさぼさ、体格からしてまるで訓練してねぇものだ

背も余り高くなく少々脂肪が目立っていら。

目つきはだるそうで何か魂抜けているような感じだ

何よりも真っ昼間から屋敷前で煙草吸ってさぼっているなんざぁ・・・舐めてるな?

まぁあそこにいる以上屋敷の連中は知っているはずだ。

どこからかのゲストって奴だろう

面倒だし無視しておくか・・

野郎と絡むよりもタイムとイチャ付いた方が気持ちいいしなぁ♪

 

・・・・・・

 

そのまま軽く玄関より中に入る、

ロビーにゃ案内役として我が天敵であるサリーさんが

ルザリアの迷える子羊に救いの手を差し伸べているために
今日も忍耐強く孤独に耐えている

・・っても今は客もいないんだけどな。

吹き抜けのロビーは開放感と厳粛な空気に包まれ周囲にあるベンチなどは

ここに助けを求めてきた者達の感情が篭もっているから非常に空気が重い、

そんな中一人で待機しているんだから・・まぁ性格がねじ曲がってしまうんだよ

哀れ、サリーさんもこんなところで案内役などしなければ婚期を逃さずに済んだだろうに・・

 

「・・何よ?変態」

 

「そろそろ身を固めたらどうだい?・・親御さん、心配してるんだろ?」

 

長めの金髪にスーツ姿のサリーさん

婚期を逃しこんなところで孤独に生きる女性に目頭が熱くなってくる

まぁ、結婚したとしてもそれは一人の男を生きながらにして地獄を体験させている事に他ならないのだが・・

「う・る・さ・い・わ・よ!1回死ぬ?」

ふむっ、フィートに夢中になっている内に本当に婚期逃しちゃったみたいだから本気で殺気出しているよ・・

余りこのネタ言い続けると洒落にならなさそうだな・・

「へいへい、でぇ・・今日はいつもにも増して不機嫌そうじゃねぇか?」

「・・・・・、変態・・表の公園にまだいた?」

・・んっ?サリーさんが何とも言えない顔になってら

俺に対しては嫌悪感丸出しだが他の面々には気さくなのに、この反応は珍しいな・・

「あのだらけた奴か?煙草吸ってたぞ・・いいのか?

別に喫煙まで否定するつもりはねぇが人前で制服姿のままで吸うのは感じ悪いぜ?」

柄が悪いって俺も言われるけど煙草は吸わない

・・体力低下に効果覿面だし臭いからな・・

金もかかるし体に悪い

マナーがあっても周囲には冷たく見られるとまぁ良いことなんざ何一つとしてない

愛煙家の騎士に聞いたところ吸う奴は頭が冴えるだとか集中力が湧くだとか言ってたけど

紫煙くゆらせなきゃでない集中力で何ができるのだか今ひとつ理解できねぇな

まぁ〜、マナーを必要以上に守ってキチン吸っている奴は格好良く見えたりするんだけど・・

そんなの極少数だからな・・。

大抵、そこらの通りにポイっと吸い殻を捨てるんだよ。

見ていてむかつくのでそれを見かけたら吸い殻を拾って上げてそいつの額に押しつけて上げているんだけどな。

貴方が変わればマナーが変わる

「言っても無駄よ、・・まったく」

「何だ?あいつ・・、サリーさんが見捨てるとはよほどだな」

「私はあんたも嫌いだけどああいうのはもっと嫌いだからね。

身分振りかざしてふんぞり返って腹が立って仕方ないわ」

・・身分とな・・?

「何だか知らねぇが厄介な奴ってところか?」

「間違いないわ。個人的にはあんたに今からシメて欲しいところだけど・・

裏で色々あるらしいからとりあえずは団長に顔を見せて事情を確認するといいわよ・・ったく」

───ふむ、サリーさんがここまで嫌がるとはな

まぁあのだらけた態度一つ取ってもオトモダチにゃ慣れないタイプだが・・

身分の事も気になるし、タイムの処へ言ってみるか・・

 

─────

 

屋敷内はいつもと変わらない、

昼間ともなれば大概巡回に回ったり事件を担当しているだけあって人気ってのはあまりない。

貿易都市の騎士団ってのはそれだけ忙しいわけさ

だからこそ煙草吸ってさぼっているあの野郎が変なんだがな

身分・・か、まぁ大体わかるけど・・

まぁいっか、詳しくはタイムに聞くとしよう。

二日ほど屋敷に泊まり込んでいた分そろそろ顔も見せないといけないところだったしなぁ

この間も非番取り下げてハゲリバンとともにパーティーに行っていたし・・

団長ってのは不足の事態にはその健康を捧げても働かなければいけないらしい

憧れの職とは言えども過酷なもんだ、

それを若い女が勤めているんだから大変だよな

 

まぁそれは置いておくにしてもあのドレス姿のタイムも中々そそられたな・・

赤一色の質素なドレスに緋色の髪が良く映えた、

久々だから試着したと俺に披露してくれた時は興奮したもんだぜ

・・結果美味しく頂いちゃった訳ですが♪

皺になって汚れないように器用にかつ激しくね、

相も変わらずタイムさんはああいうプレイに興奮してくれる

・・マゾっ気があるのは確実だ!

 

おっと、そうこうしている間に2階の団長室前に到着した。

在室している札はあるな、よしよし・・

 

コンコン

 

『・・開いている、どうぞ』

 

ノックに応えるは凜とした女性の声

この声に騎士達は気を引き締めるってもんだ。

まぁ、仕事用のもんなんだけど素を知らない奴が多いからなぁ

ともあれ、ここで突っ立っていても仕方ないしニャンニャンするとしますか♪

「よっと、邪魔するぜ・・うおっ・・」

団長室に入り中を見回し思わず声を上げてしまった

別に模様替えをしているわけじゃない、

タイムも自席で事務についているのだが・・・

そのでかい机にいつも以上に書類の山が積み重なっている

──タイムの処理能力ならこんなに仕事を溜める事などあり得ない

つまりは元々の量が莫大だって事か

「クロ・・?」

「なんだ、タイム・・やたらと疲れていないか?」

ふらついているよ、タイム・・

緋色の髪で顔を少し隠してこそいるものの疲労が顔に出ている

それでもスーツが着崩れないのはプロの証拠、

身だしなみは常に気を配っているんだが・・

「う、うん・・。ここ二日ほど立て込んでいてね」

力なく笑ってみせるタイム・・

「寝てないか?」

「ほとんど・・。忙しいからね・・」

「・・ったく、睡眠は人間に必要不可欠な行為だぜ?ちゃんと寝ないとよ」

「わかっているんだけど・・、少し大変なのよ」

そら、この積み重なった書類を見ればなぁ・・

「見ればわかるけどさぁ。ってかお前なら仕事ため込む事なんてないだろう?」

「私の仕事じゃないのよ、これ・・。

表沙汰になっていないんだけど・・領主が行方不明になってね・・

その間に急を要する案件については代理として騎士団長が処理しろって伝達が来たのよ」

・・領主が・・行方不明・・?

「初耳だな、それ」

「知っているのは極一部よ、

住民なんて最初から姿を見せない領主の事なんてどうでもいいでしょうけど

都市を運営する側としては代表者の押印がなければ何も進まないのよ。

議会も困惑したところで領主と同程度の権限を持つ私にそのとばっちりが来たの。

だからここ二日・・ずっと書類と・・」

ふらついてるふらついている!

「まったく・・お前の仕事じゃないんだから無理するなって。

ほら・・限界っぽいんだし1,2時間ほど寝ろよ」

「え・・あ・・でも・・」

「でももテロもない、印鑑押すだけだろ?

休んでいる間に総務の連中にやらせておく。

後は事後確認して提出すれば同じだ!」

権限だの何だの、そんなものは大抵ろくでもない事にしか機能しないんだよ・・

騎士の仕事で手一杯なのに押しつけるなっての。

「それは・・そうだけど・・」

「いいから寝ろ寝ろ、体壊してしまう」

「・・わかった、じゃあ少し・・休憩するね」

力なく笑いそのまま机に倒れ込むようにして眠りについた

こいつが座りながら寝るだなんてよほどだな・・、

ただ二日徹夜したんじゃない

初めての仕事も加わっての徹夜だっただんだ。

精神的な疲労も半端じゃなかったんだろうな

ともあれ、この書類と印鑑を総務連中に押しつけてくるとするか

 

・・・・・・・・・

 

2時間経過

タイムが眠ってすぐ書類の山を総務課に持って行った。

連中、権限がないだとかなんだとか言ってやがったが

要するに内容見てそれを了承するか否かを決めるだけなんだから

てめぇらが判断して後でタイムが確認すると行ったら恐る恐るやりだした

・・そもそもタイムだって初めてなんだ。

仕事を押しつけた連中も文句は言えないだろう

事務のスペシャリストな総務担当騎士達なんだから慣れたら一緒って事で何とかこなしていた

まぁ『総合』的に『事務』を担当するから総務なんだしな・・

戸惑ってはいたけどタイムが疲労困憊だと言ったら

断る訳にもいかないようでがんばってくれている・・

まぁ、こいつらもタイムを尊敬する類の奴らだからな

そんな訳で俺はタイムを抱き上げてそのまま3階にあるタイムの私室へと向かい

そのベッドに寝かしつけてやった。

皺になるからスーツは脱がしましたが♪

そんでもってせっかくなので俺も添い寝してやる

俺が近くにいるのが嬉しいのか

タイムな寝ながら俺に抱きつきそのまま心地よい寝息を放ちながらあっという間に時間が過ぎ去った

・・俺?何もしてないっての。

疲れ果てて寝ている女に手を出すほど野暮じゃないし。

時計の針とタイムの顔を交互に見つめながら時間が過ぎるのを待っていたよ

そして

 

「う・・・ん・・クロ・・」

 

すでにおやつ時になったところでタイムはゆっくりと目を醒ました。

そろそろかな〜っと思い俺も珈琲を淹れながらその様子を見ていた

例え眠っていても騎士団長、そのまま爆睡するほど怠けちゃいない・・

そしてこの私室も俺の部屋とは比べものにならないほどの豪華さで

台所完備で使い込まれた珈琲ドロップ用品が置かれている

無断だがそれを失敬してドリッピングしている

・・それなりに生活能力はあるんですよ

「おはよう、タイム」

「あ・・私、寝ちゃっていたようね」

「覚えてないのかよ、とりあえずほれ、寝覚めの珈琲。濃い目に入れてある」

「ありがと・・あっ、書類!」

「総務にやらしている。

団長が倒れているのにてめぇらが助けないでどうするのかと渇入れてやった♪」

「で・・でも、あれ最重要機密よ?」

「その機密を本来関係ない騎士団に任している時点で最重要じゃねぇよ。

後で確認だけはしておけばいい。それよりももっと体を大事にしろよなぁ?」

そう言いながら頭をポンポン叩く、

本人も無理をしていた事を自覚しているらしく申し訳なさそうな上目使いをしてら

「ごめん・・なさい」

「よしよし、良い子だ♪」

「・・もう。でも、ようやく仮眠が取れたわ・・」

ティーカップを枕元に置き伸びをする・・

下着姿でその仕草は実に生唾ものだけど

たかだか2時間寝ただけで疲れなんて全部抜ききれるわけがない・・

「無茶するなよ?後軽く済ませてゆっくり休めよ」

「そうね・・、書類が溜まっているけど・・まぁ事後で確認するのなら大丈夫かしら」

「印鑑押すだけだろう?

ったく・・領主の野郎も行方不明とはな。何かあったのか?」

基本どうでも良い話題だが・・タイムに迷惑掛けている以上無視もできねぇ

それに・・ここの領主は妙に怪しいからな・・

「さっき話した程度しか私にも伝わっていないわ。

ラベンティーニの不正で責任追及がされていたけど本人は完全否定、

疑惑の目が向けられたまま突如として姿を眩ましたの。

騎士団に対しての捜索願は出されていなく

都市議会の方も
最高責任者である領主が不在の間のみ臨時で承認権をこちらに回しただけらしいし」

 

ラベンティーニの不正ってのは領主の助役であるラベンティーニが獣人を誘拐して人身売買を行っていた事件だ

しかもその現場は領主の別荘、

これで知らぬ存ぜぬを通せる事自体が不思議なのだが本人は完全否定

ラベンティーニも何者かに暗殺されて真実は闇の中って事になっている

そのためもあってか領主の人気は完全に地に落ちている

故に領主の権力を分散されるために各都市に設けられている都市議会内でもその地位に疑問を持っているらしい

都市議会の議員達はその都市の代表者達で構成されている、

その定数は都市規模によって違うんだけど

ルザリアだと商業地区、工業地区、住宅地区、貴族地区から数人ずつで確か10人以上いたっけな

ギルド関係者からお茶の間のおばさんの長っぽいのも様々で

そのサポートもつけると議会は30人程度で運営されている

基本的な実権を持つ領主に異議申し立てを出来る権限を持ち

都市機能向上を目的とした議案を提出する事も出来る

それを許可するのには領主の承諾が必要、

でもいないんだからタイムに任せるという事になった

治安向上に確実な成果を見せている騎士団に対し議会連中は貴族地区の代表以外は好感を持っている

故に本来なら異例な事でも認められたんだろう

・・ってか、領主の野郎・・あれだけの書類をため込みやがって・・議会無視していやがったな・・

まっ、利益のためなら何でもするようなスタイルだったか・・

 

「あんな事やっていたら捜索願を出す奴もいないって訳か、哀れだな」

「だけどそのせいでいつから姿を眩ましたのか不明なのよ・・。いい迷惑よ」

重要な事とは言えどもそんなの騎士の仕事じゃないからな。

タイムにとっては結局は不要な重みってやつか

「まぁまぁ、今日中に片付ければいいんだよ。明日非番だろう?一日中寝ていられるしよ」

「・・・それはそうだけど・・、休日にやることは寝ているだけって・・ね」

「ははは、ただ寝るだけじゃねぇぞ?それとも寝かさない方がいいかね?」

二日溜まったモノをぶつけるのも悪くはない、

タイムも顔を赤らめながらも否定はしない

・・寧ろ肯定だ

「馬鹿・・♪」

「はははっ、まっ・・議会の書類だって俺も暇だったら協力してやるよ♪」

「クロが・・?不正はだめよ?」

「わ〜ってるよ。・・っと、そういやドタバタで忘れていたが〜、

何か感じ悪い野郎が騎士として来ているらしいじゃねぇか?

サリーさんも不機嫌丸出しだぜ?」

元々あの野郎の事を聞こうと思っていたんだった

「・・ああ、彼ね。サリーさんだけじゃないわ、皆不満を持っているわよ」

やっぱりな・・俺の美しき勤務態度にさえケチを付ける連中だ。

あんな野郎を認めるはずもないか・・。

ってかタイムも嫌悪感丸出しだな

「ふぅん、身分がどうのこうのって言ってたが・・どういう事だ?」

「あの男はマーロウ=ザン=ベネディクト。

ハイデルベルク東部の中流貴族よ」

・・貴族・・ねぇ

「見るからに親の七光りを照らしまくりの道楽息子って感じだけど・・騎士になりたいのかよ?」

「・・っと当人は言っているわよ。

父親が騎士団との関わりが深い故に半ば脅迫まがいに頼み込まれて特例として騎士になれたんだって

──しかも勤務にルザリアを指定してね、二日前から着任しているわ」

脅迫まがいね・・、奴ららしいっちゃらしいか。

「でっ、その様子だとニクスみたいに真剣に騎士としてやっていこうって感じじゃねぇよな?」

テント群担当課にも新米でニクスって貴族出身の女騎士がいる

っと言ってもこっちは正規の団通りでがんばってきたんだがな、

コネ使ったのとはまるで違う

「当然よ、騎士になりたいというのも嘘ね。

任務に関しても『俺はベネディクト家の跡取りだ!命令するな!』の一点張りで

何するわけもなくああしてダラダラしているだけ・・

親に働いているふりを見せたいだけのようよ?

皆もすでに見限っているわ」

出たよ、貴族特有の根拠のない『俺ん家すごいんだぞ!』自慢

古今東西、どんな社会でも浮く発言なのに恥ずかしげもなく言ってのけるのがすごいね

「感じからしてハゲリバンからの頼みだろ?

返品したらどだ?クーリングオフの期間中だぜ?」

どう考えてもありゃダメだ

「商品ならばクーリングオフもいいかもしれないけど。

燃えるゴミは返せないわよ?」

タイムが俺以外にそこまでの毒舌を・・

こりゃ本物だぜ・・

「ははは・・、でっ、結局は返品もできず任務もできずって感じか」

「そう、任務の厳しさを教えれば辞めるだろうと見ていたけどそれを強引に拒否するとは思わなかったわ

・・何を考えているのだが・・」

「──んじゃ、強引に辞めさせるか?」

「正規の方法であるならね。

ベネディクト家は子煩悩で有名らしいから・・手荒な真似をしたら何し出すかわからないんですって」

・・・・・・救いようねぇな、その一族

「まっ、俺も暇だしな。騎士団以外に迷惑かけないように面倒見てやるよ」

「お願いしてもいいかしら?」

「────ああっ、俺式の面倒の見方・・だけどな」

とりあえず血は出ます。

話し合いは通用しません♪

「ありがとう、なんなら裏で始末してもいいわ。事故死として報告するから」

──タイム、本当に嫌いなんだな・・・

まぁいいか、愛する女のために障害を片っ端から片付けていきますか



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