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第一話  「interludeT〜パーティーの隅で〜」


 

──それは正に戯れ事であった──

 

ただっ広い空間、それを飾る調度品・・

漆黒のカーテン一つ取っても目を張る金額である事は間違いなく

等間隔に置かれているテーブルも木製ながらも細やかな装飾が施されている

所々値が張るであろう巨大な絵画が掛けられており、

これ見よがしに周囲に自身の美を自己主張する白壷などが置かれている

しかしそこに群がっている者達はその美しい物達とはかけ離れた卑しい存在

・・貴族・・

ブクブク太った体をタキシードに来るんだ中年貴族が多数、

周囲に悪臭と代わらないほどキツイ香水臭を放ち隠れるはずもない皺を

懸命に化粧で隠しけばけばしい衣装を好んで付ける自称貴婦人が多数

それぞれが卑しい笑みを浮かべ挨拶を交わしていくもその集まりを楽しもうとしている者は誰一人としていない

渦巻く陰謀はその場の空気を汚し誰も見てもわかるほど一種異様なる空間が広げられていた

 

そこは大国ハイデルベルクの王都にある迎賓館

他国より訪れた貴族などを歓迎する立食パーティーという事で

他国との親交を深めておこうと数多くの貴族が参加しているのだ。

この国もそうならば他国の貴族も大した変わりもない

欲に汚れた愚者達が良識もなく恥を晒し続けている

 

 

「・・やれやれ、貴族の好きそうなパーティーなものだな。優雅さの欠片もありはしない」

 

「・・・そうですね。

騎士関係者がいるというにも関わらず欲を出している・・、遠慮もありはしません」

 

その中に会場の隅にて呆れ顔を浮かべる男女の姿があった

一人は逞しき体躯を黒を基調とした燕尾服に包んだ大男、

頭が綺麗に禿げ上がっているのだが目つきは鋭くまるでボディガードのようにも見える

男の名はオサリバン=ハンハーリ。

この国の治安維持の要となっているハイデルベルク騎士団、それを統括する総団長である

もう一人は麗しき女性、肩にかかる程度の長さに揃えた緋色の髪、スラッと流れる髪は艶やかで艶やか。

前髪も伸ばしておりそれを前に垂らして右頬を隠すように整えている

澄んだ褐眼が周囲を警戒するように光っておりその顔立ちは見事に整った絶世の美女。

着ている物もこの場に合わすためなのか赤いイブニングドレスで纏めている。

細い体つきだが姿勢は正しくただそこに立っているだけなのに凜としている

ドレスとしては非常にシンプルでありこの会場の中では一番地味

加えてタイム自身にも化粧気もほとんどなく指輪の一つも付けていない

その姿は貴婦人方々に言わせてみれば「見窄らしい女」

しかしそれが彼女に非常に似合っておりこの会場内の男性全員が振り向いてしまっている

女の名はタイム=ザン=ピョートル。

騎士業界、特に女騎士の間では知る人ぞ知る女騎士。

その若さにして貿易の要所である都市ルザリアの騎士団長を務めている

最年少にして女性の団長という異色ぶりなのだがその手腕は誰もが認めるほどの優秀ぶり。

ルザリアにタイムありと国の重鎮にもその名を知られている才女である

 

「・・すまんな。顔を立てるというつまらない事のために忙しい君を呼んでしまった」

 

「お気になさらず。これも任務です」

 

二人とも手に近くのテーブルに置かれたグラスを手にしながら会話を進める

シャンパン用のグラス、

だが透明な硝子製のそれには細かな装飾がなされており注がれた黄金色の液体によりその美しさを強めている

それ一つだけでも庶民が一月は暮らせるであろう逸品、

それが周囲を見るだけでも無数に置かれているのだ

たかだかパーティーでの飲み物グラス一つに何を拘るのか・・内心タイムはそう呆れていた

「そう言ってもらえると助かる」

「それよりもオサリバン総団長こそよろしいのですか?私以上にお忙しい身でしょうに・・」

「君と同じだよ・・任務だ」

っとは言いつつも嫌そうに苦笑をするオサリバン

これだけ入り交じると主役は誰なのかわからないのだが

相当な大物らしくわざわざ総団長が出向けと命令が下ったのだ

それに付き添うように命じられたのがタイムであり余り好かないパーティーへと招かれる事となった

一応身分からしてみれば拒否する事もできたのだが

オサリバンは前ルザリア騎士団長にしてタイムはその時の上官

古き付き合いでありタイムに取っては面倒を見てくれた恩師でもある

最初から拒否する事など選択肢にはなかった

そんな訳で特に警備する必要性がないパーティーにタイムは来ており

特に異常のないままに場違いな空間で時間が過ぎ去るのを待っているのだ

「少し耳を澄ませれば癒着の話など幾らでも出てきそうですね・・」

「それは目を瞑れ・・だとさ。

現場を抑える訳でもないのに大した警戒を見せるものだ・・この国の大臣は」

「呆れますね、貴族が政界進出すればするほど悪い方向に向かうもの・・、この光景もそれを証明しています」

目を細め強めに言う、確かにここにいる者達が政に関わったとしても結果など出せようはずもない

「確かにな。国を治め、舵を取る者は国を良く知らなければならない。

国は民のためにあるはずなのだが貴族連中は自分達のためと勘違いをしている・・

わかるかな?ここにいる連中は金に物を言わせて大臣職についた連中のそれと同じなのさ。

舟を操るには船体と動力を熟知しておかなければならない。

国に言い換えれば船体は国土、動力は国民だ。

奴ら流で言うならば船体は階級、動力は金と言ったところになるか・・

国を舵する名目で金を振りまき自身の保身にのみ執着する

そんな考えを持っていたらああなる・・顔にまで卑しさが溢れ醜く歪んでしまっているだろう?」

多少酒が入ったのか流暢にそう言うオサリバン、

そして彼が言うように目の前に広がる者達の顔はまともとは言えない

それは人間の顔であるのだがそれとはどこか逸脱した醜さがある。

目つき一つとっても明らかに真っ当に農業に勤めている者と比べて『卑しい』のだ

「目は口ほど物を言うといいますが、性格は顔に出る物ですね」

「・・全くだ。まぁすまない・・

仕事が終われば一杯奢ろう・・
っと言いたいところだが・・

察するに早く還った方がいいかな?」

「・・っと言いますと?」

「何っ、簡単な事だ。

このように禿げ上がった中年と酒を交わすよりも愛する男の胸元へと一刻も早く還りたいかと思ってな」

「───っ」

オサリバンの茶化した発言にタイムの頬に微かに朱が乗るもそれを懸命に押さえ込みながら彼を軽く睨む

「はっはっは。その様子だと上手く行っているようだな」

「──総団長にご心配をかけるような状態にはなっておりません」

やや自分を抑えるようにな口調になるタイム、

冷静沈着で男性的なしゃべりをするタイム団長

しかしプライベートではデレデレに甘える一人の女性である

その故に突然プライベートの事を聞かれると素になってしまうのだ

「それは結構、君は恋愛下手と見ていたからな。・・それに相手はあのクロムウェルときた。

喧嘩別れをしそうな感がプンプン臭っていたものだ」

「・・総団長、酔っていませんか?」

「これでも酒豪だ、このような下らん席だと可愛い部下であるお前の恋愛事を聞いた方が何倍も面白いものだ」

っと言ってのけるオサリバンだが・・タイムは彼が酔っていると確信した

「それはどうも・・。しかし私とクロ・・ムウェルの事など何も面白い事などありませんよ?」

「そうとも限らんだろう、あのスタンピートがルザリア騎士団の一部として働いているのであろう?

その事実一つ取ったところでも実に面白いものだ。王も驚いておられた」

「・・手懐けているだけですよ」

敢えてクロムウェルを悪く言うタイム、だが本意はそうではないのが丸わかりであり

思わずオサリバンは噴き出してしまった

「案外、お前の方が手懐けられているのかもしれんがなぁ?」

「・・総団長?」

「そう睨むな。私としてもお前の行く末に心配しているのだぞ?

それだけ若くて常に重圧に耐える職に就いているのだからな・・、

女としてそのまま歳を重ねるのは私としても重くなってしまうものだ。意中の男ができるのは真に結構」

「女騎士はその証を受ける時に女を捨てます、そのようなお気遣いは無用ですよ」

「覚悟の上だけの話だろう、ハイデルベルク騎士団に所属する女騎士で本当に女を捨てた者などいるものか

・・現に君だってクロムウェルという男に夢中になっている」

「む、夢中だなんて・・!」

「おや、違ったか?

団長試験の時にパートナーとしての誘いを断られるのが怖くて言えなかった時から私はそう見ていたのだがな」

「・・・・・・」

恨めしそうにオサリバンを睨むタイム、だがそこに凄みはなく

まるで少女が駄々をこねているように見えてしまう

「ははは、まぁ君も立派な女性だったという事だ。

変に仕事一筋の無骨な女よりもよほど魅力があるし見ていて安心する

・・そろそろ籍を入れてはどうかな?」

「っ!私と・・あの男がですか!?」

「他に誰がいるといるのだね?

あの頃から付き合いだしたとなるともうそれなりに経つ・・奴からはそういう事は言わないのか?」

「・・・・・、わかっているんですよ。

あの男は・・私の事を考えてそう言わないだけでしょう」

「・・ほぉ・・?」

「私はルザリア騎士団長です、やるべき事はまだ終わってはいません。それを気に掛けているのですよ

・・・そういう奴なのです。クロムウェルは・・」

照れながらそう言う

生真面目に言うもののやはり恥ずかしいのか言い終わった途端に酒を飲み干して誤魔化した

「ふふふ・・なるほどな。お前に相応しい男と言うところか。

まぁ・・その時がくれば声をかけてくれ」

「何時になるかはわかりませんが・・お暇ならばお誘いしますよ」

照れ隠しに笑うタイム・・だがそれが適う日はまだまだ先

彼女にはやらねばならぬ責務がある、そしてそれを彼は支えてくれる

何時の日かわからないがその日は必ずやってくる事だろう

「楽しみにしている。

まぁ・・その時はルザリア騎士団の騎士達に多数の怪我人が出る事は間違いないか」

「・・間違いありませんね」

ため息一つ、タイムはグラスを軽く弄りながらも静かに微笑んだ

それにオサリバンもニヤリと笑いながらこの茶番が終わるまでその暇を潰すのであった

 

・・・・

 

その中、貴族達の中でタイムの姿を見つめる男が一人

まだ若い男で着飾った服もお世辞にも似合っているとも言えない。

強引に整えた黒髪と欲まみれの瞳、

体つきは太ってはいないがたるんでおり見事なまでの道楽息子と言った感じの出で立ちで

一人前を気取ってグラスを手に取り遠目でタイムの姿を見ている

「・・おい、誰だ?あの女・・」

隣にいるひょろっぽい連れに声を掛ける、

悪友なのか手下なのかパーティが始まってからずっとその男についているひょろっぽい男

性格は顔に出ているのかいかにも小心者っぽいのだが、胸ポケットよりメモを取り出し調べ出した

「・・あれは〜、騎士関係者だ。

タイム=ザン=ピョートル、ルザリア騎士団長で今回の護衛か何かで出席しているそうだ

お前と一緒だよ、マーロウ」

「ふぅん・・ピョートルか・・、聞かない家名だな。おおよそ俺みたいな家系とは違い没落貴族なんだろうな」

「『ザン』のミドルネームがあっても知られていなければな・・。良く騎士団長なんてやっているもんだ」

下品な笑みを浮かべる男二人、

察するに彼らにはルザリア騎士団タイムの高名は届いていないようだ

最も、品のない道楽息子達に厳粛な騎士社会の事など知るよりもあるまいが・・

「おおよそ、あの禿げに色仕掛けで攻めたんだよ、飾りだ飾り」

「いい気なもんだねぇ・・騎士団ってのも。

そんなので出世できるなんてちょろいもんだ」

「全くだぜ・・しかし、いい女じゃないか。気が強そうだが色気がある・・

俺に相応しいな・・」

「最初からそれ目当てでいたのか。

でっ、声をかけるのか?隣にいる禿げ、総団長らしいぜ?」

それを知っていても禿げというひょろっぽ男、ある種大したものである

「流石にそれはまずいな・・。

まぁ手はある、俺のパパは騎士の世界にも顔が利くんだよ・・」

「へぇ、それで強引に付き合うってか?」

「いいだろう?俺の身分がわかればあんなお飾り団長、俺に夢中になるぜ?」

「へへっ、なら・・お裾分けももらいたいもんだな」

「飽きたらつまみ食いさせてやるよ」

そう言い再び下品な笑みを浮かべる男マーロウとその連れ

善は急げなのか、欲まみれの頭を回転させながら邪な作戦を組み立てていき

その会場は再び欲にまみれた薄汚い空気に包まれるのであった


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